Tuesday, April 22, 2008

米国のスピンオフ(8)

買収のターゲットとなる企業に不必要な事業が存在するケースは多くある。その場合に不必要な事業を非課税でスピンオフすることができればその恩典は大きい。すなわち、Dは買収される前段階で、Dをターゲットとしている買い手が不必要とする事業をスピンオフしてしまうという作戦に出ることがある。このようなパターンでのスピンオフ実行には極めて複雑な検討が要求される。言うまでもないが下のコメントは全て私見である点、この分野の検討が余りに複雑な点を鑑みて敢えて再度お断りしておく。

*Morris Trustケース

この手の取引に関して触れる際に避けて通ることができないのが1966年に下されたランドマーク・ケース「Morris Trust」だ。Morris Trustケースは最高裁の判決ではなく、4th Circuitの判決である。今回のポスティングではこのMorris Trustケースを詳しく見ていくがかなりヘビーな内容となるため、2回のポスティングに分ける。

Morris Trustでは買収ターゲットとなるDに「銀行業」と「保険業」が共存していた。規制上の問題から買い手はDの銀行業のみを必要とし、保険業をも兼業しているDをそのまま買収の対象とすることができなかった。そこでDは買収前に保険業をスピンオフしてDの株主に分配した。このスピンオフは保険業が元々D法人の一部に存在したため、第一ステップとして保険業を子会社化しており、D型再編を伴うスピンオフ、すなわちD-355である。その後、銀行業のみとなったDは合併という非課税再編を経て第三者に買収された。Morris Trustにはいくつかポイントがあるがそれらを詳しく解説すると次の通りだ。

*合併とDivestiture

Dは州の銀行法に基づき設立されている「State Bank」であったが、合併相手となるPは連邦財務省の銀行法に基づき設立されている「National Bank」であった。規模的にはDの方がPよりも大きかったが(この点は極めて重要な事実関係となる)、存続法人はNational Bank格を持っている方がよいという判断から規模的には小さいPとすることが合意された。

ここで一つの問題が生じる。National Bankとなる銀行は一部限定的な例外を除き保険業を兼業することが法律で禁じられているが、Dは長年State Bankとして保険業に従事しているという点だ。そこで合併を予定通りに実行するためにDは保険業を売却・分離(Divestiture)する必要に迫られる。ここで登場するのがスピンオフだ。

ケースの事実関係とは直接関係がないが、Dにはもちろん保険業を売却するというオプションもあったはずだ。しかし売却するとゲインに課税される。スピンオフを非課税で行うことができれば余計なタックスを支払うことなくDivestitureを実行できるために極めて有利な取り扱いとなる。「米国のスピンオフ(4)」で触れたがスピンオフする際に分配対象となる子会社CからDが配当を非課税で受け取ることがよくある。スピンオフが非課税であれば、このような取引はまさしくCの売却を非課税で実行しているに近い。

Morris Trustに話は戻るが、Dは保険業をCという新規設立100%子会社に現物出資し、その直後にC株式をDの株主にスピンオフとして分配した。

これに対するIRSの対応を次回のポスティングにて詳細に解説したい。