Thursday, March 6, 2008

政府系ファンド(SWF)が享受する税務上の恩典

今日のニュースを読んでいたら日本の財務省は外貨準備を政府系ファンド(Sovereign Wealth Funds-以下SWF)にて運用することに消極的であるという記事が載っていた。一方、つい先月には日本系SWFの設立検討チームが自民党に設立されたというニュースもあったと記憶している。日本のどことなく消極的なアプローチと比べると、共産主義でありながらさっさとブラックストーンのような超資本主義的なPrivate Equity Fundsに投資している中国の対応は興味深い。

SWFは元々クウェート、アラブ首長国連邦、シンガポールなどでは古くから存在する。近年、中国、ロシア等で新たなSWFが続々と設立され、またその巨額な資金がマーケットに及ぼす影響が潜在的に大きいことから俄かに注目を集めている。サブプライム問題で資本増強を迫られた米国の銀行がSWFから追加出資を受けたニュースもSWFの存在感を更に知らしめることになった。

通常の投資家と異なり、投資家が他の国家の関連するファンドとなると投資を受ける側の国では国家安全保障上の懸念も存在する。例えば最近では、ドバイSWF関連の会社による米国の港湾管理会社買収案、中国国営会社によるUnocal買収案が大問題となった。しかし、実際には安全保障とは何の関係もない80年代の日本企業による米国不動産、映画会社の買収に対してもかなりの反対意見があったことから、純粋に国家安全保障に係る懸念なのかどうかは多少眉唾な部分がある。

*SWFに対する課税

SWFによる米国投資には通常の外国投資家にはない税務上の恩典がある。SWFが外国政府組織の一部であるという位置づけが認められる場合には(それ自体よく分からない部分もあるが)、SWFの受け取る投資所得は基本的に非課税となるからだ。SWFが直接的に商活動に係る場合には非課税措置は認められないが、配当、利子等の投資所得であれば非課税となる。一方で一般の外国人投資家に対しては、銀行利子とポートフォリオ利子は非課税だが、ポートフォリオ利子以外の利子、配当、賃貸には30%または租税条約に基づく税率の源泉税が課せられる。米国の株式等売却から発生するキャピタルゲインは通常、一般外国投資家にとっても非課税となる。

このことから実際にはかなりの投資所得が一般の外国人投資家にとっても非課税とされていることが分かる。特に租税条約締結国に居住する外国人投資家の受け取る投資所得に対する米国の税金はかなり限定的で概して低くで済むことが多い。しかし、一般の外国人投資家が配当に対して少なくとも10%は源泉税を取られることが多いことを考えると、投資所得が全て非課税となるSWFが受ける恩典はやはり大きい。さらにSWFの性格から言って本国で課税されることもないであろう。

*SWFによる不動産売却益

SWFが米国の不動産投資をすることもあり得る。その際に問題となるのは、米国不動産からの売却益に対する特別な規定(FIRPTA)に係る取り扱いであろう。FIRPTA規定下では、外国人投資家が認識する米国不動産売却益は基本的に全てECI(事業所得)となる。したがって常に申告所得として累進税率の対象となることになる。更に申告漏れを最小限とするため、限定的な例外規定が適用されるケースを除き不動産売却時にバイヤーは所得価格の10%を源泉徴収する必要があるとされる。これはSWFに対しても基本的に同様であるとされる。

SWFが不動産持分に直接投資する場合にはFIRPTA規定の適用は分かり易い。一方で、SWFがREIT経由で不動産投資をする際、REITからの分配金を「売却益」に基づく部分までもをSWFに対する非課税規定が適用されるとして非課税扱いしているケースがあるようだ。この点に関してはFIRPTA規定に反するとしてIRSが近々に財務省規則を発表するとしている。現段階ではNotice 2007-55にて、REITからの分配金(清算配当を含む)のうち、不動産そのものの売却益に基づく部分はSWFにとっても課税対象と取り扱う旨が公表されている。

*SWFに対する恩典の今後

現時点で直ぐに非課税措置を見直すという動きはないようだが、外国政府がSWF経由で純粋に投資家としてマーケットに参加してくる局面で、特別扱いを受け続けることがフェアであるかどうかという問題は今後必ず議論となってくるであろう。外国政府の投資所得に対する非課税措置が規定された時代にはSWFのような存在は全く念頭になかったことは間違いない。