Wednesday, March 31, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(9) ホワイトハウス ・インフラ増税案「Fact Sheet」公表

前回まで、バイデンの選挙活動中の提案、政権誕生後に任命された財務省高官新メンバーの過去の言動や文献、最近の議会ヒアリング等から想定されるバイデン政権下の増税案の方向に触れてきた。そんな中、米国時間の昨日、バイデン大統領府は「Fact Sheet」と呼ばれる資料で$2T(Bじゃないからね)に上るインフラ投資およびその財源として増税案を正式に公表した。増税提案の内容そのものは大概において前回までのポスティング通りで特筆するべき新提案はないように見えた。ただ、TCJAを、時にトランプ税とか読んで批判している論調は、その激しさが眼を引いた。財務省租税分析局長に就任しているキム・クロージングが学者時代に公表していた論文に通じるものがあり、誰がドラフトしたか計り知れる気がする。

この資料、マニフェストっていうかかなり宣伝っぽい内容だけど、ポリティシャンの公表する資料なのでそれは当然というか仕方がないとして、ポリシー提案文書を「Fact Sheet」って名付けて公開しているのはチョッと不思議。道路や橋の老齢化等の指摘をもってFact Sheetって呼んでるんだろうか?道とか老齢化が激しいのは本当で、これはどんなスタンダード下でもFactって言っても論争は起きないだろう。油断してると道路の穴とかヒットして直ぐにタイヤだめになるしその度にPep Boysとか行かないといけないし、特殊なタイヤだからって言われてわざわざTireRack.ComでオーダーしてPep Boysでサービスだけしてもらったりね。そういえば、交通インフラのアップグレードで思い出したけど、結局JFKはコロナ禍でも比較的良く行ったけど 久しぶりにLa Guardiaの方に足を運んだら、ターミナルBが見違えっててビックリ。そういえば毎日のように出張してたその昔、って言っても僅か一年前なんだけどね、改修後のターミナルBがもうすぐ誕生ってあちこちに書いてあって完成を楽しみにしてたのを思い出した。改修前のターミナルBは1940年っぽさが炸裂してたから。コロナ禍の中ひっそりと完成してたんだ~って思うと感無量(?)。でも、しばらくあんまり関係ないかもね。長距離フライトはどうしてもJFKだしね。

で、ホワイトハウスのFact Sheetだけど、今の世の中Fact CheckとかFact Sheetとか言われても、各自が思うところの都合のいいナラティブをFactって言うことが多いので、Factを辞書通り「実際に起こった事実」という本来の意味で捉える人は少ないだろう。でもよく考えてみるとFactって昔から同じように本当は掴みどころがなかったんだろうね。昔はイノセントで、僕が子供の頃はもちろんインターネットなんてなかったし、新聞やテレビのニュースで報道されることは単純にFactって勘違いしてた。そうじゃないっていう事実(Fact?)がいろいろな情報ソースにアクセスできるようになって浮き彫りになっているだけで、世界や人間の世界は昔から同じなんだろう。ローマ時代とかもね。でも、Fact Sheetってタイトルで増税案が公表されると、増税がFactになってしまってるみたいでチョッと怖い。

Fact Sheetを読んで興味深いのは、インフラにかかわる巨額歳出とか当然盛り込まれているであろう内容に加え、名指しする形で米国が中国との比較で優位なポジションを築くため、と明記されていた点。先日開催された米中会議でブリンケン国務長官が中国にお説教されて帰ってきたっていう弱腰外交イメージを払拭するためだろうか。チョッと取って付けた感は否めないけどね。また、インフラがかなり広義なんで、コロナ対策ではコロナの名前でいろんな民主党支持基盤に資金を提供したように、インフラ対策もインフラの名前であちこちにお金がばらまかれる。何と言っても先日のコロナ歳出と合わせて$4Tだからハイステークだよね。$4Tって日本やドイツの一国のGDP同等で、こんな金額がばらまかれるかと思うとその大盤振る舞いの凄さが分かる。

で、もちろんだけどFact Sheetに対する反応はまちまち。とは言えどれも想定内。「歳出が少な過ぎる」っていう左翼系民主党議員の批判、そんなことよりまずは連邦所得税算定時の州税控除の復活の方が先、という中庸民主党議員の中間選挙を見据えた現実的な反応、コロナ法案で中庸案を提示したにもかかわらず一切相手にされなかった共和党による拒絶(?)反応、法案に自己権益を盛り込んでもらおうと働きかけるロビイストとか、自分の選挙区にお金を落とそうとする議員さんたちとかね。

Fact Sheetはピラー2に極めて前向きな点が印象的だった。他国がグローバル・ミニマム税を導入するのを奨励し、OECDと共に「Race to the bottom」を封じていくそうだ。であればGILTIもぜひピラー2に準じて欲しいところ。国別FTCのところだけピラー2風にする一方、税率は21%にして有形資産リターンのカーブアウト撤廃、ではピラー2と整合性が欠ける。また親会社の所在国がIIRを採択したら、インバウンド企業が米国傘下にCFCを所有するストラクチャーでもGILTIを非適用にしてくれるとか、その手のピラー2との共存論もあれば良かったけど。そういうのは盛り込まれてない。逆にピラー2が21%でカーブアウトなし、なんてなったら世界中に大迷惑。ピラー1に全く触れてないのも興味深い。BEPS 2.0は、この夏にはピラー2に関してアクションプランみたいなものを最終化して合意をみたような形に持ち込むのでは、っていう予想を裏付けてる気がした。

米国内外における今後の審議、どうなるでしょうか。

Wednesday, March 17, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(8) CbCR開示・そして国際協調?BEPS 2.0の運命はいかに

前回は「BEAT、お前もか」ということで、既に気が重いBEATが更に強力になる可能性に触れた。前回書かなかったけど、下院歳入委員会ではBEAT適用対象法人の判断時にBase Erosion%テストを撤廃するばかりでなく、3年間平均売上基準も$500Mから$100Mに引き下げよう、っていう法案も浮上している。COGSになる金額もBase Erosion Paymentになったり、本当にこんなになったら踏んだり蹴ったり。

で、今日はCbCRの公開義務にチラッと触れて、その後、主にバイデン政権の多国主義回帰宣言とBEPS 2.0の運命について。

CbCRだけど、バイデン政権には上場企業にCbCRを開示させたらどうか、っていう米国では考え難い提案がある。投資家に有益な情報を提供できるというのが表向きの理由だけど、CbCRの見え方次第で、必ずしも全体像を良く理解してない第三者やメディアが、それだけで中傷したりするリスク大だから、むしろ本当の狙いは後者の抑止力だろう。

BEPS 2.0に関しては、バイデンの「America is back」宣言で米国が旧来の多国主義に戻ったのを機にOECDは「星々が一列に並び幸運が訪れた」と喜びを隠せない様子。財務省には初の多国主義税務官とでもいうのだろうか「Multilateral Tax Official」が任命されたりして期待は嫌でも高まっている。

ただ、以前からのポスティングで何回も触れてる通り、BEPS 2.0が暗礁に乗り上げていたのはトランプ政権のせいではなく、とてもグローバルで実現可能とは思えない超複雑な設計・規定が最大の理由じゃないだろうか。さらに、仮にあれだけ複雑かつ根本的に現状と異なるピラー1と2の双方を世界で無理やり導入としたとしても、その結果グローバルで増える税収は$50B~80Bのレンジと言われており、下限値はアップル一社の税引後利益より低い。え~、それだけために?って感があるけど、巨額の歳入が期待できないとなると参加国としても気合が入り難い。

米国がOECDに突き付けてた難題は主に2つあって、ひとつは例のピラー1の「Safe Harbor」化。結局最後までSafe Harbor化って具体的に何なのか誰も分からないままイエレン新財務長官は先日「ピラー1をSafe Harbor化することにはもうこだわりません」とすんなり撤回。そしてもう一つはピラー1の対象を元々のターゲットであるデジタルばかりでなく、広範なConsumer Facing Business(CFB)に拡大しようとした点。CFBへのこだわりはトランプ政権ではなくオバマ政権からの遺物なので、バイデン政権が引き下がるとは考え難い。CFBに関しては未だにスコープがはっきりしない。

BEPS 2.0の規定内容そのものの現状を見てみると、ブループリントは出てるけど、ピラー1の目玉であるAmount Aを算定する際の超過利益の額(逆に言えばルーティング利益の額)やそのうちどのUpper部分を市場国に配賦するのかっていう基礎的な部分すらまだ決まってない。係争解決もパネルを設置とかは提案されてるけど未だに不明。遠いところにしか存在しない別の国の多国籍企業がAmount Aを払ってくれなかったら、どうやって法的に支払いを強制するんだろうか。Amount Bのように比較的、物議を醸しそうもない金額に関しても%もスコープも未だはっきりしない。ピラー2に関しても、STTRをまず最初に適用し、それを加味してIIR、IIRが機能しないケースはバックストップでUTPR、条約次第でSOR・・・、複数のCarryforwardsで複数年平準化、人件費や償却費用でカーブアウト計算、とても世界中で執行できるような制度ではないように見える。

バイデンやイエレン長官が両手を広げてOECDのアプローチを歓迎するスピーチをしたとしても、それだけで今のブループリントのままBEPS 2.0が近々に合意されるとは考え難い。米国多国籍企業の見解もバラバラだし、米国議会どころか行政府内も必ずしも一枚岩とは思えない。議会に至ってはOECDに言われて法律を変えたり、米国モデル条約に近いものでも批准できない上院が、OECDの多国条約を批准するとは思えない。さらに、GILTIを21%にして、ルーティン所得のカーブアウトを撤廃しようと言うバイデン政権の方向性もピラー2とは全く逆で、ちぐはぐ感は否めない。

そんな中、DSTは着々と拡散モードで、米国内でもメリーランド州が国内DSTを可決している。BEPS 2.0に何らかの合意が見られるとしても、それが機能し始めるまで少なくとも5年とかの歳月が掛かるとすると、その間、各国がDSTを撤回するとは思えない。幾度となる壁にぶつかるBEPS 2.0の迷走ぶりやDSTの台頭を見ていると、法人税という制度自体がデジタル経済に合わなくなっているっていう事実を認識せざるを得ない。2017年の米国税制改正時に当初たたき台になっていたブループリント(OECDのブループリントじゃないからね)に仕向地キャッシュフロータックス(DBCFT)っていうのがあったけど、実質VATのような税制で、こっちの方が今日の経済に合ってる感じ。

ということで実現が難しいんだったら、バイデンにしてもイエレン長官にしても変なリップサービスで、OECDに一時のぬか喜びを与えない方がいいんじゃないかな、って心配になるけどね。BEPS 2.0の運命はいかに。

Saturday, March 13, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(7) 「BEAT, お前もか」

さて、前回まで3回に亘り、GILTI増税案の話しをしてきたけど。今日はBEAT。バイデン政権にはBEATも手緩いと考えている一派がいる。まさしく「BEAT、お前もか」の心境(何それ?)。

BEATも「GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?」で触れたGILTI立法趣旨同様、米国がテリトリアル課税に移行するにあたり、そのまま移行してしまうと、全世界実効税率ゼロ%となり兼ねないため、想定される派手なBase Erosionに網を掛けるためのものだ。ピラー2のUTPRとIIRの関係とは異なり、BEATはGILTIを補完するために規定されている訳ではなく、全く別の規定としてGILTIと共存している。例えば、米国法人がCFCにロイヤルティーを支払い、仮にそのロイヤルティー所得がCFC側でGILTI対象のTested Incomeの一部を構成するとしても、関係なくBase Erosion Paymentになる。したがって最悪のシナリオだと、まず米国側で損金算入効果がBEAT税率10%に低減され、更にまるで往復ビンタかのように、CFCからTested Incomeとしてフローアップしてくる同額に米国で10.5%(FTC前)課税される。

バイデン政権が抱いている現状のBEATが手緩いという感覚も、GILTIに対する感覚同様、米国外関連者への支払いは全て悪という前提で課税は当然、というアプローチに見え、もともとBEAT導入時の、過度に阿漕なBase Erosionに網を掛ける、というアプローチの更に先を行っているように見える。

で、まずは例によって現状のBEAT規定のおさらいから。ちなみにBEAT課税そのものに関しては2018年から何回か詳細に触れているので、細かい点は過去のポスティングを参照して欲しい。

BEATはIRCのsection 59Aに規定され、法文のタイトルは「Tax on Base Erosion Payments of Taxpayers with Substantial Gross Receipts」。これだけだと、どうして「BEAT」っていうキャッチーな略になるのか分からないと思うけど、これはもともとBEATが、両院が可決した法文のSubtitle D(国際課税部分)のPart IIで section 14401として「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」というヘッディング下に導入され、その後IRCにCodifyされる過程でも、今度は税法上のPart VIIに「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」が足され、その傘下に独立した条文として規定されることになったことによる。「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」なんでBEATなんだけど、これは予めキャッチーAcronymにするために考えて命名されている。GILTIも同様。

ただし、条文名やPartのタイトルとかが何であっても、それらが条文の規定内容や適用可能性に影響を持つことは一切ない。この点はわざわざ税法にも明記されている。「BEAT」という条文名やタイトルを見て「私はBase Erosionを通じたAbuseはしていないので、Anti-Abuse規定の対象ではありませんよ」みたいな屁理屈を封じるためだ。

で、BEATだけど、税額決定をカバーしている税法上の一部に属し、BEATミニマム税がある場合、他の税金に加えて賦課すると規定されている。TCJAで法人に関しては撤廃されたAMTが、同パートのSection 55から59に規定されてたけど、BEATは59A。BEATはAMTの代わりという議会や財政委員会の感覚通りの構成だ。「A」っていうのは、単純に付け加える番号がない場合に便宜的に使われるだけで、263A (UNICAP)、 245A (DRD), 951A (GILTI)とかいろいろあるけど、アルファベットそのものに何か意味がある訳ではない。

AMTは、将来生じる通常法人税にクレジットされるっていう規定があったんで時差だったけど、BEATには同様の規定はなく、BEATミニマム税は一旦賦課されると払い損。この点、AMTの代わりっていうのは語弊があると思うんだけどね。

還付やクレジット不可となると、何がBEATミニマム税なのか、っていう点が当然気になるよね。これはBEAT修正課税所得に10%掛けた暫定BEAT税額が通常法人税を超過する金額。BEAT税率は2026年から12.5%で、銀行や証券会社は常に1%プラス。課税年度毎の算定なので、超過額がなければそれでおしまい。Excess Limitationsを繰り越ししたりして複数年で平準化させるような規定はない。

また、ここで言う通常法人税は一部クレジットを調整して算定するよう法文では規定されてるけど、算式的には財務省規則のアプローチ、すなわち暫定BEAT税額の方を調整すると考える方が分かり易い。一次方程式の世界だから数式の右と左のどっちで調整するかは見せ方の問題で、プラスとマイナスを混同しなければどっちでも結果は同じ。財務省規則風にアプローチすると、BEATミニマム税算定時に比較対象となる通常法人税は全てのクレジットを引いた後となる一方、暫定BEAT税額はR&Dクレジットだけがフルに認められる。更にBEATミニマム税の80%を上限に「低所得者住居」「再生可能エネルギー発電」「一部のエネルギー」クレジットが認められる。超過額がない、または少ない、方がいい訳だから、通常法人税は高く、暫定BEAT税額は低い方がいい。なので、通常法人税にクレジットが全て認められたり、暫定BEAT税額にはクレジットが取れなかったりするのは不利な取り扱いとなる。特に、比較対象となる通常法人税はFTC後なので、暫定BEAT税額にFTCが認められないのは痛い。GILTI後の世界では、CFC所得を合算した後に巨額のFTCでその弊害を除去するのが米国多国籍企業の基本的な姿になるからFTCの影響は多大。しかもR&Dクレジットやその他のクレジットの恩典は2025年までの時限措置で、その後は暫定BEAT税額にクレジットは一切認められなくなる。

BEATミニマム税はBEAT適用法人のみが対象だけど、これは過去3年間の平均売上が$500M以上、そしてBase Erosion%が3%以上の法人。この2つの判断は、法人個社や連結納税グループ単位ではなく、直接間接に50%超の資本関係にある「Aggregate」グループで合算して行う。この合算法だけでも本が書けるくらい複雑だ。

で、適用対象となると、上述のBEAT計算をさせられる。これは法人個社、または連結納税している場合には、連結納税グループ単位の計算。暫定BEAT税額は修正課税所得に10%掛けた金額だけど、修正課税所得っていうのは、通常の課税所得にBase Erosion Tax Benefitおよび繰り越しや繰り戻しNOLを使用している場合にはNOLにBase Erosion%(NOL発生年度ベース)を掛けた金額を加算して計算する。

適用対象となるかどうか、またNOLのうちいくらを加算するか、の判断時に登場するBase Erosion%は、毎課税年度に計上する控除額(=Deduction)総計を分母、Base Erosion Tax Benefitを分子として算定する。Deductionは税法上定義される金額で、特筆すべき点としては棚卸資産への資産計上を経由して控除されるCOGSは含まない。Base Erosion Tax BenefitとはBase Erosion Paymentのうち、対象課税年度にDeductionとして計上されている金額。Base Erosion Paymentとは外国関連者に対する支出。棚卸資産経由のCOGSがDeductionとならないことから、外国関連者に対する支出に基づく費用でも、税法上、棚卸資産に資産計上が求められる金額は、Base Erosion PaymentにもTax Benefitにもならない点は重要。

こんな概要なんだけど、バイデン政権は現状のBEAT制度の2点を問題視している。まずは適用対象法人の決定に適用されるBase Erosion3%基準。3%行くか行かないかで取り扱いが大きく異なるので、2.999%になるよう、Deductionを自己否認することを認める財務省規則が出たりしている。売上$500M要件は多国籍企業にとって回避はできないので、3%基準が重要だけど、この3%要件を撤廃してしまうという案。となると、過去3年の平均売上が$500M以上だど、それだけをもって常にBEAT適用対象法人になることになる。

さらにBase Erosion PaymentやBase Erosion Tax Benefitに棚卸資産に資産計上される支出が含まれない点も問題視している。すなわち、現状ではInversion企業を除き、棚卸資産に資産計上される支出、例えば製造ロイヤルティー、は外国関連者に支払っていてもBase Erosion Paymentには当たらないが、これを改定しようというものだ。

Base Erosion%要件やCOGSとDeductionの関係は2つとも法文に規定されるものなので、バイデン政権得意の大統領令や、または財務省規則ではオーバーライドできない。したがって、議会による税制改正が必要となる。Base Erosion%を3%未満とするために費用を自己否認する規定は、財務省規則ベースだけど、この規則もある意味、税法上、それが可能なため、悪用されないように自己否認法をタイトに規定している側面が強く、その運命は不明。

BEATの運命はいかに。どうなることでしょうか。次回はCbCRの公開義務やバイデン政権とOECDの歩み寄り等に関して。

Sunday, March 7, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(6) GILTI増税と財務省規制強化

前回のポスティングでは、GILTIって名前のワンちゃんがバイデン農場に拾われたら、GIに名前が変わってしまった、っていう童謡を歌いながらGILTI増税案を紐解いてみた。う~ん、GIってウルトラマンメビウスみたい。あれはGIGか。キャプテンスカーレットのSIGのパクリだけどね。僕が昔見てたウルトラマンセブンのMATの方が隊の名前としてはGUYSより断然いかしてる。何と言ってもMATって「Monster Attack Team」の略だったからね(笑)。ポインター号に乗ったMAT隊員。いい時代だった感じが炸裂しています。

今回はチラッとだけど、立法府の議会ではなくバイデン政権下の行政府の規制環境について。

約一年前、すなわちトランプ政権下で財務省はGILTI高税率除外の規則を公表している。GILTIはその立法過程で、13.125%のグローバルミニマム税を設定するという趣旨が明記されている。そのメカニズムとして、CFCが現地で支払う法人税の80%をFTCとして認めるので13.125%の法人税を支払っていれば、10.5%のFTCが認められ、米国株主側でGILTI合算してもネットで追加の米国法人税はないはず、という点も明記されている。

TCJAが可決して間のない頃から、仮に10.5のGILTIバスケット所得があっても、FTCはバスケットのネット課税所得を基に制限枠を決めるので、バスケットに配賦・按分される米国株主側の費用、特に支払利息、により10.5の枠はないケースが大半という問題が指摘されていた。すなわち、このままだと、米国外で13.125%超、例えば30%とか、の法人税をCFCが支払っていても、米国で一部GILTI課税が生じることになる。この問題を解消するため、企業側はGILTIバスケットには特別に費用配賦をしないような規定を設けて欲しいとか、13.125%の法人税を国外で支払っているケースはTested Incomeをピックアップしないでもいいようにして欲しいとか、若干茶番めいたとまでは言わないまでも、行政府には権限がないであろうと思われる財務省規則による救済策を期待していた。

法的に行政府では如何ともし難いのでは、と考えられていたんだけど、驚いたことに財務省がサーカスのような理論に基づきウルトラCでGILTIに対する高税率除外規則を策定したのだ。しかし、さすがに13.125%にはならず、従来のSub Fに規定されていた高税率免除を流用するに留まっていた。これだけでも凄い逆転劇なんだけど、Sub Fに規定される高税率免除は、法人税率の90%基準なので、現行だと18.9%。以前の35%時代にはこれが31.5%だから、ほぼ適用可能性はないに近かった。18.9%で息を吹き返した感もあるけど、米国多国籍企業的にはまだ高いという感覚は否めないだろう。バイデン農場、じゃなくてバイデン政権の法人税率28%が実現すると、高税率免除は25.2%と役に立たない域に戻ることになる。高税率除外に関しては財務省規則が発表された当時のちょうど一年ほど前に「GILTI高税率免除規定」で詳細をポスティングしているんで、内容そのものはこちらを参照して欲しい。

GILTI高税率除外規則は、Sub FのFBCIやInsurance Incomeに従来から適用可能だった高税率免除規定の法文を解剖し、その一部の表現に「全ての所得項目」に高税率免除規定が適用可能とも無理すれば読めなくもない部分があり、それを最大限利用し新らたな解釈を捻出しているものだけど、かなり際どい。

財務省の中でもこんな規則を策定していいのか、とか法的な権限に関して賛否両論あったらしいけど、バイデン政権下の財務省では、行政措置でGILTIを不当に弱体化しているという論調が強まるかもしれない。その矛先は、みなしルーティン所得の計算をする際に差し引く、CFCの特定支払利息を簡便法に基づいて全利息のネット算定を認めている点にも向いている。別の規定だけど、163(j)で支払利息の損金算入枠を算定する際に使う調整後課税所得に、2021年まで棚卸資産に資産計上される償却費用の加算を認めるかどうかっていう点も財務省は納税者寄りの規則を出してるしね。

これらの規則が即取り消されるというような切羽詰まった状況ではないけど、この手の問題を指摘する者はどちらかというと学界で活躍されてきた方が多いように見え、全利息のネット算定など、逆にあれがないと実務面の対応はとてつもなく重荷となるので、ビジネス経験のある一派との議論を通じてバランスよく方向性が固まっていくことを願う。

オバマ政権とトランプ政権の比較でも分かる通り、行政府による規制環境は政権により大きく異なるから、今後の規制強化に関しては法改正と並び要注目。

課税強化の話しばかりで食欲減退してないといいけど、次回は追い打ちをかけるようにBEAT強化案について。

Friday, March 5, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(5) GILTI増税(続)ワンちゃんの名前は「GI」に?

前回はバイデン政権によるGILTI課税強化の話しをするための舞台作りとして、元祖GILTIの概要に触れた。2分間のSingle Radio Editのつもりだったんだけど、結局いつも通り興奮して20分続くExtended Underground Versionに。GILTIはそれを取り巻くFTC、株式簿価調整、PTEP等の規定を含むと、僕も3年間考え続けて未だに不明点があるくらいだから20分でもご勘弁くださいませ。

ってことで今日はいよいよバイデン政権のGILTI増税案。

米国に「農場主がワンちゃんを飼ってて、その名はBINGO~」(「There was a farmer had a dog and Bingo was his name-o. B-I-N-G-O」文法面白いけど歌だからね)っていう童謡がある。こっちの生活が長かったり、こちらで子育てした方だったら大概知ってるんじゃないかな。この歌、基本的に同じ歌詞で1番~6番まであるんだけど、犬の名前をみんなで「ビー」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」ってスペルアウトして歌う部分が、回を重ねる毎に一文字づつ消えて、その部分は手拍子に代わる。

何言ってるか分かんないかもしれないけど、一番はBINGOのスペルを全てみんなで元気よく「ビー」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」って歌うんだけど、2番は「ビー」の部分は何も歌わずに手拍子になる。つまり「手拍子」「アイ」「エヌ」「ジー」「オー」って歌う。3番はさらに「アイ」も歌わず、「手拍子」「手拍子」「エヌ」「ジー」「オー」、4番は「手拍子」「手拍子」「手拍子」「ジー」「オー」、5番は「オー」だけが残って「手拍子」「手拍子」「手拍子」「手拍子」「オー」、6番に至ってアルファベットは全て消え、全部手拍子になるって仕組み。結構楽しいんだけど、僕の説明だけじゃ楽しさ伝わんないと思うからYouTubeとかで実際に聴いてみて欲しい。どうでもいいって…?確かに。

でもバイデン政権のGILTI増税案はまさに童謡BINGOの世界なのでした。果たしてそのこころは?それは最後にね。

バイデン政権のGILTI観はTCJA立法趣旨とは大分違う。CFCの国外所得を米国で毎期課税するのは当然と考える。そんな捉え方に基づくと、GILTIの税率は低すぎるし、みなしルーティン所得のカーブアウトも米多国籍企業が享受する不当な恩典、というような結果に辿り着く。したがってこれらの不当な「恩典」は是正しないといけないということ。こんなGILTI観の背景には、米国多国籍企業が未だに大掛かりなBase Erosionに従事してるっていう前提があるんだろうけど、現時点で入手可能なデータの多くは2017年以前のものなので、TCJA、特にBEAT、GILTI、FDII、Hybrid、等が導入されている新クロスボーダー課税制度下でどのように多国籍企業の行動パターンが変わったのかを統計的に図ることはできないはず。

バイデン政権のGILTIアプローチ下では、まず、CFC有形償却資産簿価の10%というみなしルーティン所得を撤廃しようという流れとなる。この除外がなくなるってことは、すなわち毎期、CFCの所得を全額合算するということ。GILTIは「Intangible」から生じている超過利益に対するミニマム税と位置付けられている現状では、有形償却資産簿価に基づいてメカニカルに決定されるルーティン所得以外を無形資産所得って決めてしまった点が凄く斬新って前回のポスティングに書いたけど、この除外を撤廃するということは有形償却資産から生じるルーティン所得もGILTI対象にするということになってしまう。もうIntangibleとか関係ないね。

さらにGILTI税率の21%への引き上げ。現行が10.5%だから倍だ。もし通常の法人税率が21%のままと考えると、前回のポスティングで触れた50%のGILTI控除を完全撤廃するということになる。ただ、バイデン政権は選挙活動の頃から法人税率そのものを28%に引き上げる、って言ってるので、もしヘッドラインレートが28%になるんだったらGILTI控除を50%ではなく、25%に下げるっていうことになる。すなわち、100のGILTI合算から25を引いた75に28%掛けて21という仕組み。仮にGILTI制度が現状のままでも法人税率が上がると自然にGILTI税率も上昇する。仮に法人税率が28%になるとすると、GILTI制度の変更が一切なくてもGILTI税率は自然と14%になってしまう。新しいタイプやクラスの税金って、一旦法律になってしまうと、その後どんな風に進化していくか分からないから恐ろしいね。という訳でミニマム税っていうか普通の課税っぽい帯域に突入。GILTIのLow-Taxedっていう部分も意味がなくなってしまう。

そしてダメ押しのように、FTC計算時のGILTIバスケット制限枠を国別に算定させるという「Country Basket制」導入案。現行のGILTIバスケットのFTCは、繰り越しや繰り戻しがないという厳しい制限はあるものの、少なくともグローバルブレンディングベース。GILTIバスケットのFTC計算はそれだけでも面倒だけど、簡単に言うとポジティブなTested Incomeを計上しているCFCが外国で支払う法人税のうち、Tested Incomeに帰すると取り扱われる金額を米国株主側で合算し、それにGILTI合算率を掛けて更にそれに80%掛けた金額。GILTI合算率は、分母が「米国株主側でGILTI用に取り込むTested Income(Lossは加味しない)総額」で、分子は「GILTI合算額」すなわちTested IncomeとTested Lossを相殺して更にみなしルーティン所得となる有形償却資産簿価の10%をマイナスした金額として算定する。もちろん、こんな風に苦労してクレジット可能な外国法人税を算定した後、実際にFTCになるのは米国株主側の各種費用をGILTIバスケットに配賦・按分して計算されるバスケット制限枠の範囲内だ。

で、これを国別に計算しようという提案。その目的はもちろん高税率国と低税率国間のクロスクレジットを認めないってことなんだけど、もしGILTI税率が21%になったら、普通の国の税率より高いケースが多いので、結局は結構な外国の法人税がFTC対象になるかもね。しかも、FTCは外国法人税のTested Income帰属額の80%が対象だから、仮に算数が教科書のようにきれいにワークしたとしても、26.25%がグローバルミニマム税という見方もできる。そんな高税率の国、日本以外には少ないのでは。

う~ん、これではGILTIがオリジナルの制度とは異なる目的のものになってしまう。もともとGILTIっていうのは、米国がテリトリアル課税に移行するにあたり、そのまま移行してしまうと、少し大げさにいうとCFCの所得は国外でゼロ%、米国市場から生じる所得も合法的にCFCに移転されてしまうので結局ゼロ%、それを米国に還流してもゼロ%、という全世界実効税率ゼロ%となり兼ねないため、BEATやHybrid規定と並び、CFC国外所得に毎期13%程度のミニマム税は世界のどこかで払ってもらわないと、っていうBase Erosion対策の一環だったはず。加えて、FDIIを同時に規定することで、米国外向け事業を米国親会社が直接行っても、CFC経由で行っても、毎期繰り延べなしに13.125%のミニマム税の対象となるというFDIIとの対のシステムだったはずだ。経済がデジタル化する中、高い収益はIP等の無形資産が生み出し、従来のクロスボーダー・プラニングでも低税率国に容易にMigrateできたのは無形資産、という認識があるんで、有形資産から生じるルーティン所得見合い部分は対象外ってしていたものだ。

バイデン政権はピラー1のSafe-Harbor化要求を撤回するなど、かなりOECDのBEPS 2.0に歩み寄りがみられるけど、想定されているピラー2の税率はせいぜい10%とか12%程度って噂されているし、現状のGILTIの有形償却資産リターンに準じる「カーブアウト」も規定されている。そんな中、お手本のはずだったGILTIが激しくピラー2から乖離してしまうと、本当にグローバルでピラー2と共存できるのかな、っていう疑問も出てくるし、米国がそんなGILTIでピラー2準拠とみなされるんだったら「うちの国も21%でカーブアウトはありませんよ~」とかっていう他国が出てきたらどうするんでしょうか。

ということで、「アメリカにはワンちゃんが居て、その名はGILTI~。ジー、アイ、エル、ティー、アイ!」ってみんなで歌ってたけど、そこにバイデン政権が登場して2番、3番、4番を作ってだんだんアルファベットなくなっちゃった感じ。まずIntangibleの2つ目のアイが手拍子に代わり、もはや21%ではLow-Taxedというのもおこがましいので、エルもティーも手拍子に代わり、「ジー」「手拍子」「手拍子」「手拍子」「アイ」って、なってしまいました。「バイデン政権が来てワンちゃん改名~。その名はGI(Global Income)。ジー・アイ!」。逆にGとIはなくなってもよかったんだけど、それだけ残っちゃったね。一層のこと、6番までできて全部手拍子で廃止されたらよかったのに?