Wednesday, October 10, 2007

恐怖の「Economic Substance」法がついに現実に?

ここ何年も法案が提出されては最終的には法制化が見送られていた「Economic Substance」法がここに来てついに条文化される可能性が出てきた。この法案は企業が何とか法制化されないでくれと願っていた法律であり、ここ5年ほど法案が提出される度に審理の行方を固唾を呑んで見守っていたものだ。結果として今までは杞憂に終わっていたのだが、ここにきて政府の財政難、また上下両院で民主党が優位に立っていることから法制化がにわかに現実味を帯びてきた。

*「Economic Substance」とは?

Economic Substanceは直訳すると「経済的な実態」とでもなろう。つまり経済的な実態のない取引に基づく節税は認めないというものだ。考えてみれば最もな考え方であるが、これは従来は裁判所が判決の中で適用して発達してきたコンセプトである。具体的には、企業が行う取引は単に節税に繋がるだけでなくその取引を行うことにより企業の経済的な位置づけが変わらなければならないという考え方である。すなわち、節税を達成するだけで節税以外の経済的なポジショニングに実質的な影響がないような取引は租税回避行為であり税効果を認めないというものだ。

裁判所による判例に基づく法律、すなわちCommon Lawを条文化してしまおうというのが「Economic Substance」法である。米国税法において、判例の果たす役割は大きい。例えば、条文である「Internal Revenue Code」の規定に文字通り準拠した取引きであっても、その取引全体を見ると立法趣旨から乖離している結果となるような場合には、裁判所が「Substance over Form」、「Step Transaction」等の考え方を適用して適宜行き過ぎたタックス・プラニングにブレーキを掛けてきた。Economic Subtanceもそのひとつであるが、それが条文化されるとなると一気に適用頻度が増え単なる判例の適用とは異なるインパクトがある。

そもそもどのような取引が経済実態に欠けているのか、をIRSが判断することになると今までの判例ベースのEconomic Substanceとは大分雲行きが異なる。判例では裁判所が膨大な証拠資料を基に事実関係を細かく分析し、その検討を判決文として最終化する。したがって、結果に同意するしないは別として、判断にはそれなりの裏づけがあると言える。IRSが税務調査で経済実態の有無を判断する場合には判例のようにしっかりとした分析に裏付けられるとは考え難く、一方的に実態がないという認定を受ける可能性を否定できない。

*30%の「Strict Liability」ペナルティー

さらに現時点で検討されている法案によると、Economic Substanceがないと判断される場合には、税額の追徴に加えて30%が加算税が課せられる。厳しいのはこの30%のペナルティーが、通常他のペナルティーに適用される「合理的な判断」等の免除規定がない、いわゆる「Strict Liability(=無過失責任)」であることだ。

*加算税に慣れていない米国企業

この30%ペナルティーの適用にはIRSの「Chief Counsel」(主任弁護士)による承認が必要であるという一応の歯止めが用意されている。とは言え、免除規定の存在により通常は加算税の適用が極めて少ない米国において「Strict Liability」が適用される今回の法案は企業側から見るとかなり怖い。

米国では例えIRSが更正を加える場合でも、企業側の取っていたポジションが法的に主張が通り得るものであれば「Filing Positionがある」と言い、税務調査の際には税額と金利を支払いさえすればそれ以上のペナルティーを支払わなくてもいい。したがって加算税の支払いには慣れていない。そこにいきなり30%のStrict Liabilityが規定されるとなるとそれだけでもショックはかなり大きい。

Strict Liabilityという加算税の適用が始まると税務調査時の従来からのIRSと納税者の力関係に変化が生じる。大統領府(ホワイトハウス)、財務省はEconomic Substance法の導入には反対の立場を取っている。

*2007年の申告書作成は大変なプロセスに?

仮に2007年の申告書にEconomic Substance法が適用されるような展開になると結構大変なことになる。ただでさえ会計事務所がサインできる申告ポジションが2007年の申告書から「50%超の確証度」となる。会計事務所がサインできる確証度は従来は30%だが納税者側に要求される確証度が40%程度であることから実質40%が変更前の基準であり、それが50%超となるインパクトはかなりある。それだけでも作成手順の大幅な見直しが予想されている。そこに更にEconomic Substance法が「追い討ち」を掛けるとなるとまさしく「泣きっ面に蜂」となり、申告書作成レビュー等に掛ける時間は自ずと増えざるを得ないだろう。時間が掛かるということはすなわち作成費用も高くなるということを意味する