Saturday, January 30, 2016

マイナス金利と米国税法

前回まで5回、Inversionの変遷を追い、遂に2004年の法改正(American Job Creation Act(AJCA))というShow-Downに至った。いよいよAJCA下で規定された本格的なInversion対抗法に触れるところなんだけど、日銀がマイナス金利政策を取るとニュースになっているんで、マイナス金利と税法(米国)関係を考えてみた。

マイナス金利っていうのはお金を預けると金利を取られるという、普通では考えられない方向だけど、そのような政策自体は新しいものではなく、1980年代後半、僕が香港で仕事をしていた頃、香港でもマイナス金利政策を採っていた時期がある。香港ドルは米国ドルとペグしていたので、その政策背景は今日のユーロとか、日本の状況とは異なるのかもしれないけど、お金を預けて金利を取られるという点は同じだ。スイスでも更に以前にマイナス金利があったと聞く。

僕は経済の専門でも銀行業の専門でもないんだけど、中央銀行がマイナス金利政策を採る場合、単純に考えると金融機関としては、顧客から受け取る預金に金利を払っていたのでは双方に金利を支払うことになって儲からないんじゃない?と思う。となると、マイナス金利を顧客にも転嫁というかパスしたくなるだろう。実際にスイスの商業銀行のひとつABSのように、預金に対してマイナス金利を適用すると発表したところもある。

米国では一般には考え難い現象だけど、J.P Morgan Chaseが大口の預金に対してマイナス金利を適用し始めたっていう噂もあるし、限定的には必ずしもあり得ないシナリオではないのかもしれない。どこかで読んだ話しで、中央銀行の金利がマイナスゾーンに突入しないまでも、ゼロ金利時代には、銀行は預金残高に準じて連邦預金保険公社(FDIC)に保険料(預金の20~45Basis Point)を支払う義務があり、それだけでも顧客からの預金にマイナス金利を課したいと考えても不思議はないということらしい。

米国で預金して金利を取られるような局面は当面考え難いとしても、日本企業子会社を含む米国企業が米国外の金融機関に対してマイナス金利を支払うというケースはあり得るかもしれない。その場合の米国税務上の扱いは難しい。

企業が金融機関に預金して金利を取られたら、その金額は必要経費として損金算入の対象となることは間違いないだろう。でも、その経費はどのように位置づけられるのだろうか。もし支払利息となるのであれば、Earnings StrippingとかでNet Interestを算定する際にも支払利息として計算にも入れないといけない。一方、もし手数料と位置づけれると全然異なる扱いとなる。

クロスボーダーの預金に関してマイナス金利となる場合、源泉税とかペーパーワークの扱いも複雑だ。米国から国外に金利を支払えば30%(または租税条約の減免税率)の源泉税対象というのが原則だ。一方、マイナス金利を手数料と位置づけると、おそらく米国外源泉所得となることから、源泉税の対象にはならないだろう。もし、金利に準じる支払いだが金利ではない、という曖昧な扱いとなると性質が悪い。保証料が何なのかっていう議論に似てる。すなわち、金利に準じるので、米国の預金者が支払うマイナス金利は米国源泉となる。だけどお金を使わせてもらった対価ではないので厳密には金利ではないと認定されると、金利に対する租税条約の減免税率は適用不可能となる。となると30%源泉対象という最悪シナリオだ。日米租税条約のように「その他所得」条項があれば(保証料に関しては議定書で明確に補足説明してある)、源泉税ナシとなるかもしれないが、そうでないケースでは混乱が予想される。さらに租税条約の適用にはW-8BEN-E等のペーパーワークが付きまとうという面倒もある。たかがマイナス金利、されどマイナス金利、という感じ。

ということでまた次はInversionを再開したい。