前回は前置きと、トピックを選択する過程にもかかわらずSub Cに興奮してしまったが、結局Inversionが勝ち残った。でもBEPSに関して一言ってところで終わっていた。なので一言・・。
OECDのBEPSレポートおよびその各国の反応に関してはクライアント等からの質問も多いんだけど、そもそも日本企業はBEPSとは世界で最も無縁な存在だった。それだけに正直、2~3年前にOEDCがBEPSを取り締まるレポートを作成するって言う話しとなり、その後徐々にAction Planが公表される過程では「エッ、BEPSやってない日本企業もOECDレポートに対応しないといけないの?」というのが率直な感想だった。
そもそも「Base Erosion」という用語・コンセプトだって、OECDがレポートを作成して対抗するっていう段階になるまで、日本企業には余り良く理解されていなっかったと思う。直接税というか法人税の世界における国際税務プラニングは、全世界の国の税法、税率が同一であれば存在し得ないので、国間の差異、特に税率、事業主体のClassification(パススルーV法人)、租税条約ネットワーク、CFC法がまちまちな状況、がある限り、多国籍企業として敢えて高税率国に所得を認識させる必要はない訳で、企業側がOptimumかつ合法的な形で全世界の所得配分を検討するのは、程度の差はあれ、当然だ。これが高税率国から見るとBase Erosionとなる訳で、欧米企業はもう何十年もシステマティックにこれを実行して国際競争力を付けてきた。直接税(=Income Tax)的な法人税が存在する限りはBase Erosionの検討を含まない国際税務プラニングは存在し得えず、一部、経済合理性を欠くレベルにまで極めてしまったのでこのようなこととなっているが、今後もスケールは変わるかもしれないけど、Post-OECD BEPSレポートの世界において合法的かつ形を変えて欧米企業はBase Erosionを続けるのは間違いない。
一方、日本企業はというと、従来からBase Erosionとか全く念頭に置いていなかったのに、いざCbCRとか作らせられて見ると実際には説明仕切れない利益率の国も当然出てくる訳で、それをDue Processや情報管理も必ずしもしっかりしないかもしれない国々に公開して、今まででは考えられない量の税務調査に対応しないといけない、というような理不尽な結果になり兼ねない。米国MNCのようにBase Erosionを国際税務プラニングの主眼と位置づけて何年も徹底して低税率国に巨額の埋蔵金を既に貯めているなら対応する側の費用対効果も十分にあるし、責任問題として対応するべきだし、おそらく企業側なりの合理性も従来の法律下であれば存在し、説明はできる部分は多い(受け入れられるかどうかは不明)とは思うのだけど、日本企業のように正直に(?)にやってきたのに、ここで対策に多くの時間を掛けさせられ、挙句の果てに税務調査対応、また場合によっては実際の税負担に多額のコストが掛かる展望を考えると、日本企業として決して歓迎できるものではない。新聞とかでOECDのBEPSレポートが日本企業にあたかも「追い風」のように書いてあることがあるけど、かなり不思議な見方だ。少なくとも企業側から見たらいいことはないだろう。
市場で競争相手となっている欧米企業とかが、これで大人しく実効税率40%になるはずもなく、その点はあまりナイーブにならず、引き続きAfter-Taxベースでの世界競争は熾烈で、市場で戦っている外国企業の多くはそういうものだという認識はきちんと持ち続ける必要がある。これをどう各企業の戦略に織り込んでいくかは日本の税カルチャー等を加味して個々の企業の判断となるが、Global Standardとは日本の考え方が通じないところも多い点は理解した上で市場で戦う必要がある。ネット所得ベースの法人税というものが存続している間はどうしても各国の仕組みの差異を利用したアービトラージはなくならないだろう。
現状の税法が存続している間、CbCRの脅威は計り知れない。米国議会が未だに財務省にそんなものを議会の法制化なく納税者に強要できないと主張しているのも(一方、財務省側は既存の移転価格規則の範囲内でCbCRも規定できるとの見解で、既にProposed Regulationsを発行済み)、CbCRが米国だけでなく、他国ににも使用されて米国MNCに理不尽な影響があり得るという懸念に基づいている。財務省としては、CbCRの濫用、または守秘義務違反、等があれば即刻、情報共有を中止すると言っているが、後から中止しても遅いかもしれないし、濫用に至らないまでも従来のArm’s-Length基準から逸脱する移転価格調整が横行した場合の企業側のダメージは大きい。
Arm’s-Lengthからの逸脱は程度の差はあるとは言え、現実的な懸念となる。これはCbCRのドラフト形式を見れば明白で、各国の税務当局が「配賦比率に基づくFormulaアプローチ」を適用したいという衝動に駆られることは想像に難くない、というか、むしろ自然の流れだろう。「僕の国に従業員の30%がいるんだから全世界所得の30%は僕のものです」とか。売り上げ、資産に関しても同様な発想が出てくる。工場とかがあって多くの従業員や資産があるが、必ずしも付加価値は高くない機能を持っているような国が一番Formulaアプローチに傾斜し易い。CbCRはハイレベルな分析のみの目的で、これだけで移転価格調整をしてはいけないということになっているので、堂々とこれだけで「Formulaで配賦した調整です!」って言ってくる国はないかもしれないけど、最初にFormulaに基づく潜在的な税額を頭で考えてしまうと、その結果ありきで、後から理論武装してくるようなケースもあり得、企業側としては対応コストを考えただけでも頭が痛い。
となると、CbCRが現実のものとなる現在、日本企業にとって最後の砦となるのは「Competent Authority」による二国間協議だろう。日本の二国間協議に国益を守ってもらうことなるけど、爆発的に増えるクロスボーダー課税の論争に対応できるだけ二国間協議のリソースがあるのか、必ずしも理論が通じない国もある現実下、長期に亘る協議に掛かるコスト、等、パンドラの箱を開けてしまったような状況が想定される。その意味でもBEPSレポートに準じてCbCRを開示させる国は一日も早く仲裁規定も取り入れるべきだ。
ただ、これらの話しは全て税法が基本的に現状の姿を原型としているという前提での話しだ。長期的なメガトレンド的に考えると、Digital Economy等BEPSでも取り組んでいるが、Global経済のあり方が変わるに連れて、そもそもグロス所得から経費を引いたネット所得に各国が国という地理的なボーダーに基づいて課税するという直接税的な法人税が時代遅れとなり、VAT的な間接税が取って代わり(米国でも連邦VATが登場するような状況になり得る?)、従来の法人税は徐々に姿を消していく可能性も十分にある。となるとBase ErosionもBEPSレポートも過去の遺産となってしまうかも。10年後には意外にBEPSレポートなんて関係ない世界となってるかもしれない。
という訳でBEPSに関しての「一言」でした。いよいよ本題のInversionは次のポスティングになってしまいました。昔の巨人の星(古過ぎ!)で飛雄馬が肝心の一球を投げるまで2週間も掛かるよう状況で申し訳ありません。子供の頃NetflixとかAmazonとか無かったんで・・。次こそInversionとなります。