Wednesday, May 24, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (5))

今回もREITの話しを続けて最終的にはDC REITにかかわる規則案にたどり着きたいんだけど、その前に一点FIRPTA課税目的の米国不動産持分の定義に関してInterstate 29ドライブ中に思い出したことがあるんでチョッとだけ再度FIRPTAの米国不動産持分にフラッシュバック。広大な自然、またはOmahaで賢人の知恵に触れたせいか、FIRPTAの想いが果てしなく広がる(なにそれ?)

日米租税条約とFIRPTA

今の日米租税条約は2003年バージョンだけど、日本居住者(LOB満たす者)が米国不動産譲渡益を認識する際に米国に課税権を認めている13条(もちろん条約なんで逆方向のケースにも同様に適用があるけど、FIRPTAの話しなんで米国不動産にかかわる方向にフォーカス)のもともとの文言は、米国法人の株式譲渡にかかわる米国課税権を「資産価値の50%以上が米国不動産により直接・間接に構成される法人に限る」という趣旨のものだった。え~、何コレって当時はビックリ。この定義はFIRPTA課税の適用を受ける米国法人の株式と微妙に異なるからだ。

すなわち前回のポスティングで延々と話したように、米国不動産持分の定義に見られる過去5年間のLook-Backがないし、また条約の50%以上計算時に分母として使う資産、英語では「Its assets」だけど、に特に事業資産に限定するっていう文言はない。つまり2003年の条約は米国法人株式の譲渡に対するFIRPTA課税を、米国不動産持分ではなく神話のひとつだった米国不動産所有法人に似てるけどそれとも違う第三の変な定義に基づいて適用してた。なんで、前日まで法人資産の50%以上を米国不動産持分が占めてても、翌日目が覚めて49%になってたら、そんな米国法人の株式譲渡益は条約ポジションでFIRPTA課税免除になってた。しかも、これは決してCarelessなドラフティング結果じゃなくて、当時の条約批准時の上院ヒアリングで問題が指摘されたりした上で特別に認められている。米国の多くの条約でも日米租税条約以外にはほぼなくて、他には言葉は変だけどマイナーな条約に1~2あるだけだったと記憶している。

っていう訳で余り注目されてなかったものの、かなりの特典だった。でもこの定義は2013年の議定書で改定され、今では米国内法の米国不動産持分の定義を参照する形にアップデートされてしまった。2013年の議定書っていうとあたかも2013年から発効しているような錯覚を覚えるかもしれないけど、米国側の批准に長年かかって2019年8月末からようやく発効した。つまりそれまでは日本居住者に対するFIRPTA課税はかなり緩かったってことになるね。タイムマシーンで戻りたい?

衝撃のIRS内部Legal Memo

で、Interstate 29でふと思い出した2019年までの日米租税条約の特典に触れることもできたんで、いよいよ満を持してREIT続行って思った矢先に、絶妙のタイミングでIRS内法務部に当たるChief Counsel OfficeがFIRPTA関係の衝撃的な内部Legal Memoを公表したんで急遽そっちにも触れざるを得なくなった。余りにExcitingな毎日だ。

前回のポスティングで触れた通り、米国法人の株式(正確には持分だけど分かりやすい株式って言っておく)は納税者側で反証できない限り、自動的に米国不動産持分になる。まさかこんなタイミングでLegal Memoが出るとはつゆ知らずだんたんで、その時点では「株式市場で流通している株式に関しては5%以下の株式は米国不動産持分にならない」っていう有利な例外があるってサラッと触れただけだった。この例外がないとリテール投資家を含むNRAや外国法人が米国株式市場で僅かな%の株式を売るたびに反証するのは非現実的だから、全て申告書提出して譲渡損益を報告しないといけなくなる。なんでまあ当然の例外規定。ちなみに株式市場で流通しているREIT持分に関しては5%の代わりに10%まで例外条件が引き上げられている。複数あるREITのみに認められる特典の一つだ。

5%ルールや10%ルールの例外が適用されるのは普通の法人株式にしても、REITにしても公認株式市場(「Established Market」)で流通(「regularly traded」)している株式。なんで、証券法や投資法に基づいて持分がSECに登録されてても「RegularlyにTrade」されてないと当例外の適用はない。例えばExitが償還(Redemption)っていう形で想定されてて持分譲渡が自由にできないタイプのREITとかは、持分がSECに登録されててもTradeされてることにならないんでこの例外は使えない。またTradeが可能でも「Regularly」にTradeされてないといけない。何をもってTradeがRegularかっていう点に関しては1980年代から財務省規則に紆余曲折があって、規則に定義が現れたり、それが撤回されて最終規則(Final Regulations)では「Reserved」、すなわち今後の規則策定に期待、みたいな状況になったと同時に暫定規則(Temporary Regulations)に定義が移動して現在に至る。暫定規則は規則案(Proposed Regulations)と異なり法的効果を持つ点はFinal Regulationsと同等。定義そのものを詳解するスペースはとてもないけど、四半期毎のテストとか本気でやると結構大変、とだけ言っとくね。

で、株式市場で流通している米国法人の株式(チョッと面倒なんで誤解覚悟でここでは上場株式って言っておく)をパートナーシップが所有してるケースで、この5%をどのレベルで判断するべきか、っていう点は長年明確じゃなかった。例えばケイマンフィーダー(当然CTBで法人課税選択)とデラウェア州LPSが各々50%づつマスターファンドを所有するストラクチャーのヘッジファンドがあるとする。で、そんなマスターファンドが上場株式を8%所有してるとする。デラウェア州LPSのDomesticフィーダーに投資するLPは米国個人、米国法人、または州のペンションファンドとかのSuper-Exemptとすると、FIRPTA課税の検討が必要となるのは外国法人のケイマンフィーダーのみで、Domestic Feeder経由で投資してるLPの視点からは、持分が5%以下かどうか、すなわち株式が米国不動産持分になるかっていう検討は一切課税関係に影響がない。じゃ、ケイマンフィーダーが上場株式の何%を持っているのか、って部分だけど、マスターファンドが8%持ってて、マスターファンドに対するケイマンフィーダーの持分が50%だから4%と違うの?ってなるところ。パートナーシップは法人と違ってLook-throughだし、別の規定だけど利子所得の源泉税が免除されるPortfolio Exemption適用時の10%制限もパートナーレベルで判断って明確な規則もあるし、上場株式の例外もパートナーレベルで判断するべきって密かに確信してるアドバイザーは多かっただろう(既に「過去形」になってて怖い?)。でも間違ってFIRPTA課税になったりすると面倒なんで、君子危うきに近寄らずだから保守的に5%や10%をパートナーシップレベルで判断せざるを得ない状況が続いていた。

ちなみにマスターファンドを使わずにピュアにパラレルファンドにすればこの問題は少ない。今でもたまにパラレルのヘッジファンドとか見ることがあるけど、ケイマンフィーダーに当たる外国人LPおよびDebt-Finance UBTIを嫌う普通の(つまりSuper-Exemptじゃない)Tax-Exemptが投資する側のファンドと米国LPサイドのファンドが各々別々に4%づつ株式を持ってて、変なAttribution規定とかに抵触しなければ、ケイマンフィーダー側の4%上場株式譲渡はFIRPTA課税免除なはず。マスターファンドのストラクチャーでも一部のヘッジファンドがやってるみたいにマスターとケイマンフィーダーの間にもう一つサブパートナーシップがあるようなケースとかでうまくマネージできることもあるかもしれないけど、Tradeを別のVehicleでパラレルでやってバランスさせるのは実務的に大変だろうし、また各Vehicleが全てのサービスプロバイダー、例えばPrime Brokerとか、と各々契約しないといけないんでやっぱりマスターファンドの活用が便利だよね。

で、ここまで書いたらIRSのLegal Memoがどんな見解かだいたい予想が付いたと思うけど、なんとパートナーシップレベルで判断するべき、とのこと。え~、パートナーシップだからLook-throughじゃないの?って思うけど、パートナーシップは「Person」であり(それは本当にそう)、パートナーがUSTOBに従事してるかどうかもパートナーシップレベルで決めるんで云々、とかいくつかパートナーシップそのものをEntityとして取り扱う正当性が記載されてた。で、何をいつLook-throughするのかって論点は本題のDC REITの規則案の神髄部分なんで、DC REITにかかわるルールを後述する際、Legal Memoの上場株式の取り扱いと対比してみて欲しい。

ちなみにLegal Memoって法律じゃないんで拘束力とかないけど、Private Letter Rulingとか個別の納税者に対する見解との比較で、一般的なコメントなんで反って怖い。もちろん納税者有利なLegal Memoだったら喜んで活用するんだけどね。

という訳で今回は結局REITそのものの話しに至らなかったけど、FIRPTA課税にかかわる面白い話しだったんでお許しを。

Saturday, May 20, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (4))

前回まで、新たに公表されたFIRPTA課税系の規則草案の話しをするためのお膳立てとして、インバウンド課税およびFIRPTA課税の大基本に触れた。5月はNebraska州滞在で始まったんだけど早くも月後半に突入。5月前半にNebraskaって言えば何しに行ったかすぐに分かるね(特に5大商社の方がいらしたら)?米国MidwestでもシカゴやPeoriaがあるIllinoisより西に行くのは実は久しぶり。なんだかんだ結局1年ぶりだったんでたまたま気候も良くて大満喫。Destinationは他でもないOmahaだからNebraskaとは言え実際にはほとんどIowa州。Interstate 29で北に向かうとSioux Cityを超えてSioux Falls。憧れのSouth Dakotaだ。Interstateの大きな横断標識に北に行くと「Sioux City」とか出てくるとそれだけで盛り上がる。大きなSUVでのんびりドライブ、って言ってもトラフィックないんで気が付くと90マイルくらいのスピードでそれでもバックしているとまでは言わないけど止まっているみたいな感覚で、普段の喧騒を忘れさせてくれた。地平線見ながらFIRPTA課税の基本を考えたりしてたけど(せっかくのドライブが台無し?)、基本部分だけでもまだまだ触れたいトピックは多い。でも既に5月も後半に差し掛かってきてるっていうこのタイミングだし、ここは断腸の思いで(大げさ~)規則案に移る。

2022年末公表のFIRPTA課税規則パッケージ

2022年末ギリギリにいきなり公表されたFIRPTA課税関係の規則のうち、QFPFに関しては2019年に規則案が出てたんでそれを最終化したもの。QFPFの規則最終化はタイミングやその内容は別として、最終化自体は近々起こるだろう、って予測されてたんパッケージにこれが含まれてたこと自体に驚きはない。ただ、CAMTとか自社株買いのルールとか2023年が始まる前に何とかして押し込んでおきたかったガイダンスとの対比で、QFPFの規則最終化を敢えてにみんながマイアミビーチでリラックスしてる12月29日に公表しないといけなかったどうかは評価の割れるところ。おかげで年末年始のReading Assignmentが増えたよね。

で、そんなFIRPTA課税パッケージに含まれてた規則で一番唐突っていうか意外だったのがDC REITの持分に関するもの。DCは以前のポスティングで定義してるんで、またスペルアウトしたりするのは個人哲学的に容認し難いところなんだけど、時間が経ってるんで禁じ手で再度言っておくと、DCは米国の首都で州政府ではなく連邦政府が直轄する唯一の領土(正確には内務省その他が管理するNational Parkを含む「Federal Land」に加えて)「District of Columbia」のこと。じゃもちろんなくて「Domestically Controlled」のこと。何をもってDCになるか、っていう点に触れ始めると規則案の神髄をいきなく直撃することになるんで、そんな衝動はグッと抑えてまずはDC REITを理解するのに最低限必要なREITとインバウンド課税基本編。基本編って言っても、2~3回のポスティングでは到底カバーできる内容じゃないんで必ず個別のケース毎にFee払って(?)アドバイスを受けるように。

REIT

REITは、プロによる管理・リスク分散が可能な不動産投資にリテール投資家がアクセスできるように、っていう趣旨で1960年に誕生したありがたい制度。

REIT適格になるには多くの条件があるけど、まず、REITは米国税務上、米国Corporationと取り扱われる主体でないといけない。米国の憲法というか、米国税務を語る際の大基本だけど、主体というのは常にデラウェア州等の州法で組成される。一方、連邦税務上これらの主体をどのように区分するか、は州法に束縛されることなく、連邦税法の視点から自由に判断・決定する。なんで、法的な主体が州や外国法で認知されているにもかかわらず支店扱い(Disregard)されたり、法的な主体を組成したつもりがないJV契約やCollaboration契約がそのTerms次第でパートナーシップという「主体」になったりする。また州の会社法上、GP, LP, LLP, LLCとかいろんなタイプの主体が存在しても、税務上はCorporationとして組成されていない限り、Corporationとして課税されるかパススルーとして課税されるかを納税者側で任意に選択することができる。LLC税法とか存在しないからね。

なんでREITも州法上の区分は必ずしもCorporationである必要はなく、LLCでもLPでも税務上Corporation課税を選択してればいい。実際、REIT、特に上場REITの大多数はMaryland州のTrustっていう形で組成される。上場企業がDelaware州で設立される点との対比で面白い。DelawareがCorporateマターに明るくCutting Edgeなのと同様、MarylandはREITに関するトップの座を維持するため継続して州法をアップデートしてるし、REITにかかわる州の造詣が深い。MarylandにはREITに特化したTrust法があり、多くはガバナンス系の観点だけど、対価を受け取ることなくREIT持分を交付できたりする。REITの持分要件の充足に便利でREITフレンドリー。

もちろんだけど、MarylandのTrustがREITになるには、税務上、Corporationとして取り扱われる必要がある。ということはTrustがCheck-the-Boxすることになるけど、どんな時にTrustがCheck-the-Boxできるか、すなわち信託に対する課税を規定しているSub Jの対象でなくなるか、Massachusettsの信託や最高裁判所判例とかそれはそれは深淵な世界なんで機会があればそのうちね。TrustがLLCみたいにいつでもCheck-the-Boxできるって誤解をしてるケースや、日本の信託の米国税務上の区分を検討することなくいきなり米国投資ストラクチャーを語ったりするケースを見ることがあるけど、他の主体と違ってTrustは特別だからね。TrustのCheck-the-Box神話とでも言っておこうか。

でも、REITが不動産を税務上パートナーシップに区分される主体を介して所有しているのを見ることがあるけど、って言う方が居たら、それはある程度REITに関与したことがある読者だろう。REIT自体はCorporation課税される主体である必要があるけど、その下のいわゆるOp-Coはパートナーシップでもいい。特に後から不動産ポートフォリオをREITに出資するケースでは、Corporation扱いされているREITそのものに出資すると大概のケースで課税取引になるんで、傘下のパートナーシップに入れてREIT持分と等価交換できるオプション付きのパートナーシップ持分を対価として受け取るストラクチャーを取るのが一般的。UP-REITだ。このUP-REIT、もともとその名の通りREITに関してパートナーシップ税制のAnti-Abuse規定には抵触しません、っていうお墨付きをもらってるけど、これがもとでUP-Cが発展したんだね。UP-Cに関してAnti-Abuseに引っかからないていう規則はないって理解しているけど、ひとつのテクノロジーが徐々に他のストラクチャーに展開していくいい例。米国の専門家や投資銀行のクリエイティビティにはいつも感心させられる。

また、REITはCorporation扱いなんでクロスボーダー局面では原則ブロッカーとして機能し得る。そんなこと言うと、え~、REIT投資するためにケイマンとかのブロッカー経由にしたけどダブルだったの~?、ってショックを受ける方もいるかもね。まあ、REITは損失とかパススルーしないんでパートナーシップみたいなパススルーじゃないけど、所得を分配すると課税所得から除外されるんで、二重課税がないっていう点ではパススルーもどき。REITのパススルー神話。また、この点は次回以降に深く触れるけど、分配の原資がREITによる米国不動産持分譲渡に帰す部分は、分配とは言え通常の配当所得ではなく、FIRPTA課税目的で国外投資家は譲渡損益の性格がそのまま温存されるんで、REITが米国不動産持分を譲渡するような投資戦略を取る場合には、Upper Tierのブロッカーが必要になる。この点はDC REITの話しとも深い関係にあるんで次回以降に再度触れたい。

で、米国Corporation扱いってことは、前回のFIRPTA課税基本編で触れた通り、REIT持分の譲渡はFIRPTA課税の対象となる。もちろん米国不動産持分じゃない、っていう反証ができればFIRPTA課税対象じゃなくなる。でも、REITだから米国不動産所有法人になるに決まってて反証できる訳ないじゃん、って思う人はあわてんぼうのサンタクロースさんだ。FIRPTA課税基本で触れたけど、ピュアに債権者として所有している持分や債権は米国不動産持分にはならない。一方、REITの適格資産には不動産を担保としたモーゲージ債権が含まれるんでモーゲージREITはREITだけどFIRPTA課税目的では不動産持分にはならない。さらにREITが所有する不動産は必ずしも米国に所在する不動産とは限んないんで、米国外不動産投資を戦略としているようなREITがあれば、それでもREITだけど米国不動産持分にはならない。

REITの適格要件、それも米国Corporation扱いされること、っていう大基本ステップで早くも時間を使い過ぎたんでここからは次回。Led Zeppelinの話しとかしてないのに長くなったね。

Saturday, May 13, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (3))

さて、前回は米国のインバウンド課税の大基本をおさらいして、FIRPTAがそのフレームワークの中でどのように機能してるか、ってとこまで触れることができた。この2つの検討も、本来は個々の事実関係に基づく詳細検討がMustな点はお忘れなく。

FIRPTAイコール源泉徴収神話

FIRPTAってNRAや外国法人に対する申告課税だけど、そうなるとその定義から言ってNRAや外国法人に申告書を出してもらわないといけない。でも、NRAや外国法人、特に個人のNRAや米国外のアドバイザーは、悪意はなくても米国税法の要件を良く理解してなかったりして、申告書を出し忘れたり、納税しないことも十分に想定される。米国内だったら資産差し押さえ等の法的措置に訴えることが可能でも、国外の納税者相手だとそうもいかない。

もともとFIRPTAが制定された1980年当時は、この点を米国不動産持分所有や外国人による譲渡にかかわる詳細かつ非実務的(?)なレポーティングシステムで捕捉・対応しようとしていた。元祖Section 6039Cレポーティング要件だ。このSection、今ではすっかり文言も変わり果ててDefunct状態。想像に難くないと思うけど、NRAや外国法人相手に6039Cレポーティングに基づくFIRPTA課税システムを強制しようとしても思ったように機能せず、最終的にはFIRPTAそのものの制定から遅れること4年、1984年にSection 1445が制定され、今の譲受人による源泉徴収システムで申告や納税を担保する手法に転換された。米国不動産持分をNRAや外国法人から取得する、すなわち対価を支払う譲受人側に多額の前納にかかわる責任を持たせ、資金がNRAや外国法人の手にわたる前に、グロス対価15%を源泉徴収してIRSに納付させる人質作戦。源泉徴収システム導入と同時にSection 6039Cは大幅に改正されて実質お蔵入りになってる。今のSection 6039Cは「財務省規則が出たら報告義務が…」って感じの文言で辛うじてCode上にその姿(残骸?)が残ってるけど、源泉徴収システムに転換してしまった後、もちろん財務省規則は出てないし、これからも出ることもないだろう。一層のこと条文をRepealしてしまえば良かったのにね。

外国人に対する米国課税は源泉システムの適用が他にも一般的だけど、源泉される金額そのものが最終税額となる「源泉税」と、最終税額は外国人が申告書を出してネット所得に対して計算するけど、予定納税同様、仮の金額で前納させる「源泉徴収」に大別される。前者はNon-ECI FDAP、配当、利子、ロイヤルティー等に対する30%源泉で、後者はECIにかかわるパートナーシップによる源泉や今回のテーマのFIRPTA等が典型的な例。

FIRPTAの源泉徴収額は「グロス」対価の15%だから、最終的な税額となるネット譲渡益の23.8%(NRA)や21%(外国法人)と余り関係がない。大げさに前納させることで、申告書を提出して還付申請する方向に持ち込むための人質だ。譲受人が源泉徴収義務を怠ると、本来FIRPTAは譲渡人側に課せられる税金にもかかわらず、譲受人が要徴収額に関して法的に納付義務を負い、IRSによる徴収対象となる。したがって、本来は譲渡人側の課税だけど、譲受人の方がセンシティブになる。それはそうだよね。不動産を100で買っただけで何の譲渡益もないのに、追加で15取られたんじゃ投資になんないもんね。

で、この源泉徴収部分こそがFIRPTAって勘違いされてるケースもあるんで、源泉徴収はFIRPTA課税による税金徴収、申告書提出を実質強要するために後から規定されたっていう点と、譲受人側の源泉義務や源泉からの免除規定は、必ずしも譲渡人側のFIRPTA課税またはFIRPTA免除ときれいにシンクロしていないので、密接な関係にあるとは言え、原則異なる規定と考える必要がある。FIRPTAイコール源泉徴収神話だ。もちろんだけど源泉徴収されてても、または源泉徴収漏れでも、譲渡人側のFIRPTA課税は変わらない。源泉徴収義務まわり、またその免除のためのペーパーワークは難を極める規定。米国法人がE&Pを超える分配を外国親会社や、他のNRAや外国法人株主に行う際にも源泉徴収義務が適用されたりして直観的にピンとこないケースも多く頭が痛い。FIRPTA源泉徴収に関しては、それだけで一年間は特集できるんで、この辺にしとくね。

米国不動産所有法人神話

REITその他にかかわる財務省規則案の話しに入る前のお膳立てのフェーズで多くの神話が登場し過ぎて、ギリシャで不死の神々を伝承する吟遊詩人になったような気分なんで、最後に米国不動産所有法人関係の神話で一旦ラップアップしてREIT等の話しに移るね。

前回のポスティングで触れた通り、FIRPTAは「NRAや外国法人による米国不動産持分の譲渡(Disposition)」に対する課税を規定する法律。NRAと外国法人が何かっていう点にはザックリだけど既に触れてるんで、後は何が米国不動産持分の譲渡に当たるか、っていう点がFIRPTAに抵触するかどうかの重要な判断基準になる。その際、どんな取引が「譲渡」か、っていう点にフォーカスしても別の本が書けそうだけど、ここでは譲渡は広範に定義されていて、課税・非課税にかかわらず所有権の移転を意味するとだけ言っておく。

で、何が「米国不動産持分」かっていう点だけど、大別して2つ。まずは実際の米国不動産に対する持分、すなわちFee Simple等の財産権は当然のことながら米国不動産持分となる。この点に関して驚きはないんだけど、この定義には伐採前の森林や、地下に眠る天然資源等が含まれる点に加え、通常は動産と考えられる資産が不動産使用に関連する際に不動産とみなされる等、FIRPTA独特のルールがあるんで注意が必要。動産がFIRPTA目的で不動産持分に含まれる教科書的な例はホテルなどの宿泊施設の家具だ。どこまでが不動産で、どこからは動産かっていう境界線に不変の真理はなく、線引きをする目的、例えば州の不動産税とか、毎に各法律の規定や定義に準じて決めるべきことで、FIRPTA目的と他の目的で不動産の定義が異なるのは不思議なことではない。「この資産はカリフォルニア州の不動産税の対象ではなく動産税対象なんでFIRPTA対象ではないのでは…」みたいな話しは「ふ~ん、で?」ってなるだけで的外れ。用語の字面に惑わされないように。

米国不動産持分となる2つ目のタイプの資産は米国法人に対する持分。すなわちFIRPTA目的では、原則、「米国法人」の株式に代表される持分は米国不動産持分になる。したがってNRAや外国法人が米国法人株式を譲渡する場合、FIRPTA課税および姉妹規定の譲受人側の源泉徴収規定に抵触することになる。グループ内再編やM&Aの際に面倒な議論になった経験をお持ちの読者も多いんでは?株式市場で流通している株式に関しては5%以下の株式は米国不動産持分にならないとか例外はいくつかあるけど、今日は一般論として何が米国不動産持分か、っていう点だけにフォーカスしておく。個々のケースで必ずアドバイザーの意見を入手するように。

で、全ての米国法人株式は米国不動産持分っていうのは推定事実認定で、この認定が嫌なら納税者は「そうではありません」って反証する必要がある。この反証義務を全うできない場合、実際に米国法人がどんな状況にあるかどうかにかかわらず、法的には株式が米国不動産持分になる。これは法執行の観点からは合理的な規定で、株式が不動産持分かどうか不明のままではFIRPTAどころではないんで、Presumption、すなわち推定事実認定をして、デフォルトの取り扱いを規定しているもの。

じゃあどうやって反証するの?っていう点が最重要課題になる。この判断は大別して米国法人に対する権利や持分を持っている側で判断できるケースと、米国法人そのものが判断して持分を所有している者、すなわち株主等に告知するべきケースの2通りがある。前者に属するものは、持分がピュアに債権者としての立場として財産権を有している場合。平たく言うとモーゲージを含む貸し付けにかかわる債権者が所有する貸付債権は債務者が米国法人でも米国不動産持分にはならない、ってこと。貸し付けにEquity Kickerみたいな部分があったり転換社債だったりするとピュアな債権者でなくなるので注意。この例外は正確には推定事実認定以前にテストされるんで、この段階で債権が米国不動産持分でなくなれば、法人側に反証義務は課されない。

ピュアな債権者以外の法的身分で米国法人の持分を所有する場合、最たる例は株式を所有してる例だけど、そのまま放っておくと持分はデフォルト的に米国不動産持分だから、納税者側で反証できるのであればしないといけない。株式等の持分が米国不動産持分ではなくなるのは、納税者側が「米国法人は過去5年間に一度も「米国不動産所有法人」ではなかった」と証明できるケース。米国不動産所有法人っていうのは法人が所有する資産のうち、「事業資産+米国不動産持分+米国外不動産持分」に占める「米国不動産持分」が「時価ベース」で50%以上(超ではない)の法人のこと。このテスト自体思ったほど単純ではなく、例えば現預金とか投資有価証券などが事業資産に当たるかどうかも含め争点は多い。単純にバランスシートで決められるものではない。時価ベースだしね。時価ではなくUS GAAPの簿価で代用するテストもあるけど、その場合は50%以上ではなく25%超ってより厳しい条件になる。

で、このテスト、過去5年に一度も米国不動産所有法人だったらいけません、っていう基準。分母の事業資産の時価とか毎日刻一刻と変化するから、5年間におよぶテストって、毎日計算し直して1825回テストすんの~?とか、いやいや流動資産は一日の中でも変化するから毎時間、仮に営業時間8時間に限定するとしても15,000回弱テスト?、とか、一時間内にも流動資産は変化するんで毎分ベースで90万回弱テスト?いやいや分の中でも動くでしょ、って毎秒ベースで5千2百万回テスト?とか、え~そんな~、みたいな状況になる。5千2百万回!さすがにこれはWorkableじゃないんで、「Determination Date」っていう概念があって、最低でも毎期末には計算することっていう規定になってる。フ~、これだと5回だから5千2百万回の5千万分の1で済むね。ただ、プラス、米国不動産持分の取得時点(分子増額)、米国外不動産持分の譲渡時点(分母減額)、また通常業務の範囲外の事業資産の譲渡時点(同じく分母減額)には毎回テストすること、ってされている。これらのテストは分数の結果が高くなるケースにフォーカスがある。

ここでまた吟遊詩人にならないといけないんで辛いところだけど、FIRPTA課税が適用されるのはあくまでも米国不動産持分(United States Real Property InterestすなわちUSRPI)を譲渡した場合。最重要ポイントは米国不動産持分イコール米国不動産所有法人(United States Real Property Holding CorporationすなわちUSRPHC)じゃないっていう点で、米国不動産所有法人を譲渡してもそれ自体をもってFIRPTA課税はトリガーされない。米国不動産所有法人神話だ。結構プロっぽい文献でも米国不動産所有法人の譲渡がFIRPTA課税対象、って表現されてて不幸なんだけど、それは普通のオーディエンスにはその区分を説明するのが面倒だから簡便的に不正確と知りつつ書いてるんだろう。

この差異を具体的な例で示すと、米国不動産持分は「米国法人」のみに適用される定義となる一方、米国不動産所有法人は法人の設立場所は問われない。例えばケイマン法人が米国不動産に投資している場合、当ケイマン法人は資産比率的に米国不動産所有法人になるとしても、米国法人じゃないから米国不動産持分にはなり得ない。NRAや外国法人が米国不動産持分を所有するケイマン法人を何百社と譲渡したところで株式を長期投資保有している限りにおいて米国で1ドルも課税は発生しない。

また、法人の「事業資産+米国不動産持分+米国外不動産持分」に占める「米国不動産持分」が「時価ベース」で50%未満になる場合、その時点で法人は米国不動産所有法人ではなくなる。でも、過去5年に一度でも米国不動産所有法人だった経緯がある米国法人の株式は、仮に法人が米国不動産所有法人でなくなったとしても引き続き米国不動産持分だから、NRAや外国法人による当株式の譲渡は5年待たない限り、そして5年間の待期期間において一度も再度米国不動産所有法人にならない前提で、ようやくFIRPTA課税の呪縛から解放されることになる。

じゃあ、なんで外国法人でもなり得る、そんな面倒な米国不動産所有法人っていう別の定義があるかっていうと、米国法人の株式が米国不動産持分になるかどうかの5年間テストの分数を算定する際に、分子・分母の双方に加味される「米国不動産持分」は、この分数テスト目的のみ米国内外を問わずに米国不動産所有法人の株式時価を合算する必要があるから。ただ、50%超の持分を持つ法人に関しては、下層法人内の資産をLook-throughする特別ルールがあるから注意が必要。

浄化(Cleansing)規定

上述の通り、米国法人株式が米国不動産持分かどうかは米国法人が過去5年に一度でも米国不動産所有法人だったかどうかで判断するのが原則だけど、有益な例外として浄化規定がある。この規定に基づくと、現時点で米国法人が米国不動産持分を全く所有しておらず(分子ゼロ)、過去5年間に米国不動産持分を少しでも所有してた経緯がある場合には、当持分は全て「課税取引」で譲渡された場合、そのような米国法人の株式は米国不動産持分には当たらないとされる。ただし、この例外はREITやRICには適用がない。

FIRPTAは実に複雑な規定なんできりがないんだけど、この辺でFIRPTA課税の一般編は終了し、次はいよいよ問題の財務省規則案に触れたい。