Monday, November 26, 2007

南極大陸とアメリカの税金

*注目を集める南極大陸

南極大陸で観光船「エクスプロアラー」が沈没したというニュースをきっかけに南極大陸がすっかり観光地化されていることを知った。南極大陸というと特別な探検隊のみが行くところだと個人的にはすっかり勘違いしていたが、何年もの間「観光船」に乗った環境客が大勢南極大陸に押しかけていたらしい。今年の春から夏にかけて南極大陸を訪れた観光客の数は35,000人にも上るそうだ。

南極大陸と言えば世界の「六大陸の一つ」であるが、1961年に「南極条約」が発効して以降どこの国の領土でもない。ほとんどが氷でできており、地球温暖化に伴う現象が顕著に観察されることから今後も目を離すことができない地域であり、今後も各国からの訪問者が絶えないであろう。となると米国市民、または居住者が長期に南極大陸で勤務するような機会も増えることが予想される。

*米国市民・居住者の海外勤務

米国では、米国市民、居住者は所得の源泉地に係らず全ての所得に課税されるというのが原則である。米国外源泉の所得に課税されるため、所得の源泉地でも課税されるケースでは潜在的に「二重課税」が発生する。二重課税を排除、軽減する措置として代表的なものが「海外勤労所得の非課税規定」および「外国税額控除」である。

海外勤労所得の非課税規定に関しては2007年4月22日の「グリーンカードとアメリカの税金」というポスティングで触れているが、長期に米国外で働くことによって得られる「勤労所得(給与、賞与等の報酬、勤労を基とする自営業収入)」を年間上限額$85,700(2007年ベース)まで非課税とすることができるというものだ。これは税法の「Sec.911」に規定される非課税措置であることから一般に「Sec.911非課税規定」と知られている。このSec.911非課税規定は雇用の(自営業の場合には事業の)場所が米国外(正確には米国以外の国)にあり、かつ一定期間以上を米国外で過ごしているケースに適用される。ここでいう「一定期間」の判断は「330日テスト」と「居住地テスト」の二つのいずれかにより判断されるが、簡単に言うと少なくとも1年は米国外で過ごしている必要がある。なお、年間非課税枠である$85,700は物価スライド調整されるが、暦年一年間を通じて外国で過ごしていないようなケースでは(年の途中で引っ越ししたようなケース)、非課税枠が按分され減額される点注意が必要となる。

*南極大陸が勤務地の場合

ここ数ヶ月、南極大陸で長期に勤務した米国市民が、その期間に係る所得を「Sec.911非課税規定」に基づき非課税としようとしてIRSと訴訟になるケースが報道されている。どのケースも「Summary Judgment(正式事実審理を行わずに下される判決)」でIRSが勝っている。Summary Judgmentというのは事実関係を一方に最も有利なものと解釈してもその者に法的に勝ち目のない場合、または事実関係に争いがなく法的な検討のみで結果が出るケースに適用される。ここでは、納税者が南極大陸で長期に勤務していたという事実は争点ではなく、そのような勤務があった場合に法的にSec. 911非課税規定が適用できるのかどうかが争点であったためにSummary Judgmentとなっている。

*南極大陸はどこの国家主権にも属さない点が致命的に

判決によると、Sec. 911非課税規定はその法律が「Foreign Country」での勤務に対するものと規定されていることから、どこの国の主権にも属さない南極大陸での勤務に適用できるものではないとされている。条文に「Country」と記されている限り裁判所としては異なる判断はできないであろう。また、ポリシー的に考えても、そもそも南極大陸がどこの国にも属さないということは、南極大陸で別途所得が課税されるようなケースは想定されず、二重課税のリスクはない。したがって敢えて条文を拡大解釈してSec. 911非課税規定を南極大陸に対して適用する理由もない。

*国家主権に属さない地域での活動には注意

これらの判決結果から、南極大陸以外にも「国家主権」に属さない地域での長期勤務に対してはSec. 911非課税規定が適用できないことが分る。公海、宇宙、月面等での活動には要注意ということになる。