前回のポスティングでは損失報告の権利があるとされた外国人パートナーが「どのようなタイプの損失を報告し、パートナーシップに考慮してもらうことができるか?」に関して触れたが、今回のポスティングでは「De minimis」規定および「パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税」に関して触れたい。また、最後に損失報告の具体的手順等に関して若干触れ、6回に亘り話してきた当テーマを締めくくりたい。
*「De minimis」規定
De minimis規定とは簡単に訳すと「少額免除」とでもなるが、その名の通り、この規定下では、パートナーシップ側で外国人パートナーに代わって行うはずの予定納税の金額が少ない場合にはパートナーシップ側での予定納税義務が免除される。
De minimis規定の適用を受けることができるのは外国人パートナーの中でも「個人パートナー」に限定される。したがって「法人パートナー」への適用はない。また、この規定の適用をパートナーシップに申請するには、当パートナーシップへの投資のみが米国事業所得(ECI)であるという条件を満たす必要がある。これらの条件を満たす外国人パートナーに関して、パートナーシップが支払うはずの予定納税の「年間総額」が$1,000に満たないと算定される場合、パートナーシップによる予定納税義務そのものが免除される。予定納税の年額が$1,000に至るかどうかの判断は外国人パートナーによる損失報告(もしあれば)「前」の段階で行う必要がある。
該当パートナーシップ投資以外に米国事業からの所得があってはいけないという点に関してだが、もし過去の課税年度に他の米国事業に従事しており、それに関連して後年に繰延報酬があったり、事業資産を売却したようなケースではその後年に関して米国事業に従事していると取り扱われる。
また、この規定はFIRPTA規定に基づく米国不動産持分の売却にも適用される。すなわち、単なる不動産所有およびPassiveな賃貸収入の受領はそれだけでは米国事業には至らないが(Sec.871(d)に基づくネットElectionをしているケースは別)、米国不動産の売却はその不動産が実際に事業用途に使用されていたかどうかに係らず自動的に「事業所得(ECI)」となる。したがって、米国不動産持分の売却があるということはイコールその年に関しては米国事業に従事している状態となる。
De minimis規定の適用を申請した後に、他の米国事業に従事するようになった場合には、外国人パートナーは10日以内にその旨をパートナーシップに報告しなくてはならない。
*パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税
損失報告をすることができる立場にある外国人パートナー(過去の申告実績があるパートナー)に関しては、実際に損失の報告、またはDe minimis規定適用の申請、がない場合でも、パートナーシップは自らが外国人パートナーに代わって支払う州税の控除効果を加味しても良いとされる。具体的には州税の90%までを各パートナーに配賦される課税所得算定時に費用として計上することが認められる。
*損失報告手順
損失の報告はIRSが新規にデザインする「Form 8804-C」にて行われるものとされている。IRSは既にこのForm 8804-Cを公表しているが複雑な規定を僅か2ページ半の分かり易い様式に凝縮している(プラス5ページのInstructions)。米国のFormのデザイン担当者は税法を完璧に理解した上で、素人にも分かるように、更にそれを少ないページにまとめるという離れ業を得意としているが今回もその好例だ。このFormでは損失の報告をすると同時に、外国人パートナーが報告をできる立場にあるという点(過去の申告実績を満たしているという点)も同時に告知できるようになっている。
外国人パートナーからForm 8804-Cを受け取ったパートナーシップは基本的にその内容に準拠してもよいとされる。パートナーシップはその判断で損失報告の内容を加味しないで予定納税を行うこともできる。損失報告を加味して予定納税を算定する場合には、パートナーシップが予定納税の納付時にIRSに提出するForm 8813に外国人パートナーから受け取ったForm 8804-Cのコピーを添付する義務がある。その後、Form 8804-Cの内容変更がない場合には、その後の四半期毎の予定納税時にはForm 8804-Cのコピーを添付し続けてもいいし、また2回目からは簡単なStatementをForm 8813に添付するという方法も認められる。
IRSはその裁量に基づき、損失報告は信用に値しないと判断することができる。そのような判断に至った場合にはその旨をパートナーとパートナーシップに通知してくる。通知を受けたパートナーシップは、損失報告はなかったものとして予定納税の算定をする必要がある。
過去の四半期で既に損失報告を加味してしまっている場合には、IRSから「信用に値しない」という通告を受けた後の四半期にて過去に減額した部分を取り戻す形で予定納税を行う必要がある。IRSからの通知は、損失報告の信憑性の高低により、信用に値しないとされたForm 8804-Cの「対象年度のみ」損失報告を加味できないケースと、その後の「全ての年度に関して」損失を考慮することが認められないケースに大別される。後者の場合にはIRSからその後「損失を考慮してもよろしい」という通知がくるまでその影響は続く。
最後に今まで話してきた規定はパートナーシップ側の外国人パートナーに代わる予定納税義務に係るものである。言うまでもないかもしれないが、外国人パートナーを含む全ての納税者に課せられる「予定納税義務」はそのまま存在する。したがって、損失報告をしてパートナーシップ側では問題なく予定納税を減額したケースで、もし外国人パートナー側そのもので支払い漏れが発生する場合には外国人パートナーに対して通常の「予定納税ペナルティー」規定が適用されることとなる。