前回のポスティングでは「Morris Trust」ケースの判決を受けてIRSが「スピンオフ+買収」という取引を容認していったこと、またこの手の取引が「Morris Trust」型取引として発展していったこと、そしてその変形である「Reverse Morris Trust」型取引というものがある点等に触れた。今回はMorris Trust型取引の横行に対して制定された1997年の法律に関して触れる。
*Sec. 355(e)
Sec. 355(e)はMorris Trustケース以来数多く行われてきた「買収(通常は非課税再編)の準備段階として買収対象として不必要な事業をスピンオフという形で分離する(Reverse Morris Trustの場合は逆に必要が事業を分離する)」という取引に一定の網を掛ける目的で制定されている。前回のポスティングでも触れたが、Sec. 355(e)は一般に「Anti-Morris Trust」として知られているが、皮肉なことに1997年の法律を適用するとMorris Trustケースは判決通りに「非課税」という結果となる。したがって、現時点でも条件次第では「Morris Trust」または「Reverse Morris Trust」型の再編は可能である。Anti-Morris Trustという用語に騙されないようにしよう。
*Sec.355(e)の骨子
Sec. 355(e)の基本的な規定は次の通りだ。スピンオフが他の条件を満たす適格スピンオフであっても、スピンオフと同一プランの一環でDまたはCの持分50%以上が取得される場合には、DがCをスピンオフとして分配する際にCの含み益に対して課税される。Sec.355(e)はDに対する課税を可能とするが、スピンオフの他の条件を満たしている限り、C株式をスピンオフとして受け取るD株主に対する配当課税はない。これは基本的にSec.355(e)(および後のポスティングで触れるSec.355(d))の規定は、含み益を持つ資産(=C株式)を法人が課税所得を認識することなく分配してしまう「General Utilities」型の取引に網を掛ける目的で制定されているからだと思われる。
*スピンオフと買収は「同一プランの一環」か?
Sec. 355(e)はスピンオフと買収が「同一プランの一環」として取り扱われる際にのみ適用がある。すなわち買収が決まっていて、買収に不必要な事業(またはReverse Morris Trustの場合には必要事業)をスピンオフして買収を助成するというケースに適用される。
このことからSec. 355(e)の実効性は、買収がスピンオフと「同一プランの一環」で行われているといかに認定することができか、に掛かってくる。したがって、Sec.355(e)の規定および財務省規則には、この点、すなわちどのような時にスピンオフと買収を同一プランの一環と取り扱うかという考え方にかなりの紙面を割いている。
買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうかという問題は「事実関係」の問題であり、その判断は個々のケースを取り巻く全ての事実関係に基づいて判断されるとされている(Facts and Circumstances Test)。しかし、その上で、鍵となる考え方はスピンオフの前後2年間(計4年)に行われた買収はスピンオフと同一プランの一環で行われたとみなすという規定だ。しかし、このみなし規定は「反証可能」なものであり、仮に短期間にスピンオフと買収が実行された場合でも、両者が同一のプランに基づいておらず、その旨を立証できる場合にはSec.355(e)の規定は適用されない(すなわちCの株式の含む益には課税されない)。
*同一プランの一環を示唆する事実関係
取引を取り巻く事実関係の中でも買収とスピンオフが同一プランの一環ではないかと示唆するとされているものは次のようなものだ。
- スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行されるまでの2年間に、買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績
- スピンオフ後に公募(Public Offering)がある場合、スピンオフが実行されるまでの2年間に、投資銀行と公募に係る話し合いが持たれた実績
- スピンオフ前に買収がある場合、買収が実行されるまでの2年間に、スピンオフに係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績
- スピンオフ前に公募がある場合、公募が実行されるまでの2年間に、投資銀行とスピンオフに係る話し合いが持たれた実績
- 買収等を助成するというスピンオフの事業目的
逆に上のような事実関係がない場合には同一プランの一環ではないという裏づけとなる。他にも同一プランの一環ではないという証拠となり得る事実関係は次の通りだ。
- スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行された後に市場環境が予想外に変化したことによる想定外の買収
- スピンオフ前に買収がある場合、買収が実行された後に市場環境が予想外に変化したことによる想定外のスピンオフ
- 買収の有無に係らずスピンオフが実行されたであろうという見解
*同一プランの一環の具体例
DはCの100%親会社であり、Dは事業1、Cは事業2に従事している。Dは業界では比較的小規模な存在であり、同業(事業1を営んでいる)で大企業であるXに買収されたいという戦略がある。XはDを買収したいがCの従事する事業2には関心がなく買収対象とは考えていない。Xによる買収を助成するため、DはCの株式をスピンオフするを合意し、XとDは買収に合意する。一ヵ月後にスピンオフが実行され、翌日には買収が実行される。XによるDの買収は株式を対価とする合併で行われXが存続法人となる。Dの旧株主は合併後のXの50%未満の株式を受け取る。
この例ではDの持分50%以上が合併を通じてX株主に渡ったことから、DによるCのスピンオフとXによるDの買収が同一プランの一環で行われている場合には、Sec.355(e)が適用され、DはC株式の含み益に課税されることとなる。同一プランの一環であったかどうかは「Facts and Circumstances」に基づき決定されるが、この例では同一プランの一環であることがかなり明白である。一応、事実関係の上の条件に当てはめてみると次の通りだ。
まず、このケースではスピンオフ後に買収が行われているが、スピンオフが実行されるまでの2年間に、買収に係る合意がみられる。また、スピンオフは買収を助成するという事業目的に基づいて行われている。一方で、同一プランの一環ではないと示唆できるとされている事実関係は存在しない。したがって、スピンオフと買収は同一プランの一環で実行されたものと取り扱われる。
次回のポスティングでもSec.355(e)の説明を続けたい。