米国のスピンオフに関しては2008年4月22日に「米国のスピンオフ(9)」で「買収の前段階で不必要な事業を分離するためのスピンオフ」の課税関係を決定したMorris Trustケースについて触れた。そこまで書いた時点で外国人パートナーに係るパートナーシップの予定納税算定に係る最終財務省規則が発行されたのでそちらの特集が続いたが、またスピンオフ・シリーズに戻る。
*Morris Trustに対するIRSの反応
Morris Trustケースでは納税者が勝利を納めたが、その後IRSはRev. Rul. 68-603でその負けを認めている。具体的には次の点を是認している。
- Dがスピンオフ直後に合併により消滅してもActive Trade or Business条件を満たすことができる
- スピンオフの対象となる事業がDの一事業部門である場合に、スピンオフの第一ステップとして実行されるD型再編(スピンオフする事業の子会社化)に関して、D型再編のControl条件は、例えDがスピンオフ直後に合併等の再編に関与したとしても満たすことができる
- 合併のためのスピンオフには事業目的が存在し得る
これにより基本的にIRSはMorris Trustタイプの「スピンオフ+買収」という取引を容認したということになる。
*買収を想定したスピンオフ
買収を予想・想定してのスピンオフは今日でも数多く見られる。スピンオフに係る具体例として過去に何回か取り挙げている「モトローラによるMobiel Device事業のスピンオフ」また「タイムワーナーによるネット接続事業のスピンオフ」も、それらの事業をスピンオフという手法で独立法人とした後、誰か同業が買収してくれるのではないかという期待があるであろう。したがって、どのようなスピンオフでも、その後DまたはCが買収される可能性は常にある。買収案件の半数はその相手が何らかのDivestitureであるということからもスピンオフと買収の関係は深い。しかし、Morris Trust取引では「買収が決定しており、買収に不要な事業を分離するため、すなわち買収を助成するためという明確な目的でスピンオフ」している点にポイントがある。
買収される側が、買収に不要な事業を分離する際には単純に事業を売却するというオプションもある。そのような手法を取ると不要な事業を売却した時点でDは事業の含み益に課税されてしまうことになる。これをスピンオフとして実行すれば課税されないとなると、その効用はかなり大きい。
結果として多くの再編がMorris Trustケースに準じる形で実行されるようになった。すなわち、第三者がDを非課税再編で買収しようとするがDに買収対象として望ましくない事業が存在するケースでは、Dが不要な事業をCという新法人に現物出資で移管し、Cをスピンオフする。その後、Dは合併、株式交換等の手法で買収され、Cは単独の別法人として残るというものだ。
通常、スピンオフ後の買収はA型再編となる2社間の合併、またはB型再編となる株式交換、という手法で行われることが多かった。これは三角合併(ForwardでもReverseでも)の非課税要件には「Sub All」規定というものがあり、スピンオフ後の買収には適用が難しいという理由がある。ただし、LLCという事業主体形態が登場してからはSMLLCを利用して法的にはForwardの三角合併を行い、SMLLCを税務上は支店扱い(Disregarded Entity)と取り扱うことにより、2社間のA型再編と位置付けることが可能となっている。このSub All規定とReverse Morris Trustに関しては後述する。
なお、スピンオフ後の買収の対価が株式ではなく現金等となる場合には、Device規定、持分継続規定、等に抵触することとなりMorris Trustケース以降も非課税スピンオフの取り扱いは認められないと思われる。したがって、Morris Trustはスピンオフ後の買収が「非課税再編」にて実行されるケースに効果を発揮する。
*Reverse Morris Trust
上のMorris Trust型の取引では、買収されるのはあくまでもスピンオフを行う側にあるDであり、スピンオフされる(すなわち買収に不要な事業を持たされた)Cではない。これは1998年頃までは重要なポイントであった。仮にCに買収対象となる事業を移管してスピンオフし、その後第三者がCを非課税再編で買収したとするという手法を取るとすると、DとCの立場が入れ替わる。このような形態は「Reverse Morris Trust」として知られている。
Reverse Morris Trustにおける経済的な効果は通常のMorris Trust取引と同様であるが、Cが買収の対象となることで、DがCに事業を現物出資した際の取引(=D型再編)に技術的な問題が生じると長らく信じられてきた。具体的にはD型再編に必要とされる「Control」条件が、Cが買収されてしまうことによりC株主の構成が変わり、満たされないとされていたからだ。これはMorris Trustケース、またその後のIRSによる是認されたケースの事実関係では、買収される事業主体はDであり、Cの株主はそのまま継続していたので問題とならなかったのと対照的な結果である。
このReverse Morris Trustは98年頃に息を吹き返すこととなる。スピンオフに先立つD型再編に求められる「Control」条件は、スピンオフ後にCの株式が第三者に譲渡されることが決まっていてもD型再編に基づく現物出資時点で必要%に至る持分がDに発行されていればそれでいいという法改正が行われたからだ。また後述の1997年の法改正も取り扱いに係る透明性を向上させた。
D型再編というのはA,B,C型再編と異なり、買収型と分割型(スピンオフの前段階におけるスピンオフ対象事業の子会社化)がある。D型再編の「Control」条件はかなり込み入っており、明言してしまうのは恐ろしいが、分割型のD型再編に関しては他の再編と同様のSec.368(c)に規定される%が必要である。これは議決権付き株式の全てをまとめてそれの80%、および議決権のない株式は各々のクラスの価値80%、というものである。総額の価値は関係ない点が極めて興味深い。スピンオフの話しとは直接関係ないが買収型のD型再編に関しては、Sec.304に規定される「Control」条件が適用されることから50%超の持分でControlが認められる(これには実はIRS側でむしろD型再編の存在を肯定したいという局面が多いという「不純な(?)」動機がある)。
話しは極めてややこしいが、D型再編に係るControlとは別にスピンオフの規定そのものにも「Control」条件がある(この点に関しては「米国のスピンオフ(3)」を参照)。D型再編が伴うかどうかに係らず、スピンオフ規定自体のControl条件は全てのスピンオフに適用されるが、このControl条件に関してもD型再編に係るControl同様に必要な持分%(Sec.368(c) Control)をDがDの株主に分配さへすれば、その直後にDの株主がC株式を譲渡その他しても問題はないとされる。
なお、スピンオフの対象となる事業が初めから別子会社により行われていた場合には、スピンオフ時にD型再編にて事業資産を新規法人に現物出資する必要がなく、D型再編の条件を満たすかどうかという問題はそもそも発生しない。その場合には他のスピンオフ条件が満たされていれば良かった。上述のD型再編に係るControl条件の緩和により、基本的にはD型再編を伴うスピンオフも伴わないスピンオフも取り扱いが同様になったような感じを受ける。
最後にReverse Morris Trust型の手法に基づきCが非課税再編にて買収される場合に、再編の形態次第では上述のSub All規定が求められることがある(三角合併、C型再編)。その際に、C法人だけの資産にてSub Allを判断するのか、Dの資産をも加味して判断するのかという問題が生じる。現時点では例えスピンオフ時にD型再編でCが分離されたケースでも、Cのみの資産を基に判断が認められている。この点もReverse Morris Trust型の自由化の一環である。
*1997年の「Anti-Morris Trust」法改正
上のような背景を基に、1997年にはMorris Trust型の取引に対する取り扱いがついに条文にて明確に規定されるに至った。1997年の法律は一般に「Anti-Morris Trust」として知られているが、皮肉なことに1997年の法律を適用するとMorris Trustケースは判決通りに「非課税」という結果となる。したがって、現時点でも条件次第では「Morris Trust」または「Reverse Morris Trust」型の再編は可能である。Anti-Morris Trustという用語に騙されないようにしよう。この法律の説明は一筋縄ではいかないため、また今回のポスティングは既にかなり技術的に難解となっているため、ここからは次回のポスティングとする。