Saturday, May 20, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (4))

前回まで、新たに公表されたFIRPTA課税系の規則草案の話しをするためのお膳立てとして、インバウンド課税およびFIRPTA課税の大基本に触れた。5月はNebraska州滞在で始まったんだけど早くも月後半に突入。5月前半にNebraskaって言えば何しに行ったかすぐに分かるね(特に5大商社の方がいらしたら)?米国MidwestでもシカゴやPeoriaがあるIllinoisより西に行くのは実は久しぶり。なんだかんだ結局1年ぶりだったんでたまたま気候も良くて大満喫。Destinationは他でもないOmahaだからNebraskaとは言え実際にはほとんどIowa州。Interstate 29で北に向かうとSioux Cityを超えてSioux Falls。憧れのSouth Dakotaだ。Interstateの大きな横断標識に北に行くと「Sioux City」とか出てくるとそれだけで盛り上がる。大きなSUVでのんびりドライブ、って言ってもトラフィックないんで気が付くと90マイルくらいのスピードでそれでもバックしているとまでは言わないけど止まっているみたいな感覚で、普段の喧騒を忘れさせてくれた。地平線見ながらFIRPTA課税の基本を考えたりしてたけど(せっかくのドライブが台無し?)、基本部分だけでもまだまだ触れたいトピックは多い。でも既に5月も後半に差し掛かってきてるっていうこのタイミングだし、ここは断腸の思いで(大げさ~)規則案に移る。

2022年末公表のFIRPTA課税規則パッケージ

2022年末ギリギリにいきなり公表されたFIRPTA課税関係の規則のうち、QFPFに関しては2019年に規則案が出てたんでそれを最終化したもの。QFPFの規則最終化はタイミングやその内容は別として、最終化自体は近々起こるだろう、って予測されてたんパッケージにこれが含まれてたこと自体に驚きはない。ただ、CAMTとか自社株買いのルールとか2023年が始まる前に何とかして押し込んでおきたかったガイダンスとの対比で、QFPFの規則最終化を敢えてにみんながマイアミビーチでリラックスしてる12月29日に公表しないといけなかったどうかは評価の割れるところ。おかげで年末年始のReading Assignmentが増えたよね。

で、そんなFIRPTA課税パッケージに含まれてた規則で一番唐突っていうか意外だったのがDC REITの持分に関するもの。DCは以前のポスティングで定義してるんで、またスペルアウトしたりするのは個人哲学的に容認し難いところなんだけど、時間が経ってるんで禁じ手で再度言っておくと、DCは米国の首都で州政府ではなく連邦政府が直轄する唯一の領土(正確には内務省その他が管理するNational Parkを含む「Federal Land」に加えて)「District of Columbia」のこと。じゃもちろんなくて「Domestically Controlled」のこと。何をもってDCになるか、っていう点に触れ始めると規則案の神髄をいきなく直撃することになるんで、そんな衝動はグッと抑えてまずはDC REITを理解するのに最低限必要なREITとインバウンド課税基本編。基本編って言っても、2~3回のポスティングでは到底カバーできる内容じゃないんで必ず個別のケース毎にFee払って(?)アドバイスを受けるように。

REIT

REITは、プロによる管理・リスク分散が可能な不動産投資にリテール投資家がアクセスできるように、っていう趣旨で1960年に誕生したありがたい制度。

REIT適格になるには多くの条件があるけど、まず、REITは米国税務上、米国Corporationと取り扱われる主体でないといけない。米国の憲法というか、米国税務を語る際の大基本だけど、主体というのは常にデラウェア州等の州法で組成される。一方、連邦税務上これらの主体をどのように区分するか、は州法に束縛されることなく、連邦税法の視点から自由に判断・決定する。なんで、法的な主体が州や外国法で認知されているにもかかわらず支店扱い(Disregard)されたり、法的な主体を組成したつもりがないJV契約やCollaboration契約がそのTerms次第でパートナーシップという「主体」になったりする。また州の会社法上、GP, LP, LLP, LLCとかいろんなタイプの主体が存在しても、税務上はCorporationとして組成されていない限り、Corporationとして課税されるかパススルーとして課税されるかを納税者側で任意に選択することができる。LLC税法とか存在しないからね。

なんでREITも州法上の区分は必ずしもCorporationである必要はなく、LLCでもLPでも税務上Corporation課税を選択してればいい。実際、REIT、特に上場REITの大多数はMaryland州のTrustっていう形で組成される。上場企業がDelaware州で設立される点との対比で面白い。DelawareがCorporateマターに明るくCutting Edgeなのと同様、MarylandはREITに関するトップの座を維持するため継続して州法をアップデートしてるし、REITにかかわる州の造詣が深い。MarylandにはREITに特化したTrust法があり、多くはガバナンス系の観点だけど、対価を受け取ることなくREIT持分を交付できたりする。REITの持分要件の充足に便利でREITフレンドリー。

もちろんだけど、MarylandのTrustがREITになるには、税務上、Corporationとして取り扱われる必要がある。ということはTrustがCheck-the-Boxすることになるけど、どんな時にTrustがCheck-the-Boxできるか、すなわち信託に対する課税を規定しているSub Jの対象でなくなるか、Massachusettsの信託や最高裁判所判例とかそれはそれは深淵な世界なんで機会があればそのうちね。TrustがLLCみたいにいつでもCheck-the-Boxできるって誤解をしてるケースや、日本の信託の米国税務上の区分を検討することなくいきなり米国投資ストラクチャーを語ったりするケースを見ることがあるけど、他の主体と違ってTrustは特別だからね。TrustのCheck-the-Box神話とでも言っておこうか。

でも、REITが不動産を税務上パートナーシップに区分される主体を介して所有しているのを見ることがあるけど、って言う方が居たら、それはある程度REITに関与したことがある読者だろう。REIT自体はCorporation課税される主体である必要があるけど、その下のいわゆるOp-Coはパートナーシップでもいい。特に後から不動産ポートフォリオをREITに出資するケースでは、Corporation扱いされているREITそのものに出資すると大概のケースで課税取引になるんで、傘下のパートナーシップに入れてREIT持分と等価交換できるオプション付きのパートナーシップ持分を対価として受け取るストラクチャーを取るのが一般的。UP-REITだ。このUP-REIT、もともとその名の通りREITに関してパートナーシップ税制のAnti-Abuse規定には抵触しません、っていうお墨付きをもらってるけど、これがもとでUP-Cが発展したんだね。UP-Cに関してAnti-Abuseに引っかからないていう規則はないって理解しているけど、ひとつのテクノロジーが徐々に他のストラクチャーに展開していくいい例。米国の専門家や投資銀行のクリエイティビティにはいつも感心させられる。

また、REITはCorporation扱いなんでクロスボーダー局面では原則ブロッカーとして機能し得る。そんなこと言うと、え~、REIT投資するためにケイマンとかのブロッカー経由にしたけどダブルだったの~?、ってショックを受ける方もいるかもね。まあ、REITは損失とかパススルーしないんでパートナーシップみたいなパススルーじゃないけど、所得を分配すると課税所得から除外されるんで、二重課税がないっていう点ではパススルーもどき。REITのパススルー神話。また、この点は次回以降に深く触れるけど、分配の原資がREITによる米国不動産持分譲渡に帰す部分は、分配とは言え通常の配当所得ではなく、FIRPTA課税目的で国外投資家は譲渡損益の性格がそのまま温存されるんで、REITが米国不動産持分を譲渡するような投資戦略を取る場合には、Upper Tierのブロッカーが必要になる。この点はDC REITの話しとも深い関係にあるんで次回以降に再度触れたい。

で、米国Corporation扱いってことは、前回のFIRPTA課税基本編で触れた通り、REIT持分の譲渡はFIRPTA課税の対象となる。もちろん米国不動産持分じゃない、っていう反証ができればFIRPTA課税対象じゃなくなる。でも、REITだから米国不動産所有法人になるに決まってて反証できる訳ないじゃん、って思う人はあわてんぼうのサンタクロースさんだ。FIRPTA課税基本で触れたけど、ピュアに債権者として所有している持分や債権は米国不動産持分にはならない。一方、REITの適格資産には不動産を担保としたモーゲージ債権が含まれるんでモーゲージREITはREITだけどFIRPTA課税目的では不動産持分にはならない。さらにREITが所有する不動産は必ずしも米国に所在する不動産とは限んないんで、米国外不動産投資を戦略としているようなREITがあれば、それでもREITだけど米国不動産持分にはならない。

REITの適格要件、それも米国Corporation扱いされること、っていう大基本ステップで早くも時間を使い過ぎたんでここからは次回。Led Zeppelinの話しとかしてないのに長くなったね。