Thursday, January 28, 2016

Inversion/インバージョン(4)

前回はようやく話しがInversionにおよび、一般にInversion第1号と認識されている1983年のMcDermott社のパナマ子会社を利用したInversionに触れた。

ここで再度、なぜ米国MNCがInversionをやりたがるか、という基本をもう少し突っ込んでおさらいしてみたい。簡単に言ってしまえば、米国MNCがグループの実効税率を下げるために取る作戦なんだけど、Inversionをするとどうして実効税率を低くすることができるのか、考えてみよう。

米国企業は究極の親会社が米国にある限り、全世界の所得に対していつかは米国で課税される運命にある。すなわち配当すれば配当課税、配当なしでもSubpart F(日本のタックスヘイブン税制に相当)でみなし配当課税されることもある。間接税額控除は取れるとは言え、米国法人税率は世界一だから、米国で課税が発生するのが普通で、それは低税率国からの配当であればなおさらだ。

法人税率が高いから、米国企業はできる限り所得を合法的に低税率国に移転させることとなるが(これが米国のような高税率国からみるとBase ErosionまたはEarnings Strippingと言われる)、配当すると米国で課税されるので低税率国に貯まっていく埋蔵金は米国に配当されることはない。さらに、米国から低税率国に所得を(合法的に)移転させる手法も親会社が米国にあると限定される(それでも相当やってるけど)。Base ErosionまたはEarnings Strippingの一番手っ取り早い方法は高税率国の事業は資本ではなく、グループ内借入、それも低税率国の貸し手からの借入でファイナンスすることだろう。ところが、米国親会社に対して外国子会社(CFC)から貸付を行うと、その場でみなし配当になるという致命的な規定があるので、これができない。

Inversionはこれらのデメリットを解消しようとする試みだけど、税コスト低減そのものが最終目的になっているというよりも、多くのケースで米国MNCでいることに基づく上のような足かせがあるため、米国外MNCと同じ土俵で戦えていないという事業上の理由が大きいように思う。また、最近のInversionを見ていると、将来の税負担が大きく減り、となると将来の配当原資が大きく増え、株価が上がり、更にM&Aがやり易くなり、Inversionした企業が更に米国企業を飲み込んでInversionしていくという増殖パターンも見られる。

Inversionすると、外国に究極の親会社ができるから、その後の海外投資はそこから子会社を設立する等すれば、米国法人税の対象となることはない。また既存のCFCも米国法人の下から外すことができれば(Out-From-Underとして知られる取引)、その後のCFCの所得は米国での課税がなくなるし、うまくいけば米国に配当できなかった海外の留保金が未来永劫、米国法人税の網から逃れることができる。その上で更に米国「子会社」に対してファイナンスをして徹底的なBase Erosion、Earnings Strippingを行う道も開ける。

CFCをInversion後に米国法人から外すステップは重要だが、課税ナシで達成するのは難しいかも。新しい外国親会社に株式を単純に売る場合、GainはCFCの配当原資(E&P)の範囲でみなし配当となる。みなし配当となれば間接税額控除が使え、若干痛みを和らげることは可能だ。CFCの持つ資産売却は課税となるが、コスト・シェアリングとかで将来の無形資産の税務上の所有権の一部を外国親会社が持つ外国子会社に持たせたりすることは可能。またInversion前に将来の外国親会社にあたる子会社(Inversion前)にCFC株式を現物出資して、Inversionと同時に自然にCFCでなくなるようなストラクチャーも存在した。

このようにメリットの多いInversion。前回触れたMcDermott社のInversionに対して、財務省は(McDermott社のパナマ法人に当たる)Inversion前のCFCの株式が(McDermott社に当たる)米国親会社の株式と交換される際、CFC株式は一旦、米国親会社に発行されたかのように扱い、その後、その株式で米国親会社株式を償還したものとみなし、CFCのE&Pに関して米国親会社に対してみなし配当課税(Section 1248の一環で)するという規定強化を行った。この規定強化の前にInversionを行ったMcDermott社はCFCのE&Pに課税されることなく、CFCをCFCでなくすことができたことになる。

McDermott社型のInversionに関して「でもSection 304は大丈夫?」と疑問に思った方は黒帯に近い。実際、IRSもSection 304でアタックしようとしたが、裁判所はInversionで既存の株式と交換される対価となる外国子会社(=Inversion後の外国親会社)の株式も、Section 304の対象とならない自己株式となると判断し、Section 304の適用はないとしている。旧米国親会社の株式だけでなく、子会社の株式もそのように扱っているのが面白い。

1993年のInversionとなるHelen of TroyはSection 367(非課税取引を通じて外国に資産が逃げるのを防ぐためにExit課税する趣旨の規定)を変更させた点で意義深い。Helen of Troyは新設のバミューダ法人の株式と米国親会社であったHelen of Troyの株式交換(手続き的には前回のポスティングで触れたReverse Subsidiary Merger)で単純に米国と外国をひっくり返している。このパターンの株式交換は現物出資同様で、国内の局面であれば非課税だ。または株式交換に基づく非課税再編とも考えられ、同じく国内の局面では適格組織再編としてやはり非課税だ。外国の法人に対する現物出資(または組織再編に基づく株式交換)は、当時のSection 367では、今日では外国法人株式の現物出資または再編にのみ適用されるように、5%未満の株主(=ほとんどの一般株主)には課税されず、5%以上保有の株主もGain Recognition Agreementを締結すれば非課税となった。

Helen of Troyを期に財務省はSection 367を改訂し、国内法人の株式を現物出資または非課税組織再編を通じて外国法人の株式と交換する際、出資・再編後に米国法人の旧株主が、出資・再編後に50%超の持分を持っている限り、非課税扱いを否認するというものとなった(実際の規定は5%株主の持分とか企業幹部の持分とかも検討するなどもうチョッと複雑)。すなわち、本当に実質、外国企業に買収されるのでない限り、形だけ変えてもダメということだ。今では余りに当たり前の規定だけど、改正前の法律では、国内の株式交換同様、再編相手が外国法人という局面でも非課税の適格組織再編になるのが普通というInversion規制前夜のいい時代だった。Helen of Troyのケースでは旧米国法人の株主がそのまま外国法人株式を100%受け取っているので新規則に基づくと、株主レベルでは当然課税となったことになる。この改訂はいわゆるInversionばかりでなく、事業上の理由で外国法人と合併する際にも適用があることから、その後のクロスボーダー合併に大きな影響を持つことになる。すなわち、本当に外国「他社」との合併でサイズがほぼ同じ(いわゆる「Merger of Equal」)という場合には、合併後に米国株主の持分が50%超とならないよう合併比率が合意されるケースが多くなった。いい例がクライスラーとメルセデスの合併だろう。

改訂後のSection 367がInversion Killerとなり、Inversionの魅力はなくなるか、と(財務省では)期待したのではと思うが、この法改訂はあくまでも株主レベルのみに課税するとしたものであったことから、実は期待されたほどの効果が出ない結果となる。ここから次回。