Friday, May 29, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (13) AMT NOLは強制的に「ゼロ」化

NOL Carrybackやその手続き、Carrybackでトリガーされる多くの追加検討事項に関してはCARES Act可決以降、何回かに分けて触れてきた。興味ある方はぜひ過去のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 」(2)(4)(5)(6)(8)(9)を読んでみて欲しい。そこで何回も触れている通り、複雑な検討の多くは5年間のCarryback期間にTCJA前後の課税年度双方が含まれることに起因するケースが多い。

そんな複雑な取り扱いの一つにAMTがある。TCJAで、AMTの法人に対する適用は2018年以降撤廃されている一方、Carrybackする先の課税年度が2017年以前の場合、それらの過年度には法人にも未だAMTが適用される。NOLをCarrybackするってことは通常の課税所得を減額するってことだから、その当然の結果として、AMTに抵触したり、元々使用していたAMTクレジットが使えなくなるケースが続出することになる。AMTの算定時にもNOLの使用は認められるけど、計算は複雑で、NOL発生年度の数字を基に「AMTベースのNOL額」に計算し直さないといけないし、Carrybackする先の課税年度のAMT計算時には、NOLの使用可能額はAMT算定の基となる暫定AMT課税所得の90%が上限となる。う~ん、相変わらず面倒。しかも、複雑な計算をしてAMTが発生したり、過去に使用していたAMTクレジットが使えなくなったりする結果、それらがドミノ式にCarryback期間内の後年に繰り越され、使用し切れないクレジットは、CARES Actで加速還付が可能という最終的にはゼロサムゲームとなる。超面倒でなんかまどろこしい。

で、法的には、すなわちInternal Revenue Code的には、面倒だけどこれらのステップを踏まざるを得ない、っていう点は比較的明確で、テクニカルには余り異論の余地はない。2018年以降、AMTっていう制度自体が法人に不適用になっているとは言え、2017年以前にNOLをCarrybackして、過年度のAMTを算定し直す際には、その目的で使用するNOLは、通常のNOLではなく、AMTのルールを適用して算定するAMT NOLでなくてはいけない。Secton 56だね。でも、AMTのルール自体、2018年以降、法人には存在しないんだから、調整額はないのでは、って思うかもしれないし、それも一つの見識ではあると思うけど、たぶん厳密にはそうではない。というのは法人にAMTは課されないけど、AMT算定時に加減算が求められる「調整額」はそのまま法的に2018年以降も存在している。唯一例外はACE調整で、これは撤廃されている。結果として、通常のNOLにACEを除く調整を加えて、AMT NOLの金額を算出し、それをCarrybackして、Carryback期間の古い課税年度から順々にAMTを計算、後年にクレジット、そしてクレジットし切れなければ、2018年と2019年に開始する課税年度で還付、さらに選択をすれば2018年に開始する課税年度に全額還付となる。

っていうのが法律なんだけど、昨日(2020年5月28日)、CARES Act下で禁じ手乱発的になりつつあるIRSのFAQがまた公表され、簡易措置が規定された。IRSが公表した当FAQによると2020年6月1日以降にファックス(覚えてる?デジタル送信!)するForm 1139では、AMT NOLはナンと「ゼロ」と取り扱う、って言い切っている。え~、そんな法律どこにあるの、って感じではあるけど、まあ便利だから文句言う納税者はいないよね。

FAQに基づく構想は、2018年以降の課税年度にはAMT NOLはない、という大胆なもの。法人納税者にしてみると、2018年以降のNOL発生年度に関して、適用のないAMTを想定算定してCarrybackしたり、Carryback対象年度に90%制限を加えて2017年以前のAMTを計算したりする手間が省けるので、ゼロサムゲームってことを考えると、単純に作業が若干簡素化され、ありがたい助け舟なのは確か。AMT NOLをゼロってみなすことから、より多くのケースでCarrybackする先の課税年度でAMTが発生することになり、それらは結局はAMTクレジットとして還付される。FAQって法的効果がない点が気になるけどね。

で、FAQでは、ついでにゼロサムゲームを一枚のForm 1139で完結できるよう、Carrybackを理由にAMTが増えたり、過去に使用していたAMTクレジットが使えなくなって後年に繰り越されたりする処理も同じForm 1139内で処理できる点を再確認している。さらに、クレジットを使えきれなくて、CARES Actで規定される「2018年に開始する課税年度で全額残りを還付申請」する選択を行う際も同じForm 1139上で処理するできる、って規定してくれている。Form 1139に記載するべき選択にかかわる文言も公表してくれている。ただし、同じForm 1139上でクレジットを処理できるのは、クレジットをCarryback期間内に使用する、または2018年に開始する課税年度で残高全額を還付請求するケースのみ、とも言っている。まあ、敢えて選択しない理由も余り見当たらないので、多くの法人納税者がこの処理をすることになるんだろう。超法規的措置って言うと大げさだけど、IRSもなかなかやるよね。

Saturday, May 16, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (12) 「QIP Glitch」(適格内装資産とボーナス償却(2))

チョッと間が開いてしまったけど、前回のポスティングでは、CARES Actに盛り込まれたTCJAのTechnical Correctionのうち、適格内装資産の償却法に関して話し始めた。結果として2018年1月1日以降に事業用途に供された適格内装資産は過去遡及する形で償却方法が変わってしまったことになるけど、そんな調整をどうやってすんの?っていうのが今回のメインテーマ。

過去遡及して償却法を変更する面倒な手続きの話しに行く前に、一点超細かい点だけど、サワリだけ触れておきたい点がある。2018年1月1日以降に事業用途に供される内装でも、2017年9月27日以前に取得されているものは、TCJA以前のボーナス償却規定が適用になるので要注意という点。また2017年9月28日以降に取得され、2017年12月31日までに事業用途に供された内装は、特別に独自のクラスを構成している点も注意。通常、償却の話しは事業用途に供された日が気になるけど、取得日も重要なことがあるんで気を抜かないように。この組み合わせの話しは面倒な割に多分適用件数は低いと思われるので、こんなパターンで取得や事業用途に供されている内装があったら専門家に相談するようにね。

Section 163(j)もそうだけど、適格内装資産にかかわる過去遡及手続きを複雑にしているのが、適格内装資産を含む税務上の償却を取り巻く複数の選択。まず、原則に戻って即時償却なんていうものが存在しなかった時代には、有形資産は大概においてMACRSっていう加速償却を適用して税務上の償却費用を計算するのが普通の姿。MACRSは、前回のポスティングでチラッと触れたConvention制度があったり、多くの動産が200%定率だったり、経済耐用年数とは直接関係ない政策的に規定される法廷償却年数や方法に基づいてCapex、資本的支出の費用化を規定する税法の世界だけに存在する償却法だ。なんで、MACRSの「CR」は「Cost Recovery」ではあるけど、MACRSにDepreciationを表す「D」は入っていない。このことからも、MACRSはいわゆるDepreciationではなく、あくまでも資本的支出の費用化という概念。米国税法の構成的には、Section 167で事業所得を算定する際に償却費用すなわちDepreciationの計上を認め、その上で、金額は有形資産に関しては大概においてSection 168のMACRSを適用して決める、っていうもの。

で、このMACRSが嫌な場合、特別な選択をすることで、その課税年度に事業用途に供されたMACRS対象資産をMACRSではなく、ADSというMACRSより長い償却期間で定額償却する不利な方法を選択することができる。元々ADSっていうのは資産の使用場所が米国外だったり、非課税団体にリースしてたり、加速償却を規定するMACRSの適用が政策的に適切でない状況に適用が義務付けられるものだけど、AMTのSubsetだったACE(覚えてる?)の算定時に使われたり、今でもE&Pの計算時に適用されることから、結構頻繁に登場し侮れない存在。さらに、TCJA後の世界ではFDIIやGILTIのみなし超過利益算定時のみなしルーティングリターンをADSベースの税務簿価に10%を掛けて算定することから、各社、ますますMACRSと共にADSベースの資産管理が求められる。もちろんこれらMACRS、ADS共に会計上の償却とは異なるので、一つの資産でも複数の簿価が存在することになる。で、ADS選択っていう制度は、ADSの適用が義務付けられるケースとは関係なく、通常の課税所得算定時にMACRSを適用できるにもかかわらず、課税年度内に事業用途に供されたMACRSの資産クラス別に自らADSを選択すること。ADSは一度選択すると取り消し不可能。One way streetだ。

で、そんなMACRSに加え、設備投資減税として、歴史的に時限立法でいろんなパターンの即時償却が規定されてきてるけど、TCJAでも100%即時償却が規定されている。で、100%の即時償却が嫌な場合には、課税年度に事業用途に供された資産に関して自ら即時償却を適用しないという選択がある。これも税法に規定される資産クラス毎に選択できる。当選択をすると、普通にMACRSで加速償却することになるけど、これに更に上述のADS選択を組み合わせることも可能。また2017年9月27日を含む課税年度に限定された話しだけど、TCJAの100%即時償却ではなく、それ以前の50%ボーナス償却を選択することもできる。確かこの選択だけは資産クラス毎ではなく、その課税年度に事業用途に供された資産全てに関して選択が必要だったはず。

もうひとつ、即時償却の対象となるフルーツやナッツの実がなる植物が、既に栽培されているケースにも特別な選択があるけど、余りにオタクなのでこの部分は割愛。何がフルーツで何が野菜かってよく議論になるよね。ロビイストが暗躍してフィルムとかナッツとかが即時償却の対象となっているのは面白いけどややこしいね。

で、過去遡及にかかわる手続きだけど、適格内装資産の償却は以前のポスティングで触れた不動産業や農業にかかわる支払利息の損金算入制限、Section 163(j)、の適用除外選択と密接に関係する。したがって、不動産業や農業がSection 163(j)の適用に関して新たな選択をしたり、過去に行った選択を取り消したりする結果として変更される適格内装資産の償却は、Section 163(j)に関して別途公表されている選択手続きの枠の中で処理する必要がある。これらに関しては「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス」を参照して欲しい。また、Section 179等で即時償却規定とは別の形で事業用途に供された課税年度に既に費用化されている適格内装資産に関しては、CARES Actの影響はなく、そのままの取り扱いとなる。Section 179は、個人的な感覚では、どちらかと言うと個人事業主っぽいノリのオタクな規定だった。それがTCJAで即時償却が中古資産にも認められるようになり、資産取得型のM&Aのモデリングに大きな影響を与えてるけど、中古資産でも即時償却の対象となるかどうかの判断時にSection 179が引き合いに出され、急に脚光を浴びた観のある条文。

で、法的に過去遡及をどのように整理するか、っていうアプローチだけど、まず忘れていけないポイントは、CARES ActでTCJAの法文が修正される前の状態では、適格内装資産の償却は法的に39年定額、または納税者のADS選択で40年定額しか認められなかったという点。この点に関して納税者側に何の裁量も存在しなかった。それが、CARES Actによる法文修正で2018年1月1日に遡り、逆に原則、即時償却、納税者が即時償却の不適用を選択すればMACRSの15年定額、さらにその上でADS選択する場合には20年定額しか法的に認められなくなったという点。したがって、当時は法的に仕方なく39年や40年で償却し始めているケースでも、これをそのまま継続するっていうオプションは存在しないことになる。つまり、償却にかかわる処理変更が「強制」されることになる。過去に法的に適用が強制されていた39年や40年の償却は現時点で「法的に容認不可処理法」となり、即時償却等が急に「容認処理法」に生まれ変わる。面倒~。。

法文修正に伴い、容認不可処理法から容認処理法に変更する方法は、二通りあり、修正申告(BBA適用パートナーシップに関してはAARを含む点は以前からのポスティングで触れている通り)をする、またはこれから提出する2019年等の申告書で税務処理変更願い、Form 3115、を出し、修正申告することなく累積影響額を一気に調整する方法、のいずれでも可としている。処理変更の道を選択する場合、通常だと容認不可処理法は2年続けて適用していないと処理法として確立したことにならないけど、今回は特別に1年だけ法文修正前の方法で処理していても処理変更対象にするとしている。最初、財務省のガイダンスを読んだ際、「1-Year QIP」だけ別途規定があり、修正申告と同時に処理変更でもOKと、他の状況と同じ扱いを敢えて別に規定しているのが不思議だったんだけど、2年間適用していないことにかかわる手当なんだろう。いろいろとよく考えてあるね。

次に過去遡及の選択だけど、2017年9月27日を含む課税年度に限定の50%ボーナス償却選択やフルーツとかナッツの償却の話しは割愛して、ADS選択や即時償却の不適用選択にフォーカスしておくと、2020年4月16日以前に提出されている申告書に関して、今から不適用選択を希望する際には、こちらも法文修正後の強制処理法をそのまま適用するケース同様に、修正申告を提出するか、今後提出する申告書にForm 3115、処理法変更願い、を添付するか、いずれの方法で、不適用を選択することが認められる。

逆に過去にこれらの選択をしてたけど、選択を取り消したいケースだけど、即時償却の不適用を選択していたケースは、新規に過去遡及して選択するケース同様、修正申告または処理法変更願いのいずれかの方法で取り消しが認められる。通常のMARCSの代わりにADSの適用を選択してたケースで、やっぱり普通のMACRSに戻りたいケースの選択取り消しは修正申告を通じてのみ可能。これらの選択は、通常だったら一旦選択すると取り消し禁止だけど、今回は例外。う~ん、複雑。申告書作成大変そう。

Saturday, May 2, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (11) 「QIP Glitch」(適格内装資産とボーナス償却)

米国の大概の州で強制されていたロックダウンも一カ月半を超え、その間、多くの米国市民が、自由を奪われるとどんなことになってしまうのか、っていう怖さを垣間見て、日ごろ当たり前のように享受してきた自由やさまざまな経済活動の恩典、の有難さを再認識してることだろう。個人の自由は米国憲法で保障されていて、米国では当たり前の権利のように勘違いしがちだけど、実は日頃から大切にし、感謝し、市民個々の努力で守っていかないといけないPriviledgeだということ。

SBAローンにしても、IRSの給付金手当にしても、最後は人間が規則を決めて司る訳で、$3Tのお金をこれだけ無理やり短期間に拠出し、管理しようとすれば、予期せぬ不具合、Glitch、がいろいろと起こるのは不可避。IRSだって、自分たちもロックダウンしてる最中に、大慌てで給付金を銀行に振り込んだり、小切手を発行したりしている。当然その過程ではいろんなGlitchが発生することになる。既に亡くなっている方の口座に入金されたり、逆に待っててもなかなか来なかったり、金額が予想と違ったり、公的年金受給者が扶養家族をオンラインで登録する時間が短すぎたり、とかいろんな不具合をメディアが報道している。

IRSや財務省は、彼らの手元に存在する情報、既存のシステム(相当古そう・・)を使って最大限の努力に基づき、半狂乱というか我を忘れて給付金を交付しているって言ってもいいような状況じゃないかな。給付金の受給者を正確に特定した後に交付するシステムを構築しないといけないんだったら、交付までに長い時間が掛かる。年間換算でQ2のGDPは下手したら40%ダウン、失業保険申請者はわずか4~5週間で3千万人と言われている現状、何をするにしても完璧な対策はない訳だから、バランスのいい施策をスピーディーに展開するしかない。

どんな策を取っても反対派はいて、今の米国におけるイデオロギー的な二極化を考えると、結局は何をしても約半数の反対意見があると想定され、そんな中での意思決定は、医学、科学、経済、有権者の意見は当然よく聞くとしても、最後はリーダーがそれらを総合的に検討した上で最終決定して、Move Onするしかない。全会一致の決定にはなり得ないので、リーダーとして、なぜそのような施策を取ったのか明確に説明し、異論がある場合には法の支配下で、市民が議論すればいい。ヘルスケアの受け入れ体制がとりあえず確保されたと言われている今、次なる課題は経済活動の再始動に移りつつあるけど、今後の施策にも思わぬリスクやGlitchは必ず存在する、っていう不可避の前提をリーダーが認め、市民も受け入れる必要がある。でないと何もできないので。新型コロナウイルスは、もちろんウイルス自体が恐ろしいのはそうなんだけど、9・11とか過去の危機との比較で、際立って異なる環境下での危機だなと感じるは、広範なインターネットアクセスやソーシャルメディアの存在。こういう環境下で迎える初めての大ピンチという点で、対応がより複雑、場合によっては困難になっている気がする。

で、Glitchといえば、「QIP Glitch」。何がGlitchだったかというと、Qalifiied Improvement Property、すなわち適格内装資産は、TCJA時の意図的には15年の耐用年数資産となり、かつ100%即時償却の対象となるっていう予定だったにもかかわらず、TCJAの法文ストラクチャーの単純ミスで、他の構造物同様、39年の定額償却のみの対象となってしまっていたという点。昔、小学校の頃、算数のテスト対策時に、せっかく本当は分かってるのに、単純ミスで点を落とすのは一番バカバカしい、って教わったのを思い出す。

TCJA可決直後から認識されているエラーだったんだけど、法文は法文。解釈の余地はなく、2018年1月1日以降に事業用途に供された内装は39年で粛々と償却することになり、小学校の算数のテスト対策じゃないけど、本当に一番バカバカしい結果となっていた。この手の法文エラーは、本来、比較的速やかにTechnical Correctionと呼ばれる法文修正法を可決してさっさと手当するのがベストなんだけど、TCJA自体、予算調整法という特別な手続きを経て共和党のみで可決した経緯があることから、通常の可決法で通過させないといけないTechnical Correctionに民主党が一切手を貸さず今日に至っていた。で、2年3カ月経った今、新型コロナウイルスという共通の敵が現れ、ようやくこの部分のTechnical CorrectionをCARES Actに忍ばせることができたという沿革。

Cares ActにはNOL Carrybackとか他にもTCJAに対するTechnical Correctionが含まれてるけど、Technical Correctionというのは法文があたかも元からCorrectionされた文言で制定されていた、という効果を持つ。したがって、適格内装資産は、既に39年で粛々と2年超定額償却してきたものが、実は2年前に即時償却が可能だったという変なポジションとなる。しかも、即時償却の不適用を選択する場合も、法律上39年資産ではない訳だから、39年で償却し続ける訳にはいかず、過去2年の取り扱いは間違いだったということになり、税務処理変更に基づく再計算が求められる。しかも、CARES ActはNOLのCarrybackや、Section 163(j)の計算を過去遡及して変更していて、多くのケースで各変更の適用に納税者による選択権が規定されているので、各規定の選択法の組み合わせは無数(?)っていうと大げさだけど結構あって、納税者側の検討は複雑怪奇となる。

特に、適格内装資産が多額になりがちな不動産業者は、Section 163(j)の支払利息損金算入制限の不適用を選択する際、内装を含む一定の資産に関してMACRSや即時償却を放棄するっていう代償があった。その場合、内装はADSと呼ばれる40年償却となる。普通でも39年だったら別に40年になってもあんまり大差ないから、だったらSection 163(j)の適用がない方がいいじゃん、って思ってたら今となってこの始末。しかもTechnical CorrectionによりADS自体も40年ではなく20年になっている。不動産業者に特化した話は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス」で若干詳しめに話しいるんで、興味ある方は覗いてみて欲しい。

で、QIP GlitchがCARES Actで修正されたことにより、上述の通り、適格内装資産は通常のMACRS目的では15年資産、ADS目的では20年資産となる。双方とも定額償却。また15年資産となるので、Mid-Month Conventionではなく、Half-Year Conventionとなる。最終四半期に40%超の資産がRear-loadedされる形で事業用途に供されるとQuarter Conventionになるのは通常通り。Conventionは米国で申告書作成したことあれば誰でも知っているルールだし、やったことなければ知らないだろうし、知っててもしょうがない類の話し。さらに通常の耐用年数が15年となることから、即時償却の対象となる。

何が適格内装資産に当たるかって言う肝心の定義だけど、CARES Actによる法文修正前の段階では、「商業用建物内装のうち、建物自体が事業用途に供された後に加えられる造作」とされていた。チョッと日本語ぎこちないかもしれないので誤解ないように原文付け加えておくと「any improvement to an interior portion of a building which is nonresidential real property if such improvement is placed in service after the date such building was first placed in service」。CARES Actはこの定義の「improvement」の直後に「made by the taxpayer」という重要な一言を加えている。すなわち、納税者自らが行うリフォーム等でないと適格にはならなくなってしまった。っていうことは、例えばNYCでオフィスビルを$500Mで購入して、そのコストのうち、$50Mを内装に振り分けても、バイヤーは自分で内装を造作した訳ではないので適格内装資産には当たらないことになる。納税者自ら造作というのは、言うまでもないけど、納税者が実際に腕まくりして梯子に上ってペンキ塗ったり、ダクトをセットアップしないといけないという意味ではなく、実際の作業は業者等に発注するんだろうけど、納税者の支出でリフォームする必要があるってこと。言い換えれば、既に内装が造作されている商業施設を後から取得して、取得コストの一部が内装に帰属するだけでは適格内装資産にはならない、ってこと。

そんな訳で、2018年1月1日以降に事業用途に供された適格内装資産は過去遡及する形で償却方法が変わってしまったので、この調整をどのように行うかっていう面倒な課題が生じる。この点は次回。