Monday, June 30, 2008

Bear Sternsの株式交換は「課税取引」?

Bear SternsがFederal ReserveのアレンジでJ.P. Morganに救済買収された件に関しては2008年3月17日「Bear SternsによるJ.P. Morganの買収」、2008年4月9日「ヤフー、Bear Sterns買収案その後」で触れた。その後明らかになった取引の詳細から税務上の興味深い取り扱いが見えてきたので、今回はその取り扱いに関して触れる。なお、下の取り扱いは公にされた情報から当初はロバート・ウィレンがその詳細を分析し、リー・シェパードがそれにコメントしたものだ。両者ともにこの分野では大御所のコメンテーターだ。内容が余りに興味深かったので僕なりの理解を書いておく。

*Bear Sternsの買収形式

Bear Sternsの買収は、Bear Sternsの一株に対して$10(当初は$2であったが後に上方修正)に相当するJ.P. Morganの株式が支払われる株式交換という形で行われるとされている。具体的にはBear Sterns一株に対してJ.P. Morganの0.21753株が支払われる。2007年12月16日の「米国で三角合併が多様される訳」でも触れたがBear Sternsのように多数の株主が存在する法人を買収する際に、形式的な意味での株式交換を実行するのは不可能である。したがって、実質的な効果は株式交換であるが、形式的には(会社法取り扱い上は)三角合併となるであろうという点は以前のポスティングで触れた。

その後の情報開示に基づくと、買収は「Reverse三角合併」にて行われる。具体的にはJ.P. Morganがデラウェア州に新規の「Merger Sub」を設立する。そしてこのMerger SubがBear Sternsに合併し、Bear Sternsが存続法人となる。Bear SternsはJ.P. Morganの100%子会社となり、Bear Sternsの株主はJ.P. Morganの株式を受け取る、という典型的なReverse三角合併だ。

*Control基準が満たされない?

ここまで聞くと、通常の株式を対価とするReverse三角合併(=Stock Swap)として適格のB型再編、またはSec.368(a)(2)(E)に基づいてA型再編となるのが当然のように見える。普通に考えれば再編が非課税となるのが望ましいが、今回はそうではない。Bear Sternsの株式に対して$10相当の価値しか受け取らないということは多くの株主が多額の損失を認識するということになるからだ。したがって、非課税としてしまうと(その後J.P. Morganの株式を課税取引で売却しない限り)損失の認識がない。

ここで一点周到に仕組まれたであろう隠し技が登場する。Bear Sternsには「議決権のない」優先株式が存在する。この優先株に対してはJ.P. Morganの普通株式が支払われないというのだ。これはどのような結果に繋がるか?まず、「Stock for Stock」のB型再編であるが、こちらはタックス1年生でも知っているように「Solely For」規定を満たした上で、買収後に買い手がターゲットの「Control」に相当する持分を持っていなくてはいけない。

すなわち、買収後にJ.P. MorganはBear SternsのControlを有していなくてはいけない。ここでいうControlは再編(買収方D型再編を除く)、Sec.351等に適用されるSec.368(c)のControlである。このControlの定義に関しては過去のポスティングで再三にわたり触れているが、議決権付き株式の全てをまとめてそれの80%、および議決権のない株式は各々のクラスの価値80%、というものである。総額の価値は関係ない点、また議決権がないクラスの株式に関しては「各々のクラス」の80%を持つ必要があるため恣意性が高い。すなわち「Controlを実現したくない」ような局面においては、Control条件を敢えて達成し損なう(Bustする)ことはかなり容易である。

優先株を従来のBear Sterns株主がそのまま持ち続けるため、J.P. Morganは「Control」を持つに至らない。例えBear Sternsの普通株式を全てJ.P. Morganの普通株式で取得し100%の議決権株式を得たとしても、議決権のないクラスの株式に関しても80%以上を持たないとControlに至らないからだ。これは例え普通株式の部分が価値的に90%であったとしてもそのような結果となる。となるとB型再編の条件を満たすことができない。

もう一つの非課税再編ルートとなり得るReverse三角合併に対する非課税取り扱いを規定しているSec.368(a)(2)(E)に基づくA型再編に関しても同様だ。Reverse三角合併が適格再編となるためには通常のA型再編の条件に加えて、Sub All、およびターゲットのControlに匹敵する持分がVoting Stockで買収されること、という追加条件を満たすことが要求される。この点に関しては2007年7月16日「Reverse三角合併の税務上の取り扱い」を参照。ここでいうControlも上のSec.368(c)のControlとなることから、ここでも非課税の条件を満たすことができない。

*課税となるのはわざと?

この結果は「うっかり」のはずがない。この手の取引はいかに性急に準備されたとは言え何人もの専門家が取り扱いを検討するものだ。しかもCotrol条件を満たすかどうかの検討は買収局面では初歩的に検討される分野であり、NYのタックス弁護士が見逃すはずがない。となると、含み益が巨額となるBear Sternsの株式に配慮して敢えて課税取引になるような形で株式交換を実行したと考える方が自然であろう。