Sunday, February 3, 2008

米国のスピンオフ(1)

モトローラが携帯電話機事業をスピンオフする方向で検討に入っているというニュースが先日報道された。米国企業が株主価値を高めるために採算事業と不採算事業を分離したり、合併を実行する前段階で合併には必要のない事業を分離したりするスピンオフは珍しいことではない。スピンオフに関して書き始めたらマイクロソフトによるヤフー買収案のニュースが飛び込んできたのでそちらを先にポスティングしてしまったが、今回はスピンオフに関してポスティングする。

日本でも会社分離が企業再編の一手法として取り入られるようになってきているが、米国のスピンオフとは大分異なる部分が多いようだ。米国でも会社を分離する際にはいろいろな手法が考えられる。分離の対象となる事業がパススルー主体で行われているのか、株式会社(C Corp)で行われているのかで可能な手法は異なる。モトローラのようなC Corpが事業を分離する場合、技術的には「スピンオフ」「スプリットアップ」「スプリットオフ」の3通りの手法が考えられる。一般的な用語としてはこの3つをまとめてスピンオフと表現されることもあるようだが、税務上は3つ各々異なる手法として認識されている。

*スピンオフ

スピンオフは、分離をする法人(Distributionを行う立場にあることから「Distributing」と呼ばれる、ここでは「D」とする)が分離する事業を持つ子会社株式(Sub)をDの株主にD株式の持分に準じて分配する手法である。スピンオフの直後、D株主は全員、D(分離の対象とならなかった事業を持ち続ける主体)とSub(分離される事業を持つ主体)の双方の持分を持つ。DとSubの間に資本関係はなくなり、基本的に共通の株主がいる別会社となるということだ。

スピンオフの対象となる事業を持つSubは既存のD子会社のケースもあれば、Dがスピンオフしたい事業を新規法人Subに現物出資し、その上でSub株式をD株主に分配しても問題ない。Sub株主の分配が全てのD株主にD株式の持分に順じて行われることから形式的には「配当」に似ている。スピンオフの特徴は旧D株主の全員がDおよびSubの双方の株式を持ち続ける点である。

*スプリットアップ

スプリットアップでは、Dが事業をSub 1、Sub 2等、分離したい事業の数だけ子会社に現物出資する。その後、Dは清算され、清算配当の一環でSub 1、Sub 2の株式がDの株主に分配される。この分配はD株主のD株式の持分に準じて行われることもあれば、Sub 1は株主A、Sub 2は株主Bという形でばらばらに行われることもある。D株式の持分に準じて分配される場合には最終結果はスピンオフに似ており、逆にばらばらに行われる場合にはスプリットアップに似ている。ただし、スプリットアップでは、分離前に存在したDが消滅するという特徴がある。

*スプリットオフ

スプリットオフはスピンオフに似ているが、DがSub株式を分配する際にD株式の持分に準じて分配するのではなく、特定の株主にSub株式をD株式と交換する形で分配する。特定の株主のD株式をSub株式を利用して「償還」するようなイメージだ。結果は旧Dの一部の株主はDの株式のみを持ち続け、残りの株主はDの株式は持たずSubの株式のみを持ち続けることになる。

*Sub株式の分配という手法が必要な訳

上の全ての手法に共通するのは、分離する事業を別法人(=Sub)に移管し(または最初からSubが分離対象となる事業を持っている場合もある)、Subの株式を分配する点だ。事業そのものを事業資産として株主に直接分配してしまうことももちろん可能ではあるが、その場合は配当、償還の取り扱いを受け非課税のスピンオフにはなり得ない。課税分配となる場合には、株主サイドで課税されるのはもちろんのこと、法人サイドでも事業資産の含み益(Goodwillを含む)に課税される。これはDがSubを課税取引に売却して売却代金を配当で株主に分配する取り扱いに等しいが、スピンオフの場合には実際の売却と異なり代金が入ってこない。したがってDには税金を支払う原資が入ってこない。このことから非課税スピンオフが後に課税取引と認定されることはかなりの大惨事である。


Subを分配する場合でも多くの条件を満たさないと非課税のスピンオフにはならない。今後いくつかのポスティングがスピンオフ等に係る米国での税務取り扱いのポイントに関して触れてみる。