Tuesday, November 18, 2008

手元キャッシュ確保と米国税法

*大不況

それにしても今年の夏以降景気が悪いとは知っていたが、ここ数週間の更なる雰囲気の急激な悪化は想定の範囲を超えている。金融、小売、不動産の全てが機能停止してしまっているようで先が見えない。

9月のレーバーデイの翌日からはハロウィーンの飾り付け、ハロウィーン翌日からはサンクスギビングセール、その翌日からはおそらくクリスマス・セールと例年通りセールス・キャンペーンは極めて秩序正しく執り行われているがクリスマス後の小売実績を聞くのが今から怖い。アンテーラーに行ったらアウトレットでもないのにもの凄い値引きで、一枚買うと2枚目は更に値引きだったとオフィスの同僚が話していた。まるで昔、外苑前のベルコモンズでデザイナーズブランドがやってた「最終セール」みたいだ(古い?すみません)。

*キャッシュ不足

業績が悪い上に借入ができないとなると当然だが手元キャッシュが不足してくる。GMが一月に10億ドルの現金が必要でこのままだと何ヶ月しか持たない、とかいろいろと報道されているが、キャッシュフロー不足は特定の業種に限定されている問題ではない。

*海外に眠るキャッシュに手を付けたいが・・・

現金が米国にはないが幸いにも米国外のグループ企業にはまだキャッシュが残っているラッキーな米国企業も少なくない。その場合にはそのキャッシュをどのように米国に持ってくるかが検討課題となる。ここで「どのように」というのは我々タックスおたく的には「いかに税負担を少なく(=Tax Efficientに)」と直訳することができる。

子会社であれば配当を受け取るという手が手っ取り早い。しかし、配当を受けると米国で課税される。配当をする子会社が米国相当%の法人税を支払っている場合には間接税額控除で支払いは発生しないかもしれないが、低税率国から配当を受けるとグループ的には効率が悪い。また決算書でAPB23のポジションを利用して「未来永劫、海外にて再投資に回すつもりです!」と宣言して米国での繰り延べ税金を計上していないケースが多いことからその点も問題となる。

配当がダメなら貸付と考えるのが妥当だろう。しかし、この一見「妥当」な手段も米国税法の前にはとても危険な手段となる。CFCが米国親会社に貸付をするとナントみなし配当になることがあるからだ。短期の一時しのぎであれば配当扱いを免れることもできるが長期的な解決策とはなり難い。IRSは急遽、配当扱いから免除される「短期間」規定の「期間」を延長し、若干長い期間、配当扱いとされることなくCFCからの借入を受け入れることを認めるというNoticeを緊急に発表している。

また借入の場合には利子を支払う必要があるのは当然だが、利率は借り手のクレジットに準じた適正レート、または適正レートとみなされるSafe Harborレートを適用する必要がある。利子には源泉税が課せられることもあるのでこちらも注意が必要だ。

配当でも借入でもなく現金を移動させるには、資産を移すとかサービスを提供するとかして対価を得るという方法がある。これは移転価格に抵触しないよう、対価のレベルが独立企業間価格の範囲に納まっている必要がある。

多額のキャッシュは一朝一夕で国際間移動できないことが多いのが米国税法的な現実のようだ。それを合法的にうまく移動させてしまうスキルが今日の国際税務プロとしての腕の見せ所となるだろう。