Monday, October 29, 2007

米国適格再編と新しい事業継続規則(1)

米国財務省は2007年10月25日に米国の適格企業再編を規定するSec.368に係る最終施行規則を発表した。当財務省規則は2004年に規則化の方向が示されていた「再編後の資産・株式譲渡」の適格再編への影響、そして「事業継続規定」に対する修正規則から成っている。

*適格再編の基本的考え方

企業再編に関しては三角合併を中心に過去に何回もポスティングしているが、原則として再編が実質的に企業の売却ではなく「単なる形態変更であり、買収される企業の再編前の株主が再編後も継続的に持分を有する」場合、再編は適格、すなわち「Tax-Free Reorganization(正確にはTax Deferralだが)」と取り扱われる。この原則が具体的に表現されているのが「持分継続」「事業継続」となる。

*旧T株主とT事業の再編後の「距離」

買収対象となる企業T(ターゲットの頭文字)の旧株主が再編後にT事業に対して継続して持つ持分は必ずしも「直接的」なものである必要はない。例えば三角合併においては旧T株主が受け取るのはTが合併する相手(S)の親会社(P)の株式であることから、旧T株主はTの事業が存続しているS法人には直接持分を持たない。このような「Remote」持分でも、持分継続は満たされてると規定されている。また、二社間合併のタイプA再編、資産買収のタイプC再編、等において取得した資産を子会社に「現物出資(Drop-Down)」しても適格要件に影響がないのも「Remote」持分を許容している例である。

*適格グループの定義拡大

再編後にTを取得した側のグループ内でT事業が移転されるようなケースでは、どこまでの移転が事業継続条件を考える上で許容されるか、という検討をする必要がある。一般的に取得したTの事業をPサイドの適格グループ内で移転している限りにおいては問題となることはない。

この適格グループの定義が今回の最終財務省規則により拡大されることとなった。今回の変更以前は、適格グループに属するためには「議決権の80%以上、プラス議決権を持たないクラスの株式数の80%以上(以下Sec.368(c) Controlと言う)」をPに直接所有されるか、またはPにSec.368(c) Controlを所有される法人に同Controlを直接所有される必要があった。今回の最終財務省規則により、Pが少なくともひとつの子会社に対してSec.368(c) Controlを直接持っている限り、他の子会社に対しては複数のグループ企業が「合算」でSec.368(c) Controlを持っているケースにおいても適格グループ法人と認められることになった。

この持分を合算する考え方は「連結納税」に参加できるグループ法人を特定する際に適用される考え方に似ている。連結納税の対象法人を決定する際のControl要件も基準点は80%であるが、連結納税目的では「議決権の80%以上、プラス全株式価値の80%以上」の所有がControlと定義されていることから、適格再編の判断に適用される基準点とは内容が異なる。事業継続条件を考える際に、Tの事業移転先が適格要件に影響を与えないかどうかの判断をこの連結納税グループの考え方に基づいて行うべきというコメントがあったが、今回の最終財務省規則ではそうはならずにControlの定義はあくまでも企業再編のものの使用を継承しつつ、その適用範囲を拡大するという方向に落ち着いている。

*グループ内パススルー主体が持つ法人株式

パススルー主体というのは通常、企業再編の税法下では「再編の当事者(A party to reorganization)」とならないことからいろいろな弊害があることがある。しかし、今回の最終財務省規則においては適格グループ内法人がパススルー主体に対して上のSec.368(c) Controlに準じる持分を持つ場合には、そのパススルーが所有する法人株式もSec.368(c) Controlの有無を判断する目的で合算対象として良いものと規定されている。

最終財務省規則では上の事業継続条件以外の観点から再編後の資産、ストックの譲渡に関しても規定しているがそちらは長くなるので後日のポスティングで触れる。

Tuesday, October 16, 2007

国税局は情報の安全性が保証されない危険な相手?

日米租税条約の情報交換条項に基づき米国のIRSから誤った情報が日本の国税局に渡り、それが国税局により日本のメディアにリークされ、結果として企業の信用に傷がつくようなことがあったらどうするか、という一見考えられないようなケースがカリフォルニア州の連邦裁判所で争われている。リークにより企業の名誉が棄損されたとして納税者がIRSを訴えているものだ。

*一審はIRSの勝ち

一審ではIRSが「Summary Judgment (正式事実審理を経ないでなされる判決)」で勝っているが、納税者がそれを不服として控訴し、控訴理由書がこの程控訴院に提出されている。このケースの対象となる取引内容そのものの詳細は特に今回のポスティングの趣旨に余り大きな関係がないので省略するが、大きな流れとしては次の通りだ。

なおこの流れは納税者側の控訴理由書に基づくものであるので現時点では裁判の結果認定された事実関係という訳ではない。一審ではSummary Judgmentとなっていることから事実審理は行われていない。「仮に」納税者の言うことが全て真実であったとしてもIRSに不法行為はなかったという意味でSummary Judgmentが下されている。

*IRSが日米合同調査を依頼し情報を提供

事の始まりは米国のIRSにより開始された普通の税務調査である。税務調査の当初は、コミッション、ロイヤリティー所得の一部が過少申告ではないかと疑われていた。調査の対象となった納税者は日本でも活動をしており、IRSは租税条約の規定に基づき「合同調査提案(Simaultaneous Examination Proposal - SEP)」を日本の国税局に行った。SEPとは同一の納税者または関連者に係る両国共通の税務上の問題点に対して二国間で協力して行われる税務調査である。なお、納税者側の主張ではこのSEPが提案された時点では米国で過少申告はなかったという調査結果が既に出ており、SEPに持ち込む理由はなかったとされる。

*日本の国税局によるリーク実績

SEPに基づく情報提供が日本の国税局に行われて間もなく、日本のメディアで税務調査対象企業が所得隠しをしているという報道が広く行われた。IRSは納税者の情報に関して厳格な守秘義務を負っており、米国内での税務調査等の経験からこの守秘義務はきちんと守られていると言っていい。IRSが租税条約に基づき情報を締約国に流す場合には、相手国でも米国内同様の守秘義務を要求する。したがって理論的にはSEPに基づいて提供された情報がメディアに漏れることはないはずだ。

ここからが核心となるが、納税者は「リークは日本の国税局によるものである」と主張し、「IRSは日本の国税局はリークの実績があり守秘義務をきちんと守れるかどうか怪しいと知っていながら情報を提供した」として損害賠償を求めている。

日本の国税局による過去のリークがIRSにとって周知の事実であったことの証明としてIRSで国税局との情報交換に携わってきたIRS担当官の「大きなケースは何らかの形で情報が漏れることが多い」というコメント、また別の情報交換担当高官の弁として「合同調査に係る情報が漏れるケースや、過去に米国の納税者の情報が不適切に日本で漏れた事件等を鑑みて日本との情報交換は一旦停止することになった」というものも紹介されている。他にもIRSの東京駐在職員による国税局のリーク懸念発言、移転価格の相互協議担当官による移転価格調査内容のリーク事件、などに言及し、IRSは国税局に渡した情報は漏れる可能性があると知っていながら情報を提供したと納税者は主張している。

*リークがあるかもしれないという冷却効果

火のないところに煙は立たぬという諺があるが、実際に何があったのかは現時点では分からない。しかし残念ながら国税局がリークをしているという記事、コメントはこの訴訟で初めて聞くものではない。少なくともそのような認識が海外で根付いていることは長期的な日本のスタンディング、海外からの投資欲、等のためにはいいことではなく、誤った認識であるのなら何とか早く払拭してもらいたいと願う。

Sunday, October 14, 2007

CA州LLC Fee法改訂で最悪のシナリオは回避

CA州のLLCはその総所得に準じて算定される「LLC Fee」を支払う義務があるが、LLC Feeに対して昨年、CA州裁判所(Superior Court)で憲法違反という判決が2件下されており、Feeの存続が危ぶまれている点は2007年9月5日のポスティングで触れた。(「http://ustax-by-max.blogspot.com/2007/09/callc-fee.html」)。判決は現在、控訴審で引き続き争われている。

*LLC Feeの州法ついて改訂

CA州のLLC Feeが憲法違反と判断された原因はその算定法に州内外の総所得をCA州 に「配賦按分」する仕組みがなく、LLC全体の総所得に基づきFeeが決定されるためであったが、2007年10月10日に法制化された新LLC Fee法(AP 198)では、LLC Feeの算定過程で総所得に「CAを源泉とする所得の%」を乗じる「配賦按分」が導入されることとなった。

新しいLLC Fee法によるとFeeの算定は従来通り売上原価、その他費用を差し引く前の「総収入」を基に算定されるが、Feeの算定基となる総収入は州法人税(Franchise Tax)を算定する際に使用される「売上ファクター%」を乗じた後の金額となる。売上ファクターに基づいて「CA州帰属」と配賦按分された金額が$250,000に満たないケースではゼロ、その後は累進で金額が増えていき、年間総所得が$5,000,000以上となるとFeeは$11,790となる。

新しい算定法は2007年1月1日またはそれ以降に開始する課税年度に適用されるため、暦年を課税年度とする企業では2007年から新方式でのFee算定が認められる。

*2006年以前への影響

今回の法改訂は一審の違憲判決を受けてのものである点は間違いない。一時は強気であったCA州も複数の訴訟で負けていることから何らかの対策を余儀なくされたということであろう。新しいLLC Fee法には一応「この変更をもって2006年またはそれ以前の課税年度に対するLLC Feeのあり方の是非を詮索するべきでない」とし趣旨の文言が入っている。

しかし一方で、万一2006年またはそれ以前の課税年度に関してLLC Feeが違憲という結果が出た場合には、還付対象となる金額は「違憲の原因とされる配賦按分がなかったがために過大となっていた部分に限る」という規定もきちんと盛り込まれている。すなわち、新しいLLC Fee法と同様の算定を過年度にも適用し、実際に支払った金額が過大となる場合には、その超過部分のみを還付するというものである。

このような還付方法が規定されるのは、現状の訴訟結果をそのまま適用すると、LLC Feeは違憲でありその法律全体が無効となるからである。すなわち、違憲となる原因はCA州に配賦按分がないという理由であるが、そのインパクトは従来のLLC Fee法そのものが違憲ということである。となると違憲の法律に基づいて支払われたLLC FeeはそれがCA州内の総所得に帰属するものであるか否かに関係なく無効となる。そのような結果となると還付額が12億ドル(約1,440億円)に達するという試算があることから、所得税収入が年間約400億ドルであることと比較しても州にとっては結構痛い支出となる。今回の新法で規定される限定的な還付で済めばその額は僅か2億8千万(約336億円)となることから違憲判決の影響を最小限とすることができる。

*判決結果は?

現時点で控訴審の最終的な判断は出ていない。最終的に違憲という判断が下されたとしても新法が制定されたことによりそのインパクトは当初予想されていたものよりも小さいものとなるのは確かである。しかし、CA州内外での活動があるLLCにとって、2006年またはそれ以前の課税年度に関して部分的な還付が受けられるかどうかは判決次第であることに変わりはない。したがって今後の動向は引き続き注目に値する。

Wednesday, October 10, 2007

恐怖の「Economic Substance」法がついに現実に?

ここ何年も法案が提出されては最終的には法制化が見送られていた「Economic Substance」法がここに来てついに条文化される可能性が出てきた。この法案は企業が何とか法制化されないでくれと願っていた法律であり、ここ5年ほど法案が提出される度に審理の行方を固唾を呑んで見守っていたものだ。結果として今までは杞憂に終わっていたのだが、ここにきて政府の財政難、また上下両院で民主党が優位に立っていることから法制化がにわかに現実味を帯びてきた。

*「Economic Substance」とは?

Economic Substanceは直訳すると「経済的な実態」とでもなろう。つまり経済的な実態のない取引に基づく節税は認めないというものだ。考えてみれば最もな考え方であるが、これは従来は裁判所が判決の中で適用して発達してきたコンセプトである。具体的には、企業が行う取引は単に節税に繋がるだけでなくその取引を行うことにより企業の経済的な位置づけが変わらなければならないという考え方である。すなわち、節税を達成するだけで節税以外の経済的なポジショニングに実質的な影響がないような取引は租税回避行為であり税効果を認めないというものだ。

裁判所による判例に基づく法律、すなわちCommon Lawを条文化してしまおうというのが「Economic Substance」法である。米国税法において、判例の果たす役割は大きい。例えば、条文である「Internal Revenue Code」の規定に文字通り準拠した取引きであっても、その取引全体を見ると立法趣旨から乖離している結果となるような場合には、裁判所が「Substance over Form」、「Step Transaction」等の考え方を適用して適宜行き過ぎたタックス・プラニングにブレーキを掛けてきた。Economic Subtanceもそのひとつであるが、それが条文化されるとなると一気に適用頻度が増え単なる判例の適用とは異なるインパクトがある。

そもそもどのような取引が経済実態に欠けているのか、をIRSが判断することになると今までの判例ベースのEconomic Substanceとは大分雲行きが異なる。判例では裁判所が膨大な証拠資料を基に事実関係を細かく分析し、その検討を判決文として最終化する。したがって、結果に同意するしないは別として、判断にはそれなりの裏づけがあると言える。IRSが税務調査で経済実態の有無を判断する場合には判例のようにしっかりとした分析に裏付けられるとは考え難く、一方的に実態がないという認定を受ける可能性を否定できない。

*30%の「Strict Liability」ペナルティー

さらに現時点で検討されている法案によると、Economic Substanceがないと判断される場合には、税額の追徴に加えて30%が加算税が課せられる。厳しいのはこの30%のペナルティーが、通常他のペナルティーに適用される「合理的な判断」等の免除規定がない、いわゆる「Strict Liability(=無過失責任)」であることだ。

*加算税に慣れていない米国企業

この30%ペナルティーの適用にはIRSの「Chief Counsel」(主任弁護士)による承認が必要であるという一応の歯止めが用意されている。とは言え、免除規定の存在により通常は加算税の適用が極めて少ない米国において「Strict Liability」が適用される今回の法案は企業側から見るとかなり怖い。

米国では例えIRSが更正を加える場合でも、企業側の取っていたポジションが法的に主張が通り得るものであれば「Filing Positionがある」と言い、税務調査の際には税額と金利を支払いさえすればそれ以上のペナルティーを支払わなくてもいい。したがって加算税の支払いには慣れていない。そこにいきなり30%のStrict Liabilityが規定されるとなるとそれだけでもショックはかなり大きい。

Strict Liabilityという加算税の適用が始まると税務調査時の従来からのIRSと納税者の力関係に変化が生じる。大統領府(ホワイトハウス)、財務省はEconomic Substance法の導入には反対の立場を取っている。

*2007年の申告書作成は大変なプロセスに?

仮に2007年の申告書にEconomic Substance法が適用されるような展開になると結構大変なことになる。ただでさえ会計事務所がサインできる申告ポジションが2007年の申告書から「50%超の確証度」となる。会計事務所がサインできる確証度は従来は30%だが納税者側に要求される確証度が40%程度であることから実質40%が変更前の基準であり、それが50%超となるインパクトはかなりある。それだけでも作成手順の大幅な見直しが予想されている。そこに更にEconomic Substance法が「追い討ち」を掛けるとなるとまさしく「泣きっ面に蜂」となり、申告書作成レビュー等に掛ける時間は自ずと増えざるを得ないだろう。時間が掛かるということはすなわち作成費用も高くなるということを意味する

Sunday, October 7, 2007

FIN 48そのものがグレーなポジションに

*非上場企業に対するFIN 48の適用開始延期リクエスト

FIN 48に関しては2007年7月21日から8月18日まで7回に亘ってその内容を解説した。FIN 48の考え方そのものに特に理解に苦しむ部分はない。しかし、実際の決算書への適用、特に「Measurement」規定下で要求される税務ポジションの数量化は困難もしくは可能であっても時間的・金銭的なコストが極めて高い作業となることが多い。

FIN 48は「U.S. GAAP」で決算書を作成する全ての企業の「2006年12月15日以降に開始する会計年度」に対して適用が強制される。また米国上場企業(SECに登録されている企業)は2006年12月の決算書にてFIN 48採択により予想されるインパクトを既に開示している。

非上場企業に関しては12月決算の場合2007年12月の決算期が最初の適用年度となるため、決算準備作業の一環としてFIN 48の適用準備作業を開始しているところもある。しかし、ここに来て非上場企業に対する適用開始は遅らせてはどうかという意見が出てきた。具体的には「Private Company Financial Reporting Committee(PCFRC)」が2007年9月24日付けのレターでFASBに対して非上場企業に対するFIN 48適用開始を延期するように求めている。

*PCFRCとは?

PCFRCと言ってもピンと来ない方も多いかもしれないが、この団体は単なる経済界代表の集まりのようなものではない。この団体は非上場企業に係る会計原則適用の改善を図るためナントFIN 48を作成した「張本人」であるFASBそのものとAICPAが合同で発足させたものだ。その使命はFASBの作成する会計原則の非上場企業への適用法をFASBに推薦するというものである。そのPCFRCがFASBにFIN 48の適用開始延期を求めたのだからただ事ではない。

*適用延期申請の内容

レターによるとFIN 48の非上場企業への適用は次の二つの条件が満たされるまで延期されるべきであるとされる。まず、パススルー事業主体に対するFIN 48の適用ガイドラインが明確になるまで、次に、非上場企業の決算書読者に対するFIN 48開示項目の有益性の更なる検証が完了するまで、の二つである。また適用延期により、FIN 48の規定そのものがより広く認知されるメリットもあるとしている。

パススルー事業主体に対する適用に関しては不明な点が多い。パススルー事業主体というからには自ら法人税等の税金を支払うことは基本的にない。そんな事業主体にFIN 48負債を計上させるとなると仕訳の相手勘定は一体何か?資本金勘定なのか、それともその部分だけタックス費用を認識するべきか?基本的な部分で未解決の問題が残る。

*余り知られていないFIN 48?

また、PCFRCのレターには、多くの非上場企業およびそのアドバイザーであるCPAはFIN 48が与える決算業務への影響をまだよく分かっていない、または漸く理解し始めた程度であることが多いと書かれている。その大きな理由のひとつが上述の非上場企業の多くが投資しているパススルー事業主体に対するFIN 48の取り扱いが明確でないことである。また、一歩先にFIN 48と格闘している上場企業が実際の適用にかなり苦戦しているという事実も延期申請を後押ししている。現時点では非上場企業にとっていいお手本がないという訳だ。

*FIN 48開示項目は非上場企業の決算書読者には余り役に立たない?

さらにPCFRC独自の調査によると、FIN 48で求められる決算書上の開示は非上場企業の決算書読者が必要としている情報に余り関連がないという結果が出ているとされる。FIN 48の適用にはかなりの時間的・金銭的コストが掛かるが、その結果行われる開示情報に対して決算書を使用する立場にある者が「余り役に立たない」と思っているとしたらとんでもない時間とお金の無駄である。

*日本企業への影響

SECに登録しているケースを除くと大半の日本企業はUS GAAP目的では非上場となる。したがって、もし今回のPCFRCのリクエストが認められるようなことがあると多くの企業が恩典を受けることになる。もっとも、既にかなりの苦労をして適用準備を進めているところも少なくないのでその場合には結果として無駄な努力をしてしまったこととなるが、社内管理目的では有益な情報となるであろう。

FIN 48の適用に関しては以前にも適用開始の延期を求める声がありFASBが一応検討した結果、適用延期は認められなかったという前例がある。しかし、今回は対象が非上場企業に限られていること、その提案が「会計原則の非上場企業に対する適用法をFASBに推薦する」役を負っているPCFRCそのものから提出されていることから、もしかするともしかする可能性がある。年末の決算業務を間近に控えていることからFASBの結論は近々に出るであろう。

Friday, October 5, 2007

日米の「三角合併」は似て非なるもの

日本のLLCとかLLPが用語は同じでも米国のそれとは内容的に極めて異質なものである点は前回のポスティングで触れた。そんなポスティングをしていたらタイミングを同じくして2日ほど前に新聞報道で日本における三角合併の適用例が大きく報道されていた。日本での三角合併に関する記事は奇しくも日米の三角合併制度の差異を浮き彫りにしているという意味で興味深かった。同じ用語でもこれほど内容が異なるのかという事実を今更ながらに再認識させられたからだ。なおタイトルの「似て非なるもの」であるが、これは単に「見た目は同じでも内容は異質」という意味で使用しているだけで、どちらの国の法律が優れているという意味は一切含まれていない点は明確にしておく。

*米国シティーグループによる日興の完全子会社化

2007年10月3日の新聞報道によると米シティーグループは日本の三角合併方式を利用して日興コーディアルグループを完全子会社化すると発表している。各紙の記事には三角合併について「今日のことば」「キーワード」等として簡単に説明されていて面白い。日経では今回の子会社化を「初の三角合併方式」というサブタイトルをつけ「三角合併は国境をまたいだM&Aをする際に、合併や買収の対価として現金ではなく株式を使う手法」と記載している。

*米国三角合併との違い:歴史

この説明ひとつ見ても米国の三角合併との違いが分かる。米国では50年以上も前から当然のように頻繁に使用されている手法であることを考えると、2007年にして「初の三角合併」という報道は歴史の差を感じさせる。米国では合併その他企業買収に係るストラクチャーは州の会社法に基づいて実行されるが、州会社法で三角合併は古くから規定されているし、連邦税法でも1960年代には「Forward三角合併」、1970年代前半には「Reverse三角合併」に係る非課税再編の適格条件が規定されている。

*三角合併制度の使用目的

また「国境をまたいだM&Aをする際」というところも、日本の三角合併が当初から外国企業による日本企業買収を制度導入議論のひとつの軸としているからならではの説明であろう。米国の三角合併は国内の株式買収等に広く用いられている。株式交換、株式買収があくまでも個々の株主との契約に基づき実行される米国において、100%株式買収するには「Reverse三角合併」はなくてはならない手段であるし、通常の合併においてもターゲット企業の負債を買収企業本体で引き継ぎたくない場合など「Forward三角合併」も米国内で通常に利用される再編手法である。

また今回のシティーグループのケースでは、見出しに「三角合併制度の利用」と大きく記載されていると同時に記事の中身をよく読むと「株式交換制度」を利用して100%の持分取得とある。この辺りも米国的には分かり難い。というのは米国では三角合併という手順そのものでターゲット企業の100%の株式を取得し、その場合には別途「株式交換」というプロセスは存在しないからだ。

*合併対価

「合併や買収の対価として現金ではなく・・・」という部分も合併対価が三角合併の場合には柔軟化されているような印象を受ける。米国では二社合併、三角合併を問わず、どのような合併でも対価は何でもいい。対価に占める株式の比率が問題となるのはあくまでも合併が課税か非課税かを検討する際のみである。したがって二社合併でも三角合併でも「Cash Merger」と呼ばれる現金のみを対価とする合併は日常茶飯事に行われているし、逆に非課税としたいのであれば合併の形態を問わず株式を対価として用いる。

*三角合併で用いられる合併子会社(Merger Sub)

この点に関しては新聞では特に触れられていないが、シティーグループが今回日本の三角合併制度を適用することができたのはシティーが既に日本で既存の子会社を有していたからであると思われる。米国での三角合併は多くのケースで(Reverse三角合併の場合にはほぼ全てのケースで)、三角合併をするために特別に設立される「Merger Sub」が使用される。

日本では外国企業が三角合併の目的のみで急にカラの子会社を日本に設立したようなケースでは三角合併という制度そのものが利用できないと理解している。そもそも日本企業を買収しようという外国企業は日本に新たに進出してきたいという希望を持っているケースが多いことを考えると、このような条件はかなり制度そのものの使い勝手を悪くしている。もっとも敢えて使い難くして外国企業による買収をスローダウンさせるという意図があったのかもしれない。だとしたら極めて中途半端な考え方に基づく制度である。

*どうしてここまで違うのか?

上の差異はあくまでも米国から日本の三角合併を見るという観点から書いているが逆から見ても全く同じことが言えるであろう。すなわち日本の三角合併を含む再編の専門家が米国の三角合併の話を読んだら「何のことだ、これは?」と思われる局面が多いことが容易に予想される。

いずれにしても用語、その基となる会社法に関してもう少し二国間で共通性があってもいいのではないかと感じてしまう。両国で事情は異なるとは言え、米国で一応長い間うまく機能している手法なのだから同じ名前で敢えてここまで異なるシステムにしなくてもよかったのではないかと思う。これは僕が米国のシステムに余りに慣れているからこそ思う点であることは十分に認識しているが、東京がグローバルなキャピタルマーケットの中で競争力を高めて欲しいと思う個人的な希望からも余り好ましい状態ではないと感じてしまう。

日本のLLPは米国のLLC?

2007年10月1日に発足した「オープンキューブデータ」という米国マイクロソフトとNTTデータの合弁事業は日本の会社法に規定される「LLP(有限責任事業組合)」という事業形態にて展開されるということが日本の新聞で大きく報道されていた。

LLPという形態を選択した理由として、設立が容易である、出資者間の権限や利益分配を弾力的に決定することができる、等の理由が述べられており、マイクロソフト、NTTデータ共に今後も合弁を機動的に行うストラクチャーとして今後も積極的に活用していく旨を表明している。

*LLCではなくLLP?

米国的に考えると「LLP? LLCの間違いじゃないの?」という反応となる。というのも、米国でLLP、すなわち「Limited Liability Partnership」といえばパススルーであるものの、基本的に「General Partnership(GP)」の変形であり、各パートナーの有限責任が完全ではない。設立される州の法律により細かい規定は異なるが、LLPはGP同様に基本的に全パートナーが事業主体の負債に対して「無限責任」を追うが、GPと異なり「不法行為に対する負債が発生した場合には、当不法行為に関与したパートナーのみが無限責任を負う」という限定的な有限責任が認められている、という少々複雑な事業主体である。

不法行為というと何か犯罪に関与しているように思われるかもしれないがそうではない。民事訴訟に基づく「過失(Negligence)」を犯したと取り扱われる場合等に支払いが必要となる損害賠償金が不法行為に対する負債となる。訴訟の多い米国ではこのような損害賠償金支払いのリスクは常に現実と隣り合わせだ。特に会計事務所の監査業務に関しては株価の下落、上場企業の倒産、等の局面で頻繁に遭遇せざるを得ないリスクである。

不法行為に基づく負債以外の負債、例えば契約負債に関しては米国LLPのパートナー全員が無限責任を負うことになる。また不法行為に関しても「当事者」となるパートナーは個人的に無限責任を負うこととなる。

*なぜ米国でLLCではなくLLPを選択する者がいるか?

一方、米国のLLCは同じパススルーでも、LLPと異なり基本的にメンバー全員が事業主体の全ての負債に対して有限責任となる。となるとLLPはLLCに比べて魅力が少ない。ではなぜそのようなどちらかというと不利な事業形態であるLLPを米国で敢えて使用する者がいるのか?

それは単純に、ある一定の業種に携わる者はLLCとして事業展開してはいけないという州法が存在するからだ。一般に州行政により許認可が必要な業種の多くが対象となる。会計士業、弁護士業などがその代表である。このような業種ではLLCとして事業展開ができないため、以前はGPという形態を取る選択肢のみが与えられていた。しかし、近年は各州でLLP法が制定され、LLC程のメリットはないがGPよりは「マシ」なLLPという事業形態を取ることが多くなっている。

*用語は同じでも内容は日米各々で全く異質

このように一般的な事業を展開するものが米国で敢えてLLPという形態を選択することはまずない。パススルー課税と有限責任を鑑みればLLCとなるであろう。

日本の事情は全く異なる。というのは日本で制定されたLLCは米国のLLCとは似ても似つかないものであり、同じ用語が用いられていることから混乱の原因となり得る。用語が同じで内容が異なるという点では三角合併、日本版401(K)、J-SOX等も同様である。

日本版LLCは「合同会社」と呼ばれ、米国LLCからは想像し難いことであるが、なんとパススルー課税が認められていない。基となる法律が異なるとは言えLLCと表現される事業主体にパススルーが認められないというのは極めて違和感がある。一方で日本版LLPは「有限責任事業会社」と呼ばれこちらにはパススルー課税が認められることから、どちらかというと米国LLCに近い。

日米双方で用いられる用語を使用する際にはどちらの国の制度に関して話しているのかを明確にしないととんでもない誤解を招くことになる可能性がある点注意が必要だ。