Sunday, October 18, 2020

ピラー1・2ブループリント完成と目から鱗のUnited Nationsデジタル課税提案

ここ数週間、ネット上で「海賊版」コピーが流出していたBEPS 2.0のピラー1・2のブループリント最終版が10月8~9日のIF会議を経て正式公開された。公式バージョンも海賊版と同じで、相変わらず未解決な問題点が残っていると同時に、とてつもなく複雑な規定に仕上がった印象を受けた。次回から何回かに分けて解析しないとね。

それにしてもインターネットがあると海賊版(Bootleg)が直ぐに出回る恐ろしい世の中。ぜひ見てみたいものに瞬時にアクセスできる、っていう立場で考えると便利だけど、秘匿性の高いマターや守秘義務があるマテリアルを取り扱う者にとっては厄介。なんでもすぐにリークされ、白日の下に晒されることになるからね。

インターネットが普及してきた1990年台後半、こんなワールドワイドのネットワークがあれば、メインストリーム・メディアを迂回することができて、もう少しニュートラルな情報収集ができるようになるのかな、と考えてたことがあった。従来からのメインストリーム・メディアはジャーナリズムとは言え、基本ビジネスだから、各ネットワークや新聞がターゲットとしている視聴者プラットフォームに受けるように情報を加工(歪曲?)してあることないことをセンセーショナルに伝えるのが彼らの本業に近い。なんで、大手新聞とかで報道される記事は基本、加工済みのナラティブ、またはチョッと大げさに言えば創作に近い、くらいに考えて読んでおくのが無難。みんなも、自分が専門にしている分野の記事を新聞で読むことがあったら、偏ったViewがそれらしく記載されてるんで驚いた経験とかあるんじゃないかな。僕も、米国税務の記事とか読むと、例えば、GILTIのGILTI控除はループホールで大企業へのGoodiesみたいな記事が記載されてたりして、それはないでしょ、って思ったりするんだけど。最高裁の判決の報道の仕方も同様。

アメリカは憲法の修正条項1条(「First Amendment」)で、言論の自由が保障されている、って言われている。でもFirst Amendmentは連邦や州政府が法律を通じて宗教や言論を制限したり検閲したりすることを禁じる条項で、個人や大衆の行動に直接制限を与えるものではない。憲法で保障される権利とはいえ、無制限じゃないんで、当然判例に基づく制限やスコープ内での話しだけど、今日のアメリカで政府がFirst Amendmentを無視して変な法律を通したり、検閲を敢行するようなリスクは想定し難い。

一方、政府ではなく、一般市民の間の自主検閲というか、法律とは関係ないPeer Pressureはより強いし、自分の思想に反する言動は徹底的に糾弾・中傷する機会はインターネットの普及で逆に増えている。そんなこんなで、自由闊達に異なるViewにかかわる意見交換する環境は逆に以前より後退している感がある。

インフラとしてのインターネット、すなわちオプティカルケーブルやラウターそのものは、当然だけど、コンテンツを選んだりしない。だけど、結局一般人はサーチエンジン、Youtube、ツイッターとか大手ハイテク企業のサービスを介して情報収集・提供することになる。インターネットでは一見、どんな情報でも入手可能なように感じるけど、検索機能のアルゴリズム設定とか、特定ユーザーのビデオコンテンツをブロックしたりする裁量は、実質大手ハイテク企業が握っている。ということはハイテク企業の価値観に基づく情報・言論統制が敷かれていると同様の状況。ハイテク企業を取り巻くいろんな議論は、僕たちが気にしているデジタル・サービス課税よりも言論の自由にかかわる部分の方が国や世界への長期的なインパクトが大きい。結局、我々情報を読解する側の情報評価・識別能力がますます問われてしまう、ということだろうか。

デジタル・サービス課税(DST)

で、何の話しだったかっていうとOECDのピラー1・2のブループリント。正式に公表されたバージョンを見たら、先に海賊版で見たものと同じだったっていうことから、海賊版やインターネットの話しになったんでした。OECDのピラー1合意が緊急課題となっているのは、複数の国が「Unilateral」、すなわち一方的にデジタル取引にDSTを規定しているからだけど、このDST、大概のケースで「グロス」ベースなんで企業がネット所得を認識しているかどうかに関係なく課税が生じる。また「Unilateral」っていう用語に内包される含意は、条約の適用対象となる租税ではない、すなわちCovered Taxではないっていうことで、条約に基づく二重課税排除メカニズムが効かない。企業側から見るとネットで儲かってるかどうかにかかわらず課税されて二重課税の排除もないと単純な追加コスト。想定していたビジネスモデルに問題を引き起こす可能性がある。

でも、DSTって結局誰が負担することになるかっていう点は興味深い。結局DSTを課す国のベンダーに転嫁される可能性が高い。アマゾンの「Seller Central Website」によると英国の2%DSTやフランス、イタリーの3%DSTはSeller Feeに上乗せチャージされると規定されている。

で、制度が各国間で整合性がなく、利益があってもなくても課税が生じ、また二重課税排除メカニズムがない、っていうDSTの弊害を新たな国際法人税課税ルールを策定して解消しようというのがピラー1だ。これらの複雑な問題に対処すると同時に、多くの参加各国の思惑をできるだけ反映させようとしている間に、とてつもなく複雑な規定に仕上がってしまった感がある。OECDやG20の国ならともかく、発展途上国はピラー1や2に対応したり、執行したりできるんだろうか。

目から鱗のUN案

この前のポスティングで触れ始めたUnited Nationsのデジタル課税。その登場のタイミングが絶妙過ぎてグローバル・ポリティクスの真髄というか、大人の世界(?)を垣間見た気がした。これらの点は前回のポスティング「「デジタル課税」絶妙のタイミングでUnited Nations登場」を参照して欲しい。

United Nations案を見て驚愕するのがそのシンプリシティ。その気になれば即日実践可能な暫定措置を提案しているように見える。特にUnited Nationsが利益を代表している発展途上国にとっては、立派な規則でも実践可能か、また容易に税収に結びつくかどうか、っていう点が重要。

その意味でUnited Nationsのアプローチは世界のシステムをOvernightで変えようというような無謀な(?)なインセンティブは感じられず、いつかは5条のPEの定義にデジタルサービスを加える方向とはしながらも、当面はDSTを公認し、条約の一部に加えることで不確実性や二重課税の問題に対処しようとしている。条約が適用される租税となるので二重課税排除が可能となる。

なかなか賢いアプローチで、ピラー1にかかわる大量の検討を読んだ後だったので、目から鱗の提案だった。各国のDST対象はバラバラで多岐にわたるけど、共通ターゲットとして絞り込んでいくと要はオンライン広告が主になる。この時点で、伝統的な事業に対するデジタル課税は緊急課題ではない、っていう認識に至っているようだ。

8月5日に実際に公開されたUnited Nationsデジタル課税案はUnited Nationsモデル条約の12A条「Fee for Technical Services」の直下に、12B条「Income from Automated Digital Services」を新設している。12A条自体、ロイヤルティをカバーする12条のサブセットだけど、ロイヤルティには当たらない「Technical Services」にかかわる対価は、所得源泉地で源泉税を課してもいいという制度。PEがなくても源泉地課税を認めている点、ピラー1のAmount Aに通じる。この概念をそのまま自動化デジタルサービス(ADS)にかかわる支払い全般に適用することでスマートにDST対応しようとしている。

ADSにかかわる新設12B条そのものを語る前に、Technical Services Feeに対する源泉地課税を規定している12A条の先見性にチラッと触れておきたい。12A条は2017年にUnited Nationsのモデル条約に加えられている。12A条の追加の背景として、サービス収入はその受け手が支払い国にPEを持たない限り、受け手の居住地課税のみとなる点を指摘し、コミュニケーションテクノロジーの進化により、他国にPEを構築せずにハイエンドなサービスを提供することができるビジネスモデルには従来のPEに基づく課税は馴染まないとしている。まさしくOECDのオリジナルBEPSアクションプラン1やピラー1の論点だ。

Technical ServicesのFeeを無理やりロイヤルティと位置付けることができれば、従来の条約でも、条約レートに基づく源泉地課税が可能となる。ただ、現存のロイヤルティの定義ではTechnical Servicesに対する支払いをロイヤルティとして源泉地課税するのは無理なケースが多い。そこで12A条を規定して、ロイヤルティ同様にTechnical Servicesに対するFeeに源泉地課税を認めるというものだ。条約だから二国間で12Aを採択するかどうか交渉することができるし、また源泉税率を12条のロイヤルティと同じに設定することで、支払いをロイヤルティ部分とTechnical Services部分に区分けする必要もなくなる。条約内でグロスベースの源泉税を規定することで、利子や通常のロイヤルティに対する源泉税同様、外国税額控除を通じて二重課税を排除・軽減することが可能となる。

この背景で、さらに今回の12B条追加となる。12Aの延長・明確化措置としてTechnical Servicesにかかわる規定をADS Fee全般に適用している。12B条の設計は12A条のTechnical Servicesにかかわるものに類似していて、条約締結国が合意する%の源泉税を通じて源泉地課税が認められる。条約適用租税となることから外国税額控除を通じて二重課税の排除・軽減が可能な点も12A条と同様。

原則、支払いを行う主体が存在する国がADSの源泉地とみなされる。源泉地にPEが存在しない、または存在してもADSのFeeがPEに帰属しない、ケースが12B条が解決しようとしている問題となるので、源泉地にPEがありADS Feeが当PEに帰属する場合には、12B条の適用はなく、従来通り5条・7条でPE帰属事業所得として課税される。

12B条の規定が、12A条のTechnical Servicesにかかわる源泉税規定と大きく異なるのが、ネット申告課税の選択が設けられている点。United Nations言うところの「Qualified Profits」が申告課税対象になるんだけど、この算定法は注目に値する。すなわち、Qualified Profitsというのは、ADS Feeに多国籍企業グループの利益を乗じて、それにさらに30%を乗じた金額となる。ADSにかかわる信頼できるセグメント情報が存在する場合には、グループ全体の利益率の代わりにADSセグメントの利益率を適用することが認められる。いずれにしても、グループ利益率x30%が、ADS Fee源泉地に配賦される超過利益ということになる。OECDが苦労しているAmount Aの「Quantum」に相当する金額だ。簡単に30%とバッサリ決めてくれている。元々何の理論的な裏付けもないんだから、逆に30%とか決めてしまうのが正解かもね。ピラー1との比較で行くと、ピラー1は多国籍企業グループの利益が一定の利益率を超過する部分だけを参照し、さらにそこの上澄み何%かをAmount Aを通じた配賦対象利益としている。12B条ではこのような若干まどろっこしい感のあるステップは踏まずに、単純に利益の30%をグロスのADS Feeに乗じて配賦対象利益としている。良くも悪くも30%っていう数字は超過利益認定の試金石になってしまったね。

さすが発展途上国の声を代表してきたUnited Nationsの提案だけあって、シンプルだし、かつ市場国からしていると即源泉地課税できるっていうメリットがある。ということで、舞台も整ったのので次回はピラー1ブループリント。

Monday, September 28, 2020

「デジタル課税」絶妙のタイミングでUnited Nations登場

前回のポスティングでは、ユーザー国が言うところの「Fair Share」はいくらか、っていうピラー1が解決しようとしている根本的な問題に関して、ユーザー参加の価値の有無や、もし価値がある場合にはその適切な測定法に関して合理的な議論が尽くされる前に、恣意的に一律%が独り歩きして無理なタイミングでグローバルコンセンサスを取り付けようとしている点がピラー1の停滞の原因の一つではないか、っていう点に触れた。

そんな停滞感漂う中、国際機関の大御所、国連(United Nations)が満を持して、というか絶妙のタイミングで独自のデジタル課税案を公表している。

United Nationsには「UN Economic and Social Council (ECOSOC)」(「国連経済社会理事会」)の一部に「Committee of Experts on International Cooperation in Tax Matters」っていう国際税務専門委員会があり、1968年からクロスボーダー課税に関するグローバルの調和を促進してきた。最近は参照する頻度が減ってる感はあるけど、OECDや米国モデル同様、UNも独自のモデル条約を策定している。ECOSOCにしても国際税務委員会にしても、発展途上国の多くが理事国を形成してるから、当然それらの国の意見がより強く反映され易くなる。このUN専門委員会、本来ならグローバルのデジタル課税の議論に最適なフォーラムだけど、BEPS以降、OECDがクロスボーダー課税にかかわる世界の警察みたいな存在になりつつあり面白い展開だなと思ってことの進展ぶりを見守っていた。各国が主権国家でありながら、経済のデジタル化を鑑み、課税ポリシーや税率の決定権をOECDに献上してしまってもいいと判断しているんだったら、それはそれでいいんだけどね。

6月後半に開催されたUN専門委員会のバーチャル会議を経て8月5日にUNモデル条約の12条にひとつだけ規定を加える、っていうとてつもないシンプルな一撃で当面のデジタル課税論に解決を図っている。う~ん、長編のOECDブループリント読んだ後だけにそのシンプリシティに感動。もちろんシンプルなだけに不足面もあるけど、発展途上国が複雑なピラー1や2に対応するためのリソースを用意できるとは思えず、どっちにしてもユーザー参加の価値とかにかかわる強固なテクニカルな議論なしに課税ありきで、また当面は各国独自の「Unilateral」なDSTに調和を図るっていうメカニズムを模索してるんだったら、なるほど、こういう代替案もあり得るよね、って目から鱗が落ちる感じの斬新な提案だ。

この前からチラッと触れてるけど、United Nationsはここに来て急にデジタル課税に目覚めた訳ではない。BEPSのアクション1やBEPS 2.0の議論が進む中、実行可能性やグローバル・ポリティクスの観点からその内容を辛抱強く静観していたことだろう。United Nationsとしては一枚しかないJokerをいつ切り出すか、っていうタイミングを虎視眈々と狙っていたとも言える。千軍万馬いうか飽経風霜というか、裏の裏まで知り尽くした強者かつトリッキーなプレーヤーが混在するグローバル・ポリティクスにおいて、何事もタイミングが肝心なのは百戦錬磨のUnited Nationsは百も承知。時期尚早に登場すると、OECDの議論にかき消され存在感を出せない一方で、後手に回るとルール策定に関与できないもんね。

United Nationsのアプローチは、ピラー1との比較において、クロスボーダー課税制度そのものに変革をもたらすというような大胆な意図は感じられない。そんなRevolutionは短期には達成できない、という経験に基づき、その気になれば今日から即実践可能な暫定措置を代替案として提案しているように見える。特に後進国にとって実践可能かどうかという点は実務的に重要な課題。

で、長期的には5条のPEの定義にデジタルサービスを加える方向としながら、当面はDST紛いの税金を公認し、条約の一部に加えることで不確実性や二重課税の問題に対処しようとしている。条約でカバーするんで23条を通じてFTCが取れる点も自然に明確になる。当初は2017年UNモデル条約に規定される源泉税条項12A条の「Technical Services」にオンライン広告にかかわる支払いも対象内と解釈することで文言の修正もなく、DSTに調和をもたらすことができる、みたいな議論もあった。

これは賢いアプローチで、各国のDST対象はバラバラで多岐にわたるけど、共通ターゲットとして絞り込んでいくとオンライン広告が主になる。United Nationsの感覚だと、現時点で他のデジタル経済、増してや伝統的な事業に対する課税は緊急課題ではない、っていう認識があるんだろう。PEの定義変更やオンライン広告以外の取引にかかわるGame Changer的な改定は時間を掛けて要検討と位置付けている。GoogleやFacebookの収入源は言うまでもなくオンライン広告だし、Amazonの収益に占めるオンライン広告の比率も高まってるとして、Google Ireland Ltd.がフランスと係争した際に開示されているビジネスモデルをベースに、B2B部分のサービスFeeに源泉税を課せば、当面は皆落ち着くんじゃない?的なアプローチが模索されていた。

そんなアプローチ下では、既存の 12A自体はそのままで、オンライン広告のFeeはテクニカルサービスに含まれるとすればそれで済む話しと言える。面倒な売上基準やAmount AとALPの超過利益との相殺とかがないので極めてシンプルだ。このシンプルさは偶然ではなく、ピラー1の内容を精査し、発展途上国の率直な意見を取り入れた上でのアンチテーゼ的なものと考えられる。

で、8月5日に実際に公開されたドラフトは12A条「Fee for Technical Services」をそのまま使用するのではなく、その直後に12B条「Income from Automated Digital Services」を新設している。12A条自体、ロイヤルティをカバーする12条のサブセットだけど、ロイヤルティには当たらない「テクニカルサービス」にかかわる対価は、事業所得に当たると考えられるがPE規定をオーバライドして所得源泉地で源泉税を課してもいいという制度。PEがなくても源泉地課税を認めている点、ピラー1に通じるかなり先進的な規定だ。新設12B条では、対象をオンライン広告に限定するのではっていう前評判とは異なり、自動化デジタルサービス(ADS)にかかわる支払い全般を対象としている。

次回はこの12条Bに関してもう少し。

Saturday, September 19, 2020

OECDもピラー1早期合意ギブアップ。原因はトランプそれともピラー1のコンセプト欠如?

前回、NYCの話しとかで興奮してしまい、結局BEATのAggregateグループの話しは最初の部分で終わっってしまった。そんな矢先、ピラー1でチョッとアップデートしたいニュースがあるので今回は特番。

OECDのBEPS 2.0で提案されてる2本の柱の1本となるピラー1は、デジタル経済下でのクロスボーダー課税の新基準作りっていうBEPS 2.0の目的そのものの話しで、ピラー2はどちらというとオマケで議論されてる感じで、ピラー1こそが屋台骨だ。柱が2本しかない構造で、そのうち1本の柱がなくなってしまったら普通の建物だったら骨組みにならない。なくなる柱が主たる柱だとしたらなおさらだ。

で、そんな建築の世界だったら大変な出来事が、BEPS 2.0に関しても進行中。BEPS 2.0の屋台骨ピラー1の先行きが徐々に怪しくなっていく様子、そしてついに米国が引導を渡すに至る経緯は、ここ一年くらいのポスティング「DCからのお手紙でOECDデジタル課税・ピラー1に早くも暗雲?」「BEPS 2.0ピラー1の終焉」等で触れてるんで、興味があったら時系列的にその変遷を読んでみて欲しい。

そんな逆風にめげることなく、OECDはピラー1の合意に向けてブループリント・ドラフトをIF各国に共有したり、チョッと痛々しい感じもするんだけど、自らに活を入れるかのように手綱を緩めぜずにテクニカル面での設計に驀進していた。疑ってかかるような意地悪な見方をすると、チョッとスピンがかったPRを繰り返してるようにも感じられたけど、2020年も9月後半というこのタイミングで、あんまりいつまでも非現実的なタイムラインやプランに固執していてもいつかは万事休して信用問題にも発展し兼ねず、「近々に成功する可能性は約束されてないんで、皆さん勘違いしないで下さいね~」みたいなExpectationの調整が、いずれ行われるはずと思い、状況を注視していた。特に10月8日に次のIF全体会議の開催が控えてるんで、その前後の動向は特に気になるところ。

そんな折に登場してきたのが他でもないパスカル・サンタマン氏。OECD租税政策・税務行政センター局長ご本人だ。世界中の政府がコロナ禍でロックダウンという政策を取る直前、神楽坂で開催された会食でご一緒させて頂けて身に余る光栄だったけど、BEPSをここまで世界に浸透させただけのことはあるエネルギッシュかつユーモア溢れるウォリアーだ。そんなパスカル氏が、レマン湖の畔に位置し、豊かな自然、ローマ時代からの歴史、文化の香り漂う古都ローザンヌの名門校のローザンヌ大学のクロスボーダー課税ポリシーイベントで先週9月15日に「新しいクロスボーダー課税ルールを世界で合意しようとしてるんだけど、皆さんもご存じの通り、トランプ大統領は訳わかんない輩で・・・」と切り出してExpectation制御モード。「交渉再開を米国選挙後まで待ってたら、その間にDSTが台頭してくることになるし、Bidenになったとしても交渉が進む保証もないし」とチョッと愚痴っぽいニュアンス。

え~、ピラー1の成否もトランプ大統領次第だったの?ここ4年間、米国のメインストリーム・メディアは「世の中で起こっている諸悪の根源は全てトランプ大統領」って、まるで何かに取りつかれたかのように血走った目で連呼し続けてきたけど、パスカル氏もメインストリーム・メディアの見過ぎなんだろうか(苦笑)。この手の発言は大学のオーディエンスとかには受けるだろうから、それを見越してのOvertureだったのかもしれない。実際にトランプ大統領が世界の諸悪のうち、どの悪に関して根源なのか、っていう点は各人の思想等で判断が異なるだろうけど、ピラー1に関する限りどうだろうか。確かにフランスがDSTを掛けるんだったら、チーズやワインに懲罰的関税を課すぞ、とかフランスとトランプ大統領は喧嘩が絶えないけどね。でも、ピラー1の行き詰まりは、どちらかというと政治的に早期コンセンサスをグローバルで取り付けるっていう結果を優先しようとするがあまり、現時点のピラー1にはコンセプト的な規律が欠けてて納得感がない、っていう致命的な欠点の方が大きいのでは?

米国がピラー1に乗り気でないのはトランプ大統領の気まぐれのせいではなく、ピラー1が課税しようとしている米国ハイテク企業からしてみると、自社の超過利益や企業価値に市場国のユーザー参加を源泉としている部分があるのかないのか、あるとしてもそれがいか程のものなのか、っていう根本的な前提や議論が尽くされる前に、安易に恣意的な%だけ決められてしまうのは釈然としない、っていう点が気になるのでは?このままなし崩し的にあまり意味のない%だけ決まり、超過利益を世界中にばらまくような仕組みに合意されてしまったりすると、そんな制度はSustainabilityに欠ける。

この手の話しで示唆に富んでいるのがUberがOECDに提出しているコメント。コメントを作成したUberのVP Finance Tax & AccountingであるFrancois Chadwickは専門誌への投稿とかで更に深堀したコメントを出している。Uberはピラー1ばかりでなくピラー2にも洞察に富むコメントを出しているからOECDのウェブサイトで見てみると面白い。

ピラー1に関して2019年3月に提出したコメントでUberが疑問を呈している点のひとつに、ユーザー参加が企業価値に貢献しているかどうかは意見が分かれるところだし、仮に何らかの貢献があるとしても一律の%で価値を認定してしまうのは非現実的、というものがある。確かに、デジタル企業というとインターネットで人手を介さずに安易に取引を行って濡れ手に粟みたいに簡単に莫大な利益を認識できる、っていう誤ったイメージがあるかもしれないけど、デジタル企業のビジネスモデルを可能にしている、また厳しい競争に勝ち抜くための価値のあるユニークなIPの開発とかIPを活用して事業を遂行する際の機能一般は結局は広範に人間の手に頼っている。従来、超過利益をそれらの機能を持つ場所で認識し、単なる市場国には超過利益を配賦していないのはまさにこの理由。IPの開発や事業遂行には失敗例も多く、多くのスタートアップが消えて行くけど、それらのリスクや損失を負担しているのも市場国ではない。

その後、2019年11月のコメントでは市場国に配賦される超過利益は少額(Modest)に留めるべきで、超過利益というものは主にIPのDEMPEを源泉としていることから、DEPMEの場所に主たる課税権があり続けるべき、としている。人の移動手段を根本的に変革させてしまったデジタル企業張本人Uberによるコメントだけに、「自国にFair Shareのタックスを支払え」と何がFair Shareかという点に関して理論武装が弱いまま主張し続ける市場国政府との対比で、迫力満点で重みがある。この議論、日本企業の多くも同感ではないだろうか。

Francois Chadwickが専門誌に寄稿している「デジタル時代の新クロスボーダー課税」という論文では、かなり具体的にピラー1のUnified Frameworkに代わる新クロスボーダー課税システムを提案している。基本的にはModified Residual Profit Split (MRPS) methodを適用するとしながらも、PSに付きまとう複雑性を排除し、デジタル時代に対応するようにアップグレードするというもの。そこには詳細な経済分析やUberでの実績に裏付けられた興味深い分析が満載されている。ここでその全てを解説する訳にはいかないんで残念だけど、ザックリ言うと、超過利益をProduct Intangible Profit(「PIP」)とMarketing Intangible Profit(「MIP」)に分けて、MIPをさらにDEMPEに帰する部分とユーザー参加を含む外的要因に帰する部分に分けるというもの。超過利益全体から研究開発の度合いからはじき出される%でPIPをを取り出す。そして残った部分をMIPとし、さらにそこからDEMPEを基とする金額を除き、残った金額が市場国配賦対象となる。Uberの実績からMIPのうち80%はDEMPEに帰するというデータがあるらしい。となると、超過利益からPIPを排除してMIPに分け、さらにその20%だけがAmount A同様となり市場国に配賦対象ってことになる。Amount Aが超過利益の一部のさらに上澄み部分だけになってるのに何となく似てるけどね。Uberの数字を使うべきかどうかという話しではなく、このようにユーザー参加の価値をビジネスモデル別にきちんと検証することなく、コンセンサス作りに邁進している点こそピラー1が暗礁に乗り上げてる大きな理由ではないだろうか。

これらのピラー1の展開、特にここ数か月のピラー1の弱体ぶりを冷徹に観察しているに違いないもう一つの国際機関がある。国連、United Nationsだ。以前、本来発展途上国の代弁者たるべきUNがモタモタしてる間に、OECDがIF大連合を形成し、クロスボーダー課税に関しては国連っぽいノリの機能を横取り(?)しちゃっててチョッと不思議だよね、って「BEPS 2.0ピラー1の終焉」でチラッと触れたけど、UNはここに来て急に絶妙のタイミングでデジタル課税議論にリエントリーしスパートをかけている。このタイミング、もちろん偶然ではない。グローバルのいろんな利権争いは海千山千のプレーヤーがしのぎを削っているってこと。このUNの登場は面白いので次回のポスティングでチラッと触れておきたい。

なかなかBEATのAggregateグループの話しが終わらなくゴメン。最高裁判事のNotorious RBGとして親しまれてきた法曹界の巨匠Ginsburgが選挙まで一か月強のこのタイミングで他界してしまったり、世の中いろいろあり過ぎ。

Sunday, September 13, 2020

BEAT 2020年最終規則 (3)

NYCはここ数週間でめっきり秋めいてきたけど、南カリフォルニア、特にロサンゼルスの北西部っぽいところに位置するValley辺りは相当厳しい残暑に見舞われてる、って報道されている。Valleyって、MDRから405で渋滞さえなければ15分から20分もあれば着く距離。405と101が交差するSherman Oaks辺りだったら距離は20マイルもない。ただ、午前3時とかにドライブするんだったら理論通り15分で着くかもしれないけど、日中のSepulveda Pass、特にコロナ前は、渋滞が激しく、通り抜けるのに平気で1時間以上掛かることも多い。MDRから見てそんな距離に位置するValleyだけど、MDRが海岸沿いにある一方、Valleyは内陸に位置してその名の通り盆地みたいな地形なので、普段からValleyの気温はMDRと比較して20~30度(CじゃなくてFだからね)は高い傾向にある。そんなValleyで記録的っていうのは相当暑いんだろう。

一方のNYCは朝晩はすっかり涼しくなり、早朝にEast River沿い走ったりするにはベストな気候。でもそんな気候に突入したタイミングで、ようやく州知事のお許しが出てジムがリオープン。アパートの29階にあるジムも約6か月ぶりにオープンし、NYC自宅アパートのジムでワークアウトができるようになった。3月以降、MDRその他、NYC外の場所に居る日はジムを利用した経緯はあるけど、こっちに居る間は毎朝、NYCの狭いアパートで簡単なワークアウトした後、外を走る毎日だった。普段、トレッドミルでしか走ったことなくて、最初は外に降りていくのがチョッと面倒だったんだけど、外走ってみるとトレッドミルよりMindにいいというか、心の浄化というか、日本語でベストな表現が見つからないけど、英語で言うところの「Cathartic」、つまりEmotionally Cleansingなんだなってことが実感できた。また、同じ1マイルでも外の方が体力を消耗するように感じられた。トレッドミルに戻ってみて、実は外では自然に速いスピードを出してたことに気づき、トレッドミルのスピードも0.5マイルくらいスピードアップして走れるようになった。ロックダウン中にいろいろあったけど、せめてこんな効能でも見つけないとね。

で、先週からさっそく早朝ジム三昧になったんだけど、前と違って人数制限があるんで前もってApp使って予約したり、入る前に体温測定が義務付けられたり、NY州の規定で走る時もマスク着用がMustだったり、っていう諸々の要件を充たしてようやくワークアウトに漕ぎつけることができる。ワークアウト中もマスクね。結構なスピードでトレッドミル走ったりするとチョッと息苦しくて、結構暑いんだけど、まあリオープンしてくれただけ有難いと思わないとね。物事全て相対的。NYCにあるジムのリオープンは他州よりかなり遅く、しかもキャパの33%っていう制限付き。その間に事業継続が困難になってしまったジムも多いだろう。New York Sports Clubは今週にも破産法申請って噂。

レストランも未だに屋外以外はDining禁止、っていう点からもわかるようにNYCの経済再始動は全米でも遅い。そんなこんなの数か月、ここに来て肌で感じるNYCは、街の劣化というか住みやすさの低下が著しい。市長がBloombergからDe Blasioに変わった後から、ミッドタウンでは、浮浪者が増えたりして公園とかの治安は全体に低下気味だったけど、それでもコロナ前はNYCの好調な経済に支えられて日常の生活に影響を感じることはなかった。もちろん、Bloomberg時代の整然とした感じが懐かしくはあったけど。それがここにきて最悪の状態に。コロナでオフィスが閉鎖されているので街にオフィスワーカーが不在だし、コロナ感染の懸念から囚人を刑務所から解放したり、保釈金制度を改定して逮捕された被疑者の留置が困難になりそのまま釈放されたり、マンハッタンの住宅地に位置するホテル複数を市が借り切ってドラッグ常習者や浮浪者に提供したり、略奪や暴動の爪痕があちこちに残っていたり、Public Spaceは昼間から浮浪者のたまり場になっているところもあり、道でトイレしたり、ドラッグしたり、犯罪も増えててチョッと普通の家族が安心して生活したり、オフィスワーカーが仕事しに戻って来るには程遠い環境に急変しつつある。そんな環境に耐えかねて結構な住人がNYCから脱出しているって聞くし、実際に家賃は下がり(それでも法外だけどね)、Monthlyのパーキング契約が枯渇してるっていう話し。

10月からは屋外だけでなく、IndoorのDiningも25%キャパまでOKとか、徐々に経済は始動しつつあるのはそうなんだけど、多くのビジネスにとってはチョッと遅すぎるし、その間に破綻して2度とNYCには戻ってこないビジネスも増えつつある。日本でもお馴染みのEric Kayserのパン屋Maison Kayserは、3月にNYCの全店舗をいち早くCloseしてしまい、その後も全然リオープンする気配がないのでなんか怪しいなと思ってたけど、先週、破産法を申請してNYC16店舗全店閉鎖するらしい。え~、ショック。もちろん、SOHOとかまでわざわざ出かけて行って、店の前に並んだりすれば美味しいパンにあり付けるかもしれないけど、そんなことしないでもミッドタウンの近所にたくさんあるMaison Kayserで気軽においしいBaguette、ブリオッシュ、Pullman Loafとか買えてたのに。ブリオッシュに関しては昔のポスティングで触れたけど、小さいころからの思い入れがあり、敢えて多く接種しないCarbを取るんだったらMaison Kayserのブリオッシュに優先権を持たせてたんだけどね。大ショック。ミッドタウンでどこかまともなブリオッシュとかパン売ってるとこ見つけなきゃ。Éclairのオーナーおじさんに近所のよしみでお願いして前やってたみたいに特別に焼いてもらうしかないかも。

そんなNYCの惨状を見かねて、160社以上の著名なビジネスで構成される「Partnership for NYC」がDe Blasioに書簡を送りつけた。早急にNYCのワーカーや住民の安全・住みやすさを改善しない限り、こんな状況ではNYCのオフィスには人は戻せない、事業も行えない、と警告している。De Blasioは大手ビジネスや真面目に働いて高額の市所得税を支払っている住民を敵視する傾向にあり、「あいつらの手にお金があるのはおかしい(「the money is in the wrong hands」)」とか言ってたから、対策としてはさらに多くの税金を課すことくらいが関の山だろうか。せっかく、GiulianiとBloombergが20年かけて世界でも最も安全な街にトランスフォームしてくれたのに、また80年代のNYCみたいになってしまうんだとしたら困ったこと。思想はともかく、基本的な安全や生活環境が保障されないと街の繁栄はありえないという大基本を理解して市政を司ってもらわないといけない。その点、同じ民主党でも州知事のCuomoはもう少し現実的だけどね。

実はNYCに限らず、カリフォルニアのMDRの近所も結構荒んだエリアが増えたように感じる。Mar VistaからVenice Beach方面にRoseをドライブした際、Marine Park沿いの住宅地にテントが並んでる姿はチョッと驚きだった。

そんなショックを和らげるには、財務省規則にフォーカスするのが一番(?)。前回、前々回と9月頭に公表された2020年BEAT最終規則に関して触れてきたので、今回は、中でも日本企業にも関心が高いと思われれる「Aggregateグループ合算計算」にフォーカスしたい。っていうかする予定だった。

前回のポスティングに書いた通り、Aggregateグループっていう概念は、BEATミニマム税の計算そのものというより、入り口のBEATミニマム税を計算しないといけないBEAT適用法人になるかどうかの判断時に関係してくるもの。すなわち、売上基準とBE%基準の算定を個々の法人や連結納税グループ単位ではなく、Aggregateグループ単位で行う、っていう規則。BE%に関しては、NOLのうち何%がBEAT計算時の加算額になるか、とかにも使用するので、必ずしも適用法人になるかどうかだけに限られたインパクトではないけどね。

Aggregateグループの構成自体、パートナーシップが絡んでたり、Fundだったりすると、構成メンバーの特定にかなりの検討を要するけど、ここでは日本企業向けということで、グローバルで50%超の資本関係にある法人、と敢えて簡単に定義しておく。この50%超のグループ法人のうち、米国法人と外国法人のECI(条約国のケースはPE帰属所得)部分を「単独法人」かのように取り扱って売上基準とBE%基準を算定することになる。

NYCの話しとかやたら興奮してしまったので、肝心のここからは次回。本題が短くてゴメン。

Saturday, September 5, 2020

BEAT 2020年最終規則 (2)

前回のポスティングで、先週公表された2020年のBEAT「新」最終規則に関して触れ始めた。BEATの計算にかかわる大概のルールは2019年最終規則で既にカバーされているので、今回の2020年最終規則はどちらかというと「ニッチ」っぽい数点にフォーカスされている。具体的には、グループ合算計算、損金算入自己否認、パートナーシップを介したBase Erosion Paymentの考え方の確認、特定の乱用防止規定、にかかわる詳細規定。

損金算入の自己否認に関しては以前の「BEAT財務省2019年「新」規則案(損金算入自己否認)(2)」である程度詳しく触れた提案内容のまま最終化されているのでそちらを見て頂くとして、今回はグループ合算計算に関して少し触れてみたい。ちなみに損金算入自己否認に関して一言だけコメントしておくと、10%のBEATミニマム税を節約するために通常法人税で21%の税効果がある損金算入をなんでわざわざ否認するの?、っていう質問をたまに受ける。この点はNOLとの絡みで期せずしてBEATミニマム税が出てしまうことがあるとか、BEATミニマム税の計算時には外国税額控除が認められないって点が大きい。特に外国税額控除に関しては、TCJA後の米国クロスボーダー課税の世界では、世界中のCFC所得を合算しネットで10.5%支払う税額を、外国税額控除で減少させるっていう設計だから、外国税額控除がなくなってしまうと例え10%の税率でもBEATミニマム税が巨額になることがある。それなら多少の費用を自己否認して21%支払っても、そもそもBEAT適用法人でなくなるのであればそっちの方が断然得策、っていう話しだ。

で、今日のポスティングのテーマとなるグループ合算計算だけど、これもBEAT適用法人になるかどうかの話しに密接にリンクしてる、っていうかその話しそのもの。BEATはその立法趣旨的に、ターゲットとなる納税者のプロファイルは、外国関連者への支出に基づく費用控除がある程度あって、サイズが大きめの多国籍企業となる。このプロファイルに合致する法人を機械的に抽出するため、二つの基準値が法律に規定されていて、それらに達してしまえばBEAT適用法人だし、達していなければBEATの適用自体がない。また、BEAT適用法人になったとしても、BEATミニマム税を支払うことになるかどうかは実際の計算次第。実際に計算してマテリアルなBEATミニマム税が想定される場合には、そもそも適用法人でなくなってしまえば実害ナシということになる。なので、損金算入の自己否認とかいう通常では考え難い発想が登場する。

このテストは機械的な点に注意。BEAT、すなわちBase Erosion Anti-Abuse Taxっていう条文タイトルから、「私はBase Erosionするような意図は一切ありません」みたいなケースにBEATが適用されるのは筋違い、というようなポリシー的な理屈を捏ねたくなるケースもあるけど、納税者の意図はBEAT適用有無に一切関係ない。税法上、条文タイトルは法的効果を持たないしね。

で、誰がBEAT適用法人になるかというと、3つ条件がある。

まず「Corporation」であること。必ずしも米国法人である必要はなく、外国法人もBEAT適用法人になり得るけど、申告法人税の話しだから、ECIがあったり、日本みたいに条約締結国の法人でLOBを満たす場合には、米国PE帰属所得が存在するケースのみ潜在的にBEATとの絡みがある。また、CorporationでもRIC、REIT、S Corpは除外される。Corporationじゃないパートナーシップは直接BEAT適用納税者にはならないけど、パートナーシップの法人パートナーは、パートナーシップ内の取引の自己持分を全て加味してBEATを検討しないといけない。法人がらみの非課税取引、Section 351や332、適格組織再編に基づく資産移管は2019年の最終規則時に財務省の英断(?)でBase Erosion Paymentの定義から除外されてるけど、パートナーシップに関してはそんなカーブアウトが一切存在しない。純粋なAggregateコンセプトで考えるので、Section 721や731に基づく非課税出資や分配時にも常にBEATの影響を検討しないといけない。パートナーシップとBEATの話しはここ1年くらい、そのうちどこかで特集しなきゃ、っていうプレッシャーが夢に出てくる(?)くらいだけど、本当にそのうちね。

で、BEAT適用法人の条件だけど、次に前年までの3年間平均総収入、すなわちCOGSや費用を引く前の売上が$500Mであること、っていう売上基準。返品があったり、固定資産の譲渡があったり、すると売上額の認定自体、結構テクニカルで油断大敵だけどね。

そして3つめの条件がBase Erosion%(「BE%」)が3%以上っていうBE%基準。金融機関は特別に2%。売上基準やBE%基準のベーシックなところ、例えばBE%が何かとか、は規則案時にアップしたポスティングで結構触れているので、「米国税法改正(Tax Cuts and Jobs Act)「Unplugged」(6) – BEAT財務省規則案(2)」等を見て復習していただき、ここでは本題のグループ合算計算にフォーカスする。

以前からさんざん触れてる点だけど、売上基準とBE%基準の算定は「Aggregateグループ」という50%超の資本関係にある関連者を一人の納税者としてみなして行うこと、っていう合算要件がある。ここで重要なのは、BEATの計算そのものは各納税者、または連結納税グループはグループ単位で行う点。グループ合算計算は、あくまでも売上基準とBE%の計算法のみにかかわる要件で、すなわちBEAT適用法人になるかどうかだけは、Aggregateグループ単位で決めて下さい、というものだ。自社のBase Erosion Benefitや売上が少なくても、Aggregateグループ合算で基準値に達する場合には問答無用にBEAT適用法人となり、その上で、個社レベルでBEATミニマム税を計算することになる。この合算の計算は「一人の納税者」というフィクションの適用法とか、これだけでもとてつもなく複雑だけど、ここでは50%超のグループ法人のうち、米国法人とECI(条約国のケースはPE帰属所得)を持つ外国法人の数字を合算して売上基準やBE%基準を算定するとだけ覚えておいて欲しい。

2020年最終規則では、計算方法に関して困難が生じがちな特定の事実関係複数に関して、グループ合算計算時に適用するべきルールを規定してる。大別すると、グループ内のメンバー法人が異なる課税年度を持つ場合、短期課税年度が存在する場合、グループ内メンバー法人がグループに新規加入したり、グループから離脱する場合、支出(Base Erosion Payment)のタイミングと費用控除(Base Erosion Benefit)のタイミングに差異があり、費用控除時点で支出時点とは異なるグループに属してしまっている場合、にかかわる詳細なルールが規定されている。

ここまで書いたところで、今日のNYCは南カリフォルニア顔負けの気持ちのいいお天気なので、チョッと出かけることにします。次回はグループ合算計算の各論点を順番に紐解いていく予定。

Friday, September 4, 2020

BEAT 2020年最終規則

前回のポスティングではOECDピラー1・ブループリント・ドラフトの話しに一区切り付いたので、次のテーマはGILTIの高税率控除かな、ってところで終わっていた。ところが、その後も財務省のTCJA規則攻撃が絶え間なく続き、Section 163(j)の最終規則にかかわる早期適用ルールの明確化、そしてさらに2019年にBEAT規則が最終化された際に同時公表されていた規則案が最終化された。

Section 163(j)の最終規則早期適用の文言アップデートは、もともと7月に公表された際に規則の文言が分かり難くて、2021年以前の課税年度に認められる早期適用を選択する際、2018年以降全ての課税年度に早期適用が強制されるのか、単年毎に選択ができるのか、若干クリアでなかった点の確認。全課税年度に強制適用だとすると、2020年に最終規則の早期適用を選択する場合、2018年の申告書を修正申告しないといけいないの?っていうような訳の分からない話しになっていて物議を醸していたんだけど、結局、そんな必要はなく、各課税年度毎に早期適用できるっていう普通というか、めでたい結果となった。2021年からは強制適用だけど、これらは財務省規則の規定適用タイミングの話しで、言うまでもないけどsection 163(j)の法律そのものは2018年から適用で、その点は変わらない。

次にBEAT最終規則。BEATにかかわる財務省規則の沿革はチョッと込み入ってるんでここで簡単におさらいしておく。まず、2018年12月13日に規則案が公表され、これをたたき台に2019年12月6日に最終規則が公表されている。双方の内容は各々「BEAT財務省規則案」「BEAT財務省最終規則」シリーズで触れているので、詳細はそちらを参照して欲しい。

で、BEAT計算法とか大概の部分は2019年12月の最終規則でカバーされてるんだけど、実は最終規則と同時に新たな規則案が公表されていた。この2019年規則案は、もともと2018年12月の規則案では触れられていなかった新たな検討事項を新規提案する形で構成され、納税者からコメントを募ったりしてたんだけど、この度、この2019年規則案が最終化されている。2019年最終規則と区別するために、今回最終化された規則は2020年最終規則って呼ぶことにする。日本企業的に、BEATは気になるところだろうから、GILTI高税率除外規定の前にチラッと触れておく。

BEATの仕組みは今更繰り返すまでもないけど、米国外関連者への支払い(Base Erosion Payment)に基づく費用控除(Base Erosion Benefit)を否認して再計算する修正課税所得に10%(2026年からは12.5%)という、通常の法人税率21%より低い税率をかけて、そちらが高ければ超過額をBEATミニマム税として支払うというもの。AMTに似てるけど、BEATミニマム税は一旦支払うと将来にクレジットがあったり、還付されたりしない払いきりとなる点AMTとは異なるので要注意だ。

2020年最終規則は大別して、グループ合算計算、損金算入自己否認、パートナーシップを介したBase Erosion Paymentの考え方の確認、法人組織再編や適格出資等を通じて外国関連者から受け取る資産の償却費用をBase Erosion Benefitから除外する規定を利用して直前に対象資産の税務簿価をステップアップさせたりする乱用防止規定、で構成されている。損金算入自己否認に関しては、2019年に規則案として提案された際に「BEAT財務省2019年「新」規則案(損金算入自己否認)」で2回にわたり特集しているので、そちらをみて欲しい。損金算入自己否認は面白いコンセプトだけど大概において規則案から変更はないので、次回、グループ合算計算に関する規定にチラッと触れて、GILTIにMove onしたい。

Thursday, September 3, 2020

Newsweekにブログが載りました!

このブログではオタクな米国税務にフォーカスしてるんだけど、もう少し広範なアメリカ一般の話しに関してNewsweek日本版にオープンした「World Voice」に記事を載せて頂ける運びとなりました。興味があったらぜひ覗いてみて下さい。月に2~3回、70年代のロックミュージック考現学とかに脱線しないよう注意しながらアップしていきます。

リンクは「タックス・法律の視点から見る今のアメリカ」です。

こちらの「専門家のための・・」では今後もGILTIその他米国クロスボーダー課税をDeepに連載していきますので、こちらも引き続きよろしく。

Saturday, August 22, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (4)「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」(続)

前々回、Marketing and Distribution Profits Safe Harborに関して少し詳細に触れ、結果的に余り斬新なものではない、ってところまで来ていた。で、ブループリント・ドラフトにチラッと記載されている例示に触れよう、ということで終わっていたので、今回はその例示に関して。

Marketing and Distribution Profits Safe Harbor、二重課税防止、Amount Aの原資をどの主体や国から召し上げるか、という検討は、ALPベースで超過利益が複数の国にまたがって認識されてるケースに重要な検討となる。日本企業でよく見られるように、全ての超過利益を日本だけで認識し、他国にはCPMでルーティン利益を残しているだけであれば、Amount Aが発生した場合、他に相殺する相手はないことからデフォルトで全額、日本の所得と相殺するしかない。

問題は価値のあるIPの所有または使用が複数の国にまたがってるケース。そんな状況にMarketing and Distribution Profits Safe Harborをどのように適用するか、っていうのが今回のテーマとなる例示。

多国籍グループ「X」のAmount Aは1.5%、Amount B(またはBもどき)のルーティン販売活動からの固定リターンは2%とする。したがって、物理的存在がない市場国には1.5%の所得が配賦され、物理的な存在を伴う市場国には計3.5%の所得が配賦されることになる。

Xグループは、A国でグループのIP全てを開発・所有し、市場国にあたるB、C、D、E国に存在するフルリスク販売子会社にライセンスし、ALPでサポートされる独立企業間ロイヤルティーを受け取っている。フルリスクとかFull-Fledgedの販売会社って、本格的販売会社って訳されている例を見るけど、日本語としてピンと来ない、というか響きがぎこちないのでここでは仕方ないからフルリスクってしとく。意味は分かるね?

で、B~E国のフルリスク販売子会社は、各社独自のマーケットおよび他のIPも所有していて、A国からライセンスされるIPと双方を活用し、非関連の顧客に商品を販売し、各国で超過利益(または損失)を認識している。例示では便宜的にIP所有国Aにおいては非関連の顧客に対する販売は存在しないことになっていて、B、C、D、E各国の利益率は4.6%、 3.2%、マイナス1.0%、 17.8%としている。B~E国の利益にはAmount B(またはBもどき)が含まれていると想定され、Marketing and Distribution Profits Safe Harborの金額はAmount Aと合計で3.5%となる。BとE国の利益率は3.5%を上回っているので、Amount Aの配賦はない。既にAmount Aで配賦するべき恩典は物理的存在・ALPに基づき十分に認識されているということになる。D国はALPでは損失を計上しているので、3.5%のSafe Harborに当然至らず、またAmount B(またはBもどき)も認識していないので、1.5%のAmount Aがまるまる配賦される。例示には書いてないけど、この場合、Amount Bとして追加でプラスの固定リターンが認識されるんだろうか。C国においてはAmount B(またはBもどき)の固定リターンは既に認識され、また超過利益もAmount A全額には至らないが一部既に認識されている。したがって、不足分となる差額がAmount Aとして配賦される。

例示にすると算数的には簡単に聞こえるけど、実際には大変そうだよね。上の例だと、CとD両国にはALPでは認識されていないAmount Aが配賦されることになるけど、そのままでは単純にXグループとして追加の課税所得が認識され二重課税となる。したがって、CとD国に配賦されるAmount Aは、BやE国が認識する課税所得の一部から召し上げることになる。BやE国の課税所得からマイナスする方法、すなわち実質CとD国はBとE国の主体に課税しているような結果、も考えられるし、BやE国の法人税算定の際に外国税額控除を計上する方法もある。

他にもブループリント・ドラフトには、損失の繰り越し、Amount Aのスコープの話し、二重課税排除法、その他盛りだくさんだけど、キリがないので後は10月に最終版が出てからにするとして、いよいよ次のテーマに移りたい。FDII、163(j)、GILTI高税率除外、アップル・EUケースの超過利益、何がいいだろう。う~ん、迷うね。163(j)はやたら面倒な割に過度のレバレッジが余り見られない日本企業的にはそれほど大きな話題にならないので、脱落させるとして、やっぱりGILTIかもね。ピラー2にも通じるしね。

Monday, August 17, 2020

今度はピラー2ドラフト

ピラー1のブループリント・ドラフトの話しが活況を呈している (?)中、今度はピラー2、「Global Anti-Base-Erosion (GLOBE)」のデザインドラフトがワーキング・パーティー11の代表に共有されたようだ。ワーキング・パーティー11と言えば、アグレッシブなタックスプラニング対策を目的に組成された組織で、ハイブリッドミスマッチ、CFC等にかかわる勧告を策定しており、泣く子も黙るMI6のような (?)存在だ。007の話しで盛り上がりたい気持ちを抑えないと・・・。

2020年中のピラー1にかかわる合意が暗礁に乗り上げる中、OECDとしては是が非でもピラー2の合意には漕ぎつけたいところだろう。噂によるとGLOBEを構成する4つの提案に関して一定のデザイン的な進展は見ているものの、米国GILTIとの共存関係が整理できておらず、大きな検討事項として残っているそう。取り急ぎ。

Saturday, August 15, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (3)「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」

前回のポスティングではOECDがIF各国に共有したブループリント・ドラフトの中でも、Amount Aの配賦額をCapしているという「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」に関して触れ始めた。原文は英国のスペリングなので「Harbour」だけど、個人的に頭に入り難いし、スペルチェックに引っかかるのでここでは「Harbor」で統一しておく。前回はいつにも増して脱線が激しかったので今回は本題にフォーカスするよう自ら戒めて(?)臨む予定だけど、予定は未定(?)。

で、ブループリント・ドラフトに記載されているMarketing and Distribution Profits Safe Harborの説明、これだけだと、何が何をCapしているのか、っていう超ベーシックな部分が分かり難い。後で触れる3つのパターン分けでようやく理解できたけどね。米国財務省規則とかに見られる「Precise」な表現、定義、法文フローに慣れているだけに、ブループリント・ドラフトは比較的フワッとした表現となっていることが多く、一読してなるほどね、って理解できるよう法律っぽく書いて欲しいな、と勝手に思って読んでた。僕のヨーロッパ発の英文に対する理解力不足が問題の可能性大だけどね。もっとロンドンでSunday Roast食べて修行しないとダメかも。ということはWyomingじゃなくて地中海の島、Minorcaか、ってまた早速脱線(笑)。

で、早々に方向修正して、Marketing and Distribution Profits Safe Harborの説明を紐解いて行くとザっと次のような感じ。

ALPベースで超過利益が配賦されている市場国には、なぜその範囲でAmount Aの配賦が必要ないと考えられるか云々の背景説明、またALPベースの超過利益有無にかかわらず、まずは通常の規定通りAmount Aを市場国に配賦する手順を全て踏襲する、のは前回のポスティング後半で触れた通り。で、そこで満を持してMarketing and Distribution Profits Safe Harborが登場する。言うまでもないかもしれないけどAmount Aの話しだから、Amount Aのスコープ内の事業にかかわる議論だっていうことは常に頭の片隅に留めておいてね。スコープ内外の活動がある場合には、多国籍企業の超過利益もスコープ内に切り出して諸々の規定を適用することになる。

Marketing and Distribution Profits Safe Harborではまず、ピラー1とは関係なく従来のALPベースで市場国が認識する所得を認定し、これは「Existing Marketing and Distribution Profit」と位置付ける。まさに名は体をあらわしているね。上述の通り、Amount Aスコープ外部分、また製造その他、市場国としての利益とは関係ない部分はExisting Marketing and Distribution Profitから除外する。次に通常通り算定される「Amount A」と「ルーティン販売活動に対する固定リターン」の二つの金額を足して「Safe Harbor Return」を認定する。2つ目の「ルーティン販売活動に対する固定リターン」は市場国やセクターに基づく調整(Uplift)を加味してもいいとされている。う~ん、この2つ目の金額はAmount Bそのものに見えるけど、説明文ではAmount Bという用語は一切使用されていない。Amount Bにも市場国やセクターに基づく調整を容認するコメントがあるので、なぜ単純にAmount A+BをSafe Harbor Returnと定義していないのか不思議だけど、もしかしたらブループリント・ドラフトではAmount Bの適用対象をかなり限定しているので、厳格に定義されるAmount Bにはならないルーティン販売活動固定リターンを含むということ、っていう意味で敢えてAmount Bと言っていないのだろうか。Amount Bの存在意義は、いろいろと細かい差異に基づいてごちゃごちゃ言わずにリターンを世界中で決めて簡素化、係争回避しましょうという点にあったと思うんだけど、全然シンプルにならないね。

で、この後の解説コメントはそれだけ読んでも分かり難い。「Safe Harbor ReturnをCapとし、当該金額を参照してAmount Aの金額を潜在的に調整します」といきなり来るんだけど、Safe Harbor Return自体Amount A+B(またはBもどき)で構成されているので、この金額を基に場合によってはAmount Aを調整する、っていう説明がこれだけでは良く分からない。自分で自分を調整するの?って感じの説明でチョッとCircularっぽいんだけど、ただ、その後に続く説明で何となく言おうとするところが見えてくる。すなわち、Safe Harbor ReturnとExisting Marketing and Distribution Profitの比較の結果、想定されるシナリオは3通りとしている。

まず、Existing Marketing and Distribution ProfitがAmount B(またはBもどき)より低い場合には、Amount Aは全額そのまま配賦される。このパターンは、Existing Marketing and Distribution Profit、すなわちALPベースで認識される金額がAmount B(またはBもどき)にも満たないケースだから、ALPベースでは超過利益は一切配賦されていないと認定され、結果としてAmount Aが全額そのまま温存される。Amount Aの話しなので敢えて触れられてないけど、このケースではルーティン販売活動がAmount Bの適用対象となる場合には、ALPベースの固定リターンより大きなAmount Bが認識されることになるんだろう。

次に、Existing Marketing and Distribution Profitがルーティン販売活動に対する固定リターンは超えてるけど、Safe Harbor Returnよりは低いケース。このケースではALPベースで配賦される所得で少なくともAmount B(またはBもどき)はカバーしていて、さらに幾ばくかの超過利益も認識されていると考えられる。したがって、Amount Aから既に認識されている超過利益を引いて、差額が最終的なAmount A配賦額となる。

最後にExisting Marketing and Distribution ProfitがSafe Harbor Returnを超えている場合。その場合は、ALPベースで認識される所得が、Amount AとB(またはBもどき)を超えているので、当然ながらこれ以上のAmount A配賦は行われない。ここでは語られていないけど、このケースでAmount Aを上回るALPベースの超過利益を当市場国が課税し続けられるかどうかは、超過部分が他の市場国が認識するAmount Aの原資として召し上げられるかどうかに掛かっている。

Marketing and Distribution Profits Safe Harborとか大袈裟な名称だけど、こんな感じで結果そのものに余り斬新なものはない。Amount Aと従来からのALPの関係においてこれ以外の結果になったらビックリだよね。ブループリント・ドラフトにはMarketing and Distribution Profits Safe Harborの適用に関して簡単な、と言ってもいつかのUnified Frameworkよりは若干詳細な、例示が付いているので次回はそれを考えてみたい。

Friday, August 14, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成 (2)

前回のポスティングでOECDが227ページに上るブループリント・ドラフトをIF各国に共有した、っていうニュース、そしてAmount AとBは健在だけどAmount Cは撤廃された等、風の噂で聞こえてくる範囲でピラー1のデザイン構想に触れた。ピラー1は、米国がSafe Harbor化という難題を突き付けている上、交渉テーブルから一旦退いてしまっているので近々に合意される現実的な見込みはないこと、今後のIF各国のインプットに基づき10月のブループリント正式発表までに更なる改定が加えられること、さらに言えば今回のドラフト自体ページ数は多いけどコンセプト的なオプションを以前より詰めている点で進歩は見られるものの具体的な規則には程遠い内容であること、など諸々の理由で、現時点で余り深掘りしても無意味と考えられ、前回のポスティングでチラッと触れて、その後はFDIIやGILTI、またはAppleのEU・アイルランド判決における超過利益の考え方、とか山積みとなる「エキサイティング(?)」なトピックの数々にMove Onするつもりだった。本業の米国税法の新規則が1,000ページ以上出ているからね。

それにしても国際課税ルールを取り巻く規則の長編化は著しい。米国財務省規則に負けず、ピラー1ブループリント・ドラフトも227ページの大作。手元に原文が届くのがチョッと怖かったけど、前回のポスティング後間もなく全容が明らかになってしまい、怖いもの見たさでチラッと読んでしまった。結果、恐れていた通り、米国財務省規則と合わせて1,300ページ規模の読解プロジェクトとなってしまい、いよいよ冗談じゃなくInterstate 90でMontanaやSouth Dakota、またはそこから旧道に入ってWyomingで自主トレでも敢行しないと対応不能状態に陥っていると言える。Wyomingね。所得税はないしLLC法の元祖だし、税務面では魅力的な州。目を閉じてシミュレーションするだけで都会の喧騒を忘れさせてくれる。地平線まで続くInterstateに他の車が一台もいないような広大な空間、周りにはどこまでも続く平原、森、山、時々突出する湖、池、水たまり(?)、透明でどこまでも青い空が瞬く間に雷空に豹変したり。都市部とは異なるもうひとつのアメリカの魅力に触れながら財務省規則にフォーカスできたら理解力もアップ(?)で格別だろう。Local Sourceの放牧飼育、つまりグラスフェッド、のビーフやバターでクリーンエナジーゲットしながら。

旅の楽しみ方はいろいろとあるけど、実際にあちこち行く前に、どういうItineraryにしようかっていう構想をあれこれ練ったりしてる時期が実は楽しみのかなりの部分を占める。西海岸のMDRを起点とすると、どっちにしてもまずはBarstowまで行くとして、そこから40で南西に下がった後Flagstaffから旧道で一気に北に行くか、または順当にそのまま15でLas Vegas、Salt Lake City経由で一気にIdahoまで行くか、悩むところ。どっちも絶景ルートで甲乙つけ難い。何回か往復することにして、両方のルートを交互に使えば済む話しだけど。夏のグランドキャニオンエリアは暑い、というかもはや熱いという表現の方が適切なので、初秋になるまでは15のルートがベターかもね。秋になったらFlagstaff近辺でプラス寄り道してもいいし。みんなも良く知ってるSedonaとかもあるしね。FDRとか405とかと違って、あの辺のInterstateは制限速度が80マイルのセグメントも多いけど、90マイルで走ってても止まってるみたいな錯覚に陥る環境で、ましてや80マイルなんかだとバックしてるくらいにしか感じられないから(大袈裟?)、オートパイロットでスピード調整して余り超過しないように注意しないとね。

一方、NYCを起点に攻めるんだったら、肝心なところに五大湖があるから最初は取り合えず西に向かってシカゴ辺りを目指すことになるけど、そこから北西に向かいWisconsin経由というのが最初のオプション。La Crosseでミシシッピ川を超えるあたりから俄然雰囲気出まくるしね。街道沿いのBBQ屋で大盛リブ食べたり。あの辺りを通過する際に立ち寄るBBQ屋開いてるのかな、ってチェックしたらCurbside PickupだけでなくDine-InもOKってことなんで、今からどのプラターにしようか悩むところ。もうひとつのルートはシカゴの南、インディアナ付近を突き抜けてそのまま西に向かい、限りない平原を通過してWarren Buffetの本拠地Omahaまで一気に行って、そこから北上してSioux Falls(スーフォールスって読みます)で90合流。これもいいルートだね。Omahaに着く前にNorth Platteの草原とかで地産のピーチかじって一休してもいいし。なんか、余りに良すぎて財務省規則読む時間反って減っちゃうかもね。

で、ピラー1のブループリント・ドラフトだけど、OECDの英語ってヨーロッパの英語なので響きは美しいけど、ところどころ読みづらい。Amount Aの「Quantum」とか言っちゃてるけど、要はAmountのことなんだよね?米語では普通、税法の世界でQuantumって単語をこんな風に使うことはないので読むたびに奇異というか、異国情緒を感じる。Quantumなんて言われると、個人的には「007」を思い出してしまいチョッと大袈裟に感じる。Daniel CraigバーションのCasino Royaleのエンディングシーンからピックアップして始まる「Quantum of Solace」に出てくる謎のOrganizationだね。何かと世知辛い今日この頃、Quantum of Solaceっていう言葉には考えさせられる。ピラー1の政治的合意もまさしくこのQuantumがどれだけ多くの国に存在するか、っていう点にかかってるかもね。

Casino RoyaleのエンディングはMr. WhiteのゴージャスなLake Como湖畔の隠れ家だけど、Quantum of SolaceはそのLake ComoからSienaに向かう湖畔のハイウェイをボンドがAston Martin(DBS V12!)でAlfa Romeo(BMWだっけ?)の追跡を振り切る格好いいけど絶対に実世界では真似してはいけません、みたいなシーンで始まる。最近、アメリカの奥地に魅せられてる点は上述の通りだけど、考えてみたらヨーロッパの湖畔、中世の街、地中海の島とかもかなり魅力的。そのうち時間が出来たらバルセロナ沖の島のひとつ、Minorca島とかに籠って財務省規則読もうかな。Ibiza島なんかより落ち着いてるし、MinorcaだってCiutadellaに行けばMaoと並んで立派な中世の街。バルセロナのゴシックQuarterには規模で負けるけど、それでも中世の雰囲気に囲まれて潮風を肌で感じながら美味しい「ロブスターライス」とか食べられたりしたら最高。ロブスターライスってパエリャの一種みたいなスペイン料理なんでサングリアとかと食するのがいいんだろうけど、下戸の僕がそんなことしたらますます規則読解が捗らない。地中海のあの辺は島とは言え、Vuelingとかのバジットフライトでロンドンも直ぐだし日曜日はローストビーフとヨークシャープディング食べにロンドンに行ったりできるはず。Pudding、アメリカで言うところのデザート、はApple Crumbleにカスタードかけて・・・。Wyomingの湖畔とどっちが捗るだろうか。と、夢は際限なく広がっていくけど、Blondie言う通り「Dreaming is free」だから、Steven Tylorに学んで「Dream On」しないとね。

チョッと脱線が激しいので、話しを基に戻してピラー1のブループリント・ドラフト。前回のポスティングでAmount AとCの重複を嫌い、Amount Cを撤廃する代わりにAmount AにCapが云々、という部分に触れた。詳しくは原文見ないとね、って書いたけど、原文見てしまったのでアップデートしておく。

ブループリント・ドラフトで言うところの「Marketing and Distribution Profits Safe Harbor」っていうややこしい用語の部分だけど、Amount Aを各市場国に配賦する際、ALPベースで既に超過利益を認識している国に関しては、その額に関して追加のAmount Aは配賦しないということにようだ。Amount AはALPベースの超過利益を上限Capとするという書き方をしている部分もあるけど、ALPベースで所得が認識されている部分は重複してAmount Aは配賦しない、と言うことだろう。新たな課税権やAmount Aを分け与えるまでもなく、既に超過利益が認識されてるんだから、その分はそれでいいじゃん、みたいな案のようだ。どっちか多い方を課税できるんだったら、名称の「Cap」っていう表現がピンと来ないのと、選択制ではないのでSafe Harborっていう命名も不思議。ブループリント・ドラフトでも「いわゆるSafe Harborではないんですが・・・」っていう弁解っぽい下りがある。もしかして、これをもって米国に「ピラー1にはSafe Harborも導入しましたよ~」って言ってSafe Harbor問題に対応するつもりなのかな。まさか、そんな手が通じる訳ないけど、Safe HarborじゃないのにSafe Harborって名付けてる点、意味深だ。

で、Marketing and Distribution Profits Safe Harborで「Cap」を適用する際に参照することとなるALPベースの超過利益っていうのは、市場国に市場国として落とすべきAmount Aとの比較検討の話しだから、超過利益のうちマーケット無形資産に帰する額、すなわち同じ超過利益でもR&Dや製造ノウハウとかに帰する額は相殺対象とならないはず?この辺りの深掘りはコロナ前夜の「OECDピラー1のAmount A、B、CとALP」シリーズで特集しかかっていたので興味があったらぜひ読んでみて欲しい。

ブループリント・ドラフトではMarketing and Distribution Profits Safe Harborを、特定の市場国に既存ALPで認定される課税所得とAmount Aとして新規に配賦される課税所得の重複・二重課税を防ぐ、っていうフレームワークで論じてるけど、これはすなわちAmount Aという架空の課税所得を振り分ける際、Amount Aの原資はどこの国・主体にあると認定するのかっていう、以前のポスティングで再三触れている「どこの国・主体から召し上げるか」っていう検討と表裏一体だ。機能・リスク等に基づき事業主体毎に適正水準の課税所得を算定するALPと、グローバル連結財務諸表でグループ税引前利益を公式で割り振るAmount Aを無理やり共存させるデザイン下では必然的に生じるプレッシャーポイント。したがって2019年5月のProgramme of Work当初から最重要検討課題として認識され続けている。

実は2019年10月のUnified Frameworkには、この点に係わる例示が載ってて、とても興味深かったけど、その際もAmount AはALPで認識される超過利益と相殺している。この例示は説明に便利な想定に基づいていて、County 1にある親会社P社が全ての無形資産を所有し、Country 2の子会社Q者はベースライン販売活動のみに従事、Country 3は市場国だが何の物理的プレゼンスもない、という非現実的にシンプルな設定下のものだった。なんで実務的には余り参考にならないんだけど、ただ最初からAmount AはALPベースの超過利益と相殺せざるを得ないというデザイン上の限界と言うか、前提を垣間見ることができて面白い例示だ。複数の国でALP下の超過利益が認識されている際に、どのようにAmount A総額を各国に負担させるか、とか例示と異なる現実的なセッティングで実際にこのコンセプトをどのように適用するか、っていう点はピラー1の大きな検討事項だったけど、その解決の一部をMarketing and Distribution Profits Safe Harborっていう形で規定したことになる。

具体的なメカニズムだけど、従来から論じられているAmount Aを市場国に配賦する手順を全て踏襲した上で、追加ステップとしてMarketing and Distribution Profits Safe Harborの適用が登場する。Amount Aを通じた超過利益の市場国への配賦は、ALPやPE課税と言った従来の国際課税フレームワークで「おこぼれ」にあずかることができていない国に恩典を与えることが主目的なので、既にマーケット無形資産に基づく超過利益が認識されている市場国にはその金額に関して敢えてAmount Aを振り分ける必要はないとバッサリ断じている。でも、この点は必ずしもそれが唯一の解釈ではなく、異論もあり得るんじゃないかな。既存ALPで認識される超過利益はあくまでもその国に属する主体にかかわる機能・リスクに基づく取引ベースの利益であって、それ以上のユーザーを活用していることにかかわる今までは必ずしも認識されていなかった超過利益と重複しているとは限らない。ALPベースの機能・リスクがあるからと言って、その分がすなわちユーザー活用に基づくピュアな市場国としての超過利益と相殺され、その分のおこぼれがなくなってしまうというのは決め事としてはあり得るオプションだとしても、経済的に本当にそうなのかどうかは個々のケースで異なり、概念的にそこまで言い切れないんじゃないだろうか。この辺りは移転価格の専門チームや経済学の専門家のインプットをもらって行きたい。

Dreaming is freeなのをいいことにWyomingだの地中海の島だのと、期せずして長くなってしまったので、ここからは次回。

Wednesday, August 5, 2020

ピラー1「ブループリント」ドラフト完成

前回、「ピラー1ついに終焉 (2)」で、米国が引導を渡したかに見え、風前の灯火のようなピラー1に関して、OECDはメゲることなくブループリントで技術的な設計を継続している点に触れた。そうこうしている間に、米国では財務省が一時のCARES Actの呪縛から解放され、TCJAガイダンス攻勢モード。ここ数週間でナンと、FDII控除を中心としたSection 250(295ページ)、GILTIのHigh-Tax Exclusion(112ページ)、Section 163(j)(575ページ)、そしてCarried Interest(162ページ)、と大物規則を乱発し、1,000ページ超の読み物にふける日々となり、そろそろ本業の米国税務絡みの詳細をポスティングしなければ、とプレッシャーを勝手に(笑)感じていた。

そんな矢先、OECDが数日前に227ページに上るブループリント・ドラフトをIF各国に共有したらしいというニュースがプレスで報じられている。ブループリントは基本的にはUnified Frameworkに準じる設計を踏襲しているものの、いくつか大きな変更がなされたようだ。227ページね。未だ手元に原文ないんで、読みたくても読めないけど、間違って入手できちゃったりしたら米国財務省規則と合わせて1,300ページ規模の読み物。しかもその辺の小説と違ってよ~く読まないと理解できないテクニカル文書なので、読解所要時間は果てしない。テレワークも5カ月近くなり、プロフェッショナル業界の集まりとかもオンラインだし、NYCとかに居ても特に意味ないので、一層のこと自然あふれるWyomingやMontana、またはSouth Dakota方面のBlack Hills辺りに籠って合宿しようかな~。Location Freeなので車であちこち行ってみるけど、あの辺りは絶景でベスト。

Tristate外のFitness Centerはとっくに開いてて、無理してNYCでEast River沿いの凸凹道とかで足をくじかないように注意して走る必要もないし。せっかく一度は開いたMDRのFitness CenterもCA州知事の命令でまたしてもClose。おかげで隠れ家のコンドのジムも外の芝生でWeightができるだけでトレッドミルとかはまたしても禁止。まあMDRは気候がいいので外のBike Pathを走ればいいんだけど。それでもジムが開いている方がベター。夜のバーとかに制限を設けるのはなんとなく分かるけど、みんながより健康に注意して抵抗力をアップさせないといけない今日この頃、人数制限してでもジムは開けてほしいところ。

となると、やっぱり合宿はWyoming、Montana、South Dakota辺りかな。90とか東海岸からでも、西海岸からでも、Interstate飛ばして行くのは道中も最高だし、敢えてたまに旧道通ってみたりするのも乙なもの。旧道ってInterstateと企画こそ異なりSurface Roadだけど、とは言え信号もめったにないし車も少ないのでスピードはInterstateと変わらない。むしろ東海道五十三次じゃないけど、要所要所に登場する宿場街みたいな数々の小さいな街とか雰囲気抜群。ルート66が有名だけど、旧道Highway 89でFlagstaff辺りから北上してYellowstoneの北ゲートから一気にLivingstonまで行き、その辺りでひっそりと財務省規則読んだら捗るかな。雪が降り始めるまでは冗談じゃなくいいかもね。

で、ピラー1のブループリントだけど、物理的な存在なしに課税権を認める大枠は従来通り。超過利益の上澄みをAmount Aとして配賦し、ALPもどきでベースラインの販売機能にAmount Bで一定の所得を認定するのはUnified Framework通りらしいけど、なんと、Amount Cは撤廃される提案という噂。Amount AとCの重複を嫌っての策らしいけど、ピラー1はALPと共存だったはず。Amount Cは従来のALPベースで計算されるほぼ唯一の重要部分だったので、これを廃止してしまってはALPから更に遠のく。ALPからの乖離を嫌ってピラー1をSafe Harborにしようと提案していた米国がどのように反応するだろうか。Amount AにCapを設けて対応するとか言われているけどね。詳細は原文見てみるまで不明。CPM的な販売会社への一方的な所得創出はコロナ禍でシステムロスに陥るグループが多く存在する環境でその限界が露呈されているだけに、Amount Bをそのまま温存しているのもチョッと意外。

デジタルサービスのほとんどがスコープ内なのは、ピラー1の目的を考えれば当然だけど、テイラーメードの専門サービス等、特定のものは除外。問題のConsumer-Facingに関してはB to Bはスコープ外で、B to Cのみが対象となるような感じ。デジタルサービスに網を掛ければ十分なので、こちらは結局はオマケみたいなものだろうか。デジタルサービスと異なり、売上があるばかりでなく追加のプレゼンスがある場合に課税権を認めるそうだ。

後はコンプライアンスだけど、親会社所在国にAmount Aを報告する申告書を提出し、それを関係諸国に共有するとか、係争処理のために8か国のパネルを設置するとか。う~ん、結構先は長そうだ。当面は米国のGILTIとか読んでる方が実益ありそうだね。

Sunday, July 26, 2020

BEPS 2.0ピラー1の終焉 (2)

前回、「BEPS 2.0ピラー1の終焉」というタイトルで米国がピラー1策定交渉テーブルへの参加打ち切りを表明した点に触れた。ポスティングはライトハイザー代表の下院歳入委員会での発言に基づいてのものだったんだけど、その後、Mnuchin財務省官がフランス、イタリア、スペイン、英国の各財務省に送付した書簡のコピーが公表されている。書簡では、デジタル課税のグローバルコンセンサス作りは行き詰っている(Impasse)とし、一方でDSTを発動するようなことがあれば報復措置を取るとしている。ライトハザーの表現とは若干温度差があるように見え、Mnuchinの書簡ではピラー1の交渉は一旦中断(Pause)しよう、というものだ。

Mnuchinの書簡に対し、フランス、イタリア、スペイン、英国の財務長官たちが、米国の交渉中断宣言は「Collective Failure(集団的な失敗)」と共同声明を発表し、DSTで米国ともめているフランスの反応は特に激しく、米国の行動は「挑発的」としている。

ピラー1の先行きが怪しいことに変わりはなく、となると、当然DST導入論が加速する訳だけど、そんな動きには、米通商代表部(USTR)が、DSTを採択したり採択を検討している10か国(EU含む)に対して、大統領権限で通商法301条に基づく制裁措置を発動するべきか否かの検討に着手する旨を公表している。通商301条っていうのは、貿易相手国の不公正な取引慣行に対して、協議で問題が解決しない場合に制裁措置を発動することを定めた条項で、近年では米中貿易戦争の一環でトランプ政権が中国に対して使っている。1980年代後半は301条を更に強力にしたスーパー301条っていうのがあり、衛星、スーパーコンピュータ分野で日本を苦しめたものだ。そんな時代が懐かしいね。

USTRは、今回、オーストリア、ブラジル、チェコ、EU、インド、インドネシア、イタリア、スペイン、トルコ、英国のDSTを問題視していて、これらのDSTは治外法権、グロス課税、商業的に成功している米国ハイテク企業を狙い撃ちする懲罰的な課税、という点で国際課税の通念から逸脱していると言え、更なる調査の上、不公正かつ差別的と判断される場合には適切な対抗策を検討するとしている。制裁措置の発動に至る場合には他国の報復措置という連鎖リスクも想定される。米国がDSTに通商条項で対抗するのは筋違いに映るかもしれないけど、グロス所得ベースのDSTは法人税より関税やVATに近いので、その意味では実は的を得ている、というか、目には目を的な整合性はあると言える。米国はVATが存在しないので、他国のVATやDSTは特に差別的に映るのかも。

通商対DSTの戦いで既に一歩先んじて揉めているフランスに関しては、USTRは7月10日に180日の執行猶予を経て、2021年1月6日から25%の報復関税を課す決定を最終化したとしている。

米国に引導を渡されかけているとは言え、OECDもここで萎えてしまってはこれまでの努力が水の泡ということで、ピラー1のテクニカルデザインは継続中。10月にはブループリントを公表予定だそうだ。米国によるピラー1検討見送り、参加国の意見の違い、など山積みのポリティカル面での障害などで最終的に使う当てがあるのかどうか分からない悲劇のデザインとなり兼ねないけど、メゲることなく驀進している様子を力強く演出している感じでチョッと気の毒。ブループリントはUnified Approachのデザインが基本となるそうだ。ピラー1のデザイン面は大いに興味があったので、2020年はもとより2021年にもピラー1に関して各国間で合意を見る可能性は低いように思うけど、10月のブループリントは学術的には興味深い。Amount A、B、Cの関係に関しては、コロナとかでバタバタし始める前の平和な時期に「OECDピラー1のAmount A、B、CとALP」というシリーズで若干突っ込んでポスティングをしていたので、興味ある方はぜひ覗いてみて欲しい。

Unified Approach策定当時とは全く異なる世の中となった今、変化に対応した内容になるのだろうか。例えば、Unified Approachに規定されるAmount Bにマイナスと言う概念はないだろうけど、コロナ禍でMNCグループの多くがシステムロスに陥る中、Amount Bで常に販売機能にプラスの所得を認定し続けるデザインを維持することになるだろうか。Amount Bは少額のプラスを維持しながら、Amount Cでマイナス計上してAmount Bを打ち消すような処理を認めるのだろうか。その場合、Amount Cは係争を回避するメカニズムが組み込まれる前提だけど、そんなメカニズムが全世界に急に行きわたることはないので、その間どうするのか。またはAmount Bの対象となる機能やリスクを限りなく限定的なものにして実務的に存在しないような状況に持ち込み解決を試みるのだろうか。

何といっても一番注目するべきポイントはAmount AというALPでは存在しない所得をどこの国や主体から召し上げることするのか、Amount Cとの関係をどのように整理するのか、どうやって理論付けるか、という点。

Amount AにしてもDSTにしても、話しの根本は米国ハイテク企業が各国の税務当局の目から見て「Fair Share」の税金を自国に支払っていないという主張。つまり、自国で事業を行いたいのであれば何か支払うことっていう的屋のショバ代のようなもので、元来、それほど高尚な話しではない。

で、ここでいう「Fair Share」だけど、フォーカスは、米国ハイテク企業自身がグローバルベースでFair Shareの税金を支払っているかという点では必ずしもなく、他国に支払っている税金はある意味どうでもよくて、各国自国にFair Shareの税金を支払っているか、という点にあると言える。この点はまさしくピラー1のフォーカスで、分かり易いNarrativeだ。ピラー2はむしろ前者の企業自身がグローバルベースで最低限の税金を支払っているかっていう点がフォーカスで、各国からしてみると自分の国がFair Shareを取れているかのピラー1の方が死活問題となるはず。米国法人税法が改正されてGILTIが導入されたり、今後もいろんな改正があるだろうけど、その結果、米国ハイテク企業が米国でより多くの法人税を支払うことになったとしても、「Fairになってよかったね」って他国がハッピーになることはなく、各国が米国ハイテク企業が認識する超過利益の「Fair Shareのおこぼれ」にあずかれない限り、DSTやAmount Aの議論が後を絶たないことになる。

Fair Shareね…。何事においてもFairであることが重要な点にどの国も企業も異論はないんだろうけど、肝心の何がFairかという尺度が千差万別なので、誰の議論に非があるという話しではなく、「Fair Share」という概念を基に国際課税の新デザインを検討するのは不可能に近い。最近の社会トレンドとして、自分の意見と相いれない意見は「Unfair」と決めつけるように感じられるけど、何がFairかという点に関する各自の感覚が異なると、結局どんな案も誰かの目から見ると善意にUnfairということになってしまう。

しかも、各企業のIPやビジネスモデルに基づき認識される超過利益が各々どのように創出されているのか、超過利益に占めるユーザーの価値は何なのか、等は実際のところ不明で、なんだかんだそれらしい正当性を作り出しながらFairness議論をしているので、ますます正しい答えはなく、最終的には政治的に大多数の賛同を得られるデザインで妥協せざるを得ない。多数の賛同を得ること自体、各国の独自の視点から何がFairかという主観に基づくけどね。米国ハイテク企業の超過利益の課税と直接関係がないように見えるピラー2を本命ピラー1と並行して提案しているのは、Fair Shareの考え方に統一見解がない中で、何とか多数の賛同を得るための苦肉の策。

米国はピラー1には意欲的でない一方、ピラー2はやりたいのならどうぞ、的な反応だけど、中国はピラー2を快く思っていないように思われる。今後、世界各地で事業展開を目論む際、各国から税減免の恩典を受ける機会が多いと考えてのことかもしれない。ピラー2が合意されると、投資誘致目的で税を減免する策が意味をなさなくなるからだ。う~ん、世の中はなかなか複雑。こんな複雑な検討を、非現実的な日程で無理やり合意に持ち込んでも、長期的にSustainableなコンセンサスには至らないリスクが高い。

なんかBESP 2.0の話しは収拾がつかなくなってきたけど、そうこうしてる間にコロナ禍のような緊急時だけ超過利益を世界中で分け合うようなピラー3が先に合意されたりしてね。その先の法人税撤廃のピラー4もあり得たりして。今思うと米国の2017年税制改正の大本、と言っても原形は留めてないに等しいけど、に当たる米国下院歳入委員会のブループリントに規定されるDBCFTは元祖ピラー4だったかもね。ピラー3と4に関しては時間があれば簡単に別のポスティングで触れてみたい。また、超過利益と言えば、Apple・アイルランド対EUのState Aidの戦いは、Apple・アイルランドに軍配が上がったけど、超過利益の考え方には参考になる点が多いので、こっちも時間があれば触れてみたい。

とは言え、そろそろFDII・GILTI控除にかかわる最終規則や、GILTI高税率免除にかかわる本業(?)の話しにも戻らないといけないし、触れたいことだらけ。米国税務や国際税務の世界って暇になることがない。

Friday, June 19, 2020

BEPS 2.0ピラー1の終焉

Safe Harbor提案の辺りから暗雲が立ち込めていたピラー1に米国が引導を渡した。

6月17日にUSTR(米通商代表部)はピラー1策定の交渉テーブルへの参加打ち切りを正式に表明した。交渉が行き詰まり、また想定外の新型コロナウイルス対策に各国財務省が追われる中、これ以上のデジタル課税のグローバルコンセンサス検討は現時点で不要不急と断じた。もともとどちらかと言うとタカ派のUSTRのライトハイザー代表の下院歳入委員会での発言だ。

6月に入り、ピラー1、およびピラー1で解決しようとしていたDSTを取り巻く環境は一気にあわただしくなっていた。6月2日にはOECDのFiscal Affairsの議長を務めるMartin Kreienbaumドイツ財務長官がBEPS 2.0の交渉はコロナ環境下でもオンタイムで進んでいる点を強調し、7月から10月に延期されたとは言え、ベルリン会議で野心的に広範なピラー1も含め、130か国のコンセンサスを取り付けると自信の程をのぞかせていた。同日、米国ではUSTRがDSTを導入したり、検討している10か国(EU含む)に通商法301条に基づく制裁措置発動の検討している旨を発表。絶妙のタイミングだ。

6月12日にはMnuchin米国財務長官が、フランス、イタリア、スペイン、英国の各財務省にピラー1の交渉は行き詰っているとコンセンサス作りに悲観的な見方を伝え、かと言って独自のDSTを導入しようものなら、報復措置を取ると通告している。

書簡を受け取った4か国が共同返信を検討していた矢先の17日にピラー1からの離脱をUSTRが確認した流れとなる。新型コロナウイルスの影響で、デジタル企業以外の多くの「Consumer Facing」企業が業績不振に見舞われる一方、大手デジタル企業はテレワーク等の影響で一般的に逆に好調なケースが目立つ。コロナ対策で歳出が増加する一方、景気低迷で税収減は必至。米国のデジタル企業の超過利益に課税しよう、という動機は以前にも増して高まり続けている。デジタル企業への課税はイコール米国ハイテク企業への課税となることから、米国としてはそんな動きに嫌気がさしていても不思議はない。

米国は新型コロナウイルス対策で各国忙しいのだからピラー1などに時間を費やしている場合ではないと主張する一方、欧州等は新型コロナウイルスでデジタル企業の優位性が更に高まっている今こそ、ピラー1の完成を急ぐべき、と同じ新型コロナウイルスを理由としているにもかかわらず、180度異なる結論に至っている。

Amount Aという名目で、各国が超過利益をPEの存在なく課税所得として吸い上げる相手は大概において米国ハイテク企業。そんな想定のピラー1に米国が参加しないのでは、ピラー1は終焉したに等しいけど、翌日、アンヘル・グリア OECD事務総長は「継続してフォーカスを失わないように」的なコメントをして今後のウルトラCに僅かな期待を残しているともとれる状況。また、フランス、イタリア、スペイン、英国の財務長官たちは共同声明を出し、米国のピラー1からの離脱は「Collective Failure」であり、欧州に対する「挑発的」な行動だと非難している。

ピラー1と米国は最初からこうなる運命だったと言ってもいい。先は見えてたよね。Consumer FacingだのとSugarcoatはしてたけど、ピラー1は敢えて言ってしまえば、米国の大手デジタル企業の超過利益に多くの国が課税したいがため、そのためのルール作りだから、米国が良く思うはずはない。しかもこの超過利益は本国である米国で課税できていないケースがほとんどだから、他の国に課税されるのはなんだかな~、という認識もあっただろう。米国でIFRS導入論が存在した際、ロードマップとか言って同調するフリをして最後に撤退したのと似てる。今回もSafe Harborとか難題を突き付けて、どこで梯子を外すのかな、と興味深く見てたけど、新型コロナウイルスの混乱を一つの理由にこんな形で実行するんだね。OECDってその昔はOEECという第二次世界大戦後の欧州振興のための存在。税務面でグローバルリーダーシップを発揮できていない国連に代わり、いつの間にか税務のグローバルスタンダード策定機関となり、Inclusive Frameworkをもって、本来、発展途上国の代弁者であるべき国連に完全に取って代わってしまった。米国からしてみると、欧州の回し者というか、代弁者的な存在という懐疑心は払拭できていないだろう。

そんな米国も、例によって、同じBEPS 2.0でもピラー2には寛容で、以前のMnuchin財務長官がOECDに宛てた公開書簡でもサラッと「ピラー2はご自由に」という感じで記載されていた通り、今回もそのスタンスは変わらず、ピラー2には反対しないそうだ。既にGILTIとBEATがあるからかもね。前から言ってる通り、GILTIとピラー2は全く異質だけどね。GILTIはFDIIと対で考えないといけない制度で、その意味でもグローバル通算が基本。もしピラー2が国別とか地域別のブレンディングになっても、FDIIとの対だったり、GILTI控除とかFTCのことを考えるとGILTIがそうなるとはチョッと想像し難い。ただ、GILTIにもHigh Tax Exceptionが18.9%で適用できる規則草案があり、ちょうど今週、最終規則がOIRAの審議を通ったという話しもあり、その観点からは国別の税率は把握して、国毎の実効税率プラニングは重要になる。

ピラー1の設計はテクニカル面で大いに興味があったので、最終回を見る前に途中で終わってしまったドラマのようで、チョッと残念。でもまた手を変え品を変え別者が登場するだろう。

Friday, May 29, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (13) AMT NOLは強制的に「ゼロ」化

NOL Carrybackやその手続き、Carrybackでトリガーされる多くの追加検討事項に関してはCARES Act可決以降、何回かに分けて触れてきた。興味ある方はぜひ過去のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 」(2)(4)(5)(6)(8)(9)を読んでみて欲しい。そこで何回も触れている通り、複雑な検討の多くは5年間のCarryback期間にTCJA前後の課税年度双方が含まれることに起因するケースが多い。

そんな複雑な取り扱いの一つにAMTがある。TCJAで、AMTの法人に対する適用は2018年以降撤廃されている一方、Carrybackする先の課税年度が2017年以前の場合、それらの過年度には法人にも未だAMTが適用される。NOLをCarrybackするってことは通常の課税所得を減額するってことだから、その当然の結果として、AMTに抵触したり、元々使用していたAMTクレジットが使えなくなるケースが続出することになる。AMTの算定時にもNOLの使用は認められるけど、計算は複雑で、NOL発生年度の数字を基に「AMTベースのNOL額」に計算し直さないといけないし、Carrybackする先の課税年度のAMT計算時には、NOLの使用可能額はAMT算定の基となる暫定AMT課税所得の90%が上限となる。う~ん、相変わらず面倒。しかも、複雑な計算をしてAMTが発生したり、過去に使用していたAMTクレジットが使えなくなったりする結果、それらがドミノ式にCarryback期間内の後年に繰り越され、使用し切れないクレジットは、CARES Actで加速還付が可能という最終的にはゼロサムゲームとなる。超面倒でなんかまどろこしい。

で、法的には、すなわちInternal Revenue Code的には、面倒だけどこれらのステップを踏まざるを得ない、っていう点は比較的明確で、テクニカルには余り異論の余地はない。2018年以降、AMTっていう制度自体が法人に不適用になっているとは言え、2017年以前にNOLをCarrybackして、過年度のAMTを算定し直す際には、その目的で使用するNOLは、通常のNOLではなく、AMTのルールを適用して算定するAMT NOLでなくてはいけない。Secton 56だね。でも、AMTのルール自体、2018年以降、法人には存在しないんだから、調整額はないのでは、って思うかもしれないし、それも一つの見識ではあると思うけど、たぶん厳密にはそうではない。というのは法人にAMTは課されないけど、AMT算定時に加減算が求められる「調整額」はそのまま法的に2018年以降も存在している。唯一例外はACE調整で、これは撤廃されている。結果として、通常のNOLにACEを除く調整を加えて、AMT NOLの金額を算出し、それをCarrybackして、Carryback期間の古い課税年度から順々にAMTを計算、後年にクレジット、そしてクレジットし切れなければ、2018年と2019年に開始する課税年度で還付、さらに選択をすれば2018年に開始する課税年度に全額還付となる。

っていうのが法律なんだけど、昨日(2020年5月28日)、CARES Act下で禁じ手乱発的になりつつあるIRSのFAQがまた公表され、簡易措置が規定された。IRSが公表した当FAQによると2020年6月1日以降にファックス(覚えてる?デジタル送信!)するForm 1139では、AMT NOLはナンと「ゼロ」と取り扱う、って言い切っている。え~、そんな法律どこにあるの、って感じではあるけど、まあ便利だから文句言う納税者はいないよね。

FAQに基づく構想は、2018年以降の課税年度にはAMT NOLはない、という大胆なもの。法人納税者にしてみると、2018年以降のNOL発生年度に関して、適用のないAMTを想定算定してCarrybackしたり、Carryback対象年度に90%制限を加えて2017年以前のAMTを計算したりする手間が省けるので、ゼロサムゲームってことを考えると、単純に作業が若干簡素化され、ありがたい助け舟なのは確か。AMT NOLをゼロってみなすことから、より多くのケースでCarrybackする先の課税年度でAMTが発生することになり、それらは結局はAMTクレジットとして還付される。FAQって法的効果がない点が気になるけどね。

で、FAQでは、ついでにゼロサムゲームを一枚のForm 1139で完結できるよう、Carrybackを理由にAMTが増えたり、過去に使用していたAMTクレジットが使えなくなって後年に繰り越されたりする処理も同じForm 1139内で処理できる点を再確認している。さらに、クレジットを使えきれなくて、CARES Actで規定される「2018年に開始する課税年度で全額残りを還付申請」する選択を行う際も同じForm 1139上で処理するできる、って規定してくれている。Form 1139に記載するべき選択にかかわる文言も公表してくれている。ただし、同じForm 1139上でクレジットを処理できるのは、クレジットをCarryback期間内に使用する、または2018年に開始する課税年度で残高全額を還付請求するケースのみ、とも言っている。まあ、敢えて選択しない理由も余り見当たらないので、多くの法人納税者がこの処理をすることになるんだろう。超法規的措置って言うと大げさだけど、IRSもなかなかやるよね。

Saturday, May 16, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (12) 「QIP Glitch」(適格内装資産とボーナス償却(2))

チョッと間が開いてしまったけど、前回のポスティングでは、CARES Actに盛り込まれたTCJAのTechnical Correctionのうち、適格内装資産の償却法に関して話し始めた。結果として2018年1月1日以降に事業用途に供された適格内装資産は過去遡及する形で償却方法が変わってしまったことになるけど、そんな調整をどうやってすんの?っていうのが今回のメインテーマ。

過去遡及して償却法を変更する面倒な手続きの話しに行く前に、一点超細かい点だけど、サワリだけ触れておきたい点がある。2018年1月1日以降に事業用途に供される内装でも、2017年9月27日以前に取得されているものは、TCJA以前のボーナス償却規定が適用になるので要注意という点。また2017年9月28日以降に取得され、2017年12月31日までに事業用途に供された内装は、特別に独自のクラスを構成している点も注意。通常、償却の話しは事業用途に供された日が気になるけど、取得日も重要なことがあるんで気を抜かないように。この組み合わせの話しは面倒な割に多分適用件数は低いと思われるので、こんなパターンで取得や事業用途に供されている内装があったら専門家に相談するようにね。

Section 163(j)もそうだけど、適格内装資産にかかわる過去遡及手続きを複雑にしているのが、適格内装資産を含む税務上の償却を取り巻く複数の選択。まず、原則に戻って即時償却なんていうものが存在しなかった時代には、有形資産は大概においてMACRSっていう加速償却を適用して税務上の償却費用を計算するのが普通の姿。MACRSは、前回のポスティングでチラッと触れたConvention制度があったり、多くの動産が200%定率だったり、経済耐用年数とは直接関係ない政策的に規定される法廷償却年数や方法に基づいてCapex、資本的支出の費用化を規定する税法の世界だけに存在する償却法だ。なんで、MACRSの「CR」は「Cost Recovery」ではあるけど、MACRSにDepreciationを表す「D」は入っていない。このことからも、MACRSはいわゆるDepreciationではなく、あくまでも資本的支出の費用化という概念。米国税法の構成的には、Section 167で事業所得を算定する際に償却費用すなわちDepreciationの計上を認め、その上で、金額は有形資産に関しては大概においてSection 168のMACRSを適用して決める、っていうもの。

で、このMACRSが嫌な場合、特別な選択をすることで、その課税年度に事業用途に供されたMACRS対象資産をMACRSではなく、ADSというMACRSより長い償却期間で定額償却する不利な方法を選択することができる。元々ADSっていうのは資産の使用場所が米国外だったり、非課税団体にリースしてたり、加速償却を規定するMACRSの適用が政策的に適切でない状況に適用が義務付けられるものだけど、AMTのSubsetだったACE(覚えてる?)の算定時に使われたり、今でもE&Pの計算時に適用されることから、結構頻繁に登場し侮れない存在。さらに、TCJA後の世界ではFDIIやGILTIのみなし超過利益算定時のみなしルーティングリターンをADSベースの税務簿価に10%を掛けて算定することから、各社、ますますMACRSと共にADSベースの資産管理が求められる。もちろんこれらMACRS、ADS共に会計上の償却とは異なるので、一つの資産でも複数の簿価が存在することになる。で、ADS選択っていう制度は、ADSの適用が義務付けられるケースとは関係なく、通常の課税所得算定時にMACRSを適用できるにもかかわらず、課税年度内に事業用途に供されたMACRSの資産クラス別に自らADSを選択すること。ADSは一度選択すると取り消し不可能。One way streetだ。

で、そんなMACRSに加え、設備投資減税として、歴史的に時限立法でいろんなパターンの即時償却が規定されてきてるけど、TCJAでも100%即時償却が規定されている。で、100%の即時償却が嫌な場合には、課税年度に事業用途に供された資産に関して自ら即時償却を適用しないという選択がある。これも税法に規定される資産クラス毎に選択できる。当選択をすると、普通にMACRSで加速償却することになるけど、これに更に上述のADS選択を組み合わせることも可能。また2017年9月27日を含む課税年度に限定された話しだけど、TCJAの100%即時償却ではなく、それ以前の50%ボーナス償却を選択することもできる。確かこの選択だけは資産クラス毎ではなく、その課税年度に事業用途に供された資産全てに関して選択が必要だったはず。

もうひとつ、即時償却の対象となるフルーツやナッツの実がなる植物が、既に栽培されているケースにも特別な選択があるけど、余りにオタクなのでこの部分は割愛。何がフルーツで何が野菜かってよく議論になるよね。ロビイストが暗躍してフィルムとかナッツとかが即時償却の対象となっているのは面白いけどややこしいね。

で、過去遡及にかかわる手続きだけど、適格内装資産の償却は以前のポスティングで触れた不動産業や農業にかかわる支払利息の損金算入制限、Section 163(j)、の適用除外選択と密接に関係する。したがって、不動産業や農業がSection 163(j)の適用に関して新たな選択をしたり、過去に行った選択を取り消したりする結果として変更される適格内装資産の償却は、Section 163(j)に関して別途公表されている選択手続きの枠の中で処理する必要がある。これらに関しては「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス」を参照して欲しい。また、Section 179等で即時償却規定とは別の形で事業用途に供された課税年度に既に費用化されている適格内装資産に関しては、CARES Actの影響はなく、そのままの取り扱いとなる。Section 179は、個人的な感覚では、どちらかと言うと個人事業主っぽいノリのオタクな規定だった。それがTCJAで即時償却が中古資産にも認められるようになり、資産取得型のM&Aのモデリングに大きな影響を与えてるけど、中古資産でも即時償却の対象となるかどうかの判断時にSection 179が引き合いに出され、急に脚光を浴びた観のある条文。

で、法的に過去遡及をどのように整理するか、っていうアプローチだけど、まず忘れていけないポイントは、CARES ActでTCJAの法文が修正される前の状態では、適格内装資産の償却は法的に39年定額、または納税者のADS選択で40年定額しか認められなかったという点。この点に関して納税者側に何の裁量も存在しなかった。それが、CARES Actによる法文修正で2018年1月1日に遡り、逆に原則、即時償却、納税者が即時償却の不適用を選択すればMACRSの15年定額、さらにその上でADS選択する場合には20年定額しか法的に認められなくなったという点。したがって、当時は法的に仕方なく39年や40年で償却し始めているケースでも、これをそのまま継続するっていうオプションは存在しないことになる。つまり、償却にかかわる処理変更が「強制」されることになる。過去に法的に適用が強制されていた39年や40年の償却は現時点で「法的に容認不可処理法」となり、即時償却等が急に「容認処理法」に生まれ変わる。面倒~。。

法文修正に伴い、容認不可処理法から容認処理法に変更する方法は、二通りあり、修正申告(BBA適用パートナーシップに関してはAARを含む点は以前からのポスティングで触れている通り)をする、またはこれから提出する2019年等の申告書で税務処理変更願い、Form 3115、を出し、修正申告することなく累積影響額を一気に調整する方法、のいずれでも可としている。処理変更の道を選択する場合、通常だと容認不可処理法は2年続けて適用していないと処理法として確立したことにならないけど、今回は特別に1年だけ法文修正前の方法で処理していても処理変更対象にするとしている。最初、財務省のガイダンスを読んだ際、「1-Year QIP」だけ別途規定があり、修正申告と同時に処理変更でもOKと、他の状況と同じ扱いを敢えて別に規定しているのが不思議だったんだけど、2年間適用していないことにかかわる手当なんだろう。いろいろとよく考えてあるね。

次に過去遡及の選択だけど、2017年9月27日を含む課税年度に限定の50%ボーナス償却選択やフルーツとかナッツの償却の話しは割愛して、ADS選択や即時償却の不適用選択にフォーカスしておくと、2020年4月16日以前に提出されている申告書に関して、今から不適用選択を希望する際には、こちらも法文修正後の強制処理法をそのまま適用するケース同様に、修正申告を提出するか、今後提出する申告書にForm 3115、処理法変更願い、を添付するか、いずれの方法で、不適用を選択することが認められる。

逆に過去にこれらの選択をしてたけど、選択を取り消したいケースだけど、即時償却の不適用を選択していたケースは、新規に過去遡及して選択するケース同様、修正申告または処理法変更願いのいずれかの方法で取り消しが認められる。通常のMARCSの代わりにADSの適用を選択してたケースで、やっぱり普通のMACRSに戻りたいケースの選択取り消しは修正申告を通じてのみ可能。これらの選択は、通常だったら一旦選択すると取り消し禁止だけど、今回は例外。う~ん、複雑。申告書作成大変そう。

Saturday, May 2, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (11) 「QIP Glitch」(適格内装資産とボーナス償却)

米国の大概の州で強制されていたロックダウンも一カ月半を超え、その間、多くの米国市民が、自由を奪われるとどんなことになってしまうのか、っていう怖さを垣間見て、日ごろ当たり前のように享受してきた自由やさまざまな経済活動の恩典、の有難さを再認識してることだろう。個人の自由は米国憲法で保障されていて、米国では当たり前の権利のように勘違いしがちだけど、実は日頃から大切にし、感謝し、市民個々の努力で守っていかないといけないPriviledgeだということ。

SBAローンにしても、IRSの給付金手当にしても、最後は人間が規則を決めて司る訳で、$3Tのお金をこれだけ無理やり短期間に拠出し、管理しようとすれば、予期せぬ不具合、Glitch、がいろいろと起こるのは不可避。IRSだって、自分たちもロックダウンしてる最中に、大慌てで給付金を銀行に振り込んだり、小切手を発行したりしている。当然その過程ではいろんなGlitchが発生することになる。既に亡くなっている方の口座に入金されたり、逆に待っててもなかなか来なかったり、金額が予想と違ったり、公的年金受給者が扶養家族をオンラインで登録する時間が短すぎたり、とかいろんな不具合をメディアが報道している。

IRSや財務省は、彼らの手元に存在する情報、既存のシステム(相当古そう・・)を使って最大限の努力に基づき、半狂乱というか我を忘れて給付金を交付しているって言ってもいいような状況じゃないかな。給付金の受給者を正確に特定した後に交付するシステムを構築しないといけないんだったら、交付までに長い時間が掛かる。年間換算でQ2のGDPは下手したら40%ダウン、失業保険申請者はわずか4~5週間で3千万人と言われている現状、何をするにしても完璧な対策はない訳だから、バランスのいい施策をスピーディーに展開するしかない。

どんな策を取っても反対派はいて、今の米国におけるイデオロギー的な二極化を考えると、結局は何をしても約半数の反対意見があると想定され、そんな中での意思決定は、医学、科学、経済、有権者の意見は当然よく聞くとしても、最後はリーダーがそれらを総合的に検討した上で最終決定して、Move Onするしかない。全会一致の決定にはなり得ないので、リーダーとして、なぜそのような施策を取ったのか明確に説明し、異論がある場合には法の支配下で、市民が議論すればいい。ヘルスケアの受け入れ体制がとりあえず確保されたと言われている今、次なる課題は経済活動の再始動に移りつつあるけど、今後の施策にも思わぬリスクやGlitchは必ず存在する、っていう不可避の前提をリーダーが認め、市民も受け入れる必要がある。でないと何もできないので。新型コロナウイルスは、もちろんウイルス自体が恐ろしいのはそうなんだけど、9・11とか過去の危機との比較で、際立って異なる環境下での危機だなと感じるは、広範なインターネットアクセスやソーシャルメディアの存在。こういう環境下で迎える初めての大ピンチという点で、対応がより複雑、場合によっては困難になっている気がする。

で、Glitchといえば、「QIP Glitch」。何がGlitchだったかというと、Qalifiied Improvement Property、すなわち適格内装資産は、TCJA時の意図的には15年の耐用年数資産となり、かつ100%即時償却の対象となるっていう予定だったにもかかわらず、TCJAの法文ストラクチャーの単純ミスで、他の構造物同様、39年の定額償却のみの対象となってしまっていたという点。昔、小学校の頃、算数のテスト対策時に、せっかく本当は分かってるのに、単純ミスで点を落とすのは一番バカバカしい、って教わったのを思い出す。

TCJA可決直後から認識されているエラーだったんだけど、法文は法文。解釈の余地はなく、2018年1月1日以降に事業用途に供された内装は39年で粛々と償却することになり、小学校の算数のテスト対策じゃないけど、本当に一番バカバカしい結果となっていた。この手の法文エラーは、本来、比較的速やかにTechnical Correctionと呼ばれる法文修正法を可決してさっさと手当するのがベストなんだけど、TCJA自体、予算調整法という特別な手続きを経て共和党のみで可決した経緯があることから、通常の可決法で通過させないといけないTechnical Correctionに民主党が一切手を貸さず今日に至っていた。で、2年3カ月経った今、新型コロナウイルスという共通の敵が現れ、ようやくこの部分のTechnical CorrectionをCARES Actに忍ばせることができたという沿革。

Cares ActにはNOL Carrybackとか他にもTCJAに対するTechnical Correctionが含まれてるけど、Technical Correctionというのは法文があたかも元からCorrectionされた文言で制定されていた、という効果を持つ。したがって、適格内装資産は、既に39年で粛々と2年超定額償却してきたものが、実は2年前に即時償却が可能だったという変なポジションとなる。しかも、即時償却の不適用を選択する場合も、法律上39年資産ではない訳だから、39年で償却し続ける訳にはいかず、過去2年の取り扱いは間違いだったということになり、税務処理変更に基づく再計算が求められる。しかも、CARES ActはNOLのCarrybackや、Section 163(j)の計算を過去遡及して変更していて、多くのケースで各変更の適用に納税者による選択権が規定されているので、各規定の選択法の組み合わせは無数(?)っていうと大げさだけど結構あって、納税者側の検討は複雑怪奇となる。

特に、適格内装資産が多額になりがちな不動産業者は、Section 163(j)の支払利息損金算入制限の不適用を選択する際、内装を含む一定の資産に関してMACRSや即時償却を放棄するっていう代償があった。その場合、内装はADSと呼ばれる40年償却となる。普通でも39年だったら別に40年になってもあんまり大差ないから、だったらSection 163(j)の適用がない方がいいじゃん、って思ってたら今となってこの始末。しかもTechnical CorrectionによりADS自体も40年ではなく20年になっている。不動産業者に特化した話は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス」で若干詳しめに話しいるんで、興味ある方は覗いてみて欲しい。

で、QIP GlitchがCARES Actで修正されたことにより、上述の通り、適格内装資産は通常のMACRS目的では15年資産、ADS目的では20年資産となる。双方とも定額償却。また15年資産となるので、Mid-Month Conventionではなく、Half-Year Conventionとなる。最終四半期に40%超の資産がRear-loadedされる形で事業用途に供されるとQuarter Conventionになるのは通常通り。Conventionは米国で申告書作成したことあれば誰でも知っているルールだし、やったことなければ知らないだろうし、知っててもしょうがない類の話し。さらに通常の耐用年数が15年となることから、即時償却の対象となる。

何が適格内装資産に当たるかって言う肝心の定義だけど、CARES Actによる法文修正前の段階では、「商業用建物内装のうち、建物自体が事業用途に供された後に加えられる造作」とされていた。チョッと日本語ぎこちないかもしれないので誤解ないように原文付け加えておくと「any improvement to an interior portion of a building which is nonresidential real property if such improvement is placed in service after the date such building was first placed in service」。CARES Actはこの定義の「improvement」の直後に「made by the taxpayer」という重要な一言を加えている。すなわち、納税者自らが行うリフォーム等でないと適格にはならなくなってしまった。っていうことは、例えばNYCでオフィスビルを$500Mで購入して、そのコストのうち、$50Mを内装に振り分けても、バイヤーは自分で内装を造作した訳ではないので適格内装資産には当たらないことになる。納税者自ら造作というのは、言うまでもないけど、納税者が実際に腕まくりして梯子に上ってペンキ塗ったり、ダクトをセットアップしないといけないという意味ではなく、実際の作業は業者等に発注するんだろうけど、納税者の支出でリフォームする必要があるってこと。言い換えれば、既に内装が造作されている商業施設を後から取得して、取得コストの一部が内装に帰属するだけでは適格内装資産にはならない、ってこと。

そんな訳で、2018年1月1日以降に事業用途に供された適格内装資産は過去遡及する形で償却方法が変わってしまったので、この調整をどのように行うかっていう面倒な課題が生じる。この点は次回。

Sunday, April 26, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (10) Section 163(j)改定にかかわる選択

少し前に「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス」で、CARES Actで緊急に規定されたSection 163(j)の緩和措置 のうち、不動産事業に認められている免除の新たな選択、取り消し等の手続きに触れた。今日は肝心のSection 163(j)そのものにかかわるCARES Act絡みの3つの選択に関して。

まず、CARES ActによるSection 163(j)の緩和措置をサラッとおさらいしておく。

詳しくは「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (3) Section 163(j)」を参照して欲しいけど、暦年2019年中または暦年2020年中に開始する課税年度のネット支払利息は、修正後課税所得(ATI)の30%の代わりに50%を使用して損金算入額を計算することが認められる。納税者が50%ではなく、引き続き30%の使用を希望する場合には「30%使用選択」が可能。当選択は2019年、2020年に開始する課税年度の各々別々に認められる。

パートナーシップに関して、2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には、緩和措置の50%の制限緩和規定は適用がない代わり、パートナーシップからパートナーに配賦された損金不算入支払利息の50%は、パートナー側の暦年2020年中に開始する課税年度の支払利息として取り扱われ、Section 163(j)の制限対象から除外される。残りの50%は通常の規定通り、パートナーシップから配賦されるETIに基づく通常のベンチ待機ルールに基づき損金算入の判断を行う。このパートナー側で2020年に50%を問答無用に使用できるという措置が気にいらない場合には、「パートナー2020年50%損金算入不適用選択」が認められる。2020年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しては、法人同様にATIの50%に基づく損金算入制限枠を計算することになるけど、法人同様、2020年に関してはパートナーシップにも「30%使用選択」が規定されている。

また、2020年に開始する課税年度は、当年度のATIの代わりに前年、すなわち2019年中に開始する課税年度、のATIを使用する選択が認められる。

組み合わせがなかなか複雑なので選択の部分だけ再度整理すると、30%使用選択、前年ATI使用選択、そしてパートナー2020年50%損金算入不適用選択、となる。

まず、せっかくCARES Actで、2019年と2020年の支払利息はATIの50%まで損金算入していいです、って言ってくれているにもかかわらず、「うちはATIの30%を適用して損金不算入額を決めます」っていう「30%使用選択」。なぜこんな天邪鬼な選択があり得るかってというと、特定の条文適用時には有利に見える取り扱いも、他の条文との複合的な絡みで総合的に必ずしも有利でないケースがあるから。TCJAは複数条文のインターアクションに基づく検討の重要性に拍車を掛けている。30%でも50%でもどっちにしても制限に抵触しない納税者はムキになってこんな選択をする必要はないので、基本的には30%を選択して本来損金不算入としなくてもいい金額を損金不算入にしたり、50%でも制限に抵触する納税者がより多くの金額を不算入にする際に使う選択となるはず。そんな選択をしたい納税者は2019年または2020年の申告書、またはこれらの課税年度にかかわる修正申告書で、30%ATIを適用することで選択をしたことになる。特定の選択を宣言するStatementは不要。パートナーシップに関しては2019年は30%使用が強制されるので、当選択は2020年のみに関係する。また以前もチラッと触れたけど、パートナーシップもForm 1065を修正することができ、そこで30%使用選択ができるけど、BBAっていうパートナーシップレベル税務調査にかかわる特別な規定に抵触するパートナーシップで、一定の要件下で修正申告ではなく、Administrative Adjustment Requests (AARs)と呼ばれる別手続に基づき、実質修正同様の手続きを済ます必要がある場合には、AARsを通じて実質修正をする。今後、パートナーシップの修正申告に触れる際、基本的に全てこのBBA下のAARsの適用があるって覚えておいて欲しい。毎回いちいち「BBAの場合は・・・」って注意書きしないのでよろしく。

優柔不断というか、後から課税関係が変わってしまって、やっぱり素直に50%で計算しとけばよかったな、って気が変わった場合には修正申告を提出すれば、選択取り消しにかかわるIRSの承認を自動的に受けた形となる。簡単に言えば、時効が成立するまでは気が変わったら修正するばいいということ。また、今のところSection 163(j)の規則草案に基づき、Section 163(j)はCFCにも適用があるけど、CFCに30%使用選択をする場合には、支配米国株主全員で行う必要がある。

次に、2020年に2019年のATIを使用して損金算入額を決める前年ATI使用選択だけど、これも2020年の申告書、または修正申告書で2019年のATIを使用すれば良く、選択を宣言する特別なStatementを添付したりする必要はない。30%使用選択同様、優柔不断というか、後から課税関係が変わってしまって、やっぱり2020年のATIベースにしとけばよかったな、って気が変わった場合には時効成立前に修正申告を提出すれば、2020年ATIベースとすることができる。CFCにかかわる手続きも30%使用選択同様。

最後に、パートナー2020年50%損金算入不適用選択だけど、こちらもパートナーが提出する申告書で、不適用とすれば、すなわち、通常のルール通りにETIに基づく処理をすれば、不適用選択をしたと認められる。上述の2つの選択同様、後から気が変わったら時効成立前に修正をすればいい。

ということで、Section 163(j)にかかわるCARES Act系の選択はこんな感じなんで、次回は話題の適格内装かな。それにしてもGoogle/AppleのContact Tracing使ってでも何でもいいから、そろそろ経済活動開始のタイムラインを具体化してもらわないとね。民主党大統領候補に実質決まっているJoe Biden曰く、次のCARES Act 2.0では「hell of a lot more」の公的資金をつぎ込む!ってことだけど、既に$2.5T使ってしまったのに、これから「hell of a lot more」って言われても、最後は誰かが支払う訳で、次世代にそんな多額の負の遺産を残すべきではないと思うんだけど。そもそも、州知事の権限で経済活動を止め続けて、その代償を連邦政府が公的資金で補填し続けるモデルにはSustainabilityがない。大統領のアップデートとか見てても日によって言うことが全然違うし、州政府も結局、元々はヘルスケアシステムの受け入れに余裕が生じるまでの臨時措置のはずだったロックダウンから抜け出す切り札がないまま無暗にロックダウンを延期したいりしていて、一部ロックダウンを解除したジョージア州知事をみんなで叩いたり、なんか米国政府の無策ぶりを世界に露呈している感じ。個人の自由を保障する立派な憲法があっても、第二次大戦時のKorematsuケースとか、9・11直後の動きとか、有事の際には結局あまり機能しないのかな、って今後いろんなことがある毎にロックダウンとなるような変な前例にならないといいけど、って考えるのは大げさなんだろうか。何年待ってもワクチンができる保証はない中、まさかワクチンできるまでロックダウンしている訳にはいかないし。そんなことしたら2021年のGDPは2019年比較で25%行くかな~。そうなったら米国のGDP、今の日本と同じ。中国も減速するとは言え、グリーンのQRコードを駆使して復活気味なので、そこまでGDP下がりそうにないよね。まあ、過去の歴史振り返っても今回も最後はApocalypse的な話しにはならないと信じてるけどね。

Sunday, April 19, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (9) IRSもWFHで「デジタル送信」その後

最近MidtownのWhole Foodsは品揃えに疑問があったのと、多くの買い物を一気にする際、必ずしも店の真ん前に路駐できないリスクもあって面倒なので、普段だったらなかなか行くことがないRidge Hill店までドライブすることが何回かあった。Shelter-in-Placeで道はガラガラなので、普段だったらインターセクションの設計が悪すぎて恒常的にボトルネックになっているFDRから87に乗り換えるRandall’s Islandのオーバーブリッジ辺りも気味悪いほど空いていて、家からRidge Hillsまで20分程度。着いてしまえば、NYCを一歩外に出れば当たり前の「普通に」大きなWhole Foodsの店舗目の前にIndoorの駐車場もあるし、駐車場のストラクチャー内にマンハッタンにはないSuperchargerもあるし、大量の買い出しにはとても便利。

CaliforniaのMDR近くのPlaya Vista店では早々にSocial Distancingで入場制限してたけど、NYCでも最近は入場制限がだんだん徹底してきてる。入場できる客の人数をどうやって決めてるんだか知らないけど、Per SQFT等で計算していると仮定すると、Midtownの店はCaliforniaのPlaya Vistaとか同じNYでもRidge Hillなんかと比較するとSQFTが少ないので、一回に入れる人数が少なそう。また、いくら人数制限してもMidtownの店はアイルというかLaneが狭いので、「Distancing」すること自体不可能なんだけど、昨日、久しぶりにMidtownの店に行ってみてビックリ。店内のLaneが全て「一方通行」化され、1メートル向こうに並んでるレモン買おうかな、と思っても、グルっと他の野菜が積んであるアイランドを一周しないと辿り着かないとか、Seafoodセクションに入るには一旦、野菜のセクションに戻らないといけない、とか複雑。駒沢公園辺りから西郷山公園経由、旧山手通りの下くぐって南平台の裏道経由で渋谷にドライブしてるみたいだ。知ってれば何てことないけど、知らないと中々辿り着かない、ってこと。

いつもだったら野菜やフルーツセクションを終えて、チーズとかパスタセクション経由、逆行して肉やSeafoodセクションに戻るところ、コロナ後の世界ではその方向は侵入禁止なので、なかなか買えなかったりチョッと面食らうこともあるけど、お陰で、一旦並んで中に入ってしまえば、店舗内で買い物している客の人数は少ないし、一方通行なのでカートがすれ違えないとか言うMidtownの店独特のフラストレーションもないし、なんといってもCashierというかレジで並ばないのがいい。普段だったら色別のLaneで、どの色が早いかな、とか殺気だってみんな並んでたけど、Social Distancingでレジ自体は待たずに終わらせることができる。レジも店員と客の間に銀行の防弾ガラスみたいな、Dividerが設置されたりして、これこのままにしておけば冬のインフルエンザ防止にも役立ちそう。幸いにも今の季節、気候が悪くないので店の前で30分とか待たされても、携帯使って財務省規則とか読んでたら(苦笑)余り苦にならないけど、真冬とかまで続くんだったら結構厳しそう。ディズニーランドのFASTPASSみたいに携帯で「あなたは何時から何時の間に戻ってきて下さい」みたいなLaneができるかもね。FASTPASSってチョッと使い勝手が悪いので、できたらLEGOLANDのReserve ’N’ Rideとか、Universal StudioのExpress Passとか、ローカルだけどKnott’sのFast Lane Passみたいな問答無用的に一番に入れるパスがあるといいけどね。まあ、FASTPASSは他のパスと違って無料だからね。Whole Foodsの対応見ても分かるけど、結構やろうと思えばいろんな手が打てるんだなって感心。ワクチンがいきわたるまでは、こういう地道な努力でリスクを軽減しながら経済活動を少しづつ再始動するしかないだろうね。

やろうと思えばいろんな手が打てると言えば、IRSのForm 1139のファックス受付。普段はペーパー提出しか認められない簡易手続き還付請求がファックスでも認められることになった点は前回の「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (8) IRSもWFHで「デジタル送信」OK」で触れた。ファックスって言うとチョッと原始的に聞こえるけど、IRSとしては法的に確実に処理できるバックエンドの体制を整えないといけないし、様式提出にかかわる証明義務とか、Identity Theftの観点とか、我々が考える以上の周到な準備が必要なんだろう。IRSの各サービスセンターにはペーパー提出された様式やレターが何台ものトレーラーに保管してあるってことだから、ペーパー提出された書類が処理されるまでには相当な時間を要しそう。

で、この金曜日、4月17日から満を持してファックス受付開始されているので、次々とForm 1139が送信されているんだろう。そんなタイミングでIRSは追加のFAQを出している。Cares Act絡みで納税者には有利な規則や手続きが次々と発表されていて財務省の実力を見せつけてるけど、中には法的権限はどこに、って思うことがある。ただ、実務的に言って納税者に有利な規則に関して法的権限が司法の場で問われるケースはないだろう。

IRSが追加で公表しているFAQによると、ファックスでの受付はあくまでもForm 1139と法人以外の納税者が使用するForm 1045に限定されてて、同じ流動性確保のために使用される場合でもForm 1120XとかForm 4466はファックスでの受付はしないと明言している。Form 4466は予定納税が過多だった際、申告書の延長期限前に提出し、支払過多の予定納税額を素早く取り戻すための様式。同様に流動性の話しで登場することがあるForm 1138は、今から提出しようとする申告書では税額があるけど、翌期にNOLが予想され、それをCarrybackすることで、結果として税額が減額できるケースで、支払いをNOLが発生する課税年度の申告書提出時点まで待ってもらう措置。Form 1138は還付請求ではないので慌ててファックスして処理してもらう必要はない。トレーラーに眠らせておいて、IRSサービスセンターが通常オペレーションに戻った暁にゆっくり処理してもらえばいいタイプの様式だ。

Form 1139って言うのは簡易手続きなので、その内容に関して精査されず、様式に記載されている数字が表面的に合っていれば法的に90日以内に還付を受け取ることができる仕組み。IRSは90日以内に還付を行う義務がある。Form 1139が表面的に合っているかどうか、っていう点だけど、数字的にはForm 1139も修正申告に類するので、オリジナル申告書の数字とCarrybackした後の数字を比較表示する必要がある。または既に何らかの理由でCarrybackする先の課税年度に関して修正申告を提出しているケースは、修正後の数字と今回Carrybackした後の数字を比較表示する。オリジナル申告書の数字を使うケースや、修正申告が相当前に提出されているケースでは心配ないかもしれないけど、結構最近修正申告をしたケースでは、そもそも修正申告の方がトレーラーに眠っていて、IRSのシステムに反映されていないリスクがある。その場合には、IRS側でForm 1139上の数字が表面的にも合っているという確認が取れないことなる。ただ、修正申告書を提出している以上、そちらの数字を使用してForm 1139を作成する必要があるので、実務的には面倒なことになり兼ねない。不整合が見つかったり、IRSで質問がある場合には、IRSから電話があるそうなので、君のテレフォンナンバー6700(凄い古~)かJennyの867-5309(チョッと古~)か分かんないけど、とにかく連絡が取れる番号をForm 1139に記載して、電話があったら逃さないように、電話に張り付いとく必要があるね。

また、既存のForm 1139は過年度のAMTクレジットを還付請求するデザインになっていない。そこでFAQでは、AMTクレジットを還付請求する際にはForm 1139にForm 8827の修正を添付し、2018年時点のAMTクレジット残高をCARES Actに基づき還付請求できる手法を編み出している。NOLのCarrybackとAMTクレジットの双方を利用して還付請求する場合も、一枚の1139で双方を手当できるような指示が公開されている。NOLのCarrybackがあると、AMTそのものの金額にも影響があるけど、一応、ここは律義にNOLをCarrybackして、AMTを計算し直し、それを翌期以降にクレジットしていって、2018年課税年度時点で取り返していない金額が残ってれば、Form 1139で還付請求することになる。AMTなんて真面目に計算してもしなくてもどうせ還付できて帳尻合わせることできるんだから適当でいいじゃん、って思うかもしないけど、ここは法的に古い課税年度から順々に律義に計算しないといけないと匂わせる記載がFAQ11に記載されている。Section 199とかFTCとかドミノ効果が多いから何だかんだCarryback計算も大変そうだ。ただ、AMTに関しては、CarrybackするNOLの金額そのものをAMT目的でAMTのNOLに換算し直さないといけないかどうかは明確じゃないけど、TCJA後の2018年~2020年にはもうAMTという制度が存在しないことから、以前AMTIを計算する際に使用していた「Preferences」とか「Adjustments」は2018年以降存在しない。となると、通常のNOLをCarrybackして、Carrybackした先の課税年度のAMTを再計算するばいいって考えられる。ここは異論があるかもしれないけどね。

金曜日には適格内装の100%償却絡みのRevenue Procedureも公表されて益々CARES Actのインプリメンテーションに気合が入ってるけど、次回は、その前に「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス」で話し掛けになってるSection 163(j)のCARES Act絡みの3つの選択に関して。

Monday, April 13, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (8) IRSもWFHで「デジタル送信」受付開始

前々回のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (6) NOL Carryback手続等ガイダンス」で、NOLのCarryback手続きに関して財務省が迅速かつ有益なガイダンスを公表してくれた点に触れた。でもせっかガイダンスは出揃ったものの、IRSもWFH状態にある中、実際にどれくらいのスピードで肝心の還付が返ってくるのかは興味深いて、って話しもした。というのも、法人がNOLをCarrybackして簡易手続きで還付請求する際に使用するForm 1139は電子ファイルできなくて、ペーパー提出しか認められないのが通常だからだ。IRSの各サービスセンターもShelter-in-Place措置でCloseされていて、対応してくれるのは「Mission-Critical Operations」のみ。通常の市民生活的には各州が認める「Essential Business」のみオープンだけど、IRSでは「Mission-Critical Operations」のみオープンなんだね。トムクルーズの映画みたいで、普通より言い回しが格好いい。NYCとか他の街でオープンして頑張ってくれているWhole FoodsとかCVSとか「あそこはMission-Critical Operationsだからな・・・」ってこと(?)。

で、Form 1139の提出なんだけど、せっかくCARES Actで流動性を確保させるために規定してくれたNOL Carrybackに基づく還付が、肝心のタイミングでIRSが閉店していて「プロセスは世界が普通に戻るまで待ってて下さい」っていうんでは話しにならない。そこで今日、IRSはウェブサイトで「Temporary Procedures」、すなわち一時的な特別手続きを公表し、NOLのCarrybackおよびAMTクレジットの簡易還付手続きを行うために提出するForm 1139を「Digital Transmission」(デジタル送信)で一時的に受け付けるとした。法人以外が使用するForm 1045も同様で、各々異なる送信先が記載されている。デジタル送信というと、ハイテクな感じだけど、要はファックス。

指定のファックス番号は2020年4月17日より機能し始め、通常オペレーションに戻るまで、ファックスを受信順に処理するそうだ。4月17日より前に勇んでペーパー提出してしまった納税者も、再度ファックスでデジタル送信し直すよう促している。送信は最高100ページが限度で、100ページ超の必要添付書類が存在する場合も、まずは100ページだけ送っておいて、後はIRSが還付手続きを進める過程で必要に応じて納税者に連絡を取るそうだ。デジタル送信されたForm 1139もIRS内部処理は従来のペーパー提出と同じということ。またデジタル送信の対象はあくまでもNOLのCarrybackとAMTクレジットの還付用途に限定され、その他の目的でFormをデジタル送信しても、その時点では処理されず、IRSのサービスセンターが通常のオペレーションに戻った時点で処理をするそうだ。

さらに面白いのは、Transition Taxを計算している課税年度を含む年度へのCarrybackに基づく還付請求時にも一定要件下でForm 1139の使用を認めている点。今までの一般手続きではTransition Taxを計算している課税年度へのCarrybackにはForm 1139の使用は認められなかったのでチョッとビックリ。ただ、現時点ではTransition Taxを全額納付済み、すなわち8年間の分割払いを選択していないケースのみが対象とされている。8年分割払いは無金利バルーン型だから、分割を選択していないケースは珍しいというか、他の超過額と相殺してしまったケースが大半じゃないかな。その意味では実務的には適用可能性が高いわけではないけど、スピリット的にウェルカム。さらに、分割払いでまだ完済していないケースに関して今後追加アップデートを公表するとしているので、可能性としてはより多くの状況でTransition Taxを計算している課税年度を含む年度へのCarryback還付請求をForm 1139を使用して、しかもデジタル送信で、行うことが可能となるのかもしれない。

ちなみに予定納税を最終申告前に加速暫定還付請求するQuick RefundのForm 4466はデジタル送信の対象ではなく、通常の手続きを経ること、としている。また、デジタル送信はあくまでも一時的な措置であり、恒久的な制度ではない、とも念を押している。なんでだろうね?今回の新型コロナウイルス騒ぎで、議会もリモートで審議したり、票を投じたりするシステムを認めるべきだっている議論があるけど、WFHが解けたからって便利なシステムを必ずしも律義に元に戻さないでもいいのに、っていう気もするけど。

Sunday, April 12, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (7) Section 163(j)各種選択手続ガイダンス

NYCが新型コロナウイルス感染で非常事態に陥ってから、エンパイアステートビルディングが毎晩、真っ赤にライトアップされ、NYCのコロナとの闘いをサポートしている点は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (5) NOLの換金価値」のポスティング冒頭で触れた。早く、前みたいにレインボーとかいろんな色になる日が来ないかな~、と心待ちにしていたんだけど、なんと昨日と今日はきれいな薄いパステルカラー!最悪を脱してFlatten the Curveの兆候が見えてきたからかな、と思ったんだけど、実はイースターを祝っているそうだ。理由はともかく、連夜の真っ赤なエンパイアステートビルディングを見ると何となく心が痛むというか、嫌な気分になっていたんで、少し和むことができて良かった。ビルのライトアップだけで単純(?)。

そういえばKobe Bryantがヘリコプター墜落事故で急逝してしまった晩のエンパイアはLakersカラーのパープルとイエローだったね。Zen MasterというかTriangle OffenceのPhil Jackson率いるLakersをStaples Centerに見に行ってた頃が懐かしい。当時のLakersはO’NealとBryant率いる最強ドリームチーム。他にもFoxとかFisherとかね。実はその昔、O’Nealのガールフレンド(?)と同じコンドに住んでた時期があり、たまに夜に物々しくO’Nealが来訪することがあった。結局、誰に会いに来てるんだか分からなかっただけど。当時、そのコンドには、Victoria’s Secretのカバーを独占していたTyra Banksが住んでたんだけど、Banksとの関係は不明。Tyra Banksは当時スーパーモデルで、プライベートでも超Niceでエレベーターとかで会っても向こうから声を掛けてくれるような人。当然長身なんで、僕がエレベーターに入ると顔の前に胸が来るような印象が残ってるんだけど、たぶんスタイルが抜群なんで、そう見えただけかもね。あんなに持てはやされてたのに、謙虚というか周りに気を遣って、好感持てる人だなって感心してた。彼女のその後の向上心やチャリティー活動とかに、そのしっかりした人生観を垣間見ることができて、やっぱりね、って感じ。

で、負けずに向上心を持ち続けてNYCとかDCの最新情報に目を光らせてないと、米国タックスの世界は地殻変動のTCJA導入直後に、予期せぬCARES Act登場で複雑極まりない「Perfect Storm」になっているので、とても付いていけない。ということで、CARES Actに規定される複雑な取り扱いの具体的な適用手続きに関して矢継ぎ早に公表されるガイダンスのうち、前回はNOLのCarryback手続きに触れたけど、同時に公表されている複数のガイダンスでもう一つ関心が高そうなのが、Section 163(j)周りの諸々の手続き。

CARES ActによるSection 163(j)の変更そのものの詳細に関しては以前のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (3) Section 163(j)」を参照して欲しい。ザックリとオサライしておくと、CARES ActによるSection 163(j)の改定は、「2019年、2020年に関してATIの30%ではなく50%を使って支払利息の損金算入制限を決める」、「2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には、緩和措置の50%の制限緩和規定は適用しない代わりに、パートナーに配賦された損金不算入支払利息の50%をパートナー側の暦年2020年中に開始する課税年度に制限なく損金算入を認める」、そして「2020年は損金算入枠を算定する際に、前年のATIを使用する選択を認める」という3つが骨子。

で、これらの新規定には各々、納税者側で適用しないという選択が設けられている。更に、元々Section 163(j)は、不動産業および農業には適用しないという選択がある。この選択はCARES Actの話しではなく、TCJAの話し。だけど、2019年と2020年に関してSection 163(j)の適用条件が変わってしまったため、また、適格内装がTCJA法文修正により39年定額償却から即時償却対象にアップグレードされたので、Section 163(j)を適用しない選択を行うべきかどうかの判断時の分析Equationが変わってしまった。なぜ償却が関係してくるかっていうと、Section 163(j)不適用の選択をすると、その代償として、一定の資産クラスに関してMACRSや即時償却などの加速度償却を適用することができず、ADSという特殊な定額償却を使わないといけないからだ。商業用建物であれば、MACRSでも39年の定額なんで、ADSの40年定額と比べて大差ない。なんで、だったらSection 163(j)なんか適用しない方がいいね、って考えた不動産業者はいると思うんだけど、それが急に、内装は即時償却です、ってなると様子が大分異なってくる。さらにSection 163(j)を適用したとしてもATI50%ベースとなれば尚更だ。

これらの背景から、財務省のガイダンスは、不動産業者(農業も同様だけど、日本企業的に適用可能性がより高いと思われる不動産って描写で統一しておくからね)によるSection 163(j)不適用選択の見直し法、CARES Actに規定される3つの選択法、に関して詳細に規定してくれている。

まず、不動産業者によるSection 163(j)の適用・不適用選択だけど、TCJAが導入された2018年以降、(2018年、2019年等の暦年内に開始する課税年度は、説明を簡素にするため2018年、2019年課税年度って呼ぶことにするね)Section 163(j)不適用選択をしていなかった者、または2018年~2020年課税年度に選択を取り消した者、は該当課税年度にかかわる修正申告書を提出することでタイムリーに選択をしたものと取り扱われる。修正申告書は2021年10月15日または時効成立のどちらか早い期日までに提出される必要がある。パートナーシップもForm 1065を修正することができるけど、BBAっていうパートナーシップレベル税務調査にかかわる特別な規定に抵触するパートナーシップは、一定要件下で、修正申告ではなく、Administrative Adjustment Requests (AARs)と呼ばれる別手続きに基づき、実質修正同様の手続きとすることができる。下に話す別の項目に関してパートナーシップの修正申告に触れる際、基本的に全てこのBBA下のAARsの適用があるって覚えておいて欲しい。毎回いちいち「BBAの場合は・・・」って注意書きするの面倒なんでよろしく。

で、今からSection 163(j)不適用の選択をする場合、償却の計算とかが元々の申告と異なってくるけど、修正申告時には当然それらの調整を反映させる必要がある。償却とか、その後の課税年度にも影響があるケースがほとんどだけど、その後の申告書も適宜修正しないといけない。

逆に元々、Section 163(j)不適用を選択していた不動産業者は、選択を取り消すことが認められる。選択を取り消すっていうことは、Section 163(j)を普通の事業同様に適用するってことだから間違いのないように。こちらの手続きも新たに選択する場合と同じ。償却その他の数字を関係する課税年度に関して調整の上、修正申告が必要になる点も同様。

Tyra Banksとかでチョッと長くなってきたので、CARES Act絡みの新規定にかかわる3つの選択は次回。

Friday, April 10, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (6) NOL Carryback手続等ガイダンス

失業保険申請数が僅か3 週間の間に1千7百万人にのぼり、Cares Actに規定された小規模事業者へのSBAによるPPPローンプログラム(税法とか直接関係ないので、一応)に申請が殺到し、大至急追加資金の供給が必要ということで、今週にでもフェーズ3.5/Cares Act 2.0が議会を通過するはず、だった点は「失業保険申請一千万人とGDP30%減の衝撃と「フェーズ3.5/CARES Act 2.0」」で触れたけど、両党の意見が合わず、結局週明けに持ち越し。McConnellは上院で$250Bの決議を断行すると伝えらえている。どれだけの民主党上院議員が反対するのか見もの。

で、議会がフェーズ3.5/Cares Act 2.0の可決に失敗している間に、財務省・IRSはCARES Act絡みの規定適用にかかわる6つの手続き的なガイダンスを早々に公表した。Revenue Procedure 2つ、Notice 3つ、現金給付用の情報入力ウェブサイト、という超豪華セットだ。内容は大別してNOLのCarrybackにかかわる手順、諸々の期限延長、適格内装が過去訴求して即時償却対象となった点を勘案して不動産業者によるSection 163(j)不適用選択の取り消し、現金給付などだけど、取り急ぎ、関心が一番高そうなNOLのCarrybackにかかわる手続き部分に触れておく。これらの新手続きは最後に触れる2018年1月1日以降の課税年度に生じるNOLの取り扱い以外はRevenue Procedureに記載されている。

CARES Actは、2018年~2020年に開始する課税年度に生じるNOLに関して5年間のCarrybackを認めている点は既に何回かにわたり触れた。CARES Actに限らず、NOLのCarrybackは、Carryback先となる課税年度の修正申告書を提出して還付申請を行うのが原則。法人であれば1120Xだ。ただし、CarrybackするNOL発生課税年度終了から1年以内であれば、簡易手続きに基づく還付申請が認められるという緩和措置がある。こちらはForm 1139(法人以外はForm 1045)だ。

Carrybackは法的に拘束力を持つため、Carrybackが規定される課税年度にNOLを認識している場合にはCarrybackをしないといけないのが原則。ただし、納税者自らがNOL発生課税年度の申告書上、Carrybackする権利を正式に放棄する選択をする場合にはその限りではない。当放棄選択をすると、Carrybackの代わりに全額Carryoverとなる。放棄選択は一旦行うと取り消し不能。

CARES Actでは、一部過去に訴求してCarrybackを認めているので、NOL発生課税年度終了から一年以内のみに認められる簡易手続きとか、延長後に遅延なく提出される申告書で行われるはずのCarryback放棄選択とか、可決時点で既に期限が過ぎている措置にどのように対応するのか不明だったけど、今回のRevenue ProcedureおよびNoticeで大概の疑問はクリアになったと言える。

で、まず暦年2018年および2019年に開始する課税年度に生じるNOLのCarryback放棄選択だけど、これは2020年3月28日以降に終了する最初の課税年度(例、2020年3月期)の延長申請を加味して遅延なく提出される法人税(または所得税)申告書に、Carryback放棄する旨を記載したStatementを添付して行う。放棄は暦年2018年または2019年に開始する課税年度、各々別々に選択することが認められるけど、Statementには放棄選択対象となる課税年度を明記する必要がある。

次に、CARES Actには、5年間のCarryback期間に、留保所得一括課税(Transition Tax)対象課税年度が含まれる場合、当課税年度をCarryback対象から除外する選択が規定されている。暦年2018年および2019年に開始する課税年度に生じるNOLをCarrybackする際に、Transition Taxを計算している課税年度をCarryback期間から除外する選択を希望する場合、通常のCarryback放棄と同様に、2020年3月28日以降に終了する最初の課税年度(例、2020年3月期)の申告書にCarryback放棄する旨のStatementを添付する。2020年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLのCarrybackにかかわる同選択は、NOL発生課税年度の申告書にStatementを添付して行う。Transition Taxを計算している課税年度をCarryback期間から除外する選択にかかわるStatementを添付する「申告書」だけど、Revenue Procedureが発行された2020年4月9日以降に提出される法人税(または所得税)申告書、簡易手続きのForm 1139(法人以外はForm 1045)、Transition Taxを計算している課税年度に当たらないCarryback対象課税年度にかかわる還付申請のための修正申告書、のいずれか一番早くに提出される様式が対象。さらに、同選択のStatementは、Carryback対象課税年度にかかわる還付申請のための修正申告書の各年度にコピーを添付する必要がある。

単にNOL Carryback自体を放棄する選択のStatementと比べて、Transition Taxを計算している課税年度をCarryback対象年度から除外する選択のStatementは、添付するべき申告書のバリエーションが多くて面食らうかもしないけど、これは当然で、NOL Carrybackを放棄するということは、NOLをCarrybackして還付を請求しないということなので、過年度の申告書をNOLを使って修正申告したり、Form 1139とかで簡易手続きに基づく還付申請を行ったりすることはないからだ。一方のTransition Taxを計算している課税年度を除外する方の手続きは、NOLをCarrybackするからこそ生じる検討となるので、Carrybackの際に提出する可能性のある申告書がいろいろとある。それらのうち、最初に出すものにStatementを添付し、またCarryback期間の各年度に関して提出する修正申告書が他にあるのであれば、それにもコピーを付けなさいってこと。まあ、よく考えられてるよね。TCJAのインプリメンテーションで多忙だった財務省やIRSだけど、CARES Actで余計に忙しくなり、かつ彼ら・彼女らだってWFHだから、このスピードであれだけのガイダンスを公表できるっていう実力は凄いね。

また、Revenue Procedureでは、Transition Taxを計算している課税年度をCarryback対象年度から除外する選択を行う場合、Transition Taxを計算している全ての課税年度を一律除外しないといけない点、また除外の結果、Carryback対象となる課税年度は元々の5年間からTransition Taxを計算している課税年度の除外した残りの課税年度になる点、が明確にされている。Transition Taxを計算している課税年度は多くのケースで2017年課税年度単年(3月決算の場合は2018年3月期)だけど、11月とか異なるFiscal YearのCFCが所有外国法人に複数紛れている場合には、プラスもう一年、Transition Taxを計算している課税年度が存在することがある。

逆にTransition Taxを計算している課税年度をCarryback対象年度から除外しない場合、NOLはTransition Taxを計算している課税年度にもCarrybackされることになるけど、その場合は、留保所得の合算額にはNOLを適用しないSection 965(n)選択が強制的に適用される。ただし、元々、NOLが存在したのに、(n)選択をしていない場合は、CARES Actで適用される強制(n)選択はCarrybackされるNOLのみが対象となる。この点はCARES Actの法文だけでは必ずしも明確ではないと言う専門家もいたのでウェルカムな確認。

当然だけど、連結納税グループは一納税者として選択を行い、連結NOLにも通常とおなじ選択ルールが適用される、と規定されている。

2017年12月31日以前に開始し、2018年1月1日以降に終了する課税年度、例えば2018年3月期、に生じるNOLはCARES ActによるTCJA法文修正を通じて、急にCarrybackが認められることになったけど、既に課税年度終了から一年以上経過しているので、通常であれば修正申告書を提出して還付申請するしかない。この点には元々CARES Act自体に緩和措置が規定されてて、CARES Actが可決してから120日目に当たる7月25日が土曜日なので、翌月曜日の7月27日までにForm 1139(法人以外はForm 1045)を提出すれば、簡易手続きに基づく還付申請が認められる。また、当課税年度のNOLに関してCarryback放棄する選択をする場合も、同じく7月27日までに納税者名、住所、納税者番号のみを記載したカラの修正申告書を提出して選択を行う。

最後に、別のNoticeによる追加緩和措置だけど、2018年1月1日以降に開始し2019年6月30日以前に終了している課税年度のNOLをCarrybackする際、既に課税年度終了から一年超の時が経過しているので、通常であればForm 1139やForm 1045で簡易手続きに基づく還付申請はできないところ、期限を6カ月延長を認めてくれるそうだ。3月決算の場合、2019年3月期がこれに当たるけど、2020年9月末までに手続きを行えば、簡易手続きに基づく還付申請が可能。この措置は2918年3月期の法人修正にかかわるNOLの措置と異なり、CARES Actには規定されておらず、行政府の判断・裁量に基づく英断。素早くかつ気の利いたガイダンスに感動。後は還付請求後、どれくらいのスピードで本当に還付されるか、が興味深い。確か、Form 1139は電子ファイルできなかったと記憶しているので(記憶なんでみんなちゃんと調べてね)、その場合はWFH状態でIRSの処理能力には限界があるだろうから、本来90日以内に処理される簡易手続きが、その通りスムースオペレーターになるかはかなり疑問だけど、こんな事態は想定されてないので多少の遅延は覚悟しないとね。

次回は軽く他の規定にかかわるNoticeに関して。

Tuesday, April 7, 2020

失業保険申請一千万人とGDP30%減の衝撃と「フェーズ3.5/CARES Act 2.0」

新型コロナウイルス対策フェーズ3となるCARES Actが可決するかしないかの頃から、更なる大型救済策となる「フェーズ4」策定が模索され始めている点は以前の「新型コロナウイルス対策法フェーズ3下院も通過し今日成立予定。関心は早くもフェーズ4に」で触れた。民主党を中心に大規模なインフラ投資を含む更なる財政出動を規定するような案が浮上していたんだけど、全米が政府の措置でロックダウンされていて誰もろくに外出できない状況で、インフラ投資で雇用創出って言われても、どうやってインフラ作るんだろう、っている基本的なところで何となく的が外れているような気がしてならなかった。そんなことよりもまずは感染や抗体テスト、ワクチンの開発に優先的に資金を投じるとか、病院その他の最前線で市民を守っている方たちに個人用保護具(PPE)とかを充実させるとかして、部分的にでも経済を再始動できるような体制作りに優先的にお金を使った方がいいのでは、って思ってしまう。素人考えなのかもしれないけど、失業保険手当とか企業にローンとかはあくまで急場を凌ぐための応急措置にしかならず、ワクチンができるまで1年超の期間に亘り、経済損失を国が全額補填し切れる訳はないので、ワクチンが開発される前の段階で徐々に最大限の安全を確保できるような投資を考えてもらいたい。

と思っていたら、何となくワシントンもフェーズ4ではなく、フェーズ3.5っぽい感じで急遽CARES Act 2.0を模索する方向に傾きつつあるようだ。というのも、先週の失業保険申請が700万を超え、2週間でなんと1千万人、元FRB議長のJanet Yellenが「第2四半期のGDPは30%減」というコメントをしたり、まさに「開いた口が塞がらない」としかいいようがない数字を記録し、更に感染増が今週と来週でピークを迎え、「パールハーバー」に匹敵する米国史上最悪の2週間になるというような状況を目の前に、事態を少しでも沈静化させる手を打つ必要が生じてしまっているからだ。

下院ではPelosiがCARES Actを拡張する形で、州、地方政府、小規模事業主、失業保険、ヘルスケアの最前線、等への援助、また場合によっては現金給付の第二弾、などを軸に調整中らしいし、上院でも早ければ木曜日にも250億ドル規模の救済法案が提出されるかもしれない。究極の救済策は新型コロナウイルスの感染を最小限に食い止め、一日も早く経済を再始動することだから、そんな対策にも十分な資金が供給されますように。

Saturday, April 4, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (5) NOLの換金価値?

NYCの感染状況が悪化する中、エンパイアステートビルは毎晩、真っ赤にライトアップされ、NYCが非常事態下にある点を嫌でも再確認させられる。定期的に白いビームが出て最前線で市民の安全を守るために命を懸けて戦っている緊急対応要員、First Responder、に敬意を表している。バレンタインデーとかに見る真っ赤なエンパイアステートビルとは異なり、毎晩真っ赤に光り続ける最近のエンパイアを見ていると、一日でも早く普通の色に戻りますように、って願わざるを得ない。Social Distancingが徹底していなかったタイミングの感染者が未だに増え続けているので、今週、来週が山場と大統領府は言っているけど、その後、本当にFlatten the Curveになってくれると皆、希望が見えてくるけどね。

製薬、バイオ、今ではタバコ業界も参加して治療薬、感染テスト、抗体テスト、ワクチン、等を時間との闘いで凄い勢いで研究・開発していると報道されている。ハイテク企業もWFHのネットワークを支えてるし、製薬とかハイテク業界ってBase Erosionとかで悪役になりがちだけど、彼らのイノベーションって元々リスキーなベンチャーなんで、たまたま当たって高い収益を上げられるようになったところだけを見て、Fair Shareを払ってないとか多くの税金を課そうとするのは長期的な政策として正しいんだろうか。BEPS 2.0どころではなくなってきたこのタイミングで、BEPS 2.0の大前提となっているポリシーを見直すいいチャンス。この点は別のポスティングで特集して少し考えてみたい。

で、NOLだけど、その昔、クイズダービーってTV番組があって、問題のいくつかは「3択」と言って、3つの選択肢から正解を選ぶパターンで、はらたいらと並んで3択は竹下恵子の正解率が高かった。で、NOLを3択改め4択の問題に変えてみると、「Cares ActでNOL100の換金価値は?」 「35」, 「21」, 「10.5」, 「ゼロ」、皆さん同じ答えになったでしょうか?巨泉風にいくと「いっぺんに開けます。せ~の」で・・・。

実は4つとも全部正解。それじゃもちろんクイズダービーには出題できないけど、ここが定量モデリングをしないと個々の納税者に何がベストが計り知れない理由。FDII、BEAT、Transition Tax、FTCとかを加味すると回答は無数になるけど、チョッと仮に無視して、GILTIだけの世界で考えるてみると、GILTI合算に影響しない形でTCJA前の課税年度にCarrybackできれば35の価値があり得る。TCJA後でもGILTIを相殺しない形でCarrybackできたり、Carrybackしないでも、将来にCarryoverできて、GILTI以外の所得を減額できれば21の価値があると言える。GILTI合算してる課税年度へのCarryの際の運命の分かれ道は、GILTI控除を規定するSection 250をどの程度減額させられるか、っていうところ。FTCを加味する前の状態でいくと、この度合いでNOLの価値は10.5~21の間で変動するものと考えられる。FTCを取っていない、というか取れていないGILTI合算課税年度にCarrybackして、NOLをGILTI合算の減額に費やしてしまうと、10.5の価値しかなくなる。さらに最悪なのは、トップラインでGILTI合算してGross Incomeは大きくなっていたものの、50%GILTI控除やFTCで元々GILTIに基づく米国法人税が生じていない課税年度にCarrybackするパターン。このパターンは前回のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (4) NOLとSection 163(j)規定と実務的な問題」でも触れたパターンになるけど、もともと法人税ゼロだったのにGILTI合算にNOLを無駄に消費するので、換金価値はゼロとなる。前回のポスティングでNOLがGILTIに使われるとGILTIが21%で課税されていることになると書いた点を換言してるだけだけど、NOLの価値っていう視点から考えると、こういう結果となる。

唯一グッドニュースがあるとしたら、GILTIをNOLで消す場合、大概においてNOLは米国内源泉の損失で構成されることが多いと思われ、NOLでGILTIを相殺する度にOverall Domestic Loss (「ODL」)アカウントが創出されることになり、後年、米国源泉の課税所得が生じるタイミングでODLをRecaptureしてGILTIバスケットを増額できることになるはず。ODLのルール的にはそうだよね?そうすると後年ODLをRecaptureする課税年度で、GILTIバスケットのFTC枠が大きくなって、CFCが高税率で法人税を支払っていると、米国源泉所得に対して課税されている米国法人税をFTCで減額することができることになる部分。でもこれはGILTIの基となるTested Incomeが高税率で課税されてないと実効性がない。

このように、NOLをGILTI合算額相手に使用しないといけない点が、NOLのFDIIやBEATに与える影響と並び、NOL使用時の大きな課題となるになるけど、CARES Actではその点にかかわる救済はない。GILTI合算額にNOLを使用しないオプションみたいな制度は無理なのかな。Transition TaxのSection 965にはTCJA時点で既にNOLを使用しないオプションが規定されていて、FTCを活用させてくれてNOLを無駄に使わないでもいい工夫がされてたんだけどね。CARES Actでも同様にTransition TaxとNOL使用は特殊な選択が認められている。同じようなアプローチがGILTIには規定されていない。Transition Taxは902のプールを使う最後のチャンスだったし、面白いことにその部分だけTCJA以前のフレームワークで課税されているので、特殊なのかもね。GILTIはFTCのCarryoverもCarrybackもなくて、毎課税年度、払い切りなんでその辺りのコンセプトが根本的に異なるってことなんだろうか。この期に及んでできないことはないと思うけど。

で、話しは少し変わって、チョッとだけNOLと支払利息の損金算入制限を規定するSection 163(j)の関係にも再度触れとくけど、CARES Act前の感覚から言うと、Section 163(j)に抵触せずに損金算入できたとしても、業績不振の課税年度に関して言えば、結局NOLが増えるだけのケースも多く、その場合、どっちにしても損金不算入額は無期限にCarryoverできるし、Section 163(j)でCarryoverしてる方が、将来、十分なATIさえあれば、80%所得制限がないことから、考え方次第では反ってそっちの方がいいのかも、っていうようなこともあり得た。CARES Actで状況は一変。Section 163(j)の使用枠は拡大されたけど、それでも業績が低迷して支払利息がSection 163(j)に抵触して損金不算入となると、NOLと異なりCarrybackは規定されておらず、そのまま将来にCarryoverするしかない。しかもNOLをTCJAの前の課税年度にCarrybackできれば、35%の換金価値があり得る一方、Carryoverは21%。結果としてできるだけ支払利息を損金算入してNOLを増額するのが得となるケースが多いことになる。ただ、NOLの換金価値自体も個々の事実関係次第な点は上述の通りなので、最終的にはここもモデリングの世界。アーニングス・ストリッピング規定と言われていた「旧」Section 163(j)には余剰枠自体の繰越が認められたけど、TCJAの「新」Section 163(j)には同様のコンセプトが存在しない。BEPSにも同じことが言えるけど、景気がいい時に議論される制度って、予想外の景気低迷時に使い勝手が悪い。この点もまた別の特集でね。

ということで、考えれば考えるほど、Cares Actも実務的な検討が増えてくる今日この頃でした。

Wednesday, April 1, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (4) NOLとSection 163(j)規定と実務的な問題

前回はSection 163(j)、その前はNOLにかかわるCARES Actの規定そのものの第一印象的な説明を試みたけど、その際、それらの恩典に関して納税者側で敢えて適用を選択しないオプションが用意されている点にも触れた。普通に考えると、恩典を自ら不適用にする、っていうオプションがあること自体、不思議に思うかもしれないけど、これが米国税務、特にPost-TCJAの世界の複雑性。ひとつの規定に関して、良かれと思って講じる策が他の複数の規定との絡みで最終的に不利に転じたりすることがあるからだ。そのため、TCJA下のプラニングは、必ず各納税者が置かれている個々の数字を使って複合的なモデリングを使用して行う必要がある。でないと「やった~、FTC最大限化したぜ!」って思っても「アレ、この追加BEAT何?」とか「どうして急に支払利息の損金不算入額が増えちゃったんだろう?」とか、苦労した挙句に結局好ましくない結果に陥ることがある。

一般的には、法人税率が21%に引き下げられたTCJA以降の課税年度に発生するNOLを以前の35%時代にCarrybackできるのは魅力的なのは間違いない。同じ100のNOLでも換金価値が全然異なるからだ。ただ、TCJA下の米国税務では、複数の規定に課税所得ベースの「制限額」が設けられているので、NOLをCarrybackするのはいいんだけど、結果として課税所得がなくなったり、減額したりすると、他の規定適用時の制限枠が減少したり消滅してしまうことがある。GILTIは最高で10.5%、FTCの適用で場合によってはゼロ%に近くなるけど、これは課税所得があっての話し。CarrybackしてGILTI合算額を減額するということは、GILTI合算額100%分NOLを使っちゃうってことだから実効税率的には21%の法人税を支払っているような状況。Carryback前の時点でGILTI控除とFTCでGILTI最終税負担はゼロだったとすると、急に21%で課税されたような状況。しかもCFC所在国での法人税に加えての追加税コストとなる。FDIIも同様で、「TCJAのおかげで外国向けビジネスの実効税率は13.125%で、アイルランド並みだな~」って喜んでたらCarrybackした瞬間に恩典なくなっちゃうしね。GILTIと同じでNOLでFDII適格の課税所得を消してしまうということは21%で課税されたも同然。

BEATだって基本的に通常の法人税との比較なので、当期利益とNOL Carrybackの関係次第では、今までBEATミニマム税の状況ではなかったものが、Carrybackすることで「あれ、なんでBEATミニマム税出てるんだろう?」とか。NOLは失効しない限りタイミング差異だけど、BEATミニマム税は払い切りなのでパーマネントコストだ。

また、Transition Tax合算年度にはCarrybackを適用しないオプションがあるって前々回のポスティングで触れたけど、実は元々のTransition Taxの規定にNOLは留保所得合算額には適用しない、っていうオプションが規定されていた。Section 965(n)選択として知られてるオプションだけど、CARES Actで認められるCarrybackをTransition Tax合算年度にも適用する場合も、強制的にSection 965(n)選択が行われたものとみなす、という規定がある。すなわち、Carryback時にTransition Tax合算年度まるまる対象外とするオプションを行使しない場合でも、Transition Tax合算とは関係ない他の課税所得との相殺は可能でも、留保所得合算額そのものにはCarrybackするNOLを充当できないことになる。CARES Actの強制Section 965(n)選択はCarrybackした金額のみに適用されるのか、それとも、合算年にかかわる従来のNOLも含めて適用されるのかは法文からは必ずしも明確ではない、と指摘する向きもなるみたいだけど、CARES ActでCarryback部分に関する規定だと考えている。いずれにしても、もともとTransition Tax合算額にNOLを充当したくないのは、NOLで減額しないでも、FTCでTransition Taxを減額することができるから。特にSection 902の間接税額控除はTransition Taxで使用するのが最後のチャンスだっただけに、NOLは別目的で温存し、Transition TaxそのものはFTCで消すというのが合理的なケースが多かった。CARES Act下でもそのような処理が可能になっている。Transition Tax合算以前の課税年度にNOLをCarrybackすると、FTCのCarryoverとか変わるだろうから場合によってはTransition Tax負担額が変わるようにも見えるし。Carryback期間の5年の途中でクロスボーダー課税が60年振りに地殻変動しているというPerfect Stormだね。

CarrybackでCash Flow的には一瞬得することもあるかもしれないけど、実効税率や、将来的なCash Flowを考えると不利になることがある。まるで、その昔、日本で会社から通勤費用として定期券代を支給してもらったのに、現金が一瞬増えて気持ちが大きくなり(?)、他の目的に使ってしまい、代わりに毎日切符買って通勤した結局損したみたいな状況(?)

それでもCarrybackの対象となる5年間に十分な課税所得が存在して還付申請できる場合はまだいいか。こんな状況になると流動性の確保が最重要で、実効税率とかに気を取られてるようなLuxuryはもうないかもね。Takeawayポイントは意思決定は、必ず複合的な定量モデルに基づくこと。

Sunday, March 29, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (3) Section 163(j)

前回は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (2) NOL」で、CARES Actに規定されるNOL使用制限緩和に触れた。80%の制限適用を一時停止し、繰り戻しを限定的に5年間認める、というもので、その骨子は比較的容易に理解できる。だけど、TCJAで元々NOL規定そのものが過渡期の状態にあったにもかかわらず、今回のCARES Actの登場でいきなりTCJAの規定がオーバーライドされてしまったのがCARES Actの規定が複雑な一因。また、元々の法文がイマイチだったので、TCJAの法文修正、すなわちTechnical Correction、を同時に手当している点も難解にしている。

例えば、元々のTCJAで規定されている法律施行日、Effective Date、を法文修正でアップデートしてる部分があるんだけど、TCJAのオリジナル法文では、80%所得制限は「2018年1月1日以降に開始する課税年度に適用」とだけ規定されていた。このオリジナル法文に加え、Technical Correctionでは「2018年1月1日以降の課税年度に発生するNOLが2017年12月31日以前の課税年度に繰り戻される際にも適用」と追記している。でもこれは、2017年12月22日にタイムトリップしたら、そう記載されるべきだったという話しで、CARES Actによる80%所得制限の適用停止により、別の部分でオーバーライドされる。結果として最終的にはCARES Actの新規定がルールになるんだけど、よく読まないと異なる取り扱いが並列して規定されているので不思議な規定に見え兼ねない。

で、NOLの話しはこれくらいにして、今日のテーマのSection 163(j)だけど、これもTCJAで導入された新法で、事業活動にかかわるネット支払利息は、他の税法の条件を充たして損金算入できる場合も「修正後課税所得(ATI)の30%」と「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内でのみ損金算入を認めるというもの。ATIはNOL適用前の当期課税所得にネット支払利息、199A(特定要件下で個人パススルーオーナーや個人事業主に認められる20%想定控除)、償却費用控除額を加算し直した金額。償却に関しては2022年1月1日以降に開始する課税年度からは加算対象から除外される。

2021年までは償却費用を加算できるので、枠が大きくてグッドニュースだけど、ATI算定時に加算対象とすることができる償却は順当な解釈的にはCOGSに資産計上されていないSG&Aの償却費用のみ。これは規則草案では明確にそう規定されている点だけど、草案自体には法的効果はない。なので規則がそのまま最終化されるまでは加算しても問題ない、というのは若干短絡的というか、あわてんぼうのサンタクロースだ。なぜかと言うと、この解釈は財務省規則の話しではなく、議会が制定したSection 163(j)の法文そのもので、加算対象と認められる償却費用は「any deduction allowable for depreciation, amortization, or depletion」に限定されているからだ。類似した考え方に、BEATを適用する際、COGSに資産計上するロイヤルティ等の費用は税法上は「Deduction」じゃないから、外国関連者に支払っているとしてもBase Erosion Paymentにはならない、という主張がある。これは今では公式見解となってるけど、Section 163(j)のAITの算定時も、COGSに資産計上される償却費は「Deduction」ではないので、加算対象としてはいけない、という財務省側の法文解釈は財務省が無理な主張をしているのではなく、法文を忠実に適用しているだけの話しで、かなり妥当なもの。Section 163(j)の規則が最終化される際に、財務省が法文をクリエーティブに解釈し直してくれて、この点にかかわる助け舟を出すことができるか興味深い。ただ、現時点で覚えておかないといけないのは、財務省規則草案がそう言ってるから加算できないのではなく、法律そのものの解釈として加算はできないという解釈が正しいのではないか、ということ。異論というか法文に異なる解釈を試みるケースはあり得るとは思うけど、決してSlum Dunkではないからね。

そんなSection 163(j)だけど、CARES Actでは,他の多くの規定同様、事業者の流動性確保目的で支払利息の損金算入制限を一時的に緩和している。法文によると、暦年2019年中または暦年2020年中に開始する課税年度のネット支払利息は、「修正後課税所得(ATI)の30%ではなく50%」および「Floor Plan Financing支払利息」の範囲内で損金算入が認められる。面白いことに納税者が50%を希望しない場合には、自らの選択で30%の適用が可能となる。なぜそんな不利な選択を・・・?と思われるかもしれないけど、TCJAの適用が複雑なのは、一つの制限に有利な取り扱いも他の取り扱いとの関連で総合的に考えないと不利になることもあるっていう点。

さらにSection 163(j)を複雑怪奇な規定としているのは、支払利息損金算入制限をパートナーシップレベルにも適用してる点。パートナーシップはパススルーで、他にも事業主体同様に取り扱われるケースもあるけど、原則はパートナーの集合体っていうのが一般的な位置付け。にもかかわらずSection 163(j)は、支払利息をパートナーにパススルーしてパートナーレベルで損金算入可否を判断するのではなく、パートナーシップレベルでいきなりこの判断をさせる。しかも、一旦パートナーシップで損金算入可否を判断し、損金不算入の支払利息が生じる場合には、当不算入額をパートナーシップが繰り越すのではなく、毎期各パートナーに配賦する。パートナーに配賦された不算入額が、翌年から単純に各パートナーの他の支払利息と同様に取り扱われて各々の制限枠内で使用できれば、それでもまだ簡単なんだけど、実際にはそうではなく不算入額が各パートナーに配賦された後、翌年以降に同パートナーシップ側で余剰枠(ETI)が存在する場合に、そのETIを各パートナーに配賦し、パートナー側ではETIの範囲で過去に配賦された損金不算入額を「リリース」する。リリースされて初めて、パートナーは自ら認識する他の支払利息同様に取り扱うことができる。すなわち、そうなって初めて制限枠と比較したりするゲームに参加できることになる。それまでは静かに「ベンチで待機」してるようなイメージ。

で、CARES Actではパートナーシップに特別というか、クリエーティブな規定を設けていて、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度には、緩和措置の50%の制限緩和規定は適用しない。すなわち、従来通りATIの30%を使用して制限枠を算定することになる。30%制限に基づきパートナーシップレベルで損金算入制限が生じる場合は、通常のルール通り、損金不算入額が各パートナーに配賦されるんだけど、配賦された後の取り扱いが変更されている。すなわち、パートナーに配賦された損金不算入支払利息の50%は、パートナー側の暦年2020年中に開始する課税年度の支払利息として取り扱われ、Section 163(j)の制限対象から除外される。なので50%は損金算入できることになる。残りの50%は通常の規定通り、パートナーシップから配賦されるETIに基づく通常のベンチ待機ルールに基づき損金算入の判断を行う。チョッと難しいけど、50%だけでもパートナー側で翌年に問答無用に損金算入できるのはいいね。何らかの理由でこの処理が好ましくない場合には、パートナー側で当処理の不適用を選択することができる。不適用を選択する場合、暦年2019年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しても通常のベンチ待機ルールが適用されることになる。また、暦年2020年中に開始するパートナーシップ課税年度に関しては、ATIの50%に基づく損金算入制限枠を計算することになる、と読める。

さらに、暦年2020年中に開始する課税年度は、当年度のATIの代わりに前年、すなわち暦年2019年中に開始する課税年度、のATIを使用する選択が認められる。背景としては、2020年に開始する課税年度は新型コロナウイルスの影響で業績がより落ち込む可能性があり、その場合にはATIが小さいとか、存在しないとかの理由で多くの支払利息が損金算入制限に抵触する。その場合には前年の比較的高いATIを基に損金算入額を計算することが認められる。パートナーシップにも前年ATIの適用を選択することが認められるけど、当選択は各パートナーではなく、パートナーシップレベルで行う。また、暦年2020年中に開始する課税年度が12カ月未満のShort Yearの場合、2019年のATIも同期間に対応するよう按分して使用する。

という訳で今日はCARES ActによるSection 163(j)改定でした。

Saturday, March 28, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (2) NOL

CARES Act成立から一夜明けた。CARES Actが緊急に手当てしようとしている大きな課題の一つに雇用問題があるけど、雇用環境の急激な悪化を物語っているのが米国失業保険の申請者数。歴史上、一番申請数が多かったのは1982年10月に記録された一週間695,000という数字だそうだ。一方、先週の申請者数は3,300,000だったそう。つい数週間前まで史上ベストの雇用環境だったんだから、凄まじく急激に状況が一変していることが分かる。まだ始まったばかりという説もあるし。CARES Actが一矢報いてくれるといいけどね。

前回は「新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (1) 2020 Recovery Rebate」で$1,200の現金給付制度に関して触れた。今日はNOLに関して。

NOLにかかわるCARES Actの規定は、事業者の流動性確保の観点から、NOL使用制限を緩和し、また繰り戻しを認めている2点が骨子。またついでにTCJAの法文にエラーがあった部分の修正と、新旧のNOLが混在している際にどのように80%制限を適用するべきか分からなかったので、法文を修正して分かり易くしている。

まず、NOL使用制限緩和だけど、TCJAで2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLは原則、使用年度の課税所得の80%を使用限度額とすることになっていた。CARES Actではこの制限を3年間適用停止している。すなわち、2018年~2020年に開始する課税年度にNOLが繰り越される、または繰り戻される場合には、80%制限は加味せずにNOLを使用することができる。また、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLが2017年12月31日以前に開始する課税年度に繰り戻される場合も同様に80%制限を考える必要はない。

で、このCARES Actの法律変更で、80%制限がキックインしてくるのは実質、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じるNOLを、2021年1月1日以降に開始する課税年度で使用するタイミングからになったことになるけど、元々TCJAで導入された法文ではどのように80%制限を算定するか分からず、近々に財務省規則が公表されてこの点がクリアになると言われていた。

どのように分からなかったかというと、TCJA以前の旧NOL、すなわち80%制限に抵触しない有利なNOLだけど、とTCJA以降の80%制限抵触新NOLが混在して繰り越しされてきて、それらの双方を使用する課税年度がある際、使用年の課税所得にどうやって80%を適用するべきか、という算数的な問題。TCJA導入直後から、その計算法が不明確という問題が指摘されていて、財務省やIRS内でも法文だけでは適用法が分からない、っていう点は認識していた。考え得るポジションの代表的なものには3パターンあった。最初の2パターンは80%制限枠そのものは、共に課税所得全額に80%を適用して決定するもの。その後、パターン1では、制限に抵触する新NOLのみと制限枠を比較して、使用可能NOLの金額を確定するという考え方。パターン2は制限に抵触しない旧NOLは使用制限そのものには抵触しないので自由に使用できるものの、制限枠が残っているかどうかの判断目的では、旧NOLも制限枠を食い潰していると取り扱う考え方。その場合、旧NOLが制限枠を超過している場合には、制限枠はゼロになってしまう。パターン3は制限が適用されない旧NOLを適用した後に残るネット課税所得に80%を乗じて制限枠を算定する、っていうもの。法文そのもののグラマー的な解釈としてはパターン1が妥当そうだよね、って個人的には考えていた。

で、今回、NOLの規定をアップデートする機会に恵まれたのを利用し、この点を明確にしようとしている。そもそも80%制限は2020年まで適用が停止されたので、2021年1月1日以降に開始する課税年度からの話しになるけど、そのような将来的な課税年度において使用可能となるNOLは、2017年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOL、すなわち旧NOLは全額、2018年1月1日以降に開始する課税年度に生じる新NOLは、使用年度の課税所得を旧NOLで減額した後に超過額があれば、その超過額の80%を上限に使用可能となった。その際に使用する課税所得は、section 199Aに規定されるパススルー事業所得にかかわる20%想定控除、およびsection 250に規定されるGILTI・FDIIは適用せずに計算するのは従来の通り。ということは考えていたパターンの3になるということだね。3つの中では最悪のパターンではなく、NOLミックスと課税所得次第では一番納税者よりの選択となることもあるので、まあまあウェルカムな法文アップデートって言っていいかも。

次にクライシス時にお約束の5年間繰り戻しだけど、2018年1月1日以降2020年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOLに関して5年間の繰り戻しが認められている。例外として、REITが認識するNOLは繰り戻し対象とならないと規定され、また以前REIT選択としていた法人が、後年に認識するNOLをREITだった課税年度に繰り戻しすることも認められない。さらにTransition TaxのNOLに関してはNOLの使用放棄とか選択があったり、それにより国内費用のFTC枠の配賦が難しかったりいろいろとあるので、Transition Tax目的でCFC等の留保所得をSub F合算している課税年度には繰り戻しをしない選択も認められている。でないと再計算大変だもんね。Transition Taxの計算とか、その際のFTC、NOLの使用放棄する際の加算金額のバスケット毎の費用配賦とか超複雑で、もう一回やり直すなんて考えただけで気分悪くなりそう。

次は元々の法文ドラフトエラーの修正に当たるけど、NOLの繰り戻しを撤廃した際に、2018年1月1日以降に「終了」する課税年度に生じるNOLから繰り戻しはなし、と規定されてたけど、これを本来は意図していた2018年1月1日以降に「開始」する課税年度より適用、と修正している。暦年が課税年度の米国企業にとってはどっちでも結果は同じだけど、3月決算が多い日本企業の米国子会社は2018年3月に生じるNOLが、急に繰り戻しできなくなり当時面食らったものだ。TCJA可決当時からここは間違いと指摘されていたけど、Technical Correctionが直ぐに通らずそのまま今に至っていた。この法文修正により影響を受けるNOL、例えば2018年3月期のNOL、はCARES Act成立日となる2020年3月27日から120日以内に繰り戻し、または繰り戻し放棄の選択をすれば、申告期限内に当該処理を実行したものと認められると規定されている。ということは、この期にNOLがあった納税者は7月25日までに修正申告をしなくちゃ、ってことだね。

ちなみにTCJAでNOLの繰越期限は撤廃され未来永劫使えることになったけど、TCJAの法文そのものは旧NOLの取り扱いに触れておらず分かり難いので、法文修正で「2017年12月31日以前に開始する課税年度に生じるNOLは20年の繰越期限があります」って確認を入れている。これらの法文修正は、Technical Correctionという位置づけなので、2017年12月22日に成立したTCJAに当初から規定されていたと同様の効果を持つことになる。

NOL結構複雑だね。次回はSection 163(j)かな。

Friday, March 27, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3「CARES Act」 (1) 2020 Recovery Rebate

今日、2020年3月27日、トランプ大統領の署名をもって成立したCARES Act。新型コロナウイルスの影響で事業継続に支障が出ている雇用主に対する雇用継続援助、解雇されたりレイオフされた従業員に対する失業保険の拡充、貸付を通じた事業主の流動性の確保、深刻な打撃を被っている産業に対する公的支援、医学・ワクチン・医療機器分野に対する集中投資、等、税務以外の複雑な救済策が山盛り規定されている。各産業やそのロビイスト、またどの州が効果的にDCの議員に働きかけて支援を取り付けたか、という角度からの分析はかなり興味深いんだけど、それらは他のメディアや専門家に任せておくとして、今回からCARES Actの税務関連規定を簡単に見てみたい。

NOLや163(j)だけでも結構面白い検討になるんだけど、まずは一般的にCARES Actの目玉規定と言われている「現金支給」に関して。実は2日前にGrassleyが税務規定の概要シートを公開した際に速報した「新型コロナウイルス対策法フェーズ3の税務関連規定Sneak Preview」時点では、測り知れなかった詳細が法文には規定されている。法律だから当然だけどね。Grassleyの概要を読んだ際に、2008年のブッシュ還付小切手と異なり、今回は2020年の個人所得税申告書で、受取額をクレジットしたり調整したりする面倒がなさそうでよかった、みたいなコメントをしたんだけど、そんな楽観は大間違いだったので愕然。やっぱり今回も還付前払いという位置づけになっている。まさしくブッシュ還付小切手再来だ。個人所得税の作成を担当する者、特に非居住者だったり、昨年は未だ米国に赴任してなかったりする納税者の申告書作成担当者は誰がいくらの小切手受け取ったのか、とかトラッキングするの大変なんだよね。1040チームお疲れ様です、って感じ。

で、「2020 Recovery Rebate」と名付けられたこの規定。基本的には2020年所得税に対する税額控除という形で支給というのが法的な骨子。2020年課税年度の税金に対する税額控除だから、申告書を出すのは2021年4月15日。ただし、当税額控除を後述の前払還付という形で受け取る者は、この税額控除を減額するが、当減額はゼロを下限にするということになっている。つまり大概のケースでは近々に入金される前払還付を受け取ることで、2020年の申告時の税額控除はなくなるということになる。また税額控除の減額はゼロを下限とすることから、前払還付または2020年に計上できる税額控除のいずれか高い方の恩典を享受できることになる。例えば2020年に所得がなくても、条件次第では税額控除の恩典を享受することが可能となる。

2020 Recovery Rebateを受け取る権利がある「適格個人」は、米国市民または米国居住者で、他の納税者により扶養家族と取り扱われていない者。米国居住者というのは連邦税法上の定義に基づくので、グリーンカード所有者、または3年間の米国滞在日数の加重合計に基づく物理的テストを充足する者となる。一義的には2020年の税額控除の話しなので、2020年に居住者であれば、2019年以前の居住ステータス如何にかかわりなく受給権が生じるように見える。また2020年には非居住者になってしまっているのでもはや適格個人でなくても、後述の前払還付は2018年や2019年の情報に基づいて交付されるので、その場合には貰い得(?)になる設計のように読める。

さらに、2020年に初めて米国通年居住者になる例は法律の適用に不明な点はないとして、税務上、居住期間と非居住期間が存在するDual Status申告書の場合はどうなるんだろうか。2020 Recovery Rebateの法律上の位置づけは税法のSubchapter AのPart IV、Subpart Cに属することから、2020年に居住期間が存在すれば、Dual Statusでも適格に見える。米国に年の後半に赴任してきて、税務上は年間を通じて非居住者となっている場合には不適格だろうから、そうなるとSection 7701(b)(4)のFirst Year Electionの要件を充足してれば、ElectionするとDual Statusに生まれ変わるから、急に適格となる。さらに配偶者が日本にそのまま滞在しているケースでは、米国に居る当人がFirst Year Electionをした上で、または日数テストで年の後半居住者になるのであれば、Section 6013(g)選択をすることで配偶者分まで受け取れることになる?配偶者にSSNがなくITINの場合にはどうなるんだろう。Grassleyのシートには「就労権を有するSSN所有者」と読める条件が挙げられていたけど、法文はあくまでも米国市民と居住者となっている。

このように、クロスボーダー絡みの所得税に係わる適用は、普通の米国市民と異なり、追加検討が多いけど、$1,200のためにフライング気味に変な選択して、本来であれば米国で非課税の外国源泉所得とかが全世界課税になって、FTCでその障害を取り除けないとか、$1,200以上のダメージを被る本末転倒な話しとならないようにね。

$500の対象となる適格子女は、納税者と年の半分超同居し、生活費の半分超を子女本人が自己負担していない16歳以下の米国市民または米国居住者。

また、この手の規定に付き物と言えるフェーズアウト規定があり、AGIと言われる特定の費用を総所得から差し引いた金額が$75,000(単身)$112,500(Head of Household)、$150,000(夫婦合算)を超える場合には、支給額は超過額の5%相当額が減額される。$1,200を5%で割ると$24,000だから、単身の場合は$99,000、夫婦合算の場合は$174,000のAGIがあると恩典はないという計算となる。

で、2020年の税額控除だと、2020年申告書提出時に対象額分の減税があったような形になるけど、それは来年の今頃の話しなので新型コロナウイルス対策としては意味がなく、そこで当規定の神髄と言える「前払還付」フィーチャーが登場する。誰にいくら前払いするか、っていうのは2019年の所得税確定申告書を参照して決める。法的には、2019年に今回規定される2020 Recovery Rebate規定が存在したとしたら、受け取ることができたであろう税額控除額を2019年のみなし追加納付額と取り扱う。結果として2019年に過去訴求する形で過払いが生じ財務省が速やかに無金利で前払還付として支払う、という複雑な設計。還付が原則だけど、未払税金がある場合には相殺すると規定されているように見える。また、ブッシュの前払小切手と異なり、2018年または2019年の申告書上で納税者が振込用の銀行口座情報を特定している場合には、還付は電子送金で行われるそうだ。大丈夫かな。

さらに、2019年に申告書を提出していない納税者に関しては、代わりに2018年の所得税確定申告を参照してくれるそうだ。2018年も申告書を提出していない納税者に関しては、社会保障ベネフィット支払額報告書(様式SSA-1099)または鉄道従業員退職年金ベネフィット支払額報告書(様式RRB-1099)を参照して同様の処理を行ってくれる。これで、公的年金生活で申告書を出していない方にも速やかに還付が入金されるということになる。 なかなかよく考えてあるけど、結構複雑だ。

また、前払還付を受け取ったにもかかわらず、2020年の申告書で税額控除を減額していないケース、すなわち二重取りのケースは、「単なる計算間違い」という範疇で処理されると規定されており、その場合にはIRSからの最初の通知をもって更正通知同様の扱いとなる。財務省側の記録では支給したことになってるけど、実際には受け取ってないとか、受け取ったけど忘れてしまったとか、申告書作成時の確認作業は結構負荷が高い。

ということで、たかが現金給付、されど現金給付という感じでした。

新型コロナウイルス対策法フェーズ3下院も通過し今日成立予定。関心は早くもフェーズ4に。

下院議長のNancy Pelosiの80歳の誕生日プレゼントになるはずだった「CARES Act」の成立が、Thomas Massieが定足数が足りるのか、とか下院フロアで実際に審議するとか、この期に及んで騒がせてくれたので、多くの議員がキャンセル相次ぐ国内便を乗りついて各州からDCに再度戻ってきたりしてバタバタして遅れていた。結局、最終的にはPelosiの狙い通りVoice Voteにて先程無事に可決された。トランプ大統領は速やかに署名するだろうから、Peolsiが80歳+1日を迎える日に米国市場最大の救済パッケージが成立することになる。McConnellにしてもPelosiにしても、あのエネジーには脱帽する。

税務に係わる大枠の内容は前回のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3の税務関連規定Sneak Preview」で触れているので、次回は、特定の規定に絞って若干詳細を検討してみたい。2兆円つぎ込んでも、あくまでもパッチワークにしか過ぎず、全国的Lock-Downをいつどのような形で解除できるか、に加え早くもフェーズ4の話題で持ち切りだ。国が破産する前に経済活動の一部でも再開できるようになることを願いましょう。

Wednesday, March 25, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3上院ようやく可決

ここ数日ヒヤヒヤさせてくれた新型コロナウイルス対策法フェーズ3だけど、さっきようやく上院で可決したというニュースが届いた。なんと満場一致。100対ゼロではなく、自己検疫している議員もいるから96対ゼロだったそうだ。ここ数年、議会はImpeachだの何だのと、いつも党間の揉め事ばかりだったので、超党的な法律を見るととてもうれしい。ただ、新型コロナウイルスというとんでもない共通の敵が現れないと団結できないんだったら、一層のことImpeachとかサーカス見てる方が平和だったな~、って思ってしまう。エイリアンでも攻めて来たら地球上の争いもなくなるのかな。そう言えば、Let It Beセッションでバンドメンバー間で揉めてたThe BeatlesもBilly Prestonがゲストで登場してからはBehaveしてたもんね(あんまり関係ない?)。後は下院。そしてトランプ大統領。トランプ大統領は余り賛同している感じはないけど、Mnuchin長官が根回ししてるんだろうか。根回しできるような相手じゃないか。まあVetoはないだろうから後は下院のPelosiの腕前に期待ってことだね。

新型コロナウイルス対策法フェーズ3の税務関連規定Sneak Preview(Downward Attribution例外復活ならず)

$2T、すなわちザックリ200兆円相当にのぼる新型コロナウイルス対策フェーズ3が、5日間に亘る喧喧囂囂の議論の末、上院両党および大統領府で基本合意された旨をMitch McConnellがDC時間水曜日早朝に当たる午前1時37分に公表した点は昨晩「200兆円新型コロナウイルス対策法フェーズ3合意」で速報した。$2Tのパッケージは米国の法律としても最高値。McConnellが「戦時中の法案と実質同様の母国への投資」と位置付ける超大型Rescueプランだ。

前回、上院を通過しなかった月曜日のバージョンと異なり(「新型コロナウイルス対策法フェーズ3法案に潜むTCJAテクニカル訂正規定 – Downward Attribution例外復活その他」を参照)、法文そのものがリークされていないのでTechnical Correctionの行方等、分からなかったんだけど、ついさっき上院財政委員会のChuck Grassley(同じChuckでもSchumerじゃないからね)がフェーズ3の税務関連の規定を公表した。

ちなみに月曜日の上院法案の名称が。「Coronavirus Aid、Relief、and Economic Security Act」だったので、略は「CARESA」かな?って書いたけど、そうではなく「CARES」Actとなるそう。なるほどね。米国の法律はアクロニムとして読んでどうなるか考えて命名されることが多いので、CARESAはチョッと車みたいでぴんと来なかったんだけど(それはPorscheのCarreraだね)、Caresだったんだね。よく考えるね。今日、上院を通過するバージョンも同じ名前なのかな。

で、上院はようやくというか、無理やり仕方なく一枚岩になれた感じだけど、これから下院も通過させないといけない。民主党内の異なるイデオロギーに基づく各派をどうやって一致団結させるかはNancy Pelosiの腕の見せ所。今回、上院で調整に手間取った一つの理由に、大統領府代表で交渉を一手に請け負っていた財務長官のMnuchinが、フェーズ2のFamilies First Act可決時に、最終段階で民主党に妥協してSick Leaveの規定を知らぬ間に(?)変更した点を嫌い、上院共和党議員が徹底的に法文内容を検証した点が報道で指摘されている。

上院リーダーのMcConnellにしても下院議長のPelosiにしてもいざとなると政治家としての力量を見せつけてくれる。ちなみに上院Minority LeaderのChuck Schumerは今回のフェーズ3に基づくビジネス支援の対象から、大統領、副代表、議員、閣僚、に支配される主体は除く規定を入れた、と誇らしく語っていたけど、要はトランプ系の会社には何の支援もないということ。

で、Grassleyが公表したシートによると税務関連の規定は大概において予想通り。低所得からミドルクラスまでの就労権を伴うSSNを所有する納税者を対象にした$1,200の「Recovery Rebate」。所得制限は単身、Head of Householdの場合には$75,000、夫婦合算の場合には$150,000で、2018年または2019年の確定申告書ベースで判断するそう。ブッシュ政権の還付前払いではなく、本当のRebateなので、後の税金と相殺とかそういうことではなく手続きは楽。また子女一人当り$500の追加Rebateがあるので、4人家族だと$3,400となるはず、とのことだ。

他にも、雇用の確保、事業主が当面必要とする資金確保、流動性の補填をサポートする規定が続く。失業保険カバレッジの拡大、適格退職金プランからの引き出しやローンにかかわる制限緩和、慈善団体への寄付金控除制限枠の緩和、学費ローンの雇用者による非課税返済、雇用者による人材リテンションにかかわる給与コストの50%の税額控除化、雇用者によるPayroll Taxの支払延期、パススルーや個人事業主の事業損失使用制限の緩和、過年度の支払ったAMTの早期還付、などが含まれる。

で、期待のNOL使用制限緩和だけど、2018年、2019年、2020年に開始する課税年度に生じるNOLは5年間の繰り戻しが認められ、80%所得制限の適用一時停止。またSection 163(j)の支払利息損金算入制限に関しても、予想通りEBITDA x 「30%」の枠が、2019年および2020年課税年度に関して「50%」に引き上げられる。

で、肝心のTechnical Correctionは、と言うと・・・。大ショック。唯一生き残ったのは即時償却の対象となるはずが法文ドラフトエラーで適用から漏れていた適格内装にかかわる修正のみ。Downward Attributionのクロスボーダー課税の適用例外とTransition Taxにかかわる還付制限の緩和はどこにも見当たらない(泣)。McConnellが公表した共和党案にはしっかり入っていたのに。民主党が大企業に甘いって内容勘違いして、交渉過程で削除されてしまったのだろうか。元々、立法趣旨に沿わない形で法文が最終化されてしまった間違いで、それを基にみんな苦労してるんだけどね。理不尽なGILTI合算とかこのまましばらく継続ってことなんだろう。

ということで、とりあえずSneak Previewでした。

Tuesday, March 24, 2020

200兆円新型コロナウイルス対策法フェーズ3合意

議会とMnuchinが代表するトランプ大統領府は$2Tに上るパッケージに合意した様子。先日のポスティング「新型コロナウイルス対策法フェーズ3法案に潜むTCJAテクニカル修正規定 – Downward Attribution例外復活その他」で触れたTechnical Correctionは生き残ったでしょうか?まだ原文見てないので何とも言えないけど、大企業への「Slush Money」と勘違いされて削除されてないといいんだけど。これから両院で投票、トランプ大統領の署名を経て法律化される予定。Technical Correctionの運命やいかに。

Sunday, March 22, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3法案、上院通過困難に

昨日のポスティングで触れたコロナウィルス対策法第三弾の共和党上院法案「Coronavirus Aid、Relief、and Economic Security Act」は両党およびMnuchinの精力的な交渉にもかかわらず上院民主党の支持を取り付けることができず白紙に戻る勢い。争点はいくつかあるらしいけど、代表的なのは例によって「Corporation」、大企業に甘すぎる、というもの。大企業は悪者になりがちだけど、機能不全の米国において、市民へのサポートの多くは大企業の努力によるもの。アマゾンがなかったら多くの人の生活に支障が出るだろうし、アマゾンは雇用環境が急激に劣化する中新規雇用中。ウォルマートだってフル回転だし、Googleもウィルス対策関係のサイトを立ち上げている。VerizonはWFHでみんなのインターネットが途絶えないように2カ月間、アクセスを保障してくれてるってことだし。製薬企業はワクチン、治療薬を開発をフルスピードで進めている。航空会社だって数人しか搭乗しない国内便を律義に飛ばしてくれているし。あれ、燃料代も出ないだろう。こんなに社会に貢献している有能な多くの米国企業。この期におよんで余りいじめ過ぎて、米国大企業をダメにしないようにね、って感じ。米国大企業が弱体化した状態で次の新型ウィルス来たら、これらのこと政府が管理できるとは思えず、感染者数がトラックできないどころか、毎日の生活も成り立たなそう。大変なことになるよね。

で、上院法案が通らないということは、Downward Attributionの撤廃、適格内装の即時償却未適用、もそのまま残るってことなのかな。Downward Attributionの例外復活も大企業へのGoodiesって勘違いされているのかもね。まあ、2年前に撤廃され、Transition TaxやGILTIに多大な影響を与えてきたTCJAの規定だから、今さらなかったことにするっていうのも、その間に再編とかしたケースもあるだろうし、それはそれで論争の的かもしれないけどね。憲法上の問題も出てきそう。

ということで、新しい法案はどんなものになるのでしょうか。それとも現法案の一部を手直ししてProcedural Voteに持ち込むのかな。TCJA Technical Correctionが気になるけど、月曜日の市場が開く前に吉報を届けないとマーケットの更なる暴落も。何とか両党力を合わせて有益な法律が可決されますように。

Saturday, March 21, 2020

新型コロナウイルス対策法フェーズ3法案に潜むTCJAテクニカル修正規定 – Downward Attribution例外復活その他

コロナウィルス対策法の第三弾が近日中に可決される予定だっていう点は前回のポスティング「新型コロナウイルス対策法第二弾可決で米国は次の「ピラー3」突入」で触れたけど、Mitch McConnell率いる上院共和党が第三弾法案を提出した。「Coronavirus Aid、Relief、and Economic Security Act」だ。略して「CARESA」かな?23ページの法案とは言え、コストは2Tドルに近づいていると言うことだから、1ページ当たり100Bドル(10兆円!)という高価な法案だ。

それにしても昨日まで$1Tと言われていたのに、各産業を代表するロビイストたちが暗躍し、より広範なセクターに高額の公的支援をすることになっているかもしれない。また民主党が譲らない失業保険の拡充も大きなコストとなる。州政府が、レストラン、バー、ジム、等の営業を禁止し、市民に外出しないよう促しているんだから、公的支援が必要な産業や失業保険が必要な個人も後を絶たないだろう。NewsomeにしてもCuomoにしても、経済的コストは覚悟の上、苦肉の策として究極のDraconian策を打ち出しているだろうけど、どこかで何とかしないとね。Q2はあきらめるとしてQ3には復活して欲しいものだ。

で、対策法第三弾、税務的には、「Recovery Rebate」と名付けられた適格納税者に対する1,200ドルの現金支給、申告書提出期限の7月15日への変更、慈善団体への寄付金一部のAbove-the-Line控除や控除枠の拡充、予定納税や給与税の支払い遅延、と並び、前回から触れているNOL使用時の80%所得制限の2020課税年度における適用一時停止、Section 163(j)の支払利息損金算入制限のEBITDA x 「30%」の枠を2019年および2020年課税年度に関して「50%」への引き上げ、等、予想された内容のGoodiesが並んでいる。

で、そんな中で法案を見てビックリだったのが、TCJA絡みの複数の規定にかかわる修正法案(Technical Correction)が盛り込まれている点。中でもナンとTCJAで撤廃されていたSection 958(b)(4)、すなわち外国法人がCFCに当たるか、また米国人が外国法人の「米国株主」に当たるかの決定時に外国人から米国人には持分がみなしでDownward Attributeされてこない、という従来の有益な例外規定が復活することになっている点。さらにその上、Section 951Bという条文を新設して、元々達成したかった立法趣旨をより厳密かつ狭義に規定した形でのDownward Attributionの適用を規定しているのだ。Technical Correnctionなので、TCJAの発効時に過去訴求して適用となる。2年半も経っているのに。

TCJAは、ご存知の通り2017年12月に電光石火の早業で可決されたことから、法文そのものが必ずしも立法趣旨を反映していない条文が存在する点が可決当時から指摘されており、可決後早々にTCJA立法立役者の張本人である下院歳入委員会長のBrady自らが修正法案(「Technical Correction」)を草稿していた。修正が必要と認識されている規定の代表的なものが、他でもない、従来存在していた「Downward Attribution例外規定」の全面撤廃にかかわるものだった。

チョッとおさらいしておくと、米国で法人に対する持分を論じる際、大別して、直接持分、間接持分、みなし持分を考えないといけないことが多い。みなし持分というのは実際には自分は所有していないけど、自分と何らかの関係にある者が所有している持分をあたかも自分が所有しているかのように取り扱うというものだ。その意味で間接持分、すなわち自分が所有している事業主体が所有する他の事業主体の持分を間接的に所有しているかのように取り扱う規定、はみなし持分とダブルけど、みなし持分はもっと広範で、特定の家族メンバーの所有している持分がAttributeされてきたりする。中でもチョッと直感的に分かり難いのがDownward Attribution。法人に関しては、50%以上の株主が所有する持分は自分が「全て」所有しているかのように取り扱われる。例えば50%ピッタリ自社Xを所有する株主が他社Yの100%株式を所有している場合、自社Xは他社Yの100%をみなしで所有しているように取り扱われる。パートナーシップに至っては、どんなに少数の持分でもパートナーが所有している株式は全てパートナーシップがみなし所有していることになる。例えば、5%しかパートナーシップXの持分を所有していないパートナーがY社株式100%を所有している場合、パートナーシップXはY社の100%をみなしで所有しているように取り扱われる。遺産や信託に関しても同様に受益者からの広範なDownward Attributionが規定されている。また、みなしで所有していると取り扱われる持分は、一定の例外を除きそこからさらにAttributeされていくのでたちが悪い。

このDownward Attributionそのものは、今も昔もそのまま存在し続けてるんだけど、クロスボーダー課税の検討局面、すなわち外国法人がCFCなのか、とか米国人が外国法人の10%持分を所有する米国株主なのか、とかの判断時には、従来は、外国人が所有している持分を米国人がDownward Attributionを通じてみなし所有しているとは取り扱わない、というとても有益かつ常識的な例外規定が存在していた。Section 958(b)(4)だ。TCJAはインバンド企業のCFCに対するDe-Controlling、例えば米国子会社が所有する100%CFCの51%持分を日本の親会社に譲渡して、外国法人をCFCでなくしてしまうような取引、等を阻止するため、Downward Attribution例外規定をまるまる撤廃していしまい、結果としてDownward Attributionがクロスボーダー課税の全ての局面で取り込まれることになってしまった。Sub Fに加えてGILTIが導入されたり、Transition Taxが規定されたりしたので、その適用はDe-Controlling取引等を取り締まる目的を大きく逸脱してしまったのだ。それに気づいた議会は早速、Technical Correctionドラフトを公表したが、後の祭り。TCJAそのものは予算調整法を利用して共和党だけで可決できたけど、Technical Correctionは通常の法律通り、上院にて単なる多数決ではなく60票の賛成が必要なので、民主党の賛同が不可欠。コロナウィルス感染という共通の敵が現れるまで、弾劾裁判だの何だのと党派の戦いに忙しかったので、とても可決の見込みはたってなかった。

今回、コロナウィルス対策法第三弾の法案で、この部分のTechnical Correctionをチャッカリ取り込んでいるのは賢い。この修正はもちろんコロナウィルス対策とは関連はないに等しいけど、Technical Correctionのみでの可決は不可能に近い政局の中、可決Mustとなるコロナウィルス対策法案に盛り込めば、修正が法制化できるからだ。

で、具体的には「Downward Attribution例外復活」とかなり直接的なタイトルで規定される修正規定は、従来のSection 958(b)(4)をそのまま甦らせている。一語一句そのまま。なつかしい~。夢のようだ。そして、更にSection 951Bという条文を新設している。Section 951っていうのは元々Sub F合算を規定している条文で、Section 951Aはお馴染みGILTI。この「A」とか「B」って意味深に聞こえるかもしれないけど、実は特に大きな意味はなく、951に準じる規定なんだけど、952とか953が既に取られているので、無理やり951と952の間に押し込んでいるだけの話し。

Section 951Bは、基本Downward Attributionは適用しないけど、特定の取引でDownward Attribution例外が濫用されていると思われる局面に限定して、Downward Attributionを適用していると同様の効果をもたらす面白い規定になっているように見え、BradyのTechnical Correctionドラフトに規定されていたSection 951Bと同様に見える。Downward Attributionを適用したとして、外国法人の50%超の持分を所有することになる米国人を「Foreign Controlled United States Shareholder」と定義して、通常の規定、すなわちDownward Attributionは不適用、で判断したらCFCにはならないけど、Foreign Controlled United States Shareholderを米国株主として取り扱うとするとCFCになる外国法人を「Foreign CFC」と定義している。その上で、Foreign CFCやForeign Controlled United States ShareholderにはSub FやGILTIを適用するっていうことみたいなんだけど、従来通り、直接・間接の持分がなければテクニカルにはSub FやGILTIの対象となるケースでも、実際の合算は生じない。

ちなみにSection 958(b)(4)と並び、法文エラーでSection 168(k)即時償却の対象外となっていた適格内装資産への即時償却適用、およびTransition Taxの支払いにかかわる還付制限の緩和もTechnical Correctionとしてしっかり含まれている。どさくさに紛れて結構見せてくれるね。このまま可決するのかな。