Sunday, November 5, 2017

米国税法改正下院案「Tax Cuts and Jobs Act」(3)「輸入に対する20%ペナルティー課税」

前回は日本企業に関心が高いと思われる多国籍企業のみに適用される2つの大きな課税措置のうち支払利息の更なる制限に関して触れた。今回はの2つ目の、国外関連者に対する特定支出に対する20%のペナルティー課税に触れたい。この課税はUnified Frameworkで「Level Playing Field」とか言ってた概念を具体化したものだけど、「Excise Tax」とか「Surtax」は予想していたものの、これらを武器に実質申告課税を半強制してくるとは意表を突かれた感じだ。良くこんな凄いトリックを発表までリークもなく隠し通せたものだ。前回触れた世界平均利率に基づく支払利息の損金不算入もそうだけど、20%ペナルティー課税は米国外に親会社のある所謂Inbound企業だけではなく、米国多国籍企業にも同様に適用がある点も重要だ。ロイヤリティの支払いとかも含まれるのでおそらく金額的には米国多国籍企業に与える影響も同様に大きいだろう。この法律が可決されると米国で事業展開している多国籍企業にとってサプライチェーン見直しが必至となる。

で、なぜトリックかというとこの税法を読んでまともに20%のペナルティー課税を支払う納税者はいないと思われる点だ。そのメカニズムは次の通り。

まず、今回の税法案では国外関連法人に支払う特定支出に対して20%のペナルティー課税(Excise Tax)を規定している。しかもこの20%は支払う側である米国法人(または支店)の税金であると明記した上、支払い側の米国法人税算定時には損金算入できない税金としている。なぜExcise Taxでしかも敢えて米国法人側の税金と規定しているかと言う点だけど、はおそらく条約の適用とかWTO云々という余計な議論を避けるためのような気がする。

で、20%ペナルティー課税の対象となる「特定支出」だけど、その広範な定義にビックリ。なんと通常の費用項目ばかりでなく、仕入、事業資産の取得、もが含まれるとされる。例外は金利、頻繁に売買されるコモディティー(およびそのヘッジ)、コストそのものを転嫁するサービス費用、と限定的。金利は別の規定で十分に「Level Playing Field」になってるからここで更に20%課税は必要ないということなんだろう。更に、特定支出の受け手外国法人側で既に特定支出を売上認識して米国でECI(またはPE?)申告課税しているケース、および特定支出が30%フルの米国源泉税対象になっているケースも20%ペナルティー課税から免除される。30%源泉の免除に至っては当然な話しで、法人税率が20%になると源泉税の方が30%と高くなるという変な状況なので、米国からしてみたら20%課税するまでもなく既にHead Startの状態にあり、それ以上ペナルティー課税を振りかざす理由はない。従来のアーニングス・ストリッピング規定がそうであったように、租税条約でこの内国法の30%源泉が減免されている場合には、30%からどれだけの源泉税が減免されているかというレシオを出して、そのレシオに対応する部分が20%ペナルティー課税対象の特定支出となる。例えばロイヤリティを米国から日本親会社に支払い、日米租税条約を利用して源泉税を0%にしていると、30%まるまる減免されていることになるので、100%の減免レシオとなり、ロイヤリティ全額が20%ペナルティー課税の対象となる。仮に10%の源泉税を支払っているような特定支出があれば、減免レシオを67%なので、特定支出の67%が20%ペナルティー課税の対象となる。

ここまで読むと、「え~、じゃあ自動車とか日本の関連者から輸入してると、その仕入全額に米国側で20%ペナルティー課税支払って、更にその20%は法人税計算上費用化できないの??」となる。まさにその通りで、法人税で引けない20%仕入れコストアップは実質25%仕入れコストアップだ。これでは米国でまともに商売はできない。ただ、これは日本企業ばかりでなくドイツ企業にも、さらに米国外の関連工場から製品を輸入している米国企業にも同様に適用があるので「Level Playing Field」となる。

こんなペナルティー課税の対象となるんだったら、もう米国での事業継続は不可能と判断してもおかしくない局面が多いと思うけど、実はまさしくそこがこのペナルティー課税の目的でもあり下院の賢いところ。だったら特定支出があたかも米国事業所得に基づく、しかもみなしPEに帰属する所得かのように「自ら」選択して申告課税するチョイスを外国法人に認めます、と規定されている。これは実質選択ではない。グロスに20%支払うのとネット所得に20%支払う選択だから、ゼロコストの事業でない限り、グロスの20%支払うオプションを選択する愚か者はいない。実質、20%ペナルティー課税(Excise Tax)部分の規定は現状の法律、租税条約下では不可能な外国法人に対する申告課税を可能とするクレバーな罠であり、下院も本気で20%ペナルティーを支払う外国法人が存在するとは誰も想定していないだろう。なかなか良く考えたものだ。これが冒頭で触れたこのExcise Taxは「トリック」という意味だ。

次回はECI選択、すなわち20%ペナルティー課税は溜まらないので外国法人「自ら」が自主的にみなしPE課税を選択します、となった場合(おそらく全ケースでそうなる)の扱いに関して。