Saturday, December 31, 2016

米国タックス行く年・来る年(8)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回は下院の米国税法改正案であるBlueprintのタイトルである「A Better Way」に焦点を当てて(当て過ぎて?)みた。今12月30日も未明で明日の31日は大晦日。Times Squareでは例の大きなボールがビルの上で落ちる日だ。周辺は凄まじい混雑とSecurityでごった返すので当然オフィスも立入禁止。例年であればMarina del Reyに避難するところだけど、今年はチョッと事情がありNYCで新年を迎えることとなった。で、大晦日直前というのに、財務省はオバマ政権花火大会のクライマックスを未だ続けてくれていて、この期に及んでFATCAの財務省規則を公表してしまった。政権の余命がなく焦ってレガシーを残したい気は分かるけど、悪法のひとつとしてトランプ政権による廃案リストに載っているFATCAの規則を12月30日に出してくるとはこちらも気合十分。

FATCAとか源泉徴収規則に脱線せずにここは予定通り「The Blueprint」。ちなみに前回あれだけ冠詞で盛り上がったのでこのポスティングからはBlueprintにきちんと「The」を付けることにしました。

The Blueprintのまず冒頭には改正案のテーマが記載されている。既存の税法の枠の範囲内であれこれ検討しても選択は限られているので、米国の成長のためにはもっと大胆に行きましょうと宣言されている。すなわち、そんなセコイ考えでは、結局何も起こらない、増税(民主党主導だとこっち)して更にハードワーク、貯蓄、そして米国の最大の武器である企業家精神からペナルティー的に税という名で資産を没収しやる気をなくさせる、または従来通り税法をチョコチョコといじってますますアメリカンドリームを陰らせる(「while the sun sinks ever lower on the age of American excellence」となかなか詩的)、という結末しかないということだ。

そこでThe Blueprintでは、そのような場当たり的な対応を否定し、大胆かつ成長を後押しする全く新しいアプローチを提唱する、となる。アプローチの検討過程での最重要ポイントとして「この規定は成長を後押しするか?」「他の規定で歳入確保してまで織り込む価値のある規定か?」という二つを念頭においたとしている。ここの2つ目のポイントはトランプ政権とは若干温度差があり、The Blueprintは基本的に国家財政へのインパクトは中立としたい(少なくとも理論的にそう言える程度にしたい)という思惑がある。一方のトランプ案はインフラ投資を中心としたかなりの財政出動を伴うものなので、保守系シンクタンク等の見積りでも国家財政へのネガティブインパクトはかなり大きくなる。この財政への影響は将来の成長をどう見込むか、という点で大きく見積りがことなるが、The Blueprintでもここはしっかりと「この改正から期待される経済成長から歳入増を加味して・・」とSupply-side economicsの立場を取る。レーガン再来を夢見る共和党案だからそれはそうだろう。将来の経済成長を加味して国家財政への影響を見積る手法は「Dynamic Scoring」として知られ、減税とか規制撤廃の経済効果を加味しない「Static Scoring」の対語となる。Dynamic Scoringの精度は意見の割れるところだろう。

The Blueprintには3つの目的、すなわち雇用を促進し国民全員に機会を提供すること、とんでもなく複雑になって修復不能に近い(「Broken」)税法をシンプルかつフェアにすること、機能不全の(こちらも英語では「Broken」)IRSを国民のための行政機関に生まれ変わらせること、があるとし、更にこれは議論の出発点だとして弾力性を持たせている。

構成としては次に、このような目的を具体化するために下院歳入委員会の会長を中心にタスクフォースを結成し、なぜこの時点でこのようなイニシアチブが必要かを説明している。2016年というと米国の最後の抜本的税法改正となった1986年(レーガン政権)から30年記念となり、状況は当時と似ていて機は熟していると記載されている。ちなみに1986年には税法は26,000ページで済んでいたものが、現在では70,000ページに及んで制御不能になりつつある絵があり面白い。過少資本の最終規則だけで518ページだもんね。このトレンドは何とかしてもらわないと僕たちみないに年中税法と格闘している身でもとても付いていけない。1960年にはトップ20社のうち17社は米国に本社を置いていたが、今ではたった6社しかないとう現状を示し、その大きな原因は使い勝手の悪い税法にあるとしている。

このように抜本的改正の舞台を整えた上で、具体的な提唱に入っていく。

Friday, December 30, 2016

米国タックス行く年・来る年(7)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」

前回は下院の米国税法改正案であるBlueprintの中でも意表を突くアプローチで世間をあっと言わせている「国境調整(Border Adjustment)」を中心に触れた。従来では考えられない法人税の在り方に最初は「まさか・・」と思っていたけど、トランプ政権も下院案には歩み寄りを見せる傾向にあり、またトランプ政権の目指す製造業等の米国回帰の路線に一見合っているとも思われ、WTOのチャレンジ等の紆余曲折はあるかもしれないけど、もしかしたら思ったよりも実現の見込みは高いかもしれない。

日本企業も、仕入れのうち輸入が占める金額、売上のうち輸出が占める金額をザックリとはじき出し、ネットした金額に15%または20%を掛けてインパクトの概算を計り知っておくのがいい。国境調整の世界では輸出と輸入の金額は課税所得に大きな影響を持つが、税率も変わるので実際に最終的にどちらが得かは実際に自社の数字で試算してみるのがいいだろう。前々回触れたが、ネット支払利息は損金不算入となる、R&Dクレジットを除く各種恩典がなくなる、また設備投資等、土地を除く有形無形の資産取得が一括費用化できる、等の変数も加味してプロジェクションを進化させ、自社の弾性を試すことも必要だ。結果を見るのが恐ろしいケースもあるかもしれないけど、税率が低くなるので意外に「吉」と出るケースもあるかも。またテリトリアル化する国際課税の影響も大きいけど、こちらは米国MNCの方により大きなインパクトがあるだろう。

この国境調整、Trade Balanceに実際のところどんな影響が出るんだろうか。経済学者曰く、短期的には影響があるかもしれないけど、その影響は中長期的には為替で調整され、最終的には影響は排除されるそうだ。そうなんだ・・?って感じだけどマーケットが効率的に機能するのであればそんな感じなのかもね。

さて、順序は逆っぽいけど、ここらで国境調整を含む下院が気合を入れて策定したBlueprintをもう少し詳しく見てみたい。Blueprintの正式タイトルは「A Better Way」ってもので更に「Our Vision for a Confident America」という副題が付いている。下院歳入委員会の正式なサマリー等には更に「A Better Way for Tax Reform」とも書かれている。更に「Built for Growth」っていうバイクのハーレーに付いてそうな60年代っぽいロゴまであって気合十分。「Blueprint」って表現はタイトルページ等には一切なく、本文が始まるページに「このBlueprintでは・・・」みたいな形で登場してくるものだ。

ここでまず目に付くのは不定冠詞の「a」が多様されている点。日本語にない感覚なので「a」でも「the」でも又は何にも付いてなくてもあんまり気にされないこともあるけど、英語の表現上は不定冠詞「a」は強力な意味を持つ。「a」はもちろん「the」ではない。決まってるじゃんって思われるかもしれないけど、この2つの意味は全然違うので法律とか判例を読む際には常に冠詞を気にする必要がある。下院のBlueprintもあくまで「A Better Way」であり「The Better Way」ではない。これは文字通り解釈すると複数あり得るBetter Waysのうちのひとつの提案というようなニュアンスとなるのだろうか。一方で「Blueprint」は常に「the」で始まり「B」は大文字。この改正案は一つしかないのでそうなんだろう。「A Confident America」の部分も、Confidentという形容詞が付いているとは言え、固有名詞のはずのAmericaに敢えて「a」が付いているのも面白い。米国税法の改正案って局面で、大統領候補とかが歴史的にというか文学的にというか情緒的によく使う「America(単数)」って表現を「United States」の代わりに使ってるし。「Make America Great Again」っていうトランプ選挙活動のスローガンに呼応とういかシンクロさせたのかも。意味としては米州の中の確信に満ちた一つの国っていうこと?何か日本語になってない、って言うか原文の意味が伝わってこない。「Confident」っていう単語の選択は極めて興味深い。現状では自信を失っているのかしら、とでも思わせる表現だ。ここで言う「Confident」はアメリカがConfidentっていうよりも、米国市民が政府に信頼を寄せる的な意味と考える方がピンと来る感じ。トランプ政権だったら「Confident」の代わりに「Great」だろうか?Demi Lovatoだったら「Confidentで何が悪いの?」って言われそうだけど、こんなタイトルを適当に付けるはずもないので、そこに下院のメッセージが込められていると考えるべきなんだろう。

ちなみにこの冠詞っていうやつ、中学の頃から英語を勉強していても中々分かり難い(というか深く気にしてない?)という日本の人も多いと思うけど、究極に分かり難いのがバンド名。Beatlesはもちろん「The Beatles」でリンゴスターのドラムにもちゃんと「The」が入っている。Rolling Stonesだって「The Rolling Stones」だ。でも「Led Zeppelin」を間違っても「The Led Zeppelin」って言う人は居ないよね?そんなのバンドの当人たちが勝手に決めただけじゃん、って言う単純な話しかもしれないけど、人に聞いた話しでは複数、つまり最後に「s」が付くバンド名は当人たちも「the」を付けることが多く、周りも実際には付いてないバンド名にも「the」を付けて呼んでしまうことが多いそうだ。その訳は、複数の形を取るバンド名は、暗にそのバンドメンバーの1人1人が単数、すなわち「a」を意味すると取ることができ、全体では「the」となるそうだ。例えば、John Lennon、Paul McCartney、George Harrison、Ringo Starrは各々「A Beatle」で、4人全員集まると「The Beatles」になるという訳。厳格に適用できるルールではないかもしれないけど、経験則的にはなるほどって感じかもね。だって誰もJimmy Pageを「A」 Led Zeppelinって形容する人はいないもんね。バンドとしてのThe Eaglesのデビューアルバムのタイトルは「Eagles」だったり「たかが冠詞、されど冠詞」で奥は深い。

と、かなりどうでもいい話しになったけど、次回は「A Better Way」すなわち「The Blueprint」の続きをもう少し。

Thursday, December 29, 2016

米国タックス行く年・来る年(6)トランプ政権・下院共和党の税法改正案

前回からトランプ案と下院Blue Printの概要に触れているが、今回はその中でも物議をかもしてい下院Blueprintにある「Border Adjustable Tax(国境調整)」に関して。この国境調整はキャッシュフローベースの課税と並んで従来の課税アプローチと大きく異なることから注目を集めている。

国境調整はVATの世界ではお馴染みの仕組みで、通関のないサービスからどのように徴収するのか等の手続き的な問題はさておいて、理論的にはクロスボーダー取引の局面で仕向け地のみで課税するという比較的シンプルな考え方だ。すなわち、VAT的に言えば、輸出は輸出時点までの付加価値に課せられてるVATが還付されるので無税となり、輸入は輸入国側でフルに課税対象となる。それはそれでVATの世界では機能するんだろうけど、これを法人税にも適用してしまうというのはかなり新しい発想だ。

以前、2016年1月21日の「Inversion/インバージョン(プラスBEPS)(2)」でチラッと触れたけど、長期的なメガトレンド的に考えると、Digital Economy等BEPSでも取り組んでいるが、Global経済のあり方が変わるに連れて、そもそもグロス所得から経費を引いたネット所得に各国が国という地理的なボーダーに基づいて課税するという直接税的な法人税が時代遅れとなり、VAT的な間接税が取って代わり(米国でも連邦VATが登場するような状況になり得る?)、従来の法人税は徐々に姿を消していく可能性も十分にある。そうしたらアーニングス・ストリッピングとかBase Erosionも過去の手法となってしまうかも。10年後には意外にBEPSレポートなんて関係ない世界となってるかもしれない。そう考えると仕向け地ベースへの移行は合理的な方向と言えるけど、だったらいっそのこと、法人税全面的に撤廃して連邦売上税とかVATを導入してはと考える向きもあるかもしれないが、これは長年に亘り実現していない禁じ手となっている。

で、法人税に国境調整を適用するとどうなるか。国境を越えて米国に入る輸入のコストは一切損金算入とか売上原価にならず、逆に出て行く輸出にかかわる売上は課税所得とならないという単純だが凄い内容だ。例えば自動車メーカーが日本から完成車を輸入して米国で車を販売すると、輸入されたコストは$1もコスト計上できないので、売り上げ引く米国の一般管理販売費が課税所得となる。逆に米国で製造した車を輸出すると、課税所得となる売上はゼロとなるので、製造原価プラス米国の一般管理販売費がそのままNOLとなる。実はWTOでは所得税に国境調整を適用することを認めていないんだけど、下院Blue Print的には法人税をキャッシュフローベースとすることでWTOのチャレンジは克服できると考えているようだ。前回も触れたがキャッシュフローベースなので有形・無形の投資支出はその時点で全額損金算入、その代わりにネット支払利息の損金算入は撤廃される。

感心に値する斬新なアイディアだけど、国境調整が現実のものとなると勝者・敗者の明暗がくっきりとなる。少なくとも輸入に費やしたコスト分は輸出しないとBreakevenとならない算数となり、現状のビジネスモデルの大きな変更を余儀なくされるケースも多数あるだろう。当然GlobalのTrade Flowに大きな影響を与えるだろうけど、余りタックスとか政府の規制とかでビジネスモデルが決められる、または選択肢が狭められるというのはどうなんだろうか?政府というのは民間と比べるとどうしても官僚的で独創的な部分が少ないので、そんな政府はどこの国でも最小限のことだけをして税金を下げてPrivateセクターを活性化するという間接的な関わりが良く、余り事業の戦略策定的な部分に主体的に関与していくのは最終的には効率の悪いモデルとなりかねない。

国境調整は下院Blueprint案で提唱されているもので、トランプ案にはこのようなものはない。ではトランプ政権は国境調整をどのように受け止めているのか?まだ明確ではないが、米国に製造業の存在を食い止めようとする方向性には合っているように思われ、トランプ陣営から反対の声は聞かれない。トランプ政権が検討している10%の輸入関税に、更に法人税の国境調整を加味して、強力な「Made In USA」インセンティブを構築するかもしれないという前向きな姿勢が次第に感じられるようになってきている。

ということで日本企業の米国事業にも大きな影響をもたらす国境調整。今後の展開から目が離せない状況だ。前回のポスティングにも書いたけど、簡単なモデリング位は構築しておくべきだろう。

Wednesday, December 28, 2016

米国タックス行く年・来る年(5)トランプ政権・下院共和党の税法改正案

前回2回のポスティングでは税法改正とM&Aストラクチャーの関係に触れた。ここらで2017年の税法改正の展望に移ってみたい。とは言え、現時点ではまだ確固たる方向性が決まった訳ではないので、改正の内容を詳細に検討するというよりも大きな方向性を掴んでおけば十分だろう。詳細は2017年の春の展開を見ながら考えていきたい。

ここ8年、掛け声はあったもののオバマ政権下で本気で抜本的な税法改正が行われる気合を感じたことはない。ねじれ現象にあったため、大統領府も議会も最初から試合を捨てていたような気がする。それがトランプ政権の誕生で一気に大型税法改正が現実味を帯びてきていて経済界の期待も大きい。どのような具体的な法律となるにしても、減税、国際課税のテリトリアル化、を通じて米国企業の競争力を高める方向となるだろう。

まず、税法改正のフレームワークだが、現時点で改正の叩き台と考えられているプランは、大別してトランプ次期大統領のものと下院共和党の「Blueprint」と呼ばれるものの二つがある。トランプのものは選挙運動中に発表されていたもので、もう一方の下院のBlueprintは2016年6月に下院議長(House Speaker)のPaul Ryanと下院歳入委員会長のKevin Bradyの両名により公表されてしているものだ。この2つのプラン、同じ共和党案として共通点もあるし、方向的には整合性があるものの、現時点では二つの別のプランであり詳細は異なるという点はよく理解しておいた方がいい。

現時点の最重要アクションプランは、トランプ案および下院Blueprintに基いて自社のタックスポジションがどのようになるかの早急なモデリングだろう。特に後述の「国境税調整」とテリトリアル課税に移行する経過措置としての米国外の子会社(CFC)に眠る埋蔵金の一括課税、の影響を把握しておくことは今後の企業戦略の立案にも大きな影響があるはずだ。日本企業的には、米国企業を買収して付いてきたケース以外では、米国の下にCFCを多く抱えているケースは少ないと思われるので、前者のインパクトの検討が重要なように思われる。また税率が下がることは間違いないので2016年3月期には損金は前倒し、益金は繰り延べ、という当然の戦略が必要となる。

両案を具体的に見ていきたいけど、まず法人税率はトランプ案は15%、下院Blue Printは20%だ。どちらにしても現行の35%と比べるとかなり低い。15%と言えばタックスヘイブンの域だ。両案ともにAMTは廃止だ。思い切りがいい。日本も一気に15%とかできれば凄いのにね、って思うけど、実は米国の税収に占める法人税の割合は僅か10%程度と余り大きくない。これは多くの国内事業がパススルーの形態を取っているからだ。

一方で個人所得税は税収の50%弱を占めるし、かつパススルー事業体の課税は最終的には個人に配賦されているケースが多い。なので最終的には個人所得税率が気になるところだ。こちらは両案ともに12%、25%、33%の3つの税率区分となり、現行の39.6%からやはり減税となる。上述のパススルーから配賦されてくる所得に対してはトランプ案ではパススルーに留保したら(すなわち分配がなければ)15%、下院Blue Printでは分配の有無にかかわらず25%となる。前回、前々回に触れた通り、キャピタルゲインに対する税率はM&Aのストラクチャリングに大きな影響を持つが、トランプ案は現状維持、ただし実質増税だったNet Investment Income Taxの3.8%は撤廃となる。下院Blue Printのキャピタルゲイン課税は面白く、キャピタルゲインは50%非課税とするので半額が課税となり、実質最高税率は16.5%となる。低税率区分に属する納税者にも平準化されて恩典が与えられるのでいい案かもね。個人所得税目的でもAMTは撤廃だ。AMTは面倒なので無くなるとスッキリする。

設備投資減税も凄い。双方共に基本的には支出年度に全額損金算入となる。トランプ案では製造目的に供される資産が対象だが、下院Blueprintでは有形・無形の事象資産全てが対象となる。その代わりネット支払利息の損金算入には制限が加えられ、トランプ案では設備投資の全額損金を選択する場合にはネット支払利息は損金不算入、下院案では常に損金不算入となる。これは投資をレバレッジでファイナンスして、支出を損金算入し、更にファイナンスコストも損金算入するという「ダブルディップ」を禁止するためだ。それにしても大胆。

税率が下がる分、課税ベースは拡大される。両案ともR&Dクレジットのみは聖域的に温存するが、他の様々な特殊恩典(例、製造者控除)は撤廃する。面白いことに下院Blue PrintではLIFOも温存するとしている。LIFOは決算書とのConformity要件があり、IFRSで禁止になったと思うけど、米国ではSECがIFRSを結局認めていないので未だUS GAAPの世界のままだ。

海外子会社に対する国際課税に関してはトランプ案は改正後は分配の有無にかかわらず一律10%課税、移行時の経過措置として現時点の留保金に一括10%課税と言われているが、選挙運動中の案で現時点でもこの案のままかどうかは若干不透明な部分がある。下院Blue Printは100%の完全テリトリアル課税に移行するとし、移行時の経過措置として現時点の留保金を現金で持っているケースには一括8.75%、他の資産で持っているケースでは一括3.5%課税としている。下院Blue Print下では以前のキャンプ案同様8年間の分割払いが可能となる。

下院Blueprintで最も物議をかもしているのは「Border Adjustable Tax(国境税調整)」というものだろう。ここからは次回。

Sunday, December 25, 2016

米国タックス行く年・来る年(4)税法改正とM&A

前回のポスティングでは税法改正、特に税率およびどのようなタイプの所得が低税率の恩典を受けることができるか、という点のM&Aストラクチャーに与える影響を実際のディール例を見ながら考えてみた。この手の話しは決してアカデミックな話しで終わる訳ではなく、日本企業がM&Aを実行する際にターゲット株主の構成、また希望する課税関係をよく理解してストラクチャーを検討することの重要性を示唆している。

例えばWarren Buffet先生のBerkshireが絡んでいたバーガーキングのInversion取引。この取引に関しては今年の5月15日に「Inversion/インバージョン(22)「Inversion規則とBurger King」」というポスティングで少し詳しく触れているので詳細はそちらを参照して欲しいけど、あのDealは通常のInversion取引と異なり、カナダの持株法人の下にパートナーシップが組成される形で実行されている。どう見てもバーガーキングの旧大株主である3Gが株主レベルの課税を嫌がり、Section 367を逃れるためにSection 721でいける、すなわちSection 367の影響を受けない、パートナーシップへの出資扱いとなるストラクチャーを構築しようにみえる。なかなかCreativeなストラクチャーだ。

日本企業が関連するディールにもとてもハイテクなものもある。例えば1990年に松下がMCAを$6B以上で買収した際の取引だ。MCAの大株主の1人に当時77歳となるMCAの会長Wassermanという重鎮がいた。Wassermanといえばスピルバーグの師匠と言われる位だからハリウッドの長老である。そんな彼の持つMCA株式は簿価が低く、Wassermanは課税取引で株式を売却することに難色を示していた。当然、年齢的に株式を相続させることができれば、その時点で簿価がステップアップするという読みもあっただろう。ちなみにWassermanはこのディールの12年後となる2002年にビバリーヒルズで息を引き取っている。

そんなハリウッドの大物が非課税を望むケースでは、どのような手法を駆使してでも取引の彼の部分は非課税とするのが、会計事務所、弁護士事務所、投資銀行の使命となる。買収が成功すれば高いFeeを受け取ることになる投資銀行にしてみれば特にそうだろう。そこで、Wassermanが非課税で売却に参加できるよう、WassermanはMCA株式を新設法人に現物出資し、その替わりに優先株式を受け取っている。このイノベーティブなSection 351の適用で持分継続とか気にすることなくWassermanの部分は非課税とすることができているストラクチャーとしているところが特徴だ。この手法はその後1997年にSection 351の改正、すなわち(e)と(g)の追加、で同じ形では再現できなくなっているが、姿かたちを変え脈々と生き続けている。

となぜか又してもM&Aの話しに終始してしまったけど、次回こそ2017年に考えられる税法改正に関して。

Saturday, December 24, 2016

米国タックス行く年・来る年(3)税法改正とM&A

前回のポスティングではオバマ政権下の8年間で蓄積された反ビジネス悪規制のひとつと位置付けられる過少資本の最終規則、特にFunding規定の撤廃・廃案の可能性に関して触れた。今回は税法改正とそのM&Aに対する影響等に関して簡単に触れてみたい。

税法改正の経済活動に与える影響は一般に大きいが、特に税率とどのような所得が低税率の対象となるかというポイントはM&Aのストラクチャリング等、Corporate取引に大きな影響を与える。その相関関係は過去のDealの変遷を見てみると良く分かる。2001年~2003年のブッシュ減税(息子の方)でキャピタルゲインは15%課税となり、また初めて配当もキャピタルゲイン税率の対象となった。

2006年にClosingされたBoston ScientificによるGuidantの$27Bのメガディール。ビジネス的にはAOL・タイムワーナー以来の大型M&Aの失敗例として引き合いに出されることが多い不名誉なものだけど、この買収では、買収対価が60%株式+40%現金だった点が当時、税務業界では話題になった。買収は、上場企業の株式を買収する際の典型であるReverse Triangular Mergerという形で行われているが、税務上、この形が適格再編となるには対価の80%が株式で構成されていないといけない。敢えて60%しか株式としないことで、取引は課税取引となっている。ということは株主レベルで、受け取る対価のうち現金は40%しかないのに、全額課税となったことになる。対価を80%株式としないでも、例えばReverse Triangular Mergerの直後にBoston Scientificが子会社、またはSMLLCを設立してそこにターゲット法人であるGuidantを合併でもさせれば、今度はみなしForward Mergerとして適格にすることができただろうに、それもせず敢えて課税取引にしているように見える。

この頃から株主レベルの課税を気にしないM&Aのストラクチャーが結構目に付くようになる。2007年のTD BankによるCommerce Bankの買収に至っては、同じくReverse Triangular Mergerで株式対価がナンと75%という際どい課税取引だった。80%にしたら非課税の適格再編になるにもかかわらず、だ。ひとつの見方としては、株主レベルのキャピタルゲインが15%であれば、誰も余りそこは気にしないでDealをストラクチャーしてもいいレベルというものがある。課税取引なので、もちろん株式の税務簿価はステップアップする。更に株主の中にはTax-Exemptのペンションとか、また売り手そのものは課税されないパススルーのFundとかが多く含まれていた可能性もある。

2005年のSBCによるAT&Tの買収も興味深い。同じくReverse Triangular MergerでAT&Tを買収し、対価は株式100%だったのでそれ自体は非課税再編だが、買収直前にターゲット側のAT&Tは$1Bもの現金配当を実行している。しかもこの配当、買収がClosingすることが条件だったという。ターゲットの株主が内国法人であればDRDを使えるのでキャピタルゲインより好ましいことが多いが、旧来は個人の株主は同じ課税取引であれば配当よりもキャピタルゲインを好むというのが常識だった。それが2003年のブッシュ減税で配当が15%課税になったため、このようなストラクチャーが可能になったと考えることができる。

同じく2005年のVerizonによるMCIの買収は100%株式対価のForward Mergerだったんだけど、AT&Tと同様、売却直前にMCIにより現金配当が加味された取引だ。電話会社の買収は巨額の配当が付き物なんだろうか?Forward Mergerは課税となると法人および株主の双方で二重課税となるのでこの手の取引には再編そのものの適格性に影響がないよう気を使うだろう。いずれにしても配当の税率が低いからこそ可能なストラクチャーと言える。もちろん今でもキャピタルゲインの方がキャピタルロスと相殺できるとか、簿価をリカバーできるとか、メリットは残っているが、配当とキャピタルゲインとの税率差がなくなったことでストラクチャリングのオプションは増えたと言えるだろう。

この2003年のブッシュ減税は10年間で自動的に失効するきまりだったので(2001年の減税分はその後2年間延長されてそれらも2012年までは有効となっていた)そのまま放っておくと2012年にブッシュ現在が失効しそうになっていた。失効してしまうと税率が上がるばかりでなく、配当に対する優遇税制も失われる。15%が急に39.6%に跳ね上がることもあり得た訳だ。その直前には慌てて配当を出す企業が多かったが、結局ギリギリにブッシュ減税の多くは恒久化され、ハイエンダーと呼ばれる高所得者だけに減税効果がなくなる形で決着が付いた。

今回もし本当に法人税率が35%から15%(または20%)、また個人所得税も39.5%から33%に下がる、かつ3.8%のInvestment Taxも廃止されると株式市場、M&Aには追い風だろう。特にクリントンが当選していたら、税率は良くても現状維持、更に最悪なことに長期キャピタルゲインに適格となる保有期間が一年からナンと6年に延長というとんでもないアイディアだっただけに、株式市場やM&Aへの冷却効果は凄まじかっただろう。配当がキャピタルゲイン税率の対象となるための保有期間が60日なのに、売却をキャピタルゲインとするのに6年って言うのは不合理な話しだ。幸いにもこれらの税法は今では実現の可能性がなくなっている。

次回はもう少し、2017年に考えられる税法改正に関して。

米国タックス行く年・来る年(2)過少資本最終規則はそのうち廃案(?)

前回から2016年後半の米国税務的な展開のまとめと2017年に注目すべき動向に関して書き始めたけど、最初に触れておきたいのが過少資本最終規則の今後の末路。わずか2ヶ月チョッと前に鳴り物入りで発行された規則がそんなに簡単に廃案になってしまうことは現実的にあり得るだろうか?前回も書いたけど個人的には十分にあり得ると思っている。

文書化要件は2018年の新規借入から要求されるだけに、2017年にもし最終規則が廃案になってしまうと、日の目を見る前に消滅してしまうことになる。ただ、仮に廃案になったとしても、規則の爪痕は若干残るのも間違いない。すなわち、関連者間の借入にかかわる文書化に関しては従来は指針が何もなかっただけに、1.385-2に規定される詳細な規則は、仮に最終規則が廃案になってもCommon Lawを補足するような位置付けとして、文書化のベンチマークを設定した形で生き続けていくだろう。規則案時代から強調されている通り、文書化要件は決して新たなものではなく、従来から守られるべき模範的なプラクティスというのが財務省のスタンスだ。ここは確かにその通りで、従来から関連者間では規律に欠ける借入が横行していた点は否めない。ただ、規則の一部としてではなくCommon Lawの補足のような形で生き残る場合には、最終規則の文書化要件のように買掛金とか未払金とかの流動負債を含む全ての借入に関して文書化が必要だったり、実態にかかわらず文書化がないとEquityになったり、とかいう極端な適用は実質無くなることが期待される。

文書化要件はもしかしたらそのまま規則として生き残るかもしれないが、真っ先に廃案のターゲットとなるのは挑発的な内容の使途・Funding規定だろう。こちらは2016年4月4日以降の借入およびFunding規定を誘発する分配等の3つの取引に対して既に適用が開始されている。ただし、移行措置期間が設けられており、4月4日以降の取引で規則に基づきEquityとなってしまう借入が存在する場合も、実質2017年1月20日からEquity扱いが開始される。その扱いが嫌ならそれまでにRecap等で是正措置を取りなさい、ということなんだけど、この1月20日というのはナント奇しくもトランプ大統領の就任式がDCで行われる日だ。最終規則の移行措置期間は、連邦政府の規則等が記載される連邦官報(Federal Register)に最終規則が公表されてから90日と規定されている。もしかして選挙結果が分からなかった10月当時、最悪トランプが勝利しても、何とか就任式までにはFunding規定位は法的な効果を持たせたいと願い、90日を逆算して規則の発表を急いだと思うのは考え過ぎだろうか?深遠な世界で、そんなのは財務省の先を読む力を買いかぶり過ぎだと言われてしまえばそれまでだけど、余りに偶然だ。

さて、規則の廃案だけど、具体的なメカニズムは大別すると2つ。まずは議会が「Congressional Review Act(5 U.S.C. § 801-808)」(CRA)という法律に基き行政機関である財務省が策定した規則を取り消す手法がある。このCRA、近年余り登場しなかったが最近またメディアとかで見かけるようになったNewt Gingrichの「Contract with America」(懐かしい響き・・)の一環で1996年に制定された法律だ。

このCRAで規則を廃案とするには下院・上院双方の決議が必要となる。最高裁が下した憲法上の要件で、CRAも他の連邦法と同様に大統領に拒否権を持たせる必要があり、そのためねじれ現象下でCRAを利用するのは難しく滅多に成功しない。行政機関の制定する規則はほぼ常に現行の政権は指示するからだ。2001年にブッシュ政権(息子の方)が大統領になって直ぐに、労働省の職業安全衛生局が制定した規則を議会がCRAで廃案としたが、その際も大統領がクリントンから変わって直後の動きだった。

CRAで規則を廃案とするには、規則が最終化してから議会開会日ベースで60日以内の決議が必要となる。このタイミング的な意味で、オバマ政権はできるだで現政権下で議会の開会が60日に足るよう、したがって議会がCRAで廃案を決議してもオバマ大統領が拒否権を発動できるよう、規則を通したかっただろうが、10月以降の開会日は上下院で異なるけどザックリと月10日前後のペースなので、過少資本の最終規則はとても間に合わっていない。そこで、ブッシュ政権誕生時と同様にいくつかターゲットとされる規則のひとつとなっている。

そもそも議会は過少資本規則の最終化に最後まで反対していたので、この流れは十分に現実味がある。議会は財務省に再三に亘り規則を現状の形で最終化しないように文書で抗議しており、それらの忠告を無視する形で一方的にしかも短期間に規則が最終化されたことでかなり怒っている。下院歳入委員会長自らがトランプ政権に最終規則の撤回を求める信書を送っているくらいの勢いだ。米国議会って納税者の味方で結構頼もしい。

CRAで廃案となる規則は、対象となる規則そのものが無効となるばかりでなく、将来的に財務省は同様の規則を策定することができなくなる。ただ、議会はいつでもSection 385自体を修正できるので、条文そのものを変えて別のスコープで財務省に規則策定の権利を付与することはいつでもできる。

2つ目の方法に、議会による法律ではなく、行政機関そのものに規則を撤回される方法もある。ビジネスに重荷となる規則はオバマ政権下で多く制定されているが、それら数百の規則を一気に撤回する方向が模索されている。その中には過少資本の最終規則に加え、FATCAの規則も含まれている。財務省自らによる撤回は、規則を策定する手続きと同様の手続きで進める必要がある。すなわち、規則策定案とかその理由を公表するところから始まる。撤回の理由は最終化前に財務省に送られている数多くの経済界のコメントを参照すればそこに既に大量の理由を見出すことが可能だろうから、理由には事欠かないはず。実際にこの手の手続きを進めるのは財務省次官補レベルとなることから、そのポジションに実際に選任された役人が登場する3月以前の撤回は難しいかもしれない。

議会または財務省が速攻で廃案としない場合にも、今後の税法改正の流れで、過少資本税制そのものに自然と意味がなくなる可能性も大だ。下院のBlue Print(改正案)によると現金ベースの課税に移行する一環で支払利息の損金算入そのものが撤廃される可能性もあり、そうなれば現状の「何が借入で何がEquityか」という面倒な問題は存在しなくなる。この点は従来の税法に対する批判のひとつで、そもそも税法が借入を有利に扱うから(MMセオリーにも繋がる)みんなが借入を好むのだ、という至極最もな分かりやすい議論だ。

さらに元々、過少資本の最終規則はInversionを念頭に策定されていたはずだが、米国法人税がもし15%~20%になれば、そして更にテリトリアル課税となれば、誰も慌ててInversionなどしなくなるだろう。Inversionしていない最初からの外国企業も米国の課税所得を圧縮する必要は無くなり、誰もDebt Pushdownとか考えなくなるはず。むしろ、逆にどうやって海外から米国に所得を持ってくるかというのがプラニングの焦点となる。前から共和党が言っている通り、これがInversionを無意味にする唯一の方法だ。いくら網を掛けても、北風が強く吹いても誰もコートを脱がないのと一緒でInversionはなくならない。そもそもInversionをする企業は別に財務省を困らせようと思って実行している訳ではなく、世界の競争相手と競合するのに米国企業を頂点とする企業形態では税法的に余りに不利だから実行する訳で、その意味でもMNCに対して使い勝手のいい税法とすることがInversionを絶つ唯一の合理的な解決策となる。

このように過少資本の規則を取り巻く今日の環境は公表時点の10月13日とは余りにかけ離れていて、その廃案は、特に使途・Funding規定に関して、時間の問題のような気がする。

次回はトランプ政権誕生と今後の米国税法の動向に関して。

Thursday, December 22, 2016

米国タックス行く年・来る年(1)過少資本最終規則はそのうち廃案(?)

2016年も早くも12月後半となってしまったけど、米国税務的にはいろいろと忙しい一年だった。トランプ政権の誕生で2017年は更にDisruptiveな一年となること確実だ。Disruptiveっていうのは最近ではPositiveな表現なようで、テクノロジーその他の進化が激しい中、Status Quoは認められないってことのようだ。

今回から数回、行く年来る年ということで2016年のハイライトそして2017年に注目のトレンドとかを個人的な視点からまとめてみたい。まず今回は2016年後半のおさらいから。

2017年から全くフォーカスの異なる新政権ということもあり、現財務省は2016年後半のこの期に及んで乱発的にかなりの数の規則を発行しまくっている。ここ2ヶ月位のスパンで見ても発行された規則の数、またその重要性の高さは凄まじい。さながらオバマ政権の花火大会終了直前のクライマックス連発打ち上げ花火のよう。花火と言えば、旧正月の香港ビクトリアハーバーのやつとか、NYCの独立記念日のも豪快でいいし、最近でこそ海外の花火もハイテクになったけど、やはり夏の河川敷きとかで企画される昔からの日本の花火大会のものが情緒深い。古くからの和火の影響で色が豊富で繊細さがあり球状で掛け星、と味がある。小さかった頃、多摩川大橋の辺でやってた花火大会をうちの2階にあった洗濯物干し場のバルコニーみたいなところから「アイスキャンディー」(米国で言うところのPopsicleです)食べながら見た日が懐かしい。

さて、ここ2~3ヶ月クライマックス花火シリーズで発行された規則を列挙してみるとその内容の充実振りが分かるだろう。過少資本の最終規則(Section 367)は今更言うまでもなく、12月にはKiller B系の取引に更に網をかけクロスボーダーの三角合併の扱いに大きな影響を与えるNotice(2016-73)、USドル以外の外貨を機能通貨としている支店等のQBUの為替差損益の認識を規定した暫定規則(Section 987)、スピンオフ+適格組織再編である「Morris Trust」取引に対する制限の更なる厳格化(Section 355)、Foreign Goodwillを非課税で外国法人に移管する適格出資や組織再編のシャットダウン(Section 367(d))、買収の合意に達しておきながらもっといいDeal(Superior Proposal)が出てきたりしてFiduciary Outに基いてClosingしない際にターゲットが買収を断念する側に支払う「Break Up Fee」の扱いに対する新たな指針(Section 1234A)、FTCを算定する際に海外の資産を米国で課税所得を認識することなくステップアップさせて人工的にHigh Tax Poolを作り出すCovered Asset Acquisition規則(Section 901(m))、デルタワンその他のEquityオプションに基く「配当」を源泉税対象とする規則(Section 871(m))、最近のポスティングで触れたホットドッフスタンドのスピンオフ規制(Section 355)など。

凄いラインアップだ。これをひとつひとつ解説など試みようものなら2017年が終わってしまいそうだ。オバマ政権の過剰規制は高税率と並び、ビジネス界で不評だったのでその意味ではトランプ政権誕生のひとつの理由となったとも言える。トランプ政権はオバマケア、ドッドフランクに代表されるこれら「悪法」90%を政権誕生100日以内に廃案にすると言ってくれていて頼もしい。

税法的には廃案を望む声が一番高いのはもちろんSection 385の過少資本最終規則だろう。個人的な予想だけど、過少資本最終規則は今の形では夏まで持たないのではないか、と推測(期待?)している。もしかしたらSection 1.385-2の文書化要件はそのまま残るかもしれないけど、Section 1.385-3の使途・Funding規定の部分はSection 385下で財務省にあんな規則を策定する権利が付与されているかどうか自体も怪しい上に、その内容たるやルービックキューブの色合わせをさせられているように膨大な数のピースを繋ぎ合わせて扱いを検討しないといけないとんでもない代物だ。518ページ読破した個人的にはそのまま在ってくれてアドバイスするのも知的な謎解きという観点だけからは悪くないかもしれないけど(Short-term Debt Instrumentの定義のところは除いて・・)、実際のビジネスの局面であのルールに対応させられるのは米国への投資意欲減となること間違いなく好ましくないほどこの上ない。

では本当にこんな発行ホヤホヤな規則を簡単に廃案にすることは現実的だろうか?その実現性に関する法的なフレームワークは次回。