Saturday, May 13, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (3))

さて、前回は米国のインバウンド課税の大基本をおさらいして、FIRPTAがそのフレームワークの中でどのように機能してるか、ってとこまで触れることができた。この2つの検討も、本来は個々の事実関係に基づく詳細検討がMustな点はお忘れなく。

FIRPTAイコール源泉徴収神話

FIRPTAってNRAや外国法人に対する申告課税だけど、そうなるとその定義から言ってNRAや外国法人に申告書を出してもらわないといけない。でも、NRAや外国法人、特に個人のNRAや米国外のアドバイザーは、悪意はなくても米国税法の要件を良く理解してなかったりして、申告書を出し忘れたり、納税しないことも十分に想定される。米国内だったら資産差し押さえ等の法的措置に訴えることが可能でも、国外の納税者相手だとそうもいかない。

もともとFIRPTAが制定された1980年当時は、この点を米国不動産持分所有や外国人による譲渡にかかわる詳細かつ非実務的(?)なレポーティングシステムで捕捉・対応しようとしていた。元祖Section 6039Cレポーティング要件だ。このSection、今ではすっかり文言も変わり果ててDefunct状態。想像に難くないと思うけど、NRAや外国法人相手に6039Cレポーティングに基づくFIRPTA課税システムを強制しようとしても思ったように機能せず、最終的にはFIRPTAそのものの制定から遅れること4年、1984年にSection 1445が制定され、今の譲受人による源泉徴収システムで申告や納税を担保する手法に転換された。米国不動産持分をNRAや外国法人から取得する、すなわち対価を支払う譲受人側に多額の前納にかかわる責任を持たせ、資金がNRAや外国法人の手にわたる前に、グロス対価15%を源泉徴収してIRSに納付させる人質作戦。源泉徴収システム導入と同時にSection 6039Cは大幅に改正されて実質お蔵入りになってる。今のSection 6039Cは「財務省規則が出たら報告義務が…」って感じの文言で辛うじてCode上にその姿(残骸?)が残ってるけど、源泉徴収システムに転換してしまった後、もちろん財務省規則は出てないし、これからも出ることもないだろう。一層のこと条文をRepealしてしまえば良かったのにね。

外国人に対する米国課税は源泉システムの適用が他にも一般的だけど、源泉される金額そのものが最終税額となる「源泉税」と、最終税額は外国人が申告書を出してネット所得に対して計算するけど、予定納税同様、仮の金額で前納させる「源泉徴収」に大別される。前者はNon-ECI FDAP、配当、利子、ロイヤルティー等に対する30%源泉で、後者はECIにかかわるパートナーシップによる源泉や今回のテーマのFIRPTA等が典型的な例。

FIRPTAの源泉徴収額は「グロス」対価の15%だから、最終的な税額となるネット譲渡益の23.8%(NRA)や21%(外国法人)と余り関係がない。大げさに前納させることで、申告書を提出して還付申請する方向に持ち込むための人質だ。譲受人が源泉徴収義務を怠ると、本来FIRPTAは譲渡人側に課せられる税金にもかかわらず、譲受人が要徴収額に関して法的に納付義務を負い、IRSによる徴収対象となる。したがって、本来は譲渡人側の課税だけど、譲受人の方がセンシティブになる。それはそうだよね。不動産を100で買っただけで何の譲渡益もないのに、追加で15取られたんじゃ投資になんないもんね。

で、この源泉徴収部分こそがFIRPTAって勘違いされてるケースもあるんで、源泉徴収はFIRPTA課税による税金徴収、申告書提出を実質強要するために後から規定されたっていう点と、譲受人側の源泉義務や源泉からの免除規定は、必ずしも譲渡人側のFIRPTA課税またはFIRPTA免除ときれいにシンクロしていないので、密接な関係にあるとは言え、原則異なる規定と考える必要がある。FIRPTAイコール源泉徴収神話だ。もちろんだけど源泉徴収されてても、または源泉徴収漏れでも、譲渡人側のFIRPTA課税は変わらない。源泉徴収義務まわり、またその免除のためのペーパーワークは難を極める規定。米国法人がE&Pを超える分配を外国親会社や、他のNRAや外国法人株主に行う際にも源泉徴収義務が適用されたりして直観的にピンとこないケースも多く頭が痛い。FIRPTA源泉徴収に関しては、それだけで一年間は特集できるんで、この辺にしとくね。

米国不動産所有法人神話

REITその他にかかわる財務省規則案の話しに入る前のお膳立てのフェーズで多くの神話が登場し過ぎて、ギリシャで不死の神々を伝承する吟遊詩人になったような気分なんで、最後に米国不動産所有法人関係の神話で一旦ラップアップしてREIT等の話しに移るね。

前回のポスティングで触れた通り、FIRPTAは「NRAや外国法人による米国不動産持分の譲渡(Disposition)」に対する課税を規定する法律。NRAと外国法人が何かっていう点にはザックリだけど既に触れてるんで、後は何が米国不動産持分の譲渡に当たるか、っていう点がFIRPTAに抵触するかどうかの重要な判断基準になる。その際、どんな取引が「譲渡」か、っていう点にフォーカスしても別の本が書けそうだけど、ここでは譲渡は広範に定義されていて、課税・非課税にかかわらず所有権の移転を意味するとだけ言っておく。

で、何が「米国不動産持分」かっていう点だけど、大別して2つ。まずは実際の米国不動産に対する持分、すなわちFee Simple等の財産権は当然のことながら米国不動産持分となる。この点に関して驚きはないんだけど、この定義には伐採前の森林や、地下に眠る天然資源等が含まれる点に加え、通常は動産と考えられる資産が不動産使用に関連する際に不動産とみなされる等、FIRPTA独特のルールがあるんで注意が必要。動産がFIRPTA目的で不動産持分に含まれる教科書的な例はホテルなどの宿泊施設の家具だ。どこまでが不動産で、どこからは動産かっていう境界線に不変の真理はなく、線引きをする目的、例えば州の不動産税とか、毎に各法律の規定や定義に準じて決めるべきことで、FIRPTA目的と他の目的で不動産の定義が異なるのは不思議なことではない。「この資産はカリフォルニア州の不動産税の対象ではなく動産税対象なんでFIRPTA対象ではないのでは…」みたいな話しは「ふ~ん、で?」ってなるだけで的外れ。用語の字面に惑わされないように。

米国不動産持分となる2つ目のタイプの資産は米国法人に対する持分。すなわちFIRPTA目的では、原則、「米国法人」の株式に代表される持分は米国不動産持分になる。したがってNRAや外国法人が米国法人株式を譲渡する場合、FIRPTA課税および姉妹規定の譲受人側の源泉徴収規定に抵触することになる。グループ内再編やM&Aの際に面倒な議論になった経験をお持ちの読者も多いんでは?株式市場で流通している株式に関しては5%以下の株式は米国不動産持分にならないとか例外はいくつかあるけど、今日は一般論として何が米国不動産持分か、っていう点だけにフォーカスしておく。個々のケースで必ずアドバイザーの意見を入手するように。

で、全ての米国法人株式は米国不動産持分っていうのは推定事実認定で、この認定が嫌なら納税者は「そうではありません」って反証する必要がある。この反証義務を全うできない場合、実際に米国法人がどんな状況にあるかどうかにかかわらず、法的には株式が米国不動産持分になる。これは法執行の観点からは合理的な規定で、株式が不動産持分かどうか不明のままではFIRPTAどころではないんで、Presumption、すなわち推定事実認定をして、デフォルトの取り扱いを規定しているもの。

じゃあどうやって反証するの?っていう点が最重要課題になる。この判断は大別して米国法人に対する権利や持分を持っている側で判断できるケースと、米国法人そのものが判断して持分を所有している者、すなわち株主等に告知するべきケースの2通りがある。前者に属するものは、持分がピュアに債権者としての立場として財産権を有している場合。平たく言うとモーゲージを含む貸し付けにかかわる債権者が所有する貸付債権は債務者が米国法人でも米国不動産持分にはならない、ってこと。貸し付けにEquity Kickerみたいな部分があったり転換社債だったりするとピュアな債権者でなくなるので注意。この例外は正確には推定事実認定以前にテストされるんで、この段階で債権が米国不動産持分でなくなれば、法人側に反証義務は課されない。

ピュアな債権者以外の法的身分で米国法人の持分を所有する場合、最たる例は株式を所有してる例だけど、そのまま放っておくと持分はデフォルト的に米国不動産持分だから、納税者側で反証できるのであればしないといけない。株式等の持分が米国不動産持分ではなくなるのは、納税者側が「米国法人は過去5年間に一度も「米国不動産所有法人」ではなかった」と証明できるケース。米国不動産所有法人っていうのは法人が所有する資産のうち、「事業資産+米国不動産持分+米国外不動産持分」に占める「米国不動産持分」が「時価ベース」で50%以上(超ではない)の法人のこと。このテスト自体思ったほど単純ではなく、例えば現預金とか投資有価証券などが事業資産に当たるかどうかも含め争点は多い。単純にバランスシートで決められるものではない。時価ベースだしね。時価ではなくUS GAAPの簿価で代用するテストもあるけど、その場合は50%以上ではなく25%超ってより厳しい条件になる。

で、このテスト、過去5年に一度も米国不動産所有法人だったらいけません、っていう基準。分母の事業資産の時価とか毎日刻一刻と変化するから、5年間におよぶテストって、毎日計算し直して1825回テストすんの~?とか、いやいや流動資産は一日の中でも変化するから毎時間、仮に営業時間8時間に限定するとしても15,000回弱テスト?、とか、一時間内にも流動資産は変化するんで毎分ベースで90万回弱テスト?いやいや分の中でも動くでしょ、って毎秒ベースで5千2百万回テスト?とか、え~そんな~、みたいな状況になる。5千2百万回!さすがにこれはWorkableじゃないんで、「Determination Date」っていう概念があって、最低でも毎期末には計算することっていう規定になってる。フ~、これだと5回だから5千2百万回の5千万分の1で済むね。ただ、プラス、米国不動産持分の取得時点(分子増額)、米国外不動産持分の譲渡時点(分母減額)、また通常業務の範囲外の事業資産の譲渡時点(同じく分母減額)には毎回テストすること、ってされている。これらのテストは分数の結果が高くなるケースにフォーカスがある。

ここでまた吟遊詩人にならないといけないんで辛いところだけど、FIRPTA課税が適用されるのはあくまでも米国不動産持分(United States Real Property InterestすなわちUSRPI)を譲渡した場合。最重要ポイントは米国不動産持分イコール米国不動産所有法人(United States Real Property Holding CorporationすなわちUSRPHC)じゃないっていう点で、米国不動産所有法人を譲渡してもそれ自体をもってFIRPTA課税はトリガーされない。米国不動産所有法人神話だ。結構プロっぽい文献でも米国不動産所有法人の譲渡がFIRPTA課税対象、って表現されてて不幸なんだけど、それは普通のオーディエンスにはその区分を説明するのが面倒だから簡便的に不正確と知りつつ書いてるんだろう。

この差異を具体的な例で示すと、米国不動産持分は「米国法人」のみに適用される定義となる一方、米国不動産所有法人は法人の設立場所は問われない。例えばケイマン法人が米国不動産に投資している場合、当ケイマン法人は資産比率的に米国不動産所有法人になるとしても、米国法人じゃないから米国不動産持分にはなり得ない。NRAや外国法人が米国不動産持分を所有するケイマン法人を何百社と譲渡したところで株式を長期投資保有している限りにおいて米国で1ドルも課税は発生しない。

また、法人の「事業資産+米国不動産持分+米国外不動産持分」に占める「米国不動産持分」が「時価ベース」で50%未満になる場合、その時点で法人は米国不動産所有法人ではなくなる。でも、過去5年に一度でも米国不動産所有法人だった経緯がある米国法人の株式は、仮に法人が米国不動産所有法人でなくなったとしても引き続き米国不動産持分だから、NRAや外国法人による当株式の譲渡は5年待たない限り、そして5年間の待期期間において一度も再度米国不動産所有法人にならない前提で、ようやくFIRPTA課税の呪縛から解放されることになる。

じゃあ、なんで外国法人でもなり得る、そんな面倒な米国不動産所有法人っていう別の定義があるかっていうと、米国法人の株式が米国不動産持分になるかどうかの5年間テストの分数を算定する際に、分子・分母の双方に加味される「米国不動産持分」は、この分数テスト目的のみ米国内外を問わずに米国不動産所有法人の株式時価を合算する必要があるから。ただ、50%超の持分を持つ法人に関しては、下層法人内の資産をLook-throughする特別ルールがあるから注意が必要。

浄化(Cleansing)規定

上述の通り、米国法人株式が米国不動産持分かどうかは米国法人が過去5年に一度でも米国不動産所有法人だったかどうかで判断するのが原則だけど、有益な例外として浄化規定がある。この規定に基づくと、現時点で米国法人が米国不動産持分を全く所有しておらず(分子ゼロ)、過去5年間に米国不動産持分を少しでも所有してた経緯がある場合には、当持分は全て「課税取引」で譲渡された場合、そのような米国法人の株式は米国不動産持分には当たらないとされる。ただし、この例外はREITやRICには適用がない。

FIRPTAは実に複雑な規定なんできりがないんだけど、この辺でFIRPTA課税の一般編は終了し、次はいよいよ問題の財務省規則案に触れたい。