パートナーがパートナーシップから配賦される損失を取り込む際には何重もの制限がある。まず、配賦される損失金額そのものに「Substantial Economic Effect」がなくてはいけないし、損失の取り込みはパートナーがパートナーシップに対して持つ税務上の簿価(Basis)が上限となる。またPassive Activity Loss規定、At-Risk規定など元祖タックス・シェルター対策とでもいえるハードルを越える必要がある。
*At-Risk規定
その中でAt-Risk規定に係る面白い(というかチョッと不思議な)判決がこの程Tax Courtで下された(Hubert Enterprisesケース)。At-Risk規定というのは個人(プラス同族法人)に適用され、タックスシェルターとして利用されることの多い活動(映画制作、資源の採掘、リース等)から発生する損失は「出資額、個人的に返済義務のある金額、または個人資産を担保として差し入れている金額」を上限としてのみ認めるというものだ。
*DRO条項
Tax Courtの判決はリース業を営むLLCから配賦される損失に関してのものだ。LLCはリース資産を取得するために「Recouse」ローンを組んでいる。ただしRecourseとはいえ、LLCという事業主体が借り手となっていることからあくまでも一義的にはLLCの資産内での返済が保障されているに過ぎない。しかし、LLCの合意書には、LLC清算時に自分のキャピタル勘定がマイナス残高となっているパートナーはその金額をLLCに追加出資するという「Deficit Restoration Obligation(DRO)」条項が盛り込まれていた。となると、LLCの資産で返済し切れない負債がある場合には最終的にメンバー個人に間接的であるとはいえ返済義務が生じることとなる。
争点のひとつはこのDRO条項はパートナーのAt Risk金額を、出資額を超えて増やすことができるかどうかという点である。
*DRO条項はAt-Risk金額を増やさない?
今回の判決では結果としてDRO条項があってもAt-Risk金額は増えないという不思議なものである。
その理由のひとつとして挙げられているのが、DRO条項はLLCの合意書上、LLC清算時点まで効力を持たないからというものだ。しかし、パートナーシップ財務省規則に規定されるDRO条項は「清算時点でキャピタル勘定のマイナス残高に責任を持ちなさい」というものである。確かにこのDRO条項の目的は損失の配賦がEconomic Effectを持つかどうかの検討のための規定であり、Economic EffectがあるからAt-Risk規定を必ずしも満たすいうことはない。しかし、双方の規定の目的はパートナーは経済的に損失に対して個人的なリスクを負っているのかどうかの判断であり、経済効果は認められるが、リスクは負っていないという結果も何となく解せない。
DRO条項はEconomic Effectを持たせるために盛り込まれる条項であり、通常は財務省規則に規定される文言通り「パートナーシップが清算した際にはマイナス勘定を補填します」と規定されているはずだ。となると今回の判例に基づく限り、ほぼ全てのDROはSec.704(b)のキャピタル勘定維持目的では機能するが、「At Risk」規定目的では不十分であることになる。
また、今回の判決の考え方はSec.752の負債配賦のアプローチにも反する。パートナーのパートナーシップに対する税務上の簿価(Basis)を決定する際に含むことが認められるパートナーシップ負債のパートナーへの配賦金額は、DRO条項が規定されている場合には、当然DRO条項の効果も加味して行われる。その際には最悪の事態が想定され、最終手段として誰が負債を負うことになるかが検討される。最悪の事態が想定される場合には、資産の価値はなくなり、負債のみが残る。そのような状況でDRO条項が規定されているパートナーシップであれば、キャピタル勘定がマイナスになっている金額に関して各パートナーは追加出資をして、それを原資にパートナーシップは借入金を返済する必要がある。したがってDRO条項が適用されるパートナーに関しては最悪のケースでは負債の返済リスクを負う必要が生じることから簿価決定の目的で負債の配賦を受けることができる。
にも係らず今回の判決ではDRO条項にも係らずAt-Risk金額は増えないとされた。
*差し戻しにも懲りないTax Court
実は今回の判決に至るには多少複雑な経緯がある。もともとこのHubertの判決は2005年9月にTax Courtが出したものである。その後、納税者側の控訴に基づく検討で、2007年4月にケンタッキー、テネシー、ミシガン、オハイオを管轄下に持つ連邦控訴裁判所である6th Circuitは「パートナーがリスクを負っているかどうかの判断は最悪の事態を想定して返済義務を考えて再考するように・・・」と判決を差し戻し(Remand)しているのだ。にも係らず今回の判決となってしまった。今後、ニューヨークを管轄下に持つ2nd Circuitや、カリフォルニア州を持つ9th Circuit辺りで異なる結論が出てもおかしくないのではないかとも思える。
*LLCにDRO条項という不思議
さらに今回の判決同様に不思議にも思えるのは、せっかくLLCという「有限責任」事業主体を組成しておいて、その上でDRO条項を盛り込むという事実関係である。DRO条項など盛り込むと、せっかくのLLCを実質General Partnership同様に変換してしまうのではないだろうか?有限責任が必要だからこそ、S CorpだとかLLCという事業主体形態を選択するのが通常だが、DRO条項はメンバーの責任を潜在的に無限化する。このことを考えると、昔のパートナーシップ合意書を知らずにそのまま流用している合意書を持つようなLLC以外にDRO条項を持つLLCは少ないのではないかとも思われる。その意味で実は今回の判例の適用件数は実際には思った程存在しないのかもしれない。