Tuesday, October 14, 2008

Sec.382の適用除外と崩壊(?)するモラル (2)

前回のポスティングで何となくスッキリしない会計原則の動向について触れたが、今回はその続き、かつ本題である税法Sec.382適用の一部停止に関して触れる。

*Sec.382

Sec.382はかなり込み入った条文なのでその片鱗でもここで触れることは無理だが、敢えて簡単に言ってしまえば、繰越欠損金を持った法人(損失法人)の持分が3年間のうちに50%超変わる(持分変動)と、持分変動後の課税年度では繰越欠損金の使用に上限額が設けられるという規定だ。

この持分変動の認定がかなりややこしく、5%株主を全員特定した上で、3年間に亘る各5%株主の持分%の最低値から最高値の差異を全て合計するという変な計算をさせられる。更に法人が株主の場合にはFirst TierとかHigher Tierとか言ってその上の株主の状況も見極めないといけない。結果として事実関係の認定にかなりの時間を費やすことが多い。

この難しいテストに基づき50%超の持分変動があると、その時点の損失法人の時価にIRSの発表する「非課税投資から得られるであろう指標金利」を掛けた金額がその後の課税年度に利用することができる繰越欠損金の上限額となる。巨額の損失を持っていればいる程、法人の時価は低くなることが多く、結果として持分変動後の損失利用には極めて厳しい制限が加えられることとなる。

損失法人にとって、繰越欠損金は数少ない「価値ある資産」であることが多く、その使用に制限が加えられてしまうとなると、救世主として新しい大株主を誘致するのがより困難となる。

*国の管理下におかれた場合の特例

窮地に陥った金融機関を救済しようか、という際に金融機関が持っている繰越欠損金が使用できないとなると救済を検討している側としてはもちろん腰が引ける。損失が巨額であればある程、その影響は大きい。

例えばFannie MaeとかFreddie Mac、またはAIGの持分を買い取って救済しようにも、救済で50%超の持分変動が発生してしまうとその後の課税年度で今までの損失を使用することができない(というか、正確には上述の算定で使用に大きな制限が加えられる)。これは救済する側にとってはかなり痛い。

しかし、救済のするのが米国政府となると話しは異なる。IRSはNoticeを発行し、米国政府の救済により持分変動が起こる場合には、Sec.382目的では無視するという趣旨の発表をしている。Fannie Mae、Freddie Mac、AIG全てのケースが対象だ。となると、米国政府が少なくとも50%の持分を維持している間は基本的に繰越欠損金が満額利用できることになる。これはかなりの恩典だろう(もちろん、課税所得が発生しないと繰越欠損金には価値はないが・・・)。

*銀行資産の含み損

Sec.382にはもうひとつ強力な武器がある。それは持分変動時に損失法人が有するBuild-In Loss(含み損)が持分変動後に認識された場合、損失額は基本的に持分変動前の損失扱い(=制限枠に抵触)されるというものだ。

損失法人であるということは、そもそも業績不振であったということなので、その資産には含み損を持っているものがあって自然であろう。その実現時に損失が計上できない(正確には制限の対象となる)となるとその冷却効果はかなりのものだ。

銀行を救済目的で傘下に納めた後に、Toxic Assetの処理をすると当然大きな損失が発生することが予想される。従来の規定では、この損失が持分変動時点で既に含み損として存在していたと取り扱われる場合には、その使用には大きな制限が加えられることとなる。

この点に関してもIRSはNoticeを発行し、銀行を買収した後に不良債権の売却損(または税務上リザーブ処理がされている場合にはリザーブへの繰入額)が発生する場合、例えそれが持分変動前に帰属する含み損であってもSec.382の制限対象とはならない、としている。

*赤信号もみんなで渡れば・・・

Sec.382下での繰越欠損金、含み損の使用制限は多くの日本企業の米国事業再編または日本親会社再編の際に頭痛の種となっているものだ。今回の措置は、救済する者(=国)、損失を被る者の立場(=銀行)、または損失の規模(=巨大)という特別な理由でSec.382の本来の適用を曲げてしまうものであり、米国の法運営の根底にあるフェアネス的に考えると簡単には合点がいかないものだ。まあ、今そんなことは言ってる場合ではない、っていうことなのだろう。