Saturday, November 3, 2007

米国適格再編と新しい事業継承規則(2)

前回のポスティングで触れた通り、米国財務省は2007年10月25日に米国の適格企業再編を規定するSec.368に係る最終施行規則を発表した。前回はT事業がPグループ内のどのような事業主体の下で継承されていれば「事業継続」条件をクリアすることができるかに係る新規則の概要を説明した。今回は「再編後の資産・株式譲渡」の適格再編への影響を中心に財務省規則をカバーしてみたい。

*条文規定の準拠と適格再編

米国の適格再編はSec.368にてタイプAからGまで7通り規定され、またタイプによっては追加でいくつかの変形体が規定されいるものもある。例えばタイプAは通常は二社間合併であるが、その変形として「Forward三角合併」「Reverse三角合併」がある。

再編・買収を検討する際には、取引形態が税務上どのタイプに当てはまるかの見極めが極めて重要だ。どのタイプに区分されるかにより、条文上の条件が大きく異なるからだ。特に株式と現金をミックスした対価を利用して買収を実行するようなケースではどのタイプに属するかにより、現金を使用できるのかどうかに係る許容度がかなり異なる。また、一つの再編案が必ずしもひとつの再編タイプに納まるとは限らない。州法上の取り扱いは一つでも税務上は二つ以上のタイプに当てはまるケースも珍しくない。

再編が条文の規定に準拠しないと適格とならないことは言うまでもないが、条文の規定への準拠が全てではない。財務省規則、判例等で蓄積されている適格再編一般に適用される考え方に準拠していないと例え条文の規定には文字通り準拠しているような再編でも適格とならないことがある。すなわち条文規定への準拠は「必要条件」ではあるが「十分条件」ではないということだ。

*再編後の資産・株式譲渡

例えば、条文の規定を満たしている再編案でも、再編後に取得した株式または資産が譲渡される場合には、そのような再編後の譲渡の影響を考慮した後でも「適格再編」として適切な取引であるかどうかを検討する必要がある。なお、ここで言う再編後の譲渡とは基本的に再編と一体のプランに基づいて実行されるもの、また状況から再編時にプランされていたと思われる譲渡である。したがって、再編実行後何年も経ってから行われる再編プランとは関係なく、その後の新たな再編として実行されるものは規則の対象ではない。

この程発表された最終財務省規則によると、他の条件を満たす適格再編に関しては、例え再編後に取得した株式または資産が譲渡されている場合でも、事業継続条件を満たしている(前回のポスティングの考え方で)、かつ譲渡が「財務省規則に規定される分配(Distribution)」または「財務省規則に規定される他の譲渡方法」に基づいて行われている場合には、適格再編としての取り扱いに問題がないとされる。

*分配による再編後の資産・株式譲渡

再編により取得された資産または株式が再編後に分配される場合、分配の対象となる資産の量から判断して(取得された資産、株式の全量と比較して)、資産、株式を再編により取得した側の法人が税務上「清算」されたと取り扱われるに等しい場合を除き、再編の適格性には影響を与えないと規定される。この決定の目的では、資産、株式を取得した法人が再編以前に所有していた資産は検討に含めない(Reverse三角合併の場合は、合併により消滅するMerger Subの資産は検討に含めない)。したがって、資産、株式の分配が実質税務上の「清算」に当たるかどうかの検討は仮に再編で取得された資産、株式が法人の全ての資産であったらどうかという検討となる。

再編により取得された株式を再編後に分配する場合に、上の考え方が適用できるのは「再編により取得された株式」の一部は取得した法人の手に残る場合である。

*債務の引き受け

再編後の資産の分配の際に、資産を受け取ると同時に債務の引き受けをするケースもあるものと思われるが、他の条件を満たしている限り、債務の引き受けという事実関係をもって上の分配の考え方が変わることはない。

再編の際に最初から資産取得する法人に加えて第三者がターゲットTの負債を一部直接引き受けるようなケースでは条文規程への準拠に影響を与えることもある。例えば、Pが子会社Sを利用して、Tの資産を取得するとする。対価はPの株式を利用するため、形態としては三角タイプC再編(Triangular C Reorg)となる。Tの債務をSばかりでなく、部分的にPが直接引き受けるようなケースでは、タイプC再編の対価規定である「100%議決権付き株式」を満たさないリスクがある。すなわち、SのみがTの債務を引き受けている場合には「債務引き受けは対価が議決権株式のみであったかどうかの決定に影響を与えない」という例外規定の使用が可能であるが、Pによる債務引き受けに関してはこの例外規定の適用がなく、結果としてタイプCの要件を満たさないというリスクだ。

このような直接取得法人以外の法人が債務を引き受ける局面と比べると再編後の分配に伴う債務の引き受けに対しては柔軟な取り扱いが可能だ。

*規則草案の「Sub All」規定は採択されず

上の再編後の資産、株式譲渡の分配の影響を決定する際に、規則草案では分配により誰か一人でも取得された資産、株式の「Sub All (Substantially All-ほとんど全て)」を受け取る場合には適格再編とならないと規定されていた。この点に関しては判例等を見ると何をもって「Sub All」なのかという点に係る判断が困難な場合もあり、企業側から予見可能性に欠ける基準であるというコメントが財務省に提出されていた。財務省はこの点を「もっともな指摘」であると位置づけ、この目的では「Sub All」基準は最終規則に採択されず、代わりに「清算に準じるかどうか」という基準を用いている。

*分配以外の譲渡

上述の通り、再編後の譲渡は「財務省規則に規定される分配(Distribution)」または「財務省規則に規定される他の譲渡方法」に基づいて行われている必要がある。分配に関しては上述の通りであるが「その他の譲渡方法」に関しては長くなるので次回のポスティングでまとめる。