Wednesday, May 24, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (5))

今回もREITの話しを続けて最終的にはDC REITにかかわる規則案にたどり着きたいんだけど、その前に一点FIRPTA課税目的の米国不動産持分の定義に関してInterstate 29ドライブ中に思い出したことがあるんでチョッとだけ再度FIRPTAの米国不動産持分にフラッシュバック。広大な自然、またはOmahaで賢人の知恵に触れたせいか、FIRPTAの想いが果てしなく広がる(なにそれ?)

日米租税条約とFIRPTA

今の日米租税条約は2003年バージョンだけど、日本居住者(LOB満たす者)が米国不動産譲渡益を認識する際に米国に課税権を認めている13条(もちろん条約なんで逆方向のケースにも同様に適用があるけど、FIRPTAの話しなんで米国不動産にかかわる方向にフォーカス)のもともとの文言は、米国法人の株式譲渡にかかわる米国課税権を「資産価値の50%以上が米国不動産により直接・間接に構成される法人に限る」という趣旨のものだった。え~、何コレって当時はビックリ。この定義はFIRPTA課税の適用を受ける米国法人の株式と微妙に異なるからだ。

すなわち前回のポスティングで延々と話したように、米国不動産持分の定義に見られる過去5年間のLook-Backがないし、また条約の50%以上計算時に分母として使う資産、英語では「Its assets」だけど、に特に事業資産に限定するっていう文言はない。つまり2003年の条約は米国法人株式の譲渡に対するFIRPTA課税を、米国不動産持分ではなく神話のひとつだった米国不動産所有法人に似てるけどそれとも違う第三の変な定義に基づいて適用してた。なんで、前日まで法人資産の50%以上を米国不動産持分が占めてても、翌日目が覚めて49%になってたら、そんな米国法人の株式譲渡益は条約ポジションでFIRPTA課税免除になってた。しかも、これは決してCarelessなドラフティング結果じゃなくて、当時の条約批准時の上院ヒアリングで問題が指摘されたりした上で特別に認められている。米国の多くの条約でも日米租税条約以外にはほぼなくて、他には言葉は変だけどマイナーな条約に1~2あるだけだったと記憶している。

っていう訳で余り注目されてなかったものの、かなりの特典だった。でもこの定義は2013年の議定書で改定され、今では米国内法の米国不動産持分の定義を参照する形にアップデートされてしまった。2013年の議定書っていうとあたかも2013年から発効しているような錯覚を覚えるかもしれないけど、米国側の批准に長年かかって2019年8月末からようやく発効した。つまりそれまでは日本居住者に対するFIRPTA課税はかなり緩かったってことになるね。タイムマシーンで戻りたい?

衝撃のIRS内部Legal Memo

で、Interstate 29でふと思い出した2019年までの日米租税条約の特典に触れることもできたんで、いよいよ満を持してREIT続行って思った矢先に、絶妙のタイミングでIRS内法務部に当たるChief Counsel OfficeがFIRPTA関係の衝撃的な内部Legal Memoを公表したんで急遽そっちにも触れざるを得なくなった。余りにExcitingな毎日だ。

前回のポスティングで触れた通り、米国法人の株式(正確には持分だけど分かりやすい株式って言っておく)は納税者側で反証できない限り、自動的に米国不動産持分になる。まさかこんなタイミングでLegal Memoが出るとはつゆ知らずだんたんで、その時点では「株式市場で流通している株式に関しては5%以下の株式は米国不動産持分にならない」っていう有利な例外があるってサラッと触れただけだった。この例外がないとリテール投資家を含むNRAや外国法人が米国株式市場で僅かな%の株式を売るたびに反証するのは非現実的だから、全て申告書提出して譲渡損益を報告しないといけなくなる。なんでまあ当然の例外規定。ちなみに株式市場で流通しているREIT持分に関しては5%の代わりに10%まで例外条件が引き上げられている。複数あるREITのみに認められる特典の一つだ。

5%ルールや10%ルールの例外が適用されるのは普通の法人株式にしても、REITにしても公認株式市場(「Established Market」)で流通(「regularly traded」)している株式。なんで、証券法や投資法に基づいて持分がSECに登録されてても「RegularlyにTrade」されてないと当例外の適用はない。例えばExitが償還(Redemption)っていう形で想定されてて持分譲渡が自由にできないタイプのREITとかは、持分がSECに登録されててもTradeされてることにならないんでこの例外は使えない。またTradeが可能でも「Regularly」にTradeされてないといけない。何をもってTradeがRegularかっていう点に関しては1980年代から財務省規則に紆余曲折があって、規則に定義が現れたり、それが撤回されて最終規則(Final Regulations)では「Reserved」、すなわち今後の規則策定に期待、みたいな状況になったと同時に暫定規則(Temporary Regulations)に定義が移動して現在に至る。暫定規則は規則案(Proposed Regulations)と異なり法的効果を持つ点はFinal Regulationsと同等。定義そのものを詳解するスペースはとてもないけど、四半期毎のテストとか本気でやると結構大変、とだけ言っとくね。

で、株式市場で流通している米国法人の株式(チョッと面倒なんで誤解覚悟でここでは上場株式って言っておく)をパートナーシップが所有してるケースで、この5%をどのレベルで判断するべきか、っていう点は長年明確じゃなかった。例えばケイマンフィーダー(当然CTBで法人課税選択)とデラウェア州LPSが各々50%づつマスターファンドを所有するストラクチャーのヘッジファンドがあるとする。で、そんなマスターファンドが上場株式を8%所有してるとする。デラウェア州LPSのDomesticフィーダーに投資するLPは米国個人、米国法人、または州のペンションファンドとかのSuper-Exemptとすると、FIRPTA課税の検討が必要となるのは外国法人のケイマンフィーダーのみで、Domestic Feeder経由で投資してるLPの視点からは、持分が5%以下かどうか、すなわち株式が米国不動産持分になるかっていう検討は一切課税関係に影響がない。じゃ、ケイマンフィーダーが上場株式の何%を持っているのか、って部分だけど、マスターファンドが8%持ってて、マスターファンドに対するケイマンフィーダーの持分が50%だから4%と違うの?ってなるところ。パートナーシップは法人と違ってLook-throughだし、別の規定だけど利子所得の源泉税が免除されるPortfolio Exemption適用時の10%制限もパートナーレベルで判断って明確な規則もあるし、上場株式の例外もパートナーレベルで判断するべきって密かに確信してるアドバイザーは多かっただろう(既に「過去形」になってて怖い?)。でも間違ってFIRPTA課税になったりすると面倒なんで、君子危うきに近寄らずだから保守的に5%や10%をパートナーシップレベルで判断せざるを得ない状況が続いていた。

ちなみにマスターファンドを使わずにピュアにパラレルファンドにすればこの問題は少ない。今でもたまにパラレルのヘッジファンドとか見ることがあるけど、ケイマンフィーダーに当たる外国人LPおよびDebt-Finance UBTIを嫌う普通の(つまりSuper-Exemptじゃない)Tax-Exemptが投資する側のファンドと米国LPサイドのファンドが各々別々に4%づつ株式を持ってて、変なAttribution規定とかに抵触しなければ、ケイマンフィーダー側の4%上場株式譲渡はFIRPTA課税免除なはず。マスターファンドのストラクチャーでも一部のヘッジファンドがやってるみたいにマスターとケイマンフィーダーの間にもう一つサブパートナーシップがあるようなケースとかでうまくマネージできることもあるかもしれないけど、Tradeを別のVehicleでパラレルでやってバランスさせるのは実務的に大変だろうし、また各Vehicleが全てのサービスプロバイダー、例えばPrime Brokerとか、と各々契約しないといけないんでやっぱりマスターファンドの活用が便利だよね。

で、ここまで書いたらIRSのLegal Memoがどんな見解かだいたい予想が付いたと思うけど、なんとパートナーシップレベルで判断するべき、とのこと。え~、パートナーシップだからLook-throughじゃないの?って思うけど、パートナーシップは「Person」であり(それは本当にそう)、パートナーがUSTOBに従事してるかどうかもパートナーシップレベルで決めるんで云々、とかいくつかパートナーシップそのものをEntityとして取り扱う正当性が記載されてた。で、何をいつLook-throughするのかって論点は本題のDC REITの規則案の神髄部分なんで、DC REITにかかわるルールを後述する際、Legal Memoの上場株式の取り扱いと対比してみて欲しい。

ちなみにLegal Memoって法律じゃないんで拘束力とかないけど、Private Letter Rulingとか個別の納税者に対する見解との比較で、一般的なコメントなんで反って怖い。もちろん納税者有利なLegal Memoだったら喜んで活用するんだけどね。

という訳で今回は結局REITそのものの話しに至らなかったけど、FIRPTA課税にかかわる面白い話しだったんでお許しを。