Monday, July 12, 2010

ムキになっているIRSの「保証料は米国源泉」という主張と日本企業

保証料の源泉地がどこかという問題に関してIRSは長い期間苦労に苦労を重ねて戦ってきた。

日本企業の米国子会社が米国に金融機関から借入をする場合、多くのケースで日本親会社が保証を差し入れる。米国子会社側に十分な与信枠がないケースもあるし、与信枠があっても親会社の保証を入れることでより有利な条件での借入が可能になることが多い。

保証というのは当然価値のある行為であることから、第三者に無償で保証を差し入れることはない。にも係らず子会社から保証に対して何の対価も受け取らないと、保証をしている国で移転価格問題とされることがある。無償で子会社に価値を提供しているからだ。一方で、保証料を支払うとなると今度はその保証料に対する源泉税の取り扱いが気になる。

*IRSの主張

IRSには古くから保証料の源泉地は「利息同様」に借り手の居住地を基に決定するべきという持論がある。この持論に基づくと、日本親会社が米国子会社に対して保証を差し入れている、すなわち米国子会社が日本親会社に保証料を支払っているという局面では、保証料は米国源泉所得となる。となると米国で30%源泉税の対象となる。

僕も実際に90年代中盤のIRS税務調査でそのような主張を展開された経験がある。しかも、利息同様に源泉地を決定するべきと言っておきながら、当時のIRSの内部アドバイスによると実際には利息ではないので利息に適用される租税条約上の低減税率は認められないというのだった。

これは「旧」日米租税条約の時代の話だ。何とか保証料を事業所得と位置づけてPE規定で逃げようとしたりいろいろと試みたが最後は不服審査(Appeal)で手を打つしかなかった。

*「新」日米租税条約

2004年に日米租税条約が新しくなった際に、保証料の米国税務上の取り扱いに対する不確実性は取り除かれた。21条の「その他所得」規定に基づき、配当、利子、ロイヤリティー、給与等、租税条約の各条項で具体的に規定されている所得以外の所得(=その他所得)は、PE課税されない限り、その所得の受け手側のみで課税されることになったからだ。さらに丁寧に議定書で、保証料は受け手のみで課税と駄目押しまでしてくれていた。

*Containerケースと税法改正案

保証料は利息同様のコンセプトで源泉地を決定するべきというIRSの長期に亘る主張に対して、保証料は利息ではなくサービス提供に近いので保証料の源泉地はサービス提供している「保証している側の居住地」で決定するべきという意見も多かった。この点に関して法定で争われているケースがいくつかあるが、つい最近2010年2月にTax Courtで争われた「Container Corpケース」で裁判所は「保証料はサービス提供に準じる」として「源泉地は保証している側の居住地」にありとするのが妥当と判断した。このケースはメキシコ法人の米国子会社に対する保証に係る保証料に関しての争いであった。

これに業を煮やしたIRSはそれならば「条文法律変更」という文字通りの法的手段に出る。都合の悪い判例が出るようなら条文で引導を渡そうということだ。逆に言えばそんな簡単なことであれば税法なり財務省規則でさっさと規定してしまえば良かったような気がするが、今までは明確な規定がなく、多くの判例等を基に争われてきた。ようやくContainerケースの負けでムキになったIRSはClosing Tax Loopholes Actの中に改定案を盛り込んでいる。

IRSがなぜこの点に拘るかというと、源泉税を課すチャンスがなく、米国企業が保証料を外国に支払うと、保証料が法人税の計算上は費用化されることからEarnings Strippingの温床となるのではという懸念があるからだ。もちろん「世界一」の税率を誇る日本の親会社に保証料を支払うとグループ全体では余計な税金を支払うだけなのでEarnings Strippingとはならないが、カナダ企業とか日本企業グループでもヨーロッパとかアジアの子会社を利用した保証をすればEarnings Stripping効果を持つ。

という訳で法律改定案によると「貸付に係る保証料の源泉地は保証を受ける借り手の居住地で決まる」と明確に規定されることとなる。

*後法優先と日本企業への影響

普通に考えると租税条約というのは二国間で合意したものであるから内国法より優先するような気がするが、そうは簡単にいかないのが米国だ。憲法上「連邦法」と「租税条約」は同位にあるため、基本的には後にできた方が優先する(後法優先)。過去にも租税条約の恩典を後からできた米国内国法がOverrideしてしまったケースが存在する。

となると日米租税条約の議定書の効果も消滅してしまうのか、と思われる向きもあるかもしれない。しかし、個人的にはそれはないと思う。今回の法改正はあくまでの「保証料は米国源泉(米国子会社が日本から保証を受けているという場合)」としているだけで「源泉税の対象」と規定している訳ではない。

となると日米租税条約の21条の「その他所得規定」で「米国源泉だけど米国での課税(=源泉税)はなし」という規定がそのまま生きてくる。そもそも議定書の駄目押し確認も保証料は「米国源泉」という前提で読まなくては意味がない。米国源泉でなければそもそも米国に課税権がなく、租税条約とか議定書の登場を待つまでもなく米国では源泉税の対象とならないからだ。ということは今更、米国の内国法で「保証料は米国源泉!」と言われたとしても「で?」ということで終わるはずだ。そのロジックで行くと何も変わらない。

*それでも若干残る改定案の影響

上述の通り、もし改定案が最終的に法律となるとしても、日米間で保証料を受け取る場合には現行の取り扱いのままで良いものと思われる。一方、もし他国の子会社等を利用して保証を米国子会社に差し入れる場合にはその国と米国の租税条約を検討する必要がる。また日本企業でも恩典制限条項(LOB)が満たせてないケースで租税条約が利用できなかったりすると影響が出てくることもある。

なお、税法変更があったとしても過去の保証料の源泉地の決定には影響を持たないとされる。すなわち過去の保証料に関しては従来通り判例等に基づく判断をしていくことになる。

Closing Tax Loopholes Actに関して何回かポスティングを続けたが、次回はブッシュ政権の置き土産であり冗談にもならない混乱を引き起こしている「Bush減税の顛末- 2010減税失効の恐怖」に触れてみたい。

かなり強力「Closing Tax Loopholes Act」(6)

ここ何回か続けているClosing Tax Loopholes Actの規定内容は基本的に米国企業(日本企業の米国子会社を当然含む)が米国外に投資しているという局面(米国からみた「Outbound」)に影響が大きいものが多い。そんな中でいくつか外国から米国に投資しているという局面(米国からみた「Inbound」)に関連するものがあるので簡単に紹介しておきたい。

*80・20ルール

米国法人が非居住者、外国法人に支払う配当、利息は30%の源泉税の対象となる(もちろん、源泉税は租税条約の利用で多くのケースで税率が低減されたり源泉税がまるまる免除される)。

この源泉税の対象とならないケースに、配当、利息の支払主が米国法人とは言えほとんどの所得を米国外で得ているというものがある。これはそんな状態であれば、そもそも配当とか利息の源泉地が米国であるとは言い難く米国での課税権行使には適切な状況ではない、という考え方に基づく政策だ。

これが一般に80・20ルールと言われるもので、米国法人の総所得の少なくとも80%が米国外の事業活動に基づく外国源泉所得の場合に源泉税の免除がある。その算定には3年間ルールとかいろいろとあるが、このルールを撤廃してしまおうという規定が改定案に盛り込まれている。実際に日本企業で80・20ルールを利用しているところはとても少ないと思われることから改定の影響はないに等しいだろう。

*米国外法人を利用したSec.304

関連会社間で株式の売買をする際に必ず適用有無を検討することになる規定にSec.304がある。このSec.304、前回のポスティングで触れたSec.956と同時に以前は見過ごされがちであったが、今ではすっかり定着してみな真っ先に考えるような規定に「成長(?)」した感がある。

Sec.304取引には様々なパターンがあるが、典型的で分かり易いのは親会社Pが二つの子会社の一つAを他の子会社Bに現金で売却するようなケースだろう。これは会社法上は関連会社間の株式売却だがSec.304でみなし配当となる。正確には、PはAの株式をBに現物出資し(Sec.351)、その対価でB株式を受け取り、Bが即座にB株式をPから現金で買い戻したかのように取り扱われる。Bによる償還はPがBの100%親会社であることからSec.301の分配(=Distribution)扱いとなる。

分配は米国税務上はE&Pの範囲でのみ配当となる。このSec. 304下でのE&P使用順序の決定がまたややこしく、まず株式を買った買収法人(上の例でいくとB)のE&Pを使ったものとし、分配額がそれを上回る場合には次にターゲット(上の例でいくとA)のE&Pを使ってものとされる。ただし、Bが外国法人の場合にはこの目的で使用されたと取り扱われるE&PはBが米国法人の子会社(CFC)だった期間の金額に限定される。
別のSec. 304取引に次のようなものがある。日本親会社(J)が米国に100%子会社(US Co)を持っているとする。更にUS Coが米国外に100%子会社(CFC)を持っているとする。典型的なサンドイッチ構成だ。そんなパターンで、もしJがUS Co株式をCFCに売却するとこれはSec.304取引となる。会社法上はCFCは株式取得のための現金をJに支払い、US Coを100%子会社化することになり、US CoはCFCの子会社となる。

しかし米国税務上はSec.304に基づき、CFCからJへの配当となる。その際に使用されるE&Pだが、上述のE&P使用順序規定に基づきまずは株式を取得したCFCのE&Pが使用されたかのように取り扱われる。ここで問題となるのは前回のポスティングのHopscotchにも似ているが、E&Pが使用されたと取り扱われるにも係らず、みなし配当はCFCからJに行なわれることとなり米国をバイパスしてしまっているので、外国法人であるCFCのE&Pを米国で課税するチャンスがないままに無くしてしまう点である。米国としてはCFCのE&Pを課税しないままに外国に逃がしてしまうのは許せない。Sec.367(b)とかSec.1248とか全てそれらを取り締まるためのものだ。

CFCがUS Coを持っているという再編後の状況はまさしく前回のポスティングで触れた「Sec.956取引」の形態であり、米国でその理論で課税ができるように見える。しかし、肝心のE&PがCFCから流出してしまっているのでSec.956を持ってしてもその部分は課税ができない。

そこで今回の改正案では上の例のようにCFCが株式の買い手、外国企業が売り手という局面でSec.304が適用される場合、E&Pの使用を決定する際にはCFCのE&Pは無視して、いきなりUS CoのE&Pを見ることとされる。

何となく改正案を読んで「そんな手があったか・・・」と漸くプラニングに目覚めるようなテクニックだ。日本企業以外の米国Inboundではこんなことをみんな当然のように利用して最適な税務ポジションを構築していたのだろう。日本企業も負けてられない(?)。

かなり強力「Closing Tax Loopholes Act」(5)

*Hopscotch

米国での外国税額控除プラニングとして「Hopscotch」というものがある。Hopscotchはコンクリートの路上とか学校の校庭にチョークで四角の絵を描いてそこに番号を書き込む。そこに石を投げ、石が入っている四角を飛び越えて番号順に跳んでいく遊びだ。日本でも昔、アスファルトの道路に絵をチョークで書いてケンケンして遊んだりしたが、あの石蹴り遊びのアメリカバージョンと思えばいい。

僕的にはHopscotchと言われるとやはりどうしても「Missing Persons」という80年代のハードロックバンドがやってた「Mental Hopscotch」という曲を思い出してしまう。結構流行ったバンドなので知っている人も多いと思うが、「Nobody Walks in L.A.」「Tears」「Window」とかの名曲を送り出し、同時にバンドの技量というかテクニカル面もしっかりしていた。基本的には新らしめの(当時は)音を持った感じの西海岸ポップ・ハードロックなんだけど、Windowって曲なんかは(大変古くて申し訳ないけど)六本木のナバーナとかでも掛かるダンサブルな曲でもあった。

そんなMissing Personsが最初に出した12インチシングル(今ではこんな言葉分かる人居ない?)は4曲構成で、ヒット曲のWordを筆頭に、Boys、Destination Unknown、そして「B面」の2曲目を締めていたのがこのMental Hopscotchだった。途中のフィードバック・ビブラートきんきんのギター(彼は後にAndy Talyerの後任としてDuran Duranのギタリストになる)やリフをきざむキーボードも良かったけど、やはり決まっていたのはTerry Bozzioのツインバス使いまくりのドラムだろう。当時、実は僕は大介さんっていうドラムがとてもうまいお兄さんとバンドをやっていて彼がツインバスを売り物にしていて(Cozy Powellの影響が大きかったと記憶してます)、たまたまボーカルがFemaleで、キーボーディスが参加したばかり、かつMissing Personsのギターが僕のスタイルにピッタリ、という出来すぎた状況でMental Scotchのフルコピーを新宿ロフトで演奏したのが昨日のことのようだ。

実はこのMissing Personsを90年代の中盤にL.A.近辺のライブハウスで「復活版」っぽい感じで見るチャンスがあった。その時のOpeningがMental Hopscotchだったので感動した。Terry Bozzioの元奥さんだったDale Bozzioはそのままボーカルやってたが(まあ彼女ナシではMissing Personsと名乗ることはできないだろうけど)、ドラマーは別人だった。しかもこの差し替えドラマーさん、シングルバスドラなのにツインバスと同じスピードでバスドラを蹴ってたのは感心だった。ちなみのこのチョッと裏びれた感じのライブハウスでMissing Personsの前座を務めたのはワンヒット・ワンダー「Flock of Seagull」だった。アンコール前の最後の曲はもちろん「I Ran (So Far Away)」。エコーの聞いたギターが印象的で、昔、家庭教師のバイトをしていた時に生徒さんのお家に行く途中の車で散々聞いた名曲だ。という訳でBuy One Get One Freeみたいないいコンサートだった。

で、そのHopscotchがアメリカ多国籍企業のタックス・プラニングにどう関係してくるのか、というところだが、ここからはMissing Personsの演奏同様に若干テクニカルになる。

日本のタックスヘイブン税制に類似する米国のSubpart F規定の基本的な趣旨は、米国企業が外国子会社で得る所得は本来は米国に配当されるまでは米国で課税されない、っていう大原則が悪用されるのを取り締まるため、一定の所得は米国に配当されようとされまいと外国子会社が所得として認識した時点で米国で課税するというものだ。例えば香港子会社が認識する投資所得などは、別に無理して低税率の香港で認識させなくてもいいのではという理由で配当の有無に係らず米国で課税される(細かい例外規定等はある)。

一方で米国企業は外国で得た所得はそのまま外国に留保しておき、かつSubpart Fにも抵触しないようにして米国では課税されないように知恵を絞る。または米国に配当として資金を還流させる場合には少なくとも米国の税金がなくなるように(うまくいけばCross-Creditで他の米国勢金も圧縮してしまうように)High Tax Poolから配当を受けるように腐心する点は前回までのポスティングでしつこく触れた通りだ。

*Sec.956

しかし、もし米国で資金が必要であるにも係らず、Low Tax Poolにしか配当原資がなければどうするか? そんなケースには配当ではなく外国子会社が米国親会社に貸付をするばいいのではないか、と考えるのが普通の流れだろう。実際、米国企業もそう考えた。配当ではないので課税されないばかりか、米国が支払利息を計上して、低税率国でそれを受け取ることができるのであれば、これは典型的なEarnings Strippingとなって一石二鳥だ。

ところが実際にはそんな調子よくは行かない。Subpart Fの一部に「門番」的に規定されているSec.956により、海外子会社にE&Pがある場合に、それを投資、貸付、保証という形で米国に持ち帰ると全て「みなし配当」となる。技術的に言うとこれらの資金移動は「Investment in the U.S. property」と位置づけられ、配当同様に課税される。実際には各四半期のInvestment in the U.S. propertyを算定したりと結構面倒な規定だが「配当課税回避行為に対する措置」としての趣旨は誰にでも理解できる。

米国企業が直接保有しているTier 1の外国子会社からSec.956の借入等がある場合の処理は直接配当されたのと同様なので分かり易い。一方で、Tier 2の孫会社からSec.956に抵触する借入があったとすると通常はそのような流れの配当はあり得ないので更なるルールが必要となる。具体的には、このような局面ではあたかも孫会社が「直接」米国親会社に配当したかのように税務処理をするように規定されている。すなわち、Tier 1である直接子会社を飛び越えて(=Hopscotchして)米国に配当されたかのように取り扱われる。実際に配当されている訳でないので当然と言えば当然な取り扱いだろう。

しかし、何事も自分達の有利な取り扱いに摩り替えてしまうのが米国多国籍企業、というか企業にアドバイスしている弁護士、会計事務所の国際税務部門だ。そんな彼らがSec.956のHopscotch規定があれば、実際に配当するよりもHigh Tax Poolで間接税額控除を計上できるという可能性に着眼しないはずがない。

*Sec. 956とHopscotch規定を敢えて利用

つまり、Tier 1の外国子会社のTax PoolがTier 2のTax Poolよりも低い場合、Tier 2の孫会社が実際に米国親会社に配当を行なうと、どうしてもTier 1子会社を通ってしまうことで、より低い(=より不利な)税務ポジションとなってしまう。一方、これを本当の配当ではなく、Tier 2孫会社が直接米国親会社に貸付その他のSec.956取引を行なうと、Tier 1を経由したことにならないため、High Tax Poolのまま外国税額控除を算定することができるというものだ。Tier 1としてケイマンとかバミューダとかの持株会社が入っているようなケースではこの差は特に大きい。

そんなプラニングに網を掛ける目的でClosing Tax Loopholes Actでは次のような規定が盛り込まれている。すなわち、Sec. 956に基づくみなし配当であっても、実際にUpper Tierの子会社等を経由して米国に配当されたかのように外国税額控除を計算する。一方で従来通り、Tier 2から直接配当とみなされたらどのような外国税額控除となったかも計算させられ、どちらか「低い」方の外国税額控除を取ることとされている。なお、あたかもUpper Tier経由で配当されたとしたら、という仮定のシナリオ上、源泉税等の存在は無視するとしている。

このHopscotchストーリー、規定する方、それを有利に解釈する方、それをまた取り締まる方、全ての登場人物の方々の努力に敬意を払わらずを得ないとしかいいようがない。

かなり強力「Closing Tax Loopholes Act」(4)

前回までのポスティングでは国際課税の改正草案「Closing Tax Loopholes Act」に関して、中でも辛口の規定が提案されている外国税額控除の濫用への対抗策を中心に触れた。草案発表当時は今にも法律化される、という勢いであったがここに来て法案の行方は定かでなくなってきている感がある。いずれにしても何らかの法律化が実現すると思われるので、前回まで特集している外国企業を買収した際の米国税務目的でのステップアップ、その結果達成される「人工的なHigh Tax Pool」の話しを続ける。ステップアップを達成する代表的な手法としてSec.338に触れたが、今回は法案で「Covered Asset Acquisition」として規制の対象となりそうな他の二つの取引に関して触れる。

*Check-the-Boxを利用したステップアップ

1990年代後半に財務省が「Check-the-Box」と言う実に納税者フレンドリーで弾力性に富む規定を発表した際、この規定がどれだけ多くの国際税務プラニングに寄与するか予想していただろうか?Subpart F規定の適用回避にCheck-the-Box規定が大きな役割を果たしている点は2009年5月30日の「時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(2)」でかなりしつこく触れた。

そして今回、ステップアップを達成する一手段としてもまたこのCheck-the-Box規定が登場する。仕組みは極めて単純で、外国の企業を米国企業が買収する際に、会社法上および外国の税務上は株式買収をしておき、買収と同時に買収先の外国企業がCheck-the-Box選択をして米国税務目的では支店同様の取り扱い(Disregarded Entity)にするというものだ。

取得した外国事業が支店扱いとなると米国企業が直接、外国の事業資産および負債を取得した形となり、取得価格は当然、各資産に配賦されステップアップが実現する。

ただし、Check-the-Boxの選択は外国の全てに事業主体形態に対して認められているものではないことから、この手法を利用するためには買収先の外国企業が財務省規則の「Per Se Corporation」リスト(=選択の余地無く米国税務目的で「Corporation」と取り扱われる事業形態リストで、日本では「株式会社」がこれに当たる)に列挙されていないという条件が必要だ。実際には外国の事業形態の多くがPer Seリスト外となるので当プラニング適用の機会は多い。

*パートナーシップ持分取得とSec.754選択

Sec.338およびCheck-the-Boxの利用は、外国で法人形態を取る事業主体の買収に係るものであったが、もうひとつステップアップを実現する取引形態にパートナーシップ持分取得がある。単にパートナーシップの持分を取得しただけでは、株式会社の株式を取得した局面同様に、パートナーシップ持分の簿価が時価となるだけで、パートナーシップが持つ各資産の税務簿価は従来のままとなる。このような不都合を解消する目的で頻繁に利用されるのがSec.754選択だ。この選択をするとパートナーシップ持分を買収をしたパートナーの買収持分に相当するパートナーシップ資産の税務簿価が時価に置き換わる効果を持つ。結果としてGoodwill等の簿価がステップアップして上述の他のケースと同様の効果を達成できる。

こんなところでステップアップと外国税額控除の話しは一旦打ち切る。次回のポスティングでは同「Closing Tax Loopholes Act」に盛り込まれている他の規定の話しを続けたい。