Saturday, November 15, 2008

外国人への支払い時の源泉税IRS税務調査強化(2)

*源泉税徴収に気合を入れるIRS

前回のポスティングでは、IRSが税務調査マニュアルを作成し、「外国人」に対する支払の際に必要となる源泉税徴収の税務調査に気合を入れる姿勢を見せているという背景に触れた。

さらにIRSは税務調査マニュアルを策定したばかりでなく、今年中には源泉税徴収に係る追加の財務省規則を発表するのではないか、という噂もある。現状でもかなりのボリュームとなるSec.1441の財務省規則だが(字が細かくて視力低下を招くCCHのハードコピーバージョンでは82ページを占める)、更に規則が追加されるということのようだ。

*FDAPって何?(続き)

前回のポスティングでは、どのような支払いが潜在的に源泉税対象となるかという決定の第一ステップである「FDAP」の性格に関して説明した。あのポスティングに関しては「今まで何がFDAPか悩むことが多かったがほぼ全ての支払いがFDAPとなるというコメントでスッキリした」という趣旨のコメントをもらった。繰り返しとなるが、Fixed、Determinableとか、Annual、Periodicalという単語の意味を深読みしてはいけない、というか一切考慮してはいけない、というのがポイントだ。

FDAPとならない所得として資産取得の対価としての支払いを挙げたが、これにもマイナーな例外がある。例えば、森林、石炭、鉄等に係る権益の取得に係る支払いはFDAPと取り扱われることもあるし、知的所有権の取得対価はロイヤリティーの扱いを受けることからFDAPとなることもある。また、米国不動産および不動産所有法人、すなわちUSRPIの取得はFDAPではないが、別のFIRPTA規定に基づく源泉が必要となることもある。外国人に何らかの支払いを行う際には「これはFDAPかな?」と検討する体制を社内に持つ必要がある。不明な場合は個々に専門家に相談するのが賢明であろう。

またFDAPという用語はECI(=米国事業所得)の対義語として使用される傾向があるが、これも全くの間違いだ。FDAPというのはあくまでも所得のタイプを形容する用語であり(例、金利、配当、賃貸、ロイヤリティー、給与等)、FDAPでもECIとなることもあれば、そうでないこともある。例えば米国役務に対する給与はFDAPだが、(超低額の場合を除き)ほぼ常にECIとなるだろう。すなわち、ECIの対義語はあくまでもNon-ECI(ニッキーまたはネッキー)であり、FDAPは事実関係次第でECIにもNon-ECIにもなる。この判断を行うのが「Activity Test」または「Asset Test」である(これは次回のポスティングで解説)。

*米国源泉のFDAP

支払いのタイプがFDAPだとして、源泉税の徴収義務の有無判断の次のステップはFDAPが「米国源泉」所得かどうかの決定だ。所得の源泉地の決定は税法に詳細に規定され、ここで全てを解説することはできないが、主たる米国源泉所得は次の通りだ。

利子: 借り手が米国居住者、米国法人の場合。例外は80%米国外ビジネス要件を満たす場合だが、実務的にはこの例外が適用される事実関係を持つケースは稀。

配当: 米国法人からの配当。外国法人からの配当も米国事業の比率が高い場合には例外的に米国源泉となるが、実務的にこの例外が適用される事実関係を持つケースは稀。

役務提供: 役務が提供される場所が米国の場合。米国滞在が年間90日以内で米国での役務に対応する報酬が$3,000以下の場合は例外だが、$3,000という金額が余りに低く(法律が制定されて以来物価スライド調整がないので)、実務的にはほぼ意味なし。

賃貸: 使用する資産の所在地が米国にある場合。

ロイヤリティー: 無形資産の使用地が米国または米国で使用が認められている場合。SDIケースで見られたような「Cascading」の問題、それに対する「Conduit」規定また租税条約の「LOB条項」等、実際の適用には複雑な検討がつきもの。

*源泉地が不明なケース

源泉税の徴収義務を判断する際に所得の源泉地の決定が不可欠となるのは上述の通りだが、支払う側で源泉地が分からないケースもあり得る。利子、配当、ロイヤリティー等に関しては支払う側の状況で源泉地の決定を行うことができるため「源泉地が分からない」という事態は想定し難いが、例えばサービス提供に対する支払い(ECIでないとして)は支払いの対価となるサービス(例コンサルティング)が物理的にどこの場所で提供されたかに関して情報がないこともあり得る。そのような場合には所得は「米国源泉」とみなすこと、すなわち他の条件を満たしている場合には源泉税を徴収しなくてはいけないこと、という「Presumption」の規定がある。

*次のステップは?

ステップ1と2の結果、支払いが「米国源泉」の「FDAP」だと判明した場合には、次に何らかの例外規定で源泉税が免除されていないかの判断を行う。具体的には支払いが米国内国法で非課税となるようなものでないか、受け手側で事業所得(ECI)となっているか、租税条約の適用がないか、といった点である。これらに関しては次回のポスティングで触れる。