米国所得税に占めるAMT(代替ミニマム税)の割合増加が大きな問題となっている点、議会がその対策を検討している点に関しては2007年9月10日のポスティングで触れた(その際にAMTの簡単な沿革等に関しても触れているのでAMTとは何かを知りたい方はそちらを参照http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/09/amt.html )
AMTの完全撤廃等の抜本的な解決はそのコストが余りに大きいことから中々実行できない。今では通常の所得税からの歳入よりAMTからの歳入の方が高いと言われている程、米国の税収入はAMTに頼っている。個人的にも申告書には沢山目を通すが、日本企業の派遣員のケースでは州税がある州に居住しているようなケースではほぼ全員がAMTとなっているのではないかと思われる程だ。
*AMT「パッチ」
抜本的対策が実質不可能であることから、ここ数年米国議会はブッシュ政権の指導の下、時限立法的にAMTを算定する際の「基礎控除額」を一時的に増額してミドルクラスが受けるAMT被害を和らげてきた。それでも多くの「普通の」納税者がAMTになっているのだが、時限立法がなければもっとひどいことになっていたであろう。このような時限立法は根本的な問題を解決することなくその場しのぎで付け足し的に行われることから「AMT Patch(パッチ)」と呼ばれる。
*2007年AMTパッチ
2006年で現行の時限立法が失効するため、このままだと2007年の申告書は通常の状態に戻り、AMTの対象となる納税者がまたしても倍増する。それは年初から分っていたことではあるが、議会は2007年のAMTパッチを未だに法制化できていない。法律は上院と下院の双方を通過する必要があるが、2006年の下院選挙でブッシュ政権に見切りをつけた米国市民が圧倒的に民主党を支持したため、米国でも日本の「ねじれ国会」のような状況になっている。
当然このような状況ではブッシュ政権も福田さん同様に多少の「対話路線」に出ているが政策面での溝は深い。上院およびブッシュ大統領府では歳入オフセットのない「AMTパッチ」が指示されている。一年間、AMT基礎控除額を増額するだけの対策でも歳入に与える影響は530億ドル(約6兆3前億円)となる。この歳入減に対して別途増税を盛り込まない、すなわち財政赤字を増やす、というのが上院、ブッシュ案である。
一方、民主党主導の下院ではAMTパッチを規定する際に、他に増税案を盛り込み、基本的に歳入中立路線を取っている。12月も中旬となる12日に下院を通過したAMTバッチ法案も歳入中立である。増税ターゲットとなっているのは、オフショアヘッジファンドのマネージャーが受け取る繰延報酬に対する課税、元々2008年から認められるはずであった支払利子の全世界ベースでの配賦の適用開始を2016年に延期、Economic Substance規定の導入(この点に関しては2007年10月10日のポスティングを参照 http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/10/economic-substance.html)等である。
*下院2度目の法案可決で「Showdown」に
実は下院は同様の法案を11月にも可決している。その際も上院の合意を得られず法案はお蔵入りとなった。今回の法案では11月の法案に盛り込まれていた「例の」Carried Interestに対するキャピタルゲイン扱いを撤廃する増税案が盛り込まれていた。今回の法案にはCarried Interestに対する増税は含まれておらず、若干共和党としても合意し易い内容ではある(Carried Interestに関しては2007年6月24日のポスティングを参照 http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/06/blog-post_24.html)。しかし、一回上院が却下した法案と方向は同じであり、かつブッシュ大統領は仮にこの法案が上院で可決されたとしても「拒否権」を発動させる旨の発言をしていることから、下院の今回のアクションはかなり攻撃的であり年末に向けてAMTパッチの「Showdown」となる。
*年末ギリギリの税法改正は申告手順を困難に
どのようなパッチが規定されるとしても、立法は余りに遅い。IRSは2007年の主要な申告様式を既に完成させており、ソフトウェアメーカー各社もその様式を基に申告書作成ソフトをほぼ完成させているであろう。12月末にAMTパッチが法制化されるとIRSが申告様式、申告書を処理するコンピューター・システム等を急遽変更する必要が生じる。その作業が膨大なものとなるであろうことから申告シーズンに大きな悪影響を与えることは間違いない。我々会計事務所としてもとても迷惑な話である。現にIRSは「急に法律ができても対応できない可能性がある」と既に弱気の発言をしている。
実は2006年末にもギリギリで法制化されたものがあり様式の更新等でかなりバタバタした。ただ、2006年末の法律は「州所得税の代わりに売上税控除を認める」とか「一旦失効した教育費控除制度を復活させる」等のどちらかというと地味な内容であったが、今回はAMTという影響力絶大な項目に係る法律である。タダでさえ膨大な作業を強いられる申告シーズンに年末ギリギリのAMTパッチ騒動は結構厳しい。