日本では「ねんきん特別便」の送付が開始されているはずだ。過去に支払った全ての厚生年金保険料、国民年金等を確認するというなので相当昔のことを思い出さなくてはいけない方も多いだろう。
*Social Security Statement
自分が支払ったはずのFICA・SECAがきちんと社会保障省により記録されているかどうか気になるのは万国共通である。米国では基本的に「40 Quarter Credit」が記録されていないと受給権が発生しない。Quarter(四半期)が40ということで10年と思われがちであるが、実際の計算は若干異なる。この辺りの詳細に関しては5月16日から9回に亘ってポスティングした「日米社会保障協定」を参照のこと(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/05/blog-post.html)。
また、毎年払い込まれるFICA・SECAの算定基準となる「社会保障所得」が大きいほど(上限あり)、また加入期間が長いほど将来の受給額が高くなる。したがって、払い込んだFICA・SECAがきちんと記録されているかどうかは極めて重要な確認事項となる。
この確認の目的で大きな役割を果たしているのが毎年社会保障省から送付されてくる「Social Security Statement」だ。内容は過去のFICA・SECAの支払い記録ばかりでなく、現時点でどのような恩典に関して受給権が発生しているか、いくらもらえるのか、同じような所得水準で今後の推移したとすると退職時にいくらもらえるのか、等がとても分りやすく記載されている。将来の受給額に関しては65歳の定時退職、62歳の前倒し、70歳の繰延、の各々のシナリオでの試算が提供される。また、家族に対する恩典に係る情報も記載されている。将来の受給額を予想することになるので、その算定には数々の前提条件があるが、それらの前提条件も分りやすく説明してある。(社会保障省のサイトにサンプルStatementがあるので興味のある方は現物を参照のこと http://ssa-custhelp.ssa.gov/cgi-bin/ssa.cfg/php/enduser/fattach_get.php?p_sid=B--uoqUi&p_li=&p_accessibility=0&p_redirect=&p_tbl=9&p_id=129&p_created=1193859227&p_olh=0)
*過去の全ての払い込み金額が記載
そして肝心の払い込み額の確認部分であるが、過去に払い込まれた全ての金額が年度毎に記載されている。ただし、転職が当たり前のお国柄なためか、雇用者の名前は記載されていない。一年間に複数の雇用者を経由してFICAを支払う、またプラスでSECAを支払うような状況は特段珍しくない。
その上で払い込み実績の確認に関して「Help us keep your earnings record accurate」と題された説明がある。基本的にはきちんとした記録を維持するのは、国民自身、社会保障省、雇用者の「共同責任」であると指摘した上で、「あなたの払い込み金額が正しく反映されているかどうかを判断できるのはあなたしかいない」と毎年のチェックを促している。もちろん、記録の更新には時差があるので、Statementで確認ができるのは通常前々年までである。間違いがあると疑われる場合には、W-2(源泉徴収票)、申告書の準備してトールフリー番号に電話することになっている。ちなみに職業柄かなりの数のStatementを見ているが正確性は極めて高い。
また、Statementにはどのタイミングで受給を開始するべきか等の簡単なTipが記載されている。個人的にこの前受け取ったStatementには今後の基金の予想動向(本当に資金が足りるのか?)等に係るいくつかの研究結果が記載されており、かなり透明性は高いように感じられた。
*年一回の送付タイミングは?
Social Security Statementは年に一度送付されてくる。送付は基本的に誕生日の2ヶ月前が目安となる。また、定期的に送付されてくるタイミング以外でStatementを入手したい場合には、On-Lineまたは紙の申込用紙にて申請すればいつでも送ってくれる。年に一回の自動送付は、25歳以上、SSN所有、所得がある、受給開始前である、住所が分るという条件を満たす場合、法律で義務付けられている。過去11ヶ月以内に自主的に交付申請を行っている場合には次の自動送付はパスされる。
ここで不思議に思うのは年金その他の恩典の受給が始まるまで社会保障省では納税者の住所を管理していない点だ。実はSocial Security StatementはIRSのデータベースにある住所に送付されてくる。これはすなわち確定申告書に記載されている住所である。
日本人の派遣員でも米国で所得があり、FICAを支払ったことがあればSocial Security Statementは送付されてくる。ただし、日米社会保障協定の影響までは加味されていないので5年程度の派遣であれば受給権が確定していないというStatementを受け取ることになる。また2006年またはそれ以降に派遣された方で日米社会保障協定に基づき米国でFICAの支払いをした経験が全くない場合には社会保障目的での所得がゼロとなることからStatementの送付はないであろう。
*払い込み金額の訂正には時効がある
毎年Statementが送付されてくる、好きな時にStatementの送付を申請できる、というシステムがある以上、払い込み額の正確性をタイムリーに確認するのは国民一人一人の責任となる。上述の通り、きちんとした記録を維持するのは、国民自身、社会保障省、雇用者の「共同責任」であるが、「あなたの払い込み金額が正しく反映されているかどうかを判断できるのはあなたしかいない」というのは正にその通りである。自分以外には誰も分らない。
法的にはFICA、SECAの計算根拠となる所得を得た年の年末から3年3ヶ月15日経つと修正に時効が成立する。例えば、2005年の給与に対するFICAの金額がおかしければ、2009年3月15日までに修正をリクエストしなくてはならない。時効の考え方一般にそうであるが、これは時が余りに経過してしまうと事実関係の証明が難しくなるという実務的なも問題があるからだ。源泉徴収票を保存している、昔の雇用者で事情を知っている人がいる、申告書のコピーがある、どの点一つをとっても時が経てば経つほどトレースが難しい。日本のねんきん特別便は「特別便」と呼ばれる緊急事態への対応であることから過去永久に遡ることができるが、昔の記録を掘り出すのが実務的に困難である点は同じであろう。
ただし、時効には例外がある。基本的には社会保障省側の手落ち等、時効にて修正を拒否するのが「Unfair」であると判断される場合、修正は時効に縛られることなく行われる。現在の日本の状況のようなことが米国で起きたとしたら、それははまさしくこの「例外規定」が適用されるであろう。