Monday, December 8, 2008

源泉税徴収に対するIRS税務調査強化(4)

ここ何回か米国における外国人に対する支払いに適用される源泉税のポスティングをしてきた。

2008年11月7日のポスティングでは、 IRSがこの分野(=源泉税の徴収義務)での税務調査強化を狙い、新たに税務調査マニュアル(Internal Revenue Manual 4.10.21.1)を完成・公表した点に触れ、今後の税務調査では、当マニュアルに基づき外国向け支払いに対する源泉税の徴収をきちんと行っているかどうかが問われることとなる旨を説明した。

*源泉税の徴収義務はとうとう「Tier 1」対象に?

税務調査マニュアルの完備だけでも、IRSがこの分野にいかに気合いを入れているかが計り知れるというものだが、ここにきて源泉税の徴収が税務調査の際についに堂々「Tier 1」の殿堂入りする予定があるというニュースが飛び込んできた。

となると税務調査が入るとR&Dクレジット、製造者控除(Sec.199)などのHigh Profileなポジションと並び、税務調査官の裁量の余地なく、源泉税に係る調査が入ることになる。これはIRSが単に法準拠の徹底に気合が入っているという状態を通り超して、この分野であれば確実に追徴できる可能性が高いとふんでいることを意味する。

*Tier 1って何?

Tier 1というのは税務調査の際にIRSが調査対象とするポジションを重要度別に区分しているTierシステムの中でも「IRSからみて戦略的に最重要項目(Issues of High Strategic Importance)」と位置づけられるもので、タックス・ポジションの中でも特別な「エリート(?)」だ。

このTierシステムはIRSの中でも大企業を中心に税務調査を行う「LMSB(Large and Mid-Side Business)」部門が税務調査を効率よくかつ標準化された形で実行することを目的に策定したシステムで、脱法的な取引(Abusive Tax Avoidance Transactions)の取り締り等と並び、LMSBの重要イニシアティブのひとつとなる。ちなみにここで言う「Large and Mid-Size」とは資産が$10 Million超の事業主体と定義され、S Corpやパートナシップ、LLC等のパススルー事業主体も含まれるとされる。

TierシステムにはこのTier 1以外に、Tier 2の「税法準拠にかなり問題があると思われる項目(Issues of Significant Compliance Risk)」、Tier 3の「特定の業種に係る重要項目(Issues of Industry Importance)」がある。

*Tier 1と認定されると・・・

どのようなポジションがTier 1に含まれるとされるかはIRS税務調査に係る特定の業種または特定の法的な問題点等の専門家による「推薦」に基づく。推薦されたTier 1「候補」はCompliance Strategy Council(CSC)(Style Councilではない-名曲「My Ever Changing Mood」は皆さん知ってますよね?ピアノバージョンの方が圧倒的にお勧め)というチョッと怖い名前の審議会で協議された上、「選定」されると晴れてTier 1項目となる。

納税者側から見るとTier 1に含まれる項目は、税務調査に入られた場合には、ほぼ必ず調査対象とされ、その取り扱いに関しては調査官レベルでの裁量がなく、全国LMSBレベルで統一された取り扱いを受けることとなる。制度的には「必ず調査対象となる」はずなのだが、実際にはとても目立つTier 1項目が税務調査が入ったにも係らず調査対象取引と選定されなかった例も個人的に見たことあるので「ほぼ必ず」と表現しておく。

ということで外国人への支払いに対する源泉税がTier 1の仲間入りを果たした暁には、日本企業の米国現地法人においても、外国への支払いの管理、正確な報告(Form 1042S、Form 5472等)、W-8BENのきちんとした受け取り、などの準備をますます抜かりなく整えておく必要がある。

Thursday, November 20, 2008

ECIと新型APA

前回のポスティング「源泉税徴収に対するIRS税務調査強化(3)」では、例え外国人への支払いが米国源泉のFDAPであっても、それが受け手にとってECIであれば源泉税徴収の必要がない点に触れた。

また、ECIかどうかは所得の「受け手」が判断し、それを支払い側に正式に告知することを義務付けている点にも触れた。

*受け手はECIかどうかいつも判断できるか?

このことから米国源泉FDAPを「支払う」側にしてみれば、取り合えず正しく作成されたW-8ECIを受け取っていれば源泉税の徴収義務から免除されることとなる。しかし、逆に所得を「受け取る」側は、該当の所得がECIであるかどうかきちんと判断できるだろうか?

もちろん判断できるケースも多くあると思われるが、そもそも何をもって米国での事業活動となるか自体が個々のケースに基づく判断となることから簡単には分からないケースも十分に想定できる。米国で事業を行っているが、どの所得がその活動に関係していると取り扱えばいいか、判断に苦しんでいる外国人・外国企業も少なくないだろう。

*ついにAPA登場

そんな悩ましい局面にとても便利なシステムが誕生した。「新型APA」だ。

ここでいうAPAはもちろん「American Payroll Association」・・・というのは冗談で「Advance Pricing Agreement」だ。APAは、日本企業であれば誰もがおそらく一度は聞いたことあるだろう。移転価格を前もって(現実には審査に時間が掛かりいつの間には過去の年に関してとなることも少なくないが)IRSとネゴして適正なレンジに関して合意しておくという素晴らしいシステムだ。多少、専門家に支払うサービス料がかさむのが「玉に瑕(きず)」だが、それでも総合的には十分に価値のあるシステムだ。

このAPAの利用は従来は移転価格問題の解決に限定されていた。ところがIRSはRev. Proc 2008-31を発行してAPAの適用を「どの所得が租税条約に規定されるPEに帰属する利益となるか?」、「どの所得がECIか?」、「どの所得が米国源泉または米国外源泉となるか?」という問題に拡大するとした。

これらの問題は基本的に移転価格の分析と同様の手法で、機能・リスクに基づきどの事業主体、支店、PE、等にどれだけの所得を配賦するべきかという検討を行えることから、移転価格分析の延長上にある問題としてAPAの使用が認められることとなったのであろう。

この新型APAは2008年6月9日から利用可能となっている。

Tuesday, November 18, 2008

手元キャッシュ確保と米国税法

*大不況

それにしても今年の夏以降景気が悪いとは知っていたが、ここ数週間の更なる雰囲気の急激な悪化は想定の範囲を超えている。金融、小売、不動産の全てが機能停止してしまっているようで先が見えない。

9月のレーバーデイの翌日からはハロウィーンの飾り付け、ハロウィーン翌日からはサンクスギビングセール、その翌日からはおそらくクリスマス・セールと例年通りセールス・キャンペーンは極めて秩序正しく執り行われているがクリスマス後の小売実績を聞くのが今から怖い。アンテーラーに行ったらアウトレットでもないのにもの凄い値引きで、一枚買うと2枚目は更に値引きだったとオフィスの同僚が話していた。まるで昔、外苑前のベルコモンズでデザイナーズブランドがやってた「最終セール」みたいだ(古い?すみません)。

*キャッシュ不足

業績が悪い上に借入ができないとなると当然だが手元キャッシュが不足してくる。GMが一月に10億ドルの現金が必要でこのままだと何ヶ月しか持たない、とかいろいろと報道されているが、キャッシュフロー不足は特定の業種に限定されている問題ではない。

*海外に眠るキャッシュに手を付けたいが・・・

現金が米国にはないが幸いにも米国外のグループ企業にはまだキャッシュが残っているラッキーな米国企業も少なくない。その場合にはそのキャッシュをどのように米国に持ってくるかが検討課題となる。ここで「どのように」というのは我々タックスおたく的には「いかに税負担を少なく(=Tax Efficientに)」と直訳することができる。

子会社であれば配当を受け取るという手が手っ取り早い。しかし、配当を受けると米国で課税される。配当をする子会社が米国相当%の法人税を支払っている場合には間接税額控除で支払いは発生しないかもしれないが、低税率国から配当を受けるとグループ的には効率が悪い。また決算書でAPB23のポジションを利用して「未来永劫、海外にて再投資に回すつもりです!」と宣言して米国での繰り延べ税金を計上していないケースが多いことからその点も問題となる。

配当がダメなら貸付と考えるのが妥当だろう。しかし、この一見「妥当」な手段も米国税法の前にはとても危険な手段となる。CFCが米国親会社に貸付をするとナントみなし配当になることがあるからだ。短期の一時しのぎであれば配当扱いを免れることもできるが長期的な解決策とはなり難い。IRSは急遽、配当扱いから免除される「短期間」規定の「期間」を延長し、若干長い期間、配当扱いとされることなくCFCからの借入を受け入れることを認めるというNoticeを緊急に発表している。

また借入の場合には利子を支払う必要があるのは当然だが、利率は借り手のクレジットに準じた適正レート、または適正レートとみなされるSafe Harborレートを適用する必要がある。利子には源泉税が課せられることもあるのでこちらも注意が必要だ。

配当でも借入でもなく現金を移動させるには、資産を移すとかサービスを提供するとかして対価を得るという方法がある。これは移転価格に抵触しないよう、対価のレベルが独立企業間価格の範囲に納まっている必要がある。

多額のキャッシュは一朝一夕で国際間移動できないことが多いのが米国税法的な現実のようだ。それを合法的にうまく移動させてしまうスキルが今日の国際税務プロとしての腕の見せ所となるだろう。

外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化(3)

*米国源泉FDAPが源泉税対象とならないケース

前2回のポスティングで米国から外国人に行われる支払いが源泉税の対象となるのは支払いが「米国源泉」の「FDAP」である場合である点に触れた。

米国源泉FDAPは基本的に米国内国法に基づき30%の源泉税対象となるが、いくつか例外がある。今回のポスティングでは代表的な例外に触れる。

*ECI(米国事業所得)

外国人に対する支払いから徴収される源泉税は通常、外国人にとってそれが最終税負担となる。すなわち、源泉税が適切に徴収されている限り、支払いを受け取る外国人側では申告書提出をして税金の算定、納付をする必要がない。ただし、源泉税が過多に行われている場合には、受け手側で申告書を提出して還付請求をすることが認められる。

源泉税徴収という仕組みは、支払いを行ってしまった後に税金を徴収するのが困難な場合に適用されることが多い。相手が外国人の場合には、納税者にIRSの法権が実質及ばないようなケースが多く、この発想は当然のものである。

しかし、もし米国源泉FDAPが米国事業に係る所得であったらどうか?外国人が受け取る所得のうち、米国事業活動に関連するものをECI(Effectively Connected Income)という。正確には「Income Effectively Connected to U.S. Trade or Business」、すなわち、米国事業に実質的に関連する所得ということになる。

ECIを受け取る外国人は米国企業、米国個人同様に申告書(1120F、1040NR)を提出し、総所得から経費を差し引いたネット・ベースで税金を算定する必要がある。これは総所得に一定%を乗じる源泉税とは大きく異なる。なお、1120Fは近年フォームが改正されより面倒な様式となっている点に注意。

このことから外国人はECIに対して予定納税等を含む支払いを自ら行う立場にあることになる。となると基本的に支払い側では源泉税を徴収する必要がない。ECIがあるということは米国に事業を行っていると言うことなのでIRSとしても外国人とは言え資産の差し押さえその他の法権が及び易いということでこのようなシステムとなる。

ECIは支払いの受け手となる外国人がまず米国に事業を営んでいる場合にのみ関係する。租税条約的に考えると外国人が米国にPE(=支店と考えてもよい)を持っている場合だ。米国事業が存在しない場合には、基本的にどの所得も米国事業に関連するということは理論的にあり得ないのでECIにはなり得ない。ただし、過去に米国事業が存在していた場合には、例え所得を受け取る段階で米国事業が存在しないとしても、過去の米国事業に関連しているということでECIとなるケースもあり得るので注意が必要だ。

米国に事業活動が存在する場合には、次にどのような所得が事業活動に「関連(=Effectively Connected)」なのか、という判断が必要となる。FDAP所得に関しては所得を生み出す資産が事業資産であるかどうか(=Asset Test)、または所得を生み出す活動が事業活動であるかどうか(=Activity Test)のいずれかで判断を行う。

例えば、米国事業に係るWorking Capitalを一時的に運用して受け取る利子所得はAsset Testに基づき、FDAPではあるがECIとなる。したがって、利子を支払う側では源泉税の徴収は必要ない。また、米国での事業活動と位置付けられる役務提供に対して受け取るコンサルティング費用はFDAPではあるが、Activity Testに基づきECIとなる。

FDAP以外の所得に関しては「Force of Attraction」の考え方に基づき、米国源泉所得=ECIとなるのが内国法の考え方だ。例えば、米国事業とは全く関係のない米国源泉の棚卸資産の売り上げ(=FDAPではない)があったとすると、これは事実関係として事業に関連しているかどうかには関係なく強制的にECIとなる。ただし、これは内国法の考え方であり、米国と租税条約と締結している国(例、日本)の居住者、法人に関しては実質、PE規定がこれら内国法の考え方に優先する。すなわち、租税条約下ではPEがあり、かつそのPEに「帰属」する所得のみがECIとなる。

*ECIかどうかの判断は誰がする?

このようにECIであれば支払う側に源泉義務がないというのが基本的な取り扱いとなる。しかし、外国人に支払いをする側に「受け手はこの所得をECIとするだろう・・・」などと判断する情報が常にあるだろうか?しかも、本来源泉税を徴収するべき局面であったことが後から分かったらその分を自己負担しなくてはいけないかもしれない、となると安易な推測はできない。

そこで財務省規則では、ECIかどうかは所得の受け手が判断し、それを支払い側に正式に告知することを義務付けている。逆に言えば、この告知がない限り、支払い側は所得をECIと取り扱うことはできない。この告知を行うためのフォームが「W-8ECI」である。

Saturday, November 15, 2008

外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化(2)

*源泉税徴収に気合を入れるIRS

前回のポスティングでは、IRSが税務調査マニュアルを作成し、「外国人」に対する支払の際に必要となる源泉税徴収の税務調査に気合を入れる姿勢を見せているという背景に触れた。

さらにIRSは税務調査マニュアルを策定したばかりでなく、今年中には源泉税徴収に係る追加の財務省規則を発表するのではないか、という噂もある。現状でもかなりのボリュームとなるSec.1441の財務省規則だが(字が細かくて視力低下を招くCCHのハードコピーバージョンでは82ページを占める)、更に規則が追加されるということのようだ。

*FDAPって何?(続き)

前回のポスティングでは、どのような支払いが潜在的に源泉税対象となるかという決定の第一ステップである「FDAP」の性格に関して説明した。あのポスティングに関しては「今まで何がFDAPか悩むことが多かったがほぼ全ての支払いがFDAPとなるというコメントでスッキリした」という趣旨のコメントをもらった。繰り返しとなるが、Fixed、Determinableとか、Annual、Periodicalという単語の意味を深読みしてはいけない、というか一切考慮してはいけない、というのがポイントだ。

FDAPとならない所得として資産取得の対価としての支払いを挙げたが、これにもマイナーな例外がある。例えば、森林、石炭、鉄等に係る権益の取得に係る支払いはFDAPと取り扱われることもあるし、知的所有権の取得対価はロイヤリティーの扱いを受けることからFDAPとなることもある。また、米国不動産および不動産所有法人、すなわちUSRPIの取得はFDAPではないが、別のFIRPTA規定に基づく源泉が必要となることもある。外国人に何らかの支払いを行う際には「これはFDAPかな?」と検討する体制を社内に持つ必要がある。不明な場合は個々に専門家に相談するのが賢明であろう。

またFDAPという用語はECI(=米国事業所得)の対義語として使用される傾向があるが、これも全くの間違いだ。FDAPというのはあくまでも所得のタイプを形容する用語であり(例、金利、配当、賃貸、ロイヤリティー、給与等)、FDAPでもECIとなることもあれば、そうでないこともある。例えば米国役務に対する給与はFDAPだが、(超低額の場合を除き)ほぼ常にECIとなるだろう。すなわち、ECIの対義語はあくまでもNon-ECI(ニッキーまたはネッキー)であり、FDAPは事実関係次第でECIにもNon-ECIにもなる。この判断を行うのが「Activity Test」または「Asset Test」である(これは次回のポスティングで解説)。

*米国源泉のFDAP

支払いのタイプがFDAPだとして、源泉税の徴収義務の有無判断の次のステップはFDAPが「米国源泉」所得かどうかの決定だ。所得の源泉地の決定は税法に詳細に規定され、ここで全てを解説することはできないが、主たる米国源泉所得は次の通りだ。

利子: 借り手が米国居住者、米国法人の場合。例外は80%米国外ビジネス要件を満たす場合だが、実務的にはこの例外が適用される事実関係を持つケースは稀。

配当: 米国法人からの配当。外国法人からの配当も米国事業の比率が高い場合には例外的に米国源泉となるが、実務的にこの例外が適用される事実関係を持つケースは稀。

役務提供: 役務が提供される場所が米国の場合。米国滞在が年間90日以内で米国での役務に対応する報酬が$3,000以下の場合は例外だが、$3,000という金額が余りに低く(法律が制定されて以来物価スライド調整がないので)、実務的にはほぼ意味なし。

賃貸: 使用する資産の所在地が米国にある場合。

ロイヤリティー: 無形資産の使用地が米国または米国で使用が認められている場合。SDIケースで見られたような「Cascading」の問題、それに対する「Conduit」規定また租税条約の「LOB条項」等、実際の適用には複雑な検討がつきもの。

*源泉地が不明なケース

源泉税の徴収義務を判断する際に所得の源泉地の決定が不可欠となるのは上述の通りだが、支払う側で源泉地が分からないケースもあり得る。利子、配当、ロイヤリティー等に関しては支払う側の状況で源泉地の決定を行うことができるため「源泉地が分からない」という事態は想定し難いが、例えばサービス提供に対する支払い(ECIでないとして)は支払いの対価となるサービス(例コンサルティング)が物理的にどこの場所で提供されたかに関して情報がないこともあり得る。そのような場合には所得は「米国源泉」とみなすこと、すなわち他の条件を満たしている場合には源泉税を徴収しなくてはいけないこと、という「Presumption」の規定がある。

*次のステップは?

ステップ1と2の結果、支払いが「米国源泉」の「FDAP」だと判明した場合には、次に何らかの例外規定で源泉税が免除されていないかの判断を行う。具体的には支払いが米国内国法で非課税となるようなものでないか、受け手側で事業所得(ECI)となっているか、租税条約の適用がないか、といった点である。これらに関しては次回のポスティングで触れる。

Friday, November 7, 2008

外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化(1)

*IRS税務調査マニュアル

IRSはこの程、米国の事業主体等が「外国人」に対して何らかの支払いを行う際に課せられる源泉税の徴収義務に対する税務調査強化を狙い、この分野に係る税務調査マニュアル(Internal Revenue Manual 4.10.21.1)を完成・公表した。今後の税務調査では、当マニュアルに基づき外国向け支払いに対する源泉税の徴収をきちんと行っているかどうかが問われることとなる。

*日本企業と源泉税

この源泉税、日本企業の米国事業主体には極めて関連が深い。米国から日本親会社に支払う配当、利子、ロイヤリティー等は源泉税の対象となるか、または日米租税条約で源泉税が免除されているとしても報告の対象となるからだ。

そこで今回から何回かに分けて日本親会社を含む外国人への支払いに対する源泉税システムの基本的な考え方およびIRS税務調査マニュアルの内容に関してポスティングしてみる。

*いつ源泉税の徴収が必要となるか?

源泉税徴収の必要が生じるのは「米国源泉」で「ECIでない」「FDAP」を「外国人」に支払う場合である。更に源泉徴収義務がある支払いに関して「租税条約」にて源泉税が免除されている場合にはその範囲で徴収が必要なくなることもある。

上の条件のエレメントに関して各々もう少し説明すると次の通りだ。

*FDAPって何?

FDAPは「Fixed or Determinable Annual or Periodical」Incomeの略であり「フダップ」または「エフ・ダップ」と発音される。フダップの読み方を知っている人でも、ECIではないという意味で使われるN-ECIが「ニッキー」(または発音の聞き方次第では「ネッキー」)と言われることがある点は知らないケースが多いだろう。ニッキーを知っていれば米国税務中級クラスだ。

基本的に源泉税の対象となる支払いはこの「FDAP」タイプのものだ。しかし、支払いが「FDAPかどうか」の見極めで混乱するケースが多い。

というのもFDAPというフレーズを形成している「Fixed」とか「Determinable」、「Annual」、「Periodical」というひとつひとつの単語は全く意味を持たないからだ。FDAPとなるのに別に支払いが年に一回(=Annual)である必要もないし、定期的(=Periodical)である必要もない。不定期の支払い、または一回切りの支払いでも立派にFDAPとなる。また「Fixed or Determinable」という部分も支払い金額が決まっている、または決めることができる、という程度の意味で、日本企業が通常に関与する一般的なケースでは支払いを行う際に支払額が分かっているのが当然であろう(でないと支払えない?)。

となるとFDAPとは一体何か?誤解を恐れずに敢えて言ってしまえば「全ての支払い」である。唯一(に近い)の例外は資産の購入対価(例、仕入れ、固定資産取得)で、それ以外の支払いは取り合えずFDAPだと考えるのが無難であろう。

上述の通りこのFDAP(=資産取得対価以外の全ての支払い)が源泉税の対象となるのはFDAPが「米国源泉」であり、かつ「米国事業所得(ECI)ではない」ケースだ。次のポスティングではこの点に関して触れる。

Friday, October 24, 2008

また適用延期「FIN 48」

FIN 48に関しては昨年シリーズでその基本的な内容に関してポスティングをした。また、非上場企業に対するGAAPの適用方法等に関してFASBにアドバイスを行う「PCFRC」がFIN 48の非上場企業への適用延期そしてついには適用中止の検討をするようFASBに申請していた件も「FIN 48ついに撤廃?」というタイトルで2008年6月にポスティングした。

もともとFIN 48は暦年ベースの事業主体では2007年度から適用されるはずであった。SECに登録されている企業に関しては当初の予定通り2007年から適用が義務付けられ現在に至っている。一方、SECに登録されていない非上場企業に関しては適用が1年延期され2008年度からとなるはずであった。この点に関しては一年近く前となる2007年11月7日に「FIN 48の非上場企業への適用ついに延期」にて触れている。

このように紆余曲折を経ているFIN 48の非上場企業適用だが、更にここに来て「もう一年の適用延期」が発表された。したがって、これ以上の変更がないと非上場企業に対するFIN 48の適用は2009年度からとなる。

日本企業の米国子会社の多くはFIN 48が属するSFAS 109目的では非上場と区分されるため、それらの企業にとってはFIN 48は2009年からの適用となる。ただし、前回の延期時にも見られた問題であるが、既に第一四半期の会計上の税費用計算(Tax Provision)時に期首時点の累計FIN 48債務の算定作業を行ってしまっていることも多く、今更延長と言われて困惑している企業も多いだろう。

会計事務所としても延長が正式発表されるまでは延長を見込んで作業を先送りする訳にもいかず対応には頭を悩ませてきている。

更に不確実なのは「本当に2009年からやるの?」という点であろう。今回の件でFASBは完全に「狼少年」化しており、今後の方向性は明確ではない。

また、決算書を作成する際に適用する会計原則そのものもU.S. GAAPから国際会計基準となるIFRSに加速度的な移行が予想されており、その点でも時間的・コスト的に負担の重いFIN 48の適用開始に腰が引ける原因となる。FIN 48はU.S. GAAPのSFAS 109のサブ・セットであり、IFRS下ではFIN 48そのものは存在しない。

IFRS下にも当然、Tax Provisionに対する規定があり、SFAS 109も今後、IFRSの基準とすり合わせが行われていくことになるが、FIN 48がU.S. GAAPから消える気配はなく、IFRS下での異なる基準での税負債の算定への移行タイミング等、今後米国事業が検討するべき事項は多い。

Tuesday, October 14, 2008

Sec.382の適用除外と崩壊(?)するモラル (2)

前回のポスティングで何となくスッキリしない会計原則の動向について触れたが、今回はその続き、かつ本題である税法Sec.382適用の一部停止に関して触れる。

*Sec.382

Sec.382はかなり込み入った条文なのでその片鱗でもここで触れることは無理だが、敢えて簡単に言ってしまえば、繰越欠損金を持った法人(損失法人)の持分が3年間のうちに50%超変わる(持分変動)と、持分変動後の課税年度では繰越欠損金の使用に上限額が設けられるという規定だ。

この持分変動の認定がかなりややこしく、5%株主を全員特定した上で、3年間に亘る各5%株主の持分%の最低値から最高値の差異を全て合計するという変な計算をさせられる。更に法人が株主の場合にはFirst TierとかHigher Tierとか言ってその上の株主の状況も見極めないといけない。結果として事実関係の認定にかなりの時間を費やすことが多い。

この難しいテストに基づき50%超の持分変動があると、その時点の損失法人の時価にIRSの発表する「非課税投資から得られるであろう指標金利」を掛けた金額がその後の課税年度に利用することができる繰越欠損金の上限額となる。巨額の損失を持っていればいる程、法人の時価は低くなることが多く、結果として持分変動後の損失利用には極めて厳しい制限が加えられることとなる。

損失法人にとって、繰越欠損金は数少ない「価値ある資産」であることが多く、その使用に制限が加えられてしまうとなると、救世主として新しい大株主を誘致するのがより困難となる。

*国の管理下におかれた場合の特例

窮地に陥った金融機関を救済しようか、という際に金融機関が持っている繰越欠損金が使用できないとなると救済を検討している側としてはもちろん腰が引ける。損失が巨額であればある程、その影響は大きい。

例えばFannie MaeとかFreddie Mac、またはAIGの持分を買い取って救済しようにも、救済で50%超の持分変動が発生してしまうとその後の課税年度で今までの損失を使用することができない(というか、正確には上述の算定で使用に大きな制限が加えられる)。これは救済する側にとってはかなり痛い。

しかし、救済のするのが米国政府となると話しは異なる。IRSはNoticeを発行し、米国政府の救済により持分変動が起こる場合には、Sec.382目的では無視するという趣旨の発表をしている。Fannie Mae、Freddie Mac、AIG全てのケースが対象だ。となると、米国政府が少なくとも50%の持分を維持している間は基本的に繰越欠損金が満額利用できることになる。これはかなりの恩典だろう(もちろん、課税所得が発生しないと繰越欠損金には価値はないが・・・)。

*銀行資産の含み損

Sec.382にはもうひとつ強力な武器がある。それは持分変動時に損失法人が有するBuild-In Loss(含み損)が持分変動後に認識された場合、損失額は基本的に持分変動前の損失扱い(=制限枠に抵触)されるというものだ。

損失法人であるということは、そもそも業績不振であったということなので、その資産には含み損を持っているものがあって自然であろう。その実現時に損失が計上できない(正確には制限の対象となる)となるとその冷却効果はかなりのものだ。

銀行を救済目的で傘下に納めた後に、Toxic Assetの処理をすると当然大きな損失が発生することが予想される。従来の規定では、この損失が持分変動時点で既に含み損として存在していたと取り扱われる場合には、その使用には大きな制限が加えられることとなる。

この点に関してもIRSはNoticeを発行し、銀行を買収した後に不良債権の売却損(または税務上リザーブ処理がされている場合にはリザーブへの繰入額)が発生する場合、例えそれが持分変動前に帰属する含み損であってもSec.382の制限対象とはならない、としている。

*赤信号もみんなで渡れば・・・

Sec.382下での繰越欠損金、含み損の使用制限は多くの日本企業の米国事業再編または日本親会社再編の際に頭痛の種となっているものだ。今回の措置は、救済する者(=国)、損失を被る者の立場(=銀行)、または損失の規模(=巨大)という特別な理由でSec.382の本来の適用を曲げてしまうものであり、米国の法運営の根底にあるフェアネス的に考えると簡単には合点がいかないものだ。まあ、今そんなことは言ってる場合ではない、っていうことなのだろう。

Sec.382の適用除外と崩壊(?)するモラル (1)

Sec.382の適用除外と崩壊する(?)モラル (1)

イラク戦争の決行により米国の世界におけるモラル・オーソリティーとしてのスタンディングが低くなってしまったことは今となっては明らかであり、米国が好きでここに住んでいる僕としてはとても残念だ。

そのせいという訳では全然ないだろうけど、長い間キャピタル・マーケットで最高のスタンダードとして君臨してきた米国会計原則「U.S. GAAP」もとうとう国際会計基準「IFRS」にその席を明け渡す日が近づいている。

ドルの崩壊とか、やはりいろいろな面で落ち目なのかな~と漠然と考えていたが、ここに来てまた「ここまでやるか?・・」と個人的にショックを感じる出来事が二つ程あった。

*時価会計見直し?

日本でも導入時に大変評判が悪かった時価会計が本家米国で今更ながら槍玉に上がっている。これは簡単に言うと、金融機関が保有しているCDOとかの有毒資産(Toxic Asset)等を従来の会計原則に基づき時価評価するとバランスシートがとんでもなく棄損してしまい、銀行業務等に差し障りがあり、時価会計が諸悪の根源である、というのが理由のようだ。

Bailout法である緊急金融安定化法でも金融機関の時価評価を見直すべきかどうかの検討をSECに求めている。Toxic Asset系の資産には買い手が付かないこともあるので時価会計は機能しないのかもしれないが、今まで一般企業がさんざん時価会計で苦しんできたのに、金融機関の損失が巨額になりそうになった途端に見直しというのも「何だかちょっと・・・」という感じは否めない。

キャピタル・マーケットが機能不全に陥っているのはもちろんだが、投資化としてはそんな時こそ真の価値が反映されたバランスシートで投資判断をしたいだろう。

*Sec.382の適用中止

とは言え、まあ時価会計の話しは会計原則の話しなので、タックスおたくの僕としては「そんなものか・・・」という感じで毎日を過ごしていたが、「Sec.382適用の一旦停止」措置がIRSから発表されてこちらはエ~っと目を疑ってしまった。この点は次のポスティングで詳しく。

Monday, October 6, 2008

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」(3)

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」の3回目(最終)ポスティングだ。

*会計事務所のペナルティーは(ナント)一転緩和!

イラク戦費の予算化に係る「Small Business and Work Opportunity Tax Act of 2007」では「会計事務所等の申告書作成者は申告ポジションに少なくともMore Likely Than Notの基準が必要」という新たなペナルティー規定が「劇的かつ突然」登場した。この辺りの展開およびその後の混乱に関しては2007年6月の「申告書で取れるポジションのハードルは高くなったのか(その1)」「同(その2)」というポスティングで触れた

その後、会計事務所に対する規定と納税者そのものに対する規定に食い違いがあることから混乱のもとであり「More Likely Than Not」規定の見直し機運が早くも高まっている点は2008年4月11日の「申告書で取れるポジションの基準は一転緩和?」で触れている。この程、期待されていた緩和策が現実のものとなり、会計事務所も納税者同様に「Substantial Authority」があれば申告書にサインすることが可能となった。しかも、ナントこの変更は「Small Business and Work Opportunity Act of 2007」の施行日に過去遡及して適用とのことだ。

この「More Likely Than Not」規定に関して、ペナルティーを恐れる会計事務所では数多くの内部トレーニング等を展開して対応に苦慮していたし、税法の施行に責任を持つIRS側でもNoticeを作成したり多くのリソースを費やしてきた。また近々に「More Likely Than Not」に係る財務省施行規則の最終版が公表される予定にもなっていた。これら数々の努力は今回の法律で一瞬にして「水の泡」と化したことになり、この一年超の「大騒ぎ」は一体何だったの?という気持ちになる。結果は喜ばしいものであるが、議会の紆余曲折は多方面で無駄な努力を強いたのは間違いない。

*Fannie MaeとFreddie Mac株式の損失

当然といえば当然かもしれないが、Fannie MaeとFreddie Mac株式の損失は取り扱いが不利なキャピタルロスではなく、通常損失となる。それでも損失を被った者の被害は大きいだろう。

*R&Dクレジット延長

毎年延長されると全員が知っているにも係らず一応毎年失効するというどことなく空しいハラハラ劇を演じ続けていることで超お馴染みの「R&Dクレジット」も無事に2年分(2008年と2009年)まとめて延長されている。さらにここ2年ほど結構話題の「Alternative Simplified Credit」の計算が更に有利に変更されている。

他にもCFCの取り扱いその他盛り沢山だが、これくらいにしておく。11月の選挙の結果如何に係らず税法は大きく変わることは間違いないが、それを待たずにこれだけの変更が一気に法制化されてしまうとは・・・。それにしても一時盛り上がっていた税法の簡素化機運はどこに行ってしまったのか。

Sunday, October 5, 2008

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」(2)

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」を続ける。

*適格ストックオプションとAMT

ISOと呼ばれる適格オプションは行使時に通常課税されず、株式の売却時に全額がキャピタルゲインとして課税されるというメリットがある。しかし、これは通常税金の算定の話しで、AMTの算定目的では行使時にスプレッドが課税処理されるという落とし穴がある。適格オプションを適格のままとするためには行使後すぐの売却ができないため、行使後の株式価格変動リスクが高い。

行使時にAMTは支払ったものの最終的に株式を売却する段階で株価が下落していると、AMTの払い損となる。AMTはその後の年度の税額を減額するクレジットとして使用できるが、使用額に限度がある等、必ずしも直ぐに還付されるとは限らない。今回の法律では過去に支払ったISOに係るAMT還付を加速させる。

*売上税の個別控除

連邦の個人所得税を算定する際には州の所得税をItemized Deduction(個別控除)項目とすることができるが、州所得税の代わりに売上税を計上してもよいという規定がここ数年時限立法的に適用されていた。もともとは2004年に可決された「American Job Creation Act」に始まり毎年延長されていた規定で2008年には失効しているはずであったが、期限が延長され2009年まで適用されることとなった。

この規定は主に州個人所得税がない、またはあっても税率が低い州に居住する者に影響が大きい。

*不動産税と標準控除

不動産絡みであれば何でも恩典を与えようとしているようで節操がないように思える規定であるが、個別控除額が「Standard Deduction(標準控除)」よりも低く、標準控除を計上する個人がReal Property Tax(不動産税)を支払っている場合には、$500を限度額として標準控除額が増額される。夫婦合算申告のケースでは限度額が$1,000に増額される。

*住宅ローンの債務免除益

住宅ローンの残高が金融機関による差し押さえその他の手段で減額された場合に発生する債務免除益を非課税とする規定は2009年末で失効するはずであったが(The Mortgage Forgiveness Debt Relief Act)、これが3年間延長され、2012年までOKとなった。

*キャピタルゲインのIRS報告義務強化

証券会社等のブローカーは顧客が売却した株式等のキャピタルゲインに係る情報を毎年IRSに報告する義務を負う。ただし、従来は報告義務があるのは売却価格のみで、所得コスト等の「Basis」を報告する義務はなかった。この点に関しては2007年5月25日の「証券会社による株式取得コスト報告案」というポスティングで詳細に触れているが、この程、取得コストの報告が漸く義務付けられた。ただし報告義務は2011年に取得された株式からとなる。社債等他の証券に関しては2013年(Mutual Fundsは2012年)取得のものからが対象となる。

金融安定化法に盛り込まれた多数の「税法改正」(1)

*金融安定化法

ウォール街金融機関の「Bailout(=救済)」である「Emergency Economic Stabilization Act (金融安定化法)」が10月3日にようやく可決され法律となった。巨額の公的資金で「Toxic Asset (=有毒資産)」と表現されるようになった住宅ローン等の不良債権を買い取るというものだ。

買取時の資産評価その他のプロセスは複雑となるが、そのプロセスを通常では考えられないような短期間に実行しなくてはならず、当然財務省のリソースだけでは足りない。したがって、外部のプロと契約を進めているようだが、これらのプロは救済される当人であるウォール街から集まってくることになる。実際に救済が成功し、経済危機から脱出できることができるのかどうかは誰にも分からない。新車購入時に自動車ローンを組むことができるバイヤーがローン申請者の80%(2007年)から60%(現在)にまで低下しているという話しがあるように、確かにクレジット・マーケットは何とかしないと今後の展開はかなり暗いものとなる。したがって議会としても何かアクションを取る必要があり、今回の金融安定化法の成立となった。

*金融安定化法に盛り込まれた税法改正

金融安定そのものに係る部分に関しては既にメディア、ブログ等で詳細に報道、分析されているのでここでは特に触れないが、この法律のもうひとつの側面に関して触れてみたい。というのも、この金融安定化法には、金融安定とは直接関係のない数多くのエネジー関連の法律、また税法改正が盛り込まれている。通常であればトップニュースとなるような税法改正も含まれているが、金融危機のニュースに掻き消されているような感じもするので、ここで日本企業、日本企業の派遣員等に関係が深そうな項目のみを取り出して簡単にまとめておく。

今回盛り込まれた税法改正の多くはどこかのタイミングでいずれにしても法制化しないといけなかったものだ。通常であれば、これらの多くの減税措置をどのような歳入増でオフセットするかという点で長期の議論が重ねられるはずであった。緊急に可決させる必要が生じた金融安定化法に入れ込んでしまうことにより多くの議論がないまま勢いで可決されてしまった。

*AMTパッチ

個人所得税のAMT問題に関しては過去に何回か触れてきた。根本的な是正を実行すると巨額の歳入減となることから毎年付け焼刃的に問題が大きくなるのを回避してごまかしてきているのが「AMTパッチ」だ(「混迷極める米国議会のAMT対策」を参照)。昨年はAMTパッチが12月末ギリギリに立法化されて申告シーズンに悪影響を与えたが(「AMTパッチ漸く可決」「IRSのAMTパッチ対応Update」参照)、今年はタイミング的には余裕で可決された。これで年末調整グロスアップで多額のAMTを支払い、確定申告で還付というような面倒な手続きを取る最悪の事態は回避された。

2008年のAMTを算定する際に利用できる「Exemption」金額は夫婦合算申告ベースで$69,950(2007年はAMTパッチ後$66,250)、独身者申告で$46,200(同$44,350)、夫婦別申告で$34,975(同$33,125)となる。

Tuesday, September 23, 2008

久しぶりにSec.367(a)(5) - その2

前々回のポスティングでSec.367(a)(5)の暫定規則に関して書き始めた。この規則を手にする興奮はブログ紙面では語り尽くすことができず残念ではあるが、今回も当規則の話を続ける。

Sec.367の目的

前々回のポスティングでSec.367(a)の規定内容はザックリと説明したが、その目的は含み益を持つ資産が非課税規定を利用して米国から国外逃亡してしまうのを防ぐためのものだ。資産が一旦米国外の法人に移転してしまうと、その後資産が売却された時点でゲインに米国で課税することができないケースが多いため、このような出国税が設けられている。

これがもともとのSec.367(a)の趣旨であるはずだが、Sec.367は企業そのものの国外逃亡(=Inversion取引)に網を掛けるためにも利用されており、そのせいで規定は超複雑となっている。ダイムラーとクライスラーが世紀の大合併(その後世紀の大失敗となるが・・・)を演じた際に、クライスラーの株主に非課税措置が認められたのは、クライスラー株主が合併後の事業主体の50%以下の持分を受け取ることとなった(すなわちダイムラーの価値の方が高かった)からという理由があるが、これもSec.367(a)のInversionに対する規定を根拠とする。

一方でSec.367(a)の兄弟規定であるSec.367(b)は、基本的に外国法人のE&Pが(配当またはSec.1248のようなみなし配当という形で)米国で課税されるチャンスがなくなりそうな際に適用される。米国法人の外国子会社の非課税清算(InboundのSec.332)とか、CFCがCFCでなくなるような取引が対象となる。

暫定規則

今回の暫定規則はSec.367(a)(5)を主眼とするものであるが、前々回のポスティングでも触れた通り、Sec.367(b)、Sec.1248にも影響を与える。Sec.367(a)(5)下では、米国法人が非課税再編を通じて資産を外国法人に移管する際には、Sec.367(a)で規定されている例外規定を満たしたとしても、ゲインに課税される。

Sec.367(a)(5)の例外

例外規定の例外であるSec.367(a)(5)にも例外がある。すなわち、Sec.367(a)(5)の対象となる取引である非課税再編を通じての米国法人による外国法人への資産移管(A型再編、C型再編、買収型D型再編)に対しても一定の条件が満たされればゲインには課税しないという例外規定が設けられている。

この例外規定の適用は、非課税再編による資産の移管後も、米国法人レベルで後日含み益相当額に対する課税が可能な場合に一定条件を満たすと認められる。どのような条件を満たすと米国での法人レベル課税を温存できるかに関しては次のポスティングで触れる。

Ernst & Youngに移籍しました!

ここ一ヶ月ほどポスティングの数がめっきり減っていたため「体調でも悪いんでしょうか?」というようなメールをいくつか頂いた。からだの方は頗る元気なのだが、実は会計事務所を「デロイト」から「アーンスト&ヤング(EY)」に移籍したため、極めてバタバタとした毎日を送ることとなり、しばらく落ち着いて物書きをする時間がなかったというのが単純な理由だ。

移籍の話しをすると大概の方は「おめでとう!」と言ってくれる。でもたまに「パートナーにまでなってなんで転職するんですか?」というような質問をされることもある。スタッフでもパートナーでもやりたい仕事があればその夢を追うのが当然だと思っていたので、この手の質問には正直面食らった。

正式にEYでスタートするまでは敢えてブログで公開するのは避けてきたが、無事に先週からスタートすることができたので皆様に報告させて頂く。これからはEYの国際税務パートナーとして更に技術的な修行を続け、業界でもトップクラスのクオリティーを誇るEY国際税務部の名に恥じないプロを目指し、また日本企業の米国オペレーションの成功に少しでも寄与できればと思う。

という訳でブログの方も引き続よろしくお願いします!

Thursday, September 4, 2008

久しぶりにSec. 367(a)(5)

前回のポスティングから随分と日数がたってしまった。この間、夏休みその他でバタバタしていたというのもあるが、実は個人的に面白い話しがありそちらに時間を取られ、ブログを書いている場合ではなかったことが大きい。この辺りの真相に関しては1~2週間以内に別途触れたいと思う。

サボっている間にタックスの世界でも相変わらずいろいろとあった。個人的に一番インパクトが強かったのはSec.367(a)(5)の財務省規則が遂に発表されたことであろう。この規則は今年こそ出ると予想されていたものではあったが実際に手にする感動は一入(ひとしお)だ。

*待望のSec.367(a)(5)財務省規則(暫定)

復活第一弾がいきなりSec.367(a)(5)というのも何となくオタク過ぎて気が引けるが、この条項の規則は長らく待たれていたものだ。規則そのものはかなり多岐に亘り、Sec.67(a)(5)ばかりでなく、Inboundを専門とする者にも「Must」なSec.367(b)、Sec.1248等にも影響がある規定が連発されている。

*Sec.367(a)

Sec.367(a)(5)の理解には当然Sec.367(a)一般の理解が必要だ。Sec.367(a)は、非課税再編(Sec.368のTax-Free Reorgばかりでなく、出資に係るSec.351、清算のSec.332を含む)に基づき米国人が米国外法人に含み益を持つ資産を移転する際には、非課税再編の恩典を与えずにゲインを認識させるという規定だ。

したがって、Sec.367を考えなければ「非課税再編」の条件を満たしてる場合にのみSec.367(a)は関連してくる。非課税再編の条件を満たさない取引はもともと課税取引となることから、Sec.367(a)の適用は意味がない。なお、非課税再編に基づく資産移転がSec.367に抵触する場合にはゲインは認識されるが、含み損を持つ資産を移転しても損失は認められない。

Sec.367(a)は「ゲインの課税関係を決める目的では、外国法人(Foreign Corporation)は法人(Corporation)とは取り扱わない」というロジックを用いて非課税措置を不適用とする。言うまでもないが、Sec.368、Sec.351、Sec.332のいずれの規定も再編対象となる事業主体が法人でないと適用がない。したがって、法人ではない事業主体に対する資産の移転は通常の課税取引となってしまう。

Sec.367はとても長い財務省規則がありかなり複雑だ。したがって、全貌をここに記すことは不可能だが、「International Tax」と「Subchapter C」の橋渡しとなる極めて重要な規定となる。

*Sec.367(a)の例外規定

上述の「ゲインを認識する必要がある」という一般規定には例外がある。まず「再編対象となる外国法人の株式または債券」が移転の対象となる場合には一定の手続きを経ることにより、Sec.367(a)下で課税されることはない。また、移転される資産が外国でアクティブな事業に供される場合もSec.367(a)下で課税されることはない。

*例外規定の例外規定

税法にありがちなことであるが、上の例外規定(すなわちSec.367(a)の適用がないケース)にはさらに例外規定がある。そのひとつが今回の財務省規則のメインテーマとなるSec. 367(a)(5)だ。Sec.367(a)(5)がSec.367(a)規定の「例外の例外」であるというのは重要なポイントだ。

ちなみに、この「例外の例外」を更に正確に記すと実はSec.367(a)(5)は資産の移転に対する通常の税法上の取り扱いに対する「例外の例外の例外の例外」ということになる。すなわち、本来は課税対象である資産移転に対して非課税取引を容認している非課税再編規定(例外#1=非課税)に対する例外であるSec.367(例外#2=課税)に例外を設けて(例外#3=非課税)いるが、更にその例外がSec.367(a)(5)(例外#4課税)となるからだ。

Sec.367(a)(5)に関しては次回以降に詳しく。

Saturday, August 9, 2008

米国投資とスワップ(2)

前回の「米国投資とスワップ(1)」では通常であれば源泉税の対象となる米国株式投資からの配当収入と同様の経済効果をエクイティー・スワップという形態で実現させると米国の源泉税の対象とならないという有利な取り扱いに触れた。

今回はIRSが最近公表したRev. Rul. 2008-31(通達)でやはり有利な取り扱いが認められた米国不動産価格の指数に基づくスワップを利用した形での投資に関して触れる。

*外国人の米国投資とキャピタルゲイン

外国人が米国に投資する際に受け取る配当等の運用益は(多くの例外が規定されている利子所得を除き)米国にて源泉税の対象とされるのが通常だ。一方で投資資産を売却して認識されるキャピタルゲインに対して課税されることは少ない。

外国法人が米国投資からキャピタルゲインを認識する際には、基本的に課税されないし、非居住者の個人が認識するキャピタルゲインは「米国源泉」でかつ非居住者が米国に課税年度中に183日以上滞在した場合にのみ課税されると規定されている。不動産以外の資産(すなわち動産、株式、債券等を含む)から発生するゲインの源泉地は、対象資産が米国株式等であっても、納税者の居住地(正確にはTax Homeのある場所)に基づくいて決定されるため(前回のポスティングで触れたエクイティー・スワップの配当額の取り扱いに似ている)、非居住者の認識する動産からのゲインが米国源泉となることは極めて異例だ。

さらに仮に米国源泉のゲインがあったとしても、非居住者でありながら暦年に183日以上滞在するというのは非居住者の定義と矛盾する条件であり、F、J等の特別なビザを持っているケース以外では考え難いシナリオだ。米国不動産から発生するゲインに関しては米国源泉となるが、通常のルールが適用されると仮定すると非居住者が183日米国に滞在していない限り非課税となってしまう。この点に網を掛けたのが後述のFIRPTA規定である。

ただし、外国法人、非居住者個人等の外国人の認識するキャピタルゲインが非課税という基本取り扱いには例外がある。それはゲインが外国人の従事する米国事業活動に係る所得(=ECI)の場合だ。ECIは諸経費をマイナスしたネット金額に累進税率を乗じて課税される。

*米国不動産キャピタルゲイン

上述の通り、外国法人、非居住者個人の認識するキャピタルゲインはECIでない限り滅多に米国で課税対象とはならない。しかし、米国不動産売却に関してはFIRPTAという特別な規定が存在する。

FIRPTAの基本的な規定は、米国不動産から発生するキャピタルゲインは個々の事実関係に係らず、自動的にECIとするというものだ。したがって、外国法人、非居住者個人が米国不動産を売却して認識するキャピタルゲインは、実際に米国で事業に従事しているかどうかに関係なく、常にECIという取り扱いを受け、したがって累進税率で課税対象とされる。また、外国人から税金の徴収漏れがないよう、米国不動産売却時に買い手が譲渡価格の10%を源泉して仮納税するというシステムもFIRPTA規定に後年付け加えられている。

*不動産価格インデックス・スワップとFIRPTA

IRSが今回公表した通達の対象となる取引は次のようなものだ。外国法人は米国ディーラーと米国不動産インデックスを想定元本とするスワップ取引を行う。デリバティブの対象となる米国不動産インデックスとは第三者が公表する一定の米国内都市圏の住宅・商業不動産の値上り・値下りを測定するものである。インデックスは対象となる地域内の多くの不動産取引実績価格、鑑定評価、その他客観的な指標を数学的に加工することにより指標を得ているもので、対象となる不動産を全て所有できるような性格のものではない。

上のようなインデックスを基とするスワップがFIRPTA規定が適用される米国不動産の持分に当たるかどうかというのが通達の検討事項である。IRSはインデックスが広範囲は不動産価格を基に算定されていることから、特定の不動産に対する持分には当たらないとして、FIRPTA規定の対象とならないと結論付けている。

エクイティー・スワップと同様に、このような不動産インデックス・スワップも通常の不動産投資にはない米国税務上の恩典を受けることとなる。

Monday, July 28, 2008

ようやく可決「Housing Relief Bill」

サブプライム問題に短を発した不動産市況の悪化、クレジット市場の収縮、さらにエネジー価格の高騰で米国経済もかなり危ないところまで来ている感が強い。これ以上の悪化を食い止めるための法律「Housing Relief Bill」が昨日(2008年7月26日)に上院を通過した。ブッシュ大統領も今回の法律には署名の意向を表明していることから今週中には正式に法律となる見込みだ。

*Housing Relief Bill骨子

この法律はその名の通り、住宅不動産市況の安定を目的としているものだ。したがって、差し押さえに瀕している住宅物件オーナーに対する救済、住宅ローン借り換えに対する政府保証、米国の住宅抵当公社であるFannie MaeやFreddie Macの救済等のタックス以外の条項が沢山盛り込まれている。一方でタックス関係の条項もかなり豊富だ。タックス面では、減税による歳入減は増税で賄う「Balanced Budget」となっている。したがって、試算上は税収がマイナスとなることはないが、救済にはプラスで多額の資金(=公的費用、つまり税金)が必要となる。

政府当局による大型救済はBear Stearns買収に始まり、今後Fannie MaeやFreddie Macの救済等が具体化してくると多額の税金が問題の収束に当てられることになる。ただでさえ、財務状況が悪い米国であるが、今回の法律では従来の財政赤字限度額である「$9.5 trillion」が「$10.6 trillion」に増額されている。桁が大きすぎて全然ピンとこないが、円換算でザックリ1,100兆円くらいとなる。凄まじい金額だ。

*減税規定

実際の規定はかなり盛り沢山で、例によって細かいが、ここでは普通の個人、日本企業に関係がありそうなものを掻い摘んで紹介する。

住宅関連の不動産マーケットへの露骨な梃入れとして「初めて自宅を購入する者に対する税額控除」が規定されている。これは住居の取得価格の10%までを税額控除として認めるというものだ。ただし、上限額があり$7,500が最高額となる。また、例によって所得が高くなると恩典がなくなるPhase-Outが規定されており、年収(正確にはAGI)が$75,000(夫婦合算申告では$150,000)を超えると恩典に制限が加えられる。ただし、この「初めて自宅を購入する者に対する税額控除」は通常の税額控除と異なり、納税者に今後15年に亘る返済義務が生じる。したがって、実質政府による無利息の15年ローンと考えればよい。2008年4月9日またはそれ以降、2009年7月1日以前に取得された自宅に適用される。

次に、従来のシステムでは自宅に対して地方政府に支払う固定資産税は、Sch. Aの「Itemized Deduction」の一部となるため、他のItemized項目と合算して(そして必要であればPhase-out計算をして)金額がStandard Deductionより大きくなって初めて控除の税効果が生まれる。したがって、Itemized Deductionの合計(Phase-out後)がStandard Deductionの金額を超えない場合には、固定資産税は払っていても個人所得税に対する恩典はないことになる。Housing Relief BillではStandard Deductionの利用する者でも、自宅に係る固定資産税を「上乗せ」で計上することを認めている。ただし上限額があり、$500(夫婦合算申告で$1,000)が最高額となる。州税のない州に居住しているようなケースで恩典が大きそうだ(州税がある場合には、州税がItemized Deductionとなるため、比較的他の項目からItemizedの恩典を受け易い)。

事業主体向けでは、AMTクレジットまたはR&Dクレジット繰り延べ額の使用枠の拡大が規定されている。具体的には先の「Economic Stimulus Act of 2008」で規定された「ボーナス減価償却」の恩典を受ける代わりに、相当額分AMTまたはR&Dクレジット繰延額の使用枠を大きくするというものである。やはり上限額があり、AMTクレジット/R&Dクレジットの繰延額の6%または$30 millionのいずれか低い金額となる。

*増税規定

米国では買い物・サービスの対価をクレジットカード(またはデビットカード)で決済することが多い。事業主による売り上げの過少申告を牽制する意味で、クレジットカード・デビットカード会社にどこにいくらの支払いをしたかという報告書を提出させるとい規定が含まれている。カード会社に準備期間が必要となるため、この規定の施行日は2011年となるが、米国議会作成の資料によると、この規定から今後10年間に$10 billion弱の歳入増を見込んでいる。

外国税額控除の制限枠の算定には納税者の損金を国内と国外源泉に按分・配賦する作業が必要だ。でないと制限枠の算定の基礎となる「外国源泉のネット課税所得」が算出できないからだ。費用をどのように按分するかにより外国源泉所得の金額が変わり、結果として取れる外国税額控除の金額に影響がある。この算定を行う際には支払利息を按分する必要がある。この支払利息按分は基本的に資産高に基づく算定となるが、その算定時に米国外の「関連企業」の数字をも考慮してもよいという「Worldwide Interest Allocation」が2009年から適用されるはずであったが、2011年からに延期された。

自宅の売却益は、売却時点から過去5年間に少なくとも2年間に亘り売却不動産を「主たる住居」として所有・使用している場合には$250,000(夫婦合算申告では$500,000)まで非課税となる。今回の法改正で不動産を当初バケーションホームとして取得した場合には、非課税額に制限が加えられることとなった。

*FIRPTA関連の居住者告知

一点、マイナーな規定であるが目を引いたのが、FIRPTA関連の通知に係る規定だ。米国で不動産を売却する際には、売り手が非居住者でないことを告知するフォームがある。売り手が非居住者であるとFIRPTAに関連して規定されているSec.1445の売値に対する10%源泉の対象となる可能性があるからだ。従来、この告知は売り手の納税者番号(通常はSSN)を明記して買い手に提示していた。「Identity Theft」防止の観点から、今後はこの通知は買い手そのものではなく、不動産取引を仲介している弁護士、エスクロー会社等に提示すればいいことになった。

*モラルハザード?

日本でも金融機関の公的救済時にさかんに口にされた「モラルハザード」の問題を指摘する向きもある。結果として無責任な貸し手および借り手に援助の手を差し伸べることにより、怪獣退治のはずが、怪獣を育ててしまっているのではないかという議論だ。しかし、結果として今回の法律が賛成多数で可決されていることから全体のムードとしては、急激に危機的な状況に突入しつつある米国経済を救うには「背に腹は代えられぬ」ということであろう。

Saturday, July 19, 2008

米国投資とスワップ(1)

つい最近、IRSはRev. Rul. 2008-31で価格指数デリバティブを基とするスワップを利用した形での米国不動産投資は「FIRPTA」規定には抵触しないという判断を下した。当然、このRulingは外国人投資家、またケイマン等に本拠地を置くヘッジファンドなどにとっては米国の税コストを低減させながら投資効率を上げることができる吉報である。不動産投資に係るスワップについて詳しく触れる前に、まずは外国人投資家から近年取り扱いが注目されている「エクイティー・スワップ」に関して触れてみたい。

*エクイティー・スワップ

エクイティー・スワップとは金融デリバティブの基本的な形態のひとつで、株価指標または個別銘柄等のパフォーマンスと金利をスワップするものである。税務上は「Notional Principal Contract (NPC)」という正式用語で規定されるもののひとつで、その用語が示す通り「想定元本」に基づく契約である。基本的に投資家とディーラーの相対契約となることから(Futuresのように市場で売買されているものと異なり)、どのような銘柄、指標を基とするか、最初に想定元本となる金額の決定、最後のTermination Paymentの計算方法等、かなり弾力的な設定が可能だ。

最も基本的な「Plain Vanilla」パターンのエクイティー・スワップの例としては、AはBから銘柄Xという株式の配当と同額を受け取り、BはAからLIBORに基づく金利と同額を受け取るというものだ。実際にはAが株式を保有することはないが、スワップを実行する時点での銘柄Xの株価に基づく「想定」借入がBからAに行われた形となる。その後例えば年に一回、株価の変動に基づく精算を行い、想定借入額もその時点の株価に連動するようなイメージだ。実際のキャッシュフローはみなし配当、株価の変動、利子等全ての相殺したネットベースで行う。

そして仮に3年後にスワップを手仕舞いするとして、精算はその時点の株価に基づき行われる。経済的には借入をして株式投資するLeveraged Security Purchaseと基本的に同じである(Xが倒産等した場合の権利は異なるであろうが)。

上の形態は単なる典型的なスワップ契約の一例で、実際には無数のバリエーションがあるが、多くのスワップ契約では、AおよびBの双方のいずれにも株式を保有する義務はない。Bに関して言えばExecutionリスク等のヘッジのため、実際に銘柄Xを購入することも十分に考えられるが、それはB独自のリスクヘッジ判断であり、スワップ契約に基づくものではない。

なお、似たような用語に「デット・エクイティー・スワップ」というものがあるが、こちらは本当に(想定ではない)借入の返済を株式にて行うというケースに用いられるもので、今回のテーマであるNPCではない。

*エクイティー・スワップのメリット:レバレッジ・レシオ

スワップを通じての株式投資は、直接株式に投資する手法に比べていくつかメリットがある。その一つはレバレッジ・レシオであろう。直接株式に投資する際には米国の規制下では一定の比率までしか借入を原資とすることができない。一般的にはこのレシオは50%である。一方、スワップに関しては契約の当事者が合意する内容で自由に締結が可能となることから、レバレッジを利用して投資効率を高めたいと願うヘッジファンドのような投資家にとってはスワップは格好の投資手段となる。

*エクイティー・スワップのメリット:源泉税

外国人投資家(タックスヘイブンを本拠地とするヘッジファンドを含む)にとってエクイティー・スワップという形で米国株式に投資するもうひとつ大きなメリットは配当が米国で源泉税の対象とならないことであろう。これはエクイティー・スワップから発生する配当見合いの金額の源泉地は「配当見合いの金額を受け取る納税者の居住地」とされていることに依る。

米国で源泉税の対象となる支払いは基本的に「ECIでないFDAP」となるが、FDAPの定義の重要な要素のひとつは「米国源泉所得」である。外国人の居住地を源泉地とするということは、多くのケースで外国源泉所得となるということを意味するため、その時点で米国での源泉税対象から外れることとなる。

この取り扱いは、借入をして米国株式に投資するという経済的には瓜二つの取引に対する取り扱いと大きく異なる。通常、米国株式からの配当は30%の源泉税対象である。租税条約締結国の居住者は低減税率の恩典を受けることができるが大概は10%~15%の税率で課税される。日米租税条約でも小口の一般投資家の受け取る配当は10%の源泉税が規定されている。

さらに多くのヘッジファンドはケイマン島のような租税条約のないタックスヘイブン居住者となっているため、30%源泉税の有無の差は大きい。

*なぜエクイティー・スワップだと源泉税がないか?

資本の「輸入国」である米国には外国からの投資を奨励する税法規定は他にも存在する。代表的なものは一般外国人投資家が米国の債券等から受け取る利子所得が源泉税から免除されるという「Portfolio Interest」規定だ(この規定は10%以上の持分を持つ株主が債権者の場合には適用できない)。この規定に基づき外国人が米国から受け取る利子所得は内国法で源泉税が免除されるが、一方で配当に関しては同様の規定はない。

エクイティー・スワップに対する源泉税免除は金利に対するPortfolio Interest規定のように政策的に外国からの投資を誘致するような仕組みの一環と考えるべきであろうか。しかし、それであれば配当そのものに「Portfolio Dividend」規定のようなものを新設してもいいと思えるが、そのような動きはなく現状ではエクイティー・スワップのみ優遇されている。

確かに、スワップで実際に株式を取得しないケースを考えると、本当に支払われる配当には誰かが税金を支払っている訳で、そう考えるとエクイティー・スワップに基づく配当見合いの支払いを本当の配当と同じように取り扱うのも変なのかもしれない。ただ、経済的にほぼ同様な結果に至る取引が異なる取り扱いを受けることから様々なタックス・プラニングの対象となり、となるとIRSはその悪用に網を掛けるということにもなり、例によって税法運営がますます複雑化していくこととなる。

*エクイティー・スワップ源泉税免除と注意点

エクイティー・スワップが有利なのは配当に対する源泉税という局面に限られ、Termination Payment等の他のPaymentの取り扱いに関しては直接の株式投資と差はない。外国人が米国株式等のPersonal Property(不動産以外の財産=動産)から得る売却益は基本的に納税者の居住地が源泉地となることから、いずれにしても非課税の取り扱いを受けることができるのが一般的であるからだ。

エクイティー・スワップからの所得が米国事業に関連する「ECI」と取り扱われる際には全く別の規定が適用され、基本的には累進税率で課税対象となる。ただし、株式投資、エクイティー・スワップ投資を自分のアカウントで「Trading」している限り、米国事業とはならないというのが一般的な取り扱いであり、もちろんヘッジファンドなんかはECIとならないような形態で投資している。

また、エクイティー・スワップという名称で契約を結んでも税務上、それが本当にエクイティー・スワップと取り扱われるかどうかは常に検討するべきであろう。金融商品には経済的な実態が同じでも形態が異なるものが多数あることから、IRS側も実態に基づき取り扱いを決定するはずだ。エクイティー・スワップと似たような取引で税務上の取り扱いが異なる(すなわち配当見合いが源泉税の対象となるケース)としては、Security Lending(空売りに必要な株式を調達するようなケース)、レポ取引、Common Lawに基づく株式みなし所有(名義は別でも実質の所有があるという認定)等が考えられる。

Sunday, July 13, 2008

米国のスピンオフ(13)

前回までのスピンオフに係るポスティングでスピンオフが非課税となるための様々な条件の話しをしてきた。その締めくくりとしてSec. 355(d)と呼ばれる複雑な規定に触れる。この規定はスピンオフから過去5年間にスピンオフに関与する法人の50%以上が取得された場合に関係してくる。いままでも沢山の条件、例外に触れたが、その際にも50%とか5年という規定はかなり頻繁に登場した。そこで今回はSec. 355(d)に深入りする前に今まで話した条件のうち、50%とか5年という条件が盛り込まれいるものに関して若干整理してみたい。

なお、個々の条件を検討する際にはスピンオフがうまく行けば信じられないような恩典を受けることを意味するという「Big Picture」を忘れてはならない。すなわち、分配を行えば、法人では含み益課税、株主側では配当、または償還扱いの場合には売却益課税、されるというのが通常の取り扱いである。これを全て非課税で行うという「例外規定」がスピンオフだ。例外規定であることから、スピンオフの条件は「狭義」に解釈される。これは「例外規定」は「一般規定」よりも狭義に解釈されるべきという法律の基本的な考え方に基づくものだ。

Sec. 355(e)

直近のポスティングではスピンオフの条件の中でも、買収されることを目的として事業をスピンオフするMorris Trust型の取引に対する規定であるSec.355(e)にフォーカスした。

Morris Trust型の取引に基づきスピンオフと同一プランの一環で50%以上の持分を第三者に取得される場合には、事業を分配する法人Dはスピンオフの対象となる法人C株式の含み益に課税される。一方で、スピンオフの他の条件を満たす限り、分配を受ける株主(Distributee)に対する配当課税はない。

法人サイドのみで課税されるという規定の背景は、基本的にSec.355(e)が「法人が含み益の認識なく資産を分配する(General Utilities Doctrine)」という行為に網を掛ける目的で制定されているためだ。General Utilities Doctrineは1986年の税法改訂で撤廃された考え方であるが、非課税スピンオフはその撤廃後、唯一残された法人サイドで含み益を認識することなく価値のある資産を分配する手法となる。したがって、スピンオフは納税者側から見ると極めて有利な特例であり、そのため、多くの条件があり、条件の全てを律儀に満たして初めて非課税の恩典を受けることができる。

他のいくつかの条件と異なりSec.355(e)はスピンオフ前後のDまたはCの買収が「適格の非課税再編」であっても50%以上という条件に抵触する限り適用がある点注意が必要だ。

*5年以内に課税取引で取得されたC株式はBoot扱い(Sec.355(a)(3)(B))

課税取引で取得されたC株式を「5年以内」にスピンオフすると、その株式は「Boot」扱いされる。Boot扱いされるため、Sec.356に基づき配当(E&Pの範囲で)または償還取引として課税されることになる。この規定に関しては「米国のスピンオフ(6)」でAT&T分割の際の興味深い取り扱いに触れた。5年以内のC株式取得に関しては、他にもActive Trade条件、そして今後触れるSec.355(d)、Sec.355(e)も検討する必要がある。

Boot扱いされるということは非課税スピンオフ上の適格分配資産とならないということなので、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。これはSec.355(e)の取り扱い(=法人側のみで課税)と異なるが、これは規定の目的が異なるからだ。5年以内に課税取引で取得されたC株式を分配することに網を掛けようとする主たる理由は、現金を代表とする流動資産を(長年事業をしている株式を取得して)スピンオフと仮装して分配することへの対策だ。

また、Bootにするという規定であることから、スピンオフの対象となる全ての株式がこの規定に抵触してはそもそもスピンオフにならない。そのようなケースでは下のActive Trade条件にも抵触するため、そもそも非課税スピンオフにはならないであろう。となると、この条件はAT&Tケースのように全体はスピンオフとなるが分配対象の一部に非適格となる株式が含まれているというようなシナリオに最も関連してくるように思われる。

*5年以内に課税取引にて取得されたC株式とActive Trade or Business条件

Active Trade条件はスピンオフの根幹に位置する条件であり、「米国のスピンオフ(2)」で触れている。単純に言えば、非課税スピンオフとなるにはDおよびCが過去5年間事業に従事している必要があり、またスピンオフ後に双方共にこの歴史的事業を継続する必要があるというものだ。5年以上事業を営んでいる法人を買収して買収前の実績を基にActive Trade条件を満たしているという主張を退けるため、課税取引でCのControlを「5年以内」に課税取引で取得し、CをスピンオフするとCに関してActive Trade条件が満たされない。これも上のBoot扱いと同様に、本来は配当となるべき流動資産をスピンオフと仮装して分配することへの対策である。したがって、スピンオフそのものが適格でなく、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。

*スピンオフを行うDの買収

上述の5年以内のDによるCのControl取得(課税取引による)の禁止(こちらはまだ分かり易い)に加えて、Active Trade条件には更にややこしい規定である「スピンオフを行うDのControlが5年以内に課税取引で買収されている場合にActive Trade規定が満たされない場合がある」というものがある。具体的には課税取引でDのControlが「5年以内」に取得されており、その買い手が法人であり「Distributee」となるようなスピンオフはActive条件が満たされない。Distributeeが法人以外(個人、Trust等)のケースには少なくともこの規定の適用はない。

Active Trade条件の一部であるが、基本的には流動資産の配当を規制するというよりもDのCに対する含み益を認識することなく分配されることに対する規制(上述のGeneral Utilities Doctrine撤廃を受けての対策)に近いように見える。その意味では前述のSec. 355(e)、また今後話すSec. 355(d)の目的に近いように思えるのだが、あくまでもActive Trade条件の一部を構成するため、この条件に抵触するとスピンオフそのものが適格でなく、法人D側、分配を受ける株主側の双方で課税される。

また、この規定が適用されるのは「Distributee」イコール「DのControlを5年以内に取得した者」という図式が成り立つ場合のみだ。DのControlを取得した者以外にCが分配される場合には、このActive Trade条件は問題ない。そのような場合には今後話すSec. 355(d)の検討が必要となる。

*5年以内の買収:課税取引 v 非課税取引

上述のBoot扱いの規定、Active Trade規定、そして今後話すSec.355(d)規定は全て5年以内のC株式の買収が「課税取引」にて実行された場合に関連してくる。買収が「非課税再編」であった場合にはこれらの規定の適用はない。過去の非課税再編による買収が関係してくるのはSec.355(e)であろう。

*持分継続条件とスピンオフ

スピンオフに対する持分継続条件に関しては「米国のスピンオフ(7)」で触れた。個人的にはこの持分継続条件が実際にどこまでを認めているのかはよく分からない。

財務省規則の例示から、Dの従来からの株主の「誰か」がDとCの各々に対して50%の持分を維持していれば満たされるが、DとCのどちらか一社に対してでも持分が20%まで落ちてしまったら満たされない、ということは明確である。しかし、その間の%に関してはよく分からない。A型再編では40%でも大丈夫とされるがスピンオフではどうなのか?

また、他の条件(特にDevice条件)とのOverlapもあり、持分条件そのものが満たされていると主張できるような局面でも、他の条件に抵触するようなケースでは持分継続条件はそのものは「Moot」となる。

50%以上の持分移動というと上述のMorris Trust型取引に係るSec. 355(e)を思い出す。持分継続とSec.355(e)の関係を明確に断言する程の自信はないが、個人的な理解としては、Sec.355(e)は買収後の事業主体全体に対する持分が問題となるが、持分継続条件はあくまでも買収前の状態にフォーカスしており、スピンオフ後の買収で株式(=Equity)を受け取っていれば、例え買収後の事業主体全体に対する持分が低くても問題はないというものだ。

すなわち、持分条件を判断する50%とか25%というパーセンテージは旧Dの株主のDおよびCそのものに対する%で見るものであり、DまたはCがスピンオフ後に買収される場合には買収対価の中にEquityが何%含まれるかという点が問題となるのではないかと思っている。すなわち、例えばCがスピンオフと同一プランに基づき大きな企業に買収され、買収後の事業主体に対する旧Cの株主(=旧Dの株主)が例え10%であったとしても、買収対価全体がEquityであり、スピンオフそのものを見た場合にDとCに対する従来からのD株主が必要%持分を維持していれば、少なくとも持分継続には問題がないということだ。

もちろんだが、スピンオフと同一プランの一環で実行される買収でBootが使用される場合には、旧D株主が受け取るBootの額はCまたはDの持分継続を満たしているかどうかの算定に加味する必要があるだろう。

持分継続がOKとなるケースでも、買収とスピンオフが同一プランの一環で行われる場合にはもちろんSec. 355(e)の検討が必要となる。しかし、Sec.355(e)はあくまでも法人Dでの課税を規定するものである。その意味で、(スピンオフの他の条件と並び)持分継続を満たしているかどうかは分配を受ける株主サイドでの課税関係を決定する上では重要な検討事項であり続ける。

Saturday, July 5, 2008

米国のスピンオフ(12)

前回のスピンオフに係るポスティングではMorris Trust型取引の横行に対して制定された1997年の法律であるSec.355(e)に関して触れたが、今回も引き続きSec.355(e)関係の話しを続ける。

前回のポスティングにて、Sec.355(e)の鍵となる事実認定は「買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうか」である点に触れた。これは「事実関係」の問題であり、4年間の推定規定、また同一プランの一環を示唆する事実関係に基づきながら、最終的にその判断は個々のケースを取り巻く全ての事実関係に基づいて判断されるとされる(Facts and Circumstances Test)。下にいくつか具体例を挙げながら、同一プラン認定の有無の検討を続ける。

*同一プランの一環の検討:具体例

DのOfficer、取締役会は投資銀行とDの株式に対する公募(Public Offering)に係る話し合いを持っていた。その結果、D単独法人として公募を実行するのが得策であるとの判断に居たり、話し合いの一月後にはDの子会社Cをスピンオフする。その7ヶ月後にD新規株式が公募が基づき発効された。このようなケースでは、スピンオフから過去2年間の間に公募に係る話し合いが持たれていること、またスピンオフは公募を助成するために実行されていることから、同一プランの一環にて行われていると取り扱われる。

Dは上場企業でCはDの子会社である。Dはより有利な条件での資金調達を実現するためにCのスピンオフを実行する。Cの事業に係るリスク・ファクター等の理由でCを子会社に持っているとDが望む条件での資金調達ができなかったからだ。スピンオフ時点でDとCはSec.355(e)に係る補填契約を締結したものとする。すなわち、もしスピンオフ後にCが係る買収等の取引に基づきSec.355(e)下でDに税負担が発生した場合にはCはDにこれを補填するということだ。スピンオフ時点では特定のバイヤーは出現していなかったものの、スピンオフ後にCの買収に興味を示すバイヤーが出現するのはほぼ間違いないと予想されていた。その後、現実にY社がCを非課税のReverse三角合併(実質株式交換に等しい)により買収し、Cの株主は合併後のYの50%未満の持分に相当するY株式を受け取る。

この例ではスピンオフ前にD、C、Yの間に買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績はない。したがって、スピンオフと買収は同一プランの一環ではないと取り扱われ、したがって、C株主はY全体の50%未満の株式しか受け取らないがSec.355(e)の適用はない。すなわち、Dはスピンオフ時点のC株式の含み益に課税されることはない。上の例ではCはDに万一Sec.355(e)が適用された場合の補填契約を結んでいるが、その事実のみをもってスピンオフとCの買収が同一プランの一環とみなされることはない。

*Safe Harbor規定

買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうかの判断は上述の通り、基本的に個々の取引の事実関係に基づき行われる(Facts and Circumstances)。しかし、財務省規則には多くの「Safe Harbor」が規定されており、これらのSafe Harborのひとつに該当する取引は「同一プラン」とはみなされない。Facts and Circumstancesテストは、その結果に対する予見可能性が低いため、Safe Harbor規定は極めて重要だ。ただし、Safe Harbor規定の適用においても「スピンオフの事業目的が何であったのか」という事実認定が重要となることが多く、その意味でSafe Harbor規定の適用も必ずしも「機械的」なものではないケースも多い。

Safe Harborは全部で9パターン規定されているが、関連深そうなものを5つ紹介しておく。これらのSafe Harborはこれだけ読んでも何となく理解し難いものがあるので、実際の取引を空想しながら読んでいく必要がある。

  • 買収がスピンオフ6ヶ月以降に発生している場合で、スピンオフの唯一または主たる目的が買収促進ではなく、、かつ買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がスピんオフ前1年、スピンオフ後6ヶ月に存在しないケース
  • 買収がスピンオフ6ヶ月以降に発生している場合で、スピンオフが買収促進を事業目的としておらず、、かつ買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がスピんオフ前1年、スピンオフ後6ヶ月に存在せず、同期間にDまたはC(Sec.355(e)で問題とされる買収対象となる法人)の25%超の持分が買収または買収交渉の対象となっていないケース
  • スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行される時点およびその後1年間、買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がないケース
  • スピンオフ前に買収がある場合、買収がスピンオフに係る「Disclosure Event」(関係者によるスピンオフに係る何らかのコメント)より前に実行されているケース(ただし買収とスピンオフの間の期間に買い手が買収対象法人の5%株主(上場企業)または大手株主(非上場企業)、または10%株主となる場合、また買収が20%以上の場合には当Safe Harborの適用はない)
  • スピンオフ前に買収がある場合、スピンオフがD株主持分に均等(Pro-rata)に行われ、買収がスピンオフが公に発表された後に行われ、スピンオフ発表時点では買い手との間にスピンオフに係る何の話し合いもないケース(ただし買収とスピンオフの間の期間に買い手がDの5%株主(上場企業)または大手株主(非上場企業)、または10%株主となる場合、またDの20%以上の持分が買収される場合には当Safe Harborの適用はない)

*オプション

買収が株式の直接取得ではなくオプションを通じて実行される場合には、オプション取得を実質、株式取得同様に取り扱う規定も含まれている。これはオプションを利用してSec.355(e)の規定を迂回するような行為に網を掛けるためものものだ。

*50%以上の取得に係るもうひとつの規定

Sec.355(e)は「スピンオフ+買収」という取引に対する規定であるが、スピンオフの規定にはもうひとつ50%以上の持分取得を制限するものがある。それはSec.355(d)に規定され、含み益を持つ事業をゲインの認識なくうまく分配(というよりも実質譲渡)してしまうことを目的とした取引に網を掛けるためのものだ。ある意味、Sec.355(e)よりも難解だが、スピンオフシリーズの一部として避けて通ることができない条項であり、次回以降のポスティングにて触れることにする。

Monday, June 30, 2008

Bear Sternsの株式交換は「課税取引」?

Bear SternsがFederal ReserveのアレンジでJ.P. Morganに救済買収された件に関しては2008年3月17日「Bear SternsによるJ.P. Morganの買収」、2008年4月9日「ヤフー、Bear Sterns買収案その後」で触れた。その後明らかになった取引の詳細から税務上の興味深い取り扱いが見えてきたので、今回はその取り扱いに関して触れる。なお、下の取り扱いは公にされた情報から当初はロバート・ウィレンがその詳細を分析し、リー・シェパードがそれにコメントしたものだ。両者ともにこの分野では大御所のコメンテーターだ。内容が余りに興味深かったので僕なりの理解を書いておく。

*Bear Sternsの買収形式

Bear Sternsの買収は、Bear Sternsの一株に対して$10(当初は$2であったが後に上方修正)に相当するJ.P. Morganの株式が支払われる株式交換という形で行われるとされている。具体的にはBear Sterns一株に対してJ.P. Morganの0.21753株が支払われる。2007年12月16日の「米国で三角合併が多様される訳」でも触れたがBear Sternsのように多数の株主が存在する法人を買収する際に、形式的な意味での株式交換を実行するのは不可能である。したがって、実質的な効果は株式交換であるが、形式的には(会社法取り扱い上は)三角合併となるであろうという点は以前のポスティングで触れた。

その後の情報開示に基づくと、買収は「Reverse三角合併」にて行われる。具体的にはJ.P. Morganがデラウェア州に新規の「Merger Sub」を設立する。そしてこのMerger SubがBear Sternsに合併し、Bear Sternsが存続法人となる。Bear SternsはJ.P. Morganの100%子会社となり、Bear Sternsの株主はJ.P. Morganの株式を受け取る、という典型的なReverse三角合併だ。

*Control基準が満たされない?

ここまで聞くと、通常の株式を対価とするReverse三角合併(=Stock Swap)として適格のB型再編、またはSec.368(a)(2)(E)に基づいてA型再編となるのが当然のように見える。普通に考えれば再編が非課税となるのが望ましいが、今回はそうではない。Bear Sternsの株式に対して$10相当の価値しか受け取らないということは多くの株主が多額の損失を認識するということになるからだ。したがって、非課税としてしまうと(その後J.P. Morganの株式を課税取引で売却しない限り)損失の認識がない。

ここで一点周到に仕組まれたであろう隠し技が登場する。Bear Sternsには「議決権のない」優先株式が存在する。この優先株に対してはJ.P. Morganの普通株式が支払われないというのだ。これはどのような結果に繋がるか?まず、「Stock for Stock」のB型再編であるが、こちらはタックス1年生でも知っているように「Solely For」規定を満たした上で、買収後に買い手がターゲットの「Control」に相当する持分を持っていなくてはいけない。

すなわち、買収後にJ.P. MorganはBear SternsのControlを有していなくてはいけない。ここでいうControlは再編(買収方D型再編を除く)、Sec.351等に適用されるSec.368(c)のControlである。このControlの定義に関しては過去のポスティングで再三にわたり触れているが、議決権付き株式の全てをまとめてそれの80%、および議決権のない株式は各々のクラスの価値80%、というものである。総額の価値は関係ない点、また議決権がないクラスの株式に関しては「各々のクラス」の80%を持つ必要があるため恣意性が高い。すなわち「Controlを実現したくない」ような局面においては、Control条件を敢えて達成し損なう(Bustする)ことはかなり容易である。

優先株を従来のBear Sterns株主がそのまま持ち続けるため、J.P. Morganは「Control」を持つに至らない。例えBear Sternsの普通株式を全てJ.P. Morganの普通株式で取得し100%の議決権株式を得たとしても、議決権のないクラスの株式に関しても80%以上を持たないとControlに至らないからだ。これは例え普通株式の部分が価値的に90%であったとしてもそのような結果となる。となるとB型再編の条件を満たすことができない。

もう一つの非課税再編ルートとなり得るReverse三角合併に対する非課税取り扱いを規定しているSec.368(a)(2)(E)に基づくA型再編に関しても同様だ。Reverse三角合併が適格再編となるためには通常のA型再編の条件に加えて、Sub All、およびターゲットのControlに匹敵する持分がVoting Stockで買収されること、という追加条件を満たすことが要求される。この点に関しては2007年7月16日「Reverse三角合併の税務上の取り扱い」を参照。ここでいうControlも上のSec.368(c)のControlとなることから、ここでも非課税の条件を満たすことができない。

*課税となるのはわざと?

この結果は「うっかり」のはずがない。この手の取引はいかに性急に準備されたとは言え何人もの専門家が取り扱いを検討するものだ。しかもCotrol条件を満たすかどうかの検討は買収局面では初歩的に検討される分野であり、NYのタックス弁護士が見逃すはずがない。となると、含み益が巨額となるBear Sternsの株式に配慮して敢えて課税取引になるような形で株式交換を実行したと考える方が自然であろう。

Friday, June 20, 2008

FIN 48ついに撤廃?

2007年には多くのポスティングをFIN 48関連に割いたが、その先行きがまた怪しくなってきた。というのも非上場企業に対するFIN 48の適用一年延期をFASBに勧告して認められたPCFRCが今度は「非上場企業にはFIN 48の適用を永遠に見合わせるべきだ」との勧告を行ったからだ。これは実質、非上場企業に関して言えばFIN 48撤廃ということになる。適用一年延期に関しては2007年11月8日の「FIN 48の非上場企業への適用ついに一年延期」を参照のこと。

*PCFRC

PCFRCに関してはFIN 48一年延期の際にも触れたが、これは「Private Company Financial Reporting Committee(PCFRC)」と呼ばれる非営利団体であり、非上場企業に係る会計原則適用の改善を図るためナントFIN 48を作成した「張本人」であるFASBそのものとAICPAが合同で発足させたものだ。その使命はFASBの作成する会計原則の非上場企業への適用法をFASBに推薦するというものである。そのPCFRCがFASBにFIN 48は非上場企業には適用するべきではないと勧告しているのだからただ事ではない。

*FIN 48は非上場企業には無用?

PCFRCでは一年延期を勧告した2007年後半以来、引き続き非上場企業に対するFIN 48適用のインパクトをリサーチしてきた。その結果分かったことは非上場企業の決算書の利用者にとってFIN 48下で求められる算定、開示全ては「ほぼ関心の対象外(Largely irrelevant)」だということだ。さらに、決算書の利用者にとって非上場企業が申告書でどのようなポジションを取っているかという点は意思決定を行う上でさして重要ではないという結果も出ている。

役に立たないばかりではない。多くの非上場企業の経営者および非上場企業にサービスを提供する会計士等にとってFIN 48を適用することは簡単ではなく、その作業はコストが高いという不満が浮き彫りになっている。さらに、多くの非上場企業がFIN 48の基準は無視して、その点に関してだけはGAAPに準じないというポジションを取るつもりであることも明らかになった。

これらのことから、有用性、費用対効果の観点からFIN 48は非上場企業には不適切であると結論付けられている。FIN 48のImplementationに関与した個人的な経験からもPCFRCのポイントは非上場企業に限って言えばかなり的を得ていると言える。

*非上場企業

非上場企業の定義は時としてややこしいが、SFAS 109を読むと「債券・株式が上場されていない事業主体」または「上場準備のためSEC等に決算書がファイルされていない事業主体」とされている。さらに2008年2月1日に公開されたFASB Staff Position (FSP)では、子会社が非上場で親会社が上場している場合でも「親会社が米国GAAPで決算書を作成していない」場合には子会社は非上場企業と考えていいとしている。したがって、多くの日本企業の米国現地法人がFIN 48目的では非上場企業となる。

*FASBの反応は?

FASBの反応は今後のミーティングを待つまで分からない。PCFRCは「もし不適用という勧告が受け入れられない場合には、期限ナシに延期を希望する」としている。期限ナシの延期はFASBが国際会計基準(IFRS)の急速な浸透に対して米国GAAPをどう整合化していくかという作業を通じてFIN 48のメリットが検証されるまでを目処とするべきとしている。一年延期と異なり、すんなりと勧告が受け入れられるかどうかは不明だ。今後の進展が興味深い。

*IFRSとFIN 48

IFRSにも当然決算書上のタックス費用の計算を規定するセクションはあるがもちろんFIN 48はない。IFRSが急速に認知される中、FASBはSFAS 109の改訂を準備していると言われている。SFAS 109とIFRSの差異をできるだけ少なくするためだ。しかし、その改訂後も当面はFIN 48は残ると見られており、米国GAAPを使用する限り(不適用がFASBに認められない場合、または上場企業の場合は)しばらくはFIN 48と付き合わざるを得ない。その意味でさっさとIFRSに移行するのが得策と判断する企業も出てくるであろう。

Tuesday, June 17, 2008

グリーンカード放棄と米国の税金「Update」

以前2007年7月6日の「グリーンカード放棄と米国の税金(2)」で触れたグリーンカード放棄に対する税法改正が遂に現実のものとなった。

2007年7月の段階では、法改正は「エネジー法」という資源節約を促すための減税措置が規定される法律に盛り込まれるという話しもあったが、最終的は本日(2008年6月17日)法制化された軍関係職員等に対する手当ての拡充を規定した「Heroes Earnings Assistance and Relief Tax Act of 2008」、略してHEART法(それにしても米国の法律はいつもながら語呂合わせが上手すぎ)に規定される運びとなった。

内容は予想通り、長期GC保有者がGCを放棄(またはTie Breaker規定を適用)した際、放棄時点で所有資産の含み益に課税してしまうというものだ。この法律はナント即日有効だ。

*HEART法

上述の通り、HEART法は軍職員、家族メンバーに対する諸手当の向上を規定したものだ。手当てを拡充するということはお金が掛かる。その原資として白羽の矢が立てられたのもののひとつが「米国市民権の放棄」または「長期保有者によるグリーンカード放棄」に対する課税強化である。ここではより多くの日本人に関係があるグリーンカード放棄に対する取り扱いに関して触れる。

*グリーンカード放棄時にみなし売却益(Mark-to-Market)

HEART法では長期にグリーンカードを保有していた者がグリーンカードを放棄する際には、放棄前日に全ての所有資産を時価で売却したものとみなして(Mark-to-Market)課税すると規定している。ただし、このみなし売却から発生する売却益には$600,000の非課税枠が設けられるため、実際に課税されるのはみなし売却益が$600,000を超えるケースとなる。この$600,000は2009年より物価スライド調整(COLA)の対象となる。

グリーンカードを放棄する者が初めて米国居住者となった時点で既に有していた資産に対してこのみなし売却益規定が適用される場合には、売却益の算定目的で必要となる税務上の簿価を「初めて居住者となった時点での資産の時価」とすることができる。ここでいう「初めて米国居住者となった時点」というのは必ずしもグリーンカードを持って初めて米国に入国した日とは限らず、グリーンカード取得以前に物理的に米国に入国しており「物理的な滞在テスト」に基づいて居住者となっていたようなケースでは、後者の規定に基づき初めて居住者となった日が簿価決定のタイミングとなる。この時価を簿価として使用するという規定は納税者の希望で不適用とすることもできる。

*HEART法対象者

HEART法に基づきみなし売却規定が適用される対象者の決定基準は従来からのグリーンカード放棄の規定に準じている。すなわち「長期グリーンカード保有者」となる者で過去の税金額の平均、所有資産の金額が一定以上となるケースだ。これらの規定は「グリーンカード放棄と米国の税金(1)」を参照。

*対象除外資産

繰延報酬に対する権利、適格財形、Nongrantor Trust(信託資産のうち該当個人が所有していると税務上取り扱われない部分)はみなし売却規定の対象から免除されている。繰延報酬の定義には外国のペンション・退職プランが含まれるとされており、これにより日本の退職金プランに対する権利をみなし売却したと取り扱われることはなさそうだ。

*みなし売却益に対する税金の支払い繰延選択

担保金証書を差し入れるという条件で、みなし売却から発生する税金の支払いを実際に資産を売却する時点まで繰り延べるという選択が認められる。この選択は個々の資産毎に認められる。選択をする場合には租税条約にどのような規定があってもIRSに徴収権を認めることに合意する必要があり、さらに税金の支払いを遅らせる分の金利が課せられる。

グリーンカードを放棄してももちろん1ドルも収入は入ってこないことから、みなし売却に基づく税負担にはキャッシュフロー的に厳しいものがあるだろうとの配慮に基づく規定である。

*HEART法の発効日

HEART法の規定はSec.877Aとして新たにI.R.C.に挿入される。従来のグリーンカード放棄に対する取り扱いを規定したSec.877はそのまま残るが、従来の規定はHEART法の施行日(2008年6月17日)またはそれ以降の放棄には適用されず、新法であるSec.877Aが適用される。またForm 8854のInitial Informationはそのまま必要となるが、10年間のAnnual Informationのページには改訂が必要となるものと思われ、この点に関しては今後のIRSのForm改訂に注目したい。

Monday, June 16, 2008

米国のスピンオフ(11)

前回のポスティングでは「Morris Trust」ケースの判決を受けてIRSが「スピンオフ+買収」という取引を容認していったこと、またこの手の取引が「Morris Trust」型取引として発展していったこと、そしてその変形である「Reverse Morris Trust」型取引というものがある点等に触れた。今回はMorris Trust型取引の横行に対して制定された1997年の法律に関して触れる。

*Sec. 355(e)

Sec. 355(e)はMorris Trustケース以来数多く行われてきた「買収(通常は非課税再編)の準備段階として買収対象として不必要な事業をスピンオフという形で分離する(Reverse Morris Trustの場合は逆に必要が事業を分離する)」という取引に一定の網を掛ける目的で制定されている。前回のポスティングでも触れたが、Sec. 355(e)は一般に「Anti-Morris Trust」として知られているが、皮肉なことに1997年の法律を適用するとMorris Trustケースは判決通りに「非課税」という結果となる。したがって、現時点でも条件次第では「Morris Trust」または「Reverse Morris Trust」型の再編は可能である。Anti-Morris Trustという用語に騙されないようにしよう。

*Sec.355(e)の骨子

Sec. 355(e)の基本的な規定は次の通りだ。スピンオフが他の条件を満たす適格スピンオフであっても、スピンオフと同一プランの一環でDまたはCの持分50%以上が取得される場合には、DがCをスピンオフとして分配する際にCの含み益に対して課税される。Sec.355(e)はDに対する課税を可能とするが、スピンオフの他の条件を満たしている限り、C株式をスピンオフとして受け取るD株主に対する配当課税はない。これは基本的にSec.355(e)(および後のポスティングで触れるSec.355(d))の規定は、含み益を持つ資産(=C株式)を法人が課税所得を認識することなく分配してしまう「General Utilities」型の取引に網を掛ける目的で制定されているからだと思われる。

*スピンオフと買収は「同一プランの一環」か?

Sec. 355(e)はスピンオフと買収が「同一プランの一環」として取り扱われる際にのみ適用がある。すなわち買収が決まっていて、買収に不必要な事業(またはReverse Morris Trustの場合には必要事業)をスピンオフして買収を助成するというケースに適用される。

このことからSec. 355(e)の実効性は、買収がスピンオフと「同一プランの一環」で行われているといかに認定することができか、に掛かってくる。したがって、Sec.355(e)の規定および財務省規則には、この点、すなわちどのような時にスピンオフと買収を同一プランの一環と取り扱うかという考え方にかなりの紙面を割いている。

買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうかという問題は「事実関係」の問題であり、その判断は個々のケースを取り巻く全ての事実関係に基づいて判断されるとされている(Facts and Circumstances Test)。しかし、その上で、鍵となる考え方はスピンオフの前後2年間(計4年)に行われた買収はスピンオフと同一プランの一環で行われたとみなすという規定だ。しかし、このみなし規定は「反証可能」なものであり、仮に短期間にスピンオフと買収が実行された場合でも、両者が同一のプランに基づいておらず、その旨を立証できる場合にはSec.355(e)の規定は適用されない(すなわちCの株式の含む益には課税されない)。

*同一プランの一環を示唆する事実関係

取引を取り巻く事実関係の中でも買収とスピンオフが同一プランの一環ではないかと示唆するとされているものは次のようなものだ。

  1. スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行されるまでの2年間に、買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績
  2. スピンオフ後に公募(Public Offering)がある場合、スピンオフが実行されるまでの2年間に、投資銀行と公募に係る話し合いが持たれた実績
  3. スピンオフ前に買収がある場合、買収が実行されるまでの2年間に、スピンオフに係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績
  4. スピンオフ前に公募がある場合、公募が実行されるまでの2年間に、投資銀行とスピンオフに係る話し合いが持たれた実績
  5. 買収等を助成するというスピンオフの事業目的

逆に上のような事実関係がない場合には同一プランの一環ではないという裏づけとなる。他にも同一プランの一環ではないという証拠となり得る事実関係は次の通りだ。

  1. スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行された後に市場環境が予想外に変化したことによる想定外の買収
  2. スピンオフ前に買収がある場合、買収が実行された後に市場環境が予想外に変化したことによる想定外のスピンオフ
  3. 買収の有無に係らずスピンオフが実行されたであろうという見解

*同一プランの一環の具体例

DはCの100%親会社であり、Dは事業1、Cは事業2に従事している。Dは業界では比較的小規模な存在であり、同業(事業1を営んでいる)で大企業であるXに買収されたいという戦略がある。XはDを買収したいがCの従事する事業2には関心がなく買収対象とは考えていない。Xによる買収を助成するため、DはCの株式をスピンオフするを合意し、XとDは買収に合意する。一ヵ月後にスピンオフが実行され、翌日には買収が実行される。XによるDの買収は株式を対価とする合併で行われXが存続法人となる。Dの旧株主は合併後のXの50%未満の株式を受け取る。

この例ではDの持分50%以上が合併を通じてX株主に渡ったことから、DによるCのスピンオフとXによるDの買収が同一プランの一環で行われている場合には、Sec.355(e)が適用され、DはC株式の含み益に課税されることとなる。同一プランの一環であったかどうかは「Facts and Circumstances」に基づき決定されるが、この例では同一プランの一環であることがかなり明白である。一応、事実関係の上の条件に当てはめてみると次の通りだ。

まず、このケースではスピンオフ後に買収が行われているが、スピンオフが実行されるまでの2年間に、買収に係る合意がみられる。また、スピンオフは買収を助成するという事業目的に基づいて行われている。一方で、同一プランの一環ではないと示唆できるとされている事実関係は存在しない。したがって、スピンオフと買収は同一プランの一環で実行されたものと取り扱われる。

次回のポスティングでもSec.355(e)の説明を続けたい。

Saturday, June 14, 2008

米国のスピンオフ(10)

米国のスピンオフに関しては2008年4月22日に「米国のスピンオフ(9)」で「買収の前段階で不必要な事業を分離するためのスピンオフ」の課税関係を決定したMorris Trustケースについて触れた。そこまで書いた時点で外国人パートナーに係るパートナーシップの予定納税算定に係る最終財務省規則が発行されたのでそちらの特集が続いたが、またスピンオフ・シリーズに戻る。

*Morris Trustに対するIRSの反応

Morris Trustケースでは納税者が勝利を納めたが、その後IRSはRev. Rul. 68-603でその負けを認めている。具体的には次の点を是認している。

  1. Dがスピンオフ直後に合併により消滅してもActive Trade or Business条件を満たすことができる
  2. スピンオフの対象となる事業がDの一事業部門である場合に、スピンオフの第一ステップとして実行されるD型再編(スピンオフする事業の子会社化)に関して、D型再編のControl条件は、例えDがスピンオフ直後に合併等の再編に関与したとしても満たすことができる
  3. 合併のためのスピンオフには事業目的が存在し得る

これにより基本的にIRSはMorris Trustタイプの「スピンオフ+買収」という取引を容認したということになる。

*買収を想定したスピンオフ

買収を予想・想定してのスピンオフは今日でも数多く見られる。スピンオフに係る具体例として過去に何回か取り挙げている「モトローラによるMobiel Device事業のスピンオフ」また「タイムワーナーによるネット接続事業のスピンオフ」も、それらの事業をスピンオフという手法で独立法人とした後、誰か同業が買収してくれるのではないかという期待があるであろう。したがって、どのようなスピンオフでも、その後DまたはCが買収される可能性は常にある。買収案件の半数はその相手が何らかのDivestitureであるということからもスピンオフと買収の関係は深い。しかし、Morris Trust取引では「買収が決定しており、買収に不要な事業を分離するため、すなわち買収を助成するためという明確な目的でスピンオフ」している点にポイントがある。

買収される側が、買収に不要な事業を分離する際には単純に事業を売却するというオプションもある。そのような手法を取ると不要な事業を売却した時点でDは事業の含み益に課税されてしまうことになる。これをスピンオフとして実行すれば課税されないとなると、その効用はかなり大きい。

結果として多くの再編がMorris Trustケースに準じる形で実行されるようになった。すなわち、第三者がDを非課税再編で買収しようとするがDに買収対象として望ましくない事業が存在するケースでは、Dが不要な事業をCという新法人に現物出資で移管し、Cをスピンオフする。その後、Dは合併、株式交換等の手法で買収され、Cは単独の別法人として残るというものだ。

通常、スピンオフ後の買収はA型再編となる2社間の合併、またはB型再編となる株式交換、という手法で行われることが多かった。これは三角合併(ForwardでもReverseでも)の非課税要件には「Sub All」規定というものがあり、スピンオフ後の買収には適用が難しいという理由がある。ただし、LLCという事業主体形態が登場してからはSMLLCを利用して法的にはForwardの三角合併を行い、SMLLCを税務上は支店扱い(Disregarded Entity)と取り扱うことにより、2社間のA型再編と位置付けることが可能となっている。このSub All規定とReverse Morris Trustに関しては後述する。

なお、スピンオフ後の買収の対価が株式ではなく現金等となる場合には、Device規定、持分継続規定、等に抵触することとなりMorris Trustケース以降も非課税スピンオフの取り扱いは認められないと思われる。したがって、Morris Trustはスピンオフ後の買収が「非課税再編」にて実行されるケースに効果を発揮する。

*Reverse Morris Trust

上のMorris Trust型の取引では、買収されるのはあくまでもスピンオフを行う側にあるDであり、スピンオフされる(すなわち買収に不要な事業を持たされた)Cではない。これは1998年頃までは重要なポイントであった。仮にCに買収対象となる事業を移管してスピンオフし、その後第三者がCを非課税再編で買収したとするという手法を取るとすると、DとCの立場が入れ替わる。このような形態は「Reverse Morris Trust」として知られている。

Reverse Morris Trustにおける経済的な効果は通常のMorris Trust取引と同様であるが、Cが買収の対象となることで、DがCに事業を現物出資した際の取引(=D型再編)に技術的な問題が生じると長らく信じられてきた。具体的にはD型再編に必要とされる「Control」条件が、Cが買収されてしまうことによりC株主の構成が変わり、満たされないとされていたからだ。これはMorris Trustケース、またその後のIRSによる是認されたケースの事実関係では、買収される事業主体はDであり、Cの株主はそのまま継続していたので問題とならなかったのと対照的な結果である。

このReverse Morris Trustは98年頃に息を吹き返すこととなる。スピンオフに先立つD型再編に求められる「Control」条件は、スピンオフ後にCの株式が第三者に譲渡されることが決まっていてもD型再編に基づく現物出資時点で必要%に至る持分がDに発行されていればそれでいいという法改正が行われたからだ。また後述の1997年の法改正も取り扱いに係る透明性を向上させた。

D型再編というのはA,B,C型再編と異なり、買収型と分割型(スピンオフの前段階におけるスピンオフ対象事業の子会社化)がある。D型再編の「Control」条件はかなり込み入っており、明言してしまうのは恐ろしいが、分割型のD型再編に関しては他の再編と同様のSec.368(c)に規定される%が必要である。これは議決権付き株式の全てをまとめてそれの80%、および議決権のない株式は各々のクラスの価値80%、というものである。総額の価値は関係ない点が極めて興味深い。スピンオフの話しとは直接関係ないが買収型のD型再編に関しては、Sec.304に規定される「Control」条件が適用されることから50%超の持分でControlが認められる(これには実はIRS側でむしろD型再編の存在を肯定したいという局面が多いという「不純な(?)」動機がある)。

話しは極めてややこしいが、D型再編に係るControlとは別にスピンオフの規定そのものにも「Control」条件がある(この点に関しては「米国のスピンオフ(3)」を参照)。D型再編が伴うかどうかに係らず、スピンオフ規定自体のControl条件は全てのスピンオフに適用されるが、このControl条件に関してもD型再編に係るControl同様に必要な持分%(Sec.368(c) Control)をDがDの株主に分配さへすれば、その直後にDの株主がC株式を譲渡その他しても問題はないとされる。

なお、スピンオフの対象となる事業が初めから別子会社により行われていた場合には、スピンオフ時にD型再編にて事業資産を新規法人に現物出資する必要がなく、D型再編の条件を満たすかどうかという問題はそもそも発生しない。その場合には他のスピンオフ条件が満たされていれば良かった。上述のD型再編に係るControl条件の緩和により、基本的にはD型再編を伴うスピンオフも伴わないスピンオフも取り扱いが同様になったような感じを受ける。

最後にReverse Morris Trust型の手法に基づきCが非課税再編にて買収される場合に、再編の形態次第では上述のSub All規定が求められることがある(三角合併、C型再編)。その際に、C法人だけの資産にてSub Allを判断するのか、Dの資産をも加味して判断するのかという問題が生じる。現時点では例えスピンオフ時にD型再編でCが分離されたケースでも、Cのみの資産を基に判断が認められている。この点もReverse Morris Trust型の自由化の一環である。

*1997年の「Anti-Morris Trust」法改正

上のような背景を基に、1997年にはMorris Trust型の取引に対する取り扱いがついに条文にて明確に規定されるに至った。1997年の法律は一般に「Anti-Morris Trust」として知られているが、皮肉なことに1997年の法律を適用するとMorris Trustケースは判決通りに「非課税」という結果となる。したがって、現時点でも条件次第では「Morris Trust」または「Reverse Morris Trust」型の再編は可能である。Anti-Morris Trustという用語に騙されないようにしよう。この法律の説明は一筋縄ではいかないため、また今回のポスティングは既にかなり技術的に難解となっているため、ここからは次回のポスティングとする。

Thursday, June 12, 2008

外国人パートナーと米国パートナーシップ(6)

前回のポスティングでは損失報告の権利があるとされた外国人パートナーが「どのようなタイプの損失を報告し、パートナーシップに考慮してもらうことができるか?」に関して触れたが、今回のポスティングでは「De minimis」規定および「パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税」に関して触れたい。また、最後に損失報告の具体的手順等に関して若干触れ、6回に亘り話してきた当テーマを締めくくりたい。

*「De minimis」規定

De minimis規定とは簡単に訳すと「少額免除」とでもなるが、その名の通り、この規定下では、パートナーシップ側で外国人パートナーに代わって行うはずの予定納税の金額が少ない場合にはパートナーシップ側での予定納税義務が免除される。

De minimis規定の適用を受けることができるのは外国人パートナーの中でも「個人パートナー」に限定される。したがって「法人パートナー」への適用はない。また、この規定の適用をパートナーシップに申請するには、当パートナーシップへの投資のみが米国事業所得(ECI)であるという条件を満たす必要がある。これらの条件を満たす外国人パートナーに関して、パートナーシップが支払うはずの予定納税の「年間総額」が$1,000に満たないと算定される場合、パートナーシップによる予定納税義務そのものが免除される。予定納税の年額が$1,000に至るかどうかの判断は外国人パートナーによる損失報告(もしあれば)「前」の段階で行う必要がある。

該当パートナーシップ投資以外に米国事業からの所得があってはいけないという点に関してだが、もし過去の課税年度に他の米国事業に従事しており、それに関連して後年に繰延報酬があったり、事業資産を売却したようなケースではその後年に関して米国事業に従事していると取り扱われる。

また、この規定はFIRPTA規定に基づく米国不動産持分の売却にも適用される。すなわち、単なる不動産所有およびPassiveな賃貸収入の受領はそれだけでは米国事業には至らないが(Sec.871(d)に基づくネットElectionをしているケースは別)、米国不動産の売却はその不動産が実際に事業用途に使用されていたかどうかに係らず自動的に「事業所得(ECI)」となる。したがって、米国不動産持分の売却があるということはイコールその年に関しては米国事業に従事している状態となる。

De minimis規定の適用を申請した後に、他の米国事業に従事するようになった場合には、外国人パートナーは10日以内にその旨をパートナーシップに報告しなくてはならない。

*パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税

損失報告をすることができる立場にある外国人パートナー(過去の申告実績があるパートナー)に関しては、実際に損失の報告、またはDe minimis規定適用の申請、がない場合でも、パートナーシップは自らが外国人パートナーに代わって支払う州税の控除効果を加味しても良いとされる。具体的には州税の90%までを各パートナーに配賦される課税所得算定時に費用として計上することが認められる。

*損失報告手順

損失の報告はIRSが新規にデザインする「Form 8804-C」にて行われるものとされている。IRSは既にこのForm 8804-Cを公表しているが複雑な規定を僅か2ページ半の分かり易い様式に凝縮している(プラス5ページのInstructions)。米国のFormのデザイン担当者は税法を完璧に理解した上で、素人にも分かるように、更にそれを少ないページにまとめるという離れ業を得意としているが今回もその好例だ。このFormでは損失の報告をすると同時に、外国人パートナーが報告をできる立場にあるという点(過去の申告実績を満たしているという点)も同時に告知できるようになっている。

外国人パートナーからForm 8804-Cを受け取ったパートナーシップは基本的にその内容に準拠してもよいとされる。パートナーシップはその判断で損失報告の内容を加味しないで予定納税を行うこともできる。損失報告を加味して予定納税を算定する場合には、パートナーシップが予定納税の納付時にIRSに提出するForm 8813に外国人パートナーから受け取ったForm 8804-Cのコピーを添付する義務がある。その後、Form 8804-Cの内容変更がない場合には、その後の四半期毎の予定納税時にはForm 8804-Cのコピーを添付し続けてもいいし、また2回目からは簡単なStatementをForm 8813に添付するという方法も認められる。

IRSはその裁量に基づき、損失報告は信用に値しないと判断することができる。そのような判断に至った場合にはその旨をパートナーとパートナーシップに通知してくる。通知を受けたパートナーシップは、損失報告はなかったものとして予定納税の算定をする必要がある。

過去の四半期で既に損失報告を加味してしまっている場合には、IRSから「信用に値しない」という通告を受けた後の四半期にて過去に減額した部分を取り戻す形で予定納税を行う必要がある。IRSからの通知は、損失報告の信憑性の高低により、信用に値しないとされたForm 8804-Cの「対象年度のみ」損失報告を加味できないケースと、その後の「全ての年度に関して」損失を考慮することが認められないケースに大別される。後者の場合にはIRSからその後「損失を考慮してもよろしい」という通知がくるまでその影響は続く。

最後に今まで話してきた規定はパートナーシップ側の外国人パートナーに代わる予定納税義務に係るものである。言うまでもないかもしれないが、外国人パートナーを含む全ての納税者に課せられる「予定納税義務」はそのまま存在する。したがって、損失報告をしてパートナーシップ側では問題なく予定納税を減額したケースで、もし外国人パートナー側そのもので支払い漏れが発生する場合には外国人パートナーに対して通常の「予定納税ペナルティー」規定が適用されることとなる。

Saturday, June 7, 2008

外国人パートナーと米国パートナーシップ(5)

前回のポスティングではどのような外国人パートナーが過去に米国にて申告実績があると認められ(すなわち信用に値する)、したがってパートナーシップによる予定納税の減額申請を行うことができるかを解説した。今回のポスティングでは損失報告の権利があるとされた外国人パートナーが「どのようなタイプの損失を報告し、パートナーシップに考慮してもらうことができるか?」に関して触れる。

*予定納税減額に適用される損失

外国人パートナーが予定納税を減額してもらうためにパートナーシップに報告することが認められる損失は大別すると次のようなものだ。当然であるが、全ての損失は米国の事業所得であるECIと相殺が認めら得るタイプの損失でなくてはならない。

  1. 予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失
  2. 予定納税を行うパートナーシップとは別のパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失
  3. 外国人パートナーがパートナーシップを介さずに直接米国にて過年度に認識した欠損金等の損失

これらの報告が必要な損失とは別に、パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税に関しては別の規定が設けられている(後述)。

上の3つの損失タイプを見ると分かるように、パートナーシップが予定納税算定の際に取り込むことが認められる損失は基本的に全て「過去」のものでなくてはならない。すなわち、予定納税を減額してもらおうとする対象年度に外国人パートナーが他のソースから認識すると「予想」される損失・控除等は加味することはできない。

*予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失

予定納税を行うパートナーシップそのものが過去に認識した欠損金等の損失は、パートナーシップが提出する報告申告書であるForm 1065および各パートナーに対する配賦金額が表示されているK-1に反映されている必要がある。

パートナーシップ申告書の期限は翌年の4月15日となることから、最初の四半期に対する損失報告には直近年度の金額が確定していないケースもある。財務省規則の文言を見る限り、そのようなケースでも予定納税の対象となる年度に使用できると合理的に推定される損失に関してはK-1等の最終化を待たずに報告対象として問題ないようにみえる。もちろん金額が確定していないので、後に確定した時点では速やかに報告を更新する必要がある。

報告を行う相手となるパートナーシップ自身に過去の欠損金等が存在する場合、パートナーシップ側としてみれば損失の存在自体には何の疑いを持つ必要もない。自分が作り出した損失だからだ。しかし、そのような過去の欠損金が翌年以降に未使用で残っているかどうかは外国人パートナー本人にしか分からない。欠損金が発生した年度に他のソースから米国事業所得であるECIが発生しているようなケースでは、すでに欠損金が使用されて残っていない事態も十分にあり得るからである。

そのため、外国人パートナーは、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関してのみ報告対象とすることが認められる。合理的な推定に後日変更がある場合には、速やかに報告を更新する必要がある。

パートナーシップから配賦されてくる損失はパートナー側の「パートナーシップに対する税務簿価(Basis)」を上限としてのみ取り込むことができる。この規定は、配賦に実質的な経済効果(Substantial Economic Effect)があるかどうかという問題とは別で、SEEがあるとされた配賦に対してもパートナー側ではBasisを上限としてのみ損失の取り込みが認められる。なお、ここでいうBasisは当然、Sec.752に基づく負債配賦額を含むことになるので一般的な投資残高、キャピタル勘定の残高等の金額とは異なる。

このBasis上限規定で過去に取り込みが認められなかった金額は翌年以降に十分なBasisが取り戻された時点で使用が認められる。この辺りの話しはそれだけで数回のポスティングが必要となるトピックなので今回はこれくらいにしておくが、過去にこの理由で使用できなかった損失も、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関しては報告対象とすることが認められる。これは予定納税を行うパートナーシップからの損失に限って認められる規定であり、他のパートナーシップからの損失に関しては後述する。

*予定納税を行うパートナーシップとは別のパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失

他のパートナーシップにも投資している外国人パートナーは、そのパートナーシップから配賦される過去の損失もForm 1065およびK-1にて報告されている金額であれば報告対象とすることができる。他のパートナーシップから配賦される損失を報告するためには、予定納税期限(または予定納税の対象となるパートナーシップ課税年度末日)より前に終了する外国人パートナー課税年度の米国申告書にて損失が外国人パートナーにより取り込まれている必要がある。

上述の予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失の報告のケース同様に、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関してのみ報告対象とすることが認められる。

別のパートナーシップから配賦された過去の損失を報告する際には、上述のBasis制限に抵触した過去の損失を報告対象の一部とすることはできず、この点は予定納税を行うパートナーシップそのものから配賦された過去の損失に対する取り扱いと異なる。

*外国人パートナーがパートナーシップを介さずに直接米国にて過年度に認識した欠損金等の損失

外国人パートナーが自ら直接米国事業に係り認識した過去の損失も報告対象となる。損失を報告するためには、予定納税期限(または予定納税の対象となるパートナーシップ課税年度末日)より前に終了する外国人パートナー課税年度の米国申告書にて損失が外国人パートナーにより取り込まれている必要がある。直接認識する損失であることから、もちろんForm 1065とかK-1に係る規定はない。

*損失を取り込む際の注意点

外国人パートナーから報告される過去の欠損金に関して、AMTポジションとなる場合には、AMTの算定目的では欠損金は単年度AMT所得の90%までしか考慮することができないので、パートナーシップが予定納税の減額を算定する際にも90%制限を適用する必要がある。

また、パートナー側での損失の利用には上述のBasis制限の他にも、Passive Activity Loss、At-Risk規定、等の制限がある。これらの制限に抵触する場合には、パートナーシップ側で適切は予定納税額の算定ができるような外国人パートナーによる報告が必要なる。

次回のポスティングでは限定的な局面で予定納税そのものが免除される「De minimis」規定および「パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税の取り扱い」に関して触れたい。

外国人パートナーと米国パートナーシップ(4)

前回のポスティングでは過去に米国パートナーシップに対して損失報告を行ったことがない外国人パートナーが「過去3年間の申告実績」条件を満たすため規定に関して触れた。今回は過去にそのような報告をした経験を持つ外国人パートナーに適用される規定に関して触れる。

*過去に損失報告を行ったことがあるケース

仮に外国人パートナーがXXX7年にパートナーシップに対して損失報告を行い、パートナーシップによる予定納税の減額をリクエストするものとする。この外国人パートナーは過去に「別の」パートナーシップに対して同様の損失報告を行った経験がある。その場合、当然「初めて」の損失報告ではないため「前回のポスティング」にて解説した規定を適用することはできない。ここでのポイントはXXX7年に損失報告を行う相手となるパートナーシップと、過去に損失報告を行ったパートナーシップが異なるパートナーシップであっても、XXX7年の報告に関しては「初めて」とはならない点だ。

XXX7年の第一四半期の予定納税を減額しれもらうため、外国人パートナーはXXX7年の4月10日に損失報告を行うとする。予定納税の減額を認めてもらうためには過去3年、米国にてECIを報告するための確定申告をタイムリーに行っている必要があるのは前回のポスティングの例と同様である。しかし「タイムリー」の定義が初めて損失報告をする外国人パートナーに適用されるものと異なる。

過去に損失報告を行った経験のある外国人パートナーは、後年に損失報告を行うためには、後年の時点で過去3年間の確定申告書を申告書の本来の提出期限(延長を含む)までに提出完了し、必要な税金を支払い終えている必要がある。「もともとの提出期限から1年後までに提出されていればOKです」という寛大な猶予期間が与えられない点、初めて損失報告を行う外国人パートナーと条件が異なる点注意が必要だ。

もし上の例の続きで、XXX5年の申告書がXXX7年3月25日に提出されていたとすると、XXX7年に損失報告を行うことは認められない。XXX5年の非居住者申告書の申告提出期限(延長前)はXXX6年6月15日である。初めて損失報告をする外国人パートナーであれば、これに一年を加えてXXX7年6月15日までに申告書を提出していればOKであるが、経験者に関してはそのような「プラス1年」という規定はない。したがって、申告書は延長を含めた法的な提出期限となるXXX6年の10月15日までに提出される必要があり、XXX7年3月25日では遅すぎることとなる。

*損失報告することが認めている外国人パートナー

このように外国人パートナーがパートナーシップに損失報告をする権利があるかどうかを判断するためには、外国人パートナーの過去の米国での申告書提出実績が問われる。実績があるとみなされるためには「タイムリー」な申告書提出、税金支払いが求められるが、そのタイムリーの定義が損失報告を過去に行ったことがあるかどうかにより異なる。

いずれにしても3年間の実績が求められることから、始めて米国に投資する外国人パートナーは少なくとも最初の3年は損失報告の機会が与えられないこととなる。更に3年間の申告書は米国の事業所得であるECIを報告しているものである必要もある。

次回のポスティングでは、損失報告の権利があるとされる外国人パートナーが「どのようなタイプの損失を報告し、パートナーシップに考慮してもらうことが可能か?」という点に関して触れる。

Sunday, May 25, 2008

ゲイカップルの結婚と連邦税

カリフォルニア州最高裁は先週2008年5月15日に同性婚を禁じた州法を違憲とする判決を出し、ゲイカップルの結婚を認めた。このニュースは米国ではかなり大きく取り上げられ、ニュース番組では賛否両論、熱のこもった議論が展開されていた。同性婚を法的に認めたのはマサチューセッツ州に次ぐ二州目となるが、カリフォルニア州の政治的影響力が強いことからその反響は大きい。

*米国での結婚

米国憲法上、婚姻は州の法律により規定される分野であり、その意味で米国における結婚は全てどこかの州(DCを含む)の法律に基づくものである。また同じく憲法上の規定である「Full Faith and Credit」条項に基づき、他州での法的な権利はどの州でも認められるというのが原則であることから、どこかの州で結婚した後、他の州に引っ越しても婚姻関係はそのまま認められ、他州で結婚をし直す必要はない。

*連邦税への影響は?

結婚しているとしていないでは連邦税法上の取り扱いも大きく異なることがある。例えば「夫婦合算申告(Married Filing Joint)」は結婚しているカップルのみに認められる申告方法だし、カップルの一方にのみ所得がある場合でも他方の者がIRAに加入できる「Spousal IRA」も結婚しているカップル間でのみ可能である。

上述の通り、通常、結婚しているかどうかは州法の規定に基づいて判断されるため、カリフォルニア州またはマサチューセッツ州で「結婚」したゲイカップルに対しては連邦税法上「結婚しているカップル」と認められてもおかしくないはずである。ところがその行く手を阻む法律がある。

*連邦「Defense of Marriage Act」法

DOMAとして知られるこの法律の趣旨は大別して二つある。まず、ゲイカップル間の結婚に関しては他州がそれを認めていたとしても自州ではそれを認める必要はない、というものだ。これは基本的に上述の「Full Faith and Credit」条項の影響を取り消すものである。

しかし、Full Faith and Credit条項は連邦憲法上の規定だ。憲法の規定を議会が制定する法律で取り消すことができないのは明白であり、この点に関しては多少不思議な法律だ。ただし、他州の法律が自州の法律、政策に真っ向から対立するような場合には特別な考え方があったり、Full Faith and Creditをどのように実践するかに関して連邦議会にある程度の権限が与えられていたり、とかなり実態は複雑だ。当然、DOMAは違憲だという訴訟が起きてはいるが現時点では最高裁判所はこの点の審理を受け付けていない。米国の連邦最高裁判所は裁量的管轄(Writ of Ceciorari)に基づき好きなケースのみを取り上げればよいからだ。

DOMAのもうひとつの規定は州法の規定に係らず「連邦法」目的ではゲイカップルの結婚は結婚とは認めないというものだ。この規定により、例えカリフォルニア州またはマサチューセッツ州で立派に結婚していると認められていても、ゲイカップルである限り連邦税法上は結婚していることにはならないことになる。したがって、現時点では夫婦合算申告もできないし、Spousal IRAへの加入もできないこととなる。

DOMAのこちらの規定は、フェアかどうかは別として、連邦法目的で結婚をどう定義するかという検討事項であり、この点は連邦が州の法律に縛られずに勝手に決めることができる問題である。これは、州法に基づき設立されるCorporation、GP、LP、LLC、LLP、LLLP、Trustといった事業主体(これらの事業主体は州法に基づき設立される)を連邦税法上、どのように取り扱うかを連邦が勝手に決めることができるCheck-the-Boxルールを見ても明らかだ。

*本家カリフォルニアでは

カリフォルニア州では州最高裁の判断よりも早く、2007年より州にきちんと「婚姻届」を提出した「Registered Domestic Partners(RDP)」は法律上、夫婦としての取り扱いが認められるようになった。また、カリフォルニア州等の西部州の多くは夫婦間の財産権規定として「Community Property」法を採択している。これらの目的でもRDPは夫婦同様に取り扱われるようになるらしい。時代の流れと共に法律も着実に変化していくのが実感できる。

Saturday, May 24, 2008

日本版Sec.965「海外子会社からの配当金非課税」

日本の経済産業相が日本企業が海外で稼いだ利益を国内に還流させるため海外子会社からの受取配当金を非課税とする税制改正を求める方針を表明したというニュースは多くの方が既にご存知のことと思う。米国にある現地法人では早くも2008年の日本親会社向けの配当は見送り、税制改正が適用されるかもしれない2009年を待つという政策を検討しているところもある。特にR&Dクレジットその他の利用で米国での実効税率を低く抑えることに成功している企業にはこの点は重要である。

*日本での海外子会社からの配当課税

日本における海外子会社からの配当課税は基本的に米国の取り扱いと同様だ。すなわち、配当は全額課税されるが、配当の支払いに課せられた外国での源泉税は直接税額控除、配当原資である現地法人の所得に課せられた外国の法人税は間接税額控除の対象となるというものだ。

米国現地法人から日本親会社に対する配当は租税条約上、通常は0%の源泉税となるため、間接税額控除のみが検討事項となる。仮に日本の実効税率を40%とすると、米国で同様の実効税率にて法人税(連邦プラス州)を納めているようなケースでは日本で追加で支払う税金は最小限となり、経済産業省の提案する税制改正は余り意味がない。したがって、提案されている税制改正は、低税率国からの配当、または米国のような通常は日本同様の税率にて課税される国にありながらR&Dクレジットその他の節税プラニングに基づき実効税率が抑えられているケースで最も大きな効果を発揮するものと思われる。

*なぜ非課税とするか?

今回の経済産業相による提案は、従来の税法下で海外での利益を配当として日本に還流すれば、40%という世界でも最も高い水準の法人税を課せられることが背景にある。すなわち、海外に資金をおいたまま再投資に回すことを税法が促進しているのではないかという考え方に基づく。日本で課税されるくらいならと海外で稼いだ利益は現地においたまま投資に回す方がいいと考えるのは確かに当然であろう。税制を改正することにより日本の外に眠っている資金を帰国させ、日本の国内経済の成長に寄与させようというものだ。

*米国のSec.965

この試みを耳にして直ぐに思い起こされるのが2004年に米国で施行された「American Job Creation Act」の一条項であろう。この条項は税法のSec.965として法律化されたもので、基本的に一年間の期間限定で米国外子会社からの配当の85%を非課税とするというものであった。連邦法人税は35%であることから、海外子会社からの配当は実質5.25%の課税で米国に還流することができたということになる。

この税法は日本で提案されているものと同様に「米国での投資・雇用を促進するため」という目的を持っていた。また、通常の配当ではなく、特別に大きな金額の配当であること、そして従来は米国に還流する意図のなかった金額を持ち帰るという条件もついていた。

米国では海外にて無期限に再投資すると経営陣が意図している海外の所得に関しては会計上、繰延税金を計上しなくてもよいという会計原則(APB 23)がある。この会計原則を利用して大企業のほとんどが決算書上、海外の低税率国で稼いだ利益は「永遠に再投資するつもりだ」と開示して米国の繰延税金を計上しないでいる。このような元々外国で再投資すると開示されていた金額を米国に持ち帰ることによりSec.965の恩典を享受することができた。その場合、急遽配当されることなった金額に関しては決算書上も繰延税金、または実際に配当された時点で本当の支払い税金が計上されることとなるが、連邦税に関して言えば5.25%という低い税金費用を計上すればよいだけに止まる。

*米国での投資・雇用促進は実現したか?

上述の通り、米国のSec.965下での非課税恩典を受けるには海外からの配当が米国での雇用・投資を促進する目的に使用される必要があった。具体的には「米国投資案(Domesticn Reinvestment Plan)」というトップ経営陣に承認され文書化されたプランに基づき配当された金額が米国での雇用、従業員教育、設備投資、R&D、雇用創出のための企業の財務体質強化、等の目的に使用される必要があると規定されていた。また、配当を経営陣の報酬に回してはいけないという規定も設けられていた。

多くの大企業がSec.965の恩典に基づき多額の配当を行ったが、実際に米国投資に目に見える効果があったかどうかは疑わしいという声もある。

*お金に色なし

一番の問題は「お金に色はない」という点であろう。多くの企業がSec.965の適用有無に係らず、いずれにしても米国内で設備投資、R&D等の活動をする必要がある。したがって、配当に基づいて新たに特別な活動を開始する必要は必ずしもなく、従来からいずれにしても行う予定であった活動をあたかもSec.965 のための活動かのように位置づけることが可能であった。そして、それらの活動を特別配当で賄ったことにして非課税の恩典を享受することができる。となると今度は本来使用するはずであった資金に手を付ける必要がなくなり、こちらの余剰資金を、経営陣に報酬を支給したり、株主へ配当を行ったりとSec.965では認められない好き勝手な用途に振り向けることができる。何のことはない結局、特別配当は「間接的」に企業の好むどのような目的にも使用されていたことになる。

*日本ではどのような条件が付くか?

日本版Sec.965ではどのような条件が規定されるのか現時点では分からない。注目すべき点としては、1)時限措置となるのか永久措置か、2)配当を原資とした日本での投資用途等に係る条件が設けられるのか、3)金額的に通常の配当粋を超える必要があるのか、その場合にはどのような算定でその判断を行うか、というようなことであろう。

どのような条件を付けたとしても米国の経験からその有効性は保証されないし、また逆に条件ナシとしてもグローバルで競争する日本企業がどれだけ敢えて日本に資金を還流させる決断をするか、等予測困難な問題も多い。いずれにしても今後の展開がかなり興味深いと言える。

米国パートナーシップと外国人パートナー(3)

前回のポスティングで外国人パートナーを持つ米国パートナーシップの予定納税義務の概要、その算定に各パートナー側で個別に認識する損失を取り込むことが認められたことに関してまとめた。

最終規則下で、1)どのような外国人パートナーに損失を報告することを認めているのか、2)どのようなタイプの損失が考慮されるのか、3)どのような手順で損失の存在を報告し、どのような条件でパートナーシップは報告を加味してもよいとされているか、と3つの内容を順に検討する。

*どのような外国人パートナーに損失を報告することを認めているか?

パートナーシップに予定納税を強要している目的が最終的に外国人パートナーから税金の取り逃れがないようにということであることから、全ての外国人パートナーの言うがままに予定納税額を減額することは認められない。したがって、規定を利用して予定納税を減額できるのはある程度の「信用」がある外国人パートナーに限定される。

具体的に信用を図る尺度として採択されているのが「過去における米国申告書提出の実績」だ。予定納税の減額を認めるかどうかはパートナーシップにより各パートナー個々に判断される。したがって、複数の外国人パートナーを持つパートナーシップは個々のパートナーの状況次第で各々に対して予定納税の減額を認めるかどうかを決定しなくてはならない。

その決定の第一ステップとなるのが、外国人パートナーが過去にきちんと米国の確定申告書を提出しているかどうかという点となる。この条件を満たさないと予定納税の減額は認められない。なお、パートナーシップ自身が支払う州税に基づく連邦予定納税の減額に関しては若干異なる規定が適用されるが、この点に関しては「どのようなタイプの損失が考慮されるか」のポスティングで触れる。

*過去の申告書提出実績

この申告書提出実績の有無の判断はかなりややこしい。いろいろなパターンの状況を予測して対応するために税法は何を規定するにしても複雑怪奇とならざるを得ないのだろう。

まずここで言う申告書とは米国でのECI、すなわち事業活動を報告したものでなくてはならない。FDAPでECIとならない投資所得に対して源泉税が十分でない等の理由で申告書を提出していても申告書を提出したことにはならない。同様に、FDAPでECIとならない投資所得に対して過多な源泉税が徴収されているようなケースで提出する還付請求の申告書も適格とはならない。さらにECIはないが、もしIRSにECIを認定された際に費用控除を認めてもらうために提出する「Protective Return」もダメだ。

申告実績の判断は「外国人パートナーが米国パートナーシップに対して初めて損失を報告するケース」と「過去にそのような報告をしたことがあるケース」の各々のケースに対して異なる基準で行われる。別のパートナーシップに対して過去に損失報告をした経験がある外国人パートナーは、例え今回報告を行うパートナーシップには初めての報告となるケースでも、過去に報告をした経験があるという取り扱いを受ける。

*初めて損失報告をするケース

初めて損失を報告するパートナーは、それ以前の3年間に関してタイムリーに申告書を提出し、必要な税金を支払っている必要がある。ここでいう「タイムリーな提出」は通常の申告期限を遅れているものも含むことがある。この点は実務的な対応であり寛容である。

具体的には次の通りだ。パートナーシップもパートナーも課税年度は暦年ベースで、外国人パートナーが仮にXXX4年に初めて損失報告して予定納税の減額をリクエストするものとする。また、報告はXXX4年の第一四半期の予定納税(XXX4年4月15日期限)に間に合うよう、XXX4年の3月20日に提出されたものとする。予定納税の減額には過去3年の申告書提出実績が求められることから、XXX1年、XXX2年、XXX3年の申告書の提出実績が必要となる。

米国居住者の申告書は翌年4月15日(法人は3月15日)が期限となるが非居住者申告書は(米国源泉の「給与所得」を受け取っていない限り)6月15日が申告期限となる。さらに延長申請をすれば10月15日(法人は9月15日)が期限となる。

したがってXXX1年の外国人パートナー申告書の通常の提出期限はXXX2年の6月15日で、XXX2年10月15日まで延長が可能だ。しかし、この期間に申告書を提出していなかったとしても、元々の提出期限であるXXX2年6月15日から1年後である「XXX3年6月15日」または「XXX4年に関して損失を報告するタイミング(この例ではXXX4年3月20日)」のいずれか早い時点までに申告書が出ており、かつ必要な税金が支払われていればXXX1年の申告書はタイムリーであったと認められる。この寛大は措置の適用は、延長を考えないもともとの申告書提出期限(この例ではXXX2年6月15日)が、損失報告をして予定納税を減額しようとするパートナーシップの課税年度の開始日(この例ではXXX4年1月1日)より前となるケースに限られる。

XXX2年の申告書も同様の規定が適用される。すなわち、本来の期限であるXXX3年6月15日から一年後の「XXX4年6月15日」または「XXX4年に関して損失を報告するタイミング(この例ではXXX4年3月20日)」のいずれか早い時点までに申告書が出ており、かつ必要な税金が支払われていればXXX2年の申告書はタイムリーであったと認められる。

XXX3年の申告書は本来の申告期限がXXX4年6月15日であり、これは損失報告をして予定納税を減額しようとするパートナーシップの課税年度の開始日であるXXX4年1月1日よりも後となる。その場合にはXXX1年およびXXX2年の申告書に適用された「通常の期限プラス1年」という寛大な措置の適用はなく、通常の申告期限(延長を含む)までに申告書が提出されなくてはならない。すなわちXXX3年の申告書はXXX4年の10月15日(外国人パートナーが法人の場合には9月15日)までに提出されなくてはならない。

損失報告をXXX4年の3月に行う場合には、その時点でXXX3年の申告書は未提出の可能性がある(というかその可能性が高い)。その場合、外国人パートナーはパートナーシップに提出する損失報告時に「XXX3年の申告書の申告期限はいつで、現時点では未提出である」という旨のコメントを提出しなくてはならない。その後実際に申告書の提出が行われた時点で、10日以内にパートナーシップに対して提出に係る報告をする義務がある。万一、パートナーシップによる第4四半期予定納税時点でも外国人パートナーによるXXX3年の申告書提出期限が到来していないようなケースでは、外国人パートナーはその時点で最新の状況をパートナーシップに報告する必要がある。パートナーシップ側では、XXX3年の申告書が提出された、またはまだ提出期限が到来していないという最新報告を第4四半期の予定納税時点までに受け取れない場合には、過去の損失報告はなかったものとして一年間の全額の予定納税必要額を再計算し、差額全額を第4四半期の予定納税額として納付する必要がある。

Wednesday, May 14, 2008

米国パートナーシップと外国人パートナー(2)

前回のポスティングで外国人が米国に投資したり、米国で事業を行ったりする際の基本的な税務上の取り扱いに関して触れた。また外国人がパススルーであるパートナーシップを介して米国にて事業を行う(または行っていると取り扱われる)際には、パートナーシップ側に四半期毎に予定納税義務が発生する点にも触れた。今回はその予定納税義務に関してこの程発表された財務省規則の内容を中心にポスティングしてみる。

*外国人によるパートナーシップ投資

外国人パートナーがパートナーシップに投資する場合、そのパートナーシップが米国で事業を行っていると各パートナーが米国にて直接事業を行っているかのように取り扱われる。したがって、外国人が直接米国で事業を行っている際に適用される税務上の規定がそのまま適用される。すなわち、事業所得であるECIに関して確定申告を提出して所得税・法人税を支払う必要がある。

この点、米国の「株式会社(税務上のCorporation)」に投資している外国人株主は、株式会社が米国で事業を行っている場合でも、単に配当という投資所得を受け取ると取り扱われるのと対照的だ。この点をうまく利用しているのがPrivate Equity Fundsのストラクチャーで頻繁に登場するBlocker Corporationであろう。Blocker Corporationに関しては2007 年9月17日の「PE FundsでBlocker Corporationが果たす役割」を参照のこと。また、パートナーシップはパススルーであるため、現金等の分配のあるなしに係らず、パートナーシップの認識するECIの各パートナーへの配賦額が課税対象となる。

*パートナーシップによる予定納税

外国人に対して「米国で確定申告して下さい」と米国が規定しても、その強制力は米国市民、居住者に対する法的なパワーと比べてどうしても弱い。また、外国人側でルールを知らずに申告書を提出していないというようなケースも十分に想定される。

そこで、税金を確実に徴収できるメカニズムとして規定されているのがパートナーシップによる四半期毎の予定納税納付義務だ。このシステムでは、パートナーシップはECIのうち外国人パートナーに配賦される金額に対して累進税率の最高税率にて税金を算定し、IRSに納付する必要がある。現時点では個人所得税も法人税も最高税率は35%となる。例えば、仮に第一四半期にパートナーシップに1,000という課税所得があり、この全額が事業所得すなわちECIだとする。パートナーシップには二人の50・50のパートナーが居たとして、一方が米国居住者、他方が外国人だとする。このシナリオではECIである1,000のうち50%相当の500が外国人パートナーに配賦されるものとなり、その35%である175をパートナーシップがIRSに納付する義務がある。さらにこの175は外国人パートナーに対するみなし現金分配となる。

従来、この予定納税を算定する際、各外国人パートナーの個別状況を取り込むことは認められず、例え外国人パートナー側に他に米国の事業損失があったり、繰越欠損金があったりしても、問答無用にECIに対して最高税率を乗じた金額を予定納税する必要があった。

*外国人パートナー側の個別損失の取り扱い

外国人パートナー側での状況を一切鑑みずに一律に予定納税をパートナーシップ側に強要するというシステムは税金徴収のメカニズムとしては一番硬い方法であるが、最終的に支払う必要のない税金を前納しなくてはいけない局面に陥るパートナー側に取ってみると何とも不都合な規定であった。これは外国人が米国不動産を売却する際に売却代金の10%を予定納税として源泉徴収される規定には納税額の減額手続きが設けられている点と極めて対照的であった。

例えば、上述の例に登場する外国人パートナーに実は過年度からの繰越欠損金4,000があったとする。第一四半期に1,000の所得があるということは年間ベースに置き換えると4,000の所得が予想されるということであるが、もし欠損金の存在を加味すると外国人パートナーの課税所得はゼロとなる。にも係らず従来はパートナーシップは四半期毎に予定納税を行うことが必要とされた。繰越欠損金が同じパートナーシップから発生したものであっても従来はこれを考慮することは認められなかった。もちろん、他にどのようなECIがあるか分からず、4,000の欠損金が未使用が残っているかどうかはパートナーシップ側では知る術もなかった。

そんな不都合な状況を改善したのが2003年のIRS Notice、それに続く2005年の暫定財務省規則、また今回発表された最終財務省規則である。

*最終規則

最終規則では2003年以降の流れを踏襲して一定の条件を満たす外国人パートナーがパートナーシップに対して一定のタイプの損失を報告し、パートナーシップはその損失額を考慮して予定納税額を算定することを認めている。

その具体的な内容はというと、今回の規則も期待を裏切ることなく詳細はかなり複雑である。規則を分かり易く理解するため次回以降のポスティングで、1)どのような外国人パートナーに損失を報告することを認めているか、2)どのようなタイプの損失が考慮されるのか、3)どのような手順で損失の存在を報告し、どのような条件でパートナーシップは報告を加味してもよいとされているか、と3つの内容に大別して解説してみたい。

Thursday, May 8, 2008

米国パートナーシップと外国人パートナー(1)

*外国人に対する米国課税

米国から見た外国人(非居住者および外国法人等)が米国に投資する場合には当然米国の税務関係をチェックする必要がある。外国人に対する米国の課税方法は所得が「投資所得(Non-ECI FDAP)」の場合と「事業所得(ECI)」場合に対するものに大別される。Non-ECI FDAPは30%(または租税条約の低減レート)の源泉税で課税関係が終了するが、ECIは申告書(1040NRまたは1120F)を提出し、必要経費を控除した後のネット所得に累進税率を適用して税金を処理する。

なお、FDAPとECIを対義語のように使っている参考書のようなものがあるが、それは大きな間違いだ。FDAPというのはあくまでも米国源泉の所得のタイプに係る色付けであり、FDAPでも事実関係次第ではECIとなる場合もあればNon-ECIとなる場合もある。FDAPがECIとなるかどうかは基本的に、その所得が米国事業の資産から生み出されているものか(Asset Test)、または米国事業の活動から生み出されているか(Activity Test)により決定される。一方でFDAPではない米国源泉所得は「Force of Attraction」規定に基づき、外国人が米国にて事業を営んでいる場合には自動的にECIとなる。ただし、このForce of Attraction規定は租税条約のPE規定によりOverrideされるケースがほとんどだ。

*パートナーシップ経由の米国投資

外国人が「直接」株式、債券等に投資したり、または支店のような形態で事業を営んだりするケースと同様に、上述の課税関係はパートナーシップ(税務上パートナーシップと取り扱われるLLC等を含む)を経由して外国人が受け取る所得に対しても適用される。すなわち、米国のパートナーシップが投資所得を受け取り、それがNon-ECI FDAPと取り扱われるのであれば、それらの所得の外国人パートナーに配賦される部分は30%(または租税条約の低減レート)の源泉税の対象となるし、一方でパートナーシップが米国で事業に従事している場合には、外国人パートナーも事業に従事していると取り扱われ、事業所得のうち外国人パートナーに配賦される部分は、外国人パートナー側で申告所得として税金を納める必要がある。

*パートナーシップによる源泉徴収義務

パートナーシップが米国で事業に従事している場合には、外国人パートナーは配賦される(実際に現金等で分配されなくても)事業所得を申告所得として認識し申告を行う必要がある。外国人に申告させて税金を支払わせる場合には、外国人が実際には何もしないのではないかという危惧が財務省に常に存在する。米国内に居住している米国居住者や市民権を持っている者と比べると、米国の法律が及ばない外国に住んでいる非居住者に対しては、申告・納税義務を無視されても米国政府が取れる対抗策はかなり限定されていることから、財務省が危惧を持つことは当然である。そこで、取り合えず税金を何らかの形で源泉徴収してしまって、後で非居住者に申告をして過不足調整(多くの場合で還付請求)をさせようとする仕組みがいろいろな局面で確立している。

パートナーシップに投資する外国人パートナーに対してもこのような仕組みができあがって久しい。すなわち、四半期毎に外国人パートナーに配賦される事業所得に対して累進税率の最高税率を適用して、税金をIRSに予納する義務がパートナーシップにある。外国人パートナーに配賦される事業所得というのは、現金分配のことではなく、パートナーシップ合意書に基づきキャピタル勘定にクレジットされる金額のことである。

*最終財務省規則

財務省はこの程、パートナーシップが外国人パートナーに配賦する事業所得に対する源泉徴収義務に係る「最終財務省規則」を発表した。以前は源泉徴収はパートナーシップの事業所得のみを基に行う必要があったが、数年前に公表された暫定規則からの流れで「外国人パートナーが認識するパートナーシップ以外の米国での活動から発生する損失」の影響を条件付きで加味してもいいという方向に最終化された。これは米国で複数の事業(複数の米国パートナーシップも含む)に投資している外国人にとっては吉報だ。

次回のポスティングではこの最終規則の内容に関して説明する。

Wednesday, May 7, 2008

どちらが優先?租税条約と内国法

2008年の4月後半にブログを始めてから1年がたった。数えてみるとこの1年間でちょうど100のポスティングをしていた。個人的趣味から再編系の内容が多いが他にもグリーンカード、パススルー、ポリシー、社会保障協定、FIN 48、その他、分野は多岐に亘っている。今日のポスティングもどちらかというとポリシー系の話だ。

*租税条約と内国法の相対的な位置づけ

米国の内国法である「Internal Revenue Code (I.R.C.)」と租税条約の相対的な位置づけは時として難しい。合衆国憲法の第VI条は「連邦内国法」と「条約」の各々を国の「最高法(Supreme Law)」と位置づけている。したがって、米国の法体系の下では「I.R.C.」と「租税条約」は国の最高法として同格であることが分かる。

しかし、単に同格で終わっては困ることがある。租税条約はI.R.C.下の税務上の取り扱いを緩和して米国非居住者、外国法人の米国での税負担を低減する目的で適用される局面がほとんどであることから、I.R.C.と租税条約の規定は当然「異なる」のである。異なる二つの法律が同格に位置するという状況で、どちらが優先されるかを決定する必要が生じることがある。裁判所はできるだけの努力をして「租税条約と内国法に矛盾はない(「Harmony」な状態にある)」という理由を見出し、一見異なる規定をうまく取りまとめようとする。しかし、どうしてもHarmonizeできない場合には「後法優先の原則(the last-in-time rule)」の考え方を適用して事態の解決を図る。すなわち、I.R.C.と租税条約では時間的に「後」で規定された方が優先となる。

とは言え、後から租税条約やI.R.C.が何の言及もなく規定され他方の規定が自然消滅というようなケースはまずない。大概その立法趣旨、条約の背景を説明する公文書等で「今回新たに合意された租税条約の何々の条項はそれと矛盾するI.R.C.に優先する」または「I.R.C.のこのSec.の改訂は現存する租税条約の矛盾する条項に優先する」等の意思表示がされているケースが多い。近年では日米新租税条約の中の米国不動産持株法人の定義がI.R.C.の定義よりも若干緩いが、租税条約を優先して考えていいと思われる点が好例であろう。

*租税条約が常に「Override」するとは限らない

一般的に考えると租税条約の規定が米国の内国法であるI.R.C.よりも常に優先されるように思われるかもしれない。しかし現実には上述の通り、租税条約に規定があっても締結のタイミング次第では、I.R.C.の方に優先権が与えられ、条約の適用が実はできなかったというような事態も十分に想定できる。そんな事態を再確認させられる判例がこの程、租税裁判所のメモランダム・ケースで言い渡された。

*Jamieson v. Commissiner

Jamiesonケースの争点は米加租税条約に基づき、カナダ居住者がI.R.C.に規定通りにAMTを支払う必要があるかどうかというものだ。AMTそのものの規定は複雑だが、その一般的コンセプトに関しては2007年9月10日にポスティングした「AMTは本当に撤廃できるのか」を参照して欲しい。

AMTを算定する際には、通常の税金の算定同様に外国税額控除(FTC)を計上することができる。ただし、AMT算定目的で使用できるFTCは、FTC控除前のAMTの90%に限定されるという法律が当時は存在した(この制限は2004年の税法改正で撤廃)。すなわち、FTCを計上したとしても常にAMTの10%は最終税額として残るような仕組みになっていた。

このケースでは、納税者が米国市民権を有しているために米国でも全世界所得を対象として確定申告している。しかし所得のほとんどがカナダ源泉であり、カナダでの税額をFTCとして計上しているというシナリオだ。通常の所得税を算定する際にはFTCにより米国の税負担はゼロとなる。しかし、AMTを算定する際には上述の90%制限があるため、AMTを完全にゼロとすることはできず、結果としてAMTは部分的に支払う必要が生じる。

これに対し、納税者は米加租税条約第24条に基づき、AMTに対しても全額FTCが認められるべきだと主張した。租税条約にある程度関与されている者であれば、まず「米国市民権を持つ者は租税条約を利用して米国の税負担を軽減してはいけない」のではないか、すなわち「Saving Clause」の適用があるのではないか、という疑問を持つであろう。確かに米加租税条約にもSaving Clauseは規定されているが、24条は敢えて「米国市民権を持っていながらカナダに居住している者」に対する米国でのFTCを規定しており、Saving Clauseから特別に免除されている。

*どちらが「後法」か

今回の判決は基本的に過去の判例である「Kappus v. Commissioner」の考え方が適用されている。これは「Stare Decisis」という米国法の基本である「先例拘束力の原則」を考えれば当然のことである。具体的には、I.R.C.と租税条約は異なる規定をしていると解釈されるとした上で、タイミング的に租税条約の規定は、AMTのFTCに対する90%制限が1986年に規定される以前から存在しており、後法は内国法であるI.R.C.であるとされた。

納税者は1986年以降に租税条約の24条に対して条項修正が両国間で合意されているため、租税条約こそが後法であると主張した。しかし、その条項修正は今回問題となっている文言以外の部分に対するものであり、1986年時点でのI.R.C.の後法としての地位を揺るがすものではないとされた。

このように単純に後法優先と言っても、どちらが後法かという基本的な認識も納税者とIRSで異なることがあるので驚きだ。

*立法趣旨

さらに、1986年にAMT FTCの90%制限を定めた際の立法趣旨に「外国で全ての所得を得ていても何らかの形で米国政府からの恩典を受けていることから最低限のAMTは支払ってもらう」と明言されている点、またその後の1988年の法律改正の際に「AMTのFTCに対する90%制限は、それと矛盾する既存の租税条約よりも優先的に取り扱われること」と述べられていること、などから立法議会がAMT FTCの90%制限を租税条約の規定に係らず適用しようとする意図を持っていたことは明確であるとされた。

Tuesday, April 22, 2008

米国のスピンオフ(9)

前回の米国のスピンオフ(8)で始めたMorris Trustケースの解説を続ける。

*「Active Trade or Business」条件

IRSの基本的な主張は「Active Trade or Business」条件が満たされておらず、したがって非課税スピンオフには適格ではないというものであった。Active Trade or Business条件に関しては「米国のスピンオフ(2)」にて解説している。もしスピンオフが非課税でないとすると課税されるのは株主ばかりではない。株主には配当益(E&Pの範囲で)が課税されるが、スピンオフとならないということは、Dによる保険業の現物出資がD型再編とならないことも意味する。したがって、保険業の含み益に対してDが課税されることになる。

Dの銀行業は合併後も第三者Pにより継続されるが、IRSの言い分はDが消滅することからDによる事業継続とは認められないというものであった。

これに対して裁判所は、Active Trade or Business条件の歴史的背景には現金等の「流動資産」をスピンオフと仮装して株主に配当するようなケースに網を掛ける目的が存在する点、また、1954年の税法改正により、Active Trade or Businessはスピンオフ「以前」に5年間という厳しい規定が設けられる一方でスピンオフ後の経緯に関してはその「直後」にActive Trade or Businessが存在していれば問題がないとされている点、等を指摘した。その上で、Morris Trustのケースでは流動資産を配当するような事実関係、また他の脱法的な取引に見られるような意味のないステップ、ダミー法人等の存在がないこと、銀行業は立派に合併後も継続していること、合併という「法人形態」のみを変更して事業を継続していくことは非課税再編の促すところであること、十分な事業目的が存在する取引であること、等の理由でActive Trade or Business条件に違反はなく、条件は満たされているという判断を下した。

IRSの指摘は合併の存続法人が「たまたま」Pであったがために発生しているものであり、もし存続法人がDであったならばIRSの主張(=Dが事業を継承していないという主張)は通り得ない。判決では、合併の存続法人の方向のみで課税関係が決定されるのは不合理だとしている。これに対してIRSは例えDが存続法人であったとして非課税とはならないというようなことを主張したようだが、そのような解釈はDが単に何らかの再編に関与する度にActive Trade or Business条件が違反されるような結果となり、法律の規定から逸脱すると判決では片付けられている。

*持分継続

裁判所の判決で面白いのは、Active Trade or Business条件が満たされているとする際に、上述の多くの理由に加えて「DとPの合併によりDの株主は存続法人株式の54%を受け取ってるために持分継続条件を満たしている」という理由も述べている点だ。Dの方がPよりも規模的に大きいために旧D株主は合併後の法人の過半数の持分を有するに至っている。「持分継続」はスピンオフのひとつの要件であるが、この点を別の条件と位置づけるのではなく、あくまでもActive Trade or Business条件を満たすための一要件かのように処理しているところが興味深い。

持分継続に関しては例え合併によりDの株主の合併後の存続法人に対する持分が大きく低下したとしても、合併対価としてEquityを受け取っているのであれば、もともとスピンオフがあった時点で持分継続が満たされていたとして、問題はないはずだ。持分継続の判断はあくまでも合併前のDの状態に照らし合わせて判断し、その後の合併時にはBoot(もしあれば)がその持分継続に影響を与えないかどうかを検討すればいいと思われる。

ただし、スピンオフ後の合併等の買収でD株主が受け取る持分が過半数に至るかどうかは後に1997年の税法改正時に最重要条件として再び浮上してくることとなる。

*Control条件

次にIRSはDが合併されたしまったために「Control」条件が満たされていないのではないかという主張もしている。Control条件に関しては「米国のスピンオフ(3)」にて解説している。しかしControl条件はあくまでもCに対する持分の問題であり、Dの持分に関しては規定されていない。したがって、Dが合併されてもCの持分には何の関係もないことから問題はないとされた。

*買収と分割再編

また、分割型再編であるスピンオフとその後の合併(=買収型再編)を一緒にすることは本質的に非課税スピンオフ法の意図に反するという主張もなされている。しかし、この点に関しても法律にそのような限定的な意図はなく、再編の後に再編という局面は他にも沢山あり、D型再編、スピンオフもその例外ではないとされた。

*結果

上の理由により、例えスピンオフ後にDが合併されていても今回の事実関係に基づく限りスピンオフは有効であり非課税であるとされた。その結果、D型再編も有効となり、株主が受け取るC株式ばかりでなく、DによるCの現物出資も非課税とされた。

Morris Trustの事実関係は保険業の兼業が法律で禁止されている等、かなりクリーンな取引であるが、この判決を基にその後の「買収のためのDivestiture手段としてのスピンオフ」という手法が確立されていき、その手の取引が一般に「Morris Trust取引」として知られていく。また、Dの代わりにCが買収される「Reverse Morris Trust取引」という用語も確立されていく。その辺りの状況、そして遂にMorris Trust(見方によってはAnti-Morris Trust)が条文法として立法化される1997年までの展開は次回のポスティングで説明する。

米国のスピンオフ(8)

買収のターゲットとなる企業に不必要な事業が存在するケースは多くある。その場合に不必要な事業を非課税でスピンオフすることができればその恩典は大きい。すなわち、Dは買収される前段階で、Dをターゲットとしている買い手が不必要とする事業をスピンオフしてしまうという作戦に出ることがある。このようなパターンでのスピンオフ実行には極めて複雑な検討が要求される。言うまでもないが下のコメントは全て私見である点、この分野の検討が余りに複雑な点を鑑みて敢えて再度お断りしておく。

*Morris Trustケース

この手の取引に関して触れる際に避けて通ることができないのが1966年に下されたランドマーク・ケース「Morris Trust」だ。Morris Trustケースは最高裁の判決ではなく、4th Circuitの判決である。今回のポスティングではこのMorris Trustケースを詳しく見ていくがかなりヘビーな内容となるため、2回のポスティングに分ける。

Morris Trustでは買収ターゲットとなるDに「銀行業」と「保険業」が共存していた。規制上の問題から買い手はDの銀行業のみを必要とし、保険業をも兼業しているDをそのまま買収の対象とすることができなかった。そこでDは買収前に保険業をスピンオフしてDの株主に分配した。このスピンオフは保険業が元々D法人の一部に存在したため、第一ステップとして保険業を子会社化しており、D型再編を伴うスピンオフ、すなわちD-355である。その後、銀行業のみとなったDは合併という非課税再編を経て第三者に買収された。Morris Trustにはいくつかポイントがあるがそれらを詳しく解説すると次の通りだ。

*合併とDivestiture

Dは州の銀行法に基づき設立されている「State Bank」であったが、合併相手となるPは連邦財務省の銀行法に基づき設立されている「National Bank」であった。規模的にはDの方がPよりも大きかったが(この点は極めて重要な事実関係となる)、存続法人はNational Bank格を持っている方がよいという判断から規模的には小さいPとすることが合意された。

ここで一つの問題が生じる。National Bankとなる銀行は一部限定的な例外を除き保険業を兼業することが法律で禁じられているが、Dは長年State Bankとして保険業に従事しているという点だ。そこで合併を予定通りに実行するためにDは保険業を売却・分離(Divestiture)する必要に迫られる。ここで登場するのがスピンオフだ。

ケースの事実関係とは直接関係がないが、Dにはもちろん保険業を売却するというオプションもあったはずだ。しかし売却するとゲインに課税される。スピンオフを非課税で行うことができれば余計なタックスを支払うことなくDivestitureを実行できるために極めて有利な取り扱いとなる。「米国のスピンオフ(4)」で触れたがスピンオフする際に分配対象となる子会社CからDが配当を非課税で受け取ることがよくある。スピンオフが非課税であれば、このような取引はまさしくCの売却を非課税で実行しているに近い。

Morris Trustに話は戻るが、Dは保険業をCという新規設立100%子会社に現物出資し、その直後にC株式をDの株主にスピンオフとして分配した。

これに対するIRSの対応を次回のポスティングにて詳細に解説したい。

Friday, April 11, 2008

申告書で取れるポジションの基準は一転緩和?

*申告書作成とペナルティー

会計事務所のような申告書を作成する立場にある者に対するペナルティーが強化された点とその後の混乱に関しては2007年6月の時点で「申告書で取れるポジションのハードルは高くなったか(1)」と「同(2)」で解説した。簡単におさらいしておくと、以前は申告書の税務ポジションは「Reialistic Possibility」基準を満たしていれば会計事務所に対するペナルティーはなかったものが、2007年6月の法改正でいきなり「More Likely Than Not」基準に引き上げられた。更にペナルティーの対象となる申告書の種類も拡大され、ペナルティーの金額も増額された。

この「More Likely Than Not」という基準はあくまでも申告書を作成する立場にある者に対するペナルティー有無の判断をする際に適用されることとなるが、一方で納税者そのものに対しては「Substantial Authority」基準が満たされていればペナルティーは課されないという従来からの取り扱いが続いている。

Substantial Authorityというのはザックリ言ってしまえば40%程度の確証度であることから、50%超の確証度が求められるMore Likely Than Notより低い。したがって、仮に40%程度の確証度のある税務ポジションを申告書に反映させ、後のIRS税務調査でそのポジションが問題視された場合には、納税者にはペナルティーはないが(Substantial Authorityを満たしているので)、会計事務所にはペナルティーが課されるというおかしな状況となった。会計事務所に対して従来は30%程度の確証度であるRealistic Possibility基準が適用されていたため、2007年6月の法改正の前の状態では、納税者に要求されている基準(Substantial Authority=40%)の方が会計事務所に求められる確証度よりも高かったこととなる。これを逆転させてしまった2007年6月の法律のインパクトは大きい。

*Taxpayer Assistance and Simplification Act

「Taxpayer Assistance and Simplification Act」というタイトルの法案が下院の税務委員会を通過した。それにしても米国の法律の名前はJob Creation Actとかどことなく恩着せがましいものが多い。話は逸れるが、最近話題の北京オリンピックとチベットの問題に関連して、ブッシュ大統領は開会式に出席するべきではないという法案が米国議会に提出されているが、その法案の名前が「Communist Chinese Olympic Accountability Act」という、法案の名前だけでも喧嘩を売っているかのようなものまで登場していた。いずれにしても法案・法律の名前がわざとらしいものが多い。

話は戻り、この「Taxpayer Assistance and Simplification Act」法案に盛り込まれているいくつかの規定の中で個人的に最も注目したのが、上述の会計事務所に対するペナルティー基準の「下方修正」である。ナント驚いたことに2007年6月の法律で義務付けられたMore Likely Than Not基準を一転廃止して納税者の基準と同じ「Substantial Authority」に統一しようとしている。なお、ペナルティーの対象の拡大、金額の増額、は2007年6月の規定のままとなる。

*納税者と同じ土俵に

納税者がペナルティーを恐れずに取れる税務ポジションと会計事務所がペナルティーを恐れずに取れる税務ポジションの基準が異なるというのは変な話である。それでも会計事務所は少なくとも30%の確証度を必要とし、納税者がより高い40%の確証度を必要としていた2007年6月以前は問題は少なかった。納税者のことを考えれば会計事務所も少なくとも40%の確証度を求めるのが一般的であったからだ。一方、2007年6月の法律変更以降(正確にはIRSが適用を2008年に提出される申告書からに延期)は納税者が40%の確証度でハッピーであるにも関わらず、会計事務所がより高い確証度を追い求めるという歪な構造になっている。

そんな不合理を解消するために「納税者に適用される基準=会計事務所に適用される基準」という統一を望む声が大きくなっていった。ただし、その際には、より厳しい基準となっている会計事務所基準、すなわちMore Likely Than Notに納税者の基準も統一されるのであろう、という暗黙の了解のようなものがあった。しかし、今回の下院の法案では逆に低い基準の「Substantial Authority」に統一しようとしている。これは率直に「うれしい驚き」であるといえる。

*ペナルティー基準の今後

法案は下院の審理が終了したばかりで今後このままの形で法律化される確証はない。もし認められれば、会計事務所に適用されるMore Likely Than Not基準は極めて短命に終わることとなる。その場合、納税者と会計事務所、共に通常のポジションは「Substantial Authority」、法的な取り扱いがグレーであることに関わる特別な開示が行われるポジションに関しては「Reasonable Basis」、タックスシェルターまたはReportable Transactionsに対しては「More Likely Than Not」という基準が適用されることになる。分かりやすい基準であり、ぜひとも最終法律として成立して欲しい法案だ。

Wednesday, April 9, 2008

ヤフー、Bear Stearns買収案その後

マイクロソフトによる「ヤフー買収案」、JP Morganによる「Bear Stearns買収案」に関しては過去のポスティングで触れたが、その後の展開がかなり興味深いので簡単に動向を追ってみたい。

まずヤフーだが、依然としてヤフー経営陣は買収案を拒否しているのはご存知の通りだ。株価に関しては買収案直後に$30弱に上がって以来、$20台後半で推移している。マイクロソフトが$31で買うと言っているにも関わらずそこまで株価が上がらないのは通常の買収発表時に常に見られる現象である。買収は発表されても、最終的に実現するまでには株主の承認、独禁法の問題、その他いろいろな不確実性がある。それを織り込むと買収価格までは上がらない。不確実性が大きければもちろん買収価格との差異も大きくなる。「買収が成立する」と信じているのであれば$20台後半で株式を買い、買収が$31で成立した時点でキャピタルゲインを期待することができる。ちなみにこれは現金で$31もらえる場合に有効な考え方であるが、後述の通り、対価が株式となる場合にはもう少し複雑となる。

当初はマイクロソフトが買収価格を上げるのではないかという憶測もあったが、ここに来て逆に価格を下げるのではないかという報道もある。他に救世主が現れないままだが、ヤフー経営陣が買収発表から2ヶ月間頑張っている。

買収対価が株式となる場合には「買い手」側の株価の推移が買収価格に影響を与える。AOL株式が下落してプレミアムが消滅したAOLとTime Warnerの合併がいい例であろう。今回の買収案では対価の50%相当が株式で支払われる。したがってA型非課税再編となるであろう点は前回のポスティングで触れた通りである。具体的にはヤフー一株当たりに対してマイクロソフト株式0.9509株が支給される。マイクロソフト0.9509株は買収案発表時点でこそ$31の価値があったのだが、その後株価が落ちたため今ではそれより低い。したがって、買収時点で$20代後半でヤフー株式を購入してキャピタルゲインを狙ったとしても、マイクロソフトの株価が落ちる限りキャピタルゲインの金額が確定しない。その場合にはヤフー株式を購入すると同時に、マイクロソフトの株式を空売り(Short Sale)しておけば理論的にはリスクヘッジが可能なはずだ。

一方のBear Stearnsに関しては当初の買収価格が$2であったが、株価は買収発表後も$2まで下がることはなかった。最低でも一瞬$3弱となっただけでしばらくは$4~5位でさまよっていた。上述のヤフーのケースで見られる通り、買収の発表があると買収が成立しないリスクが織り込まれて買収価格よりも若干低い株価で推移するのが一般的だが、それは買収がプレミアム価格で行われる際にしか通用しない常識のようだ。Bear Stearnsのケースではどちらかと言うと「最終的に$2ってことはないだろう」と読んだ投資家が多かったのであろうか株価は$2まで下がることはなかった。案の定、数日後にはあっさりと買収価格は$10に増額されている。それでもここ一年だけで見ても$150の株価をつけた銘柄であるだけにサブプライム問題恐るべしと言える。

Thursday, March 27, 2008

ドル紙幣を刷れない州の苦悩と「Decoupling」

*州の法人税

州法人税の法的な検討の多くは「連邦憲法」に基づく。州はもちろん課税権を持つが、事業が複数の州にまたがって展開されている場合、連邦憲法上、課税を行う州と課税対象となる事業主体の間に何らかの「接点」(Nexus)が存在する必要がある。自分の州に何の関係もない事業主体をむやみやたらに課税対象とできないということだ。また、課税対象となる場合でも、州税算定は事業主体全体の所得をその州に按分した部分の金額のみが対象となる。これらの制限は基本的に連邦憲法の定める「Commerce Clause」、「Due Process」、また場合によっては「Privileges and Immunities Clause」に基づく検討事項だ。(Nexus等に関する概要は2007年8月24日にポスティングした「拡大する州の課税権」を参照。)

したがって州法人税の算定の際には州に全体の所得の何%を按分するかという配賦方法がメインの検討事項となることが多い。一方で、配賦%を考える前に事業主体全体(ユニタリー課税の場合にはユニタリーグループ全体)の所得を算定する必要があるが、この算定は多くの州で連邦税法に準じる計算となるために州税の検討をする際には話題に上ることは比較的少ない。しかし、この点が注目を集めることがある。

*連邦税法と州法人税

例外はあるが、配賦%を掛ける前の課税所得は多くの州で連邦税法である「Internal Revenue Code」に準じて算定することと規定されている。「自動的に全て準じる」、「何月何日時点の連邦税法に準じる(日付は定期的に更新される)」その他、連邦税法への準拠の仕方は州によりまちまちだ。州によっては全て準じてしまうというのではなく、CA州のように条文毎に準じる準じないが規定されるところもある。

*ボーナス減価償却と州財政

ほぼ自動的に連邦税法に基づいて法人税を算定する州では、連邦議会が増税、減税法を通すと、それが州の財政を直撃することとなる。2002年に規定されたボーナス減価償却はその好例である。2002年のボーナス減価償却は同時テロによるショックから経済を立て直すために緊急措置として立法された設備投資減税だ。一定の条件を満たす場合には取得時に最高50%までの一括償却を認めるというものだ。残りの簿価は通常の減価償却の対象となる。2002年にはこれを過去訴求しても良いとされた。

そのような大きな償却で税収入が減るのは多くの州の財政上受け入れが困難であった。そのため、通常は連邦税法に準拠して課税所得を算定する州でもボーナス減価償却だけは認めないという「特別分離措置」が多くの州で取られた。これが「Decoupling」だ。

今回、2008年にもまたしても景気対策として同様のボーナス減価償却が立法された。ただでさえ財政難にある州政府にとって追い討ちとなるボーナス減価償却は受け入れ難いケースが多く、またしてもDecouplingとする州が多いようだ。ただ、州によっては簡単にDecouplingを実行できないような法体系となっているところもあり、その場合は苦しい。

*ボーナス減価償却と州内の設備投資

州がDecouplingできない場合に、Decouplingしないということ、すなわち「うちの州ではボーナス減価償却が取れますよ・・・」という点を売り物にして州内の設備投資を促せるのではないかと考えられる方もいるかもしれない。しかし、これは全然効果がない。

というのは、課税所得の算定時には、設備投資をした州がどこであるかに関わらず減価償却が計上されるためだ。ある州でボーナス減価償却を認める場合、その州の配賦前の課税所得は他の州にて設備投資した資産も含めて全てボーナス減価償却の対象として算定される。もちろん「たまたま」その州の設備投資のケースもあるだろうがそれはあくまで偶然の出来事だ。そもそも景気が悪い時にボーナス減価償却があるからといって急に本来行わない設備投資を行うだろうか?その辺の統計は知らないのであくまでも推測に過ぎないが、せいぜい来年取得する予定だった機械を今年の年末に取得してラッキーする程度の事業主体が多いのではないだろうか。

*州は「ドル紙幣」をすることができない

財政が厳しいのは州ばかりでなく連邦も同じはずだ。ではなぜ連邦政府は次々とボーナス減価償却だの、戻し減税だのという「Stimulous Package」を連発できるのだろうか?それは単純にお金が足りなくなれば連邦政府にはドル紙幣を印刷するという隠し技があるからだ。州はそうはいかない。バランス・バジットにならない場合には借りるしかない。連邦は税収、借入という二つの資金源に加えて「ドル紙幣を刷る」という必殺技を持っている点で州とは事情が大きく異なる。

しかしこの必殺技を使いすぎると世界中にドルが溢れる。となると、ものの本質的な価値が同一だとすればドル表示での価格はもちろん高くなる。すなわちインフレとなる。これは単純なことであり、米国政府も分かっている(というか分かっていて欲しい?)と思うのであるがドル供給量は危険レベルに達しているのではないかと見る向きもあるようだ。マネーサプライを図るひとつの指標であるM3をFRBが2006年前半から公開しなくなったのは有名な話しであるが、余りにマネーサプライが膨らんできたのでとてもそれ以上公表できなくなったという説もある。この点に関しては先日の米国議会公聴会で歯に衣着せぬRon Paul大先生がFRB議長のBernanke氏を窮地に追い込める質問を浴びせている。もし削除されていなければ見てみると面白い(Ron Paul v. Bernanke)。

この辺りの話は経済の専門家に譲るが、ドル紙幣を刷ることができないためにDecouplingをせざるを得ない州の財政は実は透明感が高く最終的にはどちらかというと健全であると言える。

Sunday, March 23, 2008

米国のスピンオフ(7)

*持分継続(COI)

「買収系」の非課税再編には持分継続条件(Continuity of Interest - COI)条件がつきものである点は過去のポスティングで何回か触れた。特に60%まで株式以外の対価が可能となるA型再編ではCOI条件の検討が重要だ。一方、スピンオフという局面でもCOI条件は存在する。再編、分割共に非課税となるからには取引が単なる形態変更にとどまる必要があり、その意味で持分の継続が求められる。

*スピンオフとCOI

スピンオフに対するCOI条件は分割される前のDの株主が総計で(個々の株主の持分ではなく)スピンオフ後のDとSubに十分な持分を継続的に持っている場合に満たされると取り扱われる。すなわち、スピンオフと前後してDまたはSubの株式の多くが譲渡されてしまうようなケースでは原則的にCOI条件は満たされない。この条件を読まれて気づかれた方もいるのではないかと思うが、これは「米国のスピンオフ(5)」で詳しく触れた「Device規定」と似ている。財務省規則ではCOI条件は他の条件から独立した別個の条件であるという趣旨の文言があるが、Device規定という条文法を設けることにより、判例を通じて進化してきたCOI条件を補足しているような関係となるだろう。

このようにスピンオフにもCOI条件は適用されるのだが、その内容は買収系の非課税再編に対するものと異なる。買収系の非課税再編に関しては近年の財務省規則の規定下、ターゲット株主が再編で受け取る買い手の株式を直ぐに売却してもCOI条件の達成には問題がないとされる。これは上のスピンオフに係るCOI条件とは相容れない。このため、分割のためのD再編およびスピンオフという局面でのCOI条件の検討時には一般的なCOI条件を規定した財務省規則は適用されないとされる。スピンオフに係るCOI条件としてどのようなものが適切かに関しては今後も財務省が検討を続けるものとしている。

*買収の準備としてのスピンオフ

スピンオフが行われる局面のひとつにDが買収される見込みであるが、Dに買い手が欲していないラインの事業が存在するというものがある。すなわち、Dは買収される前段階で、Dの買い手が不必要であるとする事業をスピンオフしてしまうという作戦に出ることがある。このようなパターンでのスピンオフ実行には極めて複雑な検討が要求される。ランドマーク・ケースである1960年代の「Morris Trust」判例から1997年の税法改正までの歴史を含めてこの点は次回のポスティングで触れたい。

Monday, March 17, 2008

JP MorganによるBear Steans買収

「エエエエエエ、たったの2ドル!?」。先週金曜日、JP MorganがBear Stearnsに緊急融資を実行した際に「Permenent Finance」を模索しているというようなコメントが発表されていたため、JP MorganによるBear Stearns買収もありかなと思っていた人は多いであろう。しかし、その直後、しかも週末である日曜日に買収が発表されるとは思わなかった。そして一番の驚きは買収価格だろう。ナント一株当たり$2である。スーパーに行っても$2で買えるものは少ない。本気で$2なのか?少なくとも直近の決算書の「Book Value」ベースでも一株当りの資産簿価は$80を超えている。余りにビックリしたので日曜日の夜に緊急に開催された一般投資家・アナリスト向けのカンファレンス・コールを聞いてみた。

*買収形態は?

タックス専門家としてはまず基本的な買収形態が気になるところだが、プレスリリースでは「株式交換」(Stock for Stock Exchange)と表現されている。しかし厳密には株式交換ではなく、あくまでも法的には合併となるであろう。上場企業であるBear Stearnsの株主一人一人と株式交換契約を締結するのは不可能だからだ(この点に関しては過去のポスティング「アメリカで三角合併が多用される訳」を参照)。また、プレスリリースの後半にはSECにMerger Agreementのコピーが今後提出されるであろう記述があることからもこの点は間違いがない。したがって、買収形態はJP Morganの株式を対価とする合併ということになる。

Bear Stearnsの現状を考えると多くの偶発債務、訴訟リスクがあって当然であると思われることから、JP Morgan本体に合併してくるというのも考え難い気がする。となると新設子会社を利用した三角合併だろうか?対価が株式であることからA型非課税再編とされる可能性が高く、その場合にはReverse三角合併でなくても、Forwardでもいい。新設子会社がCorporationであればA型の三角合併となり、通常のA型再編よりも若干条件が厳しい。もし厳しい条件が不都合な場合にはLLCを利用して通常のA型再編とすることもできるだろう。現時点ではこれらの細かい点は明らかではないがMerger Agreementのコピーが公開された時点で具体的な形態が明らかとなる。Merger Agreementの公開が待ち遠しい。

ただ、$2では非課税再編となったところでゲインが発生することはなく、単に損失が繰り延べされるだけの話しとなる。

*日曜夜のカンファレンス・コール

JP Morganによるカンファレンス・コールはCFOであるMike Cavanaghが中心に行われた。最初に今回の取引のメリットが説明され、その後、買収の基本的な内容に関して簡単な説明があった。次のような点が興味深かった。

*MACがない?

まず、今回のMerger Agreementには「MAC」条項がないということだ。MAC条項とは「Material Adverse Change」条項のことで、合併のSigningからClosingの間にターゲット企業に想定外の大惨事があり買い手側が買収に合意した基本的前提が崩れ去った際に買い手が買収をキャンセルできるという買い手のProtectionである。何がMACとなるかはMerger Agreement内容の交渉事であるが、今回のMeger Agreementにはそれがないというのだ。

考えてみれば既に余りに想定外の事態に追い込まれているBear Stearnsを買収するというのだからこれ以上のMACは必要はないかもしれない。したがって、簡単に言えば今後Bear Stearnsに何が起ころうともJP MorganはBear Stearnsを買収しないといけないということになる(もちろん株主総会の承認を得られればだが。この点は後述)。このリスク負担が株式$2という破格のPricingのひとつの理由であることは間違いがない。逆に言えばここまで破格であればMACなど要らないということであろうか。

*取引に対する信用保証は即時有効

更にBear Stearnsの取引に対してJP Morganは保証を提供するとしているが、これは即時有効となる。万一合併が承認されない場合にはその時点から後には保証は効かないがそれまでは保証が有効だということだ。どのようなメカニズムかははっきりしないが、最初の株主総会で株主承認が得られない場合も、12ヵ月以内に承認があればいいというような内容にも取れるコメントがあった。この部分もMerger Agreementのコピーを読めば明確となるだろう。

*Book Value$84と取得価格$2の差異はどこから?

一番興味深い質問はメリルのアナリストからのものだ。「Book Value$84と取得価格$2の差異はどこから?」という、まさに今回の買収の核心に迫る質問である。質問の前のカンファレンス・コールの説明部分で買収コストに加えて、訴訟、De-Leveraging、合理化その他の関連コストが$6 Billion掛かると予想されている、というコメントがあった。したがって、$2の株価にプラスで$6 Billionのコストが掛かる。それでもBook Valueには及ばない。

この点に対する回答はどことなく歯切れが悪かった。短時間のDue Diligence、リスクに対するクッション、JP Morganの株主に対する受託者義務等を考えるとこれが適切な金額であるという回答だ。差額の多くはモーゲージ資産の評価か、という突っ込みもあったがこの点に対する明確な回答はなかったと思う。また、最後の質問はマンハッタンにあるBear Stearnsの豪華な本社ビルはBear Stearns所有か?という質問があり、所有されている点も確認された。あのビルだけでも相当な価値だろう。

*合併には株主の承認が必要

カンファレンス・コールを通じてJP Morganは「今回の合併案が株主総会で否決することは考えられないが・・・」というスタンスであった。本当にそうだろうか?つい最近まで$100を超える金額で取引されていたBear Stearnsの株式である。$2という金額でハッピーな株主がいるとは思えない。問題は他に代替案があるかどうかである。代替案としては、更正法適用、清算というオプションがある。また、他の買い手が現れて高い金額を提示してくれるという代替案も考えられる。

Merger AgreementにはおそらくBear Stearnsの経営陣が他の買い手を探してはいけない「No Shop」条項が盛り込まれているはずだが、デラウェアの会社法、判例に基づき「Fiduciary Out」条項も盛り込まれているはずだ。すなわちより価値の高い提案(Superior Proposal)が舞い込んできた場合には、それを検討しなくてはいけない。目的はあくまでもBear Stearnsの株主価値の最大限化にある。その場合にはJP MorganにいくらのBreak-upコストを支払うことになるのか等も全てMerger Agreementが公開されれば明らかになるはずだ。

予断となるが、カンファレンス・コールには、明らかに怒っていると見られるBear Stearnsの株主から「$2という価格はBear Stearnsの株主にとって正当なものか?」という質問があった。回答は「それはBear Steansに聞いてくれ」という素っ気無いが正しいものであった。質問した株主は一瞬シーンとなったが「僕は合併は承認しない」と発言していた。JP Morganサイドは「OK. 次の質問・・・」という対応であった。

全体を通して、JP Morgan側がBear Stearns株主のよる合併承認にかなり強気であったのが印象的だった。大口の株主と既に「Shareholder Agreement」か何か締結しているのだろうか?またまた今後の展開に目が離せない案件が増えた。

Saturday, March 15, 2008

米国のスピンオフ(6)

おそらく言うまでもないと思われるが、スピンオフで非課税の取り扱いを受けることができるのはD株主がSub株式(またはDの債券保有主がSubの債券)を受け取るケースのみだ。他の資産(Boot)が追加で分配される場合には、例え取引そのものが非課税スピンオフと取り扱われる場合も、BootはD株主にとって課税分配となるばかりでなく、Bootに含み益がある場合にはDサイドでも課税される。

*Sub株式分配でもBoot?

このBoot規定で注意を要するのはDが分配するSub株式がスピンオフから遡ること5年以内に課税取引にて取得されている場合には、例えSub株式でもBootと取り扱われるという点だ。(なおSub株式の5年以内取得に関してはActive Trade条件と後に触れるSec.355(d)条件で課税関係が異なるので、詳しくは後のポスティングで触れたい)

*AT&T分割とSub株式Boot問題

この点に関してはAT&Tが1984年に分割された際に株主宛に発行した取引概要説明に興味深い記述がある。

AT&T分割は法務省の10年間に亘る独禁法訴訟の結果1984 年に言い渡された法的措置(Consent Decree)により強制的に行われたが、分割そのものの手法はスピンオフである。AT&Tは米国を7つの地域に分け、各々の地域の電話事業を統括する7つの「Regional Companies」を設立しAT&Tの株主に分配した。スピンオフの結果7つの会社は独立法人となった。ちなみにAT&Tはその後の数多くのスピンオフ、買収を繰り返し、最終的には1984年にスピンオフした法人の後継に逆に買収され現在に至っている。

1984年のスピンオフはその規模、複雑さで他のスピンオフを圧倒する。他のスピンオフ同様にAT&TはIRSの事前通達のを取り付けてスピンオフが非課税となることを確認している。面白いのはその事前通達では7つのRegional CompaniesのひとつであるPac Telの株式の一部がBootとなると結論付けられていることである。

BootであるとIRSが結論付けている部分はAT&Tが1982年にPac Bell(後にPac Telに非課税出資される)の株式を課税取引の買収(Taxable Merger)により取得した部分(Pac Tel全体の株式の約7%に相当)である。スピンオフが1984年に行われていることから、1982年の課税取引によるPac Bell株式取得を起因とするPac Tel株式部分は上の5年以内取得の規定に抵触するという主張だ。

AT&T側の主張はPac Bellの株式そのものは確かに5年以内に課税取引で取得されたものであるが、実際にスピンオフとして分配された株式はPac Bellのものではなく、Pac Bell株式取得後に(他の法人も含む)非課税再編の結果取得されたPac TelのものでありBootの適用はないはずというものだ。

興味深いのは、AT&Tは弁護士事務所(Davis Polk)の意見として、Pac Tel株式の分配は全て非課税スピンオフに適格であるべきだというコメントを盛り込んで公に反論している点だ。弁護士事務所はグレーな部分は残るとはいえ「Should」レベルで非課税であろうと結論付けている。「Should」オピニオンにはかなりの確証度が要求されることから、かなり自信のある結論であることが伺える。

弁護士事務所が全て非課税となるべきだとする理由は、上述の通りスピンオフで分配の対象となる株式そのものが課税取引で取得されたものでないことに加えて、分配は裁判所の命令に基づくものでありDeviceとはなり得ないこと、Pac TelグループにはPac Bell以外に多くの事業資産を有していること、というものだ。さらにIRSの事前通達ではPac Bell取得に起因する部分は課税とされているものの具体的な算定法が記載されていないことからPac Tel株式の分配を受け取る株主としてはどの部分を配当として課税処理すればいいのか明確ではないとされている。

そして最後に「このようにPac Telの数量化されていない一部分に関してはIRSは課税配当であると言っており、その意味で取り扱いがグレーである。したがって各株主は申告書でどのように今回の分配を取り扱うべきか専門家に相談することを強くお勧めする(”Urge”)」と締めくくっている。何となく無責任な感じがしないでもないが、このレターを読んだ多くの株主は敢えて配当扱いしたとは考え難い。

それにしてもIRSの通達に逆らって法律事務所の意見を堂々と公の文書で株主に告知する神経はあくまでも法的に戦うという土壌が確立している米国ならではのもので面白い。

この取引には更に「オチ」があり、その後のIRSによる一株主の税務調査でIRSは事前確認の主張通りにPac Tel株式は部分的にBootであり課税対象であるという調査結果を出した。この結果は裁判に持ち込まれ、納税者側が勝利している。結果として弁護士事務所の意見が正しかったことになる。

このことから課税取引に5年以内に取得した株式であっても適切なステップを踏めば別の株式にすり替えて(「Purge」して)適格のスピンオフとすることも技術的には不可能でないことが分かる。

Wednesday, March 12, 2008

外国法人への支払利息と源泉税

多くの日本企業の米国現地法人にとって、日本親会社からのローンは必要不可欠な資金源である。親会社からローンを受ける際には、過小資本、Earnings Stripping規定、移転価格問題(利率の正当性)等の問題点と並び、利息支払い時の源泉税の徴収、源泉に係る報告(Form 1042)義務に注意する必要がある。この源泉徴収義務に関してTax Courtで一つの判決が下された。

*Guangdong Finance, Inc.ケース

このケースは中国系の米国現地法人が中国のGITICと香港のGXEという関連会社からのローンに対して支払った利子に対する源泉徴収義務に係るものだ。GITICは中国政府に所有される金融機関であり、GXEはその香港現地法人だ。またGITICは米国現地法人の少なくとも25%の持分を持っているとされる。したがって、GITICに対する利子もGXEに対する利子もどちらもPortfolio利子とはならず米国内国法に規定される非課税特典を受けることはできない。

米中租税条約には「一方の国に所有される金融機関に対する利子は他方の国では非課税」という条項がある。すなわち中国政府に所有される金融機関からのローンに対する利子は米国では課税されないということだ。したがって、GITICに対する利子は租税条約により非課税となり、結果として米国現地法人に源泉徴収義務はなかったこととなる。

一方でGXEからのローンに関しては香港法人(=香港居住者)からのものであるため、米中租税条約は適用されない。香港が中国に返還(1997年)された今日でも米中租税条約は香港に適用されないが、今回のケースはナント1994年~1996年という相当古い課税年度を対象としているため、香港がまだ英国の植民地であった頃だ。したがってもちろん米中条約の対象外となる。

この点に関して納税者は形式的にはGXEからのローンであるが「実態はGITICからのローン」であるという「Substance over form」論を主張した。実態はGITICからのローンであるから米中租税条約の適用が可能だという主張である。しかし、Substance over formという実態論は基本的にIRS側が主張するものである。形式を自由に選択できる納税者が後から実態は形式と異なるという抗弁を展開できる局面は極めて限られている。この点は取引の形態を決定する際に肝に銘じておく教訓であろう。また、GXEはGITICの代理人(Agent)であるという主張も展開されたが、提出された証拠書類等を見ても代理人の関係を決定付けるものはなく退けられた。

結果として判決はGXEからのローンに対する支払利息に関して源泉徴収義務違反ということになっている。

*Form 1042

外国人に対して利子、配当、ロイヤリティーその他の支払いを行う者は基本的にその金額、内容を年次報告書であるForm 1042にて報告する必要がある。租税条約で源泉が免除されているケースでもForm 1042の提出義務は残るため、今回のケースではGXEの金額ばかりでなく、GITICの金額もForm 1042にて報告される必要があったことになる。

実際にはForm 1042の提出は行われていなかった。したがってペナルティーが課せられているが、申告書未提出に対するペナルティーは通常、未払い税金の金額に対する%となる(月5%で最高25%)。このことからGITICに関しても報告義務はあったが税金の支払いは必要なかったため、Form 1042未提出に係るペナルティー計算目的ではGXEローンに対する源泉税の25%となるであろう。

*源泉徴収義務

源泉徴収というのは本来、受け手に代わって税金を納めるという手続きである。給与に対する源泉徴収のように「仮の徴収(後で申告書を提出して最終税負担確定)」のケースもあれば、外国法人・外国人に支払われる投資所得に対する源泉徴収のようにそれが「最終税額」となるケースもある。

今回のケースはもちろん後者である。例えば米国法人が外国法人に対して100の利子を支払う際に30の源泉をする必要がある場合には、30はIRSに納付し残りの70を外国法人に送金する。30はあくまでも外国法人に対する課税であり、この30は最終税額である。外国法人が他にECI等の報告をしない限り法人税申告書を提出する必要はない。

30を前もって源泉させるのはでないと税金を取ることが実務的に困難だからだ。相手は外国法人・外国人である。もし外国法人に100全額を支払ってしまったとするとIRSとしては後に外国から税金30を徴収するのは難しい。IRSの法的なパワーも外国ではかなり限定されてしまうからだ。したがって、支払い主にその責任を取ってもらうということになる。

仮に100全部を支払ってしまった後に、30の源泉徴収義務があることが発覚したとすると、この30は外国法人の税金であるにも係らず、源泉徴収義務を持っていた米国法人に対して追徴課税することが認められる。米国法人としては100の利息を支払った上に30の税金を支払うこととなる。これが源泉徴収義務者=Withholding Agentとなることの怖さである。

今回のケースでは適用されていないが、税金の未払い25%ペナルティーに加えて源泉徴収義務違反のケースでは源泉税額の100%をペナルティーとすることができるという規定もあるのでますます怖い。他人の税金を取らなかったという理由で大きなペナルティーを支払うのは最悪のシナリオだ。

日本企業の米国現地法人が親会社に利息を支払っているが源泉税を徴収していないというようなケースは近年では余り見かけなくなった。一方でForm 1042は通常の法人税申告書と異なる様式となるため、会計事務所側で必ずしも自動的に作成してくれるものではなく、実際には提出されていないケースも見受けられることから注意が必要だ。

Thursday, March 6, 2008

政府系ファンド(SWF)が享受する税務上の恩典

今日のニュースを読んでいたら日本の財務省は外貨準備を政府系ファンド(Sovereign Wealth Funds-以下SWF)にて運用することに消極的であるという記事が載っていた。一方、つい先月には日本系SWFの設立検討チームが自民党に設立されたというニュースもあったと記憶している。日本のどことなく消極的なアプローチと比べると、共産主義でありながらさっさとブラックストーンのような超資本主義的なPrivate Equity Fundsに投資している中国の対応は興味深い。

SWFは元々クウェート、アラブ首長国連邦、シンガポールなどでは古くから存在する。近年、中国、ロシア等で新たなSWFが続々と設立され、またその巨額な資金がマーケットに及ぼす影響が潜在的に大きいことから俄かに注目を集めている。サブプライム問題で資本増強を迫られた米国の銀行がSWFから追加出資を受けたニュースもSWFの存在感を更に知らしめることになった。

通常の投資家と異なり、投資家が他の国家の関連するファンドとなると投資を受ける側の国では国家安全保障上の懸念も存在する。例えば最近では、ドバイSWF関連の会社による米国の港湾管理会社買収案、中国国営会社によるUnocal買収案が大問題となった。しかし、実際には安全保障とは何の関係もない80年代の日本企業による米国不動産、映画会社の買収に対してもかなりの反対意見があったことから、純粋に国家安全保障に係る懸念なのかどうかは多少眉唾な部分がある。

*SWFに対する課税

SWFによる米国投資には通常の外国投資家にはない税務上の恩典がある。SWFが外国政府組織の一部であるという位置づけが認められる場合には(それ自体よく分からない部分もあるが)、SWFの受け取る投資所得は基本的に非課税となるからだ。SWFが直接的に商活動に係る場合には非課税措置は認められないが、配当、利子等の投資所得であれば非課税となる。一方で一般の外国人投資家に対しては、銀行利子とポートフォリオ利子は非課税だが、ポートフォリオ利子以外の利子、配当、賃貸には30%または租税条約に基づく税率の源泉税が課せられる。米国の株式等売却から発生するキャピタルゲインは通常、一般外国投資家にとっても非課税となる。

このことから実際にはかなりの投資所得が一般の外国人投資家にとっても非課税とされていることが分かる。特に租税条約締結国に居住する外国人投資家の受け取る投資所得に対する米国の税金はかなり限定的で概して低くで済むことが多い。しかし、一般の外国人投資家が配当に対して少なくとも10%は源泉税を取られることが多いことを考えると、投資所得が全て非課税となるSWFが受ける恩典はやはり大きい。さらにSWFの性格から言って本国で課税されることもないであろう。

*SWFによる不動産売却益

SWFが米国の不動産投資をすることもあり得る。その際に問題となるのは、米国不動産からの売却益に対する特別な規定(FIRPTA)に係る取り扱いであろう。FIRPTA規定下では、外国人投資家が認識する米国不動産売却益は基本的に全てECI(事業所得)となる。したがって常に申告所得として累進税率の対象となることになる。更に申告漏れを最小限とするため、限定的な例外規定が適用されるケースを除き不動産売却時にバイヤーは所得価格の10%を源泉徴収する必要があるとされる。これはSWFに対しても基本的に同様であるとされる。

SWFが不動産持分に直接投資する場合にはFIRPTA規定の適用は分かり易い。一方で、SWFがREIT経由で不動産投資をする際、REITからの分配金を「売却益」に基づく部分までもをSWFに対する非課税規定が適用されるとして非課税扱いしているケースがあるようだ。この点に関してはFIRPTA規定に反するとしてIRSが近々に財務省規則を発表するとしている。現段階ではNotice 2007-55にて、REITからの分配金(清算配当を含む)のうち、売却益に基づく部分はSWFにとっても課税対象と取り扱う旨が公表されている。

*SWFに対する恩典の今後

現時点で直ぐに非課税措置を見直すという動きはないようだが、外国政府がSWF経由で純粋に投資家としてマーケットに参加してくる局面で、特別扱いを受け続けることがフェアであるかどうかという問題は今後必ず議論となってくるであろう。外国政府の投資所得に対する非課税措置が規定された時代にはSWFのような存在は全く念頭になかったことは間違いない。