おそらく言うまでもないと思われるが、スピンオフで非課税の取り扱いを受けることができるのはD株主がSub株式(またはDの債券保有主がSubの債券)を受け取るケースのみだ。他の資産(Boot)が追加で分配される場合には、例え取引そのものが非課税スピンオフと取り扱われる場合も、BootはD株主にとって課税分配となるばかりでなく、Bootに含み益がある場合にはDサイドでも課税される。
*Sub株式分配でもBoot?
このBoot規定で注意を要するのはDが分配するSub株式がスピンオフから遡ること5年以内に課税取引にて取得されている場合には、例えSub株式でもBootと取り扱われるという点だ。(なおSub株式の5年以内取得に関してはActive Trade条件と後に触れるSec.355(d)条件で課税関係が異なるので、詳しくは後のポスティングで触れたい)
*AT&T分割とSub株式Boot問題
この点に関してはAT&Tが1984年に分割された際に株主宛に発行した取引概要説明に興味深い記述がある。
AT&T分割は法務省の10年間に亘る独禁法訴訟の結果1984 年に言い渡された法的措置(Consent Decree)により強制的に行われたが、分割そのものの手法はスピンオフである。AT&Tは米国を7つの地域に分け、各々の地域の電話事業を統括する7つの「Regional Companies」を設立しAT&Tの株主に分配した。スピンオフの結果7つの会社は独立法人となった。ちなみにAT&Tはその後の数多くのスピンオフ、買収を繰り返し、最終的には1984年にスピンオフした法人の後継に逆に買収され現在に至っている。
1984年のスピンオフはその規模、複雑さで他のスピンオフを圧倒する。他のスピンオフ同様にAT&TはIRSの事前通達のを取り付けてスピンオフが非課税となることを確認している。面白いのはその事前通達では7つのRegional CompaniesのひとつであるPac Telの株式の一部がBootとなると結論付けられていることである。
BootであるとIRSが結論付けている部分はAT&Tが1982年にPac Bell(後にPac Telに非課税出資される)の株式を課税取引の買収(Taxable Merger)により取得した部分(Pac Tel全体の株式の約7%に相当)である。スピンオフが1984年に行われていることから、1982年の課税取引によるPac Bell株式取得を起因とするPac Tel株式部分は上の5年以内取得の規定に抵触するという主張だ。
AT&T側の主張はPac Bellの株式そのものは確かに5年以内に課税取引で取得されたものであるが、実際にスピンオフとして分配された株式はPac Bellのものではなく、Pac Bell株式取得後に(他の法人も含む)非課税再編の結果取得されたPac TelのものでありBootの適用はないはずというものだ。
興味深いのは、AT&Tは弁護士事務所(Davis Polk)の意見として、Pac Tel株式の分配は全て非課税スピンオフに適格であるべきだというコメントを盛り込んで公に反論している点だ。弁護士事務所はグレーな部分は残るとはいえ「Should」レベルで非課税であろうと結論付けている。「Should」オピニオンにはかなりの確証度が要求されることから、かなり自信のある結論であることが伺える。
弁護士事務所が全て非課税となるべきだとする理由は、上述の通りスピンオフで分配の対象となる株式そのものが課税取引で取得されたものでないことに加えて、分配は裁判所の命令に基づくものでありDeviceとはなり得ないこと、Pac TelグループにはPac Bell以外に多くの事業資産を有していること、というものだ。さらにIRSの事前通達ではPac Bell取得に起因する部分は課税とされているものの具体的な算定法が記載されていないことからPac Tel株式の分配を受け取る株主としてはどの部分を配当として課税処理すればいいのか明確ではないとされている。
そして最後に「このようにPac Telの数量化されていない一部分に関してはIRSは課税配当であると言っており、その意味で取り扱いがグレーである。したがって各株主は申告書でどのように今回の分配を取り扱うべきか専門家に相談することを強くお勧めする(”Urge”)」と締めくくっている。何となく無責任な感じがしないでもないが、このレターを読んだ多くの株主は敢えて配当扱いしたとは考え難い。
それにしてもIRSの通達に逆らって法律事務所の意見を堂々と公の文書で株主に告知する神経はあくまでも法的に戦うという土壌が確立している米国ならではのもので面白い。
この取引には更に「オチ」があり、その後のIRSによる一株主の税務調査でIRSは事前確認の主張通りにPac Tel株式は部分的にBootであり課税対象であるという調査結果を出した。この結果は裁判に持ち込まれ、納税者側が勝利している。結果として弁護士事務所の意見が正しかったことになる。
このことから課税取引に5年以内に取得した株式であっても適切なステップを踏めば別の株式にすり替えて(「Purge」して)適格のスピンオフとすることも技術的には不可能でないことが分かる。