Saturday, June 7, 2008

外国人パートナーと米国パートナーシップ(5)

前回のポスティングではどのような外国人パートナーが過去に米国にて申告実績があると認められ(すなわち信用に値する)、したがってパートナーシップによる予定納税の減額申請を行うことができるかを解説した。今回のポスティングでは損失報告の権利があるとされた外国人パートナーが「どのようなタイプの損失を報告し、パートナーシップに考慮してもらうことができるか?」に関して触れる。

*予定納税減額に適用される損失

外国人パートナーが予定納税を減額してもらうためにパートナーシップに報告することが認められる損失は大別すると次のようなものだ。当然であるが、全ての損失は米国の事業所得であるECIと相殺が認めら得るタイプの損失でなくてはならない。

  1. 予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失
  2. 予定納税を行うパートナーシップとは別のパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失
  3. 外国人パートナーがパートナーシップを介さずに直接米国にて過年度に認識した欠損金等の損失

これらの報告が必要な損失とは別に、パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税に関しては別の規定が設けられている(後述)。

上の3つの損失タイプを見ると分かるように、パートナーシップが予定納税算定の際に取り込むことが認められる損失は基本的に全て「過去」のものでなくてはならない。すなわち、予定納税を減額してもらおうとする対象年度に外国人パートナーが他のソースから認識すると「予想」される損失・控除等は加味することはできない。

*予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失

予定納税を行うパートナーシップそのものが過去に認識した欠損金等の損失は、パートナーシップが提出する報告申告書であるForm 1065および各パートナーに対する配賦金額が表示されているK-1に反映されている必要がある。

パートナーシップ申告書の期限は翌年の4月15日となることから、最初の四半期に対する損失報告には直近年度の金額が確定していないケースもある。財務省規則の文言を見る限り、そのようなケースでも予定納税の対象となる年度に使用できると合理的に推定される損失に関してはK-1等の最終化を待たずに報告対象として問題ないようにみえる。もちろん金額が確定していないので、後に確定した時点では速やかに報告を更新する必要がある。

報告を行う相手となるパートナーシップ自身に過去の欠損金等が存在する場合、パートナーシップ側としてみれば損失の存在自体には何の疑いを持つ必要もない。自分が作り出した損失だからだ。しかし、そのような過去の欠損金が翌年以降に未使用で残っているかどうかは外国人パートナー本人にしか分からない。欠損金が発生した年度に他のソースから米国事業所得であるECIが発生しているようなケースでは、すでに欠損金が使用されて残っていない事態も十分にあり得るからである。

そのため、外国人パートナーは、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関してのみ報告対象とすることが認められる。合理的な推定に後日変更がある場合には、速やかに報告を更新する必要がある。

パートナーシップから配賦されてくる損失はパートナー側の「パートナーシップに対する税務簿価(Basis)」を上限としてのみ取り込むことができる。この規定は、配賦に実質的な経済効果(Substantial Economic Effect)があるかどうかという問題とは別で、SEEがあるとされた配賦に対してもパートナー側ではBasisを上限としてのみ損失の取り込みが認められる。なお、ここでいうBasisは当然、Sec.752に基づく負債配賦額を含むことになるので一般的な投資残高、キャピタル勘定の残高等の金額とは異なる。

このBasis上限規定で過去に取り込みが認められなかった金額は翌年以降に十分なBasisが取り戻された時点で使用が認められる。この辺りの話しはそれだけで数回のポスティングが必要となるトピックなので今回はこれくらいにしておくが、過去にこの理由で使用できなかった損失も、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関しては報告対象とすることが認められる。これは予定納税を行うパートナーシップからの損失に限って認められる規定であり、他のパートナーシップからの損失に関しては後述する。

*予定納税を行うパートナーシップとは別のパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失

他のパートナーシップにも投資している外国人パートナーは、そのパートナーシップから配賦される過去の損失もForm 1065およびK-1にて報告されている金額であれば報告対象とすることができる。他のパートナーシップから配賦される損失を報告するためには、予定納税期限(または予定納税の対象となるパートナーシップ課税年度末日)より前に終了する外国人パートナー課税年度の米国申告書にて損失が外国人パートナーにより取り込まれている必要がある。

上述の予定納税を行うパートナーシップが過年度に認識した欠損金等の損失の報告のケース同様に、予定納税の対象となる年度に使用可能であると合理的に推定される損失金額に関してのみ報告対象とすることが認められる。

別のパートナーシップから配賦された過去の損失を報告する際には、上述のBasis制限に抵触した過去の損失を報告対象の一部とすることはできず、この点は予定納税を行うパートナーシップそのものから配賦された過去の損失に対する取り扱いと異なる。

*外国人パートナーがパートナーシップを介さずに直接米国にて過年度に認識した欠損金等の損失

外国人パートナーが自ら直接米国事業に係り認識した過去の損失も報告対象となる。損失を報告するためには、予定納税期限(または予定納税の対象となるパートナーシップ課税年度末日)より前に終了する外国人パートナー課税年度の米国申告書にて損失が外国人パートナーにより取り込まれている必要がある。直接認識する損失であることから、もちろんForm 1065とかK-1に係る規定はない。

*損失を取り込む際の注意点

外国人パートナーから報告される過去の欠損金に関して、AMTポジションとなる場合には、AMTの算定目的では欠損金は単年度AMT所得の90%までしか考慮することができないので、パートナーシップが予定納税の減額を算定する際にも90%制限を適用する必要がある。

また、パートナー側での損失の利用には上述のBasis制限の他にも、Passive Activity Loss、At-Risk規定、等の制限がある。これらの制限に抵触する場合には、パートナーシップ側で適切は予定納税額の算定ができるような外国人パートナーによる報告が必要なる。

次回のポスティングでは限定的な局面で予定納税そのものが免除される「De minimis」規定および「パートナーシップが外国人パートナーに代わって支払う州税の取り扱い」に関して触れたい。