Tuesday, March 12, 2019

FDII/GILTI控除財務省規則案 (2)

Section 250のFDII財務省規則案が急に公表されたので、またそっちに移り気してしまってるけど、FDIIは、法人税率引き下げ、即時償却、と並んで今回の税制改正で導入された納税者よりの規定のひとつ。それらのグディーズに対し、GILTI、BEAT、163(j)、Anti-Hybridという反納税者規定があり、もうひとつ本来は目玉商品だったはずのテリトリアル課税の恩典は限りなく透明に近いブルー、じゃなくて限りなくゼロに近い、というのが税制改正の全体像と言っていいだろう。日本企業のような米国から見たインバウンドグループは、その気になればCFCを米国傘下から外すことが可能な訳で、税制改正最大の障害であるGILTIからの解放は十分に可能だ。「War is over if you want it」の世界。BEATは残るにしても、他は納税者に有利な規定なので、どのように恩典を最大限化するか検討する必要がある。

FDII適格となる取引に適用される13.125%という法人税率は、単純に税率だけで見るなら(州税も無視して)、香港やシンガポールより低く、アイルランドやリヒテンシュタイン並みだから、これをUnited States of Americasの税率と考えるとかなり迫力がある。それだけに、法律が意図している取引のみが適格となるよう、特に外国人顧客、米国外使用、等にかかわる定義やその証明法を詳細に規定しているのが今回の財務省規則案だ。

まず、Section 250控除の恩典を受けることができる納税者だけど、REIT、RIC、S法人以外の米国法人となる。なんかチョッとBEATと似てるけど、BEATと異なりFDIIは「米国」法人にしか適用がない。FDIIに関してはそれはそれでポリシーマターだからどうってことはないけど、Section 250はFDIIばかりでなく、GILTI控除も規定している。GILTIの「合算」自体はCFCの米国株主であれば法人でなくても適用がある。にもかかわらずSection 250は米国法人以外に適用がないということは米国法人以外の米国株主はフルの税率でGILTI課税されることになる。「と言うことは21%か・・」ではなく、個人は37%が最高税率。CFC保有しているような個人だったら多くの方が37%だろう。しかも個人には間接外国税額控除も認められないので、CFCが所在国で法人税支払った上に米国で37%というとんでもない結果となる。グローバルミニマム税13.125%どころの騒ぎではない。

以前から存在するSection 962と言う、個人が一定の目的で法人かのように取り扱うことを選択する制度を利用するのが唯一の救いとなるけど、Section 962は分配時に不利な取り扱いがあったり完全な解決にはならないだろう。また、Section 962を選択することで外国税額控除は認められそうだったけど、控除項目のGILTI控除はSection 962下でも法律の書き方から難しいのではないか、と疑われていたが、今回の規則案でSection 962を選択する個人の納税者にもSection 250のGILTI控除が認められることになった。ただ、これはSection 250のGILTI控除部分の話しで、個人がSection 962選択をしてもFDII恩典を享受できるということではない。

実際に何がFDII適格の取引・所得になるかという本題に入る前に、規則案では250条控除計算にかかわる諸々の事務的計算法に触れている。とは言え、これが実に難解。下手するとEXCELのIteration機能を駆使した反復計算になりそうで、実際に財務省にはそれが正しいアプローチという声もあったようだけど、最終的には強制的な計算優先順位を設定することでIterationは回避されている。

複雑化する原因は、Section 250控除額は課税所得を上限とすると法律で規定されていて、この目的での課税所得はSection 163(j)やSection 172(NOL)他の控除・制限を全て加味した後のSection 250直前の金額となる一方、Section 163(j)の支払利息損金算入制限を算定する際に使用するATIはSection 250控除後、となっていて、どっちが先か不明な点。それをアーティスティックに解決しているのが今回の規則案。

規則案では、まずSection 163(j)やNOLを無視してFDIIを算定し、GILTIと合わせて課税所得上限は無視して仮の暫定Section 250控除額、すなわち「暫定Section 250控除」を算定するとしている。で、この暫定Section 250控除を加味してSection 163(j)目的の修正課税所得(ATI)を算出し、支払利息損金算入制限額を決定する。その結果、損金算入が認められることになった支払利息を使用して当期課税所得をはじき出し、そこにNOLを充当する。NOLの使用可能額はこのステップで決まり、近年のNOLで80%制限の対象となっている場合にはここで80%上限額を確定させる。さらに上のステップで使用可能となった支払利息およびNOLを使用して最終FDII額を算定。また同時にSection 250控除に対する課税所得上限額もこの段階で算定する。その結果、FDII額およびSection 250控除額が最終となる。Section 250控除額を算定する際に、FDIIとGILTI合算額が課税所得を超過する場合、超過額はGILTI控除とFDII控除に按分され、各々の控除額の対象となる金額を減額させる。なかなか良く考えられたステップだけど、これからの米国法人税コンプライアンスの負荷は果てしなく高い。

さて、いよいよ次回はFDII適格所得の算定法。

Friday, March 8, 2019

FDII/GILTI控除財務省規則案

BEATに戻る!って宣言してから早一カ月。日本からの米国投資も引き続き盛んで、いろんな投資やM&A絡みの話しで24/7米国法人税と格闘しながらもそろそろBEATのポスティングでもと思い立った矢先、お雛祭りの興奮冷めやらぬ3月4日に財務省からGILTI控除とFDII控除の双方規定しているSection 250に係わる財務省規則案が公表された。今回は177ページ。最近は財務省規則が200ページ未満だと「なんだ結構短いじゃん」なんて勘違いするようになってしまった。慣れは恐ろしい。今回の財務省規則は、国外取引がどんな条件でFDIIになるかっていう議論に多くのページが割かれている。なんで、例えばFTCの規則案みたいに超テクニカルな話しではなく、どうやってカスタマーが販売した商品を米国外で使っているか、って証明するとかの話しが多く、反って読むのに苦労した。

Section 250はGILTIとFDII双方の控除を規定してる条文だけど、今回の規則案は基本的にFDIIの話しのみで構成されていると言っても過言ではない。唯一GILTI控除の話しが出てきてるのは、課税所得上限という制限枠の部分だけで後はFDII一色。それもそのはずで、GILTIに関しては既に2018年9月にGILTI課税の中心的な規定となる「GILTI合算」、また11月にはGILTIグローバルミニマム税率を13.125%とするためのキーとなる外国税額控除、に関して既に複雑かつ大量の規則草が公表されている。そんなことから今回規定されるGILTI控除はGILTIの世界ではマイナーな存在なので、規則案もそれに準じているだけの話し。決してGILTI全体が簡単ということではない。

で、Section 250はGILTI合算した金額およびGILTI外国税額控除目的でグロスアップする外国法人税に対する50%の所得控除、そして米国外への販売、ライセンス、役務提供から生じる超過所得であるFDIIに対する37.5%の所得控除を規定する条文。FDIIってForeign-Derived Intangilbe Incomeの略だけど、GILTI同様にIntangilbeの有無はその適用に問われない。GILTIがどう読んでも「ギルティ」以外に発音しようがない一方で、FDIIは当初どんな風に読むのかっていうコンセンサスが出遅れた感じ。フォディーとかって言い出す人もいたけど、いまではサウンドの心地よさから「フィディー」に落ち着いている。で、FDIIに対して37.5%の控除が認められるということは、実際には100の所得があっても62.5しか課税されないから、それに通常の法人税21%を掛けると、実効税率13.125%になるという仕組み。香港とかシンガポールレベルの迫力満点の税率だ。

GILTIはCFCの所得を毎期グローバル連結納税する規定で、FDIIは米国法人が国外から所得を得る際の恩典税率規定。一見、全く異なる2つの規定なだけに、なんでこの2つの控除を敢えて同じSection 250で規定しているんだろう、って不思議に思う人も多いと思う。っていうかそんなに深く考えてない人の方が圧倒的に多いとは思うけど。GILTI合算課税そのものはクロスボーダー系の条文が集まっている辺りのSection 951Aで規定されていて、50%の控除部分のみがFDIIの37.5%と同じ条文に収まっている。これには恐ろしい(?)訳がある。実はFDIIとGILTIは表裏一体の関係にあるからだ。

FDIIは37.5%の控除を認めることで国外販売から派生する米国法人の所得を実効税率13.125%で課税する。GILTIはCFCが国外で認識する所得に50%の控除を認めることで10.5%で課税するけど、CFCが所在国で同じ所得に対して支払う外国法人税は80%まで税額控除が認められる。ということは80%掛けて10.5%になるレベルの外国法人税、すなわち13.125%をCFCが支払っていれば「理論的」には米国側ではそれ以上持ち出しの法人税は発生しないことになる。なぜ「理論的」だけの話しかと言うと、「実際」には米国株主側のGILTI所得に対する費用配賦で、税額控除の枠にリミットが掛かり、10.5がきれいに消えないからで、この問題は以前のポスティングで散々触れている。

すなわち理論的にはGILTIは、CFCが認識する所得にグローバルミニマム税として13.125%の法人税を支払ってればよろしい、という仕組み。これは国外販売等から生じる所得を米国法人に実効税率13.125%で課税するFDIIのミラーイメージだ。OECDとかが「FDIIは不法な輸出助成金でけしからん!」というようなクレームを付けてくる場合には、「米国法人が国外から得る所得もCFCが得る所得もどちらも13.125%をミニマム税としてます」と言ってディフェンスするためだ。

このことから、GILTIとFDIIはセットだと言うことが分かる。昨今の変なノリで、各国がグローバルミニマム税を導入しようとする勢いにのって、まさか日本もGILTI日本版すなわちJILTI(ジルティー!)を導入なんてことはないとは思うけど、でもそれするんだったらシスター規定のFDIIも入れないとおかしい。日本版FDIIのJDII(ジディー!)。

って、チョッと規則案とは関係なくなってきたけど、次回はSection 250規則案の規定そのものについて。