Sunday, December 31, 2017

米国税法改革「Tax Cuts and Jobs Act」そして2017年の政局を振り返って

2017年がTimes Squareのボールと共に幕を閉じようとしているけど、振り返ってみると今年はとにかく税法改革の動向に振り回された「ローラーコースター」のような一年だった。ローラーコースターにもいろいろあるけど税法改革動向に関しては乗っていて余り爽快ではないやつ、例えると昔からあるマッターホルンボブスレッドみたいに回ったり下降したりする度に背中が痛くなるようなタイプと言える。紆余曲折あり過ぎて先がどうなるか分からず、ライドが終わった後もスッキリ感に欠けるいバージョンだ。

ローラーコースターと言えば何年経ってもやはりスペースマウンテンに勝るものはない。1975年にフロリダのマジックキングダムでデビュー、その後1977年にカリフォルニアの元祖ディズニーランドに登場し、東京ディズニーランドではオープン時の1983年から存在している象徴的なライドだ。同じスペースマウンテンでも乗る場所や時により、カリフォルニアでは一時昼と夜でバージョンが異なり各々楽しめるんだけど、カリフォルニアのディズニーランドで今日でも昼間乗れる元祖バージョンに近いものは既に40年以上経っているとは思えない格好良さ、感動を提供し続けてくれる。カリフォルニア・アドベンチャー、ディズニーシー、他にもユニバーサルスタジオとかに迫力満点のもっと新しいライドは沢山あるけど、そんな今日日のライドはチョッと凝りすぎてて大概途中で危ない状況に陥って最後は助かって「Thank you fighters…」みたいな演出が多く、ライドそのものと言うよりもスクリプトで売っているような感じ。スペースマウンテンは余計な演出無しでシンプル。宇宙をハイスピードで駆け抜けるというテーマに純粋にフォーカスしていてビジュアルも美しく断然格好いい。その昔はサウンドトラックがなかったらしいけど、今日のカリフォルニアのバージョンはチョッとホラーっぽいメロディーがロッキングリフ風にアレンジされてて、かつ上昇、下降、フィナーレで曲の感じがうまく変化していき星の中を駆け抜けるのにピッタリ。最初に上に向かっていくところのクラシックなNASAのコントロールセンターみたいなやり取りをバックに徐々に盛り上がっていくところから最後に急に明るい光が出てPhoto取られるところまで終始最高。あのNASA風やり取りだけどRAH Bandの「Clouds Across the Moon」に出てくる「Inter-Galactic Operator」の声ソックリ。ちなみにRAH BandってUKとか日本ではそこそこに認知されていた感じだけど、基本的にRichard Anthony Hewsonのワンマンバンドでバンド名も彼の頭文字だ(う~ん単純な命名)。「Clouds Across the Moon」等のボーカルは彼ではなくDizzy Lizzyというファンキーな名前のRAHのWifeが担当している。他にもThe Shadow of Your Loveとか80年代のユーロっぽい結構いい曲。

で、スペースマウンテンだけど、東京ディズニーランドが80年代にオープンした頃、あそこで初めて乗ったバージョンは今のカリフォルニアのやつに近いものだったように思え、カリフォルニアのスペースマウンテンに乗るとあの時の感動が今でも蘇ってくる。FastpassのDistributionが直ぐに終わっちゃってStandby120分待ちでも十分に待つ価値ありってことは間違いないけど、今後待つことがあればiPadミニに「Tax Cuts and Jobs Act」をダウンロードして120分無駄にしないようにしないとね。

という訳で、可決されてみるとそれまでのバタバタが嘘のようで、今では早くも内容を理解してプラニングしたり、コンプライアンスしたりというフェーズにシフトしてしまったThe Tax Cuts and Jobs Act。今後、財務省・IRSから多くの規則、Notice等が出されるだろうな、と思っていたら一昨日早くもNotice 2018-07でテリトリアル課税移行時の一時課税に関するガイダンスが公表されている。

来年早々から気になる条項、特にBEATとか一時課税に関してDeep Diveして書いてみたいけど、今日は年末なのでチョッとポリシー的な角度からこの一年のバタバタの意味するところを考えてみたい。CNNとか見ていると大統領の支持率も低く就任一年目は悲惨でした、というようなニュースが多く、確かにトランプ大統領の言動やTweetには問題が多いのは間違いないけど、こういうみんなが見て喜ぶ三面記事っぽいニュースだけ見ていると、現政権(大統領というよりも行政府)が強かに進めている動きを見逃すとまではいかなくても油断して過小評価してしまうリスクがあるような気がする。

この一年、表向きにはハチャメチャなイメージを醸し出しつつ、実は政策面では保守派が喜びそうな成果を着実に上げた一年ではないだろうか。細かい成果はいろいろだけど、代表的なものを上げると、まずは憲法原意主義だったScaliaの最高裁判事後任に同様の法哲学を持っていると言ってもいい保守派のNeill Gorsuchの任命に成功したこと。控訴裁判所(Circuit Court)への判事任命も多数。控訴裁判所とか地方裁判所、州最高裁とか、連邦最高裁以外の任命って余り注目されないけど、実は米国社会に与える影響力は大きい。John Grishamの「The Appeal」はその辺りの話しをうまく作品化している。興味ある方にはお勧めの一冊。

次に労働問題から環境問題に至る実に広範な分野で行政府で許される限りオバマ政権時代の規制の多くを撤廃または緩和した点。規制緩和は、朝令暮改の表面的なトランプ大統領の言動とは180度逆に首尾一貫して整然かつ冷徹に実行されている観がある。また、国防総省の独立性の回復も前政権からの反転ポリシーだろう。オバマケアの廃案そのものには失敗しているが税法改革の中でオバマケア骨子の一つとも言える個人に医療保険加入を強制する措置を撤廃している。そして年末の31年ぶりの税法改革。

The Tax Cuts and Jobs Actは前述の規制緩和と並行して減税、特に法人のような事業主体に大きな減税を講じることで経済成長を達成するというサプライサイド政策を実現している。1974年のフォード大統領の補佐官だったチェイニーの頃に始まり、1986年のレーガン政権で一定の成果をあげたサプライサイドベースの政策はここに来て更なる進展を見たことになる。減税およびサプライサイドの提唱者はこの税法改革により今後更なる改革が推進され続けることを期待しているだろう。税法の個々の規定に関しては法律を通すために通常では共和党が合意するとは思えないものも残っているが、Big Picture的には法人税21%、テリトリアル課税、5年間におよぶ設備投資減税、とサプライサイドからすると18カ月前ではその審議すら考えられなかったポリシーがLaw of Landになっているというまさに改革という名に相応しい成果と言っていいだろう。こんなことを就任一年目で達成してしまったにもかかわらず無能振りばかりがメディアで報道され、その成果はまるで闇に葬られているかのように触れられないのはやはり人柄だろうか。もしかしたら一般人が気づかぬ間にしたたかに仕組みを変えてしまう演出だったりしてね。

と、余りポリティカルな話しをしてもしょうがないので次回からはいくつかの規定そのものに関してもう少しDeepに触れてみたい。

Friday, December 22, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(18)「そして税法改革は大統領署名で今日最終化」

う~ん。昨日の騒ぎはなんだったんだろうか。PAYGO適用免除は微妙と言うことで大統領は敢えて署名を1月にするかもしれないとまことしやかに伝えられていたにもかかわらず、昨晩、いとも簡単に税法改革法に関してPAYGO適用免除が議会を通り、今日午前中にトランプ大統領が法案に署名した。これをもって税法改革法案「The Tax Cuts and Jobs Act(H.R.1)」はついにLaw of Landとして成立したことになる。昨日の段階で「もしかして財務諸表への影響は次の四半期?」と考えた会計担当の方にとってはとんだ糠喜びだったことになる。最後の最後まで見せ場満載の立法手続きでした。

Thursday, December 21, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(17)「税法改革はクリスマスプレゼントではなくお年玉に?」

昨日12月20日に両院を通過し、ホワイトハウスの「South Lawn」で派手に祝賀会まで催された米国税法改革だけど、ここに来て大統領による署名は1月明けとせざるを得なくなる立法プロセス上のギミックが生じている。祝賀会でもホワイトハウスが昨日ポスティングした公式声明でも「米国民に最高のクリスマスプレゼント」と自画自賛されているが、ひょっとするとクリスマスプレゼントではなくお正月のお年玉になってしまう可能性があるらしい。6月に「米国税法改正は七面鳥かチョコレートか」というタイトルで税法改革成立のタイミングを占った記憶があるが、まさかクリスマスプレゼントかお年玉の選択となるとは。

これは米国の財政赤字増加抑制目的で規定されている「2010年Pay-as-you-go」法(略して「PAYGO」)という財政法に基づき、減税など歳入減や新たな歳出を法制化する際には、義務的経費を削減したり増税したりして財源確保をしないといけないというきまりを原因とする。

12月に署名され法律として成立してしまうと即、義務的経費の削減が法的に必要となり、Medicareの支払いなどが抑制されてしまうということだが、これを1月明けの署名とすることで抑制を2019年に先送りできるというギミックだ。そのためだけに税法改革の署名を1月にという戦略が浮上しているとのことだ。なんだかな~って感じだけど制度だから仕方がない。

で、今回の税法改革に基づく減税額に見合う義務的経費を2018年にしても、2019年にしても削減するのかというと、実際には議会がPAYGOの要件を特定の法案に関して「Waiver(免除)」することができる。ただし、Waiverは予算決議に基づいて通過した税法改革法と異なり、通常の手順を踏む必要があることから、上院では50票ではなく、60票の賛成が必要となり共和党だけではWaiverを通すことができない。

税法改革を共和党の派閥政治で通過させた今、民主党がWaiverに賛成するとは考え難い。ただ、一説によると今週ギリギリにWaiverを通すと、トランプ大統領はフロリダ州パームビーチにある別荘Mar-a-Lagoに行ってしまっているのでホワイトハウスではなく別荘で署名することとなる。すると報道の際に「やっぱり富裕層のための税法改革か・・」と受け取られ易いのではないかという民主党側のイメージ戦略もあり、そのためだけにWaiverに賛成するかも、という声もあるようだ。

ただ、米国憲法に基づき、大統領に送り込まれた法案は10日以内に署名しないと法律となるか、または議会が散会している最中に10日経つと実質拒否権発動同様となるという規定がある。まだ法案そのものがホワイトハウスに送られてない可能性もあり、どこから10日を数えるのか、また休日とか祭日とかをどのように数えるのか、とか細かい点を考えないといけない。まさか、数え間違えて法案失効なんて間抜けな真似はないと思うけど。

なんにしても署名が1月1日とか2日になると12月31日とかと違って財務諸表に影響を取り込むのが3月決算の企業だと第4四半期になり、12月決算企業だと翌期の第1四半期にずれ込み、後発事象で開示とかはあるかもしれないけど、若干クリスマスとかお正月にリラックスできるかもね。いずれにしても税法自体は予定通りに1月から効果を持つこととなる。

Wednesday, December 20, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(16)「最終法案ようやく可決。年内成立に」

最後まで見せてくれた立法プロセスだったが大方の予想通り水曜日に下院が「形式的」に再投票し、ここ2カ月のローラーコースターライドに終止符が打たれ年内に税法改革が成立することとなった。考えてみれば1月にトランプ政権が誕生して以来、税法改革の動向に振り回された一年だったと言える。

「Long and Winding Road」だったけど、税法だけでなくポリティクスに関しても考えさせられるプロセスで普段勉強する機会のない切り口にも多く触れることができ、31年振りというめったにない機会に恵まれたのはラッキーだったと言える。一世代に一回の太陽の皆既日食を見ることができたような気分。

で、今までは毎日のように変わる法案を追いかけるのにフォーカスして来たのでじっくりと個々の規定そのものに突っ込んで書く時間もなかった。そもそも法律そのものも不完全な部分も多く今後の規則、Notice、Technical Correction等で補完される必要があるだろう。今後は個々の条文で興味深いものに関してDeep Diveしてみたい。

Tuesday, December 19, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(15)「最終法案上院可決。明日下院再投票」

火曜日夜中過ぎ、上院が若干テクニカルな修正を行った後の両院一致案を可決した。John McCainは治療の関係でアリゾナの実家に戻ってしまったのでDCには登場できず一名欠員の全員で99名。残りの全共和党議員51名が全員賛成を投じ51対48で可決している。

下院は一旦既に火曜日の日中に可決しているんで、本来であればこれで法案可決、大統領の署名を持って法律成立となるところだったんだけど、下院が可決したバージョンは上院先例専門委のとんだちゃちゃが入る(?)前のものだったので再度投票の必要が生じている。火曜日の一回目の投票では両院一致法案は227対203という大差で可決されている。共和党からは州税控除がなくなることで痛手を被る有権者が多く存在するニューヨーク、カリフォルニア、ニュージャージーの議員数名が反対に回ったが、明日の朝の投票も同じような票数で可決となるだろう。

技術的には大統領が拒否権を発動せずに署名するまで法律ではないが、オバマ大統領ならいざ知らず共和党のトランプ大統領が拒否権を行使するはずもなく、このまま今週中には成立して本当にクリスマスまでに法律化されることとなる。早くてもバレンタインデーのチョコじゃないの、なんて言われていたのがついこの前だけど、ここまで一致団結できたのもオバマケア廃案の失敗が教訓にあるんだろうね。

それにしても上院議員は毎週の午前様で大変そう。かなり高齢の議員も多いので体調管理に気を使ってるんだろうけど、みんな丈夫だよね。文武両道というか文武両闘というか立派です。それではまた明日。

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(14)「最終法案の一部に上院ルール違反。下院は再投票?」

最後の牙城Susan Collinsが賛成を表明し既に可決は既成事実となった観もある米国税法改革だが最後の最後でまた新たなTwistが生じている。今日、米国時間火曜日早々に下院をパスして、夕方にも上院可決の段取りだったが、ここに来て上院先例専門委(Senate Parliament)が法案の一部を上院ルール違反と判断し、法案から一部の規定の削除を求めている。大きな変更ではないと思われるものの、手続き的に新たな障害、ステップとなる。上院先例専門委と言えば上院案が最終化される局面でTriggerメカニズムにNGを出した前例がある。

おそらく今晩の上院可決は問題の条文を削除した後に行われるのでそれで済むのではないかと推測されるが、下院は既にオリジナルバージョンで今日通してしまったので明日にでも再投票するようだ。う~ん、本当に最後まで見せて(笑わせて?)くれる。

Friday, December 15, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(13)「両院一致法案原文公表・週明けの本会議投票までいよいよ秒読み」

今日2017年12月15日、予定通り両院協議会は先に各々可決されていた米国税法改革上院案および下院案を両院一致法案としてまとめ、その内容を公表した。説明書500ページで法文と合わせると合計1,000ページの大作だ。毎週寝不足。で、内容的にはここ数日の憶測から大きく乖離はないが、実際に両院一致案として改めて公表されてみるとやはり迫力が違う。この一致案は少なくとも両院の共和党指導部プラス大統領府(ホワイトハウス)は全面的に合意している内容で、最後の最後までの交渉で基本共和党議員のほとんどが賛成票を投じるものと推測されている。来週明けにはいよいよ両院各々の本会議で最終投票となり、再度可決される必要があるが、上院はかなりいい方向に行っているものの最後まで予断を許さない。最後までなかなか見せてくれる。

この土壇場で上院Wild Cardの筆頭だったのはMarco Rubio。子女控除の還付可能額が足りないということで、早々に反対票を投じる姿勢を明確にしていた。実はこれには背景があり、上院案の修正過程でMarco Rubioは法人税を20.94%(結構、細かいよね)に上げて、それを財源として子女控除を拡充するという案を提出したが、大差で却下されている。しかし、その後、他の恩典を認めるために法人税率が21%に忍びあがったのを見て、自分の主張する恩典には耳を傾けなかったくせに、と意固地になってしまったというものだ。う~ん、もちろん子女控除還付を数百ドル上乗せするっていうのも立派な主張だとは思うけど、上院案では相当ここに力を入れて既に$2,000の税額控除かつ物価スライド調整まで規定してくれていることを考えると、これが理由で31年振りの税法改革がお流れというのはチョッと不均衡な気がしないでもない。って誰もが感じるだろうから、そこでMarco Rubioおよびその仲間のMike Leeの意見も最後の最後で取り入れて、Child Creditの還付可能額を$1,100から改め$1,400まで拡充した。これで上院可決の見込みは大きく上がったと言えるだろう。

2週間前の上院案決議で反対票を投じた唯一の共和党上院議員のBob Corkerは引き続き財政赤字面での懸念からなかなか賛成と言わずに法文原案を見てから決めたいとしていたが、金曜日の夕方になって満を持した感じで賛成票を投じると宣言した。Corkerは財政赤字が米国の将来に与える影響と経済成長に不可欠と言える米国税法改革を可決させる必要性、のバランスを考えて自分が決定投票件を握っているつもりで臨むと心の内を明かしていた。でも、この「つもり」の部分だけど、他に2人造反が出ると本当に彼がCasting Voteになるのでシャレになっていない表現だったと言える。で最終的には法案には多くの欠点がある一方、米国ビジネスのグローバル競争力アップのため一世代に一度の改革のチャンスを逃す訳には行かないという結論に至ったと決定の経緯を話している。なるほど。上院案の投票時には自分だけが反対、すなわち法案自体は可決されるのを見込んで敢えて反対の意思表示をしていたとも考えられる。ポリティクスは奥深い。

ちなみにCasting Voteと言えば、50・50のタイになった際に決定投票を行うのは副大統領のペンスだけど、ナンと彼は来週のイスラエル訪問を延期して決定投票が必要な局面に備えてDCでスタンバイするそうだ。表向きには「時代が動く歴史的瞬間」をDCで自身の目で見届ける、というようなことらしいけど実はCasting Vote緊急発進のためのスタンバイ目的である点は見え見え。緊迫~。

後はSusan Collins。不動産税の控除が上院案でも認められて今ではすっかりご機嫌かと思いきや、以前から燻っているオバマケアの部分的廃案とも言える、個人に医療保険加入を強制する部分の撤回に未だに難色を示しているようだ。上院多数党院内総務のMitch McConnellとの間で強制を撤回した後の保険料安定のための法案を別途通すという密約(と言ってもみんな知っているので約束だね)をしているということだけど、この手の法案には下院が難色を示す可能性が大で、その辺りのもやもやが残っているんだろう。ただし、冷徹に考えると上院共和党は2票までは票を失っても法案を可決できるのでBob Corkerが「Say Yes」となった段階でSusan Collinsのレバレッジは相当低下したと言わざるを得ない。

パススルー課税の一層の恩典強化を求めていたRon Johnsonだが、パススルー事業所得の23%を非課税とするという案が両院すり合わせ段階で20%に減額されたものの、個人所得税の最高税率区分が37%に落とされた点を評価して賛成に回っているとされる。

賛成、反対の議論とは別だけど、John McCainとThad Cochranの上院議員2名は体調不良で今週は入院中だった。来週の投票に参加できるのかどうか定かではないが、このために本来は上院を通してから下院と言う順序を逆にするかもしれないと言う。さらにそうすれば、上院がいろいろと議論している間に下院が税法改革を通し、22日時点で政府活動停止を避けるための継続予算決議(Funding Bill)にフォーカスできるというメリットもあるそうだ。

と、まだまだ目が離せない状況ではあるけれど、流れは明らかに週明けの可決に傾いているように見える。 で、肝心の両院一致案の規定内容はと言うと、多く面で上院案を踏襲していると言える。すり合わせ段階で加えられたメジャーな修正は次の通り。

まずは法人税。ここ1~2週間のポスティングで触れてきたように最終的には21%で落ち着いている。税率低減のタイミングだけど、最終的には下院案に準じて2018年からとなる。もし来週トランプ大統領の署名にまで漕ぎつけると12月で終わる四半期内のイベントなので財務諸表の処理が大変そう。 Ron Johnsonが頑張ったパススルー課税に関しては上述の通り、個人オーナーが自営業およびS法人を含むパススルー主体経由で認識する事業所得の20%を非課税とする方向で最終化されている。建築家協会等から「僕たちだって雇用を生み出しているのになぜ・・」と抗議の声があがっていたが引き続き人的役務に基づく事業は対象外とされている。法人のAMTは上院案では存続だったが、以前も触れた通り余りよく考えずに温存された経緯があり、最終的には原案通り法人に関してはAMT撤廃となった。

NOLに関しては上院案に近く、2018年および以降の課税年度に発生するNOL繰越期限は廃止され無期繰越が可能になった一方で繰戻は撤廃。下院案にあった毎年NOLの金額に4~6%の金利を付与してくれるという寛容な策は日の目を見ていない。NOL使用額は繰越年度の課税所得80%を上限とするとしている。上院案では元々2023年および以降の課税年度に80%制限だったが、これがいきなり2018年3月期(暦年べースだとこの規定だけは2017年のNOLから?)または以降に発生するNOLに適用となるようだ。

設備投資減税は基本上院案を踏襲しているが、中古資産でも納税者にとって新規取得であれば認められるという点は下院案を採択している。

日本企業は米国オペレーションに対するDebt Pushdownを徹底していないので、レバレッジのレベルは他の国からのInboundや米国MNCに比べると相対的にかなり低く、その意味では関心レベルが比較的低かったイメージがあるが、ネット支払利息損金算入制限はやはり気になるところだろう。ネット支払利息の損金算入制限は両院一致案となる前は基本的に2つの異なる規定で強化されていたが一つだけになった。生き残ったのはAdjusted Taxable Income(ATI)の30%を超えるネット支払利息の損金不算入というもの。これは既存のSection 163(j)(従来のアーニングス・ストリッピング規定)を撤廃する代わりに支払先がどこでも関係なく適用するという広範なもので「新」Section 163(j)となる。ATIの定義が下院(=EBITDA)と上院(=EBIT)と異なっていた。最終的には2021年まではEBITDA、以降はEBITとなっている。ちなみにここで言うEBITDAとかEBITのEarningsはBookではなく課税所得から計算を始める金額。損金不算入額は永久に繰越可というのも従来のSection 163(j)と同じだが、過去から繰り越されている旧来のSection 163(j)の未使用支払利息の扱いは未だに不明だ。

もう一つ提案されていた支払利息の損金算入を多国籍企業グループ全世界Debt/Equityレシオに基づき損金算入制限しようとする規定は取り下げられている。なかなか面白い。

国際課税に関しては海外子会社(10%以上投資先)からの配当非課税、すなわちテリトリアル課税制度への移行は既定路線だが、ショッカーなのは制度移行時の未配当原資累積額に対する一括課税率。The Blue Printでは8.75%か3.5%だったのが、財源の関係からどんどん上がりナンと今では15.5%(事業資産に再投資されているケースは8%)。ここは簡単に%を変えるだけで相当な歳入にもなるし、共和党にも余りこの%に固執する議員もいないため「Easy」な財源となってしまったのだろう。8年間の分割納付は可能で、部分的に外国税額控除あり、という点は従来通り。

日本では必要以上に恐れられている観のある多国籍企業グループに対する「Base Erosion Minimum Tax」。幸いなことに下院案に盛り込まれていた大胆な20%ペナルティー課税は日の目を見ていない。で、上院案がほぼそのまま採択されている。この上院案、以前のポスティングではBEMTって勝手に略してたけど、この税法を規定する法文タイトル「Base Erosion and Anti-Abuse Tax」を略して「BEAT」って言うのも最近広く流通している。BEMTって発音し難いけど、BEATだったらゴロがいいからこっちの方が断然勝ちだね。Beatなんて言うとFM Stationみたいで楽しいけど、実は全然楽しくない内容。

このBEAT、簡単に言うと通常の課税所得にBase Erosion Benefitを加算処理して修正課税所得を算定して、それに10%(2026年からは12.5%)を掛けて通常の法人税より高ければ差額をBEATとして納付というもの。最終案では導入年度となる2018年に関してはこれを5%にするという軽減措置が規定されている。で、何がBase Erosion Benefitかと言うとBase Erosion Paymentに基づく損金算入額のこと。Base Erosion Paymentっていうのは米国法人が米国外関連会社にに行う費用項目および資産取得支出。ここで面白いのはInversionしていった法人に対するケースを除き、売上原価は対象外でBase Erosion Paymentに当らないとされている点だ。下院案では金利も免除されていたが、最終BEATでは金利も含まれるようだ。したがって網掛けの対象となるのは金利、、ロイヤリティとかサービス費用とかになる。日本企業の場合、保証料なんかを支払っているケースも多いがそれも対象だ。大概のこの手の規定がそうであるように、30%源泉税対象となる支出は対象外となる。それはそうだよね。源泉税が30%のままと言うことは普通の法人税20%より高い税金を既に支払っているんだから。条約で源泉税が低減されている場合には低減相当分額がBase Erosion Payment扱いとなる。で、ここでいう米国外関連会社は、25%株主、25%株主または該当米国法人の50%超の資本関係にある者、又は米国移転価格税制上関連者と扱われる者とされている。

このBEATだけど、先に触れたSection 163(j)と異なり対象は比較的サイズの大きい多国籍企業グループだ。したがって、BEATの適用はグループ売上$500M以上(50%資本関係グループ総額、ただし外国法人の売上は米国事業関連の部分のみ)およびBase Erosion Paymentが全体の費用の3%以上の法人(REIT・RICは除外)となる。

最後に所得税で特筆すべきは最高税率の37%への低減、住宅ローン金利個別控除を$0.75M新規取得コストまで容認、不動産税、動産税、州・地方所得税、または売上税を$10Kまで個別控除容認、程度だろうか。法人と異なり個人のAMT撤廃はかなわずそのまま存続となった。共和党が党是として拘り続けた遺産税およびGeneration Skipping Transfer Taxの廃案だけど、結局背に腹は代えられないということで非課税枠を増額しながら存続となった。

さあ、これで後はいよいよ来週前半の本会議最終投票。果たしてDCでスタンバっているペンス副大統領は登場のチャンスのないまま「歴史が動く劇的瞬間」を見届けるだけで済むでしょうか?

Tuesday, December 12, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(12)「法人税率は結局21%?そして共和党議席は51に?」

前回のポスティングでは今週がいよいよ31年振りの税法改革可決に向けての天王山ウィークであるというところで終わった。また、タイミング的にはおそらく両院協議による法案の一本化は今週中に終わり、金曜日には最終法文原案が完成され、翌週12月18日から上院そして下院で一致案が決議に掛けられる予定である点にも触れた。

そんな天王山ウィークも早くも2日が終わり明日は水曜日。今日はアラバマ州上院補欠選挙でもある。今夜の速報によると89%開票時点で、民主党候補のDoug Jonesが49.6%の得票で、48.8%の共和党候補Roy Mooreを抑えて勝利宣言間近だそうだ。 え~、ってことは新上院議員が就任してしまうと上院の共和党議席は更にひとつ減って51となる。この選挙の税法改革に与えるインパクトは「米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(9)「いよいよ両院すり合わせ – ここからの展開?」」を参照して欲しい。今日の開票結果を受けて22日には新アラバマ上院議員が就任するというタイミングで、税法改革はますますその前に終わらせておかなくてはならないということだろう。

さて、そんな天王山ウィーク。途中経過を報告するといろんなことがありましてとなるけど、明日の水曜日に形式的に協議会による公聴会のようなものが開かれる。しかしそこで両院すり合わせが行われるかと言うとそんなことはなくて、実際の協議は既に議会議事堂(Capitol)の一階会議室で連日連夜ほぼ秘密裏に行われいる。争点となっているのはBase Erosion Minimum Tax、なんてことは一切なくて、前から言っている通り、個人所得税の州税控除、住宅ローン金利、医療費控除、そしてパススルー課税の低減の拡充、などだ。法人税関係でほぼ唯一議論となってるぽいのは上院案に盛り込まれているAMTの温存策を何とか覆し撤廃に持ち込めないか、という点位かも。後、遺産税も上院案は廃止していないのでイデオロギー的にここも議論されているだろう。

で、前回までのポスティングで散々書いてきた通り、これら諸々の希望を実現させるには財源が必要となる。で、先々週の日曜日に法人税率22%の話しを書いたけど、WSJとかのメインストリームメディアでも20%から22%かそれが問題だ、のような記事が出始めている。その中で興味深かったのはMoody’sが投資家向けに行った説明会で、現時点でのMoody’sのBook上の実効税率は30%程度だそうで、これが1%低減する毎に一株当たり収益が7セントから8セント上がるという試算をしていた。したがって、仮に実効税率が20%になると70セントから80セント一株当たり収益を押し上げる要因となり、全体では$134M~$153Mの収益貢献があるとのことだ。これが22%となると一株当たり収益が14セントから16セント損することとなる計算となる。結構マテリアルな金額だ。

ところがここに来て、20%か22%かという話しではなく、最終的には21%で手を打つという話しも聞こえてきた。州税控除を復活させたり、パススルー課税を更に優遇するのはなかなか困難ということで、その代わりに個人所得税最高税率を37%まで低減して(現上院案38.5%、下院は$1M超は39.6%)、その分の財源を法人税1%アップで穴埋めするという案だ。個人所得税率は元々The Blue Printでは33%と言われていたので、37%でも高いけどね。というのは33%にする代わりに諸々の控除は撤廃してBase Broadeningということだったけど、フタを開けてみたら税率は余り変わらずBase Broadeningという酷い話になっている状態だ。

もうひとつのホットトピックと言える住宅ローン金利控除は下院案と上院案の中間を取って、住宅新規取得ローンの$0.75Mまでに対するものに限定するかもしれないという。$0.5Mと$1.0Mの中間だけど、なんか中学生でもできそうな交渉だね。

一致法案最終化まであと数日。どのようなものが出てくるのでしょうか?

Saturday, December 9, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(11)「上院可決から一週間」

この金曜日の夜中でちょうど上院本会議が税法改革の上院案を可決してから一週間となる。あの後、数日東京に行ったりしたせいか、とても長い月日が経過した気がする。先週の金曜日は上院の可決を待って結局夜中の2時まで起きてるはめになったけど、今週はもっと早く床に付けるから安心と思っていたら、いろいろあって実はもっと遅くまで起きているはめに。う~ん。来週後半も数日東京だしチョッとここらでちゃんとした睡眠を取らないとね。

で、この一週間の進展を見てみると、月曜日には早々に下院が両院協議会に参加するメンバーを選抜、上院も週中には正式に任命している。しかし実際の調整はこの前から水面下で熾烈に進んでいる。今日時点の憶測では来週(12月11日の週)はまだ調整に充てられ、両院での投票は翌週明けと言われている。月曜日が18日だから自主的に設定しているに過ぎないとは言え「Drop Dead Date」と言われる22日にかなり近づいていくこととなる。

争点となって炎上しているのは予想通り、個人所得税の州税控除、子女税額控除、医療費控除、と有権者にとって身近なものばかりだ。法人関係で手が付けられる可能性が高いのは上院案のAMT温存案。金曜日の夜に急に数字合わせ的にまずは個人のAMT温存が決まり、そのついでっぽい感じで法人のAMTも温存が決定されたが、拙速に決定されその影響等が余り熟考されていないのは明らか。先週日曜日のポスティング「法人税率は本当に20%?」で触れたけど、従来は通常税率が35%で、AMT税率が20%だったので、確かに「Minimum税」と言えた。しかし通常の税率が20%(22%かもしれない点は前回のポスティング通りだけど)に低減してAMT税率を20%のままキープというのは余りにおかしい。課税ベースはAMTの方が高いケースが多いので、このままだと全法人AMTというような変な状況が想定される。

「どっちでも20%払えばいいからいいじゃん」と思うかもしれないけど、二つ大きな問題がある。まず過去に支払ったAMTのクレジットを使える局面が激減すること。そしてR&Dクレジットのような通常の税金は減らせるけどAMTは減らせないクレジットの使い道が無くなることだ。これらの問題からAMTに関しては両院協議の過程で廃案に戻るのではないかと期待されている。

これら諸々の手当てをする際には当然新たな財源が必要となる。既に規定されている恩典を削ることでも手当はできるが、そんなことでもしようものならようやく取り付けたサポートが台無しになり兼ねない。先週もNYCのトラフィックレポートと同時に書いたけど、そこで噂されているのが法人税率22%という裏技だ。上院案が可決するまでは法人税率は聖域でそこに手を付けるのは禁じ手と考えられていたが、それが先週末に流れが変わった。法人税率は1%上げると歳入が10年で$100B増えると言われているが、22%にする方向が濃厚になると「それでは・・・」ということで「こんな恩典も温存、または追加して下さい」というリスエストが殺到するに決まっている。もう既に来てると思うけど。来週一週間でこれらの難問を解決させ、可決に必要な票を集めるプロセスを終了させないといけない。なかなか大変そうだけど、ここまで来て失敗は許されないだろう。いよいよ天王山ウィーク。

Monday, December 4, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(10)「法人税率は本当に20%?」

トランプ大統領がNYCに帰ってくる度にマンハッタンMidtownは交通規制が激しくなって結構迷惑。トランプタワーに自宅があるせいか、なんだかんだ言ってよく帰ってくるし。昨日の日曜日もマンハッタンで3件Fund Raisingのイベントがあるとかで土曜日の夕方からトランプが通る道の両側に鉄の柵が並べられ、その沿道にあるNYCのマークの入った大きなドラム缶のようなゴミ箱が一時的に撤去された。普段気にならないけど、良く見るとMidtownの道には各コーナーに律儀に大きなゴミ箱が設置されているのに気づく。でもその割に道に落ちてるゴミは後を絶たないけど。ゴミ箱が撤去されて一番困るのはワンちゃんのお散歩をさせているオーナーだろう(なんでかは分かるね?)。

NYCのポリスは鉄の柵を並べたり交通規制してドライバーが行きたい方向と逆に車を誘導したりするのが実にうまい。手慣れている理由はしょっちゅう世界のVIPが来る度に大規模な警備に駆り出されている実績だろう。UN Weekと呼ばれる9月初旬の国連総会時には世界中の要人がMidtown Eastに集まる。あの週の大規模な規制も実に手際よくこなしている。

トランプの自宅がある5th Aveと56th Streetのトランプタワーの前の56th側は大統領選に勝利した頃から無期限に車では通れなくなっちゃったし。マンハッタン運転する人なら分かると思うけど56thはMidtownの真ん中から北辺りで真昼間に西から東に抜ける必要がある際のベストなストリートの1つだった。40番台は観光客とかでごった返していて結構混むし、50とか52はRockefellerセンター辺りとかがややこしい。54は比較的まあまあだけどYork Aveに抜けることができる一番南のストリートなので需要が高い。57は14、23、34、42、72たちと同様に両面通行の大きめの道で59thブリッジ入口の関係でPark Aveより東、特にWhole Foodsの前辺りで急に混みだすのが普通。それより上はBloomingdaleとかやっぱり59thブリッジの影響で常にスローな感じ。で、56が登場していたんだけど、そこが5thで遮断されてしまった。で、そんなことは今では分かってるからGoogle MapやGPSが何て言おうとそこを抜けるようなルートは使わないけど、昨日、たまたまWest Villageの方に用があって午後早めに家に帰ろうと6th Aveを北上して来たら、Fund Raisingの会場のせいか、42より北で右折という右折が禁止されていて、右折できないだけでも困ったけど更にそのせいで大変な渋滞が引き起こされてて酷い目にあった。ロサンゼルスで405をOrange Countyとかから北上して家に帰る際、空港手前から急に混んできて、慌てて空港出口経由右のThrough TrafficでLa Cienegaに降りてSlauson経由でMDRに帰ろうと思ったらCienegaの方が混んでたりして損した気分になるのと同じ。

って、本当にどうでもいい話しで多くの紙面を使ってしまったけど、何の話かと言うとFund Raisingに帰って来た時にトランプがその間に報道陣に向かって発した興味深い言葉。歴史的な大減税がいよいよ現実になると豪語した後、「法人税は35%から20%だぜ。まあもしかしたら法案すり合わせして俺がサインする頃には22%位になってるかもしれないし、もしかしたら20%のままかもしれないしな。まあ最終的に何%になるかは見てのお楽しみだね。」とでも訳すことができる発言をしていた。

え~、前は絶対15%って一人で言い張っててUnified Frameworkが公表された後は20%が「俺のナンバー」でそれ以上は受け入れないって明言してたのに。でも、この22%って発言、単なる気まぐれではない。両院で法案を一本化させる過程で「こういう控除を足してくれないと賛成できない」とか言い出す議員が登場するに決まってるけど、問題はその際にこれ以上の財源が見当たらないことだ。予算調整法に基づき今後10年の間に$1.5Tを超える赤字を作り出さないようあの手この手を尽くし、挙句の果てにAMT廃案もあきらめたくらいだからこれ以上絞っても一滴の水も出ない。ちなみにAMT(=20%)が撤廃されず、通常の法人税率が20%に下がるとほとんどのケースでAMTになってしまうのでは、とも思われる点も今後の検討課題だろう。セコイ控除を捻り出せないという理由で30年に一回の税法改革がおジャンになってしまってはたまらん、と、なったタイミングで水戸黄門のように登場するのが法人税率22%だ。この辺りを共和党指導部から打診されてトランプとしてもExpectation Managementをしているのだろう。この2%で最後にMarco Rubioとかが押してるChild Credit拡充に充てるとか十分に考えられる。Child Creditはイバンカが力を入れてるのでトランプも娘に言われては・・となったのかもしれないし。まあ22%でもOECD平均22.5%より下だから及第点とも言え、絶対20%でないとダメという話しでもないけどね。

Sunday, December 3, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(9)「いよいよ両院すり合わせ – ここからの展開?」

先週金曜日の夜中過ぎ、午前2時前後に上院本会議を通過し、米国税法改革は31年振りの実現に大きく近づいた。今後の焦点は細かい点で多くの差異がある下院案と上院案の一本化となるが、どんなところが争点となり得るか考えてみたい。

共和党指導部は両院一致案とする過程にそれ程時間を要さないと強気の姿勢を崩していない。本当にクリスマスまでに大統領署名に持ち込むつもりだ。下院は月曜日に上院との一本化協議を担当するチームを正式に任命するとしているし、上院案をそのまま下院が可決すべきと心の中では思っている上院も一応、協議に応じるチームを任命するとしている。下院から見ると上院と一緒に事を進めるのは厄介で「敵は上院にあり」という教訓を口にするものも居るくらいで、ここまで来て喧嘩別れにならないといいけどね。

上院案から余り逸脱してしまうと52議席のうち51議席が賛成に回って可決した上院案の微妙なバランスが崩れてしまうリスクが危惧されるので、最終的にはどちらかと言うと上院案に近いものになるはずだ。細かいところで差異は結構あるとは言え、逆の見方をすれば向かっている方向、赤字容認額等の骨子は同じなので調整可能な範囲内とは言えるんじゃないだろうか。Big-6によるUnified Frameworkが功を奏した(?)のかもね。

共和党指導部が可決を急ぐのはもちろん2018年の中間選挙を見込んだり、今年中に達成するとズッと公言しているという理由もあるけど、実はもうひとつ隠された理由(と言っても僕も知ってる位だから全然隠されてないね)がある。アラバマ州上院議員の補欠選挙だ。アラマバ州上院議員だったJeff Sessionsが司法長官に任命されたため、Luther Strangeが臨時で穴を埋めているが、その後手続き的に紆余曲折あり最終的に2017年12月12日に補欠選挙が開催されることになっている。アラバマはかなり保守色が強い州なので通常であれば共和党が議席を失うことは考え難いが、最終候補者となったRoy Mooreに11月頃から過去における複数のハラスメント疑惑がメディアで報道され、共和党指導部から参選を辞退するような要請があったりして様子がおかしくなっている。もしここで民主党候補のDoug Jonesが勝利でもしようものならただでさえ52議席しかなくて綱渡りしてる状態が更に1議席減って51議席と言う危機的な状況に陥ることになる。更にRoy Mooreと共和党指導部はどちらかと言うと敵対しているので、仮にRoy Mooreが当選しても嫌がらせと言うか既得権への見せしめ的に税法改革に反対するのではないかという懸念もある。ホワイトハウスのブルーベリークイーンのKellyanne ConwayはRoy Mooreは税法改革に賛成だと主張しているけど。何だかどうなるか分からないので余計な面倒を避けるためにはアラバマ州で新上院議員が就任する前に税法改革は片付けてしまいたいということとなる。

具体的な両院の法案内容の差異の中でも、個人所得税の個別控除をどこまで廃止し、何を温存するかは大きな争点だろう。上院案はSusan Collinsを取り込むため、最後の最後になって下院同様に$10,000を上限として不動産税の控除を認めた。一方、住宅ローン支払利息に関しては下院の方が$50万までの新規取得に限定するとしているのに対し、上院案は$100万までで、かつEquity Loan以外はOKと比較的寛大だ。日本から見ていると法人税20%だとかテリトリアル課税だとかが一大事に見えたり、法人税低減のタイミングが一年両院案でズレているので、この辺りのすり合わせに目が行きがちだろう。個人の個別控除はどちらかと言うと些細な変更に見えるかもしれないけど、有権者は皆自然人であり、選挙区の民意動向に敏感な議員たちが気にするのは逆にこの辺りの規定となる。ただでさえ、州や地方の所得税の個別控除廃止で、この手の控除を取っている有権者が多いNY、CA、NJ州の議員はディフェンシブになっているところ、住宅ローン支払利息までも低減されては、という想いが強いだろう。31年振りの大改革が住宅ローン金利の控除範囲に合意できないという理由でお流れになるリスクも十分にある訳だ。日本ではニュースにもならないかもしれないけど扶養子女控除金額なんかもその範疇だ。

次に前回のポスティングでも触れた自営業を含むパススルー経由で事業所得を認識している個人オーナーに対する税負担軽減の部分がどう落ち着くかも見もの。下院案ではパススルーされてくる所得は個人オーナー側で25%で課税されるというストラクチャーとしている一方、上院案ではパススルーされてくる事業所得そのものから23%を控除するという形を取っている。元々この23%は17.4%だったんだけど、Ron Johnsonらの尽力で控除%が上院可決直前に上方修正されている。

The Blue Print以来の外せない聖域かのように見えたAMT廃案が上院ではあっさり可決直前になって取り下げられている。税法の簡素化という観点から見るとこれはかなり逆戻りの感じだけど、Triggerメカニズムが予算調整法に準拠していないという判断が下された瞬間、AMTからの歳入を失う訳にはいかなくなったということなんだろう。オバマケア一部廃案に繋がる個人強制加入の実質撤廃も上院だけの規定だけど、これに反対する下院共和党議員は少ないだろう。

日本企業が恐れていた関連者からの仕入れ、その他の支払いに対する20%ペナルティー課税は幸いにも上院案には規定されていない。以前にも触れた通り、上院のBEMTは下院案に比べるとかなり手緩いというかもう少し普通の規定だ。

という訳で余りにStakeが大きい両院一本化プロセスでした。

Saturday, December 2, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(8)「上院も本会議可決(AMT廃案取り下げ)」

今日12月1日夜中過ぎ、上院は数日の駆け引きを経て税法改革法案を51-49で可決した。多数党院内幹事のJohn Cornynらは金曜日朝から可決に要する十分な票を集めたと自信を見せていたので驚きはないけどやはり実際に可決してみるまでは分からない際どいプロセスだっただけに共和党指導部は一安心だろう。下院は先に独自の法案を可決させているので、後は両院一致法案にまとめたものを両院で可決し、大統領の署名という流れとなる。もちろんこれらの手続きがスムースに行くという保証はないが、以前から散々触れている通り、オバマケア廃案に失敗している以上、ここで税法改革も通せないとなるとそもそも何のために与党をしているのかという基本的な疑問を呈されることとなり、可決に対する共和党議員のインセンティブは大きい。

それにしても上院財政委員会を通過した後の水面下での政治交渉は熾烈を極めていた。そのプロセスは議会が休会していたThanksgivingの週も24/7で行われたいたはずだ。

Thanksgivingに突入するタイミングでは複数の潜在的な造反議員が存在していた。何といっても共和党は上院過半数を押さえているとは言え、52議席しかない。100議席の上院を多数決で通すには、ペンス副大統領のCasting Vote(可否同数の場合の決裁権)を考えても3人造反が出てしまうと全てが水の泡と言う際どいところにある。そんな首の皮一枚の状態で、反対票を投じる可能性のある議員が複数いたのだからその説得は慎重かつ熾烈を極めただろう。

潜在的な造反者の反対理由は複数あるが、大別すると法人税が35%から20%に低下するのに比べて小規模事業主に対する手当が十分でないとするRon Johnson、Steve Daines、財政赤字を嫌ういわゆるDeficit Hawk派のBob Corker、Jeff Flakeそして上院案に追加されたオバマケアの一部廃案規定を嫌うSusan Collins、Lisa Murkowski、法制化プロセスの透明性を重要視するJohn McCain、そして予見可能性の低いRand Paul、となる。

まずSch. Cで報告する自営業を含むパススルーから所得を得る個人事業主に対する税負担軽減が法人税低減に比べて十分でないとするRon Johnson一派。Ron Johnsonはこの点を理由に真っ先に法案に反対という態度を表明して世間を驚かせていたが、下院議長でもあり今回の税法改革法案の可決に政治生命を掛けていると言っても過言ではないPaul Ryanと同じウィスコンシン州の議員であることもあり、実際には最終的にRon Johnsonが反対票を投じると信じていた者は少なかったはずだ。投票直前にパススルー所得に対する控除額が増額されてSteve Dainesと共に賛成に回った。

次のDeficit Hawks派だけど、木曜日の段階では財政に与える影響を最小限とするため、経済成長率が予想通りの数値に到達しない場合には自動的に税率が上がるというクリエイティブな「Trigger」というメカニズムを導入することで解決を見たかのようにみえた。ところが上院先例専門委(Senate Parliament)がTrigger規定は予算調整法手続きの要件を充たさないと判断したことから他の方法で歳入を増やすこととなった。この歳入アップのためのイケニエとなったのがAMT廃案取り下げ、また、テリトリアル課税移行時の一時課税率だろう。一時課税率は上院案も結局、下院案よりも高い14.5%(事業資産に再投資されていれば7.5%)に変更されている。結果、Jeff Flakeは賛成となったが、一方のBob Corkerは反対票を投じた唯一の共和党上院議員となった。

オバマケアの個人に医療保険加入を強制する規定の撤廃は実質オバマケアの部分的廃案とも言えるが、これが上院税法改革法案に盛り込まれた点に関して、もともとオバマケア廃案そのものに慎重な態度を見せていたSusan CollinsとLisa Murkowskiは難色を示す可能性があった。Susan Collinsは上院案も下院同様に$10,000を上限に不動産税の個別控除を復活させた点を評価して賛成に、一方のLisa Murkowskiはアラスカ州ノース・スロープ自然保護区の油田開発が税法改革法案に追加されて点を評価(?)して賛成に回っている。みんな結構チャッカリ者な感じ。

そしてオバマケア廃案の最後の試みに引導を渡したJohn McCainだが、今回は財政委員会で法案内容に十分な議論が尽くされた点を評価してこちらも賛成となった。最後に、予算案決議で一人反対票を投じ、自宅の造園(?)で以前からもめていた近所の隣人に襲われて肋骨6本を折ったRand Paul先生も今回は賛成となった。 結局、造反容疑者リストから実際に反対票を投じた議員はBob Corker一名だったことになる。Bob Corkerは投票後に「できれば賛成したかった。両院一致案とする際にもう少し財政面からの配慮が加えられれば最終的には賛成もあり得る」としている。

これで下院、上院の両院で各々の法案が可決。いよいよ両院合同委員会による両院一致法案の作成を残すのみとなった。ここまで来て両院一致化のプロセスでコケないようにね。

Saturday, November 18, 2017

米国税法改正案「Tax Cuts and Jobs Act」(7)「上院も委員会可決」

昨日11月16日、税法改正下院案が本会議を可決した段階で税法改正の当面の手続き的なフォーカスは上院、特に上院財政委員会に移った。Britney Spearsじゃないけど「All Eyes On Us」の気分だっただろう。で、それに応えるように今度はAdeleの「Hello from the Other Side」で、同日、財政委員会で上院案が可決された。

これで後はThanksgiving直後の上院の本会議審議、そこを通過したら両院一致法案化というプロセスを残すのみとなった。法案可決に至る手続き的な話しは「米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(5)「上院案骨子公開・下院はついに本会議に」」で詳しく触れているのでそちらを参照して欲しい。

もちろん上院における今後の展開はオバマケア廃案の失敗でも分かる通り予断を許さない。ただ、ここで税法改正も実現できないとなるとなんのために与党をやっているのか分からない、と認識している共和党議員も多いだろうから、何か達成しないといけないというプレッシャーは大きい。気になるのはもう再選を気にしなくていい議員が数名いることだろうか。

下院の歳入委員会同様、財政委員会も最後の最後まで修正案を出し続けていたので本会議に掛かる上院案の姿は分かり難い。下院と異なり、公表される文書が法文原案そのものでなく、中途半端な「Description(説明書?)」というのも我々専門家の立場からすると不親切だ。とは言え、現時点で分かる範囲で日本企業に関係が深そうな上院案の規定をザックリとまとめると次の通り。読んで分かると思うけど、下院案とは結構異なっている。う~ん、あんまり違っちゃってると仮に上院を可決してもその後の両院一致調整に苦労しそう。

まず、法人税率は下院案同様に20%だけど、発効のタイミングが一年遅れて2019年度から。法人税率低減の時間差に代表されるように上院は予算決議調整案の10年間は$1.5Tの赤字OKだけどそれ以降の期間に赤字はダメというByrd規定に敏感なので、歳入減に繋がる複数の規定が時限化されたりしている。パススルーや個人事業から所得認識する個人オーナーに対する課税は下院同様軽減はされているけど、アプローチは異なり、パススルーしてくる事業所得の17.4%を非課税処理するというもの。下院同様に人的役務に基づく事業は対象外とされる。AMTは撤廃。

設備投資減税はほぼ同じで、2017年9月28日から2022年末までに取得される動産事業資産が100%初年度償却対象となる。既存のボーナス償却対象資産に加えて、映画・テレビ・劇場プロダクションを含むと追加で規定された一方、公共ユーティリティ用途資産は対象外とされる。米国製造者控除(Section 199)は予想通り撤廃となる。

現状では期間費用として損金算入が認められている米国内で行われる研究開発費用が2026年より5年償却、米国外で行われている場合には15年償却の対象となる。また、2018年および以降の課税年度に発生するNOLは繰越期限が撤廃される一方、繰戻も撤廃。ここは下院と同じ。NOL使用額は繰越年度の課税所得90%上限。下院と似てるけど上院案は90%の制限に抵触するNOLは2018年および以降の課税年度に発生するNOLのみに見える。この90%制限は2023年および以降の課税年度には更に80%に減額される。

最後まで燻っていた上院独自のCorporate Integrationアプローチに基づき法人の二重課税を是正する方向かと思いきや、全く逆で配当所得に対する法人税低減の恩典を打ち消すため、内国法人が受け取る内国法人配当に対する非課税措置(DRD)を現状の70%(持分20%未満のケース)から50%に、現状80%(持分20%以上80%未満のケース)から65%に減額するとしている。

次に下院案でも話題のネット支払利息損金算入制限だけど、上院案ではAdjusted Taxable Incomeの30%を超えるネット支払利息は損金不算入としている。下院案でもこの「Adjusted Taxable Income」という用語を使用していて似てるけど、定義が異なるので注意が必要。下院の言うところのAdjusted Taxable IncomeはEBITDAだけど、上院のAdjusted Taxable Incomeは利息前の課税所得と規定されている。償却費用を加算できない分Adjusted Taxable Incomeの金額が低くなり、よって制限に抵触し易い。また損金不算入額は下院案は5年繰越だけど、上院案では永久に繰越が認められる。

また、米国多国籍企業グループのネット支払利息を全世界Debt/Equityレシオに基づき損金算入制限するという規定もあるんだけど、説明文書のタイトルを読むと米国に親会社がある場合にのみ適用と書いてある。一方で説明書本文を読むとIncludable Corporationは外国法人も含むとなっている。今回の上院案は未だに法文原案そのものは発表されていないので、米国外の多国籍企業グループへの適用は本当にそうなのかどうか若干不明だ。法文ではないDescriptionという形で公開されているのがひとつの問題なんだけど、不明確な理由は当制限規定目的で「Common Parent」を「Includable Corporation」の一人とみるかどうかという点。Includable Corporationであれば外国法人を頂点とするグループも対象となるかのように見える。この点に関して大元のSection 1504を見ると、Section 1504(a)(1)(A)のAffiliated Groupの定義冒頭部分で「The term “affiliated group” means 1 or more chains of includible corporations connected through stock ownership with a common parent corporation which is an includible corporation」となってる。この表現をもって法解釈的にCommon ParentもIncludable Corporationと考えるのか、それともCommon Parentは別カテゴリーだけどIncludable Corporationの要件を充たした法人しか成れない、と考えるか若干不明確。でもどちらにしてもIncludable Corporationに外国法人も含むとしている以上、米国多国籍企業グループだけでない気もするけど、タイトルは「Denial of deduction for interest expense of United States shareholders which are members of worldwide affiliated groups with excess domestic indebtedness」と言い切っているのでこっちの方が正しい気もするし、どっちとも判断し難い部分がある。

そして今や余り関係ない納税者が多いように思うけど、輸出促進策のDISCおよびIC-DISCはようやく撤廃となる。これらの規定の末裔のSection 199自体が撤廃だからDISCとかが生き残るのはおかしいもんね。

次にクロスボーダー系だけど、海外子会社(10%以上投資先)からの配当は非課税で下院同様にテリトリアル課税制度に移行、更に未配当原資累積額に一括課税となっている。一括課税の税率は上院の方が低くてCash Position部分が10%で、事業資産に再投資されているケースは5%。8年間の分割納付可能で部分的に外国税額控除ありという点は下院と同じ。

で、下院案で日本企業に最も注目されている規定のひとつと言えるExcise Tax(およびみなしPE課税選択)に代わる上院案が「Base Erosion Minimum Tax」というやつ。比較すると上院案の方が優しい気がする。Based Erosion Minimum Taxって長いのでここでは勝手に略して「BEMT」ってしとくけど、このBEMTは米国法人が支払うBase Erosion Paymentが損金算入されている場合(費用または償却)、その金額をBase Erosion Benefitとして、通常の課税所得に加算処理して「修正」課税所得というものを算定する。で、これに10%を掛けた金額が通常の法人税より高ければそちらをBEMTとして支払うという仕組みだ。10年間を超えて赤字になってはいけないという縛りの関係から最後に修正が入り、この10%は2026年からは12.5%に上がることになっている。 このBEMTの対象はREIT・RIC以外の米国C Corporationで、50%資本関係にあるグループ売上が$500M以上、さらに対象米国法人のBase Erosion Benefitが損金算入額総計の4%以上の納税者とされる。

Base Erosion Paymentは米国法人が米国外関連会社に行う費用項目および資産取得支出とされ、マークアップの説明では売上原価は対象外と明記されている。下院は仕入にかかわる支出も特定支出として20%ペナルティー課税の対象なので、この点上院案は対照的で、この差は大きい。ここで言う関連者は25%株主、25%株主または該当米国法人と50%超の資本関係にある者、又は米国移転価格税制上関連者と扱われる者と規定されている。

下院の特定支出同様、30%源泉税対象となる支出は対象外で、条約で源泉税が低減されている場合には低減相当分額がBase Erosion Payment扱いとなる。という訳で下院の20%ペナルティー課税と比較するとかなり合理的。それだけ聞いたら酷いニュースでも、先にもっと酷いニュースを聞いた後に聞くと、グッドニュースかのように聞こえる例の典型かもね。

もう一つ日本企業に影響がありそうなのは、米国でECI・PE事業所得を認識するパートナシップ持分を外国人パートナーが売却する際に、あたかもパートナシップ内部資産の持分相当を売却したかのように扱われ、結果として資産のタイプ次第では、その分パートナシップ持分売却益がECI・PE課税の対象となるというもの。これは以前のポスティング「外国法人による米国パートナシップ持分譲渡・売却」で触れたGMMケースでIRSが主張して裁判所に退けられたRR91-32のポジションを法制化しようとするもの。まあ以前からこの動きはあったので想定の範囲内。RRとかセコイやり方、っていうか行政府が法律を変えるような真似しないで、ちゃんとこうやって立法府である議会が法律を変えてくれたら揉めることもないし反ってスッキリする。

という訳で「All Eyes On Us」の感謝祭直後の上院本会議審議に注目しよう。

Thursday, November 16, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(6)「下院ついに本会議可決」

先週木曜日に歳入委員会によるマークアップが終了し本会議審議に入っていた下院税法改正案が今日、227対205で可決された。採決に先立ちアジアからDCに戻って間のないトランプ大統領はDCの国会議事堂(Capitol)の地下にある会議室HC-5で下院共和党議員に最後の念押しをしたと言われる。トランプ大統領が念押しをするまでもなく可決は事前の票読みに基づきここ数日既定路線になっていたと言える。そのせいか今のところオバマケア廃案が下院を通過した際に見られたようなホワイトハウスの庭における下院共和党指導部と大統領の集合写真大会のような企画は未だ見ていない(これからかもね)。Paul RyanやKevin Bradyはこれで一安心だろう。ちなみに予想通り民主党議員は全員反対票を投じている。ということは13人の共和党議員も反対票を投じたことになる。おそらくNY州、NJ州、CA州の州税控除反対チームだろう。下院の可決には最低218票必要なので、今回は9票それを上回っている。

これで又一歩31年皆が慣れ親しんだ「Internal Revenue Code of 1986」に別れを告げて「Internal Revenue Code of 2017」が実現する日が近づいた。だけどまだまだ油断大敵。ウィスコンシン州上院議員のRon Johnsonはパススルーに対する恩典が少ないという理由で現状の上院案には反対表明している。他にもオバマケア廃案で反対票を投じた複数の反対票予備軍というか容疑者がいるが、John McCainは今のところ反対とは言っていない様子。オバマケア廃案の最後の試みに引導を渡したアラスカ州上院議員Lisa Murkowskiも今のところ比較的ポジティブ。一部にはLisa Murkowskiが推進しているアラスカ北部のノース・スロープ自然保護区の油田開発関係の法案が税法改正に関連して認められる可能性がある点が影響しているとも言われている。いろいろとポリティカル。 上院案は未だ委員会でマークアップ中なのでどのような姿に落ち着くか現時点で余り詮索しても仕方がないんだけど、可決された下院案は歳入委員会を通過する際にギリギリで複数の修正が入り、最終的な形が一体何だったのか若干分かり難い。日本企業に関心が高いと思われる法人税、国際課税周りの最終的に採択された規定をザックリと復習しておくと次の通り。

まず、法人税率を2018年課税年度より20%にするという点は誰もが知るところ。上院案だと現時点で適用が一年遅れるとなっている。どちらの案も法人税率20%は恒久措置だ。予算関係で赤字幅に敏感な上院案では代わりに個人所得税の恩典の多くが10年後に失効するようになっている。

そしてAMTはようやく撤廃。ここで面白いのは過去からのAMTクレジット繰越額の結構寛容な扱い。2018年および以降の課税年度では、基本的に通常法人税額と相殺が認められる。AMTが存在する現状では、通常税額がAMT税額を超える分しか使用が認められない。まあ、AMT自体が無くなるので、現状の計算はもちろん成り立たないけど。で、更に凄いのが還付規定。なんと2019年から2021年課税年度では各々の時点で残っているAMTクレジット未使用額の50%まで還付可とされ、それでも残っているAMTクレジット未使用額は2022年課税年度に全額還付が認められる。

設備投資減税は既存のボーナス償却を拡充する形で実現。2017年9月28日から2022年末までに取得される特定の事業資産に100%初年度償却が認められる。現状のボーナス償却と異なり納税者にとって新規取得であれば中古資産でもOKとされている。

NOLに関しても結構大きな改正がある。2018年および以降の課税年度に発生するNOLに関しては繰越期限が撤廃される一方で繰戻も撤廃。この規定には小規模事業や災害損失に関して一部免除がある。更に意外にみんなにとって痛いかもしれないのは2018年および以降の課税年度のNOL使用額が繰越年度の課税所得90%に上限されること。現状のAMT規定に似ている。で、下院案に基づくと過去から繰り越されているNOLにも使用が2018年またはそれ以降だとこの90%制限に抵触するように見える。上院は同じく90%(2024年からは80%)制限が審議されているけど、あくまで2018年および以降の課税年度に発生したNOLが対象のようだ。また下院案では2018年および以降の課税年度に発生するNOLに対して毎年繰越額に「短期AFR+4%」の金利を付けて増額させてくれるようになっている。上院案にはこの増額は不在。

特別な控除関係だとR&Dおよび低所得者住宅税額控除、一部のエネジー関係控除は温存されるものの米国製造者控除(Section 199)を含む多くの他の恩典は撤廃となる。

The Blueprint時代から注目度の高いネット支払利息の損金算入制限は二つの新設規定で実現されている。まず、全事業主に適用される新設Section 163(j)。The FrameworkではC Corporationと他の事業主を区別して議論していたので、下院最終案はチョッと意外な感じ。で、小規模事業、不動産・ユーティリティー業など一部の業界を除き、EBITDAの30%を超えるネット支払利息損金は不算入となる。この規定で面白いのは、後述の多国籍企業に対する更なるネット支払利息に対する制限規定と異なり、米国連結納税を行っている内国法人グループにかかわる規定が不在な部分。文字通り読むと(法文なので文字通り読まないといけないけど)個社レベルで適用があるように見える。損金不算入額は5年繰越可となり、長年日本企業が慣れ親しんだ既存のアーニングス・ストリッピング規定(163(j))は撤廃。

多国籍企業グループに属する米国法人(または米国支店)に関してはもう一つネット支払利息損金算入制限が規定された。この対象の決定方法が面白くて、Section 1504や1563という通常の税法上のグループ規定を用いるのではなく、米国法人および外国法人を含む連結財務諸表を作成している多国籍企業グループ、と会計原則を基準としている。グループ売上が3年平均で$100M以下の場合は対象除外。で、前述の通り、この規定の目的では米国連結納税を行っている内国法人グループはまとめて一社扱いと明言されている。この規定が適用となると全世界グループネット支払利息(会計ベース)をEBITDAレシオで米国法人に配賦し、米国法人ネット支払利息(会計ベース)と比較して損金算入可能%算定。もちろん米国の方が低ければ100%となり問題はないが、米国多国籍企業は通常グローバル全ての借り入れは徹底して米国法人のみで認識しているので、ここで100%となるケースは彼らの場合にはないに近いだろう。で、ようやくここで税務ベースの米国法人ネット支払利息が登場。米国税務ベースで当制限考慮前の段階で損金算入できる金額に110%乗じて、そこに先に計算した損金算入可能%を乗じた金額が損金算入額上限。エクセルがないとチョッと難しいね。こちらも損金不算入額は5年繰越可。

前述のEBITDA30%制限下と比較し制限額が大きい方、すなわち納税者から見て不利な方の規定を適用することとなっている(それはそうだよね)。

で、次に国際課税関係だけど、海外子会社(10%以上投資先)からの配当が非課税になり、世の中のトレンドに超遅れてようやくテリトリアル課税制度に移行。ただしタダでは移行させてくれない。2017年11月2日または12月31日時点どちらか大きな未配当原資累積額に一括課税される。税率も以前は3.5%だの8.75%だのと言われていたけど、フタを開けてみると結構高く、委員会最終修正後は何と14%。Cash Position以外の事業資産に再投資されているケースは7%に低減される。Cash Positionの決め方も変な操作やゲームを許さないという覚悟がありありで、2017年度の期首、期末、そして2017年11月2日の3時点の平均で決定するよう規定されている。委員会の議員も良く考えるね。で、海外に巨額の埋蔵金をため込んでいる米国企業にとってはとてつもない負担額となるケースもあるので8年間の割賦払いが認められる。また部分的に外国税額控除が認められる。

そして、何と言っても一瞬日本企業を震撼させた20%ペナルティー課税。米国法人(または外国法人の米国支店)がIFRG内の米国外関連会社に行う「特定支出」に法人最高税率(法改正後は20%)でペナルティー課税するという衝撃的な規定だ。でも実際にはこれを払う法人はないであろうことは以前のポスティング「米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(3)「輸入に対する20%ペナルティー課税」」で触れているので詳しくはそちらを参照して欲しい。

IFRGとはInternational Financial Reporting Groupの略で連結財務諸表を作成している多国籍企業グループ。前述の多国籍企業グループに対するネット支払利息の損金算入制限でも出てきた財務諸表ベースの判断だ。Section 1504や1563ベースでない点は個人的にはとても違和感がある。ちなみに上院側の姉妹規定とでも言うべき「Base Erosion Minimum Tax」はSection 267すなわち基本的にSection 1563の50%バージョンと25%株主基準なのでこちらの方が税法的には普通な感じ。

何が特定支出かと言うと費用項目ばかりでなく棚卸資産の仕入れを含む資産取得コストも含まれるというから凄い。例外は支払利息、コモディティ・債券取得コスト、マークアップなしのサービス費用。また特定支出が3年平均で$100M以下のケースは適用除外だ。更に、特定支出でも受け手の外国法人がECIとして申告していたり、30%源泉税対象となっていたりする支出は対象外。源泉税が条約で低減されている場合には低減相当分額が特定支出扱いになるとされている。ちなみにこの20%ペナルティー課税は法人税算定目的で損金不算入とされているからその厳しさは徹底している。

で、ここからが当規定の神髄だけど、外国法人が特定支出を米国事業所得(ECIまたはPE帰属所得)として申告課税扱いする選択が可能となっている。ネット申告が認められるのでこちらの方が金額的には断然有利。費用実額は損金不算入とされているが「みなし費用」控除が認められる。このみなし費用は全世界グループの該当プロダクトラインの会計上の米国外利益率(金利・税金前)を基に算定するってなってるけど、そんな計算どうやってするんだろう?一瞬みなし経費に104%+短期AFRを掛けてよろしいという修正があったが、歳入不足に気づいて直ぐに取り下げられた。最初から分かってたと思うんだけど立法プロセスって不思議。また外国税額控除も財務諸表ベースの実効税率と修正されたかと思うと最後の最後で本当に計算する外国税額控除となった。特定支出に対する外国の税金80%を上限と規定されている。その上で更に普通のSection 904の上限計算をするんだろうか。そんな計算できるのかな。そもそも特定支出が米国源泉のケースもあり、それだけでは控除枠は存在しないこともあるだろうし。

という訳で共和党下院指導部にとってはようやく有権者に顔向けできない辛い日々が過去のものになるかもしれない重要な一日でした。

Saturday, November 11, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(5)「上院案骨子公開・下院はついに本会議に」

「やればできるじゃん!」という感じで下院歳入委員会も上院財政委員会も31年振りに大活躍して税法改正のプロセスをSpeed of Lightで進めた一週間だった。まさしくA Hard Day’s Nightそのもの。Working like a dogって気分だろうけど、まだまだSleeping like a logとはいかない現実は厳しい。このペースを少なくとも今後数週間は続けないと今年中の可決はできない。また法案の内容的にも十分な共和党票が集まるという保証もない。全然簡素化にも法人以外は減税になってない感じで一体全体何のためにこれだけの改革をしているのか分からなくなってきた観もある。

内容はともかく、「法手続き」的には予算決議に税法改正にかかわる財政調整措置が盛り込まれてからここまでの財政調整法としての立案、審議はビックリする程オンタイムだ。この辺り日本の方にはプロセス自体が分かり難いと思うので、手続き面を簡単におさらいしておくと次の通り。

米国では法律は議員立法が基本で、下院では単純過半数、上院は議事妨害(フィルバスター)を乗り切るため実質100票中60票で法案を可決することができる。例外は年一回の予算決議(Budget Resolution)の際に「こういう法律をいくらの歳入または歳出の範囲で策定しなさい」という指示に基づいて立法される財政調整措置(Reconciliation)。この財政調整措置が予算決議に盛り込まれると、財政調整法として上院も下院同様に「過半数」で通すことができる。上院100議席のうち共和党が52議席で、民主党は全員なんでも反対という典型的な野党となっているので60票は夢の夢。したがって税法改正も財政調整案として通すしか手段はない。ただ、上院の過半数というのもなかなか難しいのはオバマケア廃案で白日の下に晒された事実だ。この辺りは過去に散々触れているからいいね。予算決議に基づくこの簡便手続きは、決議に具体的な調整措置が明記されないと発動されない。

で、今年度の予算決議では「$1.5Tまでの赤字増となってもいいから税法改正法を財政調整法として通しなさい」という調整措置が盛り込まれ、それを受けてまずは担当委員会を構成する議員が法案を通す。で、税法は下院では歳入委員会、上院では財政委員会の管轄なので、各々の委員会が法案をドラフトし、その後、委員会の中でマークアップという修正が繰り返される。これが今週、歳入委員会がやっていた手続きで例の20%ペナルティー課税のECI選択した際の計算が紆余曲折した理由だ。最終的には委員会として最終法案を可決して、その後、院のFloorで審議される。これが本会議審議となり最後に票を投じて可決するかどうか決まる。木曜日に歳入委員会は法案を可決しているので、来週明けから(金曜日は連邦の休日らしく)下院本会議審議となる。来週中には余り多くの修正なく下院を通過するであろうと言われている。

一方、上院は木曜日に「説明文書」を公開したが、法案そのものは未だ見ていない。おそらく月曜日に法案が公開され、財政委員会がマークアップを繰り返し、12月頭には委員会として可決、直後に上院本会議審議となる。下院と上院が異なるバージョンを可決するので、最後は二つをすり合わせして両院一致法案に取りまとめないといけない。この作業はいくつかのロードマップが想定されるが、まずはJoint Committeeが双方の法案を一つにまとめるやり方。または上院バージョンを下院が取り上げ、その修正を受けてそれを上院が取り上げ、というピンポン方式もある。または予算決議がそうだったように上院バージョンそのものを下院が可決してしまうという離れ業もあり得る。いずれにしても両院一致法案は両院で再度可決される必要があり、それができて初めて大統領の署名に行きつく。

大統領は法案全体に署名するか、拒否権(Veto)を発動するかのチョイスがあるが、法案の一部をVetoするLine Item Vetoは確か連邦では憲法違反という最高裁(だっけ?)の判例があり認められないはず。なので個別の規定が気に入らないからと言ってそこだけVetoすることはできない。また、大統領が10日間何もしなくて、議会が散会していると自然に法案が失効してしまうPocket Vetoという流れもあるが、今回は法案が両院を通過すれば大統領は署名するだろう。これが12月31日とかだと、米国企業のQ4、多くの日本企業のQ3の決算は新法の影響を加味しないといけないのでお正月がA Hard Day’s Nightになりそう。

という流れで下院は歳入委員会が修正後の法案を可決した訳だけど、最後にまた委員長Kevin Bradyの修正の修正が入った。最初の修正で赤字許容範囲の$1.5Tを超過してしまったので、その穴埋めで、まずはナンとテリトリアル課税移行時の一括課税の税率が12%から14%(現預金部分)、5%から7%(資産再投資部分)に増額。そして日本企業も関心が高い例の20%ペナルティー課税規定のみなしPE課税選択時のみなし経費に104%+短期AFRを掛けてよろしいという規定が僅か3日の短命で取り下げ。更にFTC算定法が変更となった。前回の修正では連結財務諸表に基づいて算定した実効税率の半分または20%のいずれか低い方の税率に基づいてみなしFTCを取る代わりに従来の本当の計算に基づくFTCは認めないというような規定になっていたけど、最終案では従来からECIに対して認められるFTCが80%まで認められるような規定に生まれ変わっている。ただしその際に従来であれば米国源泉所得に対する外国税金は外国法人が居住地で居住者という理由で全世界課税されるケースを除いてFTCの対象ではないとか、難しい規定があるが、それは無視しなさいとされている。難しいけど、本当はPEでもないのにPEにさせておいてそこに帰属する外国税金の金額を確定させ、それに80%を掛けて後は通常の制限枠を上限にクレジットというような流れになるのだろうか?不思議。

他にもR&D経費が将来的に5年間の償却となり、一括費用計上が認められなくなるとかいう規定も急に盛り込まれている。

一方、上院案はなぜか法文原案は公開されていない状態で「Description」という説明文?とでも呼ぶべき文書がJoint Committeeにより木曜日に公表されている。法文でないので良く分からない部分も多いが20%ペナルティーの代わりに「Base Erosion Minimum Tax」という新たな税金が規定されている。下院の20%ペナルティー課税と趣旨は同じだけどアプローチは全く異なる。

法文も出てないので余り詳細に話しても意味ないけど、50%超の海外関連者、25%の米国外親会社またはその関連者、等に支払う費用、資産取得支出、(おそらく)売上原価(これは条文みないと含まれるかどうか若干不確実)を加算処理して出てきた調整後課税所得に10%を掛けて、通常の税金より高ければそれがBase Erosion Minimum Taxになるというような仕組みらしい。

上院のものは他にも下院とは異なる点盛りだくさんだけどそれはそのうち。

Wednesday, November 8, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(5)「輸入に対する20%ペナルティー課税(続き2)」

前回、前々回、20%ペナルティー課税(Excise Tax)を武器に外国法人にみなしPE課税申告させる下院法案に関して触れた。この下院案が発表された後、月曜日夜に歳入委員会の委員長であるKevin Bradyによるマークアップ(修正案)が提出され可決された。この中に20%ペナルティー課税にかかわる重要な変更があったので簡単にまとめておきたい。

まず一番大きな変更はみなしPE課税に基づく米国税負担を算定する際、オリジナル下院案では認められないとされていた外国税額控除が認められることになった点。これは大きい。ただし、この税額控除は特定支出に対する実際の外国税金を基に算定するのではなく、みなし費用同様に、International Financial Reporting Group (IFRG)全体の外国法人税の実効税率に基づいて計算する。具体的にはIFRGが米国外で認識する外国法人税額を基に財務諸表上の実効税率を算定し、その半分または税率20%のいずれか低い方をみなし外国税金として控除を認めるというもの。みなしPE課税時の米国税率は下院案だと20%なので、財務諸表上の外国税金実効税率が40%以上であれば、外国税額控除でみなしPE課税全額が相殺されることになる。仮に財務諸表上の外国税金実効税率が30%だと、その半分の15%が20%より低いので、15%相当の外国税額控除が認められ、結果としてみなしPE課税は20%から15%を差し引いて5%となる。

もうひとつ面白い変更は「みなし費用」に基づく費用控除額。以前のポスティングで触れた通り、みなしPE課税算定時には実際に特定支出に基づく費用計上は認められない。代わりにIFRGの連結財務諸表上の該当プロダクトラインの利子・税引前の利益率を基にみなし費用を算定すると規定されていた。今回の修正案では、みなし費用の算定時に、米国オペレーションは除外して算定するようになっている。書き方は複雑で、IFRGの米国以外の法人が非関連者および米国グループ法人との取引から認識する利益率を基にすることと規定されている。そもそもプロダクトライン毎のPLなんてないじゃん、っていうのは以前に触れた点だけど、更に外国と米国を分けたりとか実務的には対応が益々困難になっている感じ。

さらに、前述の方法で算定したみなし費用に「104%+短期AFR」を乗じて費用総額としてよろしいとなっている。趣旨としてはRoutine Returnには課税しないということなんだろうけど、現時点の短期AFRは1.27%だからみなし費用が5.27%増えることとなる。となるともしプロダクトラインの利益率が5%とかだとネットで赤字になってしまう?ネットで損失だと1120FでNOLが生まれ、新法に基づき永遠に繰越できて本当にPEとかからフローアップしてくる所得と相殺できたりするんだろうか?それともみなしPE課税は基本的に関連者間取引から発生している損失なので、認識は認められずNOLにはならないのだろうか?良く分からない感じ。

でもFTC認めたり、費用に5%上乗せしたりした結果、結局元は$150B以上あると言われていた歳入もほとんどなくなってしまうようだ。であればそこまでしてこんな変な税法を入れる理由も余りなくなるんではないだろうか?

この20%ペナルティー課税規定はInbound企業ばかりでなく米国多国籍企業を直撃するので反対意見も多く出てくるだろう。既に共和党内で大きな影響力を持つFreedom Caucusの支持団体の一つとなるKoch Brothersが当規定に反対表明している。下院での可決可能性はかなり怪しいと言わざるを得ない。

テクニカルにもみなしPE課税の算定の際にBranch Profits Taxをどうするのか不明だし、どのような迂回取引がAnti-Abuseに抵触するのかという判断も難しいだろう。現時点のグッドニュースとしては外国税額控除が認められることになれば仮に20%ペナルティー課税が法制化されたとしても実際に支払う米国税金の面からのコストは結構低くなりそう、という点だろう。

Sunday, November 5, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(4)「輸入に対する20%ペナルティー課税(続き)」

前回のポスティングで、米国法人(または支店)が外国関連法人に支払う特定支出に20%ペナルティー課税が規定されている点、そしてこのペナルティー課税を本気で支払う納税者が居るとは誰も考えていないと思われ、実質、外国法人に「自ら」みなしPE申告課税を選択させる単なるメカニズムでしかない点に触れた。

ちなみに言い忘れる前にみんなが安心するかもしれない条件を一つ。それはこの規定が適用されるのは特定支出が3年平均で年間$100M超のケースのみという「少額?」免除が規定されている点だ。仕入れとかを親会社からしているとこの金額は超えてしまうことが多いだろう。

申告課税選択だけど、法案では、もし外国法人がそう望むのであれば米国法人レベルでの20%課税(しかも損金不算入)の代わりに、特定支出を受け取る側の外国法人が特定支出に関して申告課税を選択することができると規定している。読んだ瞬間から考えていたけど、この選択をしない納税者はいるんだろうか?申告課税とすれば(後で触れる)「みなし経費」を差し引いたネット所得に20%支払うんだからコストなしの特殊な取引のケースを除いて全納税者がみなしPE課税を選択するだろう。

具体的には、外国法人が自らそう選択する場合、当外国法人は米国事業に従事しており更にPEをも有していて特定支出はECIおよびPE帰属所得とみなすと規定されている。単にECIとみなすだけで終わっていないのは、当選択をした上で租税条約のPE条項を使って実質課税なしとするポジションに網を掛けるためだ。日本企業にとっては通常はECIというよりもみなしPE課税となる部分で課税となるので、ここからは便宜上、みなしPE課税と呼んでおく。

で、ここで面白いのは、申告課税する際に通常認められるPEに帰属する所得に対応する、所謂AOA的な費用控除は認めない代わりに法案が規定する「みなし経費」を差し引いてネット所得を算定することになっている点だ。みなし経費の算定は特定支出が属する「プロダクトライン」にかかわる全世界ベースの連結財務諸表の利子・税引前の利益率に基づいて行うとなっている。「え~、会計上の利益?」ってチョッと不思議だけどまさか全世界の計算を米国課税ベースに組み換えする訳にもいかないのでこのようなこになっているんだろう。

でもそう言われても、連結財務諸表には個々のプロダクトラインの利益率なんか載ってないんじゃないかと思うけど、どうやって算定するんだろうか。費用の配賦とかが争点となりそうな気がする。

会計と言えば、この20%ペナルティー課税およびみなしPE課税選択の対象となるのは金利のところで触れたIFRGというグループだけど、このIFRGは連結財務諸表を作成しているグループだと規定されている。だったら連結財務諸表の作成を止めてしまったらIFRGにならないの?、とか不思議。通常はSection 1563のControlled Groupとか(今では風前の灯の)Section 385がExpanded GroupをSection 1504にSection 318のAttributionを加えて定義していたように税法ベースの定義になるのが普通だけど、今回の下院案は会計の連結有無で決めている。ということは通常この手の規定で分かれ道となる80%持分ではなく、会計上の50%超その他の支配権等で結ばれているだけでIFRGになってしまうということになる。なんか変わった規定だ。

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(3)「輸入に対する20%ペナルティー課税」

前回は日本企業に関心が高いと思われる多国籍企業のみに適用される2つの大きな課税措置のうち支払利息の更なる制限に関して触れた。今回はの2つ目の、国外関連者に対する特定支出に対する20%のペナルティー課税に触れたい。この課税はUnified Frameworkで「Level Playing Field」とか言ってた概念を具体化したものだけど、「Excise Tax」とか「Surtax」は予想していたものの、これらを武器に実質申告課税を半強制してくるとは意表を突かれた感じだ。良くこんな凄いトリックを発表までリークもなく隠し通せたものだ。前回触れた世界平均利率に基づく支払利息の損金不算入もそうだけど、20%ペナルティー課税は米国外に親会社のある所謂Inbound企業だけではなく、米国多国籍企業にも同様に適用がある点も重要だ。ロイヤリティの支払いとかも含まれるのでおそらく金額的には米国多国籍企業に与える影響も同様に大きいだろう。この法律が可決されると米国で事業展開している多国籍企業にとってサプライチェーン見直しが必至となる。

で、なぜトリックかというとこの税法を読んでまともに20%のペナルティー課税を支払う納税者はいないと思われる点だ。そのメカニズムは次の通り。

まず、今回の税法案では国外関連法人に支払う特定支出に対して20%のペナルティー課税(Excise Tax)を規定している。しかもこの20%は支払う側である米国法人(または支店)の税金であると明記した上、支払い側の米国法人税算定時には損金算入できない税金としている。なぜExcise Taxでしかも敢えて米国法人側の税金と規定しているかと言う点だけど、はおそらく条約の適用とかWTO云々という余計な議論を避けるためのような気がする。

で、20%ペナルティー課税の対象となる「特定支出」だけど、その広範な定義にビックリ。なんと通常の費用項目ばかりでなく、仕入、事業資産の取得、もが含まれるとされる。例外は金利、頻繁に売買されるコモディティー(およびそのヘッジ)、コストそのものを転嫁するサービス費用、と限定的。金利は別の規定で十分に「Level Playing Field」になってるからここで更に20%課税は必要ないということなんだろう。更に、特定支出の受け手外国法人側で既に特定支出を売上認識して米国でECI(またはPE?)申告課税しているケース、および特定支出が30%フルの米国源泉税対象になっているケースも20%ペナルティー課税から免除される。30%源泉の免除に至っては当然な話しで、法人税率が20%になると源泉税の方が30%と高くなるという変な状況なので、米国からしてみたら20%課税するまでもなく既にHead Startの状態にあり、それ以上ペナルティー課税を振りかざす理由はない。従来のアーニングス・ストリッピング規定がそうであったように、租税条約でこの内国法の30%源泉が減免されている場合には、30%からどれだけの源泉税が減免されているかというレシオを出して、そのレシオに対応する部分が20%ペナルティー課税対象の特定支出となる。例えばロイヤリティを米国から日本親会社に支払い、日米租税条約を利用して源泉税を0%にしていると、30%まるまる減免されていることになるので、100%の減免レシオとなり、ロイヤリティ全額が20%ペナルティー課税の対象となる。仮に10%の源泉税を支払っているような特定支出があれば、減免レシオを67%なので、特定支出の67%が20%ペナルティー課税の対象となる。

ここまで読むと、「え~、じゃあ自動車とか日本の関連者から輸入してると、その仕入全額に米国側で20%ペナルティー課税支払って、更にその20%は法人税計算上費用化できないの??」となる。まさにその通りで、法人税で引けない20%仕入れコストアップは実質25%仕入れコストアップだ。これでは米国でまともに商売はできない。ただ、これは日本企業ばかりでなくドイツ企業にも、さらに米国外の関連工場から製品を輸入している米国企業にも同様に適用があるので「Level Playing Field」となる。

こんなペナルティー課税の対象となるんだったら、もう米国での事業継続は不可能と判断してもおかしくない局面が多いと思うけど、実はまさしくそこがこのペナルティー課税の目的でもあり下院の賢いところ。だったら特定支出があたかも米国事業所得に基づく、しかもみなしPEに帰属する所得かのように「自ら」選択して申告課税するチョイスを外国法人に認めます、と規定されている。これは実質選択ではない。グロスに20%支払うのとネット所得に20%支払う選択だから、ゼロコストの事業でない限り、グロスの20%支払うオプションを選択する愚か者はいない。実質、20%ペナルティー課税(Excise Tax)部分の規定は現状の法律、租税条約下では不可能な外国法人に対する申告課税を可能とするクレバーな罠であり、下院も本気で20%ペナルティーを支払う外国法人が存在するとは誰も想定していないだろう。なかなか良く考えたものだ。これが冒頭で触れたこのExcise Taxは「トリック」という意味だ。

次回はECI選択、すなわち20%ペナルティー課税は溜まらないので外国法人「自ら」が自主的にみなしPE課税を選択します、となった場合(おそらく全ケースでそうなる)の扱いに関して。

Friday, November 3, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(2)「支払利息損金算入制限」

米国タックスにかかわっている身としては結構歴史的なイベントだった税法改革の法文原案公開から一夜が明けた。興奮冷めて(大げさ?)改めて法文を読み見直してみると法人税率以外は減税とか簡素化というイメージから遠くかけ離れている現実に目覚めて愕然。いろんな控除がなくなって自分の税金に至ってはナンと増税という結果となりそうだし、訳の分からない国境調整みたいなペナルティー課税が盛り込まれていたり。Unified Frameworkに基づく想定を大きく上回るものとなっている。税法を簡素化するとかなんとか言ってたけど結局429ページにおよぶ改正案は複雑極まりない。しかもSubpart Fとかそのまま手つかずだし。唯一Subpart Fで廃案とされているのが「foreign base company oil related income」というのも歳入委員会の長であるKevin Bradyのお膝元がHoustonだったりするのでなんか怪しい。

まあ未だ法律になったわけではないし、今日から歳入委員会のマークアップで、来週には上院が別の案を出してくることになっているので現段階でああだこうだと考えても仕方ないかもしれないけど、この税法は結構厳しい。

下院共和党の議員たちからは取りあえず思った程の反対意見は出てないようだけど、NY州とか比較的高額の州税控除を取っている納税者が多い州の議員は早速不満を表明している。多くの地元有権者が結局増税になる可能性が高いからだ。上院議員からも概ね受けは悪くないらしいけど、法人税をあそこまで下げて、しかも10年間の時限措置ではない状態でピッタリ$1.5Tのマイナスになっている辺りはなんか出来過ぎている感じで、財政にもう少し敏感な上院案がどのような形で出てくるか見物だ。下院案の審議過程での火種は州税控除とパススルー25%低減税率の適用範囲の狭さのような気がする。

昨日、法案が出たての段階でNOLは永久繰越が可能で金利は付かないようなことを書いたけど、法文を良く見たら短期AFR+4%で毎年繰越額に増額調整が行われることが分かった。昨日のポスティングも後で訂正しておく。

で、今日は日本企業に関心が高いと思われる多国籍企業に適用される2つの大きな課税措置について。まずは支払利息の更なる制限、で2つ目は国外関連者に対する支払いに対する20%(法人税最高税率)のペナルティー課税だ。特に後者はUnified Frameworkで「Level Playing Field」とか言ってた概念を具体化したものだけど、かなり強力。みんなが恐れてた国境調整にも通じるものがある。

支払利息に関しては昨日触れたとおり、まず、小規模事業主を除きEBITDAの30%を超えるネット支払利息は損金不算入となる。これは既存のSection 163(j)、アーニングス・ストリッピング規定の算定に似ているけど、貸し手が誰でも関係ない。ちなみに今回導入される新しい規則が新Section 163(j)になることからアーニングス・ストリッピング規定はこれをもって撤廃となる。30年近く付き合ってきた規定なのでこんな形で幕切れとなるとチョッとさみしい(?)。財務省規則も草案のまま結局最終化されることもなかったね。もっと厳しい規定が入るので特にめでたいことではないけど。この新Section 163(j)はパートナーシップにも事業主体レベルで適用があるとされ、パートナーシップレベルそのもので制限額を算定するようだ。すなわちK-1でパートナーに課税所得がパススルーされる段階では既に制限が計算された後ということのようでAggregateアプローチではなく完全なEntityアプローチを採択している。なお、不動産業と公共ユーティリティー業はこの制限から免除されている。

この新制限に抵触する支払利息は5年間の繰越が認められる。面白いのはこの繰越は組織再編や適格清算で他の法人に移管が認められるタイプの属性の一部を構成すると規定されている。また3年以内に50%超の持分変動がある場合に、変動後のNOL使用額に制限が加えられるSection 382という規定があるが、新制限で繰り延べられている未使用支払利息はNOL同様にSection 382の制限が課せられる。ここは以前のアーニングス・ストリッピング規定のSection 163(j)には規定されていなかった点で、恐々と買収前の未使用利息を買収後にグループ算定で大きくなった制限枠を基に使用したりしたこともあったけど、そんなことができなくなるように良く考えて規定されている。でも逆に言えば、今まではやっぱりSection 382に抵触せずに使えたということなんだろうか。

で、本題の多国籍企業に適用される支払利息の更なる制限だけど、こちらはどちらかと言うと全世界平均負債に基づくようなアプローチで何となくBEPSのAction 4っぽい。ここで言う「多国籍企業」とは、税法上はInternational Financial Reporting Group (「IFRG」)と言われ、会計原則のIFRSと間違えそうだけど、基本的に一社でも米国と米国外にグループ法人があればIFRGなので、日本企業で米国で活動しているケースは全て対象だ。さらに外国法人でも支店形態で(正確にはECIがあるケース)米国で事業を行っている法人が一社でもあればそのグループもIFRGとなる。ただし全世界グループ売上が3年平均で$100Mを超えない納税者は適用免除がある。

で、全世界平均の計算の仕方だけど、法文のように文書だけだと結構ややこしいので数字を使って追って行く。まず、全世界グループの会計上というか連結財務諸表上のネット支払利息を同じく会計上のEBITDAレシオで米国法人に配賦する。例えば全世界EBITDAが1,000で、同じく全世界会計ベースのネット支払利息が150だとする。米国のEBITDAを200とすると、全世界と米国のEBITDAレシオとなる20%で150というネット支払利息を米国に配賦する。この結果出てくる30がIFRGのネット利息の米国配賦額(「Allocable Share」)となる。 この30と米国の会計上のネット支払利息,例えばこれを50とすると、を比較したレシオとなる60%が損金算入限度%(「Allowable%」)となる。もちろんAllowable%は100%は超えてはいけない。

で、ここで初めて税務上の金額が出てくるけど、税務上制限前の段階で損金算入できる金額に110%掛けて、さらにAllowable%を掛けてようやく損金算入可能額が算定される。米国では会計と税務で金額が異なることが多いけど、仮に税務上の損金算入可能なネット支払利息が40だとすると、その110%は44で、その60%は26.4なのでこの金額が申告書で引ける金額だ。多分正しいと思うけど、実際に申告書作る時は自分でSection 163(n)を見るようにね。それにしても税法の規定にこれだけ会計の数字が多用されるのは少し違和感があるけど、全世界の数字を米国税法ベースに直すよりはマシかも。

で、2つ目の米国外関連者に行う特定支出に対するペナルティー課税だけど、これは凄い。Excise Taxという位置づけなので「Subchapter E」とか新設したりして気合いが入っている。このペナルティー課税は国境調整を彷彿させるが関連者間取引に限定されている点で性格は異なる。この点は明日にでも。

Thursday, November 2, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」一日遅れてやっと公表「速報」

本当に目にすることができるのか最後まで不安だった税法改正の法文原案429ページがついに下院歳入委員会から今日11月2日、予定より一日遅れで公表された。それにしても直前になって一日延期とかショボいというか、なかなか見せてくれた。内部情報によると法文をドラフトしている面々は最後の数日はシャワー浴びる時間も惜しんで24時間体制でドラフトしたということ。まるで大昔の会計事務所の申告期限前夜のような状況だ。結構な重鎮たちだろうに。歳入委員長のKevin Bradyも地元Houston Astrosのワールドシリーズにフォーカスできなくてこちらも気の毒だ。

そして今日2日、午前9時に共和党下院議員はLongworth下院ビルに集合し、そこでプレーオフでご機嫌のKevin Bradyがパワーポイントを使って改正の内容を説明した。パワーポイントっていうのが普通の企業のカンファレンスみたい。その中には1986年のレーガン大統領が税法改正の法律に署名した際に発した「まるでワールドシリーズで戦って米国市民が勝利したような気分だ」というコメントを引用していたという。Astrosの件があるので実にタイムリー。もしかしてワールドシリーズで一日発表を遅らせてた、なんてことはないよね?

で、肝心の内容だけど、ちょうどUKに出張して来たタイミングだったので、ミーティングの合間にピカデリーサーカスのカフェで簡単に法文を見れただけな点をお断りしておく。なので全429ページ詳細は明日のNYCへの帰りの飛行機で分析するとして、2018年から法人税は約束通り20%。直前に噂されていた5年のフェーズインはなくて一気に20%となる。設備投資減税は予想通り、5年の時限措置。支払利息に関してはほぼ予想通り、Section 163(j)で言うところの「Adjusted Taxable Income」、基本的にキャッシュベースのEBITDAの30%を超えるネット利息は損金不算入。ただし不算入部分は5年間繰越が認められる。個人オーナーがパススルーから配賦される「事業所得」は25%だけど、基本的に人的役務提供を業務内容としているパススルーは対象外で、すなわちその場合には通常の個人所得税率で課税されることとなる。NOLは繰越期限が撤廃され未来永劫繰越が認められる。The BlueprintにあったようにNOLの繰越には金利が付いて増えていくようだ、更に使用額は繰越年度の課税所得の90%に限定される。更にNOLの繰戻は撤廃。R&Dおよび低所得者住宅税額控除を除く諸々の恩典は撤廃。当然、Section 199の製造者控除も撤廃となる。

クロスボーダー系はテリトリアル課税への移行は約束通り10%以上海外子会社からの配当は0%課税。制度移行時に溜まっている海外子会社の配当原資に対する一括課税は現預金で持っている限り12%(結構高い!)で、それ以外は5%。未配当原資の累積額は2017年11月2日(今日)または2017年12月31日時点のどちらか大きな額を基にするとしている。つまり今からつまらない小細工は無用ということだ。

一方、個人所得税はクリントン政権、オバマ政権下の増税で追加された39.6%が温存されている。The Blueprintでは33%って言ってたのに。とても共和党案とは思えない大後退ぶりにビックリ。米国の高所得者は先進国でも一番所得税負担が重いっていう話しだけど、法人は直ぐにInversionしてしまうけど、個人は中々Expatriationしないもんね。

標準控除額は独身申告$12,000、夫婦合算申告$24,000と倍増されるものの、温存するとずっと言われていた住宅ローン金利個別控除は$500,000までの新規取得物件に対するものに限定される。NYCではそんな物件ないけどね。一方、州税の控除撤廃の代わりに認めると噂されていた不動産・動産税個別控除は$10,000を上限に温存されている。個別控除は後は慈善団体への寄付金のみが生き残っている。Unified Framework通り、人的控除は撤廃される代わりに子女税額控除は一人当り$1,600に増額、子女以外の扶養家族税額控除$300が新設される。一時は税引前控除がなくなるのではないかと危惧された401(k)、IRA、を含む退職金プランは温存される。法人、個人共に代替ミニマム税(AMT)は撤廃。

Level Playing Fieldと言われていた考え方の具体的な措置として、海外の関連会社への支払いに対する外形課税みたいな規定が盛り込まれている。これは日本企業にとって影響が大きいので明日、大西洋上で良く読んでみたい。

Tuesday, October 31, 2017

下院の法文原案発表、木曜日に延期?

やっぱり時間が足りなかったのか、米国時間明日(水曜日)に下院歳入委員会が発表すると豪語していた法文原案は、一日延期して木曜日になるだろうという話しがDCで発表前夜になって囁かれているらしい。州税の控除とかで合意に達していないとも言われていたし、歳入面から20%の法人税率ですら毎年3%づつ5年掛けて導入とか言う噂もあるし、結局無理が祟っている感じ。5年掛けて導入したら20%になるのは西暦2022年でセコイにも程がある。それにしてもあれだけ言ってたのに明日に発表できないようでは今後の審議が思いやられる。ダサ過ぎでした。

米国税法改正法原案(いよいよ明日下院案公表!)

31年待っていた、と言ってもずっと待ってた訳ではないけど、抜本的税法改正の法文原案が見れる日がついに明日に迫っている。今週のワシントンは忙しそう。元々、税法改正の法文原案が水曜日に公表されることになってたり、トランプによる時期FRB議長の人選の発表(おそらくJerome Powellと言われてるけど)予定、そしてトランプのアジアツアーと既に満載だったのに、さらに月曜日にいきなりMueller特別検察官によるロシア疑惑で初となるマナフォートの起訴が発表され、ますます大変な週となった。

Muellerによる起訴は税法改正の進展に影響ないと共和党指導部はどちらかと言うと敢えて控えめな反応をしているが、ただでさえ無理な日程で税法改正を可決しようとしている矢先の出来事でどう考えてもプラスではない。

で、発表を明日に控えているにもかかわらず法律の内容が伝え漏れてこないのは歳入委員会の重鎮にもが内容を知っていて厳重に管理されているのか、実は未だ決まってなくて漏洩する情報すら存在しなかったりしたら怖い。ほぼの部分は決まっているんだろうけど、最後まで揉めているのは個人所得税算定時の州税控除。州税控除を取っている納税者が多いとされるNYやNJ州の共和党議員はこの点が明確にならないと税法改正には賛成できないと、前回のポスティングで触れた下院の予算決議に反対票を投じた程だ。結果として下院の予算決議は216対212と結構際どく可決されている。

この点に関しては歳入委員会も妥協せざるを得ないのは間違いなく、一部控除を温存するか、または州の不動産税の控除を残すとも言われている。今世紀に入って最初の大型税法改正の運命がSub CでもSub Kでもクロスボーダー系でもなく、所得税上の州税の控除度合いに掛かっているというのもチョッと地味な観は否めないが、行きつくところ議員の興味は選挙区で自分の行動が有権者にどう見えるかということだろうから、この辺りが本当の争点となってくるようだ。

発表前日の今日、下院委員長のPaul Ryanはトランプと税法改正に関して午後2時に打ち合わせをするとしている。トランプはMuellerによる自分の元選挙対策メンバー起訴でどれだけ税法改正にフォーカスできているのだろうか。副大統領のPenceも税法改正プッシュで議員と協議すると言われ、最後までバタバタしていることが分かる。

2018年中間選挙を考えると税法改正を早急に決めておくことがMustだけど、今後の審議は地雷だらけ。明日の公表そしてそれ以降の審議等の展開はかなりの見物だ。

Thursday, October 26, 2017

両院一致予算決議ついに可決

前回のポスティングで税法改正の法案審議開始の法的な前提条件とも言える「予算決議(Budget Resolution)」が10月19日に上院を通過した点に触れたが、今日、同決議が下院で216対212にて可決された。予算決議は両院一致で可決される必要があり、下院では以前に別の内容で決議が可決されていたが、異なる内容に関して両院協議会ですり合わせを行うという時間を節約するため、上院で可決されたバージョンそのものが下院でも可決され、一気に両院一致予算決議の可決となった。

下院が上院のバージョンそのものを両院協議会を通すことなく可決するケースはそんなに多くはないが今回はそれだけ税法改正を今年中に実現させなくてはいけないという共和党指導部の決意が固い、というかプレッシャーが強い、ということだろう。でないと2018年の中間選挙では完敗が予想されるからだ。特にオバマケア廃案の審議過程で党内影響力を強めてきたFreedom Caucusが上院決議直後にカンファレンスコールを持ち、Caucusとしては基本上院決議を指示するという意思表示をしたのは大きかっただろう。

これでいよいよ待望の下院歳入委員会から法案原文が出てくるステージがセットされたことになる。法案原文の骨子はとっくに完成していると推測されるが、一週間後の11月1日か2日に公表されると言われている。原文が公表された際に興味深い点としては、課税ベース拡大策、海外法人と米国法人を同じ土俵にするとしている点に関する具体的な規定、25%パススルー課税の抜け道防止策、金利の損金算入制限法、個人所得税の35%超のブラケットが制定されるのか、などの諸疑問に対する詳細だろう。

それにしても今週はレーガン大統領が1986年の税法改正に署名してからちょうど31年。30年ぶりの大型改正というフレーズが多用されているが正確には31年ぶり。

でもレーガン大統領と異なり、トランプ大統領は相変わらず「JFK暗殺の機密文書ファイルを公開する」と急に思いついたようにTweetしたかと思うと「税法改正は12月いっぱいには俺が署名することになるだろう。ただ、本当に12月末まで待たされることにはならないと思うけどね」といつも通り何の理由もなく断定的に楽観的だ。オバマケア廃案の時も大統領就任までは「即廃案」とだけ言っていたのに就任後急に「廃案+新案に置き換え」と考えが変わり、その後も秋空というか「You change your mind like a girl changes clothes…」(この歌詞はKaty Perry、これは分かったよね?)のように意見がEver Changing Moodとなり、結局廃案失敗となった苦い経験があるが、今回も急に立法プロセスが始まる直前に「401(k)は温存」とか「数週間後に俺がもっと凄い大綱を発表する」とか散々かき回している。Ever Changing Moodと言えばPaul WellerのThe Style Councilは当時超「オシャレ」ないい感じのBritishバンド! 神宮前のclub DとかでShout to the Topとかプレイされたの懐かしい。Ever Changing Moodはビートの効いたバージョンとピアノバラードバージョンがあるけどやっぱりバラードの方が断然いい。

で、トランプ大統領だけど、上院との軋轢もかなり表面化してきて、それでなくても時間的に綱渡りの立法プロセスが更に複雑にならないことを願う。なにせDestination Unknownな大統領なので。Destination Unknownと言えばMissing Persons。The Style Councilとは何の接点も共通点もないL.A.のバンドだけど、これはこれで格好いい。特にTerry Bozzioのツインバスのドラムは最高。ベストトラックは「Mental Hopscotch」。

課税ベース拡大で一番揉めそうなのは個人所得税を算定する際の州税控除。完全撤廃は法案が出る前から既に暗雲が立ち込めていて、$400Kまでの所得(おそらくAGI)であれば認めるとか妥協案が噂されている。まあ150兆円規模の赤字が今後10年間容認されている予算決議なんだから歳入面に関してはある程度弾力的に対応することになるんだろう。

とまだまだ予断を許さない状況だけど、とりあえず税法改正に向けて又一歩前進でした。

Friday, October 20, 2017

予算決議上院可決

税法改正の法案審議に手続き的に不可欠となる「予算決議(Budget Resolution)」がついに上院で木曜日(10月19日)可決された。

この予算決議だけど、単に予算の概要を示すだけではなく、決議の「予算調整措置(Budget Reconciliation)」というプロセスを通じて実際の法案作成を指示することができる。今回の決議では今後10年間で1兆5千億ドルの財政赤字になってもいいから税法改正をするようにという指示が入っている。100円換算で150兆円に上る赤字を容認することで税法改正実現のためのステージができあたったこととなる。

皮肉なことにこの一連のプロセスは1974年の予算法修正で財政赤字の削減をひとつの目的としていたようだけど、一転して大型減税達成のToolとして最大限利用されることになる。10年間の時限措置だったブッシュ(息子)政権の大型減税も当然この枠で実行されている。

このプロセスを使って法案を審議する醍醐味は上院で単純過半数の51で法律を通すことができる点にある。上院は100議席あり、通常は60票の賛成が必要だ。更に正確に言えばVPがTie BreakerのCasting Voteを握っていて、ペンスが共和党なので共和党の法案に反対票は投じず、結果として共和党は50票を確保すれば大型減税案を上院で通すことができることになる。

ただ、この数字は油断大敵だ。逆に言えば共和党の上院議席数は52だから3人造反者が出たらおしまいということ。現にオバマケア廃案も2017年予算決議に基づく審議だったけど、複数の法案可決時に常に3人の造反者が出て万事休すとなった苦い経緯がある。今回の税法改正も際どい。おそるおそる弾金を引いて、弾丸は一発だけ。裏目に出た時は全てが消える電光石火ロシアンルーレット、ってこんな曲の歌詞知っている人は今では少ないよね。オフィシャルには51カ月続いたと言われる日本のバブル経済前夜で今の日本からは想像できないハイテンション時代の曲だ。スキーとか遊びに行くときに関越や中央フリーウェイ、または横浜行くときの第三京浜で「Wham」の「Careless Whisper」や「Madonna」の「Like a Virgin」とかと交互にわざわざ聴いてた「Voyager」ってアルバムがあったけど、その中の名曲「ガールフレンズ」に続く「(なんとか?)ルーレット」っていう曲だ。松任谷由美のどのアルバムがベストかっていうのは当時常に熱い議論だったけど、個人的には「Reincarnation」、続いてこの「Voyager」かな。日本が将来ズッと成長し続けると皆が信じてたいい時代だったんでより懐かしいのかも。更に時代を遡ると、この頃はまだ荒井由美だったけど「Misslim」と「ひこうき雲」も個人的に好きなアルバムだ。こちらはバブル経済ではなくまだ今から思うとiPhoneもAPPもInstagramもなくて質素だったけどみんなで楽しくやってた子供時代がフラッシュバックしてくる。

で、なぜ共和党の法案に共和党議員が反対することがあるかというと、米国では議員の過去のVoting Record(各法案にどのような票を投じたかという記録)が選挙毎に国民に精査される。したがって自分の選挙区や支持基盤がサポートしていない法案には例えそれが自分が所属する党の議員により提出された法案でも反対票を投じることとなる。

なお、予算決議は両院一致で可決される必要がある。下院では既に可決されているが、今回可決された上院バージョンとは内容が異なる。先に可決されていた下院バージョンの上院との一番の違いは税法改正の際に赤字を増やさないようにとなっている点だ。本来、内容が異なる予算決議が両院で可決されると、両院協議会ですり合わせを行う必要があるが、今回はただでさえ足りない時間を節約するため、上院を通過したバージョンを下院でも再度通し、一気に両院一致予算決議を可決したいと下院議長は言っている。となると来週にも一致予算決議が出て、直後に下院の歳入委員会から法律原文が出てくるのだろうか?Paul RyanもKevin Bradyも今年中の税法改正可決に未だにアップビートなことを考えると法文原案は実は裏ではほぼ完成しているものと推測される。

今回の上院による予算決議審議で面白かったのは例のRand Paul先生だ。Rand Paulと言えばオバマケア廃案の最後の法案に「十分に廃案していない」と反対票を投じたり、「情報交換規定は憲法違反」として租税条約の批准を一人でブロックしている大先生だけど、今回は「1兆5千ドルでは足りず2超5千ドルまで赤字を認めてもっと豪快な減税とすべき」という修正要求をして、それが却下されると予算決議そのものに反対票を投じている。今回は51の賛成票が集まっており、それらは全員共和党議員のものなので、造反者はRand Paul一人だったこととなる。ちなみにRand Paulの修正案は7対93で大敗しているが、他に6人は賛成した共和党議員が存在したんだね。それにしても150兆円の赤字では十分ではなく250兆円相当の赤字を提案していたとはさすがRand Paul先生。レベルが違う。

Thursday, October 19, 2017

米国内部留保課税

今日、急に日本企業複数社から、10年以上、もしかしたら20年以上(?)に亘り誰からも質問を受けた記憶のない米国の「法人内部留保金課税」にかかわる質問が相次いだ。なぜこんな目立たない税法が急に息を吹き返したように話題になっているのか一瞬面食らったけど、小池代表の希望の党が内部留保課税を衆院選の公約に掲げたり、メディアが「米国ではすでにそのような課税が存在する・・」という感じで報道したことを受けての反応だったようだ。で、後からその報道を見たけどチョッと誤解を招くような感じもあった。というのは読み方によっては、米国法人は税引後利益の未配当部分に恒常的に20%課税されているように取れるからだ。実際は違ってこのような課税はかなり稀なケースに限定されている。

報道の通り、確かに米国にも「Accumulated Earnings Tax(「AET」)」という内部留保課税制度は一応存在はする。その趣旨は、法人が合理的な事業ニーズを超えて留保金を持ち続け、「個人」株主側の配当課税を不当に繰り延べていると判断されるケースに限り、法人に20%の実質ペナルティーを課すというものだ。ただ、単に法人に大きな留保金があるということだけで課税されるような簡単なものではなく、法人が株主の課税を回避するという意図を持って過剰な留保をしているというIRSにとっても面倒な認定をしないと適用はない。制度的にはこの認定をIRSが行った場合には、納税者側が反証に回るというものだ。すなわち、申告書で納税者が計算するタイプの税金やペナルティーではなく、税務調査で初めて争点となるものだ。

AETの趣旨はあくまでも「個人」株主が配当に対する所得税支払いを先送りするために法人を利用している状況に網を掛けるというもので、AET算定は会計上の、特に全世界グループの連結財務諸表上の税引前利益とか留保金とは一切関係ない。あくまで米国内の課税所得に一定調整して税金を引いて(結果としてE&Pに近い数字となる)更に配当、合理的な事業ニーズ、$250Kという生涯免税枠を差し引いた額が基準となる。

1986年の税法改正以降、特に2000年代前半のブッシュ減税で配当に対する税率がキャピタルゲイン同様に低減してからはそもそも配当課税を先送りするインセンティブが相対的に大きく低下している。1986年の税法改正前は法人税率と比較して個人所得税率がかなり高かった時代もあり、法人を組成して個人株主側の課税を避けようという動きもあったかもしれないが、それも今は昔。また家族経営的な曲面では1990年代からはS法人、法的なパートナーシップに加え、LLCというパススルー課税選択可能な法人ハイブリッドが主なので、わざわざ法人(=Corporation)形態を利用して配当課税を節約しようというコンセプトそのものが時代にそぐわないと言える。結果としてAETの適用はかなり稀だろう。

そのせいかどうか分からないけど、IRSの「税務調査マニュアル(Internal Revenue Manual)」のAETに対する部分は2000年に取り下げられ、その後、それが復活している形跡はない。

ただ、一点面白い展開としては米国税法改正が本当にUnified Framework通りに可決されると法人税は20%、個人所得税は最高35%(場合によってはもう一つ高いSuper Bracketもあり得る)となる。そうなると潜在的に法人をシェルターのように使用するインセンティブが復活してくるかもしれない。ただ個人事業主、パススルーが25%になるのであれば無理して法人を組成する理由もないだろう。このことからも法人税率を20%にする場合にはパススルーの事業所得に対しても何らかの減税がないとおかしな結果となり得ることが分かる。

で、このAETだけど、単に個人株主というだけでなく、株主が「米国個人所得税」の対象となるケースのみに適用があり得る。例えば日本企業の米国現地子会社、米国内の法人所有の子会社、などは制度的に対象外となる。1984年の税法改正でAETは株主の人数に関係なく適用があるとなったことから上場企業でも個人株主に関しては理論的には対象になるということだけど、上場企業のBoardは受託者義務に基づく企業統治をしっかりしていると思われることから、不要な資産を留保しているという認定に至る、または過剰な留保金を持っていても法人がそのために存在するというような認定を受けることはまずあり得ないだろう。今日の上場企業には必ずと言っていい程アクティビスト株主(「物言う株主」って訳すんだっけ?)がいるから余剰の現金なんか持っていたら直ぐに自己株式をBuybackしろとかなるし。結果としてAETの適用はあったとしても相当露骨に配当課税を回避している同族企業のような局面となるはずだ。実際にその昔「Technalysis Corp」という判例があり、上場企業という理由だけではAET回避はできないが、結局法人が課税繰り延べのために資産を内部留保しているとは言えないという結果が出ている。

日本の論調は留保金を有効活用させるためにペナルティー課税を導入というように報道されているけど、米国のAETにそんな意図は一切ない。あくまでも個人株主の課税繰り延べと言う節税プランに網を掛ける意味しかなく、企業が他の目的でどのような配当性向を持っていようとそんなことをいちいち連邦政府から口を出される筋合いはない。税法以外は僕の専門ではないけど、普通に考えれば企業統治が健全に機能していて、効率のいいキャピタルマーケットが存在する環境であれば、企業およびマーケットが各Stakeholder、利害関係者にとってベストな配当性向を決定するはずだろう。各企業の内部戦略は千差万別なんだから部外者から配当性向を指示されたり、一律ガイドラインが出たりする方向は変だ。制度設計を再検討するのであれば企業統治やキャピタルマーケットの効率性をより高める環境作りに注力して、後は民間に任せるのがベストなんじゃないかな、と思ってしまいました。

Sunday, October 15, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(5)

前回は米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の法人税および事業所得に対する課税について、特にR&Dクレジット、製造者控除のような特殊恩典と課税ベース拡大、そして最後に法人の二重課税軽減と上院のCorporate Integrationプランに関して触れた。今回はクロスボーダー関係。

元々The Blueprintが2016年夏に公表され、その後選挙で両院プラス大統領府を共和党が制した後も、米国税法改正が最終的に一体全体どのような形のものとなるかという点に関しては多くの不明点があったが、現状の全世界課税からテリトリアル課税制度に移行することは間違いないと考えられていた。

で、予想通り、Unified Frameworkでも米国のテリトリアル課税制度への移行が明記されている。The Blueprintでもそうだったように、海外子会社からの配当は100%非課税としている。これはCamp案とかの従来の提案が日本同様に95%非課税としていたのと対照的だ。なぜ5%とか課税する案が多いかと言えば、親会社レベルでの金利負担に代表される海外子会社投資のCarrying Costを紐付きで損金不算入扱いしない代わりに、配当5%部分に課税してみなしでCarrying Costを損金不算入したっような効果を得ようとするからだ。Unified Frameworkでは100%非課税としているだけで特にこの点への言及はなく、Carrying Costを損金不算入するような特別な規定が入る話しはない。損金不算入はないと考えるべきか、それとも既存のSection 265を改訂して少なくとも利息の一部損金不算入となるのか、今後の注目。

非課税となる配当はCFCからのものばかりでなく、10%以上の持分を持つ投資先からのものも対象となる。現状の間接外国税額控除も10%持分が基準だけど、その場合は議決権で判断するので今回も議決権ベースかもね。

そして米国のテリトリアル化の際に避けて通れないのが制度移行時の一括課税。国境調整に基づく消費地課税が取り下げられた今、めぼしい財源と言えばこれしか残っていない。米国多国籍企業は現状の税法ではとても海外で稼いだお金を米国に持って来れず、多額の埋蔵金を海外に留保しているのはみんなも知っての通り。

以前「トランプ大統領税法改正プラン(5)」で書いたけど、アップルに至ってはナンと2,500億ドル(円ではない)の現預金相当を持っており、その9割が米国外にある。米国外にあると言っても、預金の大半はNYCの金融機関にあると思われ、海外子会社がNYCに非居住者口座を持っているようなイメージだろう。EYの監査クライアントなので公けの情報のみを基に話しておくけど、2,500億ドルと言えば100円換算でも25兆円だ。WJSによるとこの金額は英国とカナダの外貨準備高の合計より、またWalmartのマーケットキャップより大きいというから凄まじい。この現金をどのように戦略的に使うべきかに関しては外部からいろんなコメントがあるけど、歴史的にアップルは余り大きなM&Aをしていない。Netflixを買収するべきという話しもあるし、いやテスラでしょう、という話しもある。ただ、これだけの現金があるとNetflixとテスラの双方を同時に買収してもまだお釣りがくるそうだ。その昔は破産の危機に瀕していたこともあるのにやっぱり元祖iPhoneをこの世に送り出してくれたSteve Jobsの才能は凄まじい。

で、Unified FrameworkではThe BlueprintやCamp案でもそうだったように制度移行時点で累積されている配当原資、すなわち米国基準で算定するE&Pに対して2つの低税率で課税するとしている。The Blueprintでは現預金に対して8.75%、事業資産に再投資されている部分は3.5%としていたが、Unified Frameworkは税率を明記していない。トランプ大統領は一律10%としていた。歳入がどれだけ必要かにより税率を決めるつもりなんだろうけど、どの時点で現金と他の資産を区別するのか、とか結構複雑なことになるような気がする。5%も税率が異なるんだったら当然急に現預金を事業資産に投資してバランスシートを操作するプラニングが横行しそうだけど、そんなプラニング防止のため9月27日とか法律が最終化する以前の日の資産状況を基に対象税率を決定したいという話しもあるようだ。ただ、現実問題として期末以外のタイミングで正確なバランスシートなど存在しないことが多く、変な日にちが設定されると面倒なことになりそうだ。余りに複雑になるようだと結局単一レートという可能性も無くはないだろう。

制度移行時点で累積されている配当原資に一括課税というとシンプルに聞こえるかもしれないけど、現実にはテクニカルな検討事項が結構多い。世界中の子会社を別々に見るのか、マイナスとプラスのE&Pを相殺させてくれるのか、とかいろんなアプローチがあり得る。一括課税をテクニカルにどう位置付けるのかも不明だけど、新たなSubpart Fカテゴリーを規定して留保金課税するのが自然な感じ。どのような課税方法が採択されるにしても現時点で米国多国籍企業が最も注力しているのがこの一括課税をどう最小限に食い止めるかという点だろう。

ちなみに10%投資先からの配当も100%非課税となるからには当然一括課税の対象にもなる。10%しか持っていない投資先の米国算定基準のE&Pなんか分からないケースもあるだろうし、配当性向に関して決定権を持たない投資家が配当原資全額に課税されてしまうのもチョッと気の毒なケースもありそう。

税率がどれだけ低く設定されたとしても埋蔵金が巨額なだけに、一括課税から上がる税収は大きい。となると支払う方は大変で、しかもみなし配当課税だから、本当に海外で再投資されているケースでは親会社に十分な納税原資がないこともあるだろう。The Blueprintでは8年間の割賦納付が規定されていたが、Unified Frameworkでも複数年掛けての納付を認めるとしている。ただ、それが何年なのかは明記されていない。

テリトリアル化で心配されるのは米国多国籍企業によるBase Erosion。一度、海外子会社に所得が移転されてしまうと米国としては2度と課税するチャンスがないからだ。同様の懸念が2009年に日本がテリトリアル化した際にも存在したが、プラニングに対する熱意が異なる米国企業相手となるとこの懸念はRealだし確かにいろいろなプラニングを実行してくるだろう。その対策にかかわるUnified Frameworkのコメントに関しては次回。

Tuesday, October 10, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(4)

前回は米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の法人税および事業所得に対する課税について、特に設備投資減税と支払利息の損金算入制限に関して触れた。今回は税率低減の引き換えとなる課税ベース拡大の一環でThe Blueprint時代から撤廃が予想されていたクレジット、特殊控除に対するUnified Frameworkのアプローチを中心に見てみたい。

まずUnified Frameworkでは2つの恩典を明確に残すとしている。ひとつは以前から聖域化していて税法改正がどのような方向になろうと存続がほぼ確約されている「R&Dクレジット」。Patent BoxやInnovation Boxを導入していない米国において、自国の試験開発を税法面から後押しする切り札だ。Patent BoxはNexus云々が欠けていたり、下手をすると条件次第ではOECD BEPSの世界では悪しき慣行のレッテルを貼られてしまい、R&Dクレジットがより好ましい税法とされているが、BEPSに同調する気配が一向にない米国においてこの部分は「期せずして」BEPS Action 5に準拠しているような形になっている(苦笑)。

R&Dクレジットは日本企業の米国子会社も頻繁に利用しているけど、もうひとつ存続が約束されているLow-Income Housing Tax Creditは日本企業には余り馴染みのない規定だ。このLow-Income Housing Tax Credit、略してLIHTC、「ライテック」とか何となく冷蔵庫メーカーみたいな名称で呼ばれていて、大手会計事務所では専門チームが居たりするけど、基本的には低所得層向け住宅供給のために設立された連邦政府の補助金制度のようなものだ。

税法の簡素化および課税ベース拡大の見地から、他の恩典は基本的に撤廃または見直しということなんだけど、The Blueprint時代から目の敵にされていて撤廃が明言されているのが国内製造控除、Section 199だ。Section 199は、古くはGAAT、近年ではWTOを舞台に揉め続けたFSCとかETRとかが結局撤廃になった際、輸出補助に代わる米国製造業回帰策の切り札として登場してきた経緯を持つ。米国で一定の製造活動に従事しているとそこから創出される課税所得の9%が非課税となるというもので、形式的には費用控除だけど、実質そのメカニズムは税額控除に近い制度だ。

Unified Frameworkでは法人税および事業所得に対する税率が過去80年で最低になり、OECD諸国と遜色なくなることから、米国での製造活動に対する税務上の不合理は解消され、製造者控除の役割は終わったとしている。また、他の諸々の恩典に関しても撤廃または限定するとしているが、Section 199以外に関しては何となくはっきりしない。

また特定セクターだけに規定される特別な恩典に関しては近代化して今日の経済実態により即したものにするとしている。う~ん、何か官僚の答弁とか禅問答を聞いているみたいで何をしたいのか良く分からない。政治的に撤廃できないものは残すってことなんだろうか。セクターに対する特殊恩典としては資源とか再生可能エネルギーにかかわるものが多い。米国のエネジーポリシー、環境ポリシーが新政権下で大きく変化しているので、この辺りの恩典見直しがどう導入されるか興味深い。

法人税および事業所得に対するUnified Frameworkのアプローチはだいたいこんなもんだけど、一点最後に法人税ストラクチャーにかかわる記載に意味不明の一文が挿入されている点に触れたい。

「今後、議会は法人の二重課税負担軽減法を検討するかもしれない」という一文だ。いかにも取って付けたような不自然な一文で、最初読んだ際には内国法人間での配当を全額まはた70%、80%非課税としている現状のDRDを拡充でもさせるつもりで書いたのかな、位にしか読んでなかった。でも、どうもしっくり来なかった。で、良く考えてみてㇷと気付いたのが、今回のUnified FrameworkのUnifiedと言うのは当然上院の財政委員会がBig 6の一角に入っているけど、財政委員会が過去から提唱しているのが「Corporate Integration」という法人課税法だったという点だ。このCorporate Integrationというのは財政委員会、特にその議長のOrrin Hatchが今でもあきらめずに提唱しているもので、個人を含む株主が受け取る配当に課税されて法人レベル課税と合わせて二重課税となる問題を、配当を法人に損金算入させることで解決しようとするものだ。法人側でDPD(Dividend Paid Deduction)を計上させるという仕組み。

それであの一文の謎が解けたような気がした。すなわち、Unified Frameworkでは常に一家言ありの上院の意思を尊重するためにあのような文を挿入したものと個人的には考えている。実際には「may consider…」程度の話しで現実にCorporate Integrationが法律となることはないに近いと思うんだけど、上院はThe Blueprintの頃からしきりと「下院の法案をそのまま採択するようなことはしない」とその存在感をアピールし続けたため、この一文を拠り所に独自の法原案を出したりしてくるかも。そうなると下院、上院のすり合わせに時間が掛かり今年中の法制化は、今でも夢のような話しだけど、もっと夢になるという悪夢となり兼ねない。

ということで法人税および事業所得の課税の話しはこの辺にして、次回は米国多国籍企業に大きなインパクトを持つテリトリアル課税について。

Wednesday, October 4, 2017

385条財務省規則ついに実質廃案

夏からオバマ政権末期に公表された悪しき規則のひとつとして、新政権が見直しを表明していた385条「Debt/Equity Classification(俗称「過少資本税制」)」最終規則が実質廃案に近い形で処理されることが発表された。トランプ政権による規制緩和の一環で財務省は今日、大統領令13789を発表し、規則の骨子を構成する2つの規定、すなわち文書化規定、Funding規定の双方とも行政府の行き過ぎた規則とし、次のような改定を約束している。

まず、文書化規定。こちらは既に発効が1年延期され2019年1月1日となり、その存続は風前の灯化していたが、今回の大統領令で遂に正式に廃案となった。正確に言うと既存の文書化規定は廃案とする代わりに、より簡素化された新規則に置き換えるとしている。特に評判の悪かった、買掛金とかの日常業務で発生する負債に対する文書化の必要性有無に関しては一から見直すとしている。本当のローンであれば文書化はあってしかるべきだと思われるが、これらのWorking Capital的なやり取りまで文書化というのはやはり負荷が高いので改正はありがたい。

また、もう一つ皆が悩んでいた「合理的な返済可能性」にかかわる文書化要件にも大幅な見直しを加えるとしている。さらに現存の規則がかなり焦って旧政権末期に滑り込み的に策定され混乱を生じさせていたことから、新規則は公表の段階で納税者に十分な準備期間を設けるとしている。

385条最終規則の2つ目の規定となり、また現時点で既に法的効力を持っている「Funding規定」に関しては、余りに行き過ぎた規定だったとし、ただし議会が現在着手している米国税法改正の一環で規定そのものが不必要となることが予想されるとしている。なので、敢えてここで変な改訂をすると不必要な混乱を招く危惧があり、現時点での改訂は敢えて控えるそうだ。ただ、税法改正は決まったわけではないので、万一議会による税法改正でFunding規定の重荷が解消されないと判断される場合には、その時点で最終規則の改訂を検討するということ。

昨年から騒がせてくれた385条も政権交代、税法改正の流れであっけない幕引きとなりそうだ。

Saturday, September 30, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(3)

前回はは米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」の全体のテーマ、現状35%から20%と劇的に低減される法人税率、そして個人オーナーに配賦されるパススルー所得25%特別税率を中心に触れた。今回も引き続き法人税および事業所得に対する課税について、特に設備投資減税と支払利息の損金算入制限に関して触れてみたい。

前回触れた法人税率20%だけど、これは先進国平均22.5%よりも低く設定され、米国の投資先としての魅力を高めるとしている。実際には連邦法人税と並び米国には州税があり、配賦比率とか個々のケースで大きく異なるとしても州税の実効税率はザックリ5%程度に終焉することが多く、連邦・州合計では税率は25%程度になるケースが多い。ちょうど、日本でタックスヘイブン税制が見直されているタイミングなので、日本企業の米国子会社各社の実効税率が税法改正後、何%になるのか親会社側としては気になるところだろう。

法人税率低減は民主党は取りあえず反対を表明しているが、経済界は当然大歓迎で、中でもオバマケア廃案議論または今日に至るまでの税法改正議論の過程で発言権および影響力を強めてきたFreedom CaucusやKoch Industriesのサポートは特筆に値する。ただ、企業にとっていいこと尽くしかと言うとそうでもないケースもあり、米国連邦税に関して繰延税資産を計上しているケースでは資産が, 改正と同時にある日急に4割強も目減りしてしまう。そんな状況に晒されている事業体は課税所得の前倒しとか改正前9回裏ギリギリのプラニング検討がMustだろう。

代替ミニマム税(AMT)の撤廃だが、面白いことに個人所得税に関しては撤廃と言い切っているのに対し、法人税に関しては撤廃を目指す(「Aimする」)と少し腰が引けた感じで記載されている。Big 6内で完全にUnifiedできなかったか、財源のことを心配して逃げ道を残しているのか不明だけど、いずれにしてもこの際一気に撤廃してもらいたいものだ。

次に注目度の高い設備投資減税だけど、The Blueprintでは有形、無形を問わず事業資産は土地を除き全て取得時に費用化という提唱だった。The Blueprintによるこの大胆な提案は設備投資減税の側面も当然あるものの、課税所得の算定を完全にCash Flowベース化し、かつ一部で評判の悪かった例のBorder Adjustment、すなわち消費地課税と組み合わせることで法人税を限りなく消費税やVATに近づけるという意味が大きかった。消費地課税の方はUnifiedできずに廃案としておきながら、納税者に受けのいい設備投資減税の部分は残している点、税法改正はテクニカルな世界では一切なくあくまでもポリティクスにより事が動いていくことが良く分かる。

Unified Frameworkに対する第一印象のところで触れたけど、Frameworkは法の発効日とか施行日には一切触れていないにもかかわらず、設備投資減税に関しては2017年9月27日(Framework発表の日)以降に適用と細かく規定し、さらに当措置は少なくとも5年は継続するともわざわざ記載して時限立法っぽい方向を示唆している。これはおそらく設備投資の100%費用化はあくまでタイミング差異の話しなので、経済浮揚効果を最大限化するには、一日も早く投資を始めてもらい、しかも時間制限を設けることで、比較的早期5年以内に先行投資させる意図であろう。

対象となる資産は建物を除く償却資産(Depreciable Assets)とされている。正確に何を意図しているのか分かり難い。税務上は「Depreciable」という際、「Amortizable」の資産も含まれると解釈される局面もあり、有形資産のことだけを意味しているのか、それともSection 197償却対象となる無形資産をも含む意図があるのか文面からは必ずしも明確ではない。ただ、「New Investment」と言及されていることから、最初に読んだ際の印象としては建物を除く有形の動産を対象としているように見え、無形資産はテクニカルにはDepreciable Assetsでかつ動産ではあるけれど、Goodwillとか通常は他者が創造したものを取得することで簿価が発生することから新規投資とは言えず、Frameworkの意図する対象ではないように思えた。今後、法原文の作成過程でより明らかとなっていくだろう。

Frameworkによるこの設備投資減税はスコープ、対象期間共に前代未聞のスケールであり、税法をドラフトする議会は更なる強化を試み、「中小企業」の後押し努力を惜しまないと自画自賛している。なぜ設備投資減税が大企業と比べて中小企業により大きな助けとなるのか良く分からないけど。

次に激しいロビー活動の矛先が向けられていた支払利息の損金算入の動向。The Blueprintでは事業体、個人を問わず事業目的の支払利息の損金算入は全面撤廃とされていた。これは法人税のVAT化に準じてある意味当然の方向ではあったかもしれない。一方Frameworkではこの点に関して何とも歯切れが悪く、C Corporationによる支払利息は一部損金算入を制限するとのみ記載している。例えば金融機関なんかもC Corporationのケースがほとんどだと思うけど、金融業で支払利息の損金算入が制限されてはビジネスが成り立たないんじゃないか、とも思え、結局はいろいろな例外が規定されることになるのだろう。また、グループ金融会社も同様だが、銀行ライセンスを持っていないグループ会社は銀行と比べると例外対象となる確率は低いようにも思われる。Capital Structureの大幅変更を強いられるケースも予想され、十分な導入期間の設定が期待されるところだ。制限が条文化されると例のDebt/Equity Classification(俗に言う過少資本)を規定したSection 385の膨大な規則も用無しとなり、自然消滅の憂き目にあう可能性もある。また、一般企業が金融機関から受ける融資に対して支払う利子の損金算入に制限が加えられることになると、ファイナンス法としての魅力が低下することとなり、今後この規定を巡っては銀行が猛反対してくるだろう。

C corporationによる支払利息の損金算入制限だけど、具体的にどのような方法で制限してくるんだろうか。トランプ大統領案では元々、設備投資の一括費用化と支払利息の損金算入が選択制だったが、今回の「制限」というのは、設備投資の一括費用化メリットを取る際に適用されるような仕組みになるのだろうか?設備投資減税が選択制という書き方ではないのでこの方向はないように思える。もう少しあり得そうな方向は、一定のDebt/Equityレシオを超える負債に対する支払利息の損金不算入とか、例えばAFR、またはAFRの120%までとかIRSが指定する利率を超える部分を損金不算入にするとか、だろう。

C Corporationに対する扱いも曖昧だけど、それ以外の事業主による支払利息の損金算入可能性に関しては更にオープンエンドだ。FrameworkではC Corporation以外の事業に関しては議会が適切なアプローチを検討するとだけしている。どのような制限が規定されるにしてもロビー活動をさかんにしていた農業、Frameworkが繰り返しサポートを強調している中小企業は制限免除の可能性もある。

今回はこの辺で、次はR&Dその他クレジット等に関して。

Friday, September 29, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(2)

9月27日に公表された米国税法改正大綱とも言える「Unified Framework」。前回はその第一印象を中心に書いたけど、今回は全体のテーマと驚くべき低税率となる法人税および事業所得に対する課税について触れてみたい。

まずUnified Frameworkでは冒頭に大統領が目指す4つの原則が列挙されている。これは4月の大統領府による発表と同じようなテーマ設定だけど、1) 税法の簡素化、2) 勤労所得者の手取り給与の増額、3) 他国と同じ土俵で米国企業、個人が活躍できる経済環境作り、4) 海外に眠る巨額埋蔵金の米国還流促進、となる。そしてこれらのテーマは両院で税法原案作成の任を負う下院歳入委員会および上院財務委員会も共有しているとのこと。

このテーマの下、Unified Frameworkでは21世紀に相応しく、財政責任を持つ税法改正を提唱するとし、1)ミドルクラス減税、2) 大多数の米国市民がポストカード一枚で申告手続きが終わる税法簡素化、3) 事業、特に中小企業減税、4)労働、資本、所得の海外移転インセンティブ排除、5) 多くの各種恩典の排除による課税ベース拡大、の5つを目標として特定している。財政責任と明言しているけど、前回書いた通り減税に見合う歳入の議論はUnified Frameworkではされていないのでチョッと口だけな感じも否めない。後、ポストカードは実現したらうれしい。僕も自分の申告書を作成するけど、プリントするといろんなStatementとか付くので連邦税だけでも1.5センチくらいの厚さになるから相当な簡素化だ。

Unified Frameworkは今後の法律原案作成のテンプレートとなるが、委員会は必要に応じて更なる改正を盛り込んでFrameworkの目標を達成するようにと命じている。

ここでUnified Framework原文では個人所得税減税の説明に入るが、そこは次回触れるとして、今日はその次に論じられている法人税および事業課税に触れてみたい。

まず、冒頭に宣言されているミドルクラス減税の部分を前面に打ち出すため、法人税率より先に中小企業に対する減税が披露される。内容は簡単でスケジュールCで申告される個人事業所得、S Corporationおよびパートナーシップからの所得は一律25%で課税しますというものだ。これは個人オーナーに配賦されるパートナーシップ所得の話しで日本企業が他企業とJV等を実行する際に組成するLLC等のパススルー主体からの所得は含まれない。そのような法人が受け取るパススルー所得は後述の法人税20%で課税されることになる。

このパススルーに25%という部分はThe Blueprintそのものだ。4月の大統領府による発表ではここも15%と説明されていた。

で、The Blueprintの頃から燻っている不明点だけど、今回のUnified Frameworkでも25%税率の対象となるパススルーは「Small and Family Owned」と記載されている。ここはかなり重要ポイントだけど正確な意味は不明だ。すなわち、今までの大統領府、特にPrivate Jetに乗り過ぎのMnuchin財務長官とかの話を聞くと、彼らの頭では個人に所有されるパススルーはイコール中小事業だろうという先入観があるように思える節があり、25%税率適用判断の際に一定の売上とか、パートナーの頭数等の規模的な制限が規定されることとなるのか、それとも基本的にパススルーには全て25%規定が適用されるが、The BlueprintやUnified Framework、また大統領府の4月の発表でも懸念が表明されている通り、実際には給与所得に当たるパススルー所得を事業所得と仮装して本来は35%とかの個人所得税率の対象となる部分に25%が適用されないようなAnti-Abuse規定を設けるだけなのか、今ひとつ不明だ。

この点はThe Blueprintに関して詳解した頃、「米国タックス行く年・来る年(10)下院改正案「A Better Way(The Blueprint)」」にも記載しているので、そちらも参照して欲しいけど、このAnti-Abuse規定を法律化するのは大きなチャレンジだろう。何が合理的な給与水準かという算定はValuationという事実認定の問題となり、パススルーやオーナーが一万通りあれば、適正な給与水準も一万通り存在することとなる。これを個々のケースのFacts and Circumstancesで決めていては数多くの訴訟、係争に発展することは間違いない。となると、安全ガイドラインみたいなものを設けて70%はみなし給与とかするのだろうか。その場合、実際にLLCから勤労所得という形で給与も受け取っているオーナーに対してはどのように対応するのだろうか。パススルー所得は一律25%課税にしてあげます、というのは言うのは簡単だけど、実際に法律として運用するのはとても難しいと思われ、今後の法律原案でどのように扱われることになるか大変興味深い。この規定に代表されるようにUnified Frameworkでは税法を簡素化するって言ってるけど、Frameworkそのものはかなりハイレベル、すなわち大枠の議論で終わっているため、以前のThe Blueprint同様「the devil is in the detail」という感じは否定できず、結果として以前にも増して複雑な税法になってしまうリスクがあちこちに隠れている。

で、次に法人税率。ナンと本気で20%にするとしている。ご存知の通り、トランプ大統領は15%と言い続けてきたけど、Unified Frameworkでさすがに「Unified」して観念したのか、翌日のインタビューでは「20%はパーフェクトな税率でこれ以外にあり得ない!」と言い切っていた。「いよっ、大統領!」という感じの言い切りだったけど、つい一週間ほど前まで15%を主張し続けていた点に関しては「俺が言い続けてた15%っていうのは余りに低すぎてチョッと歳入不足なんだな。だけど俺は15%にしたいと言い続けてそのお陰で20%っていう数字に落ち着いたんだ。で20%っていうのが俺のナンバーで、この20%にこれ以上交渉の余地はないし、俺は交渉しない。なぜかと言えば20%が俺が目指してた数字だからだ」って僕の訳が悪くて意味分かんないと思うかもしれないけど、原文英語でもまさしくこの通りに言ってて意味分からな過ぎだった。まあ、要は15%って敢えて低いところから始めて20%で妥協したように見せてるけど、実際には15%っていうのは単なるGambit、すなわち序盤の先手であり、作戦通りというか計算通りにみんな引っかかって20%になったということなんだろう。

で、20%としか記載されていないんだけど、Flat Rateなんだろうか。現状では15%、25%、34%、35%となっていて、途中、低税率ブラケットの恩典を消去するためのSurtaxとかもあり、部分的に39%で計算したりする帯域もあるんだけど、さすがに今15%で法人税払っている法人が今後は20%となることはないような気もして、となると15%と20%の税率区分になるのだろうか?別にそれでもいいけど、15と20しかない累進税率って何か感覚的に妙だ。一層のこと、0%と20%にして、今まで15%だった法人は0%とかにしたら気前よくかつ分かり易い。

トランプ大統領の発言を訳すのに余計な(?)エネルギー費やしてしまったのでここからは次回。

Thursday, September 28, 2017

米国税法改正大綱 「Unified Framework」(1)

4月に大統領府がレターサイズ一枚、7月にはBig 6が今度はレターサイズ半ページで米国税法改正の原理原則というか方向性を大げさに発表をして以来、いくらなんでもそろそろ具体的な改正内容を発表しれくれないと2017年中の改正は不可能になるぞ、と国民の堪忍袋の緒が切れ掛かっていた、というかオバマケア廃案失敗で共和党主導の議会の無力ぶりに有権者の怒りが頂点に達していた、このタイミングでようやく大統領府および両院の共和党幹部により米国税法改正の大綱とも言える「Framework」なる発表が行われた。

ここまで待たせたからには相当中身の濃いものになっているんだろうな、と数週間前から様々な憶測があったが、発表日の9月27日が近づくにつれ今回も「ハイレベル」な原則っぽいものに留まると噂され始め、え~いつまでやってんのって感じだったけど、逆に怖いもの見たさに似た不思議な感覚で実際の発表内容が注目されていた。

そんな中、予定通り9月27日に発表された大綱は9ページ!う~ん。ボリューム的には大統領府による4月の発表会の配賦物の9倍。Big 6による7月の発表の18倍の紙面を割いた力作(?)と言える。で、肝心の内容はと言うと大統領府の発表との比較でとても9倍とは言えず、せいぜい2.5倍くらいの感じ。

まあ、とは言え、1986年以来の大規模な税法改正に向けてようやく重い腰が上がり一歩(まだ残り99歩未踏?)を踏み出した観はある。まさに「Let me kick it like it's 1986!」。この歌詞、ここ1カ月くらいやたらNYCでもL.A.でもFMでヘビーにプレーされる「Feel It Sill」からだけど、この部分の歌詞聞く度に税法改正を思い出していた。この曲聞いて税法改正を連想するようなオタクな人は世界広しと言えども僕以外に存在しないのは間違いない。Portugal The Manによるオリジナルもノリが良くていいけど、MedassinによるRemixバージョンもAmbientでなかなかGood。オリジナルはLA.、RemixはNYCって感じかもね。

さて、一歩踏み出したのは評価できるとして、でもちょっと遅すぎた観は否めない。2017年内に法制化を目指す点は共和党幹部的には未だブレていないようだけど、その無謀な根性は評価に値いするとしても、後3カ月強の月日を残すのみだけという点を見てもそのアグレッシブさが伝わるけど、実際に議会の開会日数は40日を切っているというと無謀ぶりがもっと伝わるだろう。そんな短期でこんな大それた改正が本当に法律になるのだろうか。法律案の原案作成すらこれからだし、その後の審査、両院での審議、すり合わせ、成立と先は長い。

今回から数回に亘りUnified Frameworkに記載されている改正の方向性の詳細を見ていきたい。まずこの大綱のタイトルだけど正式には「Unified Framework for Fixing our Broken Tax Code」。Unifiedというのは下院、上院、大統領府というステークホルダーから既にコンセンサスを得ているという意味。逆に言えば、曖昧に表現されている部分、または敢えて避けて通っている部分は未だにコンセンサスに至っていないという厳しい現実を露呈しているとも言える。

Unified Frameworkの表紙はどことなく昨年発表された「The Blueprint」を思わせる。今回のUnified FrameworkをPaul Ryanが手に持って嬉しそうに公表している姿を見ていると、一年強前にThe Blueprintを公表していた姿がダブる。Paul Ryanもオバマケア廃案失敗等でどことなくチョッとやつれた感じ。

一年前はBlueprintだったけど今回は「Framework」。どちらも方向を示すもので詳細な法律ではない。Blueprintって用語はもう使えないだろうから代替の用語選択としてはまあいいチョイスだと思う。でも、それに続く「Fixing our Broken Tax Code」っていうのはなかなか毒々しい。本当だから仕方ないかもね。。

「Unified」の部分は今回の立法プロセスのキーとなるアプローチ。オバマケア廃案の最初の下院案が根回しなく公表され、結局廃案に追い込まれるという苦い経験があるだけに下院が法原案を作成する前段階で前広に大枠は合意しておくというアプローチだ。オバマケア廃案の試みはご存知の通りその後も混迷を極めまくり、ついに2017年の予算調整案に基く廃案期限の9月30日までに法案が通らないという選挙公約違反状態に陥っている。2018年の予算調整案に税法改正と並んで再度盛り込むという敗者復活的なうわさもあるにはあるけど何回やっても共和党が一枚岩になれなけば難しい。John McCain、Rand Paul、Lisa Murkowskiの3共和党上院議員は共和党の党是的には決して許されない憲法違反に近い大きな連邦政府、大増税を実現したオバマケアを部分的にでもリバースする機会を潰した功労者として歴史に残るだろう。この3人はNancy PelosiやChuck Schumerとかの民主党幹部の誰よりもオバマケア存続のために大活躍したことになる。John McCainはトランプが嫌いという理由だけでも絶対に賛成票は投じないにしても、先のSkinny廃案には賛成していたRand Paulは一体どうしてしまったんだろうか。このRand Paul先生こそ、日米租税条約の改定議定書が未だに批准されない理由の張本人だ。いろんなところで大活躍してくれている。

で、Unified Frameworkの話しに戻るけど、まず第一印象としては歳入部分の詳細が不明でブラックホール的なイメージ。これだけの減税をどうやってFinanceするのかという点に関して一部の控除を撤廃するという以外は敢えて無視しているのかな、と思えるほど触れられていない。The BlueprintではBorder Adjustmentとか金利の損金不算入とか一応財源が手当されていたので、今回は対照的だ。ここをどう読むかだけど、共和党幹部に何のアイディアもないと読むか、実は手当の目途は付いているけど、今公表すると損を被る業界団体等から猛反発を受け、ロビー活動で動きが取れなくなるシナリオを避けるため、敢えて奇襲攻撃で行くつもりと読むべきか。おそらく後者だろう、というか後者であると願いたい。

ただ、歳入原資は結構な重要ポイントだけに、その点を不明なままにしているFrameworkを早速今朝の専門誌とかでは「Nowhere Plan」とか揶揄している。Nowhere Planとか言われると、どうしてもThe BeatlesのRubber Soulに入っているNowhere Manを思い出す。武道館の東京公演でもライブで演奏したJohn Lennonの名曲だ。John Lennonと言えば、ついこの前Paul McCartneyをMadison Square Gardenで見た際、Set Listの結構な部分をThe Beatlesの曲の中でもどちらかと言うとJohn Lennon系の曲が占めていたのが意外かつ印象的だった。数年前にL.A.のStaples Centerで見た際はThe Beatlesの曲でも当然McCartney自作の曲がほとんどだったけど。今回はOpeningのA Hard Day’s NightもどちらかというとJohn Lennon系の曲だし、まあこの当時はまだ本当にLennon/McCartney共作のエレメントもあったかもしれないけど、以前は同じSGT PepperからでもGetting Betterとかやってたのに、今回はBeing for the Benefit of Mr. Kiteと言うおよそJohn Lennon以外がプレーすること自体が想像し難い曲を取り入れていた。A Day in the Lifeもそうだ。まあA Day in the Lifeは曲の真ん中のブリッジ部分はどう聞いてもPaul McCartneyが作った部分をくっつけているので半分は自作と言えるかもね。

で、何の話しだったかと言うとUnified Frameworkに歳入原資の話しが欠落しているというところだった。もう一つ興味深いのは税法改正の発効のタイミング、施行日に触れられていない点だ。その一方で、後述する設備投資減税に関しては「2017年9月27日以降に事業用途に供された動産」と異様に詳しくタイミングを規定してみたり、となかなか面白い。法人税とかは2018年1月またはそれ以降に開始する課税年度から適用というのが順当だろうけど、個人所得税とかは2017年1月に過去訴求とかないんだろうか。

と、いろんな意味で面白い発表だけど、次回から法人税・事業課税、クロスボーダー、個人所得税・遺産税、今後の手続き、等もう少し詳細に見ていきたい。

Saturday, August 5, 2017

GMMケースその後

7月15日の「外国法人による米国パートナシップ持分譲渡」というポスティングで、外国法人が米国パートナーシップ持分を譲渡・売却した際の米国税務上の扱いは国内での譲渡同様、パートナーシップ内の個々の資産の譲渡と見るのではなく、基本的にパートナシップ持分という個別のキャピタル資産を譲渡した扱いとなるというTax Courtの判例(「GMMケース」)に触れた。

その際に触れた通り、Tax Courtの議論の中で、キャピタルゲインはFDAPでないとした上で、米国源泉であればForce of Attraction、すなわちSection 864(c)(3)に基づき課税となるとしている部分がありとても不思議だった。もし米国源泉だったらFDAPでなくれもCapital Gainなんだからsection 864(c)(3)ではなくSection 864(c)(2)のAsset TestやActivities TestでECIかどうかを決定するんじゃないかと思ったからだ。この点に関してTax Courtは数日後にオピニオンを修正し、もし米国源泉だったらSection 864(c)(2)で考えるべきと訂正している。これで話しがスッキリした。

このGAAケース、その判決にIRSが不本意ながらも従う(Acquiesce)のか、それとも控訴に持ち込むのか注目されているけど、未だにIRSは態度を明確にしていない。大方の予想ではIRSは控訴するのではないかと言われているようだけど、法的に余りにサポートがない点はTax Courtの議論でも、IRSの主張には何の法的な根拠ナシとバッサリと切られていることからも明らか。また、Revenue Ruling 91-32にしてもその発表以来その主張は問題とされてきているので、ここはあきらめてSection 741そのものの議会による改正に掛けた方がいいのではないかと思う。

Tax Reformの提案から消費地課税が取り下げられた今、法人税率を20%とかに下げるとなると他に幅広い財源が必要となる。その中のひとつとしてSection 741の改正により実質Revenue Rulingの条文化が実行されるのではないかという憶測もある。いくらの歳入になるものか知らないけど、チリも積もれば的にひとつの財源として目を付けられる可能性はある。Section 741を変えれば、外国法人には不利だけど、法的な不確実性はほぼなくなるのでGMMケースのような争点はなくなる。

GAAケースに準じてパートナシップ持分譲渡からのキャピタルゲインを非課税とする扱いは、Tax Courtの判例にもある通り、キャピタルゲインが外国法人の米国オフィス(パートナーシップを通じたみなし事務所を含む)に帰属しないというのが要件になるが、多くの外国法人による米国パートナーシップ投資はGAA同様のパターンが多いはずで、Blocker Corporationを経由しないで米国パススルーに投資しているようなケースでは法的な改正が実際に行われるまでは既に納付済みの法人税の還付請求の機会も多いだろう。

ちなみに聞いた話しだと、このGAAケース、裁判所で争われてから先日Tax Courtが判決を出すまで3年も掛かったらしい。オピニオン自体は結構短くてどちらかと言うとシンプルだったのでどうしてそんなに時間が掛かったのか少し不思議。

Sunday, July 30, 2017

過少資本税制の文書化要件適用1年延期

国境調整が正式に闇に葬られ「消費地課税よ永遠に」となった翌日の7月29日、日本企業の米国オペレーションにとってもうひとつ最大の関心事と言ってもいい米国過少資本規則に基づく文書化要件適用開始が一年延期されると発表された。

東海岸では金曜日も正午を回り、NYCは比較的涼しくて過ごしやすく週末に向けていい感じのVibeが街に漂い始めた矢先、財務省によるNotice 2017-36発表というニュースが届いた。過少資本税制(正式にはDebt/Equity区分と言うべきだけど)に基づき2016年のオバマ政権末期に滑り込みで最終化された財務省規則は、とてつもなく複雑な「Funding規定」が既に法的な効果を持っている一方、文書化規定は2018年1月1日またはそれ以降に締結される関連者間ローンから遅れて適用となっていた。更に最終規則では、文書化を整えるタイミングも申告書提出までと緩和されていたので、3月決算の多い日本企業的には早くても2019年1月15日(なぜかIRSは申告期限を一月遅らせているので)までに対応すればいいことになっていた。

とは言え、時は既に2017年夏。そろそろ文書化対策も本腰を入れて考えなくては・・、となりそうな絶妙なタイミングで適用一年延期の通達が出たことになる。これで3月決算の場合、最長2020年1月までに文書化を整備しなくてもいい形となり、文書化熱は又しても大きく後退することとなりそうだ。2020年と言えば東京オリンピックの年だし、現時点では遠い未来のように感じられる。でも多分直ぐにその日は来てしまうんだろうけど。

以前から触れてるけど、最終規則は特に従来からのCommon Lawに基づくDebt/Equity区分の概念には手を付けておらず、したがって今までの判例等に基づく考え方がそのまま今日でも適用される。少なくとも前政権下の財務省のポジションは文書化要件は従来から充足が必要であり、最終規則では単にその点を正式に再度認知し、また文書化の内容を統一しただけというものだ。したがって、今回の延長も必ずしも文書化が2019年の関連者間ローンまで存在しなてくもいいと言う性格のものではなく、「文書化ナシ=Equity扱い」という推定規定の適用がない、または文書化の内容に関して必ずしも規則通りでなくてもいい、という意味を持つものと考えるのが正しい。文書化要件の中でも特に不履行時の法的権利の行使実績とかは必ずしも規則通りには担保されていないケースも多いだろうけど、レバレッジが過大と判断され得るケースでは返済能力の合理的可能性とかはある程度文書化しておく必要がある。

ちなみに最終規則はトランプ新政権による「悪法」の見直しプロセスで、納税者側の負担が大きい規則の1つと認定されており、今後、更なる見直しが入る可能性がある。新政権誕生の頃には、この最終規則は即廃案かと期待されていたけど、現実には何をするにも法的なプロセスを経ないといけないので結構時間が掛かる。有権者の忍耐がどれだけのものかという点は2018年の中間選挙の行方を考える上で重要なファクターだろう。ただ、WSJの記事によると、トランプ政権が何も実行できていないというのはオバマケア廃案、税法改正等、立法府の議会の問題が大きく、行政府側で達成できる規制緩和は相当実行されているという。確かに税法の世界でも規制緩和の話しはあっても以前のように複雑な規則が乱発されていることはない。悪法と認定された規則を今後新政権下の財務省がどのように処理していくか興味深い。

Thursday, July 27, 2017

「Big 6」による税法改正声明文発表(国境調整正式取り下げ)

Big 6が今週中にも税法改正に関して何らかの声明を発表するという憶測が週前半からあり、今週に入って以前にも増して下院、上院、大統領府の重鎮がかなり議論を重ねていて慌ただしい感じだった。上院がオバマケア廃案に未だ手間取っている中、次の立法の目玉となる税法改正の方は水面下でかなり動きがあるように見えた。そして今日、Big 6の発表に漕ぎつけここに来て一応一つ心理的に大きな進展を見たと言える。

ここでいうBig 6は会計事務所のことではない。と言っても今の人は「だって会計事務所はBig 4なんだから会計事務所の訳ないじゃん」って思うかもしれないけど、その昔、会計事務所はBig 6だった。というか更に以前は実はグローバルなネットワークを持つ大手会計事務所はBig 8として知られていた。Big 8は70年代後半から80年代に掛けてグローバルネットワークを完備して多国籍企業、特に米英企業に対する世界ベースでのサービス提供能力を誇っていたが、1989年にEWとAYが合併して今のEYができ、DHSとTRが合併して今のDTとなり、Big 6時代が到来した。DHSは黄色いワークペーパー、TRは薄緑のワークペーパーで、合併後しばらくはその色が違うと旧DHSやTRのパートナーはレビューするのが嫌だと言ったりした合併に伴う悲喜交々の逸話も今は昔だ。その後、1998年にPWとCLが合併して今のPwCとなり、Big 5となる。この頃の話は覚えている方もいるだろう。で、2001年には例のEnron事件でAAが解散に追い込まれ、現在のBig 4体制に至っている。

でも今日の話しは会計事務所の歴史の勉強ではなく、米国税法改正の中心的なプレーヤーを意味するBig 6による声明文の話しだ。何がBig 6かと言うと、立法府の両院リーダー、そして両院の税法立案担当委員長、そして行政府から財務省長官、国家経済委員会長という面々で構成される税法改正の最高意思決定の重責を担う方たちのことだ。すなわち、下院議長のPaul Ryan、上院多数党院内総務(凄い役職名・・)のMitch McConnell、Steven Mnuchin財務長官、Gary Cohn国家経済委員会長、下院歳入委員会長のKevin Brady、そして上院財政委員会長のOrrin Hatchの6人だ。迫力満点の強者揃いだ。

そうそうたる顔ぶれのこのBig 6。そんな凄いメンバーによる声明だけに4月の大統領府のレターサイズ一枚の原理原則とは異なる内容の濃いものが発表されるのかと言うとそうではない。内容が軽いであろう点は充分に予想されていたことで、今回の声明は単に両院と行政府が足並みを揃えて税法改正の決意表明ができた点に心理的な意味が見出さるという性格のものだ。税法の内容そのものとしては今回の声明もトランプ大統領案の発表に劣らず目を見張るものはない。敢えて言えば国境調整は正式に取り止めという点が確認された位だろう。国境調整は輸入業者等の反発が激しく、下院、上院 行政府を一枚岩にする際の大きな足かせとなっており、ここ数カ月ゾンビ状態だったのでこの点に特に斬新さはない。

後は相変わらずの共和党節が炸裂していて何となく微笑ましい。何年も実現できなかった税法改正にコミットしている議会と大統領により米国市民の皆さんにより多くの手取りを持ち返ってもらうとか、雇用促進、経済成長を助長するとか、ミドルクラスを一番念頭に置いているとか、大統領の強いリーダーシップの下、行政府は議員の先生200人、経済界から数百人規模のステークホルダーと意見交換を重ねてきたとか、4月26日のトランプ政権記者会見のデジャヴ状態だ。

具体的な点と言えば、税率はできるだけ低くし、中小ビジネスにもその恩典を確保し、前代未聞の設備投資減税を試みるという位。テリトリアル課税移行を示唆するコメントもあるがこの点は既に業界では織り込み済みなので逆にテリトリアル課税にならなかったらビックリ。また10年間とかの期間限定ではなくできるだけ恒久措置にしたいとしている。う~ん、トランプのレターサイズ1枚も軽かったけど、今回のはナンともっと軽い。議員200人だの業界の重鎮だのと何カ月も会ったり、Big 6間で何カ月も議論を重ねてきた結果がこれというのはチョッとお寒い気がしないでもないけど。税率は行政府15%、下院歳入委員会のThe Blueprint20%だけど、特に具体的な税率への言及はなし。中小ビジネス云々はパススルーにも低税率を適用するというものだろうけど、かなりテクニカルな問題を秘めているだけに今後どのように条文化されるか楽しみ。また設備投資減税の部分はキャッシュフロータックスを示唆しているのだろうか。The BlueprintのDBCFTのDBはなくなったのに都合のいいCFは残すということなのだろうか?そんなコンセプトも何もない単なるポリティクスの産物を目の前にUC Berkeleyの経済学者はさぞ落胆していることだろう。金利の損金不算入とか悪いニュースは一つも入っていないけど、設備投資をキャッシュフローで費用化させて、国境調整なしでは一体どこまで税率を落とせるのだろうか?Aggressiveな税率をターゲットにすると代替歳入源が必要となり、変な方向に話しが行く可能性もある。かなり支離滅裂というか場当たり的。オバマケア廃案が失速しているせいで3.8%のNIITとか未だ残った状態での税法改正となるとそちらも税法改正の枠で何とかするんだろうか。党内調整が大変そう。

まあ、下院歳入委員会と上院財政委員会がいよいよ本気でMarkup(条文のドラフト)に入るということが確認できただけでもプラスと評価しておこう。

Saturday, July 15, 2017

外国法人による米国パートナシップ持分譲渡・売却

最近、米国税法改正の動向というか停滞にかかわる話しが多く、税法そのものの実質的な話題に乏しい。ひとつには新政権の規制緩和努力に伴い、財務省等の行政府が以前のようにむやみやたらと規則を発行し辛くなっているという背景もあるだろう。ここ数カ月で考えると、5月に公表されたスピンオフの「North South取引」に対するRevenue Ruling 2017-09がSub C的にまあ興味深かった位。

そんな中久しぶりに日本企業に影響大のTax Courtケースが出た。「GRECIAN MAGNESITE MINING, INDUSTRIAL & SHIPPING CO., SA,」(略して「GMM」)だ。SAというから南米の法人のケースからと思ったら実はギリシャ法人の米国における課税のケースだった。社名が「Grecian」だからそれはそうだよね。

で、このケース、外国法人が米国パートナーシップ(LLCとか米国税務上パートナーシップ扱いの主体を含む)持分譲渡から得る譲渡益が米国で課税対象となるかどうかという比較的どこにでもある事実関係にかかわるものだ。日本企業でも直面することが多い問題だ。「えっ~そんな単純な取引の扱いが法廷で争われるってどういうこと?」って皆ビックリかもしれないけど。

この点に対する米国税法上の扱いは比較的明確だったはずだ。譲渡益はSub Kの世界ではパートナーシップ持分と言うパートナシップ内部資産とは別の個別資産を譲渡して得られるキャピタルゲインとなる。すなわち譲渡益の扱いを考える上ではパートナシップをAggregate論ではなくEntity論で扱う。例外はホットアセットと言って含み益を持つ棚卸資産とかの特定の通常所得となるべきパートナシップ資産に帰属すると考えられる部分の譲渡益で、この部分はあたかもパートナシップ内部の資産を個別に譲渡したかのように扱われ、結果としキャピタルゲインではなく、通常所得となる。ただ、原則はパートナシップ持分という個別のひとつのキャピタル資産を譲渡したという扱いとなる。

このことから外国法人が米国パートナシップ持分を譲渡する場合、ホットアセットにかかわる部分以外に関しては、キャピタルゲインを認識したことになるけど、キャピタルゲインは米国源泉だと、Asset Test、Activity Test等に基づきECIかどうかの判断をしないといけなくなり、外国源泉だと米国にある事務所に帰属する場合のみECIとなり得る(これはかなり例外的)。またパートナシップ持分譲渡益がパートナーシップが持つ米国不動産持分に帰属すると扱われる場合には、FIRPTA規定に基づき強制的にECI扱いとなり結果として申告課税となる。

となるとパートナシップ持分を譲渡した際には譲渡益の「源泉地」が重要な検討事項となるけど、パートナシップ持分を含む「動産(Personal Property)」から認識される譲渡益の源泉場所は通常売り手の居住地を基に決定される。米国上場企業の株式を日本の投資家が譲渡してキャピタルゲインを認識しても通常米国で課税対象とならないのと同じ理由だ。売り手の居住地を基に所得源泉地を決定する一般規定の例外は、外国法人が米国に事務所を有しており、かつ譲渡益がその事務所に帰属すると扱われるケースだ。その場合、仮に納税者が米国非居住者でも譲渡益は米国源泉となる。

この米国に事務所があって云々という部分は結構分析が複雑なんだけど、GMMのようなケースでは仮にパートナーシップそのものが米国に事務所を持っていることをもってパートナーである外国法人も間接的に米国事務所を持っていると扱われたとしても、パートナーシップ持分譲渡という行為はパートナーシップ側の米国事務所がMaterialに関与したり、通常の事業活動の一環で行っているものではないので、例外規定は適用がないと考えるべきだろう。

今回のGMMケースでは、一部FIRPTA規定に抵触するものがあり、その部分は課税対象ということで納税者およびIRSで意見の一致をみていたが、それ以外の部分のパートナシップ持分譲渡益が米国で課税対象かどうかが争われていた。

上述の通り、税法の考え方は比較的明確で、パートナシップ持分譲渡益はキャピタルゲインであり、外国法人が認識するキャピタルゲインは米国にある事務所に帰属しない限り、外国源泉となる。となると通常はECIとはなり得ず、米国では非課税となるというものだ。今回のGMMもそのような扱いに基づく申告ポジションを取っていた。

IRSはこのような事実関係に対して税法では説明し切れない理論で、パートナーシップが各資産を個別に譲渡したらECIになる場合には、仮にパートナーがパートナシップ持分を売却したとしてもLook-throughするような形で、ECIになると主張している。この手の主張は従来から展開されていて、古くはRevenue Ruling 91-32が有名だ。この法的に若干訳が分かり難いRulingがあるせいで、税法上は明らかに米国では非課税となるべき日本企業による米国パートナシップ持分譲渡取引に関していつも課税かどうかあれこれ議論しないといけない状況に陥っていた。このRulingは日本企業に米国税務サービスを提供している者なら必ず知っている(べき)有名かつとても迷惑なRulingだった。

今回のTax Courtの判決ではIRSの「結果有き」の主張はバッサリと否定され、長年のもやもやがスッキリした。判決文に記載されているIRSの主張はどれも結果優先で詭弁に過ぎず、時として無理があり過ぎる感じ。パートナシップ持分をひとつの資産と扱ってしまってはFIRPTA規定が適用できないとか、かなり場当たり的な観がある。

Tax Courtの議論で一点不思議だったのは譲渡益はFDAPではないと断った上で、米国源泉であればForce of Attractionに基づき課税となるというような部分。もし米国源泉だったらFDAPでなくれもCapital Gainはsection 864(c)(3)を論じる前にSection 864(c)(2)のAsset TestやActivity TestでECIかどうかを決定するんじゃないかと思ったけど。ここは僕の誤解の可能性もあるのでもう少し後で考えてみたい。でもどっちにしても米国源泉ではないので関係ないけどね。

今回の判決ではRevenue Ruling 91-32に対して「税法を合理的な理由もなく不適切に解釈」している通達として何の法的価値も認めないとまで言っている。IRSによる法的根拠のない暴走型のRevenue Ruling 91-32をバッサリと切ってくれた形だ。これで今後、同様のケースでは米国非課税という法的主張が通り易くなるけど、税務調査の局面でIRSが引き続きどう出てくるかは、Tax Courtの判決にIRSが不本意ながらも従う(Acquiesce)と発表するかどうかで大きく変わる。

そもそもこの問題、議会がSection 741とかチョッと変更すればIRSの主張するような扱いになる訳で、実際Revenue Ruling 91-32を条文化するに近い法案は過去に提出されている。ただ、未だに法制化はされていない。法制化されていないものをポリシー的に行政府がRulingとかの形で自らの手で実質法制化してしまうのは三権分立の観点から大きな問題だ。GMMケースは行政府の暴走を止めるために司法府が立法府の意志を尊重したという形で解決したので、三権分立がうまく機能していて喜ばしい。最近は大統領令の解釈を巡り、Standingがあるかどうかも分からない州とかの訴えに地方裁判所が厳密な憲法解釈ではなくポリシー優先的な判決を出すことも散見され、きちんの憲法の趣旨に立ち返った判断をして欲しいと米国の法の支配の行方を憂えていたが、GMMの判決は明るいニュースだった。

Friday, June 30, 2017

米国税法改正は七面鳥かチョコレートか

最近、何回か続けて「何周年記念」みたいな話しを聞く機会があった。まずは何といってもiPhone発売10周年。発売の日に店前に並んだけどそこでは買えなくて結局別の店でようやく元祖iPhoneを手にしたあの日の感動から10年とは時が経つのは早い。その後買ったiPhoneは次々と空港でなくしたり、タクシーに忘れたり、飛行機のシートに挟まれて割れたり、ポケットに入れたままプールに入ったり、修復不可能な位スクリーンが割れてしまったりといろいろあったけど、初期型は今でも何とか持っている。当時は何て格好いいDeviceと感動したけど、今見ると分厚いし、小さいし、App Storeがなかったりと年月を感じさせる。それにしても10年で世の中を変えてしまったといってもいいiPhoneを世に送り出したAppleは凄い。他のメーカーが後から同じようなものを真似して作るのは容易だけど、あのようなコンセプト自体を創造し現実のものとしたSteve Jobsは偉大だ。

次はBrexit一周年記念。こちらも「え~もう一年?」という感じ。つい最近のことだったかのように感じる。で、次が肝心なAnniversaryなんだけど、下院歳入委員が「The Blueprint」を発表してからも一年が経った。このThe Blueprint、発表当時は共和党の大統領が誕生するかどうか分からなかっただけにそんなに注目されてた記憶はないけど、トランプ大統領が当選を果たした2016年11月に実現可能性が俄然高まり、同時に注目度合が高まった。その後の国境調整狂想曲は皆様もご存知の通り。

で、このThe Blueprintにとって記念すべき日となった2017年6月20日、The Blueprintの生みの親と言っても過言ではない、現下院議長のPaul Ryanは今後の税法改正にかかわる「Major」なスピーチを披露してお祝いした。DCで開催された全米製造業協会、National Association of Manufacturers、略してNAMのサミットでペンス副大統領に続いて登場したRyanはまず「規制緩和、オバマケアの見直し、税法改正、軍の再構築」の4つに注力しているとスピーチを始め、中でもオバマ時代の行き過ぎた規制を次々撤廃しているという功績をその日の聴衆である製造業に対する恩典と結び付け、一周年祝賀スピーチはスムースな滑り出しとなった。

そして満を持して「Ladies and Gentlemen・・・」と改めて切り出し、皆が待ち望んでいた米国税法の話しに移った。「米国税法改正の話しは金輪際二度としないでもいいよう今回こそ大胆な改正を実現する」と力強く宣言。レーガン政権により行われた最後の抜本的税法改正から30年経っている点を「これはその昔、僕が運転免許を取った年です」と新たな税法改正の機が熟している点をおかしく強調した。

でもその後のスピーチの内容には特に目を見張るような新しいポイントは見られなかったと言っていい。税法が複雑過ぎるとか、遺産税やAMTは撤廃するとか、抜け道はふさいで減税するとか、全世界課税なので米国に資金が還元されない等のいつもの話しだ。

今回のスピーチに関して、皆が最も関心を持っていたのは、風前の灯的になってもPaul RyanやKevin Bradyが未だ諦めずに提唱しているDBCFTの特にDBの部分、すなわち国境調整に関してRyanがどのようにコメントをするかという点に他ならない。でも、余りにセンシティブで、触れることすら憚らるという判断に至ったのかどうかは定かじゃないけど、結局この点にかかわる直接的な言及はなかった。一部、DBCFTに暗に触れているかのような部分はあるにはあった。それは、米国企業が外国に行ってしまうような出来の悪い税法は変えないといけないと断じた際に「違う発想で税法を考えないといけない。アプローチはひとつではないが、下院はひとつのアプローチを提唱していて、この点は大統領府と調整している項目のひとつだ」とした部分だ。DBCFTは確かに違う発想。違い過ぎて普通の人にはなかなか受け入れられないんだけどね。「他の国を真似していてはスーパーになれない」みたいな趣旨のスピーチがその後も続くけど、この部分も従来の法人税の枠から脱することを示唆しているように聞こえた。

スピーチ後のインタビューでRyanは税法改正をThanksgiving(11月後半)までに実現したいと語っていた。「それはいくら何でも無理では・・・」という反応がほとんどだったけど、もしそうなったら凄い。七面鳥スタッフィングしてオーブンに入れて料理してる間に新税法を読むことができるかも。でも既に7月間近で未だに上院ではオバマケア廃案に手間取っているくらいだから、Thanksgivingはチョッと非現実的。サンタさんのプレゼントも危なく、早くてもバレンタインデーのチョコレート食べながらくらいのタイミングじゃないだろうか。それとも一部でささやかれているように議会の先生たちが8月の5週間の休暇返上で、税法改正等の最重要法案の制定に精を出してThanksgivingを目指すのでだろうか。このアイディア聞こえはいいけど、実は議員たちは手ぶらで地元に帰って選挙区民たちに怒られるのが怖くてDCに残る口実を探しているのかもね。

Thursday, June 15, 2017

トランププランと今後の税法改正動向 (5)「パススルー」

前回のポスティングでは、税法改正と言うのはテクニカルな話しではなく、むしろポリティカルな話しであること、また税法改正の行方が白紙に近い状態にあることから自分に都合の悪い規定は阻止しようとDCにて強力なロビー活動が展開されている点に触れた。最終化されるかどうか分からない、またされるにしても改正内容が不明な税法改正の話しに、現時点でどれだけ時間を割いて触れていくのかは微妙な問題だけど、パススルーに関しては一回書いておきたい。

現状の税法ではパススルーはその名の通り、所得、費用、税額控除等を事業主体ではなくそのオーナーにパススルーして、各オーナーがパススルー主体からの所得、費用等とオーナー側の他の税務ポジションと合算して申告を行う。したがって、同じ100の所得でも、39.6%の税率に属する個人オーナーにパススルーされるとオーナーは39.6の税金を支払うことになるし、15%の税率に属するオーナーの場合には15の税金となる。法人がオーナーの場合も同様でその場合は大概において34%か35%の法人税率に基づいて税金を支払うことになる。また、もしオーナーレベルで損失が出ていれば、100のパススルーと合算できるのでその年の税金はなくなることもある。逆に損失がパススルーされてくる際もPAL規定とかAt Riskとかに抵触しなければ基本通算が認められる。更にオーナーに配賦されてくる金額は必ずしもネット課税所得に持分を掛けた金額、すなわちBottom Line Allocationである必要はなく、グロス売上、減価償却、キャピタルゲインとか特定の項目がそれぞれ個別%で配賦されてもいい。

株式会社の株主が同じクラスの株式を持っている限り、全員同じ配当を持分に準じて均等に受け取るのと異なり、パススルーはオーナー間で自由にどのような項目をどのように分けるか合意することができる。ただし、オーナー間で合意された配賦が税務上も認められるためには、配賦が「実質的な経済効果」を持つとみなされる安全ガイドライン(Section 1.704(b)のSafe Harbor)の要件を充たすか、またはPIPに準じているか、のいずれかの必要がある。以前は安全ガイドラインが手堅いと言うことで好まれたが、ここ何年もトレンドは逆になり安全ガイドラインはディールのエコノミクスが反映されているのかどうか分かり難いため嫌われる傾向にあり、ターゲット配賦とかのPIP方式がすっかり定着している観がある。この辺の話しはパートナーシップ税法の醍醐味だけど、それだけで10回くらいのシリーズになるのでそのうち。

総じて言えば、上述の点、すなわち事業主体とオーナーで二重課税がない点、損益通算が認められる点、弾力的な配賦が可能な点がパススルー主体の税務上の魅力と言えるだろう。

で、今回の税法改正だけど、パススルーの所得に関してオーナー側で課税するという形は温存するものの、税率はオーナーの税務ポジションにかかわらず一定にしようという動きある。もともと下院歳入委員会のThe Blueprintもパススルーに対する特別課税に言及していてパススルー所得は25%で課税するとしている。

この25%という税率設定は法人税率20%との比較において少し不思議。FICAとSEタックスを無視して所得税の世界で考えてみる。例えば同じビジネスを法人形態で営んでいるとして、そこで100のネット課税所得があるとする。The Blueprintでは法人税20%だから、税引後の分配可能利益は80。個人株主側の税率はThe Blueprintによると所得水準に基づいて12%、25%、35%の3段階。だけど配当、キャピタルゲインは税率は半分と提唱されているので配当課税は6%、12.5%、17.5%だ。となると、100の利益に対するトータル税負担は、各々24.8%、30%、34%となる(法人税20+(80 x 配当税率)。12%区分に属する納税者だとパススルー主体でも法人でも同じような結果となる一方、他の納税者はパススルー主体の方が有利となる。

The Blueprintをそのまま鵜呑みにすると全てのパススルー主体に25%が適用されるようにも見えるが、その後の発言等を加味すると中小規模のパススルーのみを対象にしているようにも聞こえる。パススルーが中小でもオーナーの税率区分は35%のケースは多いだろうから何か変な感じ。その辺を意識して本来給与としてオーナーに支払わらるべき金額に関しては通常の税率、すなわち、12%、25%、35%で課税するとしている。以前のポスティングにも書いたけど、何が適正水準な給与かというValuationの問題は主観的な判断の余地が大きくかなり争点となるだろう。パンドラの箱を開けるようなものだ。それともCamp案で言及されていたように、パススルー所得の70%は自動的に給与所得同様とみなす、というような機械的な判断法を設けるのだろうか?

一方、4月26日発表のトランプ税法改正プランでは法人税の15%同様にパススルーも15%にするということのようだった。トランプ案ではパススルーときちんと言わずに中小事業にという表現をしているので分かり難かったがQ&Aとか聞く限り、S法人を含むパススルー、個人事業主を対象としているようだ。The Blueprintのパススルー規定も文字通り解釈すると個人事業主(Sch. Cの方)には適用がないようにも読めるが、おそらくこちらも個人事業主も含むことを前提としているんだろう。トランプ案は法人もパススルーも一律15%ということみたいだけど、上と同様の税率比較をするとこちらも不思議な結果となる。大手事業主がパススルー税率の適用を乱用しないよう対策を講じると財務長官のMnuchinは言うが、その対策だけでも税法がますます複雑化するのは必至。

トランプ案もThe Blueprint同様に給与として支給されるべき金額は通常の課税にするとしている。何が給与相当なのかというValuationをルール化するのが至難の業と思われる点は上述の通りだが、商務省長官のWilbur Rossは、そんなルール策定はDCの弁護士、税務専門家のブレーンパワーを考えれば朝飯前で、そんなルールも作れないのであれば職を変えた方がいいと言い切る。当人のDCの弁護士や税務専門家たちはそんなルールをどうやって策定したらいいのか途方に暮れているのに。このようなルールは議会がドラフトする税法そのものには入り難いので、財務省規則にて規定される可能性が高い。財務省も頭が痛いだろう。既存の法律下でも、S法人のオーナーがSEタックスに抵触しないよういろいろと試みるのを見ても、一旦パススルーに特別な税率を規定してしまうと多くの争点が生じるだろう。

また、大昔に何回か触れたCarried Interestに関しても網を掛ける、すなわちキャピタルゲイン税率ではなく通常税率で課税するかのような話しが税法改正の一環で相変わらず出ている。でもパススルーに特別税率が認められるんだと今までの単純なキャピタルゲイン税率と通常税率の差異だけの話しではなくなってしまうのでCarried Interestの課税強化を仮に実行するとしても前提がそもそも変わってしまうけどね。ここに来てCarried Interestの扱い変更は、資源、不動産、PEファンドとか特定の業種を狙い撃ちすることになるので現状通りにしてあげればどうかという話しも出ている。でも元々他の業界では適用する機会がないプラニングなんだから、そこを狙い撃ちしているという理由で強化をあきらめるのは何か変。国境調整と輸入業者の関係みたいだ。

実はパススルーの特別扱いに関してはカンザス州が似たようなことをしているので次回は簡単にカンザス州の実体験に関して。

Saturday, June 10, 2017

トランププランと今後の税法改正動向 (4) 税法改正とKaty Perry#2 「ロビー活動」

前回まで3回「国境調整」というかDBCFTが目指す真の姿とそのポリティカルな運命に関して触れた。DBCFTにかかわる議論を見ていると税法改正と言うのはテクニカルな話しでは全くなく、ポリティカルな話しであることが良く分かる。ポリティクスというのは時には事実関係とか法の支配とは関係ないところで事を進めていく傾向があり予見可能性が低く太刀が悪い。

余りにポリティクスの影響が強力で、過去数カ月の議論を見ているとかなり空中分解気味。となると最も現実的な落としどころは何も起こらない現状維持と見る向きもある。ただ、共和党政権の実質的な信任投票と言える2018年の中間選挙が迫っていることを考えると、共和党としては何としても2017年内または2018年前半にはオバマケア廃案と何らかの税法改正を終えてしまう必要があるだろう。ただ、税法改正を2017年末には達成したいという党の総意には誰も異論はないだろうけど、現実には改正案の個々の条件を巡って党内の意見調整が難しく、また大統領府の強力なリーダーシップも不在で、バタバタと慌てて何か法制化したとしてもThe Blueprintが目指していたような抜本的な税法改正と言えるような立派なものに至るのか、それとも単に付け焼刃的な減税で終わってしまうのか、現時点では誰にも分らない。まあ、税法改正と単なる減税は聞こえは違うけどその境界線は必ずしも明確ではない。どこまでやれば税法改正でどこまでは単なる減税なのか、という境目はボヤけてるので余りこの用語の差異に拘っても仕方がないかも。

素早く抜本的な税法改正を法制化しようとする際の障害のうち、議会共和党が一枚岩でない点はイデオロギーの話しなので仕方がないが、本来そんな時こそ大統領がリーダーシップを発揮して全体を取りまとめたり導いたりする必要がある。ところが、トランプ大統領は次々と不必要なTweetとか規律に欠ける行動で自ら墓穴を掘りまくりPolitical Capitalの多くを浪費してしまっている。以前のポスティングで税法改正の議論をKaty Perryの「Hot n Cold」に例えたけど、トランプ大統領の現状は同じくKaty Perryの「Self-Inflicted」の状態と言える。

トランプ大統領府による税法改正プランがほぼ白紙に近い点は前回までのポスティングで再三触れているけど、その点が誘発する悪影響のひとつとして激しいロビー活動が挙げられる。すなわち、税法改正のキャンバスが真っ白な状態で提示されている訳だから、「自分に都合のいい絵を描いてしまおう」という輩がDCに押しかけている。小売業関連の団体はThe BlueprintのDBCFTの更にその一部のDB部分に対する不信感を全力で煽っているし、全米不動産業界は8,000人単位のメンバーをDCに送り込んで、標準控除の拡充や州税控除撤廃反対を展開している。不動産業界がなんでそんなものに反対しているのかチョッと分かり難いかもしれないけど、州税控除がなくなり標準控除が拡充されるとSch. Aで個別控除を取る納税者の数は激減する可能性がある。となるとせっかく住宅ローン金利を支払っても税メリットがなくなってしまい、不動産市場に悪影響?ということなんだろう。風が吹いて桶屋が儲かるような話しにも聞こえるがロビー活動に油断は大敵。不動産業界は更に農場主やPEファンド達と一緒に金利の損金算入温存に注力しているし、多国籍企業のロビー活動の矛先はテリトリアル課税移行時の一時課税を何とかトランプが以前に言及していた10%ではなくThe Blueprintの3.5%または8.75%にするという点に向いている。結局、皆、白いキャンバスに自分たちに都合のいい色を塗ろうとDCに集結している。余りに皆が「これは嫌です、あれも嫌です」と不整合な色を付けすぎると何の色もないブラックになってしまい、歳入を確保した形のきちんとした税法改正にはなりようがない。

個人が支払う州税・地方税の個別控除撤廃は不動産業界に限らず全体にかなり不評。特に州税の高いNY州、CA州居住者への影響が大きい。トランプ政権の全てに大反対を表明するNY民主党上院議員で上院少数党院内総務も務めるChuck Schumerもいち早く反対を表明し、不動産業界と同じく、そんなことをしたら住宅ローン金利が控除できなくなり大問題だとしている。

それはそうなんだろうけど、何か大きな改革を起こしましょうという時に、個人所得税の州税の個別控除すら撤廃できないようでは他は押して知るべし。支払利息の損金不算入にしても、州税控除の撤廃にしても、これらから見込まれる歳入は大きく、それらがあるからこそ15%だの20%だのという低税率の実現が可能になる訳で、損する改正は嫌だけど税率は低くというのは算数的に無理がある。このことから財政均衡は無視してでも減税するという話しがちらほら出てきている。

上院で60議席を持っていれば共和党としては好きな法律を通すことができるが、現実には51議席。その場合には税法改正は上院でも例外的に過半数で通すことができる予算調整法内で立法するオプションしかない。その場合には財政均衡を保つという追加の要件が付いて回る。にもかかわらず赤字になっても減税するというような話しが出てくるのは不思議に思えるけど、実は予算調整法を使っても10年を超えてのマイナス財政は許されないというのが一般的なルールだそうで、だったら10年期限で思い切った減税をするかという話しもある。以前にもブッシュ(息子)が2001年に行った大型減税はこの理由で「なお、この税法は5秒、じゃなく10年で自動的に消滅する」となっていた。

う~ん。このセリフは今聞いても格好いい。これ知ってるよね?「Mission Impossible」で作戦内容を伝えるテープの最終部分だ。メッセージの最後にテープレコーダーが燃えちゃうやつ。ちなみに英語では「This message will self-destruct in five seconds」だけど、日本語だと「なお・・」ってつけてるのがイカしてる。トムクルーズが演じる現代のMission Impossibleはどちらかというとド派手なアクションムービーでこれはこれでもちろん楽しめるけど、昔のもう少しダークな感じの「スパイ大作戦」もよかった。「大作戦」っていう実にレトロっぽい題名が最高。ウルトラマンの「MAT、Monster Attack Teamの略である」の「MAT」も中々笑える格好いい名前だ。「マット隊員」とか呼ばれたりして昔の名前はGuysなんかより凄い。ちなみにメビウスのGIGっていうのはキャプテンスカーレットのSIGから来てるそうだ。で、スパイ大作戦のテープのメッセージには、真ん中辺に「例によって、君あるいは君のメンバーがとらえられたり殺されても、当局は一切関知しない」の部分もあるが、あの言い回しも最高。ちなみにこの部分の「当局」は英語では「Secretary」だ。各省の長官をSecretaryということを知っていれば違和感はないけど、直訳で秘書とならないようにね。税法でも財務省規則策定の権限は「Secretary」、すなわち財務長官に与えられている。ドラマの和訳と言えば、「謎の円盤UFO」の英国オリジナルバージョンだとタイプライターが打ち続けるOPメッセージを「1980年既に人類は・・・」って格好良く訳してたけど、あれも名訳だ。今は2017年だけど、地球防衛組織シャドーは37年前に既に「沈着冷静なストレーカー最高司令官の元に」結成されていたことになる。あのOPは今見ても格好良すぎ。

で、何の話しだったかって言うと、歳入を伴わない減税を実行するには予算調整法等の仕組みから10年の時限立法とするしかないと一般に言われている点でした。ただ、正確なルールは必ずしも10年ではなく「Budget Window」を超えて赤字になってはいけないということのようで、従来Budget Windowは10年と考えられていた。で、この10年と言う数字には少なくとも1974年Budget Actに基づく法的な拘束力はないようで、最近ではBudget Windowは20年、さらには30年と考えてもいいんだ、というような過激な主張も出てきている。30年を超えて赤字にならなければ予算調整法の枠で法制化が可能という主張だ。30年だったら時限立法とは言っても限りなく恒久措置に近い。

ビジネスプラニング面、また立法プロセスの規律面からも税法改正は期間限定ではなく恒久的な法律で実行されるのが本筋だろう。R&Dクレジットが時限立法だったころは毎年ハラハラしたし、ブッシュ減税失効時の2011年、そして2年延命後の2013年もバタバタだった。ただ、今回の税法改正を実行するに当り、ロビー活動が激しくにっちもさっちも行かなくなるようだと、Mnuchin財務長官が しばしば言うように「恒久的な改正は時限立法よりベター、でも時限立法は何もしないよりはベター」ということで結局は時限立法に落ち着くのだろうか?

Tuesday, May 30, 2017

トランププランと今後の税法改正動向(3)「国境調整」(3)

前回、前々回と下院歳入委員会が提唱するThe Blueprintの中のDBCFTのうち消費地課税を実現するためのメカニズムとなる国境調整、そしてキャッシュフロー課税について触れた。また、国境調整に関しては一般メディア等には正しく理解されていないように見受けられる点にも触れた。

5月23日には下院歳入委員会による国境調整に特化したヒアリングが開催されたり、Kevin Brady等による必死の延命措置が展開されているけど、そもそもよく理解されていない税法であること、仕入れを輸入に頼る小売業等による反対ロビー活動が強力なこと、ドル高懸念、等が相まってどんなに導入時のインパクトを軽減すると言っても消費地課税の導入は風前の灯火状態と言える。

そんな状況なので、今となっては学術的な背景となってしまうかもしれないが、経済のグローバル化が更に進み、現状の所得ベースの法人税が機能不全となった暁には又DBCFTが各国で真剣に議論される日が来るかも。ここはそんな日のため備忘記録的に読んでみて欲しい。到着が早すぎたということなんだろうか。Back to the Futureの最初のストーリーで主人公Marty McFlyが何十年も前のダンスパーティー(まだChuck Berryがデビューする前の時代という設定)でEdward Van Halen風のギターソロを弾いて誰も理解できなくて、仕方なくMartyが観客に向かって「皆さんの子供たちの時代になればきっと分かると思うよ」みたいなシーンがあって笑えたけど、DBCFTも実はCheck Berryデビュー前のVan Halenのソロみたいな感じ?全然違うかもね。

DBCFTはVATに類似すると言われるけど、その中でもSubtraction方式のVATに最も類似しているらしい。で、VAT採択済みの150か国の中で一か国だけこのSubtraction方式を採択している国があるということ。どこでしょうか?そう、日本なんです、これが。ということでDBCFTに一番似た仕組みを既に実行しているのはナンと他でもない日本という面白い事実がある。でも日本もSubtraction方式は行く行く改めると聞いたことがある。

で、DBCFTとVATを比較すると決定的に異なる点が2つある。まず1つは米国内の人件費が20%の課税計算上、控除できることだ。米国外のサプライチェーンを経由していくる場合には、輸入時の国境調整メカニズムを通じて、米国外の労力に基づく付加価値も含めて全ての価値に20%課税されるので、この点は国内と輸入を「Level Playing Field」にしている以上の効果、すなわち米国を有利にしていると言える。経済学者に言わせると、この点に関しては国内の給与税を減税しているのと同じ効果、すなわち普通のVAT(人件費控除ナシ)と従来から国内に存在した給与税(米国のFICA)の減額の2つを組み合わせた状況と同じなので、VATが国境調整を原則として国際的に認められていて、かつ国内でFICAを減税しても他国には関係のなく、各々問題ないことを組み合わせて実行しても問題はないであろうというちょっと詭弁(?)のようにも聞こえるが、理論的には間違っていない主張となる。WTOがこれを飲むだろうか?欧州の法体系の影響が強いWTOではそんな実態よりも形式重視となる可能性が高く、WTOで揉めるのは間違いないように思う。ただ、以前にも書いたかもしれないけど、WTOで争っているうちに10年位直ぐに経ってしまうので、その間に$1 Trillionの歳入があるんだったらダメ元でやってしまう、とチャッカリ考えていた節がなくもない。

DBCFTとVATのもう一つの差異は、VATだの消費税だのは、目に見えてそれがサプライチェーンを経由して価格に上乗せされていき、最終的に消費者が消費地で全額負担することとなる。一方DBCFTは法人税として事業主体に課せられるので、価格に転嫁できるかどうかは明確ではなく、小売業が大騒ぎしてロビー活動しているように、最終価格に上乗せし切れない状況も十分に想定され、そうなると輸入に頼っている企業の収益、キャッシュフローを大きく圧迫することがあり得るということだ。

DBCFTが輸入を罰するというよりは輸入と米国製造を同じ土俵に立たせるという目的を持っている点は以前にも触れた。現状は米国から見た輸入は出荷地では国境調整のおかげでVAT免税、かつ米国側でも仕入コストとして35%の節税効果を持っているので、かなり競争力が高い。他方、米国からの輸出は米国で35%課税され、さらに輸入側で国境調整されるのでVAT課税、とダブルタックスとなり競争力なし、となる。これらの現象を「Made in America」課税と呼ぶこともある。で、輸入はとても有利なので、当然、小売業等はその恩典を享受している。輸入有利の現状を是正し、少なくとも税制面では輸入と国内仕入れを同等にしようと言うのが消費地課税だったんだけど、現状恩典を受けている納税者は、例えそのような恩典自体を是正するのが目的だとしても、当然それに反対し、政治家もそれを無視できない。結局、DBCFTのような大きな改正はできず、輸入が競争力をもったまま今後も時が流れていく可能性が大となる。オバマケアじゃないけど、一旦与えられた既得権を取り上げるのは政治的にほぼ不可能。

次にDBCFTの為替への影響だけど、これは経済学者が口を揃えて力説するポイントだ。すなわち、20%の国境調整で輸入に実質20%課税され、輸出は20%免税となると、ドルは25%高となり、その結果、国内終焉型企業も、輸入業者も、輸出業者も、税引後のキャッシュフローは全員きれいに一致するという説だ。DBCFTの税額そのものは為替がどうなろうとも変わらない。これは輸入や輸出が課税所得の計算に入ってこないから当然だ。では為替によって何が調整されるかというと、ドルベースでの仕入価格そのものが25%ドル高になると従来の80%で済み、税負担を相殺してしまうということだ。輸出もしかり。

25%のドル高は政権の為替政策とは真逆の方向に向かうように見える。また、ドルベースの外貨資産が大きく目減りして、大きな混乱を招く可能性が大。もちろんきれいにDBCFT導入翌日からドルが25%高になるという訳ではないだろうが、経済学的には他の変動要因を排除して理論的に考えると必ずそうなるということのようだ。これは業界の実務レベルと意見が合わない点で、小売業のCEO等に言わせれば「世の中学者が言う通りそんな教科書通りに行ってたまるか!」となるだろう。

という訳で、DBCFTはグローバル化する経済、米国が通商の観点から置かれている立場、OECDのBEPSレポートに見られるような従来からの法人税の限界、を加味して将来の税法としてベストなものは何かという点を熟考して経済学者達により策定・検討されたものだったが、実務的に受け入れるには余りに多くの課題があるということだろう。ちなみに面白いのは、経済学者の中でもUC Berkeleyの学者がDBCFTの著名なオピニオンリーダーとなっているが、UC Berkeleyと言えば、Ann Coulterが話しをしに行くと言っただけで、暴動が起きる米国でも最もリベラルな大学のひとつで(Berkeleyは本来言論の自由を標榜していたのではなかったんだっけ?)、それを共和党の下院歳入委員会が取り入れている点。

国境調整はこれ位にして、次回からは税法改正に他の切り口から触れてみたい。

Saturday, May 27, 2017

トランププランと今後の税法改正動向(2)「国境調整」(2)

前回のポスティングでは、トランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表とその後の税法改正の動きの最初のフォーカスとして国境調整に関して書き始めた。下院歳入委員会が提唱するThe Blueprintの中のDBCFTは法人税に消費地課税という概念を導入しているが、その消費地課税を実現するメカニズムが国境調整と言われるものだ。一般メディアの報道を見るとこの「国境調整」とトランプが余り深い考えなく言及しているように見える「国境税」が混同されて論じられることが多いように思う。

先日イタリアで開催されたG7会議でも、各国の財務長官等が米国が国境調整を検討している点に懸念を表明し、Mnuchin財務長官は「現時点で提唱されている形では賛成できない」といつもの回答を繰り返していた。皮肉にもG7に参加している国で「国境調整」という仕組みを導入していないのはVATを持たない米国のみだ。他の国はVAT(日本では消費税)下で堂々と国境調整を行っており、米国に対する輸出に対してはサプライチェーンを通じて自国VATを免税として競争力を高めているばかりか、逆に米国からの輸入に対しては輸入時点で課税して米国からの輸出の競争力を弱めている。しかもThe Blueprintで提案されている20%の税率と同じ税率を適用している国がほとんどで、カナダのGSTは15%程度で若干低く、日本が8%で一番低い。にもかかわらず、米国が名称は法人税とは言え、内容的には同様の方式を導入しようと検討しているだけで自分たちのことは棚に上げて若干ヒステリック気味な反応をしている。おそらくDBCFTをきちんと理解しておらず、通商政策のトランプ国境税と混同しているのではないかと推測される。前回のポスティングで触れたオクスフォード大学の教授の言う通りだ。

DBCFTの消費地課税、すなわち「DB」部分はその名の通り、米国で消費されるものは、輸入だろうが、国内生産だろうが、サプライチェーンの全過程で創出される価値に米国で20%の課税があり、逆に米国外で消費されるものは、国内生産でも、米国外でもサプライチェーンの全過程を通じて米国では課税されない、すなわち輸出時にサプライチェーン過程で米国に納付された税金があれば、それは戻ってくるというシステムとなる。このコンセプトは日本の消費税も同様だ。現実には米国外で消費される米国内生産のサプライチェーンのDBCFT税負担は即還付されると言うよりもNOLに化ける可能性が高いという問題があるが。

DBCFTのもう一つの骨子となるキャッシュフロー課税、すなわち「CF」部分も法人税としては新しい概念だ。The BlueprintのDBCFTでは、従来の法人税のように会計的な期間損益に課税するという概念から、課税年度内トータルのキャッシュインフローからアウトフローを差し引いたネットキャッシュフローに課税するという大胆な方向転換を提唱している。

キャッシュフロー課税で従来と一番異なるのは設備投資に対する減価償却の必要がなくなることだろう。不況になる度に時限的に導入されてきた100%のBonus償却を、有形・無形の全資産を対象に拡充して、更に恒久化するようなイメージ。その意味では設備投資減税の側面も大きいが、実はキャッシュフロー課税とすることで、DBCFTはDB部分と合わさって疑似VATとなる。すなわち、VATとか消費税の算定時には設備投資に対して支払ったVAT・消費税もその年に仕入控除が認められ、売上から徴収されるVAT・消費税と相殺される。換言すると、VAT・消費税の世界では例え耐用年数が10年の設備を購入しても、それに対して支払うVAT・消費税を10年掛けて仕入控除するという概念は存在しない。これは実質キャッシュフローベースで設備投資を費用化しているのと同じ効果を持つ。逆に言えば、DBCFT下でキャッシュフローベースで課税を行わないと、DBCFTは実質VATに近いと言う主張は成り立たない。したがって、設備投資減税の経済効果を達成する点に加え、キャッシュフロー課税を導入することはDBCFTが狙い通りにVAT同様に機能するための「Must」な要件となる。なので、国境調整だけの導入をキャッシュフロー課税とは別に検討したり、またその逆に国境調整は入れないけど、キャッシュフロー課税の導入は検討したりというのは、少なくとも経済学者や識者が提唱している未来型の法人税であるDBCFTとはかけ離れた姿となり、概念的には全く異なるものとなってしまうと言える。歳入委員会長のKevin Bradyとか下院議長のPaul Ryanとかはそんなことは百も承知だろうけど、政治家とかロビイストがいろんなことを言うので現状では少しでもDBCFTに盛り込まれている特色を出せれば始めの一歩としては上出来と考えているんだと思う。

5月18日に開催された歳入委員会のヒアリングでは経済界からは設備投資の一括費用化は米国での投資を活発とし、延いては雇用促進に役立つと賛成の声が多く上がった。DBCFTのDBの部分は意見が割れるところだけど、CFの部分は概して賛成ということだ。CFだけだとCFTにはなるけど、それだとDBCFTにならない。結局は各納税者、自分に有利な改正案には賛成、不利になるようだと反対、と当たり前の流れになっている。勝者と敗者が存在するのはどのような税法改正にも見られるサガ。敗者の声を聴き始めると大胆な改正は実行できない。

更に、キャッシュフロー課税と引き換え(?)にThe Blueprintにはネット支払利息の損金算入撤廃案が盛り込まれている。利息の損金算入がなくなれば、面倒な過小資本税制とか、アーニングス・ストリッピング規定とかの適用を気にしなくていいので、そもそもグループファイナンスストラクチャーを利用してシステマチックな実効税率のプラニングを多く行っている兆候のない日本企業にとってはその方が総合的に得かもしれない。米国企業、特に不動産業、また意外にも農業に従事する納税者、業界団体からは利息の損金不算入に関して強い反対が表明されている。また、他国から米国に投資しているMNCは米国のような高税率国には最大限のDebtをプッシュダウンしているケースが多いので、支払利息の今後の取り扱いは国境調整の動向と並んで気にしているポイントと言える。ただ、税率が15%だの20%になったら今迄みたいに一生懸命頑張ってアーニングス・ストリッピングする必要性も薄れてしまうけど。

キャッシュフロー課税と支払利息の損金不算入の関係だけど、キャッシュフロー課税とするから必ず支払利息の損金算入を認めることができないということもないように思う。各々独立して規定しても必ずしもおかしくないように思えるけど、一方で、設備投資等を取得時にキャッシュフローベースで費用化させるのであれば、そのファイナンスコストとなる支払利息も認めては二重取りになるとも考えられる。そのため、キャッシュフロー課税と支払利息の損金不算入はセットで考えらることが多い。Mnuchin財務長官の話しを聞く限り、トランプ政権は支払利息の損金算入は温存したいようで、その代わりにキャッシュフロー課税ではなく、従来からの減価償却を温存してもいいと考えているようだ。トランプが不動産業に従事しているからだ、と勘繰るメディアもある。仮に支払利息を損金不算入とするのであれば、AT&TのCFOが主張する通り、各企業は既存のキャピタルストラクチャーを再検討する時間が必要なので十分な経過期間を設ける必要がある。

支払利息の損金不算入は10年間で$1 Trillionの歳入増効果があると言われるだけに、消費地課税およびテリトリアル課税への制度移行時の一括課税、と並ぶ大きな歳入源だ。支払利息の損金算入を温存した形で税法改正を実行できるかどうかは、税法改正がどの程度の財政均衡をベースに策定されるかにより影響を受ける。

キャッシュフロー課税だけど、確かに聞こえはいいし、企業側としては賛成のところが多いとは思うけど、実際に税法に入れる際にはいろいろと考えないといけないことが多い。例えばM&Aで資産買収、または338(h)(10)選択して資産買収かのようにした際には、Goodwillとかも含めて全額費用化されてしまうのか、とか、パートナーシップに現物出資した際のSection 704(c)とかどのように考えるのか、とか。実際に条文にするのは結構難しそう。

という訳で、DBCFTの骨子2つ、すなわち「DB」と「CF」に関してどちらかと言うとメカニカルな観点から触れてみたけど、次回はDBCFTの直面する諸問題等に関して。

Tuesday, May 23, 2017

トランププランと今後の税法改正動向(1)「国境調整」

前回のポスティングまで7回に亘って4月26日のトランプ大統領・行政府による税法改正プラン初の公式発表に触れてきた。考えてみれば、僅か23分の会見に7回ものポスティングを費やしたことになる。

で翌日以降のメディア等の反応は温度差はあったとは言え論調は似ていた。まず、主たる反応として「詳細なし」という点に対する失望感。これは大統領府として何をしたいかという方向性が欠如しているというよりも、議会との間で何もコンセンサスが得られていない結果と考えるべきだ。特に会見時点の4月26日では下院でオバマケア廃案に失敗したトラウマが残っていただろうから、大枠でも下院および上院がサポートできる内容となるまでは詳細は発表しない作戦だっただろう。これは下院も同じで従来は上院、大統領府が最終的に反対する部分があるとしても、まずはThe Blueprintに基づく条文案を策定して議論を進めるはずだったが、オバマケア廃案手続きのレッスンからある程度コンセンサスを得た上で条文案を公表という流れにシフトしている。その分、前段階でより多くの時間を使う結果となる。じゃあ、なぜあのタイミングで大統領府側が会見を開いたかと言うと、やはり以前から発表するすると言って延び延びになっていたので、取りあえず何かしないと形にならないというプレッシャーは大きかっただろう。以前にも触れたとおり、トランプ大統領は2月9日の時点で既に「今後2~3週間の間に「Phenomenal」な税法改正の発表をする」と言っていたし、2月末には両院を前にしたジョイントセッションで再び「近々に「Massive」な減税を伴う「Historic」な税法改正を公表する」とぶち上げていたからだ。その後、3月にも何の発表もなく、「Phenomenal」「Massive」「Historic」と言った大袈裟な形容詞だけが空しく印象に残っている日々を悶々と過ごしていた。また、詳細は合意に達していないとは言え、原理原則部分、すなわち、法人税減税、テリトリアル課税、ミドルクラス減税という誰も異論がないハイレベルな点に関してはで共和党も一枚岩になっているというプレゼンという意味もあったように思う。

会見もQ&Aがほぼ半分を占めてもトータルで20分強、サマリーも僅か1ページなので、そこに何が入っていて、何が入っていないという点を深読みしても意味がない。もしあの1ページに入っていることしか実現しないとしたら、ビジネスに関しては税率が15%になり、海外子会社からの配当が非課税になっておしまいだ。もちろん実際にはそうではなく、議会との調整が必要な核心部分、例えば、国境調整、設備投資一括償却、金利損金不算入、テリトリアル化の際の一時課税の適用税率、等は今後調整が要というのがメッセージだ。特に国境調整に関しては日本のメディアを見ると、会見で言及されていないことをもってなくなってしまったかのようなニュアンスの報道もあるがそれは間違い。現に5月23日、歳入委員会は国境調整に特化したヘアリングを開催する。これは米国時間の今日なので喧々諤々の議論となると予想されるが、様子分かり次第速報したい。

でも、だからと言って国境調整が最終法案に入るという保証もない。入るかもしれないし、入らないかもしれないし、それは歳入委員会にも誰にも現時点では不明というのが正しい現状だろう。国境調整に賛成するにしても反対するにしても、日本のメディアを見ているととても国境調整導入の意味、背景をきちんと理解した上で報道しているようには見えない。単に諸悪の根源のように扱われているが、内容も理解せずに、トランプ政権の通商ポリシーと混同して誤ってヒステリック気味に論じられているケースが大半。すなわち国境調整はトランプ政権のポリシーとはその根源が異なり、直接関係のないものという認識が欠けている。

ただ、DBCFTを理解していないのはメディアとか一般企業に限らず、例えば欧州の税務専門家でもよく分からずに早合点しているケースが多いと言う。オクスフォード大学のCentre of Business Taxationの重鎮が「欧州では、税務専門家も含めて、DBCFTはその本当の姿を理解しておらず、相変わらずBEPS的なアプローチを重要視して、DBCFTにはどのように報復するかしか念頭にないことが多く、これはDBCFTにとってとても不利な状況だ」と言っている記事があった。

最終的に反対でも、法制化されないにしても、国境調整とは何だったのか、実務的に制度化する際の難題も含めて少し深く再度ここで触れてみたい。

国境調整の正しい理解にはThe Blueprintで言及されている「DBCFT」をきちんと理解する必要がある。国境調整とかDBCFTと言うとあたかもトランプ政権の誕生と同時に生まれたり、トランプが気まぐれで思いついたり、Twitterで言及されたりしている突飛な税法、悪法というイメージがあるかもしれないが、決してそうではない。トランプが選挙運動中から度々言及している「国境税(Border Tax)」と用語がとても似ているのでそれがThe BlueprintのDBCFTの単なるメカニズムでしかない「国境調整(Border Adjustment)」とごちゃごちゃになり、国境調整=トランプの戯言的なイメージが定着している観がある。DBCFTが最終的に法制化されないとすると、それはDBCFTが無茶苦茶な提案だからということではなく、どちらかと言えば政治的に未だ受け入れられるものではないという側面が強いように思う。学者レベルではDBCFTはベストな税法、というか現状の法人税より全然ベターと考えられていることが多い。

The Blueprintのビジネス課税の部分の骨子は「DBCFT(Destination Based Cash Flow Tax)」、「法人税率低減(20%)」「テリトリアル課税」「金利の損金不算入」の4つから成る。これら4つは必ずしもセットで考えないといけないものではなく、個々の案を個別に導入しても、またどのような組み合わせで導入しても概念的には何の問題もない。The Blueprintではたまたまこの4つを一気に実行することで米国の投資先としての魅力を高め、かつ国内産業と輸入を米国において「Equal Footing」にする、すなわち同じ土俵に立たせることを目標としている。4つのうちDBCFTを除いては賛成反対は別として特に考え方そのものに余り論議を醸し出す部分はない。

DBCFTを法人税という枠で考えた国は従来存在しないので斬新だが、米国で事業を行う納税者側として頭から悪いものとして否定するようなものではない。セミナー等で折に触れて言っている点だが、DBCFTが導入されると米国では法人税は0%(実質撤廃)となり、代わりにVAT(または消費税)が20%が導入されたと考えると概念的に分かり易いし、若干語弊はあるかもしれないけど当たらずしも遠からずだろう。VAT20%は日本の消費税8%と比較すると若干高く感じられるかもしれないけど、世界でVATを導入済みの150か国の水準から言うと平均的な税率のように思う。これらの国のほとんどはVATに加えて法人税を持っているので、0%法人税の米国は究極のタックスヘイブンに化すると言える。日本におけるCFC課税とかは気を付けないといけないけど、米国的には過少資本(Section 385!)、Inversion、移転価格、BEPS等一切対応が不必要となるので納税者としてそんなに悪い話しではないと思うんだけど、メディアの影響かどうも評判が悪い。DBCFTになればもちろん僕たちの仕事は減ってしまうけどね。もちろん他国がDBCFTを導入するまでは米国でこれらの問題がなくなっても、他の国では引き続きBEPS的な対応を強いられるので、理想の姿としては多くの国がDBCFTを採択するということなんだろうけど、それは近未来には実現不可能なのは間違いない。今ではあり得難いシナリオだけど、米国がポリティクス的な障害を排除してThe BlueprintにあるようなDBCFTフルバージョンを採択できるとしたら、その後にそれに追随する国もあるかもしれないけど。貿易収支が黒字の国はしないだろうし、グローバルレベルで認知されるのは困難。

で、The BlueprintのDBCFTだけど、DBCFTの「DB」の部分は消費地課税を意味する。従来の法人税とかIncome Taxは恣意的な箱である納税主体に対して課税する国で作り出される付加価値を課税対象とするというものだ。したがって、米国のような高税率国では付加価値が高い商活動には従事するのは損ということになる。一方これを消費地課税すると、どのような主体だろうが、どの国で価値を生み出していようが、米国で消費・使用される商品、サービスのみが課税対象となる。となると、せっかく腐心してアイルランドに持って行った付加価値の高い無形資産も最終的にその価値が米国で使用される限りにおいてはアイルランドにあっても米国にあるのと変わらなくなる。逆も真なりで、米国外で使用されるのであれば、消費地は米国外なので非課税となり、わざわざ米国外に無形資産を置く意味が失われる。

無形資産より棚卸資産で考える方が概念的に分かり易いかもしれない。米国で一から製造する場合にはサプライチェーンを経由して最終消費者に渡るまでの過程で基本全ての付加価値に20%の課税が起こる。一方で米国外で消費される商品は米国内にサプライチェーンが途中まであっても、最終的に米国内で消費が起こらない限り、サプライチェーンを通じて非課税となる。輸入で米国に入ってきて米国で消費されるものは、輸入される段階までは米国のサプライチェーンを経由していないので、そこまでの付加価値には米国で課税されていないから輸入時点で20%の課税となる。輸入を罰するのではなく、米国から見ると輸入と国内を同じ土俵に立たせることとなる。これはまさしくVATのメカニズムだ。米国に他国から輸出されてくる商品は輸出する側のサプライチェーンの付加価値に対するVATは全て還付されているはずなので、その分、少なくとも米国で課税することで均衡を保つという考え方だ。

VATでは国境調整は当たり前のメカニズムで、むしろしないといけないに近い存在だ。VATであれば、個々のインボイスベースで国境調整を行うが、The BlueprintのDBCFTは法人税申告書を一年に一回出すという枠で実行するものなので、個々の輸入取引に20%のVATを課す代わりに、算数的には全く同じことだけど、納税者に輸入があれば、それを損金不算入とすることで総計で20%を徴収するというメカニズムだ。輸出も同様でVATの場合には輸出取引を免税とし、サプライチェーンで支払われていたVATは仕入控除とすることで輸出にかかわるVATは国内では課せられない仕組みとなっているが、DBCFTでは申告時に輸出売上を益金不算入し、一方で国内からの仕入れ等は輸出にかかわるものでも損金算入を認めることで算数的にはVATと同様、最終的に米国で消費されない商品にかかわる米国内20%課税は存在しないという状況を作り出す。

このように国境調整は消費地課税を達成する単なるメカニズムで、VATとか消費税の世界では当然のように適用されていて、当然日本でも堂々と適用されている。

次はDBCFTの「CF」の部分に関して。 ここからは次回。なお、米国時間の今日、下院でDBCFTに特化したヒアリングが開催されるので、その様子も分かり次第ポスティングしたい。