Monday, July 28, 2008

ようやく可決「Housing Relief Bill」

サブプライム問題に短を発した不動産市況の悪化、クレジット市場の収縮、さらにエネジー価格の高騰で米国経済もかなり危ないところまで来ている感が強い。これ以上の悪化を食い止めるための法律「Housing Relief Bill」が昨日(2008年7月26日)に上院を通過した。ブッシュ大統領も今回の法律には署名の意向を表明していることから今週中には正式に法律となる見込みだ。

*Housing Relief Bill骨子

この法律はその名の通り、住宅不動産市況の安定を目的としているものだ。したがって、差し押さえに瀕している住宅物件オーナーに対する救済、住宅ローン借り換えに対する政府保証、米国の住宅抵当公社であるFannie MaeやFreddie Macの救済等のタックス以外の条項が沢山盛り込まれている。一方でタックス関係の条項もかなり豊富だ。タックス面では、減税による歳入減は増税で賄う「Balanced Budget」となっている。したがって、試算上は税収がマイナスとなることはないが、救済にはプラスで多額の資金(=公的費用、つまり税金)が必要となる。

政府当局による大型救済はBear Stearns買収に始まり、今後Fannie MaeやFreddie Macの救済等が具体化してくると多額の税金が問題の収束に当てられることになる。ただでさえ、財務状況が悪い米国であるが、今回の法律では従来の財政赤字限度額である「$9.5 trillion」が「$10.6 trillion」に増額されている。桁が大きすぎて全然ピンとこないが、円換算でザックリ1,100兆円くらいとなる。凄まじい金額だ。

*減税規定

実際の規定はかなり盛り沢山で、例によって細かいが、ここでは普通の個人、日本企業に関係がありそうなものを掻い摘んで紹介する。

住宅関連の不動産マーケットへの露骨な梃入れとして「初めて自宅を購入する者に対する税額控除」が規定されている。これは住居の取得価格の10%までを税額控除として認めるというものだ。ただし、上限額があり$7,500が最高額となる。また、例によって所得が高くなると恩典がなくなるPhase-Outが規定されており、年収(正確にはAGI)が$75,000(夫婦合算申告では$150,000)を超えると恩典に制限が加えられる。ただし、この「初めて自宅を購入する者に対する税額控除」は通常の税額控除と異なり、納税者に今後15年に亘る返済義務が生じる。したがって、実質政府による無利息の15年ローンと考えればよい。2008年4月9日またはそれ以降、2009年7月1日以前に取得された自宅に適用される。

次に、従来のシステムでは自宅に対して地方政府に支払う固定資産税は、Sch. Aの「Itemized Deduction」の一部となるため、他のItemized項目と合算して(そして必要であればPhase-out計算をして)金額がStandard Deductionより大きくなって初めて控除の税効果が生まれる。したがって、Itemized Deductionの合計(Phase-out後)がStandard Deductionの金額を超えない場合には、固定資産税は払っていても個人所得税に対する恩典はないことになる。Housing Relief BillではStandard Deductionの利用する者でも、自宅に係る固定資産税を「上乗せ」で計上することを認めている。ただし上限額があり、$500(夫婦合算申告で$1,000)が最高額となる。州税のない州に居住しているようなケースで恩典が大きそうだ(州税がある場合には、州税がItemized Deductionとなるため、比較的他の項目からItemizedの恩典を受け易い)。

事業主体向けでは、AMTクレジットまたはR&Dクレジット繰り延べ額の使用枠の拡大が規定されている。具体的には先の「Economic Stimulus Act of 2008」で規定された「ボーナス減価償却」の恩典を受ける代わりに、相当額分AMTまたはR&Dクレジット繰延額の使用枠を大きくするというものである。やはり上限額があり、AMTクレジット/R&Dクレジットの繰延額の6%または$30 millionのいずれか低い金額となる。

*増税規定

米国では買い物・サービスの対価をクレジットカード(またはデビットカード)で決済することが多い。事業主による売り上げの過少申告を牽制する意味で、クレジットカード・デビットカード会社にどこにいくらの支払いをしたかという報告書を提出させるとい規定が含まれている。カード会社に準備期間が必要となるため、この規定の施行日は2011年となるが、米国議会作成の資料によると、この規定から今後10年間に$10 billion弱の歳入増を見込んでいる。

外国税額控除の制限枠の算定には納税者の損金を国内と国外源泉に按分・配賦する作業が必要だ。でないと制限枠の算定の基礎となる「外国源泉のネット課税所得」が算出できないからだ。費用をどのように按分するかにより外国源泉所得の金額が変わり、結果として取れる外国税額控除の金額に影響がある。この算定を行う際には支払利息を按分する必要がある。この支払利息按分は基本的に資産高に基づく算定となるが、その算定時に米国外の「関連企業」の数字をも考慮してもよいという「Worldwide Interest Allocation」が2009年から適用されるはずであったが、2011年からに延期された。

自宅の売却益は、売却時点から過去5年間に少なくとも2年間に亘り売却不動産を「主たる住居」として所有・使用している場合には$250,000(夫婦合算申告では$500,000)まで非課税となる。今回の法改正で不動産を当初バケーションホームとして取得した場合には、非課税額に制限が加えられることとなった。

*FIRPTA関連の居住者告知

一点、マイナーな規定であるが目を引いたのが、FIRPTA関連の通知に係る規定だ。米国で不動産を売却する際には、売り手が非居住者でないことを告知するフォームがある。売り手が非居住者であるとFIRPTAに関連して規定されているSec.1445の売値に対する10%源泉の対象となる可能性があるからだ。従来、この告知は売り手の納税者番号(通常はSSN)を明記して買い手に提示していた。「Identity Theft」防止の観点から、今後はこの通知は買い手そのものではなく、不動産取引を仲介している弁護士、エスクロー会社等に提示すればいいことになった。

*モラルハザード?

日本でも金融機関の公的救済時にさかんに口にされた「モラルハザード」の問題を指摘する向きもある。結果として無責任な貸し手および借り手に援助の手を差し伸べることにより、怪獣退治のはずが、怪獣を育ててしまっているのではないかという議論だ。しかし、結果として今回の法律が賛成多数で可決されていることから全体のムードとしては、急激に危機的な状況に突入しつつある米国経済を救うには「背に腹は代えられぬ」ということであろう。