Sunday, December 30, 2007

FTCのバスケット削減に伴う新財務省規則(1)

所得税にしても法人税にしても、複数の国から所得を得る場合には、米国で外国税額控除(FTC)をうまく利用しないと二重課税の悪影響で実効税率が高くなる。米国では個人、法人に認められる直接税額控除と、10%以上の子会社に関して法人に認められる間接税額控除が規定されている。

*FTC上限枠

FTCは外国源泉の所得に対して支払われることになるであろう米国の税金を外国に既に支払った税金で相殺するという基本的な目的をもっており、米国源泉の所得に対して支払われる米国税金までも圧縮することは想定されていない。この基本的な目的を達成するために設けられているのがFTCの「上限枠」の算定である。FTCを控除する前の段階で算定される米国の税金のうち、外国源泉所得に対するものと考えられる金額が上限枠となる。

この上限枠の有無、多少により最終的に米国政府に支払うこととなる税額がかなり増減するため、米国ベースの多国籍企業はFTCに係るプラニング、とりわけ上限枠をいかに増やすかという点を中心にかなりの労力を割いている。特に海外で買収を行う際にはSec.338 Electionの検討など買収後のFTCポジションは重要な検討事項である。

*上限枠はひとつではない

上限枠のコンセプト自体は日本その他の国のFTC計算でも同様だと思うが、米国の場合は外国源泉所得トータルでの上限枠の算定に加えて、所得の種類(バスケット)による個別の上限枠計算が求められる。全体で十分な上限枠があっても、FTCを取ろうとしている外国税金を生み出す所得が属するバスケットに上限枠がないとFTCが取れない。

例えば、米国外法人(持分は10%に満たない少数)から多くのロイヤリティー、配当所得を受け取るが租税条約の関係で源泉税がゼロでなるようなケースがある。このような所得を受け取る米国法人が米国外の事業主体からパススルーしてくる事業所得を受け取り、その所得に対して既に源泉国で40%の税金を支払っているものとする。

全体の上限枠は「ロイヤリティーおよび配当を含む」外国源泉所得全額を基に算定される。一方でバスケット毎の上限枠の算定目的では、ロイヤリティーおよび配当は「Passive Basket」、パススルーからの事業所得は「General Limitation Basket」に属すため、別々の計算となる。Passive Basketには外国源泉所得は沢山あるが、外国税金がないのでFTCはない。一方、General Limitationではパススルーされる事業所得(税引前)に対する米国での税負担がFTCの上限となる。仮に事業所得が米国で実効税率35%で課税されているとすれば、FTCの上限も35%となり、外国で支払った税金40%のうち超過の5%はFTCが取れない(実際の計算はもう少し複雑)。Passive Basketに上限枠が余っていてもである。

*Cross Creditの問題

上の例で見られる結果こそがバスケット制の目指すところである。すなわち、比較的簡単に手に入り、かつ低税率(ゼロ源泉または10%源泉税等)が実現できる「Passive」系の外国源泉所得を利用して他の所得で使い切れない外国税金を吸収してしまおうという「Cross Credit」に網を掛けるのがバスケット制の狙いである。

なお、面白いことにバスケットは所得の種類だけに係る規定であり、ひとつのバスケット内では外国源泉所得、外国税金を合算して上限枠を算定することができる。したがって、ひとつのバスケット内であれば、例えばメキシコの税金に関して日本で発生する外国源泉所得を利用してFTCを取ることができる。国毎の上限枠という考え方を導入するという考え方がなかった訳ではないが、10のバスケットでも申告書作成に相当な負担があることを考えると、潜在的に何百にものぼる国別バスケット制の導入は実務的ではなく、規定されたことはない。

*上限枠のバスケットが8から2つに

バスケットの数はキャッチオールであるGeneral Limitationを入れてん従来長らく合計で8もあった(申告書上はこの8に「米国が国交を持たない国の税金」および「租税条約の特別な所得源泉ルールを適用するケース」の二つが加えられ選択は合計で10あった)。これが2004年の税法改正により2007年度よりこのバスケットがナントいきなり2つに削減されることが決定された。8のバスケットが2になることはかなり劇的な簡素化であり、好ましいことである。FTCを計上する様式1116(個人)、1118(法人)はバスケット毎に別々に作成し、かつ複数の1116、1118間での数字の転記なども求められたことから、バスケット毎の計算は複雑な手順である。

*バスケット削減に係る財務省規則

各バスケットで上限額に抵触して使用できなかった外国税金はバスケット内で繰延が認められているため、急にバスケットの数が変わるとなるとその際の処理に関していろいろと考えなくてはいけないことがある。そこで12月末に財務省はFTCの新規則(FinalとTemporary)を発表した。次回のポスティングではその新規則の内容に関して触れる。