税法を含む条文法というものはその条文を適用しようと意図する将来起こり得る状況を少ない言葉で的確に表現しなくてはならず、条文の文言は検討に検討を重ねた上で最終決定されているはずである。しかし、どんなに検討を重ねて選択された文言であっても、その裏をかいて都合のいい結果を導こうとするケースは後を絶たない。そのようなケースに対しては税務当局が税務調査等で調整を加え、それが不服であれば納税者としては最終的には裁判所に判断を仰ぐこととなる。税務当局の判断はRevenue Ruling等の通達、裁判所の判断は判例となり公表されるが、それらを読むたびに「なるほど、そんな風に法律の適用を免れようとしたか・・・」と変に感心してしまうことがある。
2007年12月20日に公表された「Revenue Ruling 2008-05」もそんな通達のひとつだった。
*Wash Sale規定
含み損を抱えている株式等はただそれを持っていても、Mark-to-Marketが認められる特殊なケースを除き、通常の個人納税者であれば含み損を損失として計上することはできない。しかし、株式を一旦売却して損失を確定すればキャピタル・ロスを計上することができ、個人納税者であれば年間$3,000までネットロスを控除できるし、他にキャピタルゲインがある場合にはゲインとロスを相殺することができる。
一旦損を出して売却した株式を翌日に取得し直すと、その間に株価が大きく変動するリスクも少なく、結果として含み損を実現させ、その上で引き続き同じ株式を保有することが可能である。このような取引に網を掛ける目的で1920年という相当古い時代から制定されているのがWash Sale規定である。
Wash Sale規定は、売却の前後30日以内に実質同じ株式を取得すると、売却損は認めないというものだ。売却の前後30日以内に取得がある場合には、取引の目的・意図には関係なく損失は認められない。全く同じ株式を取得していなくてもオプションを取得しているような場合には「実質同じ」株式取得となり、やはりWash Sale規定の適用がある。認められなかった売却損は取得された株式の簿価に加えられるため、最終的に本当に売却された時点で(Wash Saleの適用がない条件を満たす将来の売却)損失は認識される。また株式保有期間の決定の際にも、売却された株式の保有期間が取得された株式の保有期間に加えられる(保有期間はキャピタルゲインが短期か長期かの決定時に重要)。
Wash Sale規定は売却損失に対してのみ適用があり、売却益が出ている場合にはその適用はない。したがって、相殺するキャピタルロスが他に存在するような年には一旦株式を売却して「売却益」を出し、直ぐに同じ株式を取得することには何の問題もない。
*Wash Sale規定の回避失敗例
Wash Sale規定に対して、何とか規定に引っかからずに経済的には同じ効果を得ようとする試みは古くから行われてきた。自分で株式を買い戻すと規定に抵触するため、配偶者、パートナー、自分が管理しているトラスト等を利用して株式を買い戻すというのが典型的なものである。いずれのケースも実態として自分が買い戻している状態に極めて近いという理由でWash Sale規定が適用されている。
*Revenue Ruling 2008-05
今回のRulingの事実関係は上の関連者を利用した買い戻しの延長であるが、自分は株式を売却して損失を認識しておき、その株式を自分のIRA(個人退職口座)を利用して買い戻すというものである。Rulingでは非課税扱いを受けるIRAとは言え、最終的な受益者は納税者本人であり、その意味で上述の他の関連者に買い戻させているケース同様にWash Sale規定は適用されるとしている。この結果は十分に予想できるものであるが、それにしてもいろいろなことを考える人が後を絶たない。