前回のポスティング「源泉税徴収に対するIRS税務調査強化(3)」では、例え外国人への支払いが米国源泉のFDAPであっても、それが受け手にとってECIであれば源泉税徴収の必要がない点に触れた。
また、ECIかどうかは所得の「受け手」が判断し、それを支払い側に正式に告知することを義務付けている点にも触れた。
*受け手はECIかどうかいつも判断できるか?
このことから米国源泉FDAPを「支払う」側にしてみれば、取り合えず正しく作成されたW-8ECIを受け取っていれば源泉税の徴収義務から免除されることとなる。しかし、逆に所得を「受け取る」側は、該当の所得がECIであるかどうかきちんと判断できるだろうか?
もちろん判断できるケースも多くあると思われるが、そもそも何をもって米国での事業活動となるか自体が個々のケースに基づく判断となることから簡単には分からないケースも十分に想定できる。米国で事業を行っているが、どの所得がその活動に関係していると取り扱えばいいか、判断に苦しんでいる外国人・外国企業も少なくないだろう。
*ついにAPA登場
そんな悩ましい局面にとても便利なシステムが誕生した。「新型APA」だ。
ここでいうAPAはもちろん「American Payroll Association」・・・というのは冗談で「Advance Pricing Agreement」だ。APAは、日本企業であれば誰もがおそらく一度は聞いたことあるだろう。移転価格を前もって(現実には審査に時間が掛かりいつの間には過去の年に関してとなることも少なくないが)IRSとネゴして適正なレンジに関して合意しておくという素晴らしいシステムだ。多少、専門家に支払うサービス料がかさむのが「玉に瑕(きず)」だが、それでも総合的には十分に価値のあるシステムだ。
このAPAの利用は従来は移転価格問題の解決に限定されていた。ところがIRSはRev. Proc 2008-31を発行してAPAの適用を「どの所得が租税条約に規定されるPEに帰属する利益となるか?」、「どの所得がECIか?」、「どの所得が米国源泉または米国外源泉となるか?」という問題に拡大するとした。
これらの問題は基本的に移転価格の分析と同様の手法で、機能・リスクに基づきどの事業主体、支店、PE、等にどれだけの所得を配賦するべきかという検討を行えることから、移転価格分析の延長上にある問題としてAPAの使用が認められることとなったのであろう。
この新型APAは2008年6月9日から利用可能となっている。