Wednesday, March 17, 2021

バイデン政権下のタックスポリシー(8) CbCR開示・そして国際協調?BEPS 2.0の運命はいかに

前回は「BEAT、お前もか」ということで、既に気が重いBEATが更に強力になる可能性に触れた。前回書かなかったけど、下院歳入委員会ではBEAT適用対象法人の判断時にBase Erosion%テストを撤廃するばかりでなく、3年間平均売上基準も$500Mから$100Mに引き下げよう、っていう法案も浮上している。COGSになる金額もBase Erosion Paymentになったり、本当にこんなになったら踏んだり蹴ったり。

で、今日はCbCRの公開義務にチラッと触れて、その後、主にバイデン政権の多国主義回帰宣言とBEPS 2.0の運命について。

CbCRだけど、バイデン政権には上場企業にCbCRを開示させたらどうか、っていう米国では考え難い提案がある。投資家に有益な情報を提供できるというのが表向きの理由だけど、CbCRの見え方次第で、必ずしも全体像を良く理解してない第三者やメディアが、それだけで中傷したりするリスク大だから、むしろ本当の狙いは後者の抑止力だろう。

BEPS 2.0に関しては、バイデンの「America is back」宣言で米国が旧来の多国主義に戻ったのを機にOECDは「星々が一列に並び幸運が訪れた」と喜びを隠せない様子。財務省には初の多国主義税務官とでもいうのだろうか「Multilateral Tax Official」が任命されたりして期待は嫌でも高まっている。

ただ、以前からのポスティングで何回も触れてる通り、BEPS 2.0が暗礁に乗り上げていたのはトランプ政権のせいではなく、とてもグローバルで実現可能とは思えない超複雑な設計・規定が最大の理由じゃないだろうか。さらに、仮にあれだけ複雑かつ根本的に現状と異なるピラー1と2の双方を世界で無理やり導入としたとしても、その結果グローバルで増える税収は$50B~80Bのレンジと言われており、下限値はアップル一社の税引後利益より低い。え~、それだけために?って感があるけど、巨額の歳入が期待できないとなると参加国としても気合が入り難い。

米国がOECDに突き付けてた難題は主に2つあって、ひとつは例のピラー1の「Safe Harbor」化。結局最後までSafe Harbor化って具体的に何なのか誰も分からないままイエレン新財務長官は先日「ピラー1をSafe Harbor化することにはもうこだわりません」とすんなり撤回。そしてもう一つはピラー1の対象を元々のターゲットであるデジタルばかりでなく、広範なConsumer Facing Business(CFB)に拡大しようとした点。CFBへのこだわりはトランプ政権ではなくオバマ政権からの遺物なので、バイデン政権が引き下がるとは考え難い。CFBに関しては未だにスコープがはっきりしない。

BEPS 2.0の規定内容そのものの現状を見てみると、ブループリントは出てるけど、ピラー1の目玉であるAmount Aを算定する際の超過利益の額(逆に言えばルーティング利益の額)やそのうちどのUpper部分を市場国に配賦するのかっていう基礎的な部分すらまだ決まってない。係争解決もパネルを設置とかは提案されてるけど未だに不明。遠いところにしか存在しない別の国の多国籍企業がAmount Aを払ってくれなかったら、どうやって法的に支払いを強制するんだろうか。Amount Bのように比較的、物議を醸しそうもない金額に関しても%もスコープも未だはっきりしない。ピラー2に関しても、STTRをまず最初に適用し、それを加味してIIR、IIRが機能しないケースはバックストップでUTPR、条約次第でSOR・・・、複数のCarryforwardsで複数年平準化、人件費や償却費用でカーブアウト計算、とても世界中で執行できるような制度ではないように見える。

バイデンやイエレン長官が両手を広げてOECDのアプローチを歓迎するスピーチをしたとしても、それだけで今のブループリントのままBEPS 2.0が近々に合意されるとは考え難い。米国多国籍企業の見解もバラバラだし、米国議会どころか行政府内も必ずしも一枚岩とは思えない。議会に至ってはOECDに言われて法律を変えたり、米国モデル条約に近いものでも批准できない上院が、OECDの多国条約を批准するとは思えない。さらに、GILTIを21%にして、ルーティン所得のカーブアウトを撤廃しようと言うバイデン政権の方向性もピラー2とは全く逆で、ちぐはぐ感は否めない。

そんな中、DSTは着々と拡散モードで、米国内でもメリーランド州が国内DSTを可決している。BEPS 2.0に何らかの合意が見られるとしても、それが機能し始めるまで少なくとも5年とかの歳月が掛かるとすると、その間、各国がDSTを撤回するとは思えない。幾度となる壁にぶつかるBEPS 2.0の迷走ぶりやDSTの台頭を見ていると、法人税という制度自体がデジタル経済に合わなくなっているっていう事実を認識せざるを得ない。2017年の米国税制改正時に当初たたき台になっていたブループリント(OECDのブループリントじゃないからね)に仕向地キャッシュフロータックス(DBCFT)っていうのがあったけど、実質VATのような税制で、こっちの方が今日の経済に合ってる感じ。

ということで実現が難しいんだったら、バイデンにしてもイエレン長官にしても変なリップサービスで、OECDに一時のぬか喜びを与えない方がいいんじゃないかな、って心配になるけどね。BEPS 2.0の運命はいかに。