Tuesday, February 26, 2008

米国のスピンオフ(4)

米国スピンオフに関しては2008年2月3日より「米国のスピンオフ(1)」「同(2)」「同(3)」にてポスティングしている。それらのポスティングでは最近発表されたモトローラとタイムワーナーのスピンオフ案に頻繁に言及しているが、双方とも不振部門をスピンオフすることで企業の株主価値を高めようというものだ。モトローラの場合は「Mobile Devices」部門が不振であり、他のセグメントを含めた全体の企業価値の足を引っ張っていると考えられ、したがってスピンオフにより他セグメントだけの法人とすることにより株主価値が高まると同時に、「Mobile Devices」部門も独立化によりその後の再編(他のMobile Devices企業と合併等)を通じてそちらの価値も高められるのではないか、という戦略だ。タイムワーナーによるAOLのネット接続事業スピンオフ案も同様である。

実はこの点に関して「なぜ単純に一つの企業を二つとすることにより価値が上がるのか?」という単純な質問を受け取ったので、今回は個人的好みの税務上の細かい取り扱い分析から敢えて脱線してスピンオフを取り巻く米国のマーケット環境に関して触れてみたい。なお、この分野はCorporate Financeに従事する方の専門分野であることから、タックス専門の僕が書くことはあくまでも経験に基づく私見であることはあらかじてご了承願いたい(ブログ全体が僕個人の私見なのだが)。

*なぜスピンオフが株主価値を高めるか

一般的にスピンオフはその後の株価に好影響をもたらすことが多い。スピンオフの発表直後に株価が上がることはよく目にする。しかし、これはあくまでの「発表の効果」であり、マーケットが戦略そのものに好感を示すという理由に基づく。実際の効果はもう少し長期で計らないといけないが、スピンオフ後の複数年で見てもポジティブな影響が多いようだ。なぜだろうか?

スプリットアップ、スプリットオフではない上場企業がリストラの一貫で実行する通常のスピンオフでは、スピンオフの対象となる事業を持つ法人の株式がDの株主全員にD株式の持分に準じて分配される。例えば、モトローラがもし本当にスピンオフを実行すると、モトローラの株主に「Mobilve Devices」事業を有する法人の株式が分配されてくる。モトローラ株主が受け取るMobilve Devices法人の株式数はモトローラ株式の持分比率に等しい。モトローラの株を1%持っている株主がいるとしたら、あたらしく受け取るMobile Devices法人の株式も全体の1%を受け取ることになる。

したがってスピンオフの結果、株主は引き続きMobile Devices事業に従来通りの持分の持ち続けるが、過去にはモトローラの経営下にあったMobilve Devices部門は独立法人・経営となりモトローラ経営陣から開放(?)されることとなる。しかし、ここで重要なのは「開放」されるのはMobile Devices部門だけではないということだ。すなわち、モトローラ経営陣も同様に今まで自らの管理下にあったMobile Devices部門の経営責任から開放され、残りのセグメントである「Networks and Enterprise」「Connected Home Solution」の経営に専念できるということだ。

このようなスピンオフ発表は経営陣のコア事業にフォーカスしたいという意欲の表れとマーケットから評価されることが多い。この既存の経営陣による「コア」の事業へのフォーカスこそが基本的にスピンオフの最重要ポイントであろう。

一方でスピンオフされた事業に関しては従来存在した他セグメントとの「しがらみ」に囚われない経営が可能となり自由化される。スピンオフを実行した側の法人はスピンオフの対象となる事業を失うこととなるので、その法人だけを見ると価値が若干低くなることもあり得るが、スピンオフされた独立法人の価値も加味すると合計では価値が上がるケースが多いということだ。もちろん、業績不振の事業、ミスマッチの事業をスピンオフした場合には、そのような事業から開放されたことにより、Dだけの価値だけを見ても価値が上がることもあるだろう。

財務的にもスピンオフの前にスピンオフする事業から配当という形で資金をDに戻したりしてDの財務体質を一新することもある。このようなステップを踏むことによりDの借入金を減らしたり、今までSubに費やした投資を回収したりできる。多少古い例(1997年)だがペプシがレストラン事業(ピザハット、KFC、タコベル)をスピンオフした際には$4.5Billionにおよぶ現金をレストラン事業から吸い上げている。レストラン事業はこの金額を借入しており、ペプシの借入がスピンオフされるレストラン事業法人に移管されたような形だ。

*Equity Carveouts

スピンオフと共通性を持つ手法に「Equity Carveouts」と呼ばれるものがある。これは子会社をIPOで上場させてしまう方法だ。Dが所有していたSubの株式を売ることもあれば、Subが株式を新規発行して資金調達することもある。また、少数持分をEquity Carveoutsしておいて後にスピンオフを行うという2ステップを踏むこともある。従来はDにControlされていたSubを切り放すことができるという意味でスピンオフと似ていると言える。

*Tracking Stock

もう一つスピンオフと共通性を持つ言われる手法にTracking Stockが挙げられる。こちらは一つの法人の中に異なるセグメントに紐付きの別クラスの株式を発行するというものだ。マーケットがセグメント別に事業評価をすることができ、その意味でこちらもスピンオフと似ていると言える。