Saturday, October 28, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (最終回))

結局長編になってしまったけど、前回のポスティングでようやくDC REIT、外国政府、QFPFを取り巻くFIRPTAアップデートをフィニッシュラインに到達させることができた。書いてて思ったけどREIT、特にFIRPTA課税が絡む外国人投資家にとってのREITって難しいよね。まだまだ読者の皆さんと一緒に細かい点を探求したかったけどキリがないんで一旦Wrap-Upする。またREITに逢う日まで。で、今回はボーナストラックとしてMiami Underground(Brooklynだっけ?)Long Versionの「DC REITのExit法」。それが終わったらKiller Bだからね。

DC REITのメリット

ここで初心忘れべからず、ってことでDC REITのメリットを復習しておく。REITがCorporateレベルで所有するUSRPIが所有資産の50%以上の場合、REITはUSRPHCになる(細かい定義は「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (3))」を参照)。REITがUSRPHCの場合、通常のルールだと持分(=REIT株式)がUSRPIになるけど、REITがDC REITだとその株式はUSRPIとは取り扱われない、っていうのがDC REITのメリット。USRPIじゃないってことは、すなわち外国人投資家がDC REIT株式を譲渡してもFIRPTA課税の対象にならない、ってことになる。

ここでいくつか注意事項だけど、外国人投資家が認識するDC REITの株式譲渡益が必ずしも常に非課税って規定されてる訳ではない点に注意。FIRPTA課税の対象にならないイコール非課税とは限らないからね。実際には余り見られないシナリオだけど、外国人投資家がDC REIT株式を自己が従事する米国事業に関連して所有してたりしてしてすると株式譲渡益が事実関係的に本当にECI(FIRPTA規定によるみなしECIではなく)になるっていうケースはテクニカルにはあり得るよね。そんなケースではFIRPTAのSection 897はTurn-offできても、Section 864でECIになって871(b)とかSection 882の元祖ECI規定で課税される。元々、FIRPTAって元祖ECI規定じゃUSRPI譲渡益に課税できないGapを埋めるために制定されたものだから。

言うまでもないかもしれないけどDC REIT株式譲渡益がFIRPTA課税から免除っていうのは外国人投資家のみに関係する話し。DC REITなんでその定義から50%超の持分が米国人(Look-through所有者とか覚えてるね?)ってことだけど、米国人投資家にとってはDC REIT持分譲渡益に対する課税に特別な恩典はない。

またDC REITがFIRPTA課税からまるまる免除されるか、っていうとそうではなく、あくまで「株式譲渡益」に対する話し。例えば、同じUSRPI譲渡益でもDC REIT自体がUSRPI、例えば米国に所在する土地の所有権を譲渡すると、REITによる配当がUSRPI譲渡益に帰する範囲でFIRPTA課税の対象になる。REITはCorporationでブロッカー的な存在だけど、配当がUSRPI譲渡益に帰す部分はFIRPTA課税になるんで、申告法人税の対象で配当を受け取る外国人投資家は申告書を提出しないといけない。REITまたはREITをデラウェア州LPSのファンドが所有している場合にはファンドに源泉徴収義務も課される。この点に関してDC REITに特別な恩典はない。結果としてせっかく苦労してDC REITに投資しても、DC REIT自体がUSRPIを譲渡してしまうと、外国人投資家にとってその期の分配がFIRPTA課税の対象になってしまう。USRPI譲渡に帰する分配とCapital Gain Distributionが必ずしも同じものじゃない点は「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (7))」の「Capital Gain Distribution神話」で触れてるんで復習しておいて欲しい。USRPIに帰する分配のルールは難しいよね。このルール、通常分配ばかりでなく、Liquidating Distributionにも適用あり、っていうのがIRSのポジション。331でも332でも関係ない。

上場REITの場合はDC REITでもそうでなくても所有持分が10%以下の投資家はUSRPIに帰する分配もFIRPTA課税から除外される。ただし、その場合も全く非課税って訳じゃなくて、通常の(=USRPIに帰さない)分配扱いになるんで条約で減免されてない限り源泉税の対象になる。ただ、FIRPTA課税対象じゃないんで申告書を出す必要はないっていう点は結構なメリット。

DC REIT投資Exit

という訳でせっかくREITの定款上外国人への株式譲渡を制限したりしてDC REITにしても、また外国人投資家の視点からはDC REITに投資しても、DC REIT自体がUSRPIを譲渡してしまっては、その期の配当やその後の清算分配、REITのCash Mergerの対価受け取りを含むDistributionがFIRPTA課税の対象になってしまって元も子もない。となるとDC REITに投資している外国人投資家は、DC REITがUSRPIを所有したままDC REITの株式を譲渡してExitする必要がある。そうじゃないとDC REITのメリットがない。この手のDC REITはファンドとかに所有されているケースが多いだろうからファンドに投資する際に、スポンサーにDC REITの株式自体を譲渡してExitするようSide Letterとかで要求することになる。スポンサーはそれに応じて「Commercially reasonable effortでそうします」ってことになる。

DC REIT自体がUSRPIを譲渡する代わりにDC REIT株式そのものの譲渡でExitを実現するためには、REIT内のUSRPIが分散型のストラクチャーは不向き。その理由でDC REITは特定のUSRPIのみを所有する所謂「Baby REIT」のケースが多い。Baby REITが持っている不動産を譲渡するタイミングが来たら、その不動産を所有しているBaby REITの株式を譲渡すればいいからだ。

で、Baby REIT株式譲渡自体は通常の株式譲渡と同じなんでSPAを締結して現金等を対価に譲渡すれば良くて、Baby REITがDC REITだとすると外国人投資家にAllocateされる株式譲渡益はFIRPTA対象外なんで、通常の所得源泉ルール・ECIルールで大概において非課税。DC REITに投資した目的達成、ってことになる。

問題は取得側。時価取引だけど株式を取得するんで株式がステップアップで時価ベースの簿価になってしまう。そこで通常はBaby REITの株式を取得した側はsection 332にならないように、例えば複数の主体を介して所有するとか、もっと一般的なのはUP-REITでREIT傘下にパートナーシップ区分されるOpCoがBaby REITを取得して、section 331でLiquidationしてOpCoレベルで資産そのものに対するステップアップを実現する方法。Section 331清算の場合、法人側も株主側も時価で物々交換した取り扱いになる。「え~、でもsection 331だったら株主のOpCoレベルだけじゃなくて、Baby REIT側もsection 336で課税取引じゃん」って思ったらB+。まずOpCoレベルは課税取引だけど、株式を時価で取得してるんで清算分配で受け取る不動産の時価と株主簿価は同じはずなんで経済的に譲渡益がないはず。これでAに昇格だね。

もう一方のBaby REIT側は複雑だ。331清算の分配はsection 336に基づいて 時価で資産を譲渡した取り扱いになるんで(概念的には時価ベースの自社株式と分配対象の資産を交換)含み益にフルに課税。これは通常の法人でもREITでも変わらない。REITは特殊な要件を満たすとは言えCorporationなんで、原則Reorganizationその他のSub C規定の適用がある。で、ここからがREITの特殊な恩典だけど、分配要件のポスティングで触れた通り、REITは課税所得相当額を配当すればREITレベルの課税がない。パートナーシップみたいなPureなパススルーじゃないけど、このDPDがあるんでパススルーチックになる。この取り扱いは清算分配にも適用があって、一旦REITレベルで331課税所得は生じるものの、清算分配で課税がなくなるという仕組み。

で、配当にはキャッシュがいるけど課税所得イコールキャッシュフローじゃないよね、っていう点は「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (7))」の分配要件を復習して欲しい。Baby REIT清算を含む資産譲渡後のCroporate清算分配の場合、グロス資産の対価として現金を受け取ってるんでネット譲渡益に匹敵する現金は分配できるよね?う~ん本当にそうでしょうか。必ずしもそうなんないんじゃないかな~、って思う読者がいたらA+!もしBaby REITの内部資産の不動産の税務簿価が負債の金額を下回る場合、現金で受け取る対価は譲渡益より負債超過額分少ない。そんなケースでは清算分配できる現金が譲渡益を下回るんでそのままだとBaby REITレベルで課税所得が残ることになるよね。

またさらにややこしいことに、株式譲渡と同じREIT課税年度に取得側でLiquidationを敢行すると、売り手側は超Uncomfortableな状況になる。仮に株式取得前に通常の配当、例えばQ1とかQ2の通常配当、を受け取ってて同じ課税年度内に別の株主の手にあるとは言えsection 331という形で実質USRPIの譲渡が起こると、Q1とかQ2の分配がUSRPI譲渡に帰すってことでTaintされる恐れがあり、そうするとここまで苦労してDC REIT持分譲渡でExitを達成したつもりが何のことはないDC REITによるUSRPI譲渡と同じ状況になる。元々恐れていた状況に逆戻り。双六(今でもある?)でゴール1コマ手前までこぎつけて「振り出しに戻る」っていう状況だ。この理由で大概SPAのPost-ClosingのCovenantで清算するんだったら次の課税年度まで待つこと、とか契約的に縛りを入れることになる。たかがDC REITのExit、されどって感じで複雑~。

取得側のFIRPTA

取得側が外国人、または外国人投資家がいる場合、DC REIT株式の譲渡側で上述のような難関を乗り越えてFIRPTA課税から免除されても、FIRPTA問題は取得側が引き継ぐ結果となる。取得する方から見るとそんなことになったらOMGだよね。すなわちステップアップさせようと思ってsection 331清算させるとその分配がFIRPTA課税の対象になってステップアップができない。せっかく時価で資産を取得しているのに。

そんなケースではさらなるアクロバットが必要になる。分配をブロックするため通常のC Corporation、しかもその後の清算時にSection 332にならないよう複数のC Corporationを利用したストラクチャーで、REIT持分を取得し課税年度終了後に取得側がREIT選択、そしてsection 331みたいなストラクチャーを見たことがあるけど、入念なプラニングが必要だよね。この辺りの話しになるとポスティングとかで一般論を話すのは不適切っていうか、Top GunのKenny Logginsじゃないけど「Dangerousゾーン」に突入するんで必ずREIT専門のLegalおよびTax Advisorと慎重にストラクチャリングするように。他にもREITが組成する100%子会社は通常QRSになってDRE扱いになるんで、Reverse Subsidiary MergerがTax-Freeでできなくて、じゃあBやC reorganizationとか殿下の宝刀section 351?、とか、REIT適格要件維持、Prohibited Transactionとの問題とか検討事項は山積みだ。

UP-REIT

Section 331に絡んでOpCoの話しに触れたけど、この「UP-REIT」って「UP-Cみたい」って思う読者がいたらその通り!UP-CはUmbrella Partnership of C Corporationの略でもちろんパートナーシップの上にC Corporationがあるんで「UP」と掛けてる業界用語だけど(でも略語なんでUとPは必ず大文字で書くようにね)、ポートフォリオ主体をパススルーで所有しているPEファンドのExitを含むパススルー主体をPubicにする際に今ではすっかり確立された手法。投資銀行のSalesチームにも馴染みがあるんで株式のマーケティングにかかわるExecutionリスクが低いっていう恩典が大きい。もともとはBarns and Nobleの取引に始まり、その後、LazardのUP-Cで「Tax Receivable Agreement(TRA)」がUP-Cと一体化されて今日のUP-Cに至る。でも、このUP-Cってその昔はパートナーシップ税制のAnti-Abuseに抵触するんじゃないか、っていう不安が付きまとってた。そんな疑義を解消してくれたのが、90年代前半の不動産不況時にREITの傘下にパートナーシップを組成して、不動産のオーナーがREITではなく傘下のパートナーシップ(OpCo)に不動産を出資する取引にお墨付きを与えたAnti-Abuse規則内のExampleだ。UP-CやUP-REITの世界では「Example 4」っていうだけで何のことかすぐに分かるほど有名なExample。直前のExample 3もケイマンフィーダーとかに安心感を与えてくれる。面白いことにAnti-Abuse規則だけど、何がAbuseじゃないかっていう点をはっきりさせている点で貴重な規則。

Example 4の設定は、そのまま不動産をREITに出資するとREITはCorporationなんで、パートナーシップのsection 721と異なり80%支配要件があるsection 351に適格とするのは非現実的っていうもの。仮に支配要件を何らかのマジックで満たすことができてもREITなんでsection 351(e)でInvestment Companyへの出資になってsection 351にはいずれにしても不適格だろう。万一奇跡的にsection 351になったとしても不動産不況でSuper-Underwaterになってる物件が多く簿価を超過する負債のsection 357(c)課税とか、とにかくREITに出資するとただでさえ不況で窮地に立たされていた不動産オーナーにとって泣きっ面に蜂的な状況に陥る。そこでSuper Flexibleなパートナーシップ、OpCoをREIT傘下に組成してそこに出資、さらに旧オーナーに上場REIT株式とOpCo持分間で1対1のレシオでExchange権を付与して流動性も担保、それでもきちんとストラクチャーすればOpCoはPTPにならないっていう夢みたいなストラクチャー。

UP-CっていうのはこのUP-REITのテクノロジーをREIT以外のC Corporationに流用したもの。このことから「わ~、UP-REITってUP-Cみたい」って感じるのはそれはそうなんだけど、順番が逆で「UP-CってUP-REITみたい」って感じないといけない。その後、UP-REITもUP-Cもどんどん進化して今に至るし、今後も進化し続けるだろう。ストラクチャーやファイナンス法の進化は不況時に加速するんで2022年後半からの進化ぶりも目を見張るものがある。特にファンドの資金調達、BuyoutファンドによるNAVストラクチャー、Rated Feederとか次々に難関を乗り越えるVitalityは凄いね。UP-REITもDownREITとかパーシャルUP-REITみたいなストラクチャーが一般化したり。現政権の厳しいRegulatory環境下でもPrivate Industryの知恵は果てしない。

エピローグ

モビリティの高い世界のお金を米国不動産に投資してもらうため、ここ何年も自由化のトレンドが続いてたFIRPTA。以前触れた通り、不動産業界的にはFIRPTA自由化ではなくFIRPTA全面廃案が長年の悲願。議会には不動産業界の声を聴く耳を持つ議員が多い。それはそのはずで、州により偏りがある他の業界と比較して不動産は全州に関係するから。一方、ここに来て議会ではなく行政府のRegulatory環境が急に締め付け方向に振れてる感がある。今回のシリーズで触れたDC REITの規則案等の最終化の局面を含む要所要所でREIT等の進化には引き続き触れていきたい。

それでは次回はKiller Bでお会いしましょう。

Saturday, October 7, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (12))

遂にでた~、って感じで一昨日、10年近い歳月を経て、Killer B系の財務省規則案が公表された。年初から書いてるFIRPTA系のアップデート(8)で、IRA系のプレッシャーで従来からみんなが待ってる規則、特にPTEPの公表が延期されてて残念って話しをしたけど、その時に他にもみんな(?)が待ってる規則にKiller Bがあるね、って触れた。その時点では、まさかこんなタイミングで出てくるとは思ってもみなかったんだけどね。もしかしたら今シリーズで書いてるFIRPTA系の規則案の最終化も近いかもね。

一般読者はKiller B(BeeじゃないけどもちろんKiller Beeにちなんだ名称)って何のこと、って思うだろうけど、敢えて乱暴に言ってしまえば、Triangular Reorganizationを利用して外国法人の留保所得を原資に米国親会社の株式を取得し、実質非課税で留保所得を米国に還流するストラクチャー。主に367(b)の世界だけど、1032とか1248とかにも関係する話し。367ってSub Cに属するSectionだけどクロスボーダー課税とのブリッジの機能を果たしてる複雑な規定。367は(a)から(f)で構成されるけど、通常のSectionみたいに(a)が原則ルールで(b)以降はその詳解っていうんじゃなくて、各々が個別のポリシーマターに対応している。特に(a)と(b)は別ルールでStand Aloneな関係にあるって思っておく方が分かり易い。367は(a)にしても(b)にしても、Sub Cとクロスボーダー双方の規定を熟知してないと良く分からないんで、テクニカルに最難関の一つで魅せられるSectionだ。ただKiller Bが実行されてた当時と2017年税制改正後のクロスボーダー課税制度は根本的に異なるんで、Killer Bやその規則の役割も自ずと2017年末を境に大きく異なる。それを言い出すと、そもそも367(b)の役割は2018年以降抜本的に改訂しないとおかしいよね。それには法外な労力を要するだろうから近々には無理だろうし、確か財務省の規則策定プランにも、より広範な367(b)の見直しは含まれてないはず。残念。

ちょうど、FIRPTAの話しがかなり終盤に差し掛かってたところなんで、Killer BはFIRPTA直後に取り掛かりたい。乞うご期待。今回でDC REITの定義をWrap Upして、その後はどうしてももう一回別のポスティングにならざるを得ないと思うけど、DC REITのExitの話しまでできたら今回のFIRPTA特集はCompleteかな。せっかくDC REITに投資してもExitがREIT株式譲渡じゃないと意味がない。すなわちDC REITそのものがUSRPIを譲渡してしまうとその課税年度の分配はUSRPI譲渡益の範囲でFIRPTA対象なんで、DC REITに投資してる意味がない。となると外国人投資家としてはExitはREIT株式譲渡っていう形で実行して下さい、ってSide Letterとかでスポンサーにリクエストして、スポンサーはそれでは「Commercially reasonableな範囲で対応します」とか、投資家は「いや、文言は単にReasonableに変えてくれないか」とか、「Best effortではどうでしょうか?」とか歌舞伎のようなやり取りが付き物だよね。ファンド経由でREITに投資する際のスポンサーに対する押しの強弱は、一般にPEファンドやVCファンド投資時のECIとかの話しでもそうだけど、同じ外国投資家でも日本の投資家と他国の投資家で結構温度差がある。日本の投資家は概してスポンサーに物言わない傾向があるように思う。スポンサー側のFund Raiseはここ1年半不調だからLP側にLeverageがあって、スポンサーは結局多くの条件を飲んでるように見えるんでより有利な条件を引き出すようにね。

で、実際にマーケットでどんな風にDC REIT投資のExitが行われてるか、っていうチョッとDeepだけどDC REITの最も肝心な部分に触れて最終回かな。その直後にKiller B。今から楽しみだけど、既に心FIRPTAにあらず、じゃないから安心してね。

Non-Look-through所有者

前回のポスティングでは、REITがDC REITになるための「50%未満を直接・間接に外国人が所有している」っていう要件をテストする際にどこまでの間接持分を見るか、っていう点を規則案では「Non-Look-through」と「Look-through」の所有者に区分して考えるっていう提案になっている点に触れた。規則案ではREITがDC REITになるかどうか判断する際、「Non-Look-through所有者」だけをREIT株主として取り扱うとしている。Non-Look-through所有者でない者、すなわち「Look-through所有者」がREIT株式を所有している場合、Look-through所有者の持分を所有する者を見る、と規定している。Look-through所有者の所有者自身がLook-through所有者の場合、Non-Look-through所有者に辿り着くまで持分を紐解くことになる。

じゃあ、誰がNon-Look-through所有者かっていう最重要ポイントだけど、個人と(後述の外国人所有の特例を除く)C Corporation。この2つのタイプの所有者はパススルーじゃないんでそれはそうだよね、ってなる。REITやRICはテクニカルにはCorporationでパススルー・チックだけど実際にはDPDはあるけどパススルーでもないので後述の特別な規定対象。また非課税団体は法的な組織が信託でもCorporationでも、Non-Look-through所有者になる。外国政府はIntegral Partのケースも含め米国税法上はForeign CorporationなんでNon-Look-through所有者で、規則案では同様に外国政府と同じSectionでカバーされている「International Organization」もNon-Look-through所有者としている。Super-Exemptを含む州政府もNon-Look-through所有者。そうだよね。Look-throughする相手がいないもんね。PTPもNon-Look-through所有者。MLPみたいに上場後もパススルーStatusを維持しているところもNon-Look-through所有者になるってことなんだと思う。ちなみにMLPは普通に上場してるんで油断しがちだけど、パススルーなんで日本から直接投資したりしないようにね。30州のK-1とか送り付けられてきて「これ何ですか?」ってなったときは既に手遅れだから。さらにNon-Look-through所有者にはQFPFが含まれるってダメ押しがある。もちろん外国人として…。

ということは長らく仕方なく外国人として取り扱ってきた米国税務上パススルーを選択するケイマンフィーダーは、実はLook-through所有者なんで、フィーダーのLPが米国人だったらその分は外国人としてカウントしないでもOK、ってことなんだね!それはそのはずだったんだけど、従来の規則ではそうは読めなかったんで確認してくれて良かったです。

Look-through所有者と外国人所有の米国法人

こんな感じでNon-Look-through所有者の区分は大概において想像通りだけど、前回のポスティングでは、一点唐突な規定として外国人所有の米国法人(原文「Foreign-Owned Domestic Corporation」)に特別な取り扱いが規定されている、って不吉な予感を醸し出したところで終了していた。

で、規則案では、米国法人を含むC Corporationは原則Non-Look-through所有者だけど、濫用防止目的で外国人が価値ベースで25%以上所有する未上場(例によって正確にはRegularly Traded基準)の「米国」法人はLook-through所有者と取り扱うとしている。え~、C CorporationをLook-throughするって何それ~って感じだし、増してや25%ってどっから来たの?って感じだよね。

C Corporationをブロッカーにしている状況を問題視してるのは分かるけど、米国法人を通すってことはその部分はFIRPTAとか関係ないんで、DC REIT投資でもそうじゃなくてもWorldwideの全所得が米国で課税対象。今回の規則案では、その取り扱いはもちろんそのままで、だけど「あなたは米国人とは限りません」って言ってることになって「Worldwideで税金払ってんのに?」ってチョッと釈然としない。問題視されているストラクチャーはCaptiveなもので、例えば本当は100%外国人所有なんだけど、51%分は米国法人経由で投資してDC REITにして、Exit時にDC REIT株式譲渡益のうち49%がFIRPTA課税から免除されるようなかなり限定的なもので、合計で25%以上外国人所有っていう規則はBroad過ぎる気がしないでもないけどね。さらにポリシーマターとして納得いくかどうかとは別に条文的に25%基準でLook-throughとか認められるんだろうか、っていう法的な問題もある。で、米国法人の所有者が非上場の米国法人の場合、同じルールを連続適用して判断。非上場だから必ずしも株主が2~3人とは限らないんで実際の適用は負荷が高いケースも少なくないだろう。ちなみにC CorporationをLook-throughするこの特例は米国法人だけに適用があり得るんで、仮に100%米国人が所有する外国法人があっても、DC REITテスト時にLook-throughして米国人とすることはできない。

REITが所有するREIT持分

REITに所有されるREITの持分判断法は上場REITとそうでないREITで異なる。上場REITに関しては「FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (9))」で触れた通り、REIT株式が市場でRegularly Tradedの場合、5%未満の株主は「REITがその身分を実際に知らない限り」米国人としてみなしてよろしい、っていう面白いルールの適用がそのまま温存される。ご丁寧に仮に5%未満の株主がQFPFでもこの目的では「その身分をREITが実際に知らない限り(調べる必要はない)」米国人とみなしてよろしい、とされる。知らぬが仏って感じの規定で面白いよね。

DC REITかどうか判断しようとしている対象のREITが非上場のPrivateのREITの場合、規則案の対象そのものなんでもちろんだけど規則案で提案されるルールで判断。

また従来のルール通り、REITの所有者自体が上場REITの場合、上場REITがDC REITでない場合は、外国人所有となる。Private REITが所有者の場合、Private REITをLook-through所有者として持分を判断することになる。

たかがDC REITの持分、されどって感じだよね。

発効日と従来のストラクチャー

規則案は外国政府に関係する部分のみ早期適用が認められている。その他のQFRPやDC REIT部分は原則、規則が最終化された後の取引に適用があるとされる。だけど、この点には重要な但し書きがあり、最終規則の公表後に組成されるREITばかりでなく、REITがDC REITかどうかは過去5年間を見るので、その目的でも規則の適用があるとされる。この点は、25%の米国法人Look-throughと並んで物議を醸し出している部分で、例えば2024年1月1日に規則案の内容に準じた最終規則が公表されたとすると、1月2日に行われるDC REIT持分譲渡は、規則を過去5年間に亘って適用してその課税関係が決まることになる。REITを組成した段階ではまさか25%基準で米国法人をLook-throughするなんて考えてた納税者やアドバイザーは存在しないだろうから実質何の前触れもない過去遡及となる。

業界の集まりとかでIRS法務部高官の話しを聞くと「5年間の適用はチョッと評判が悪いね~」みたいな感じなので、この点は撤回されると考えていいだろう。ただ、25%の米国法人Look-throughは「そんな規則どっから来たの~?」って同じく評判が悪いけど、どうも「5年間の適用はチョッと議論があるみたい」っていう発言から25%Look-throughそのものは不動っていうニュアンスも伝わってきて怖い。裁判所で司法判断を仰ぐっていう最近お決まりのパターンで決まるんでしょうか。

ちなみに規則案前文では「最終規則が公表される前でも、規則案に反するストラクチャーは税務調査で問題視するかもしれない」って釘が刺されている。「え~、ストラクチャーした段階で存在しないルールなのに?」って思うけど、もちろんどっから出てきたか不明の米国法人25%Look-throughルールを税務調査で指摘されることはないと考えていい。おそらく外国人がREIT投資する際に49%は直接、残り51%は米国法人経由とかのあからさまなCaptiveストラクチャーが対象なんだろう。それらも現状の法律で否認が可能かどうか怪しいけどね。

ということで長編化したDC REIT、外国政府、QFPFを取り巻くFIRPTAアップデートにようやく終止符を打ち、次回はボーナス・トラックのBrooklyn Undergroundバージョン(何それ)で、DC REITのExit法に関して。そしてその後はもちろんKiller Bです。