前回のスピンオフに係るポスティングではMorris Trust型取引の横行に対して制定された1997年の法律であるSec.355(e)に関して触れたが、今回も引き続きSec.355(e)関係の話しを続ける。
前回のポスティングにて、Sec.355(e)の鍵となる事実認定は「買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうか」である点に触れた。これは「事実関係」の問題であり、4年間の推定規定、また同一プランの一環を示唆する事実関係に基づきながら、最終的にその判断は個々のケースを取り巻く全ての事実関係に基づいて判断されるとされる(Facts and Circumstances Test)。下にいくつか具体例を挙げながら、同一プラン認定の有無の検討を続ける。
*同一プランの一環の検討:具体例
DのOfficer、取締役会は投資銀行とDの株式に対する公募(Public Offering)に係る話し合いを持っていた。その結果、D単独法人として公募を実行するのが得策であるとの判断に居たり、話し合いの一月後にはDの子会社Cをスピンオフする。その7ヶ月後にD新規株式が公募が基づき発効された。このようなケースでは、スピンオフから過去2年間の間に公募に係る話し合いが持たれていること、またスピンオフは公募を助成するために実行されていることから、同一プランの一環にて行われていると取り扱われる。
Dは上場企業でCはDの子会社である。Dはより有利な条件での資金調達を実現するためにCのスピンオフを実行する。Cの事業に係るリスク・ファクター等の理由でCを子会社に持っているとDが望む条件での資金調達ができなかったからだ。スピンオフ時点でDとCはSec.355(e)に係る補填契約を締結したものとする。すなわち、もしスピンオフ後にCが係る買収等の取引に基づきSec.355(e)下でDに税負担が発生した場合にはCはDにこれを補填するということだ。スピンオフ時点では特定のバイヤーは出現していなかったものの、スピンオフ後にCの買収に興味を示すバイヤーが出現するのはほぼ間違いないと予想されていた。その後、現実にY社がCを非課税のReverse三角合併(実質株式交換に等しい)により買収し、Cの株主は合併後のYの50%未満の持分に相当するY株式を受け取る。
この例ではスピンオフ前にD、C、Yの間に買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績はない。したがって、スピンオフと買収は同一プランの一環ではないと取り扱われ、したがって、C株主はY全体の50%未満の株式しか受け取らないがSec.355(e)の適用はない。すなわち、Dはスピンオフ時点のC株式の含み益に課税されることはない。上の例ではCはDに万一Sec.355(e)が適用された場合の補填契約を結んでいるが、その事実のみをもってスピンオフとCの買収が同一プランの一環とみなされることはない。
*Safe Harbor規定
買収とスピンオフが同一プランの一環で行われたかどうかの判断は上述の通り、基本的に個々の取引の事実関係に基づき行われる(Facts and Circumstances)。しかし、財務省規則には多くの「Safe Harbor」が規定されており、これらのSafe Harborのひとつに該当する取引は「同一プラン」とはみなされない。Facts and Circumstancesテストは、その結果に対する予見可能性が低いため、Safe Harbor規定は極めて重要だ。ただし、Safe Harbor規定の適用においても「スピンオフの事業目的が何であったのか」という事実認定が重要となることが多く、その意味でSafe Harbor規定の適用も必ずしも「機械的」なものではないケースも多い。
Safe Harborは全部で9パターン規定されているが、関連深そうなものを5つ紹介しておく。これらのSafe Harborはこれだけ読んでも何となく理解し難いものがあるので、実際の取引を空想しながら読んでいく必要がある。
- 買収がスピンオフ6ヶ月以降に発生している場合で、スピンオフの唯一または主たる目的が買収促進ではなく、、かつ買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がスピんオフ前1年、スピンオフ後6ヶ月に存在しないケース
- 買収がスピンオフ6ヶ月以降に発生している場合で、スピンオフが買収促進を事業目的としておらず、、かつ買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がスピんオフ前1年、スピンオフ後6ヶ月に存在せず、同期間にDまたはC(Sec.355(e)で問題とされる買収対象となる法人)の25%超の持分が買収または買収交渉の対象となっていないケース
- スピンオフ後に買収がある場合、スピンオフが実行される時点およびその後1年間、買収に係る合意、了解、申し合わせ、かなりの交渉、の実績がないケース
- スピンオフ前に買収がある場合、買収がスピンオフに係る「Disclosure Event」(関係者によるスピンオフに係る何らかのコメント)より前に実行されているケース(ただし買収とスピンオフの間の期間に買い手が買収対象法人の5%株主(上場企業)または大手株主(非上場企業)、または10%株主となる場合、また買収が20%以上の場合には当Safe Harborの適用はない)
- スピンオフ前に買収がある場合、スピンオフがD株主持分に均等(Pro-rata)に行われ、買収がスピンオフが公に発表された後に行われ、スピンオフ発表時点では買い手との間にスピンオフに係る何の話し合いもないケース(ただし買収とスピンオフの間の期間に買い手がDの5%株主(上場企業)または大手株主(非上場企業)、または10%株主となる場合、またDの20%以上の持分が買収される場合には当Safe Harborの適用はない)
*オプション
買収が株式の直接取得ではなくオプションを通じて実行される場合には、オプション取得を実質、株式取得同様に取り扱う規定も含まれている。これはオプションを利用してSec.355(e)の規定を迂回するような行為に網を掛けるためものものだ。
*50%以上の取得に係るもうひとつの規定
Sec.355(e)は「スピンオフ+買収」という取引に対する規定であるが、スピンオフの規定にはもうひとつ50%以上の持分取得を制限するものがある。それはSec.355(d)に規定され、含み益を持つ事業をゲインの認識なくうまく分配(というよりも実質譲渡)してしまうことを目的とした取引に網を掛けるためのものだ。ある意味、Sec.355(e)よりも難解だが、スピンオフシリーズの一部として避けて通ることができない条項であり、次回以降のポスティングにて触れることにする。