Thursday, March 27, 2008

ドル紙幣を刷れない州の苦悩と「Decoupling」

*州の法人税

州法人税の法的な検討の多くは「連邦憲法」に基づく。州はもちろん課税権を持つが、事業が複数の州にまたがって展開されている場合、連邦憲法上、課税を行う州と課税対象となる事業主体の間に何らかの「接点」(Nexus)が存在する必要がある。自分の州に何の関係もない事業主体をむやみやたらに課税対象とできないということだ。また、課税対象となる場合でも、州税算定は事業主体全体の所得をその州に按分した部分の金額のみが対象となる。これらの制限は基本的に連邦憲法の定める「Commerce Clause」、「Due Process」、また場合によっては「Privileges and Immunities Clause」に基づく検討事項だ。(Nexus等に関する概要は2007年8月24日にポスティングした「拡大する州の課税権」を参照。)

したがって州法人税の算定の際には州に全体の所得の何%を按分するかという配賦方法がメインの検討事項となることが多い。一方で、配賦%を考える前に事業主体全体(ユニタリー課税の場合にはユニタリーグループ全体)の所得を算定する必要があるが、この算定は多くの州で連邦税法に準じる計算となるために州税の検討をする際には話題に上ることは比較的少ない。しかし、この点が注目を集めることがある。

*連邦税法と州法人税

例外はあるが、配賦%を掛ける前の課税所得は多くの州で連邦税法である「Internal Revenue Code」に準じて算定することと規定されている。「自動的に全て準じる」、「何月何日時点の連邦税法に準じる(日付は定期的に更新される)」その他、連邦税法への準拠の仕方は州によりまちまちだ。州によっては全て準じてしまうというのではなく、CA州のように条文毎に準じる準じないが規定されるところもある。

*ボーナス減価償却と州財政

ほぼ自動的に連邦税法に基づいて法人税を算定する州では、連邦議会が増税、減税法を通すと、それが州の財政を直撃することとなる。2002年に規定されたボーナス減価償却はその好例である。2002年のボーナス減価償却は同時テロによるショックから経済を立て直すために緊急措置として立法された設備投資減税だ。一定の条件を満たす場合には取得時に最高50%までの一括償却を認めるというものだ。残りの簿価は通常の減価償却の対象となる。2002年にはこれを過去訴求しても良いとされた。

そのような大きな償却で税収入が減るのは多くの州の財政上受け入れが困難であった。そのため、通常は連邦税法に準拠して課税所得を算定する州でもボーナス減価償却だけは認めないという「特別分離措置」が多くの州で取られた。これが「Decoupling」だ。

今回、2008年にもまたしても景気対策として同様のボーナス減価償却が立法された。ただでさえ財政難にある州政府にとって追い討ちとなるボーナス減価償却は受け入れ難いケースが多く、またしてもDecouplingとする州が多いようだ。ただ、州によっては簡単にDecouplingを実行できないような法体系となっているところもあり、その場合は苦しい。

*ボーナス減価償却と州内の設備投資

州がDecouplingできない場合に、Decouplingしないということ、すなわち「うちの州ではボーナス減価償却が取れますよ・・・」という点を売り物にして州内の設備投資を促せるのではないかと考えられる方もいるかもしれない。しかし、これは全然効果がない。

というのは、課税所得の算定時には、設備投資をした州がどこであるかに関わらず減価償却が計上されるためだ。ある州でボーナス減価償却を認める場合、その州の配賦前の課税所得は他の州にて設備投資した資産も含めて全てボーナス減価償却の対象として算定される。もちろん「たまたま」その州の設備投資のケースもあるだろうがそれはあくまで偶然の出来事だ。そもそも景気が悪い時にボーナス減価償却があるからといって急に本来行わない設備投資を行うだろうか?その辺の統計は知らないのであくまでも推測に過ぎないが、せいぜい来年取得する予定だった機械を今年の年末に取得してラッキーする程度の事業主体が多いのではないだろうか。

*州は「ドル紙幣」をすることができない

財政が厳しいのは州ばかりでなく連邦も同じはずだ。ではなぜ連邦政府は次々とボーナス減価償却だの、戻し減税だのという「Stimulous Package」を連発できるのだろうか?それは単純にお金が足りなくなれば連邦政府にはドル紙幣を印刷するという隠し技があるからだ。州はそうはいかない。バランス・バジットにならない場合には借りるしかない。連邦は税収、借入という二つの資金源に加えて「ドル紙幣を刷る」という必殺技を持っている点で州とは事情が大きく異なる。

しかしこの必殺技を使いすぎると世界中にドルが溢れる。となると、ものの本質的な価値が同一だとすればドル表示での価格はもちろん高くなる。すなわちインフレとなる。これは単純なことであり、米国政府も分かっている(というか分かっていて欲しい?)と思うのであるがドル供給量は危険レベルに達しているのではないかと見る向きもあるようだ。マネーサプライを図るひとつの指標であるM3をFRBが2006年前半から公開しなくなったのは有名な話しであるが、余りにマネーサプライが膨らんできたのでとてもそれ以上公表できなくなったという説もある。この点に関しては先日の米国議会公聴会で歯に衣着せぬRon Paul大先生がFRB議長のBernanke氏を窮地に追い込める質問を浴びせている。もし削除されていなければ見てみると面白い(Ron Paul v. Bernanke)。

この辺りの話は経済の専門家に譲るが、ドル紙幣を刷ることができないためにDecouplingをせざるを得ない州の財政は実は透明感が高く最終的にはどちらかというと健全であると言える。