Sunday, July 19, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(11)

前回のポスティングでは間接税額控除の算定の際に米国多国籍企業が「日常的に」利用している「High Tax Pool」を利用したプラニングについて比較的詳しく話した。その中で、米国のEarnings算定目的で、外国企業の買収時にSec.338(g)選択をする局面がある点に触れたが、そのメカニズムについてもう少し突っ込んで欲しいというリクエストがあったので今回はその部分に関して書いてみる。

*株式取得 ⅴ.資産取得

一般的な話として、企業買収方法は大別して(言うまでもないが)、株式取得と資産取得となる。以前のポスティングでも再三触れている通り、株式取得は一般に株主レベルで一回課税され、法人からの資産取得は法人レベルで課税され、その後、株主に税引き後の売却対価が分配される時点で株主レベルで再度課税され、二重課税となる。その代わり、資産取得の場合には取得側で資産の税務簿価が時価にステップアップする。しかし、沢山の事業資産、負債、契約関係を他社に移管させる手続きは、第三者の同意を必要とするようなケースもあり、株式買収と比べると容易ではない。また、買い手側で簿価のステップアップがあるとはいえ多くのケースでその税務上の恩典は減価償却、Amortizationを通じて長期に実現される一方、売り手側では資産売却益に即課税されることを考えると、特別なケース(売り手に繰越欠損金が沢山あるようなケース)を除いて現在価値ベースでは不利となる。

*Sec. 338選択

実際に事業資産を移管させるのが手続き的に面倒なことから、買収そのものは株式買収であるにも係らず、米国税務目的だけで「あたかも資産移管」があったかのような取り扱いを選択することができる。これがSec.338選択だ。

Sec.338選択には「通常のSec.338(以降、Sec.338(g)という)」と「Sec.338(h)(10)」の二つがある。この二つの規定は「全く異なる」別の選択であり、ここではSec.338(h)(10)には深く触れない。簡単に言っておくとSec.338(h)(10)はもし本当に売り手側が資産を売却して、清算されたとしても二重課税が生じない局面でのみ使用できる。すなわち、本当に資産を売却しても二重課税がないので、Sec.338選択をしても二重課税にならないように規定されている。この点は通常のSec.338(g)選択と大きく異なる。

具体的には、Sec.338(h)(10)は、基本的には買収される法人が連結納税グループの子会社である、実際には連結納税していないが連結納税を選択できる条件を満たしているグループの子会社である(この場合は連結グループ内の法人に直接80%持分を所有されている必要がある)、または買収される法人がS法人である場合にのみ選択が可能だ。Sec.338(h)(10)は二重課税とならずに買い手側でステップアップを実現できるため恩典がある。売却側の株式に対する税務簿価が売却対象となる法人の資産税務簿価と比べて高いケースを除き、通常は選択をする方が買い手にとってはもちろん、売り手にとっても(買い手の享受する恩典のいくらかを売却価格に反映させることができるため)も得となる。

米国企業が外国企業を買収する局面ではSec.338(h)(10)は、外国企業が上の条件を満たさないので適用がない。

通常のSec.338(g)選択は異なる。Sec.338(g)選択は株式を売った側は単純に株式売却のままの取り扱いとなりキャピタルゲイン・ロスが発生する。しかし、買収された法人そのもので「みなしの資産売却」が発生する。すなわちターゲット法人Tは自らの資産を新規法人である「新T」に売却したと取り扱われ、旧Tは資産売却益を認識し消滅する。この過程で旧Tが持っていた繰越欠損金その他の属性はなくなってしまう。

したがって、Sec.338(g)選択をすると新Tは税務簿価をステップアップさせることができるが、旧Tでその分全額をゲインとして課税されるので現在価値ベースで意味がない。旧Tに繰越欠損金があり、ゲインと相殺できる場合には検討されることもあるが、一般的に米国内の買収局面では利用されることが少ない選択だ。

*外国企業買収とSec.338

しかし、買収対象法人が外国法人の場合は事情が異なる。外国法人が外国に持つ資産の売却益は一般に米国では課税されないため、外国法人の株式買収に関してSec.338選択をして資産売却から発生するみなしゲインには米国での税務コストはない。Sec.338選択はあくまでも米国税務目的のみであることから、このゲインが外国法人の設立国で課税されることはない。となると、売却側でのゲイン課税というダウンサイドなく、米国税務目的で税務簿価をステップアップできる。ステップアップした資産(Goodwill等の無形資産を含む)はその後のEarningsを圧縮し、前回のポスティングで触れたようなプラニングが可能となる。

ただし、外国企業が支店、恒久的施設等を介して米国事業に従事している場合(ECIがある場合)、米国の不動産持分を有している場合、また買収前に米国CFCであったり、米国の株主がいた場合、等にはSec.338選択により米国での課税関係が生じることもあるので注意が必要となる。

Monday, July 13, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(10)

前回のポスティングでは間接税額控除を算定する上で必要となる3つの金額のうち、米国のルールに基づいて確定されるEarningsに焦点をあててみた。今回はそのEarningsの算定を利用して展開される「High Tax Pool」タックス・プラニングの例に触れる。この点が理解できれば今回のオバマ政権の改定案の狙うところも理解できるはずだ。

*米国Earningsを圧縮することによるマジック

米国企業が外国企業を買収する際に支払われる買収価格はプレミアム分の上乗せがあることが多いため、買収価格は外国企業の簿価合計より高いことが多い。

もしも買収価格に準じて買収された外国法人が持つ資産の(米国税務上の)税務簿価をステップアップすることができれば、米国税務ルールで行うE&P算定目的ではより多くの減価償却、Amortization費用を計上することができ、E&Pは圧縮される。

例えば、米国法人Mが2009年1月1日に外国法人Aの株式100%を5,500で取得したとする。Aの資産簿価を1,000とし、差額の4,500はGoodwillのような無形資産の価値に基づくものであるとする。Aの設立国では1,000の簿価を基に減価償却の計算を継続し、減価償却とAmortization以外の課税所得の算定法は米国E&Pルールと同じだと仮定する。減価償却、Amortization前の課税所得を仮に500として、Aの設立国では1,000の資産に対して100の減価償却費用が認められるとすると、Aの設立国での課税所得は400(500-100)となる。Aの設立国の法人税率を20%とするとAは80の法人税を納めることとなる。

もしも米国企業による外国法人の買収時にSec. 338選択のような技を使い((h)(10)ではない普通の338(g)選択 - ECIまたは米国不動産がなければ普通の338を選択しても外国法人側で米国課税はない)、AのE&P算定目的でGoodwillに対する簿価4,500を認識することができれば、AのEarningsを劇的に圧縮することができる。例えば4,500に対して15年でAmortizationを計上することができれば、2009年の米国税務上のAのEarningsは課税所得に比べて300(4,500/15)少なくなり、結果として100(400-300)となる。さらにここからAの法人税を差し引いた最終Earningsはたったの20となってしまう。Aの法人税は米国E&Pの算定に影響を受けることはなく、Aの設立国の規定で算定される80のままだから米国目的ではAの実効税率はナンと80%だったという算定結果が出る。すなわち、「Earnings = 20」、「外国法人税 = 80」となり、これをそのまま間接税額控除算定に適用するとかなり面白いことが起こる。

例えば将来的にMはAから100の配当を受け取ったとする。仮に上の数字だけに基づいて試算をすると、この配当100に関して、Aが既にAの設立国で支払ったと取り扱われる法人税は前述の算式に基づいて「100 x 80 / 20」となり、ナンと400となってしまう。もちろん、Aの本国では80しか税金を支払っていない訳だから、400も税額控除は取れないが80まるまるは控除対象の外国法人税となる。

実際にはAの設立国での税率は20%だから100の配当は本来は25の税金を支払った後の配当と考えられるにも係らずこのような結果となる(もしE&Pの算定法がAの設立国の課税所得算定と同じだとしたら「100 x 80 / 320」でその通りの結果となる) 。

100の配当が80の税引後だという取り扱いとなると、Mはグロスアップに基づき180の配当所得を認識する。これに対して米国法人税35%の税率を適用すると米国では63の税金が発生するが、80の間接税額控除を受けることができるので、この63はゼロとなるばかりか、他の外国源泉所得に対する米国の法人税をも(税額控除限度額の範囲で)圧縮することができる。

*Cross Creditのマジック

もし100の配当に関して25の税引後であるという取り扱いであれば、配当所得は125となり、これに対する米国35%の法人税は66となる。この66から間接税額控除の25を引いたとしても未だ41が米国政府の懐に入ったこととなる。上のE&Pが圧縮されている例では、この41が吹き飛んだばかりでなく、17(80-63)の外国法人税の超過部分で他の(海外で低税率で課税されている)海外所得の米国税金をも減額してしまうという「Cross Credit」が実現されている。

実際の計算はもっと複雑だが、少なくとも方向性はお分かり頂けたと思う。Cross Creditは税務当局から見れば当然「悪」であり、そのために米国では所得のタイプ毎に控除の限度額を算定するバスケット制度が規定されている。しかし、上のような策を利用して見た目の税率そのものを過大計上するプラニングは後を絶たない。また、各国に持つ外国子会社は各々独自のEarningsおよび法人税支払いヒストリーを持つため、各々に異なる実効税率(税金/Earnings)プールが存在する。極めて基本的なタックス・プラニングとして、配当を受け取る際には「High Tax Pool」を持つ国の子会社から配当させることにより有利な外国税額ポジションを実現することができる訳だ。というか、現状の税法ではこのような取り扱いが税法上規定されているということになる。

この点にメスを入れようとしているのがオバマ政権の改定案だ。

Sunday, July 12, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(9)

前回はオバマ政権による米国国際課税の強化案の3つの柱のうち最後となる「外国税額控除の制限強化」の理解のため「間接税額控除」の概要を話し始めた。

今回は改定案理解にMUSTとなる外国法人から米国法人が配当を受け取る際に、一体いくらの外国法人税がみなしで米国法人が支払ったものと取り扱うことができるか、という点に関してもう少し詳しく触れてみたい。

*間接税額控除の「外国法人税」

前回のポスティングで触れた通り、米国法人が外国法人から配当を受け取る場合、「1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税」に「配当額」と「1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」」の比率を掛けて算出される外国税額が間接税額控除の対象となる金額だ。

この計算には次の3つの金額が必要だ。

1) 該当年度の米国法人が外国法人から受け取った配当額
2) 1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税
3) 1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」

この3つの金額のうち、1と2は(為替換算レートの問題は別として)金額が確定している。すなわち、1は実際に該当年度に米国法人が受け取った配当の金額であり、金額確定に特に困難はない。また2は、何が法人税に当たるかという複雑な問題を検討しなくてはいけないような変な税金が課せられているケースを除き、外国法人が支払う税額そのものを把握すれば金額が確定する。

*Earnings

一方で3の外国法人の「Earnings」は外国法人の決算書を見ても、申告書を見ても分からない。なぜかというと、この「Earnings」という用語は外国法人が設立されている国の税法に基づく所得を意味するものではなく、GAAP上の所得を意味する訳でもないからだ。

「Earnings」とは米国税務上のコンセプトであるE&Pの計算法を適用して米国用に計算される金額である。このEarningsはある年の税額控除をする場合に、その年に支払われた法人税は差し引かないが、翌年以降の税額控除計算目的では、税引後の金額となる。

なお、1986年以降に買収等で始めて外国法人が間接税額控除に適格となる事業主体となる場合には、適格となる年初からのみの金額に基づいて外国税金、Earningsの算定をする。年の途中で買収等がある場合でも、その年度の頭に戻って計算をする点、それ以前の期間に係る金額が考慮されない点、注意が必要だ。

例えば、外国法人Bには設立以来、米国株主は直接・間接に存在しなかったものとする。Bは2008年4月1日に200の配当を行う。米国法人であるMが2008年の7月1日にBの10%の持分を取得したとする。この時点でBは初めて米国での間接税額控除の対象法人となる。BはMによる取得後には配当は行わなかったために、Mは直接Bから配当は受け取っていないものとする。2008年を通じてのBのE&Pは500(税引後だが200の配当前)、B設立国での法人税は100だったとする。

この場合、買収は7月1日であるが、2008年1月1日からのEarningsと税額がMによる将来の間接税額控除の計算目的で使用される「1986年以降に外国法人が認識した「Earnings」」および「1986年以降に外国法人が海外で支払った法人税」となる。

したがってMが将来的に間接税額控除の算定を行う目的での2008年末現在のBの1986年以降のEarningsは300(500-200)となる。もし2008年に間接税額控除を算定するのであれば配当の200はEarningsを減額しないが、2009年またはそれ以降の目的ではBのEarningsは過去の配当である200減額修正される。

またBの1986年以降に海外で支払った法人税はMによる買収があった2008年の頭から算定されるため100であるが、この100は2008年中にBが行った200の配当に対応されると取り扱われる部分に関して減額をする必要がある。この200の配当はMがBの10%を取得する以前に行われたものであるが、配当が米国株主に受け取られたかどうか、またその米国株主側で税額控除を計上したかどうか、に係らず配当に対応される税額は1986年以降に海外で支払ったと取り扱われる法人税を減額する。

200の配当に対応する法人税の金額は、トータルの法人税である100に「2008年の配当額である200を2008年1月1日からのEarnings、500で割った比率(= 40%)」を掛けて40と算定される。この40を法人税トータル100から引いた金額である60が2008年末時点での「1986年以降に外国法人Bが海外で支払った法人税」ということになる。

上の例ではBのEarningsが500で法人税が100となっている。しかし、これは必ずしもBの設立国の法人税率が20%であるということを意味するとは限らない。なぜなら、この500というのは米国のE&Pの算定ルールに基づいて決定されているからだ。

次回のポスティングではこのE&Pの算定を利用した驚くようなマジックに触れる。

Saturday, July 11, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(8)

前回はオバマ政権による米国国際課税の強化案の3つの柱のうち最後となる「外国税額控除の制限強化」に関して話し始めた。オバマ改定案の内容を理解するには、米国の間接外国税額控除システムを若干話しておく必要がある。

*米国の外国税額控除

税額控除とは、米国で課税される海外源泉の所得に対して外国でも法人税を支払っている場合には、限度額の範囲で外国で支払った税額を米国の税額から差し引いてあげましょう、という仕組みだ。世界の潮流に逆行して、全世界課税システムを頑なに維持しようとしている米国では、二重課税の弊害を取り除く、または軽減するため、なくてはならない規定となる。

米国法人が支店等を介して海外で直接事業に従事している場合には、米国法人が直接海外で法人税を支払うことになるため、その税額そのものが税額控除の対象となる。これは米国法人が自ら本当に「直接」支払っている税金に係る控除なので「直接」外国税額控除となる。

一方で米国法人が「子会社」(または非支配持分を持つ海外投資先)を介して海外で事業を行う場合、米国法人自らは外国で法人税を支払うことはない(配当時に課せられる源泉税は別として)。米国法人が受け取る配当は外国で既に法人税を支払った後の「税引後」の所得を原資とするため、配当がまるまる米国で課税されると部分的に二重課税となる。この点を解消するのが「間接」税額控除だ。

*間接税額控除

間接税額控除の基本的なコンセプトは、米国法人が外国法人から配当を受け取る場合、「1986年以降にその外国法人が海外で支払った法人税」に「配当額」と「1986年以降にその外国法人が認識した「Earnings」」の比率を掛けて算出される外国税額を「米国法人が直接支払ったものとみなす」というものだ。

ここでいう「Earnings」という用語だが、これは外国法人が設立されている国の税法に基づく所得を意味するものではなく、GAAP上の所得を意味する訳でもない。ナンとこれは米国税務上のコンセプトであるE&Pの計算法を適用して米国用に計算される金額である必要がある。これは単に別のセットの帳簿を保存しなくてはいけないので面倒だ、という管理上の問題を生み出すだけではなく、とんでもないプラニングを可能にするマジックの種でもある。この点が今回の改定案に大きく関係してくるので、後に詳しく触れる。

間接税額控除目的で、外国法人から配当を受け取る際に、米国法人があたかも自らが支払ったかのように取り扱うことのできる外国の法人税は直接所有している「First Tier」の外国法人が支払う法人税に限定されない。

間接税額控除の対象となる海外法人は、米国法人が最低10%の持分を所有する「First Tier」外国法人に始まり、そのFirst Tier法人が所有するSecond Tierからさらに最終的にはSixth Tier、すなわち子会社、孫会社、曾孫会社に留まらず6段階下がることができる。ただし、各々の段階で少なくとも直接10%の持分がある(6段下の外国法人は5段目の外国法人に少なくとも直接10%所有されている)必要があるのに加えて、間接税額控除を計上する米国法人が少なくとも5%の間接持分(各段階の持分を乗じて算定される)を持つ必要があるとされる。

例えば米国法人Aが外国法人FC1に40%の持分を持っているとする。更にFCは別の外国法人であるFC2の30%持分を持っているものとする。この場合、AはFC1に関して少なくとも10%の持分を持っていることから、FC1から配当を受け取る際に、FC1の支払っている外国の法人税の一部(上述のEarningsに基づく按分計算で)をあたかもAが自ら支払った法人税のように取り扱うことができ、外国税額控除の対象とすることができる。

さらに、FC2はFC1に少なくとも直接10%所有されている上に、Aから見た間接持分が12%(40% x 30%)となり5%以上であることから、FC2も間接税額控除システムの対象法人となる。すなわち、FC2がFC1に配当を行ったとすると、やはり上述のEarningsに基づく按分計算に基づき、FC2が支払ってきていた法人税の一部があたかもFC1が直接支払った法人税であるかのように取り扱われることとなる。FC1は外国法人であり、米国で間接税額控除は計上しないが、FC1が直接支払ったと取り扱われるFC2の法人税は、FC1の税金にプラスされ、最終的にAがFC1から配当を受け取った際にAが支払ったとみなされる税額にプラスの影響を与えることとなる。

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(7)

前回はオバマ政権による米国国際課税の強化案の一つの柱となる「Anti-Deferral」に関して触れた。基本的にマッチング・コンセプトであると書いたが、最近行われた会合で財務省もまさしくこの点に触れ、所得は海外に留保している(=米国では未だ課税されていない)一方で、費用は全て米国サイドで損金処理できる現行の法律は「Best of both world(いいとこ取り)」であるとして改定案の正当性を強調している。

Anti-Deferralでは、海外の所得が米国に配当され課税所得となるまで一部費用の損金算入を繰り延べるというものであるが、普通の配当に加えて米国では会社法上は譲渡対価または償還であるような取引が「みなし配当」となることも珍しくない。このようなみなし配当が認定されるケースの取り扱い、またCFCが途中でCFCでなくなってしまうようなケースの取り扱い等、実際に運用するとなると直面する技術的な問題は多いだろう。

さて、オバマ政権の国際課税強化案は既に取り上げた「Check-the-Boxの適用制限」、「Anti-Deferral」に加えて「外国税額控除の制限強化」の3本柱で構成されている。今回からは3本目の柱となるこの外国税額控除に触れる。

*外国税額控除の制限強化

オバマ政権は外国税額控除に関して2つの制限強化を提案している。一つは間接税額控除を利用する際に必要となる「受取配当に対して外国でいくら法人税を支払ったとするか」という算定に係るもの、もうひとつは「誰が外国で法人税を支払ったかと取り扱われるべきか」という点だ。後者はどちらかというとかなり技術的な問題であり、ルクセンブルグのような国に米国企業が「Reverse Hybrid」主体を設立しているような特異な局面に適用される。一方、前者に関しては、米国親会社が受取配当を受けて間接税額控除の算定をする際に、一定の配当額に対してできるだけ多くの外国税を引っ張ってこようとする「High Tax Pool」テクニックは米国多国籍企業に広く利用されており、インパクトが大きい。

*間接税額控除

間接税額控除は海外子会社等から配当(Subpart F所得とか株式売却時のSec. 1248みなし配当を含む)を受ける際に、その配当原資が既に外国で課税された後の金額となることから、配当対する益金算入は一旦税引前の段階に戻し、その上で制限枠の範囲で米国の(Pre-Creditの)税額から外国で日払われたと取り扱われる税額を差し引くというものだ。趣旨的には日本で2009年3月まで存在した制度と同じものとなるが、その規定の内容はいろいろな意味で異なる。

間接税額控除の算定を行うためには、配当を受け取るごとに、配当は「外国でいくら税金を支払った後に受け取っているものなのか」という基本的な計算をする必要がある。長年に亘り海外で事業を展開しているケースでは、海外子会社の所得を毎年全額配当することは稀だ。となると、今受け取る配当に関して、一体いついくらの税金を外国で支払ったのか、という認定は何らかの「仮定」に基づいて行う必要がある。

今回の改定案のターゲットにされているのはまさしくこの仮定をどのように行うかという部分となる。この話しを分かり易くするためには米国の間接税額控除の仕組みを若干理解する必要が出てくる。次回のポスティングから間接税額控除の概要に触れてみたい。

Thursday, July 2, 2009

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(6)

前回のポスティングではオバマ政権による国際課税強化案の3つの柱の2本目である「Anti-Deferral」の背景に触れた。今回はその内容そのものを見てみる。

*米国親会社側での費用損金不算入

オバマ政権が提案している「Anti-Deferral」は面白いことに、海外子会社に眠る所得を米国で課税するぞ、という直接的なものではなく、米国に配当しないのなら米国親会社で発生する費用の一部を損金算入させないぞ、という間接的なものである。基本的には所得と費用のマッチング・コンセプトで理論的には「なるほど」と思えるものだ。

現に、日本のようにTerritorial制度に移行した国でも、配当が非課税となる一方で、その分、海外子会社に対する投資コストは損金不算入とするという規定が存在することが多い。日本の規定では配当の5%部分が課税となるが、これが投資コスト見合いとなる。

オバマ改定案は、配当されない海外子会社からの所得など、米国にて「益金」算入が繰り延べられている外国からの所得がある場合、これに対応するとみなされる費用の損金算入を、その所得が将来的に米国で益金算入されるまで繰り延べるというものだ。ただし、研究開発費はこの制限の対象ではないとされる。

一旦損金算入が繰り延べられた控除額は、次年度またはそれ以降に繰り越される。繰り越された費用は、将来の外国からの所得に対応する費用に加算された後、同じように損金算入の制限の対象となる。

米国が世界でも有数の高税率国(日本に次ぐ)であること、また税金以外の事業目的を考えても、毎年、海外子会社の所得「全額」を米国に配当し続けるというのは想像し難い。となると毎年、損金算入できない費用が累積していくことになる。

いつかは米国に配当される、と考えればこれらの費用はいずれ損金算入される性格のものだ。となると繰延税金資産として税効果を認識すれば、キャッシュ・タックスには影響するものの、会計上の実効税率には影響がないと考えることができるかもしれない。しかし、APB23に基づき「海外で無期限に再投資します」として配当に対する米国課税を認識していないケースでは、繰り延べされた費用の税効果を認識することは二枚舌であり、論理的にあり得ない。となると米国多国籍企業の最も恐れる実効税率の上昇に繋がる。

具体的にどのような費用が「外国に留保される所得に対応するとみなされる費用」となるかは明確ではない。外国税額控除の制限枠の算定に利用されるSec.861に基づく費用の配賦・按分計算となると予定されているが、犠牲となる費用として最初に頭に浮かぶのは「支払利息」であろう。全体の資産に占める海外子会社投資残高の割合で、支払利息の一部が外国の所得に対応する費用となり、米国に配当されない所得がある場合にはその分が損金不算入となるということだ。

この改定案が法律化されたとして、米国多国籍企業は本当に海外子会社の所得を米国に還流させるだろうか。Anti-Deferralは外国からの配当を強制する効果を持つ一方で、後日のポスティングで触れる外国税額控除の算定に係る改定案は外国からの配当を抑止する効果を持つと思われる。となると、オバマ政権は米国多国籍企業に外国の所得を米国に還流して欲しいのか欲しくないのか、どちらの政策なのかはっきりしない。というか、おそらく政策としては、配当してもしなくても課税するというところだろうか・・・。

今後のロビー活動でAnti-Deferralを反故(ほご)にしようとする動きが加速されるだろう。しかし、歳入が必要であるという原点に戻ると、多国籍企業としては「代わり」に何をもって国家予算に寄与したいのか、という最終的な「おち」を考えておかなくてはならない。何か代替の税収を探さない限り全ての国際課税案に反対していても勝ち目がない。一般には、代替財源は「連邦レベルの売上税、もしくはヨーロッパ型の付加価値税(VAT)」しかないと言われているが、果たしてそのようなものが導入されて米国多国籍企業はハッピーというか「Less Unhappy」になれるのか?

次回はオバマ国際課税強化案の3本柱の第三弾「外国税額控除の制限強化」について触れたい。

時代に逆行(?)アメリカの国際課税ルール(5)

前回までのポスティングでオバマ政権による国際課税強化案の3つの柱の一つである「Check-the-Box規定の改定案」に関してかなり詳細に触れた。米国多国籍企業がどのようにCheck-the-Box規定を利用してSubpart F規定の影響を受けずに低税率国の恩典を受けているか、という点が理解できれば今回の改定案も分かり易いだろう。

さて、3本柱の2本目はいよいよ恐怖の「Anti-Deferral」の登場だ。

*DeferralとAnti-Deferral

日本が2009年3月末までそうであったように、米国は「世界課税」の国だ。米国企業が直接認識する海外源泉所得は米国で課税される。例えば米国企業が海外に支店(Disregarded Entityを含む)を持っているようなケースだ。海外で設立された子会社が認識する所得は原則、配当という形で米国に還流されるまで課税が繰り延べされるが、最終的には配当という形で米国に戻された時点で米国で課税される(外国税額控除は取れる)。

「Anti-Deferral」という用語はもちろん「Deferral」の反対語となるが、Deferralとは、海外の所得を外国子会社に留保することにより、米国での課税を繰り延べる、すなわち、Deferすることを意味する。現実には低税率国で認識された所得を敢えて米国に還流することは稀だ。海外の所得を「無期限に海外で再投資する」というポジションで会計上、米国に所得が配当されたであれば認識することになる米国法人税に関して繰延税金負債を認識していない多国籍企業がほとんどであることを考えると、Deferralとは言え、現実には「Permanent Deferral」すなわち「Never」であると言える。

歳入が足りない米国としては国外に眠る巨額の所得に何とか手を付けたい。この点に関しては従来からSubpart F規定、PFIC規定等で部分的にみなし配当課税されているが、基本的には海外の事業所得は米国では長い間課税されない。ここに一気にメスを入れるのが「Anti-Deferral」だ。全ての海外所得に関して配当の有無に係らず米国で課税するという大胆な改定となることが噂され米国多国籍企業は驚愕していた。

単に所得を本国に還流させたいのであれば、日本を含む多くの国が最近そうしているように、海外からの配当を非課税とする策もある。これは「アメ」で還流を促すという方法だ。米国は全く逆で「ムチ」で還流させようとしている。それは単に還流させるだけではなく、更にそれを課税するという目的があるためだ。すなわち、還流させないのであれば懲罰的な税金を課すというものである。チョッと織田信長的。

実際に提案された法改正は全ての海外所得を課税するというものではなく、外国からの所得算入延期に対応する費用を米国親会社側で損金不算入するというものであった。次回はこの規定に関して触れたい。