Sunday, April 26, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (10) Section 163(j)改定にかかわる選択

少し前に「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス」で、CARES Actで緊急に規定されたSection 163(j)の緩和措置 のうち、不動産事業に認められている免除の新たな選択、取り消し等の手続きに触れた。今日は肝心のSection 163(j)そのものにかかわるCARES Act絡みの3つの選択に関して。

まず、CARES ActによるSection 163(j)の緩和措置をサラッとおさらいしておく。

詳しくは「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (3) Section 163(j)」を参照して欲しいけど、暦年2019年中または暦年2020年中に開始する課税年度のネット支払利息は、修正後課税所得(ATI)の30%の代わりに50%を使用して損金算入額を計算することが認められる。納税者が50%ではなく、引き続き30%の使用を希望する場合には「30%使用選択」が可能。当選択は2019年、2020年に開始する課税年度の各々別々に認められる。

パートナーシップに関して、2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には、緩和措置の50%の制限緩和規定は適用がない代わり、パートナーシップからパートナーに配賦された損金不算入支払利息の50%は、パートナー側の暦年2020年中に開始する課税年度の支払利息として取り扱われ、Section 163(j)の制限対象から除外される。残りの50%は通常の規定通り、パートナーシップから配賦されるETIに基づく通常のベンチ待機ルールに基づき損金算入の判断を行う。このパートナー側で2020年に50%を問答無用に使用できるという措置が気にいらない場合には、「パートナー2020年50%損金算入不適用選択」が認められる。2020年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しては、法人同様にATIの50%に基づく損金算入制限枠を計算することになるけど、法人同様、2020年に関してはパートナーシップにも「30%使用選択」が規定されている。

また、2020年に開始する課税年度は、当年度のATIの代わりに前年、すなわち2019年中に開始する課税年度、のATIを使用する選択が認められる。

組み合わせがなかなか複雑なので選択の部分だけ再度整理すると、30%使用選択、前年ATI使用選択、そしてパートナー2020年50%損金算入不適用選択、となる。

まず、せっかくCARES Actで、2019年と2020年の支払利息はATIの50%まで損金算入していいです、って言ってくれているにもかかわらず、「うちはATIの30%を適用して損金不算入額を決めます」っていう「30%使用選択」。なぜこんな天邪鬼な選択があり得るかってというと、特定の条文適用時には有利に見える取り扱いも、他の条文との複合的な絡みで総合的に必ずしも有利でないケースがあるから。TCJAは複数条文のインターアクションに基づく検討の重要性に拍車を掛けている。30%でも50%でもどっちにしても制限に抵触しない納税者はムキになってこんな選択をする必要はないので、基本的には30%を選択して本来損金不算入としなくてもいい金額を損金不算入にしたり、50%でも制限に抵触する納税者がより多くの金額を不算入にする際に使う選択となるはず。そんな選択をしたい納税者は2019年または2020年の申告書、またはこれらの課税年度にかかわる修正申告書で、30%ATIを適用することで選択をしたことになる。特定の選択を宣言するStatementは不要。パートナーシップに関しては2019年は30%使用が強制されるので、当選択は2020年のみに関係する。また以前もチラッと触れたけど、パートナーシップもForm 1065を修正することができ、そこで30%使用選択ができるけど、BBAっていうパートナーシップレベル税務調査にかかわる特別な規定に抵触するパートナーシップで、一定の要件下で修正申告ではなく、Administrative Adjustment Requests (AARs)と呼ばれる別手続に基づき、実質修正同様の手続きを済ます必要がある場合には、AARsを通じて実質修正をする。今後、パートナーシップの修正申告に触れる際、基本的に全てこのBBA下のAARsの適用があるって覚えておいて欲しい。毎回いちいち「BBAの場合は・・・」って注意書きしないのでよろしく。

優柔不断というか、後から課税関係が変わってしまって、やっぱり素直に50%で計算しとけばよかったな、って気が変わった場合には修正申告を提出すれば、選択取り消しにかかわるIRSの承認を自動的に受けた形となる。簡単に言えば、時効が成立するまでは気が変わったら修正するばいいということ。また、今のところSection 163(j)の規則草案に基づき、Section 163(j)はCFCにも適用があるけど、CFCに30%使用選択をする場合には、支配米国株主全員で行う必要がある。

次に、2020年に2019年のATIを使用して損金算入額を決める前年ATI使用選択だけど、これも2020年の申告書、または修正申告書で2019年のATIを使用すれば良く、選択を宣言する特別なStatementを添付したりする必要はない。30%使用選択同様、優柔不断というか、後から課税関係が変わってしまって、やっぱり2020年のATIベースにしとけばよかったな、って気が変わった場合には時効成立前に修正申告を提出すれば、2020年ATIベースとすることができる。CFCにかかわる手続きも30%使用選択同様。

最後に、パートナー2020年50%損金算入不適用選択だけど、こちらもパートナーが提出する申告書で、不適用とすれば、すなわち、通常のルール通りにETIに基づく処理をすれば、不適用選択をしたと認められる。上述の2つの選択同様、後から気が変わったら時効成立前に修正をすればいい。

ということで、Section 163(j)にかかわるCARES Act系の選択はこんな感じなんで、次回は話題の適格内装かな。それにしてもGoogle/AppleのContact Tracing使ってでも何でもいいから、そろそろ経済活動開始のタイムラインを具体化してもらわないとね。民主党大統領候補に実質決まっているJoe Biden曰く、次のCARES Act 2.0では「hell of a lot more」の公的資金をつぎ込む!ってことだけど、既に$2.5T使ってしまったのに、これから「hell of a lot more」って言われても、最後は誰かが支払う訳で、次世代にそんな多額の負の遺産を残すべきではないと思うんだけど。そもそも、州知事の権限で経済活動を止め続けて、その代償を連邦政府が公的資金で補填し続けるモデルにはSustainabilityがない。大統領のアップデートとか見てても日によって言うことが全然違うし、州政府も結局、元々はヘルスケアシステムの受け入れに余裕が生じるまでの臨時措置のはずだったロックダウンから抜け出す切り札がないまま無暗にロックダウンを延期したいりしていて、一部ロックダウンを解除したジョージア州知事をみんなで叩いたり、なんか米国政府の無策ぶりを世界に露呈している感じ。個人の自由を保障する立派な憲法があっても、第二次大戦時のKorematsuケースとか、9・11直後の動きとか、有事の際には結局あまり機能しないのかな、って今後いろんなことがある毎にロックダウンとなるような変な前例にならないといいけど、って考えるのは大げさなんだろうか。何年待ってもワクチンができる保証はない中、まさかワクチンできるまでロックダウンしている訳にはいかないし。そんなことしたら2021年のGDPは2019年比較で25%行くかな~。そうなったら米国のGDP、今の日本と同じ。中国も減速するとは言え、グリーンのQRコードを駆使して復活気味なので、そこまでGDP下がりそうにないよね。まあ、過去の歴史振り返っても今回も最後はApocalypse的な話しにはならないと信じてるけどね。

Sunday, April 19, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (9) IRSもWFHで「デジタル送信」その後

最近MidtownのWhole Foodsは品揃えに疑問があったのと、多くの買い物を一気にする際、必ずしも店の真ん前に路駐できないリスクもあって面倒なので、普段だったらなかなか行くことがないRidge Hill店までドライブすることが何回かあった。Shelter-in-Placeで道はガラガラなので、普段だったらインターセクションの設計が悪すぎて恒常的にボトルネックになっているFDRから87に乗り換えるRandall’s Islandのオーバーブリッジ辺りも気味悪いほど空いていて、家からRidge Hillsまで20分程度。着いてしまえば、NYCを一歩外に出れば当たり前の「普通に」大きなWhole Foodsの店舗目の前にIndoorの駐車場もあるし、駐車場のストラクチャー内にマンハッタンにはないSuperchargerもあるし、大量の買い出しにはとても便利。

CaliforniaのMDR近くのPlaya Vista店では早々にSocial Distancingで入場制限してたけど、NYCでも最近は入場制限がだんだん徹底してきてる。入場できる客の人数をどうやって決めてるんだか知らないけど、Per SQFT等で計算していると仮定すると、Midtownの店はCaliforniaのPlaya Vistaとか同じNYでもRidge Hillなんかと比較するとSQFTが少ないので、一回に入れる人数が少なそう。また、いくら人数制限してもMidtownの店はアイルというかLaneが狭いので、「Distancing」すること自体不可能なんだけど、昨日、久しぶりにMidtownの店に行ってみてビックリ。店内のLaneが全て「一方通行」化され、1メートル向こうに並んでるレモン買おうかな、と思っても、グルっと他の野菜が積んであるアイランドを一周しないと辿り着かないとか、Seafoodセクションに入るには一旦、野菜のセクションに戻らないといけない、とか複雑。駒沢公園辺りから西郷山公園経由、旧山手通りの下くぐって南平台の裏道経由で渋谷にドライブしてるみたいだ。知ってれば何てことないけど、知らないと中々辿り着かない、ってこと。

いつもだったら野菜やフルーツセクションを終えて、チーズとかパスタセクション経由、逆行して肉やSeafoodセクションに戻るところ、コロナ後の世界ではその方向は侵入禁止なので、なかなか買えなかったりチョッと面食らうこともあるけど、お陰で、一旦並んで中に入ってしまえば、店舗内で買い物している客の人数は少ないし、一方通行なのでカートがすれ違えないとか言うMidtownの店独特のフラストレーションもないし、なんといってもCashierというかレジで並ばないのがいい。普段だったら色別のLaneで、どの色が早いかな、とか殺気だってみんな並んでたけど、Social Distancingでレジ自体は待たずに終わらせることができる。レジも店員と客の間に銀行の防弾ガラスみたいな、Dividerが設置されたりして、これこのままにしておけば冬のインフルエンザ防止にも役立ちそう。幸いにも今の季節、気候が悪くないので店の前で30分とか待たされても、携帯使って財務省規則とか読んでたら(苦笑)余り苦にならないけど、真冬とかまで続くんだったら結構厳しそう。ディズニーランドのFASTPASSみたいに携帯で「あなたは何時から何時の間に戻ってきて下さい」みたいなLaneができるかもね。FASTPASSってチョッと使い勝手が悪いので、できたらLEGOLANDのReserve ’N’ Rideとか、Universal StudioのExpress Passとか、ローカルだけどKnott’sのFast Lane Passみたいな問答無用的に一番に入れるパスがあるといいけどね。まあ、FASTPASSは他のパスと違って無料だからね。Whole Foodsの対応見ても分かるけど、結構やろうと思えばいろんな手が打てるんだなって感心。ワクチンがいきわたるまでは、こういう地道な努力でリスクを軽減しながら経済活動を少しづつ再始動するしかないだろうね。

やろうと思えばいろんな手が打てると言えば、IRSのForm 1139のファックス受付。普段はペーパー提出しか認められない簡易手続き還付請求がファックスでも認められることになった点は前回の「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (8) IRSもWFHで「デジタル送信」OK」で触れた。ファックスって言うとチョッと原始的に聞こえるけど、IRSとしては法的に確実に処理できるバックエンドの体制を整えないといけないし、様式提出にかかわる証明義務とか、Identity Theftの観点とか、我々が考える以上の周到な準備が必要なんだろう。IRSの各サービスセンターにはペーパー提出された様式やレターが何台ものトレーラーに保管してあるってことだから、ペーパー提出された書類が処理されるまでには相当な時間を要しそう。

で、この金曜日、4月17日から満を持してファックス受付開始されているので、次々とForm 1139が送信されているんだろう。そんなタイミングでIRSは追加のFAQを出している。Cares Act絡みで納税者には有利な規則や手続きが次々と発表されていて財務省の実力を見せつけてるけど、中には法的権限はどこに、って思うことがある。ただ、実務的に言って納税者に有利な規則に関して法的権限が司法の場で問われるケースはないだろう。

IRSが追加で公表しているFAQによると、ファックスでの受付はあくまでもForm 1139と法人以外の納税者が使用するForm 1045に限定されてて、同じ流動性確保のために使用される場合でもForm 1120XとかForm 4466はファックスでの受付はしないと明言している。Form 4466は予定納税が過多だった際、申告書の延長期限前に提出し、支払過多の予定納税額を素早く取り戻すための様式。同様に流動性の話しで登場することがあるForm 1138は、今から提出しようとする申告書では税額があるけど、翌期にNOLが予想され、それをCarrybackすることで、結果として税額が減額できるケースで、支払いをNOLが発生する課税年度の申告書提出時点まで待ってもらう措置。Form 1138は還付請求ではないので慌ててファックスして処理してもらう必要はない。トレーラーに眠らせておいて、IRSサービスセンターが通常オペレーションに戻った暁にゆっくり処理してもらえばいいタイプの様式だ。

Form 1139って言うのは簡易手続きなので、その内容に関して精査されず、様式に記載されている数字が表面的に合っていれば法的に90日以内に還付を受け取ることができる仕組み。IRSは90日以内に還付を行う義務がある。Form 1139が表面的に合っているかどうか、っていう点だけど、数字的にはForm 1139も修正申告に類するので、オリジナル申告書の数字とCarrybackした後の数字を比較表示する必要がある。または既に何らかの理由でCarrybackする先の課税年度に関して修正申告を提出しているケースは、修正後の数字と今回Carrybackした後の数字を比較表示する。オリジナル申告書の数字を使うケースや、修正申告が相当前に提出されているケースでは心配ないかもしれないけど、結構最近修正申告をしたケースでは、そもそも修正申告の方がトレーラーに眠っていて、IRSのシステムに反映されていないリスクがある。その場合には、IRS側でForm 1139上の数字が表面的にも合っているという確認が取れないことなる。ただ、修正申告書を提出している以上、そちらの数字を使用してForm 1139を作成する必要があるので、実務的には面倒なことになり兼ねない。不整合が見つかったり、IRSで質問がある場合には、IRSから電話があるそうなので、君のテレフォンナンバー6700(凄い古~)かJennyの867-5309(チョッと古~)か分かんないけど、とにかく連絡が取れる番号をForm 1139に記載して、電話があったら逃さないように、電話に張り付いとく必要があるね。

また、既存のForm 1139は過年度のAMTクレジットを還付請求するデザインになっていない。そこでFAQでは、AMTクレジットを還付請求する際にはForm 1139にForm 8827の修正を添付し、2018年時点のAMTクレジット残高をCARES Actに基づき還付請求できる手法を編み出している。NOLのCarrybackとAMTクレジットの双方を利用して還付請求する場合も、一枚の1139で双方を手当できるような指示が公開されている。NOLのCarrybackがあると、AMTそのものの金額にも影響があるけど、一応、ここは律義にNOLをCarrybackして、AMTを計算し直し、それを翌期以降にクレジットしていって、2018年課税年度時点で取り返していない金額が残ってれば、Form 1139で還付請求することになる。AMTなんて真面目に計算してもしなくてもどうせ還付できて帳尻合わせることできるんだから適当でいいじゃん、って思うかもしないけど、ここは法的に古い課税年度から順々に律義に計算しないといけないと匂わせる記載がFAQ11に記載されている。Section 199とかFTCとかドミノ効果が多いから何だかんだCarryback計算も大変そうだ。ただ、AMTに関しては、CarrybackするNOLの金額そのものをAMT目的でAMTのNOLに換算し直さないといけないかどうかは明確じゃないけど、TCJA後の2018年~2020年にはもうAMTという制度が存在しないことから、以前AMTIを計算する際に使用していた「Preferences」とか「Adjustments」は2018年以降存在しない。となると、通常のNOLをCarrybackして、Carrybackした先の課税年度のAMTを再計算するばいいって考えられる。ここは異論があるかもしれないけどね。

金曜日には適格内装の100%償却絡みのRevenue Procedureも公表されて益々CARES Actのインプリメンテーションに気合が入ってるけど、次回は、その前に「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス」で話し掛けになってるSection 163(j)のCARES Act絡みの3つの選択に関して。

Monday, April 13, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (8) IRSもWFHで「デジタル送信」受付開始

前々回のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (6) NOL Carryback手続等ガイダンス」で、NOLのCarryback手続きに関して財務省が迅速かつ有益なガイダンスを公表してくれた点に触れた。でもせっかガイダンスは出揃ったものの、IRSもWFH状態にある中、実際にどれくらいのスピードで肝心の還付が返ってくるのかは興味深いて、って話しもした。というのも、法人がNOLをCarrybackして簡易手続きで還付請求する際に使用するForm 1139は電子ファイルできなくて、ペーパー提出しか認められないのが通常だからだ。IRSの各サービスセンターもShelter-in-Place措置でCloseされていて、対応してくれるのは「Mission-Critical Operations」のみ。通常の市民生活的には各州が認める「Essential Business」のみオープンだけど、IRSでは「Mission-Critical Operations」のみオープンなんだね。トムクルーズの映画みたいで、普通より言い回しが格好いい。NYCとか他の街でオープンして頑張ってくれているWhole FoodsとかCVSとか「あそこはMission-Critical Operationsだからな・・・」ってこと(?)。

で、Form 1139の提出なんだけど、せっかくCARES Actで流動性を確保させるために規定してくれたNOL Carrybackに基づく還付が、肝心のタイミングでIRSが閉店していて「プロセスは世界が普通に戻るまで待ってて下さい」っていうんでは話しにならない。そこで今日、IRSはウェブサイトで「Temporary Procedures」、すなわち一時的な特別手続きを公表し、NOLのCarrybackおよびAMTクレジットの簡易還付手続きを行うために提出するForm 1139を「Digital Transmission」(デジタル送信)で一時的に受け付けるとした。法人以外が使用するForm 1045も同様で、各々異なる送信先が記載されている。デジタル送信というと、ハイテクな感じだけど、要はファックス。

指定のファックス番号は2020年4月17日より機能し始め、通常オペレーションに戻るまで、ファックスを受信順に処理するそうだ。4月17日より前に勇んでペーパー提出してしまった納税者も、再度ファックスでデジタル送信し直すよう促している。送信は最高100ページが限度で、100ページ超の必要添付書類が存在する場合も、まずは100ページだけ送っておいて、後はIRSが還付手続きを進める過程で必要に応じて納税者に連絡を取るそうだ。デジタル送信されたForm 1139もIRS内部処理は従来のペーパー提出と同じということ。またデジタル送信の対象はあくまでもNOLのCarrybackとAMTクレジットの還付用途に限定され、その他の目的でFormをデジタル送信しても、その時点では処理されず、IRSのサービスセンターが通常のオペレーションに戻った時点で処理をするそうだ。

さらに面白いのは、Transition Taxを計算している課税年度を含む年度へのCarrybackに基づく還付請求時にも一定要件下でForm 1139の使用を認めている点。今までの一般手続きではTransition Taxを計算している課税年度へのCarrybackにはForm 1139の使用は認められなかったのでチョッとビックリ。ただ、現時点ではTransition Taxを全額納付済み、すなわち8年間の分割払いを選択していないケースのみが対象とされている。8年分割払いは無金利バルーン型だから、分割を選択していないケースは珍しいというか、他の超過額と相殺してしまったケースが大半じゃないかな。その意味では実務的には適用可能性が高いわけではないけど、スピリット的にウェルカム。さらに、分割払いでまだ完済していないケースに関して今後追加アップデートを公表するとしているので、可能性としてはより多くの状況でTransition Taxを計算している課税年度を含む年度へのCarryback還付請求をForm 1139を使用して、しかもデジタル送信で、行うことが可能となるのかもしれない。

ちなみに予定納税を最終申告前に加速暫定還付請求するQuick RefundのForm 4466はデジタル送信の対象ではなく、通常の手続きを経ること、としている。また、デジタル送信はあくまでも一時的な措置であり、恒久的な制度ではない、とも念を押している。なんでだろうね?今回の新型コロナウイルス騒ぎで、議会もリモートで審議したり、票を投じたりするシステムを認めるべきだっている議論があるけど、WFHが解けたからって便利なシステムを必ずしも律義に元に戻さないでもいいのに、っていう気もするけど。

Sunday, April 12, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス

NYCが新型コロナウイルス感染で非常事態に陥ってから、エンパイアステートビルディングが毎晩、真っ赤にライトアップされ、NYCのコロナとの闘いをサポートしている点は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (5) NOLの換金価値」のポスティング冒頭で触れた。早く、前みたいにレインボーとかいろんな色になる日が来ないかな~、と心待ちにしていたんだけど、なんと昨日と今日はきれいな薄いパステルカラー!最悪を脱してFlatten the Curveの兆候が見えてきたからかな、と思ったんだけど、実はイースターを祝っているそうだ。理由はともかく、連夜の真っ赤なエンパイアステートビルディングを見ると何となく心が痛むというか、嫌な気分になっていたんで、少し和むことができて良かった。ビルのライトアップだけで単純(?)。

そういえばKobe Bryantがヘリコプター墜落事故で急逝してしまった晩のエンパイアはLakersカラーのパープルとイエローだったね。Zen MasterというかTriangle OffenceのPhil Jackson率いるLakersをStaples Centerに見に行ってた頃が懐かしい。当時のLakersはO’NealとBryant率いる最強ドリームチーム。他にもFoxとかFisherとかね。実はその昔、O’Nealのガールフレンド(?)と同じコンドに住んでた時期があり、たまに夜に物々しくO’Nealが来訪することがあった。結局、誰に会いに来てるんだか分からなかっただけど。当時、そのコンドには、Victoria’s Secretのカバーを独占していたTyra Banksが住んでたんだけど、Banksとの関係は不明。Tyra Banksは当時スーパーモデルで、プライベートでも超Niceでエレベーターとかで会っても向こうから声を掛けてくれるような人。当然長身なんで、僕がエレベーターに入ると顔の前に胸が来るような印象が残ってるんだけど、たぶんスタイルが抜群なんで、そう見えただけかもね。あんなに持てはやされてたのに、謙虚というか周りに気を遣って、好感持てる人だなって感心してた。彼女のその後の向上心やチャリティー活動とかに、そのしっかりした人生観を垣間見ることができて、やっぱりね、って感じ。

で、負けずに向上心を持ち続けてNYCとかDCの最新情報に目を光らせてないと、米国タックスの世界は地殻変動のTCJA導入直後に、予期せぬCARES Act登場で複雑極まりない「Perfect Storm」になっているので、とても付いていけない。ということで、CARES Actに規定される複雑な取り扱いの具体的な適用手続きに関して矢継ぎ早に公表されるガイダンスのうち、前回はNOLのCarryback手続きに触れたけど、同時に公表されている複数のガイダンスでもう一つ関心が高そうなのが、Section 163(j)周りの諸々の手続き。

CARES ActによるSection 163(j)の変更そのものの詳細に関しては以前のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (3) Section 163(j)」を参照して欲しい。ザックリとオサライしておくと、CARES ActによるSection 163(j)の改定は、「2019年、2020年に関してATIの30%ではなく50%を使って支払利息の損金算入制限を決める」、「2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には、緩和措置の50%の制限緩和規定は適用しない代わりに、パートナーに配賦された損金不算入支払利息の50%をパートナー側の暦年2020年中に開始する課税年度に制限なく損金算入を認める」、そして「2020年は損金算入枠を算定する際に、前年のATIを使用する選択を認める」という3つが骨子。

で、これらの新規定には各々、納税者側で適用しないという選択が設けられている。更に、元々Section 163(j)は、不動産業および農業には適用しないという選択がある。この選択はCARES Actの話しではなく、TCJAの話し。だけど、2019年と2020年に関してSection 163(j)の適用条件が変わってしまったため、また、適格内装がTCJA法文修正により39年定額償却から即時償却対象にアップグレードされたので、Section 163(j)を適用しない選択を行うべきかどうかの判断時の分析Equationが変わってしまった。なぜ償却が関係してくるかっていうと、Section 163(j)不適用の選択をすると、その代償として、一定の資産クラスに関してMACRSや即時償却などの加速度償却を適用することができず、ADSという特殊な定額償却を使わないといけないからだ。商業用建物であれば、MACRSでも39年の定額なんで、ADSの40年定額と比べて大差ない。なんで、だったらSection 163(j)なんか適用しない方がいいね、って考えた不動産業者はいると思うんだけど、それが急に、内装は即時償却です、ってなると様子が大分異なってくる。さらにSection 163(j)を適用したとしてもATI50%ベースとなれば尚更だ。

これらの背景から、財務省のガイダンスは、不動産業者(農業も同様だけど、日本企業的に適用可能性がより高いと思われる不動産って描写で統一しておくからね)によるSection 163(j)不適用選択の見直し法、CARES Actに規定される3つの選択法、に関して詳細に規定してくれている。

まず、不動産業者によるSection 163(j)の適用・不適用選択だけど、TCJAが導入された2018年以降、(2018年、2019年等の暦年内に開始する課税年度は、説明を簡素にするため2018年、2019年課税年度って呼ぶことにするね)Section 163(j)不適用選択をしていなかった者、または2018年~2020年課税年度に選択を取り消した者、は該当課税年度にかかわる修正申告書を提出することでタイムリーに選択をしたものと取り扱われる。修正申告書は2021年10月15日または時効成立のどちらか早い期日までに提出される必要がある。パートナーシップもForm 1065を修正することができるけど、BBAっていうパートナーシップレベル税務調査にかかわる特別な規定に抵触するパートナーシップは、一定要件下で、修正申告ではなく、Administrative Adjustment Requests (AARs)と呼ばれる別手続きに基づき、実質修正同様の手続きとすることができる。下に話す別の項目に関してパートナーシップの修正申告に触れる際、基本的に全てこのBBA下のAARsの適用があるって覚えておいて欲しい。毎回いちいち「BBAの場合は・・・」って注意書きするの面倒なんでよろしく。

で、今からSection 163(j)不適用の選択をする場合、償却の計算とかが元々の申告と異なってくるけど、修正申告時には当然それらの調整を反映させる必要がある。償却とか、その後の課税年度にも影響があるケースがほとんどだけど、その後の申告書も適宜修正しないといけない。

逆に元々、Section 163(j)不適用を選択していた不動産業者は、選択を取り消すことが認められる。選択を取り消すっていうことは、Section 163(j)を普通の事業同様に適用するってことだから間違いのないように。こちらの手続きも新たに選択する場合と同じ。償却その他の数字を関係する課税年度に関して調整の上、修正申告が必要になる点も同様。

Tyra Banksとかでチョッと長くなってきたので、CARES Act絡みの新規定にかかわる3つの選択は次回。

Friday, April 10, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (6) NOL Carryback手続等ガイダンス

失業保険申請数が僅か3 週間の間に1千7百万人にのぼり、Cares Actに規定された小規模事業者へのSBAによるPPPローンプログラム(税法とか直接関係ないので、一応)に申請が殺到し、大至急追加資金の供給が必要ということで、今週にでもフェーズ3.5/Cares Act 2.0が議会を通過するはず、だった点は「失業保険申請一千万人とGDP30%減の衝撃と「フェーズ3.5/CARES Act 2.0」」で触れたけど、両党の意見が合わず、結局週明けに持ち越し。McConnellは上院で$250Bの決議を断行すると伝えらえている。どれだけの民主党上院議員が反対するのか見もの。

で、議会がフェーズ3.5/Cares Act 2.0の可決に失敗している間に、財務省・IRSはCARES Act絡みの規定適用にかかわる6つの手続き的なガイダンスを早々に公表した。Revenue Procedure 2つ、Notice 3つ、現金給付用の情報入力ウェブサイト、という超豪華セットだ。内容は大別してNOLのCarrybackにかかわる手順、諸々の期限延長、適格内装が過去訴求して即時償却対象となった点を勘案して不動産業者によるSection 163(j)不適用選択の取り消し、現金給付などだけど、取り急ぎ、関心が一番高そうなNOLのCarrybackにかかわる手続き部分に触れておく。これらの新手続きは最後に触れる2018年1月1日以降の課税年度に生じるNOLの取り扱い以外はRevenue Procedureに記載されている。

CARES Actは、2018年~2020年に開始する課税年度に生じるNOLに関して5年間のCarrybackを認めている点は既に何回かにわたり触れた。CARES Actに限らず、NOLのCarrybackは、Carryback先となる課税年度の修正申告書を提出して還付申請を行うのが原則。法人であれば1120Xだ。ただし、CarrybackするNOL発生課税年度終了から1年以内であれば、簡易手続きに基づく還付申請が認められるという緩和措置がある。こちらはForm 1139(法人以外はForm 1045)だ。

Carrybackは法的に拘束力を持つため、Carrybackが規定される課税年度にNOLを認識している場合にはCarrybackをしないといけないのが原則。ただし、納税者自らがNOL発生課税年度の申告書上、Carrybackする権利を正式に放棄する選択をする場合にはその限りではない。当放棄選択をすると、Carrybackの代わりに全額Carryoverとなる。放棄選択は一旦行うと取り消し不能。

CARES Actでは、一部過去に訴求してCarrybackを認めているので、NOL発生課税年度終了から一年以内のみに認められる簡易手続きとか、延長後に遅延なく提出される申告書で行われるはずのCarryback放棄選択とか、可決時点で既に期限が過ぎている措置にどのように対応するのか不明だったけど、今回のRevenue ProcedureおよびNoticeで大概の疑問はクリアになったと言える。

で、まず暦年2018年および2019年に開始する課税年度に生じるNOLのCarryback放棄選択だけど、これは2020年3月28日以降に終了する最初の課税年度(例、2020年3月期)の延長申請を加味して遅延なく提出される法人税(または所得税)申告書に、Carryback放棄する旨を記載したStatementを添付して行う。放棄は暦年2018年または2019年に開始する課税年度、各々別々に選択することが認められるけど、Statementには放棄選択対象となる課税年度を明記する必要がある。

次に、CARES Actには、5年間のCarryback期間に、留保所得一括課税(Transition Tax)対象課税年度が含まれる場合、当課税年度をCarryback対象から除外する選択が規定されている。暦年2018年および2019年に開始する課税年度に生じるNOLをCarrybackする際に、Transition Taxを計算している課税年度をCarryback期間から除外する選択を希望する場合、通常のCarryback放棄と同様に、2020年3月28日以降に終了する最初の課税年度(例、2020年3月期)の申告書にCarryback放棄する旨のStatementを添付する。2020年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLのCarrybackにかかわる同選択は、NOL発生課税年度の申告書にStatementを添付して行う。Transition Taxを計算している課税年度をCarryback期間から除外する選択にかかわるStatementを添付する「申告書」だけど、Revenue Procedureが発行された2020年4月9日以降に提出される法人税(または所得税)申告書、簡易手続きのForm 1139(法人以外はForm 1045)、Transition Taxを計算している課税年度に当たらないCarryback対象課税年度にかかわる還付申請のための修正申告書、のいずれか一番早くに提出される様式が対象。さらに、同選択のStatementは、Carryback対象課税年度にかかわる還付申請のための修正申告書の各年度にコピーを添付する必要がある。

単にNOL Carryback自体を放棄する選択のStatementと比べて、Transition Taxを計算している課税年度をCarryback対象年度から除外する選択のStatementは、添付するべき申告書のバリエーションが多くて面食らうかもしないけど、これは当然で、NOL Carrybackを放棄するということは、NOLをCarrybackして還付を請求しないということなので、過年度の申告書をNOLを使って修正申告したり、Form 1139とかで簡易手続きに基づく還付申請を行ったりすることはないからだ。一方のTransition Taxを計算している課税年度を除外する方の手続きは、NOLをCarrybackするからこそ生じる検討となるので、Carrybackの際に提出する可能性のある申告書がいろいろとある。それらのうち、最初に出すものにStatementを添付し、またCarryback期間の各年度に関して提出する修正申告書が他にあるのであれば、それにもコピーを付けなさいってこと。まあ、よく考えられてるよね。TCJAのインプリメンテーションで多忙だった財務省やIRSだけど、CARES Actで余計に忙しくなり、かつ彼ら・彼女らだってWFHだから、このスピードであれだけのガイダンスを公表できるっていう実力は凄いね。

また、Revenue Procedureでは、Transition Taxを計算している課税年度をCarryback対象年度から除外する選択を行う場合、Transition Taxを計算している全ての課税年度を一律除外しないといけない点、また除外の結果、Carryback対象となる課税年度は元々の5年間からTransition Taxを計算している課税年度の除外した残りの課税年度になる点、が明確にされている。Transition Taxを計算している課税年度は多くのケースで2017年課税年度単年(3月決算の場合は2018年3月期)だけど、11月とか異なるFiscal YearのCFCが所有外国法人に複数紛れている場合には、プラスもう一年、Transition Taxを計算している課税年度が存在することがある。

逆にTransition Taxを計算している課税年度をCarryback対象年度から除外しない場合、NOLはTransition Taxを計算している課税年度にもCarrybackされることになるけど、その場合は、留保所得の合算額にはNOLを適用しないSection 965(n)選択が強制的に適用される。ただし、元々、NOLが存在したのに、(n)選択をしていない場合は、CARES Actで適用される強制(n)選択はCarrybackされるNOLのみが対象となる。この点はCARES Actの法文だけでは必ずしも明確ではないと言う専門家もいたのでウェルカムな確認。

当然だけど、連結納税グループは一納税者として選択を行い、連結NOLにも通常とおなじ選択ルールが適用される、と規定されている。

2017年12月31日以前に開始し、2018年1月1日以降に終了する課税年度、例えば2018年3月期、に生じるNOLはCARES ActによるTCJA法文修正を通じて、急にCarrybackが認められることになったけど、既に課税年度終了から一年以上経過しているので、通常であれば修正申告書を提出して還付申請するしかない。この点には元々CARES Act自体に緩和措置が規定されてて、CARES Actが可決してから120日目に当たる7月25日が土曜日なので、翌月曜日の7月27日までにForm 1139(法人以外はForm 1045)を提出すれば、簡易手続きに基づく還付申請が認められる。また、当課税年度のNOLに関してCarryback放棄する選択をする場合も、同じく7月27日までに納税者名、住所、納税者番号のみを記載したカラの修正申告書を提出して選択を行う。

最後に、別のNoticeによる追加緩和措置だけど、2018年1月1日以降に開始し2019年6月30日以前に終了している課税年度のNOLをCarrybackする際、既に課税年度終了から一年超の時が経過しているので、通常であればForm 1139やForm 1045で簡易手続きに基づく還付申請はできないところ、期限を6カ月延長を認めてくれるそうだ。3月決算の場合、2019年3月期がこれに当たるけど、2020年9月末までに手続きを行えば、簡易手続きに基づく還付申請が可能。この措置は2918年3月期の法人修正にかかわるNOLの措置と異なり、CARES Actには規定されておらず、行政府の判断・裁量に基づく英断。素早くかつ気の利いたガイダンスに感動。後は還付請求後、どれくらいのスピードで本当に還付されるか、が興味深い。確か、Form 1139は電子ファイルできなかったと記憶しているので(記憶なんでみんなちゃんと調べてね)、その場合はWFH状態でIRSの処理能力には限界があるだろうから、本来90日以内に処理される簡易手続きが、その通りスムースオペレーターになるかはかなり疑問だけど、こんな事態は想定されてないので多少の遅延は覚悟しないとね。

次回は軽く他の規定にかかわるNoticeに関して。

Tuesday, April 7, 2020

失業保険申請一千万人とGDP30%減の衝撃と「フェーズ3.5/CARES Act 2.0」

新型コロナウイルス対策フェーズ3となるCARES Actが可決するかしないかの頃から、更なる大型救済策となる「フェーズ4」策定が模索され始めている点は以前の「新型コロナウイルス対策法フェーズ3下院も通過し今日成立予定。関心は早くもフェーズ4に」で触れた。民主党を中心に大規模なインフラ投資を含む更なる財政出動を規定するような案が浮上していたんだけど、全米が政府の措置でロックダウンされていて誰もろくに外出できない状況で、インフラ投資で雇用創出って言われても、どうやってインフラ作るんだろう、っている基本的なところで何となく的が外れているような気がしてならなかった。そんなことよりもまずは感染や抗体テスト、ワクチンの開発に優先的に資金を投じるとか、病院その他の最前線で市民を守っている方たちに個人用保護具(PPE)とかを充実させるとかして、部分的にでも経済を再始動できるような体制作りに優先的にお金を使った方がいいのでは、って思ってしまう。素人考えなのかもしれないけど、失業保険手当とか企業にローンとかはあくまで急場を凌ぐための応急措置にしかならず、ワクチンができるまで1年超の期間に亘り、経済損失を国が全額補填し切れる訳はないので、ワクチンが開発される前の段階で徐々に最大限の安全を確保できるような投資を考えてもらいたい。

と思っていたら、何となくワシントンもフェーズ4ではなく、フェーズ3.5っぽい感じで急遽CARES Act 2.0を模索する方向に傾きつつあるようだ。というのも、先週の失業保険申請が700万を超え、2週間でなんと1千万人、元FRB議長のJanet Yellenが「第2四半期のGDPは30%減」というコメントをしたり、まさに「開いた口が塞がらない」としかいいようがない数字を記録し、更に感染増が今週と来週でピークを迎え、「パールハーバー」に匹敵する米国史上最悪の2週間になるというような状況を目の前に、事態を少しでも沈静化させる手を打つ必要が生じてしまっているからだ。

下院ではPelosiがCARES Actを拡張する形で、州、地方政府、小規模事業主、失業保険、ヘルスケアの最前線、等への援助、また場合によっては現金給付の第二弾、などを軸に調整中らしいし、上院でも早ければ木曜日にも250億ドル規模の救済法案が提出されるかもしれない。究極の救済策は新型コロナウイルスの感染を最小限に食い止め、一日も早く経済を再始動することだから、そんな対策にも十分な資金が供給されますように。

Saturday, April 4, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (5) NOLの換金価値?

NYCの感染状況が悪化する中、エンパイアステートビルは毎晩、真っ赤にライトアップされ、NYCが非常事態下にある点を嫌でも再確認させられる。定期的に白いビームが出て最前線で市民の安全を守るために命を懸けて戦っている緊急対応要員、First Responder、に敬意を表している。バレンタインデーとかに見る真っ赤なエンパイアステートビルとは異なり、毎晩真っ赤に光り続ける最近のエンパイアを見ていると、一日でも早く普通の色に戻りますように、って願わざるを得ない。Social Distancingが徹底していなかったタイミングの感染者が未だに増え続けているので、今週、来週が山場と大統領府は言っているけど、その後、本当にFlatten the Curveになってくれると皆、希望が見えてくるけどね。

製薬、バイオ、今ではタバコ業界も参加して治療薬、感染テスト、抗体テスト、ワクチン、等を時間との闘いで凄い勢いで研究・開発していると報道されている。ハイテク企業もWFHのネットワークを支えてるし、製薬とかハイテク業界ってBase Erosionとかで悪役になりがちだけど、彼らのイノベーションって元々リスキーなベンチャーなんで、たまたま当たって高い収益を上げられるようになったところだけを見て、Fair Shareを払ってないとか多くの税金を課そうとするのは長期的な政策として正しいんだろうか。BEPS 2.0どころではなくなってきたこのタイミングで、BEPS 2.0の大前提となっているポリシーを見直すいいチャンス。この点は別のポスティングで特集して少し考えてみたい。

で、NOLだけど、その昔、クイズダービーってTV番組があって、問題のいくつかは「3択」と言って、3つの選択肢から正解を選ぶパターンで、はらたいらと並んで3択は竹下恵子の正解率が高かった。で、NOLを3択改め4択の問題に変えてみると、「Cares ActでNOL100の換金価値は?」 「35」, 「21」, 「10.5」, 「ゼロ」、皆さん同じ答えになったでしょうか?巨泉風にいくと「いっぺんに開けます。せ~の」で・・・。

実は4つとも全部正解。それじゃもちろんクイズダービーには出題できないけど、ここが定量モデリングをしないと個々の納税者に何がベストが計り知れない理由。FDII、BEAT、Transition Tax、FTCとかを加味すると回答は無数になるけど、チョッと仮に無視して、GILTIだけの世界で考えるてみると、GILTI合算に影響しない形でTCJA前の課税年度にCarrybackできれば35の価値があり得る。TCJA後でもGILTIを相殺しない形でCarrybackできたり、Carrybackしないでも、将来にCarryoverできて、GILTI以外の所得を減額できれば21の価値があると言える。GILTI合算してる課税年度へのCarryの際の運命の分かれ道は、GILTI控除を規定するSection 250をどの程度減額させられるか、っていうところ。FTCを加味する前の状態でいくと、この度合いでNOLの価値は10.5~21の間で変動するものと考えられる。FTCを取っていない、というか取れていないGILTI合算課税年度にCarrybackして、NOLをGILTI合算の減額に費やしてしまうと、10.5の価値しかなくなる。さらに最悪なのは、トップラインでGILTI合算してGross Incomeは大きくなっていたものの、50%GILTI控除やFTCで元々GILTIに基づく米国法人税が生じていない課税年度にCarrybackするパターン。このパターンは前回のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (4) NOLとSection 163(j)規定と実務的な問題」でも触れたパターンになるけど、もともと法人税ゼロだったのにGILTI合算にNOLを無駄に消費するので、換金価値はゼロとなる。前回のポスティングでNOLがGILTIに使われるとGILTIが21%で課税されていることになると書いた点を換言してるだけだけど、NOLの価値っていう視点から考えると、こういう結果となる。

唯一グッドニュースがあるとしたら、GILTIをNOLで消す場合、大概においてNOLは米国内源泉の損失で構成されることが多いと思われ、NOLでGILTIを相殺する度にOverall Domestic Loss (「ODL」)アカウントが創出されることになり、後年、米国源泉の課税所得が生じるタイミングでODLをRecaptureしてGILTIバスケットを増額できることになるはず。ODLのルール的にはそうだよね?そうすると後年ODLをRecaptureする課税年度で、GILTIバスケットのFTC枠が大きくなって、CFCが高税率で法人税を支払っていると、米国源泉所得に対して課税されている米国法人税をFTCで減額することができることになる部分。でもこれはGILTIの基となるTested Incomeが高税率で課税されてないと実効性がない。

このように、NOLをGILTI合算額相手に使用しないといけない点が、NOLのFDIIやBEATに与える影響と並び、NOL使用時の大きな課題となるになるけど、CARES Actではその点にかかわる救済はない。GILTI合算額にNOLを使用しないオプションみたいな制度は無理なのかな。Transition TaxのSection 965にはTCJA時点で既にNOLを使用しないオプションが規定されていて、FTCを活用させてくれてNOLを無駄に使わないでもいい工夫がされてたんだけどね。CARES Actでも同様にTransition TaxとNOL使用は特殊な選択が認められている。同じようなアプローチがGILTIには規定されていない。Transition Taxは902のプールを使う最後のチャンスだったし、面白いことにその部分だけTCJA以前のフレームワークで課税されているので、特殊なのかもね。GILTIはFTCのCarryoverもCarrybackもなくて、毎課税年度、払い切りなんでその辺りのコンセプトが根本的に異なるってことなんだろうか。この期に及んでできないことはないと思うけど。

で、話しは少し変わって、チョッとだけNOLと支払利息の損金算入制限を規定するSection 163(j)の関係にも再度触れとくけど、CARES Act前の感覚から言うと、Section 163(j)に抵触せずに損金算入できたとしても、業績不振の課税年度に関して言えば、結局NOLが増えるだけのケースも多く、その場合、どっちにしても損金不算入額は無期限にCarryoverできるし、Section 163(j)でCarryoverしてる方が、将来、十分なATIさえあれば、80%所得制限がないことから、考え方次第では反ってそっちの方がいいのかも、っていうようなこともあり得た。CARES Actで状況は一変。Section 163(j)の使用枠は拡大されたけど、それでも業績が低迷して支払利息がSection 163(j)に抵触して損金不算入となると、NOLと異なりCarrybackは規定されておらず、そのまま将来にCarryoverするしかない。しかもNOLをTCJAの前の課税年度にCarrybackできれば、35%の換金価値があり得る一方、Carryoverは21%。結果としてできるだけ支払利息を損金算入してNOLを増額するのが得となるケースが多いことになる。ただ、NOLの換金価値自体も個々の事実関係次第な点は上述の通りなので、最終的にはここもモデリングの世界。アーニングス・ストリッピング規定と言われていた「旧」Section 163(j)には余剰枠自体の繰越が認められたけど、TCJAの「新」Section 163(j)には同様のコンセプトが存在しない。BEPSにも同じことが言えるけど、景気がいい時に議論される制度って、予想外の景気低迷時に使い勝手が悪い。この点もまた別の特集でね。

ということで、考えれば考えるほど、Cares Actも実務的な検討が増えてくる今日この頃でした。

Wednesday, April 1, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (4) NOLとSection 163(j)規定と実務的な問題

前回はSection 163(j)、その前はNOLにかかわるCARES Actの規定そのものの第一印象的な説明を試みたけど、その際、それらの恩典に関して納税者側で敢えて適用を選択しないオプションが用意されている点にも触れた。普通に考えると、恩典を自ら不適用にする、っていうオプションがあること自体、不思議に思うかもしれないけど、これが米国税務、特にPost-TCJAの世界の複雑性。ひとつの規定に関して、良かれと思って講じる策が他の複数の規定との絡みで最終的に不利に転じたりすることがあるからだ。そのため、TCJA下のプラニングは、必ず各納税者が置かれている個々の数字を使って複合的なモデリングを使用して行う必要がある。でないと「やった~、FTC最大限化したぜ!」って思っても「アレ、この追加BEAT何?」とか「どうして急に支払利息の損金不算入額が増えちゃったんだろう?」とか、苦労した挙句に結局好ましくない結果に陥ることがある。

一般的には、法人税率が21%に引き下げられたTCJA以降の課税年度に発生するNOLを以前の35%時代にCarrybackできるのは魅力的なのは間違いない。同じ100のNOLでも換金価値が全然異なるからだ。ただ、TCJA下の米国税務では、複数の規定に課税所得ベースの「制限額」が設けられているので、NOLをCarrybackするのはいいんだけど、結果として課税所得がなくなったり、減額したりすると、他の規定適用時の制限枠が減少したり消滅してしまうことがある。GILTIは最高で10.5%、FTCの適用で場合によってはゼロ%に近くなるけど、これは課税所得があっての話し。CarrybackしてGILTI合算額を減額するということは、GILTI合算額100%分NOLを使っちゃうってことだから実効税率的には21%の法人税を支払っているような状況。Carryback前の時点でGILTI控除とFTCでGILTI最終税負担はゼロだったとすると、急に21%で課税されたような状況。しかもCFC所在国での法人税に加えての追加税コストとなる。FDIIも同様で、「TCJAのおかげで外国向けビジネスの実効税率は13.125%で、アイルランド並みだな~」って喜んでたらCarrybackした瞬間に恩典なくなっちゃうしね。GILTIと同じでNOLでFDII適格の課税所得を消してしまうということは21%で課税されたも同然。

BEATだって基本的に通常の法人税との比較なので、当期利益とNOL Carrybackの関係次第では、今までBEATミニマム税の状況ではなかったものが、Carrybackすることで「あれ、なんでBEATミニマム税出てるんだろう?」とか。NOLは失効しない限りタイミング差異だけど、BEATミニマム税は払い切りなのでパーマネントコストだ。

また、Transition Tax合算年度にはCarrybackを適用しないオプションがあるって前々回のポスティングで触れたけど、実は元々のTransition Taxの規定にNOLは留保所得合算額には適用しない、っていうオプションが規定されていた。Section 965(n)選択として知られてるオプションだけど、CARES Actで認められるCarrybackをTransition Tax合算年度にも適用する場合も、強制的にSection 965(n)選択が行われたものとみなす、という規定がある。すなわち、Carryback時にTransition Tax合算年度まるまる対象外とするオプションを行使しない場合でも、Transition Tax合算とは関係ない他の課税所得との相殺は可能でも、留保所得合算額そのものにはCarrybackするNOLを充当できないことになる。CARES Actの強制Section 965(n)選択はCarrybackした金額のみに適用されるのか、それとも、合算年にかかわる従来のNOLも含めて適用されるのかは法文からは必ずしも明確ではない、と指摘する向きもなるみたいだけど、CARES ActでCarryback部分に関する規定だと考えている。いずれにしても、もともとTransition Tax合算額にNOLを充当したくないのは、NOLで減額しないでも、FTCでTransition Taxを減額することができるから。特にSection 902の間接税額控除はTransition Taxで使用するのが最後のチャンスだっただけに、NOLは別目的で温存し、Transition TaxそのものはFTCで消すというのが合理的なケースが多かった。CARES Act下でもそのような処理が可能になっている。Transition Tax合算以前の課税年度にNOLをCarrybackすると、FTCのCarryoverとか変わるだろうから場合によってはTransition Tax負担額が変わるようにも見えるし。Carryback期間の5年の途中でクロスボーダー課税が60年振りに地殻変動しているというPerfect Stormだね。

CarrybackでCash Flow的には一瞬得することもあるかもしれないけど、実効税率や、将来的なCash Flowを考えると不利になることがある。まるで、その昔、日本で会社から通勤費用として定期券代を支給してもらったのに、現金が一瞬増えて気持ちが大きくなり(?)、他の目的に使ってしまい、代わりに毎日切符買って通勤した結局損したみたいな状況(?)

それでもCarrybackの対象となる5年間に十分な課税所得が存在して還付申請できる場合はまだいいか。こんな状況になると流動性の確保が最重要で、実効税率とかに気を取られてるようなLuxuryはもうないかもね。Takeawayポイントは意思決定は、必ず複合的な定量モデルに基づくこと。