Wednesday, March 12, 2008

外国法人への支払利息と源泉税

多くの日本企業の米国現地法人にとって、日本親会社からのローンは必要不可欠な資金源である。親会社からローンを受ける際には、過小資本、Earnings Stripping規定、移転価格問題(利率の正当性)等の問題点と並び、利息支払い時の源泉税の徴収、源泉に係る報告(Form 1042)義務に注意する必要がある。この源泉徴収義務に関してTax Courtで一つの判決が下された。

*Guangdong Finance, Inc.ケース

このケースは中国系の米国現地法人が中国のGITICと香港のGXEという関連会社からのローンに対して支払った利子に対する源泉徴収義務に係るものだ。GITICは中国政府に所有される金融機関であり、GXEはその香港現地法人だ。またGITICは米国現地法人の少なくとも25%の持分を持っているとされる。したがって、GITICに対する利子もGXEに対する利子もどちらもPortfolio利子とはならず米国内国法に規定される非課税特典を受けることはできない。

米中租税条約には「一方の国に所有される金融機関に対する利子は他方の国では非課税」という条項がある。すなわち中国政府に所有される金融機関からのローンに対する利子は米国では課税されないということだ。したがって、GITICに対する利子は租税条約により非課税となり、結果として米国現地法人に源泉徴収義務はなかったこととなる。

一方でGXEからのローンに関しては香港法人(=香港居住者)からのものであるため、米中租税条約は適用されない。香港が中国に返還(1997年)された今日でも米中租税条約は香港に適用されないが、今回のケースはナント1994年~1996年という相当古い課税年度を対象としているため、香港がまだ英国の植民地であった頃だ。したがってもちろん米中条約の対象外となる。

この点に関して納税者は形式的にはGXEからのローンであるが「実態はGITICからのローン」であるという「Substance over form」論を主張した。実態はGITICからのローンであるから米中租税条約の適用が可能だという主張である。しかし、Substance over formという実態論は基本的にIRS側が主張するものである。形式を自由に選択できる納税者が後から実態は形式と異なるという抗弁を展開できる局面は極めて限られている。この点は取引の形態を決定する際に肝に銘じておく教訓であろう。また、GXEはGITICの代理人(Agent)であるという主張も展開されたが、提出された証拠書類等を見ても代理人の関係を決定付けるものはなく退けられた。

結果として判決はGXEからのローンに対する支払利息に関して源泉徴収義務違反ということになっている。

*Form 1042

外国人に対して利子、配当、ロイヤリティーその他の支払いを行う者は基本的にその金額、内容を年次報告書であるForm 1042にて報告する必要がある。租税条約で源泉が免除されているケースでもForm 1042の提出義務は残るため、今回のケースではGXEの金額ばかりでなく、GITICの金額もForm 1042にて報告される必要があったことになる。

実際にはForm 1042の提出は行われていなかった。したがってペナルティーが課せられているが、申告書未提出に対するペナルティーは通常、未払い税金の金額に対する%となる(月5%で最高25%)。このことからGITICに関しても報告義務はあったが税金の支払いは必要なかったため、Form 1042未提出に係るペナルティー計算目的ではGXEローンに対する源泉税の25%となるであろう。

*源泉徴収義務

源泉徴収というのは本来、受け手に代わって税金を納めるという手続きである。給与に対する源泉徴収のように「仮の徴収(後で申告書を提出して最終税負担確定)」のケースもあれば、外国法人・外国人に支払われる投資所得に対する源泉徴収のようにそれが「最終税額」となるケースもある。

今回のケースはもちろん後者である。例えば米国法人が外国法人に対して100の利子を支払う際に30の源泉をする必要がある場合には、30はIRSに納付し残りの70を外国法人に送金する。30はあくまでも外国法人に対する課税であり、この30は最終税額である。外国法人が他にECI等の報告をしない限り法人税申告書を提出する必要はない。

30を前もって源泉させるのはでないと税金を取ることが実務的に困難だからだ。相手は外国法人・外国人である。もし外国法人に100全額を支払ってしまったとするとIRSとしては後に外国から税金30を徴収するのは難しい。IRSの法的なパワーも外国ではかなり限定されてしまうからだ。したがって、支払い主にその責任を取ってもらうということになる。

仮に100全部を支払ってしまった後に、30の源泉徴収義務があることが発覚したとすると、この30は外国法人の税金であるにも係らず、源泉徴収義務を持っていた米国法人に対して追徴課税することが認められる。米国法人としては100の利息を支払った上に30の税金を支払うこととなる。これが源泉徴収義務者=Withholding Agentとなることの怖さである。

今回のケースでは適用されていないが、税金の未払い25%ペナルティーに加えて源泉徴収義務違反のケースでは源泉税額の100%をペナルティーとすることができるという規定もあるのでますます怖い。他人の税金を取らなかったという理由で大きなペナルティーを支払うのは最悪のシナリオだ。

日本企業の米国現地法人が親会社に利息を支払っているが源泉税を徴収していないというようなケースは近年では余り見かけなくなった。一方でForm 1042は通常の法人税申告書と異なる様式となるため、会計事務所側で必ずしも自動的に作成してくれるものではなく、実際には提出されていないケースも見受けられることから注意が必要だ。