Friday, November 30, 2007

Earnings Stripping Ruleの今後(2)

現行の「アーニングス・ストリッピング規定(Earnings Stripping Rule)」の概要に関して前回のポスティングでまとめたので、今回は2007年11月28日に完成・公表されたEarnings Stripping Ruleの現状および法改正の必要性に係る米国財務省作成の議会への報告書に関して簡単にまとめてみる。

*今回の財務省報告書

報告書そのものは全体で106ページに亘るが、そのうちEarnings Strippingには30ページ弱の紙面が割かれている。報告書の他のページは移転価格および租税条約に係る同様の報告書である。これらの分野に関しても後日触れてみたいが今回はEarnings Strippingに対する報告にフォーカスする。今回の報告書は2004年度の法人申告書の内容を分析してまとめられている。

*外国企業の米国現地法人

報告書では興味深いことに「外国企業の米国現地法人」が支払利息を利用して所得を海外に移転しているような兆候を裏付けるデータは見当たらなかったとしている。日本企業の米国現地法人は言うまでもないがこの範疇である。前回のポスティングで触れた通り1989年にEarnings Stripping Ruleが規定されたのは、日本企業を代表とする外国企業の米国現地法人が海外にある関連会社から大きな借入をして、支払利息を通じて米国の所得を圧縮しているという懸念を基にしている。その意味で今回の報告書の結果は若干肩透かしである点は否めない。

具体的な検証方法としては、課税所得、支払利息のキャッシュフローに占める割合を「通常の米国企業」と「外国企業の米国現地法人」間で比較している。課税所得は通常の米国企業の方が高いため一見、所得の移転があるようにも見受けられるのだが、支払利息のキャッシュフローに占める割合を見ると両者間に有意義な差異は見受けられないということであった。

*海外に「移民」した米国企業(Inverted Corporation)

米国企業が海外の子会社を利用してEarnings Strippingを実行するのはSubpart F規定と呼ばれる日本のタックスへイブン税制に類似した規定があることから困難である。Earnings Stripping以外の局面でも、米国企業を親会社とするグループ形態を取る多国籍企業はいろいろな局面で米国以外の所得に対して米国で課税されグループ全体の税負担が高くなる傾向にある。

そのようなデメリットを解消するため、元々米国企業を頂点とする多国籍企業であった法人が企業再編を通じて外国法人(通常はタックスへイブン)を頂点とする多国籍企業に「変身」する例がある。このような取引は一般に「Inversion(逆さにする)」という用語で知られており、そのような再編を行った企業を「Inverted Corporation」という。

報告書では、元から外国企業の米国現地法人のケースと異なり、Inversionを通じて外国企業の米国現地法人となったケースでは明らかに支払利息を利用した所得移転が認められるとしている。Inversionを「決行」するような企業は、そのことからしてタックスの支払い、実効税率に対して敏感であるところが多いのは容易に想像が付く。したがってInversionという形態の利用に付随してEarnings Strippingその他いろいろなタックス・プラニングを行っていることを計り知ることができる。

結果として、現行のEarnings Stripping RuleはInverted Corporationに対する規定としては不十分であるということになる。ちなみに2004年の税法改正によりInversion取引自体に対する規定(Earnings Stripping Ruleとは関係のない規定)はかなりきびしくなっている。Earnings Stripping Ruleに関しては改定案は浮上するものの実際の改訂には至っていない。ここ数年の改定案だけ見ても、Inverted Corporationにのみ規定を厳しくしようとするもの、保証に基づく規定の適用を緩和しようとするもの、借入資本比率に基づくSafe Harborを撤廃しようとするもの、調整課税所得の50%ではなく35%を基に超過支払利息を算定しようとするもの、等かなりバリエーション豊かである。

*Earnings Stripping Ruleのこれから

上述の通り、今回の報告書では外国企業の米国現地法人が支払利息を利用して所得を海外に移転しているような兆候を裏付けるデータは見当たらないとされている。しかしこれは実際に所得移転が行われていないという結論では必ずしもなく、まだ分らないという結論に近い。

そこで今後、Earnings Stripping Ruleを強化する必要があるのか、必要があるとすればどのような点に問題があるのか、等を検討するためEarnings Stripping Ruleの適用状況に係るより詳細なデータ収集を実施することが提案されている。具体的には法人税申告書に新たにデザインされた様式8926「Disqualified Corporate Interest Expense Disallowed Under Section 163(j) and Related Information」というものを添付させられることになる。当様式のドラフトが報告書の発表と同時にIRSのウェブサイトで公開されている。ただでさえ多数の開示様式で分厚い米国の法人税申告書であるが、また一段と分厚くなる。ただ、この様式はEarnings Stripping Ruleに基づく支払利息の損金算入額を算定するような形式を取っていることから、従来各々が独自のエクセルで算定していた計算が様式上で間違わずにできるというメリットはありそうだ。

Earnings Stripping Ruleの今後(1)

「アーニングス・ストリッピング規定(Earnings Stripping Rule)」が強化されるかもしれない、という話はここ何年も出ては流れてきた。昨日2007年11月28日、そんなEarnings Stripping Ruleの現状および法改正の必要性に係る米国財務省作成の議会への報告書が完成・公表された。当報告書は2004年の税法改訂時に作成が義務付けられたものであることから足掛け4年に亘る歳月を掛けてようやく完成した大作(?)である。

Earnings Stripping Ruleは日本企業の米国現地法人の課税に極めて大きな影響を持つことから報告書の内容に関して急遽ポスティングする。

*Earnings Stripping Ruleとは?

Earnings Strippingという用語そのものは、広義には米国法人が本来認識するべき所得を何らかの手法で外国に移転してしまうことを意味する。所得が外国に剥ぎ取られる、すなわちEarningsがStippingされるという訳だ。移転の手法としてはいろいろなものが考えられるが、移転価格、外国関連者からの過度の借り入れに基づく支払利息が代表的なものとして挙げられる。そのうち移転価格に関しては別途、移転価格税制があり、米国でEarnings Strippingという用語が用いられる際には通常「外国関連者からの過度の借り入れに基づく支払利息」を意味するものと思っていい。この点に網を掛ける目的で制定されたのが「Earnings Stripping Rule」である。

Earnings Stripping Ruleとは企業が関連者から借入金をして利息を支払う際に、もしその利息の受け手が米国でフルに課税されていないようであれば、一定の条件下で支払利息の損金算入を認めないというものだ。コンセプトとしては「過小資本税制」に通じるものがあるが、Earnings Stripping Rule下では、損金算入が否認された支払利息がみなし配当となることはなく、その後の年度に繰り越され、将来的に条件を満たした段階で損金算入が認められる。

規定の概要に関しては後述するが、Earnings Stripping Ruleを適用する際の一般的な傾向として、企業が儲かっていない年には支払利息の損金算入が認められず繰り延べられるが、儲かり始めると過年度からの繰り延べ分も含めて支払利息が損金算入できる。その意味で通常の過小資本税制よりも「User Fridendly」であると言える。なお、米国には別途「過小資本税制」も存在するが、こちらは適用の基準がかなり主観的で日本企業の現地法人という局面ではEarnings Strippingの方が圧倒的に適用例が多い。

*まずは借入資本比率をチェック

Earnings Stripping Ruleの詳細に関しては税法のSec.163(j)およびその下の財務省規則を読んで頂く以外にないが、敢えて簡素化して概要を説明すると次の通りだ。まず、Earnings Stripping Ruleは「借入資本比率が1.5を超えている場合」にのみ適用されるという「Safe Harbor規定」がある。したがって、借入資本比率が1.5以内であればそもそも適用はない。借入資本比率が1.5を超える場合、否認(正確には繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」である。

*非適格支払利息とは?

非適格支払利子は「関連者に支払われるもので、かつ利子の受け手がその利子に関して米国で課税されていない支払利息」だ。これは冒頭で触れた「利子の受け手が米国でフルに課税されていないようであれば、一定の条件下で支払利子の損金算入を認めない」というEarnings Stripping Ruleの基本的な目的を達成するためのものである。米国内だけの局面で考えれば、通常の企業、営利団体、個人は受取利息に課税されることから、関連者の非課税団体(Tax Exempt Organization)からの借入金に対する支払利息が問題となる。

*なぜ日本の親会社への支払利息が問題になるか?

しかし、Earnings Stripping Rule制定の目的はそのような非課税団体からの借入金にあるのではなく、外国企業、制定当時は特に日本企業による親子間ローンに対する支払利息をターゲットとしたものである。法律として制定されたのは1989年だ。当時は日本企業が米国の全てを買収してしまうのではないかという懸念が強く表明されていた時代であり、1990年代前半の移転価格規則の強化と並び、Earnings Stripping Ruleも主に日本企業の米国投資を念頭に制定されたと言っても過言ではない。それ程、日本企業は米国産業にとって脅威とされていたのである。福田首相が訪米してもニュースにもならない今日となっては個人的には「懐かしい」時代である。

米国企業が外国企業に支払う利息に対する受けて側の米国税金は「源泉税」である。すなわち、米国企業が利息を支払う際に米国の内国規定である30%の源泉税を全額支払っていれば「利息の受け手は米国でフルに課税されている」ことになり、その利息は非適格ではない。しかし、受け手が日本企業の場合には日米租税条約で源泉税率が通常10%に低減されることから、支払利息は通常の「1/3」の税率のみで課税されていることとなる。ここが問題とされ、そのような支払利息は「1/3のみが適格」であり、逆に言えば「2/3は非適格」ということになる。

また、1993年の税法改訂で例え米国の銀行からの借入でも、保証が差し入れられていると、保証人が関連者で非居住者、外国法人、非課税主体の場合には、米国銀行借入に対する支払利息も「非適格」となってしまう。例えば、日本の親会社が米国の銀行に保証を差し入れ、その保証に基づいて現地法人が銀行借入をするようなケースは多数見受けられるが、その場合には、銀行への支払利息が非適格となる。さらに、本当に日本の親会社に利息を支払っているケースと異なり、ナント2/3ではなく「全額」が非適格となると規定される。極めて一方的であるがもう10年以上も定着している規定である。

*超過支払利息とは

上述の通り、否認(繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」である。超過支払利息の算定は、米国法人が経済的に考えて本来であれば負担が困難であろうと思われる金額を機械的に判断するための手法である。まず、米国現地法人の認識する支払利息(適格、非適格の合計)から受取利息を差し引いたネット支払利息金額を算定する。この金額がゼロまたはマイナス(すなわち受取利息の方が支払利息よりも高い)となる場合にはEarnings Stripping Ruleの適用はない。

次に、通常、発生ベースで算定されている課税所得に対して、減価償却を戻し、売掛金、借入金等の期首、期末残高を調整し、また上のネット支払利息を加算し「現金ベースの利息前課税所得」を算定する。これを「調整課税所得」と呼ぶ。この調整課税所得は繰越欠損金を適用する前の単年ベースの算定となる。ネット支払利息が調整課税所得の50%を超えている場合、その超過金額が「超過支払利息」となる。

否認(繰延)の対象となるのは「非適格支払利息」と「超過支払利息」のいずれか「低い方」であることから、例え非適格支払利息がある場合でも、多額の現金ベース課税所得がある場合には、超過支払利息が発生することがなく、結果としてEarnings Stripping Ruleの適用がないことになる。調整課税所得が少なく、損金算入することができなかった非適格支払利息は将来の年度に繰り延べられ、将来の年度に別途発生する非適格支払利子に加算されていく。この繰延に限定期間はない。また逆に調整課税所得(50%)が沢山あり、ネット支払所得を上回る年度があると、その超過分は将来の調整課税所得(50%)に加えることができる。こちらの繰延は3年が限度である。

*今回の財務省報告書

Earnings Stripping Ruleに係る説明が長くなったので、報告書の内容は次のポスティングとする。

Monday, November 26, 2007

南極大陸とアメリカの税金

*注目を集める南極大陸

南極大陸で観光船「エクスプロアラー」が沈没したというニュースをきっかけに南極大陸がすっかり観光地化されていることを知った。南極大陸というと特別な探検隊のみが行くところだと個人的にはすっかり勘違いしていたが、何年もの間「観光船」に乗った環境客が大勢南極大陸に押しかけていたらしい。今年の春から夏にかけて南極大陸を訪れた観光客の数は35,000人にも上るそうだ。

南極大陸と言えば世界の「六大陸の一つ」であるが、1961年に「南極条約」が発効して以降どこの国の領土でもない。ほとんどが氷でできており、地球温暖化に伴う現象が顕著に観察されることから今後も目を離すことができない地域であり、今後も各国からの訪問者が絶えないであろう。となると米国市民、または居住者が長期に南極大陸で勤務するような機会も増えることが予想される。

*米国市民・居住者の海外勤務

米国では、米国市民、居住者は所得の源泉地に係らず全ての所得に課税されるというのが原則である。米国外源泉の所得に課税されるため、所得の源泉地でも課税されるケースでは潜在的に「二重課税」が発生する。二重課税を排除、軽減する措置として代表的なものが「海外勤労所得の非課税規定」および「外国税額控除」である。

海外勤労所得の非課税規定に関しては2007年4月22日の「グリーンカードとアメリカの税金」というポスティングで触れているが、長期に米国外で働くことによって得られる「勤労所得(給与、賞与等の報酬、勤労を基とする自営業収入)」を年間上限額$85,700(2007年ベース)まで非課税とすることができるというものだ。これは税法の「Sec.911」に規定される非課税措置であることから一般に「Sec.911非課税規定」と知られている。このSec.911非課税規定は雇用の(自営業の場合には事業の)場所が米国外(正確には米国以外の国)にあり、かつ一定期間以上を米国外で過ごしているケースに適用される。ここでいう「一定期間」の判断は「330日テスト」と「居住地テスト」の二つのいずれかにより判断されるが、簡単に言うと少なくとも1年は米国外で過ごしている必要がある。なお、年間非課税枠である$85,700は物価スライド調整されるが、暦年一年間を通じて外国で過ごしていないようなケースでは(年の途中で引っ越ししたようなケース)、非課税枠が按分され減額される点注意が必要となる。

*南極大陸が勤務地の場合

ここ数ヶ月、南極大陸で長期に勤務した米国市民が、その期間に係る所得を「Sec.911非課税規定」に基づき非課税としようとしてIRSと訴訟になるケースが報道されている。どのケースも「Summary Judgment(正式事実審理を行わずに下される判決)」でIRSが勝っている。Summary Judgmentというのは事実関係を一方に最も有利なものと解釈してもその者に法的に勝ち目のない場合、または事実関係に争いがなく法的な検討のみで結果が出るケースに適用される。ここでは、納税者が南極大陸で長期に勤務していたという事実は争点ではなく、そのような勤務があった場合に法的にSec. 911非課税規定が適用できるのかどうかが争点であったためにSummary Judgmentとなっている。

*南極大陸はどこの国家主権にも属さない点が致命的に

判決によると、Sec. 911非課税規定はその法律が「Foreign Country」での勤務に対するものと規定されていることから、どこの国の主権にも属さない南極大陸での勤務に適用できるものではないとされている。条文に「Country」と記されている限り裁判所としては異なる判断はできないであろう。また、ポリシー的に考えても、そもそも南極大陸がどこの国にも属さないということは、南極大陸で別途所得が課税されるようなケースは想定されず、二重課税のリスクはない。したがって敢えて条文を拡大解釈してSec. 911非課税規定を南極大陸に対して適用する理由もない。

*国家主権に属さない地域での活動には注意

これらの判決結果から、南極大陸以外にも「国家主権」に属さない地域での長期勤務に対してはSec. 911非課税規定が適用できないことが分る。公海、宇宙、月面等での活動には要注意ということになる。

Saturday, November 17, 2007

ヤンキースのジターはNYには住んでいない?

Derek Jeter(ジター)と言えばヤンキースのショートストッパー、MLBを代表する選手であり日本でも知らない人はいないくらいであろう。そんなジターがNY州およびマンハッタンの属するNew York City(NYC)から多額の税金追徴を請求されているというニュースがあちこちのメディアで報道されている。

*ジターの居住地はNY州か?

追徴を請求されているといっても年収を過少申告しているような悪質なケースではない。争点はジターは税務上、NYCの居住者(NYCの居住であれば当然NY州の居住者となる)となるかどうかという微妙な事実関係の認定である。ジター自身は「フロリダの居住者である」という主張をしており、NY州には「非居住者」としての税金を納めている。もちろん、税務上の居住地の決定はジター自身が熟考して決めたというよりも彼を取り巻く弁護士、会計士等がそのような申告方法をアドバイスした考えるべきであろう。

*なぜ居住地の決定が大切か?

どのような税金の取り扱いを決定する上でも、まず納税者がどこの居住者となるかを判断することが極めて重要である。これはジターのケースに見られるような州の税金問題に係らず、国税でも同様だ。居住地の定義に万能なものはないため、居住者となるかどうかは各々の国、州、市等の法律の規定に照らし合わせて決定される。規定がまちまちなため、二つ以上の国、州で居住者となるケースも十分にあり得る。その場合には国であれば租税条約、外国税額控除、州であれば他州に支払った税額の控除、等を通じて二重課税が軽減されるような仕組みがある。

一旦居住者となるとその間に受け取る所得は全てその地で課税されるというのが原則ルールである。一方、非居住者となる場合には、その地で役務提供した等、その地が「源泉地」となる所得だけに課税されるのが原則である。したがって、ジターが自分の主張通りNY州の非居住者となる場合には、NY州を源泉とする所得、すなわち、ジターの年棒のうち、NY州での試合となるヤンキースタジアムとかシェイスタジアムでの試合に見合う部分のみがNY州で課税対象となる。

一方、もしジターがNY州の居住者であると取り扱われる場合には所得の源泉地には関係なく、すなわち年棒全額にNY州で課税される。もちろん遠征で他の州でも試合をしていることから、他の州には各々の地での試合に見合う部分の税金を支払うことがある。NY州が居住地となる場合には、他州での税金は居住地となるNY州の税額から差し引いて相殺するのが一般的な取り扱いとなる。

このように、他州で支払う税額がきちんとクレジットされることから、もし仮に全州が同じ税率で所得に課税するのであれば、どこを居住地に選んでも合計の税負担は余り変わらない。しかし現実には州の税法はまちまちだ。例えばジターが居住していると主張しているフロリダには個人所得税という制度そのものが存在しない。ネバダ、テキサス、テネシー等も基本的に同様である。ジターが州の所得税がないフロリダを居住地としているのはもちろん偶然ではない。米国の多くのスポーツ選手、金持ち事業主等が同じように、フロリダに本拠(と本人は主張する)となる家屋を構え、実際の試合、ビジネス等はNY州、CA州等への「出張」ベースで行っている。

*NY州の居住者かどうかの判断

上述の通り、各国、州、市で居住者となるかどうかはその地の法律を検討する必要がある。NY州の居住者の規定に基づくと、二つのシナリオのうちどちらかを満たすと居住者となる。他の州でも同様の考え方が規定されている例は結構多い。

まず、「Domicile」がNY州にある場合。このDomicileというのは中々日本語でコンセプトを説明するのが難しいが、米国の法律、特に民事訴訟手続き等では必ず検討される重要なコンセプトである。Domicileは単なる物理的な居住場所を示すのではなく、どこにフラフラと引っ越していたとしても最終的には戻ってくるという意図を持つ場所というものである。本人の意図に基づくため、かなり主観的なコンセプトではあるが、状況証拠から、他の地に永遠に引っ越してしまったのか、いつかは戻ってくる準備があるのかどうか、を判断することになる。

DomicileがNY州にあると特定の例外規定を満たさない限りNY州の「居住者」となる。例外は1)NY州に居住する場所(Permanent Place of Abode)を持っておらず、2)年間を通じて他州(または外国)に居住する場所をもっており、3)年間にNY州に30日以下の滞在しかない、場合に認められる。すなわち、この3つの条件を満たせばDomicileがNY州にあると認定されたとしてもNY州の「非居住者」となる。もう一つ例外があり、それは家族で海外に滞在していてNY州には一年半のうち90日以下した滞在しない場合に認めらというものだ。こちらの例外は計算が若干複雑なので関心がある方はNY州の申告書説明を読んで適用が可能かどうか検討する必要がある。

DomicileがNY州にない場合でもNY州に年間11ヶ月以上居住する場所があり、年間に184日以上NY州に滞在しているとやはり居住者となる。

*ジターはどの規定で居住者となり得るか?

ジターのケースに関して上のどちらの理論で州が攻めているのかは明確ではない。まず検討されるのはNY州がジターのDomicileと認定することができるかどうかであろう。DomicileがNY州であると判断される場合、ジターがNY州に年間30日を超えて滞在していたのは間違いないと思われるため、居住の場所の有無に係らず、例外規定を満たすことができずNY州の居住者となる。

一方、DomicileはNY州ではない(フロリダ州?)となる場合には、ジターがNY州に「居住する場所(Permanent Place of Abode)」を持っているかどうかも焦点となる。ジターがマンハッタンにアパート(Trump Tower)を持っているのは周知の事実であるが、これが果たして「Permanent Place of Abode」に当たるかという点だ。また、DomicileがNY州にない場合には年間にNY州に184日滞在したかどうかも重要だ。Domicileありのケースでは30日が基準となる。試合の数だけみても30日は楽に満たしているはずだ。一方、184日となると微妙なところにみえる。国間の移動と異なりパスポートの記録もないことから飛行機の旅程、ホテル、クレジットカードの使用場所等を基に判断することになる可能性もある。

*大試合に強いはず?

ジターのパワーは大舞台での勝負強さと言われているがNY州税務当局相手にダウンスイング弾を放つことができるか今後に注目される。

Tuesday, November 13, 2007

米国適格再編と新しい事業継続規則(3)

前回および前々回のポスティングで触れた通り、米国財務省は2007年10月25日に米国の適格企業再編を規定するSec.368に係る最終施行規則を発表した。前回は「再編後の資産・株式譲渡」のうち「Distribution(分配)」によるものに係る適格再編への影響をカバーしたが今回は分配以外の手法で行われる譲渡に関して触れる。

*再編後の資産・株式譲渡

前回のポスティングで説明を加えたが、条文の規定を満たしている再編案に関して、再編後に取得した株式または資産が譲渡される場合には、そのような再編後の譲渡が「適格再編」であるかどうかの決定に与える影響を検討する必要がある。

*分配以外の資産・株式譲渡

最終規則が発表される以前の規則案では、適格再編となる取引に基づいて取得された資産・株式が「適格グループ」内の事業主体に譲渡される場合には、適格再編の位置づけに問題はないとされていた。適格グループの定義は前々回のポスティングで触れた事業継続要件で規定されるものに等しい。

規則案ではこの目的での譲渡の対象となる資産・株式には「買収企業(買収する側)」の株式は含まれないという例外が規定されていた。ここで言う買収企業は合併の場合の存続法人を含む。すなわち、買収企業の株式の譲渡は潜在的に適格再編を適格ではなくする可能性があるということであった。

規則案に対して、買収企業の株式の譲渡に関しては別途「持分継続」を規定した財務省規則であるSec.1.368-1(e)にて十分規定されているので、敢えて今回の規則で制限を設けなくてもよいというコメントが企業側から寄せられ、財務省はこれを認める形で規則を最終化している。すなわち、今回の最終規則では、適格再編となる取引に基づいて取得された資産・株式が「適格グループ」内の事業主体に譲渡される場合には、適格再編の位置づけに問題はないという考え方を継承し、更に譲渡対象となる資産には買収企業の株式が含まれるものとされた。ただし、持分継続を含む他の適格要件を満たす必要があることは言うまでもない。

*パススルー事業主体に対する株式譲渡

今回の最終規則が発表される以前は、適格再編により取得したターゲット(T)企業の株式をグループ内のパートナシップのようなパススルー事業主体に譲渡すると問題が生じるリスクがあった。今回の最終規則により、パススルー事業主体が実質的に適格グループ法人と同様の位置づけにあると認められる場合には、そのような譲渡が認められる。

2007年10月29日のポスティングで触れたが、事業継承条件を検討する上で、適格グループ内法人がパススルー事象主体に対してSec.368(c) Controlに準じる持分を持つ場合には、そのパススルー事業主体が所有する法人株式もSec.368(c) Controlの有無を判断する目的で数えても良いとされる。同様の考え方であるが、Sec.368(c)に準じる持分を適格グループ法人に所有されるパススルー事業主体はパススルー事業主体自体が適格グループ法人に準じるという取り扱いを受けることができる。

したがって、パススルー事業主体にT株式が譲渡されたとしても、パススルー事業主体が適格グループ法人同様に取り扱われることができる主体でれば、そのような譲渡をもって再編が非適格とされることはない。

Thursday, November 8, 2007

FIN 48の非上場企業への適用ついに延期

非上場企業に対するFIN 48の適用開始が延期されるの可能性があるという点に関しては2007年10月7日のポスティング(http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/10/fin-48.html)で詳細を解説したが、この程FASBはついに延期を認めるという結論を出した。

*非上場企業へのFIN 48の適用開始は「一年延期」

現時点でのFIN 48の適用開始は「上場企業」に関しては今までと変わらず2006年12月15日以降に開始する決算期からとなるが、「非上場企業」に関してはこれが一年延期され「2007年12月15日以降に開始する決算期」となる。

*最終的には全会一致で延期決定

10月7日のポスティングにあるとおり、FIN 48の非上場企業に対する適用延期のリクエストはPrivate Company Financial Reporting Committee(PCFRC)から出されていたものだ。過去にもFIN 48の適用開始の延期は検討されたことがあったが認められなかったため、今回も最終的な方向はグレーであったが11月7日に行われたFASBのミーティングにて延期が決定された。CCH等の報道によるとFASBのメンバーは当初は延期の対象となる事業主体を非上場企業全てではなくパススルー主体に限定しようとする動きがあったようである。これはPCFRCの適用開始延期リクエストの大きな理由のひとつがパススルー事業に対するFIN 48の取り扱いが明確ではないという点に起因する。しかし最終的には延期を全ての非上場企業に適用するということで合意をみた。

*日本企業への影響

10月7日にも触れた通り、日本企業の米国現地法人の多くはSECに登録されていないため「非上場」と取り扱われるはずである。また、6ヶ月の半期決算で既にFIN 48を導入している場合には適用開始の延期が認められないというコメントもある。これらの点に関しては今後FASBが正式に延期を発表するStaff Paper等にて明確になるであろう。

*適用準備作業を既に開始しているケース

FIN 48はその適用開始が一年延期になるということで、決してFIN 48そのものがなくなった訳ではないので既に適用開始の準備を進めている場合でも、その作業が最終的に無駄となることはない。いずれにしても提供開始年度においては過去のFIN 48負債を累計で算定する必要がある。

しかし、2007年末前後で税務調査が終了する、または時効が成立するようなケースでは、その年に係る作業の必要性有無は適用が一年遅れることにより大きな影響を受ける可能性がある。

Saturday, November 3, 2007

米国適格再編と新しい事業継承規則(2)

前回のポスティングで触れた通り、米国財務省は2007年10月25日に米国の適格企業再編を規定するSec.368に係る最終施行規則を発表した。前回はT事業がPグループ内のどのような事業主体の下で継承されていれば「事業継続」条件をクリアすることができるかに係る新規則の概要を説明した。今回は「再編後の資産・株式譲渡」の適格再編への影響を中心に財務省規則をカバーしてみたい。

*条文規定の準拠と適格再編

米国の適格再編はSec.368にてタイプAからGまで7通り規定され、またタイプによっては追加でいくつかの変形体が規定されいるものもある。例えばタイプAは通常は二社間合併であるが、その変形として「Forward三角合併」「Reverse三角合併」がある。

再編・買収を検討する際には、取引形態が税務上どのタイプに当てはまるかの見極めが極めて重要だ。どのタイプに区分されるかにより、条文上の条件が大きく異なるからだ。特に株式と現金をミックスした対価を利用して買収を実行するようなケースではどのタイプに属するかにより、現金を使用できるのかどうかに係る許容度がかなり異なる。また、一つの再編案が必ずしもひとつの再編タイプに納まるとは限らない。州法上の取り扱いは一つでも税務上は二つ以上のタイプに当てはまるケースも珍しくない。

再編が条文の規定に準拠しないと適格とならないことは言うまでもないが、条文の規定への準拠が全てではない。財務省規則、判例等で蓄積されている適格再編一般に適用される考え方に準拠していないと例え条文の規定には文字通り準拠しているような再編でも適格とならないことがある。すなわち条文規定への準拠は「必要条件」ではあるが「十分条件」ではないということだ。

*再編後の資産・株式譲渡

例えば、条文の規定を満たしている再編案でも、再編後に取得した株式または資産が譲渡される場合には、そのような再編後の譲渡の影響を考慮した後でも「適格再編」として適切な取引であるかどうかを検討する必要がある。なお、ここで言う再編後の譲渡とは基本的に再編と一体のプランに基づいて実行されるもの、また状況から再編時にプランされていたと思われる譲渡である。したがって、再編実行後何年も経ってから行われる再編プランとは関係なく、その後の新たな再編として実行されるものは規則の対象ではない。

この程発表された最終財務省規則によると、他の条件を満たす適格再編に関しては、例え再編後に取得した株式または資産が譲渡されている場合でも、事業継続条件を満たしている(前回のポスティングの考え方で)、かつ譲渡が「財務省規則に規定される分配(Distribution)」または「財務省規則に規定される他の譲渡方法」に基づいて行われている場合には、適格再編としての取り扱いに問題がないとされる。

*分配による再編後の資産・株式譲渡

再編により取得された資産または株式が再編後に分配される場合、分配の対象となる資産の量から判断して(取得された資産、株式の全量と比較して)、資産、株式を再編により取得した側の法人が税務上「清算」されたと取り扱われるに等しい場合を除き、再編の適格性には影響を与えないと規定される。この決定の目的では、資産、株式を取得した法人が再編以前に所有していた資産は検討に含めない(Reverse三角合併の場合は、合併により消滅するMerger Subの資産は検討に含めない)。したがって、資産、株式の分配が実質税務上の「清算」に当たるかどうかの検討は仮に再編で取得された資産、株式が法人の全ての資産であったらどうかという検討となる。

再編により取得された株式を再編後に分配する場合に、上の考え方が適用できるのは「再編により取得された株式」の一部は取得した法人の手に残る場合である。

*債務の引き受け

再編後の資産の分配の際に、資産を受け取ると同時に債務の引き受けをするケースもあるものと思われるが、他の条件を満たしている限り、債務の引き受けという事実関係をもって上の分配の考え方が変わることはない。

再編の際に最初から資産取得する法人に加えて第三者がターゲットTの負債を一部直接引き受けるようなケースでは条文規程への準拠に影響を与えることもある。例えば、Pが子会社Sを利用して、Tの資産を取得するとする。対価はPの株式を利用するため、形態としては三角タイプC再編(Triangular C Reorg)となる。Tの債務をSばかりでなく、部分的にPが直接引き受けるようなケースでは、タイプC再編の対価規定である「100%議決権付き株式」を満たさないリスクがある。すなわち、SのみがTの債務を引き受けている場合には「債務引き受けは対価が議決権株式のみであったかどうかの決定に影響を与えない」という例外規定の使用が可能であるが、Pによる債務引き受けに関してはこの例外規定の適用がなく、結果としてタイプCの要件を満たさないというリスクだ。

このような直接取得法人以外の法人が債務を引き受ける局面と比べると再編後の分配に伴う債務の引き受けに対しては柔軟な取り扱いが可能だ。

*規則草案の「Sub All」規定は採択されず

上の再編後の資産、株式譲渡の分配の影響を決定する際に、規則草案では分配により誰か一人でも取得された資産、株式の「Sub All (Substantially All-ほとんど全て)」を受け取る場合には適格再編とならないと規定されていた。この点に関しては判例等を見ると何をもって「Sub All」なのかという点に係る判断が困難な場合もあり、企業側から予見可能性に欠ける基準であるというコメントが財務省に提出されていた。財務省はこの点を「もっともな指摘」であると位置づけ、この目的では「Sub All」基準は最終規則に採択されず、代わりに「清算に準じるかどうか」という基準を用いている。

*分配以外の譲渡

上述の通り、再編後の譲渡は「財務省規則に規定される分配(Distribution)」または「財務省規則に規定される他の譲渡方法」に基づいて行われている必要がある。分配に関しては上述の通りであるが「その他の譲渡方法」に関しては長くなるので次回のポスティングでまとめる。