*Device規定
この規定は税法上は「Not used principally as a device for the distribution of the earnings and profits of the distributing corporation or the controlled corporation or both...」と記されている。意訳すると「DまたはSubのE&P分配をスピンオフと仮装して実行するための手段ではないこと」となる。E&Pの分配とはもちろん「配当」であることから訳は更に「配当をスピンオフと称して実行するような手段であってはならない」ということだ。
スピンオフは本来であれば配当として株主およびDで課税される取引を、企業再編を促すという目的で特別に非課税とすることを認めている。したがって、スピンオフを偽って本来は配当となるような取引を非課税で行おうとするようなケースと純粋なスピンオフを区別する必要がある。考えてみれば、事業をDが「Divestiture」してその売却価格としての現金を配当すれば当然配当に対して課税されるのに対し、スピンオフとして非課税で受け取った株式を売却すれがキャピタルゲインとなるのだから悪用とまではいかなくても多少無理な解釈をしてスピンオフとしたいと願う者がいても不思議はない。
このDevice規定は「米国のスピンオフ(3)」で触れた事業目的条件と極めて近い。すなわち、強力な事業目的が立証できるのであれば自ずとDevice規定も満たすことができると考えられる。
*Deviceとみなされ易い状況
Device規定を満たすかどうかは個々に事実関係による判断となり、機械的なテストではない。しかし、Deviceと考えられやすい事実関係があることは間違いない。
- 均等分配: Dの株主の持分に準じてSub株式が分配されるケース(すなわちスピンオフ)は配当と見分けが付き難い。これはスプリットオフやスプリットアップが例え課税取引扱いされたしても配当とはならずに償還、清算と扱われることからも明らかである。しかし、均等分配が全てDeviceとなる訳ではない。さもないと非課税スピンオフは不可能となる。したがって、均等でない分配に比べるとより精査されるという感じであろう。
- スピンオフ後の株式売却: スピンオフ後にDまたはSubの株式が売却されてしまう場合にはDeviceの疑いが強くなる。スピンオフの前または同時に売却交渉が行われているような事実があるとすればかなりの確率でDeviceとみなされるであろう。一方、スピンオフ後の譲渡が非課税再編に基づく株式交換であればそれだけではDeviceとは言い難い。その場合は再編で受け取る株式がDまたはSub株式の代替であると取り扱われる。スピンオフ後の株式売却のDevice規定に与える影響に関してはCodeと財務省規則で微妙な温度差がある。興味のある方は双方を読み比べてみるといい。
- 事業ニーズを超えた流動資産: DまたはSubに通常の事業ニーズを超えた多くの現金等の流動資産がある場合にはDeviceとされ易い。
一方でDeviceではない、すなわち正当なスピンオフであると立証し易い事実関係もある。
- 強力なBusiness Purpose: これは上述の通りである。
- Dが上場会社: Dの株式が上場されており5%を超える株主がいないような場合にはスピンオフはDeviceとはなり難い。そのような状況では、配当扱いしたくないという株主レベルの願望を基に法人レベルでのスピンオフが実行される可能性が低いということであろう。
- Dの株主が米国法人: Sub株式の分配が米国法人株主にあるものであれば、例え配当とみなされても「Dividend Received Deduction」が適用されるためいずれにしても株主レベルでは非課税部分が大きい。したがって、そのような取引は敢えて巧妙にスピンオフの名を借りて配当を実行する必要が低く、Deviceとはなり難い。通常、法人株主は株式償還、売却によるキャピタルゲインよりも配当としての取り扱いを好む。これとは対照的に個人株主は配当よりも税率が低く(近年は配当も低税率となることが多いが)かつ取得コストを差し引くことができるキャピタルゲインを好む。Deviceという規定の趣旨が配当を配当でないように見せかけて受け取りたいというケースを取り締まるというものであるから、当然個人株主のケースがDevice条件的には怪しいということになる。