Friday, April 28, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案 (2))

前回はCAMTをめでたく卒業し、FIRPTA財務省規則案のポスティングを開始した後に、ビーチバレーに繰り出した。レシーブし過ぎてチョッと手が痛かったけど、一日経って元に戻りました。

で、FIRPTAの規則案に関して主たるトピックとなるDC REIT、外国政府、QFPF、等の具体的な話しの予備知識として、前回はFIRPTAの対象となる納税者、すなわちNRAと外国法人に触れた。誰がFIRPTA対象になるか分かったんで、今日はFIRPTAが適用される際の米国課税関係に関して。特に普段から各方面の方と話したり、アドバイスしたりする際に感じる誤解、すなわち「FIRPTA神話」にフォーカスしてみたい、ってことだったよね。

米国インバウンド課税システム

FIRPTAって米国のインバウンド課税システムの一部を構成してるんで、FIRPTA課税を語るには超ハイレベルにインバウンド課税システムそのものに触れざるを得ない。これ、もちろん簡単に片付く話しじゃないんだけど、敢えてザックリ言うと、外国人が米国で連邦税金を支払う局面は2つ。

まず1つ目は、米国事業(USTOB)に関連する所得(ECI)を得てるケースで、その場合は申告書を出して費用を控除した後のネット所得に対して税金を支払う。2つ目はキャピタルゲインや動産譲渡益「以外の」米国源泉所得(FDAP)、語弊覚悟で言うと、キャピタルゲイン以外の米国源泉「投資」所得で、1つ目のカテゴリーに含まれない所得(Non-ECI FDAP)、に対する30%の源泉税。双方ともに条約の特典を得ることができる外国人には減免が適用されることが多い。

ECIに対する課税は、申告書を提出して、費用控除後のネット課税所得に米国法人や市民・居住者に適用される税率を乗じて税負担を算定する申告課税。仮にパートナーシップ経由でECIがあったりして源泉徴収された税金が存在しても、それはあくまでも外国人に変わって予定納税をしてくれているだけで、源泉税のように最終税額にはならず、申告書を提出して計算する必要がある。さらに外国法人には法人税引き後の所得に一定要件下で30%のBranch Profits Tax(BPT)が追加で課せられる。

ECIの課税関係を検討する際は、2つのステップでテストする。必ず2つのテストを律儀に順番を守って適用すること。第1ステップは外国人が米国でUSTOBに従事してるかどうか。何がUSTOBかは原則、判例や通達に基づく事実認定で機械的なテストはなく、必ずしも個々の判例や通達のテスト間に整合性があるとは限らず、多くのケースでグレー。この答えが「NO」だったら、申告課税はない。「YES」の場合のみ、そのUSTOBに関連する所得、すなわちECIがあるかどうかの検討に移る。USTOBがあっても、ECIがあるとは限らない。USTOBが存在してしまうと外国人の所得全てが米国で課税対象になるような懸念を持つケースがあるけど、そんなことはない。ECIがゼロな年もある。これってFIRPTAの話しじゃないんでFIRPTA神話にはなんないけど、ECI神話って言えるかもね。でも、USTOBがある限り、ECIがなくても申告書は出さないといけない。条約のPEプロテクションで課税免除となるケースも同じ。USTOBがあって提出する申告書は法律上提出が求められるんで、厳密には「Protective」Returnではない。すなわちオプションではないってことでこの点も神話のひとつ。Protective Return神話だ。Protective Returnっていうのは本来、納税者としてはUSTOBはないというポジションを合法的に取ってるけど、万一IRSと意見が割れて後日USTOBおよびECIを認定される場合に備えて防御的に提出するもの。申告書が出てないと、費用控除を取る権利を喪失する点、また時効の成立は申告書提出日から数えるんで出してないと永遠に時効が成立しない点、に対応するもの。ただ、1120FのInstructionsで、USTOBがあって提出が強制されるけどECIがないケースでも1120Fの1ページ目の「Protective」箱をチェックするように書かれていてチョッとConfusing。

細かいけどECIに関する重要なポイントとして、ECIは実際に外国人が認識するグロス所得ベースで判断する。AOAベースの条約に基づくPE帰属所得の認定と異なり、「本当に」外国人が認識するグロス所得がUSTOBに関連する場合にECIとなり、フィクションで本支店間でファントム所得や費用を認識することはない。どんなケースでグロス所得がECIになるかの判断は結構細かに規定されてて、所得のタイプ、源泉地に基づいてグロス所得毎に検討する。グロス所得ベースでECIがあれば、次に外国人が認識する費用のうちECIに帰する金額を配賦・案分してネットECIを計算する。最初からネットしてECIかどうか考えるんじゃないからね。これもECI神話のひとつ。

FIRPTA課税とScope神話

で、そんなインバウンド課税のフレームワークの中に登場するFIRPTAだけど、FIRPTAはNRAや外国法人による米国不動産持分の「譲渡(Disposition)」に適用される。REITを含む米国不動産への投資には、譲渡損益ばかりでなく、所有期間の課税関係も付きまとうけど、そっちは通常のインバウンド課税の規定に基づいて判断するもので、FIRPTAは一切登場しない。初級Scope神話だ。

米国不動産投資が通常のインバウンド課税ルールで1のテストに引っかからない場合、例えば不動産をPassiveに所有してるだけでトリプルネットリースに供しているとか、単に値上がりを期待して森を持ってるとか、更にマイアミハーバーを見下ろすコンドを自分用に持ってるとか、の場合、これらの活動はUSTOBではないと言えるのでECI課税はない。なんで米国の課税関係有無は2つめの源泉税有無を判断することになる。そんな状況で仮にトリプルネットリースで賃貸料を受け取る場合はNon-ECI FDAPだから30%の源泉「税」対象となる。この30%はECIに対する予定納税の源泉「徴収」じゃなくて最終税額。条約を適用しても30%源泉に対する減免は通常ない。もちろんグロス賃貸所得に30%持っていかれたんでは投資になんない。米国政府のために投資活動してるみたいな状況に陥るから、無理やりアクティブにしてECI化する、または国内法に規定されるECI選択をしてネット申告課税にする等の策が必要。

さらにこれらのUSTOBに供されていない米国不動産を譲渡する場合、USTOBに供されている資産ではないから譲渡損益がECIにはなり得ない。さらに2つ目のテストでもキャピタルゲインは源泉税対象ではないので、結果、1と2のテストを通過し米国では課税が無くなってしまう。この点を重く見て、米国内の投資家同様、米国不動産譲渡損益に対してUSTOB有無にかかわらず課税するのがFIRPTA。ようやくFIRPTAの課税関係に至ったね!で、FIRPTAは譲渡損益は通常の事実認定ではECIにならないケースでも、米国不動産持分の譲渡損益は「みなしで強制ECI」として取り扱う、っていうメカニズム。ECIとなるからには、本当のECI同様、申告課税対象になる。なんでもちろんだけど、損失でも譲渡日を含む課税年度は申告書を出さないといけない。通常のECI同様、多くのNRAや外国法人にとって、譲渡益課税は受け入れ可でも、申告書提出要件の方が嫌がられる。

で、このようにFIRPTAは実際にECIじゃない譲渡損益をECIとみなす、っていう規定に過ぎず、実際のECIに対する課税をオーバーライドする規定ではない。すなわち通常のステップ1のOverlayで共存関係にある。どっちにしてもECI課税なんでFIRPTAで課税されてんのか、通常のECIとして課税されてんのかは多くのケースで実務的な差異はないけど、QFPFみたいに何らかの理由でFIRPTAから免除されてても、だからと言って必ずしも譲渡益に米国で課税されないとは限らない。QFPFがFIRPTA免除だからって「やった~。米国で不動産買います」っていう場合、トリプルネットリース物件を一件とかPassiveな投資だったらいいかもしれないけど、派手に展開したり、複数の物件を運用してたりすると、不動産投資が本当の事実認定でUSTOBになって、FIRPTAによるみなしECI規定の登場を待つまでもなく、実際にECIとして譲渡損益が課税対象となることもなる。Scope神話ナンバー2だ。

で、FIRPTAと言えば譲受人による源泉徴収(源泉税ではないからね)が問題になるけど、もともとFIRPTAが導入された頃は源泉徴収義務は存在しなかった。このことからも分かる通り、FIRPTA課税と源泉徴収はもちろん密接な関係にあるけど、FIRPTAイコール源泉徴収ではない。チョッと長くなりそうなんで、次回はこのFIRPTAイコール源泉徴収神話に関して。

Saturday, April 22, 2023

FIRPTAアップデート(DC REIT、外国政府、外国ペンションファンド規則案)

前回のポスティングをもってやっとCAMTを一旦卒業することができたんだけど、時は既に4月後半。個人所得税のDue Dateだった4月18日も過ぎて、すっかり日も長くなり「Seasons in the Sun」の気分。NYCも冬が終わって、2日ほど春があった後すぐに夏になってたけど、ここにきて数日また肌寒い。MDRがある南カリフォルニアのCoast沿いは今年は寒くて4月前半なんてNYCより気温が低いくらいだった。朝起きて曇ってんのは午前中のマリーンレアーの典型だけど、11時半になっても雲が無くなんなくて一体いつになったら、って空模様のかげんを伺ってるうちに結局夕方になっちゃたりして、カリフォルニアってお天気が自慢の州なんで困るよね。だったら常夏自由の州フロリダ?って考えるけど、こちらはこちらでたまに日中暑すぎ。NYCから数日Getawayする程度の話しだったら、その日の天候によるんで難しいチョイスだけど涼しいMDRに戻った方がいいかもね、って思う日が何日かあった。NYCとの3時間時差を利用して早朝にFwy 405から5に抜けて(正確には一瞬90にのってそこから405だけど90は2分くらいなんで省略)San DiegoというかLa Jolla(オリジナルTop Gunの教官Charlieの家としてロケで使われた「Top Gun House」の少し南)のCaroline’sまで一気に飛ばしてトーストなしでShort Ribs Hash &Eggs食べながらProposed Regulations読んで、30年前に買ったミリタリーIDタグを首から下げて(笑)ビーチバレーでもして帰ってくるのがベストかもね。

FIRPTA規則案

で、Hash & Eggs読みながら食べるのは、じゃなくて、食べながら読むのはもちろんFIRPTA関係の財務省規則案。この規則案、CAMTのNoticeと同時に昨年末12月29日の昼過ぎに何の前触れもなくいきなり公表された。新春のポスティングで触れた通り、その週は年末だったんで、大きな案件も予想されず、マイアミビーチでSub Cの復習をする予定でリラックスしてたんだけど、いきなりハイテンションなガイダンス複数が禁じ手乱発気味に公表されて予定大狂いとなった。当時のPriority的にどうしてもCAMT、そして自社株買いに対する懲罰課税、の2つにまず目を通さざるを得ず、FIRPTA関係の規則案はついでに一応ななめ読みしておきましょう、って程度でザックリ目を通した。FIRPTAに関してはQualified Foreign Pension Fund(「QFPF」)の条件緩和が期待されてたんで、どうせその程度のScopeだろう、って軽く考えて目を通し始めたんだけど、実際にはBlow by Blowでナニコレ~、っていう内容で驚愕。

Domestically Controlled REIT(「DC REIT」)の規定なんて、今まで日本の投資家がREIT株式譲渡してもFIRPTAに抵触しないで非課税だよね、って当然のように信じられてたストラクチャーが、12月29日の午後3時以降、本当にそうなのかイチからストラクチャーを確認しないといけない羽目に。規則案なんでそれ自体に法的効果はないんだけど、後で触れるLook-Back期間や、規則案に従ってないストラクチャーは現時点の法解釈でもIRSはチャレンジするという趣旨の前文があり、実質過去訴求適用に近いんでビックリ。

いきなり確信に触れて一人で興奮しても、読者の皆さんは「何のこと言ってんの~?」って感じだろうからまずは背景から。

FIRPTA

今回公表されたFIRPTA財務省規則案の理解を進める際、もちろんだけどFIRPTAそのものの、すなわちSection 897、および外国人に対する米国の国際課税システム双方の、少なくとも概略くらいは理解しないと始まらない。FIRPTAはSection 897っていう一つの条文内に規定されるルールだけど、他の多くのSectionも結局はそうだけど、深淵極まりない規定で、当然今回のポスティング程度で語り尽くせる話しではない。規則草案に関係する範囲でハイレベルに触れとくけど、ほんの一部に過ぎない、っていう点強調しておくね。

FIRPTAって日本人的には「キャムティーちゃん」と異なり発音しにくいAcronymだけど、「the Foreign Investment in Real Property Tax Act of 1980」のことで「ファプタ」って言う。AFSIと違ってFIRPTAをBay City Rollersみたいに「エフ・アイ・アール・ピー・ティー・エイ」って言う人はいないから間違ってもそんな風に呼ばないように。「ピー・ティー・エイ?」「What?」ってなって話しが始まらないからね。

FIRPTA対象者

で、FIRPTAはその名の通り1980年に制定された法律で、米国外からの米国不動産投資、その中でも米国不動産持分の譲渡損益の取り扱いにかかわる規定。米国外からの投資って言うのは投資家がNonresident Alien Individual(「NRA」)と外国法人のケースのこと。ここで言うAlienは市民権を持たない、っていう意味で宇宙人ではない。Individualなんで自然人。またグリーンカード所有者や滞在日数テストに抵触する者はResidentなので、それ以外のNonresidentのこと。滞在日数テストは居住者開始、終了日の規定を理解していないプロフェッショナルも垣間見ることがあるんで、米国不動産を譲渡する場合、譲渡がClosingした「その日」の米国居住関係を判断すること。漠然と「その年は居住者でしたか」みたいな質問力に欠ける設定で事実認定しないように。

例えばグリーンカードも市民権のない個人が12月2日に初めて米国に到着してその後、米国に5年とか長期滞在する予定とする。米国連邦所得税「以外」の観点からは、もしかしたら12月2日から米国居住者って判断される局面もあるかもしれないけど、米国連邦所得税目的ではそうはならない。同年12月31日に米国不動産を譲渡する場合、12月31日の居住者Statusは、どう法律を駆使しても単独では米国居住者にはなれずNRAになるんで、物理的に米国に住んでいながらNRAとしてFIRPTA対象者となる。その年の滞在日数が31日間に満たないんで「First Year Election」も適用不可。国内法で非居住者となる個人を条約4条を使って居住者に転換することはできないし。条約のTie-Breakerは双方の国の国内税法で居住者と取り扱われる場合に、条約を適用してどちらか経済的な関係がより強固な一方の国の居住者のみというStatusを選択することができる、っていうもので双方の国で非居住者になっているケースでどちらか一方の国の居住者Statusを選択します、っていう規定ではない。一方、不動産持分譲渡が一日ズレて翌年の1月1日だったら居住者としての譲渡になるんでFIRPTAの適用はない。この状況で12月31日にNRAではなくなりFIRPTA不適用とするために唯一考えられるのは、既婚者のケース。

夫婦合算申告は原則、配偶者双方が暦年を通じて米国居住者・市民でないと選択ができない。例外として、夫婦一方が12月31日で米国市民または居住者(First Year Election等を駆使してもOK)で、他方が12月31日にNRAの場合、双方で選択をすれば合算申告が認められ、同時に双方とも年間を通じて米国居住者扱いとなる。(g)選択だ。ちなみにこの(g)選択は普段M&Aとかやっている者にはsection 338(g)選択にしか聞こえないと思うけど、夫婦合算申告を規定しているsection 6013(g)のこと。駐在員の方は、赴任年にCPAから送付されてくる1040の中に選択のStatementが紛れててサインさせられた記憶がある方も居るのでは(もしかして知らない間にサインしてて記憶もない?)。米国に単身赴任するケースで、赴任年の12月31日に居住者になっていれば(g)選択で留守宅を守っている国外の配偶者と合算申告ができる。でも合算申告選択して、双方年間を通じて居住者扱いされると国外配偶者の所得も米国で全世界所得課税の対象になるんで「なんでそんなことすんの?」って疑問に思われる読者が居たら50点プラス。その心は、夫婦「別」申告(結婚している限り独身者というStatusは認められない)との比較において合算申告は適用税率が結構低いから。したがって算数的に、所得が増えても税率が低いんで結果として支払い所得税が低くなることが多い。もちろん国外配偶者の所得がかなり高い場合には試算してどっちが得か検討要だけど、配偶者が日本の居住者の場合、日本は世界でも高税率国だから米国でFTCを利用する、またはFTCよりは不利なことが多いけど911の所得除外を検討する、等の策を駆使することで、結局は得することが多い。12月2日着の例に戻ると12月2日に渡米した者がたまたま12月31日現在で、米国市民または居住者と結婚してたら合算申告を選択し、年間を通じて居住者とするStatusを希望するのであれば、12月31日の米国不動産持分譲渡はFIRPTA対象にはならない。

NRAと並んでFIRPTAは外国法人にも適用がある。FIRPTA対象者にかかわる若干テクニカル目のコメントだけど、FIRPTAは対象を「Foreign Person」とはしてない。Foreign PersonはNRAと外国法人以外にも、外国で設立されるパートナーシップ、信託、遺産(Estate)等、より広範。クロスボーダー課税を規定する法律により、対象が誰なのか微妙に異なるケースがあるんで細心の注意を払って進むように。パートナーシップは課税はパススルーだけど立派なPersonだからね。特に源泉税の適用時に誰が源泉税納付義務を負うかとかの検討時にはパススルー課税の概念と源泉徴収義務者の関係がきれいにシンクロしないことがあるんで要注意。

で、FIRPTAはNRAと並び外国法人に適用があるけど、パートナーシップには直接的には適用がない。ただ、これはパートナーシップはパススルーだからで、米国・外国にかかわらずパートナーシップにNRAまたは外国法人のパートナーが存在し、パートナーシップが米国不動産持分を譲渡し、譲渡損益がNRAまたは外国法人に配賦(譲渡対価の分配ではなく)される場合、NRAや外国法人は直接不動産持分を譲渡したのと同様の取り扱いになるんで、結局は間接的にFIRPTA対象となる。直接不動産を所有してるケースと比較して、最終税負担は双方で変わらないとしても、予定納税的な源泉徴収の規定が異なり、直接不動産を譲渡するとグロス譲渡対価の15%を買い手が税金前払いとして天引きしてしまうのに対し、パートナーシップが譲渡する場合にはECIに対する源泉規定がキックインしてFIRPTA源泉をオーバーライドするんで前払い予定納税は「ネット」譲渡益の21%で済み、予定納税である源泉徴収が比較的最終税負担に近くなる傾向がある。グロスに対する15%FIRPTA源泉は多くのケースで過多な予定納税となり、還付にも時間が掛かるし不確実。前もってIRSに証明書を交付してもらうことで減額可能だけど、時間がかかるし面倒なので、この点一つとってもデラウェア州LPSとかを介して不動産投資するメリットがあり、個人的には局面次第だけどお勧めすることが多い、また、パートナーシップが米国不動産持分を譲渡する代わりに、NRAや外国法人がパートナーシップ持分を譲渡する際にパートナーシップが米国不動産持分を所有していると、NRAや外国法人のパートナーシップ持分に対応する米国不動産持分を間接譲渡した取り扱いとなりFIRPTA対象となる。これはパートナーシップがパススルーというよりは、パートナーシップはパートナーのAggregateだから、という概念に基づく。

なんか対象者を極簡単に触れるだけで相当長くなってきて、クロスボーダー個人所得税講座の様相を呈してきたんで、対象者はこの辺にして次回はFIRPTAが適用される際の米国課税関係に関して。特に普段から実際にアドバイスしたりする際に感じる誤解、「FIRPTA神話」にフォーカスしてみたい。それではミリタリーIDタグ首にかけてビーチバレー行ってきます!

Saturday, April 15, 2023

新春IRSガイダンス特集「CAMTのAFSIと減価償却・債務免除益」

前回はM&Aやスピンでグループのストラクチャーが変わったり、新規に法人がグループに参画する際、過去3年のAFSIをどうやって考えるか、っていう点に触れた。で、皆さんもCAMTの話しにはそろそろ飽きてきた頃では、って思うんで、今回のポスティングで一旦CAMTは終わりにして、次回から待望(?)のREITを含むクロスボーダー米国不動産投資、FIRPTA系に関して2022年暮れにCAMTのNoticeと同時公表された規則草案の話しに移りたい。え~、本気?みたいな規定が含まれてるんで乞うご期待!

CAMTは姑息な(?)バックドア課税

まずはCAMTと減価償却。たかが減価償却されど…、って感じでかなり面倒くさい。こんな調整を規定しないといけない背景に関してチラッと触れておく。

CAMTって制度を導入する際、ポリティシャンは「会計上利益が出てるにもかかわらず課税所得が低くてけしからん」って言ってたけど、その原因は実に単純で、何のことはない自分たち議会が政策的に会計原則とは異なる計算法で課税所得を算定するように法律を通しているから。企業としては法律に従うしかない訳だし、グローバルで競争している訳だから議会が通した恩典があれば最大限活用しようとするのは当然。もちろん合法的に、だ。それで「大企業は法人税をきちんと払ってない」っていう論調で議会の公聴会とかでしかられるって以前にも例えたことあるかもしれないけど、目の前にごちそうを振舞われて「今日は好きに食べて下さい!」って言われ、食べたら「食い逃げ泥棒」の濡れ衣を着せられる、みたいな状況。 そこで登場するのがCAMT。この制度、ポリティシャンたちが考えそうな姑息というか臆病な制度で、本来、GILTIの50%控除でも、R&Dクレジットでも、加速度償却でも、議会自ら法制化した恩典で企業に活用されて気に入らないものがあるんだったら、その恩典を廃案にするべきなんだけど、そんな勇気はないから、数えきれない恩典を規定し続ける一方、それを利用するとCAMTで取り上げる、っていう裏技に頼らざるを得ない。

で、減価償却は不況になると投資減税でボーナス償却とかが登場するし、その手の恩典のひとつ。米国の有形資産に対する償却法であるMACRSって用語を見ると「D」っていうアルファベットがない。え~、DepreciationなのにDないの、って感じ。MACRSはのMは「Modified」で、なんでModifiedかっていうともともとACRSだったのをModifyしてできたから。AはAcceleratedで加速してる、ってこと。CRSは「Cost Recovery System」の略で、会計原則みたいに資産の耐用年数に基づいて減価償却を計上するっていう経済的な利益メジャーの概念ではなく、恣意的に決められてる加速度算定式で取得コストをRecoverさせるっていうアプローチになる。この用語からも分かる通り、税法上の「償却」は会計上の償却とは基本的に相いれないものだ。

減価償却とAFSI

こんな背景だから、別に誰に何の邪な気持ちがなくても、毎期の税務上償却は会計上の償却との比較して、多かったり少なかったりするのは法的に必然。で、CAMTを法制化する審議の最後の最後になって、このままだとCAMTミニマム税を支払う企業はせっかくのMACRS、特に即時償却のボーナス償却の恩典がなくなってしまう、ってことでウォールストリートジャーナルとか製造業に従事する米国企業に「製造業回帰とか言ってんのに何考えてんの~」って指摘され、ポリティシャンもその不具合にようやく気が付き、最終修正で深く考えずに「米国で使用する有形資産は会計ではなくMACRSの償却を使ってよろしい」とお許しが出た、っていうかMACRSの使用が強制されることになった。でも、MACRSの適用が常に企業に有利とは限らないのは簿記をかじった人だったら誰でも直ぐにわかるよね。だって、結局個々の資産に関して生涯を通じて取れる償却の金額は同じなんだから、タイミング差異の話しで、税務上加速して前倒しで償却するってことは単年ベースで見ると、後年は反転して、税務上の償却が少なくなる。で、CAMTみたいに急に登場してきて、いきなり過去3年間AFSI平均を基に対象かどうか決めなさい、って言われて、4年前に何気なく議会に言われた通りボーナス償却取ってたりすると、その後の3年間会計上は粛々と償却取ってるのにMACRSベースのAFSIでは償却ゼロ、っていう不利な結果になる。この点、政策的に何か助け舟が差し出されるのでは、って期待してた企業もあるんだけど、結局NoticeではCAMT導入タイミングにかかわらずAFSIは常にMACRSベースなんで、4年前にボーナス償却取ってしまってたらアンラッキーでした、っていう取り扱いが確認されてしまった。

で、減価償却って一言でいっても製造原価とかCOGSに含まれているものもある。さらにややこしいことにCOGSへの計上、税務で言うところの棚卸資産への資産計上だけど、の考え方自体、会計と税務で同じとは限らない。で、AFSI計算目的で償却は税法ベースだから、COGSに含まれる会計上の償却は一旦消去し、税法でCOGSに含まれる償却に置き換える。

さらに当然と言えば当然だけど、税務ベースの償却を適用してAFSIを計算している資産を譲渡したり除却したりする際の譲渡損益も会計上の数字ではなく、税務ベースの金額に置き換えないといけない。で、ここからが議論を呼ぶところだと思うけど、3年間平均テストが始まる2020年課税年度以前にボーナス償却を含むMACRSの対象になっていた資産の譲渡損益も税法ベースの数字に直さないといけない、って規定されている。これって二重苦みたいで、例えば2019年に多額の資産を米国で事業用途に供してボーナスで即時償却したとする。2023年に急にCAMTができて、対象法人になるかどうかの判断のため、2020年~2022年3年の平均AFSIを算定する際、会計上取っている償却は一切取れないばかりか、その間にボーナス償却した資産の譲渡がある場合、譲渡損益も税務上の簿価を基に算定しないといけない。ボーナス償却取ってる場合、税務上の簿価はゼロだから会計上の譲渡益より、税務上の譲渡益が大きい、または損失が譲渡益に変わることもあり得る。ボーナス償却の恩典はAFSI目的で享受していないにもかかわらず、だ。

償却の調整の面倒さに気分が優れなくなってきた読者も多いと思うんだけど、最後に止めを刺して次のトピックに移るね。資産取得後に修理・修繕等を行うことは多いけど、会計と税務では何を資産計上するか、っていうルールが異なる。税務上は2013年だったかな、に最終化されて各企業対応に奔走した「Tangibles Regulations(当時は「TPR」って呼んでました)」に基づいて詳細な分析をした上で、この手の支出を期間費用部分と資産計上部分に区分する必要がある。会計はTPRは関係なく、独自の原則に基づいて区分される。税務上、TPRで期間費用として損金算入される場合、その分の資産コストはないのでMACRS対象じゃない。このことからTPRで費用化された支出が会計上は資産計上の上、償却されてる場合、この部分は税務ベースではなく、会計ベースの処理を反映したままAFSIを計算しないといけない。果てしないRecord KeepingやTrackingが必要だね。これらの調整はCAMTミニマム税の算定時ばかりでなく、CAMT対象になっていない法人は毎期対象にならない点を証明するために求められる。以前のポスティングで触れたSafe Harborの恩典の大きさが身に沁みた?

債務免除益とAFSI

債務免除益(CODI)は課税所得っていうのが大原則。ただ、株主が「Gratuitous」に債務免除してくれる取引は資本出資とみなすという財務省規則もある。日本企業が米国子会社に貸している債権を棒引きにする際、出資という形を取ろうとするのは良くある話し。子会社の財務状況が思わしくない際、または子会社譲渡のプレリュード的に免除することが多いけど、一番好ましいのは資本出資(Contribution to capital)で子会社が新株を発行しない取引。この形を取ることができれば、通常CODIが発生しないばかりか、後述の属性のReductionも不要。株式を発行してしまうと取り扱いが大きく異なり、通常は不利になる。また、そもそも貸し付ける段階で避けるべきストラクチャーは米国のCommon Parentをスキップした日本から見た米国孫会社への貸し付け。将来Workoutの際に不利益を被るので絶対にしてはいけないストラクチャーだ。例外は孫会社が米国税務上Disregardされてるケース。その場合はCommon Parentに貸し付けてるも同然なので通常のルールの範囲内。

CODIが課税所得から除外されるケースは資本出資以外にもいくつかあるけど、代表的なのは債務免除直前に借り手が時価ベースで債務超過の状態にあるケース。債務超過の範囲でCODIは課税所得から除外される。その代わりに除外額に関してNOLや資産の税務簿価を減額させられる。Noticeが言うところの「Section 108(b) Reduction Amount」だ。その心は、債務超過なんだから再起をサポートするため今は課税しないけど、将来のNOLや償却を取り上げることで実質非課税というよりは課税繰り延べしてあげるということ。

で、ここでも税務上のCODIの取り扱いは必ずしも会計の取り扱いとは一致しない。会計上、CODIが利益として認識されてる一方、税務上は上述の諸々の理由でCODIが所得から除外されるケースでは、税務上の除外額を上限にAFSI算定時に減額が認められる。で、AFSIからCODIが免除されるケースでは、通常の税務上の規定通り、Section 108(b) Reduction Amountに相当する金額を使って AFSI目的でもAFS計算時のCAMT NOLやAFSの資産簿価が減額される。あちこちで複数の数字をTrackingする必要があって、そろそろやってられない感じになってきたよね。

という訳でようやくCAMTはWrap-Up。次はもっとExcitingなクロスボーダー米国不動産投資にかかわる規則案に関して。

Saturday, April 8, 2023

新春IRSガイダンス特集「M&AとCAMT適用対象法人」(2)

前回はSVB銀行スピード破綻、また直後に破綻したSignature BankにDodd-Frank法を起草したBarney Frank(紫の恐竜(?)のBarneyじゃないからね)が経営に携わってたという驚愕のウラ話しでチョッと脱線しながらも、何とかCAMT目的で計算されるAFSIと税務上非課税となるM&A系の取引の関係に触れた。

で、今日はM&A系の話しでも非課税・課税を問わず、グループのストラクチャーが変わったり、新規に法人がグループに参画する際、過去3年のAFSIをどうやって見るか、みたいな話し。

買収とAFSI

M&Aは少なくとも2つの法人が関与するけど、多くのケースで各々の法人は他の法人とグループを構成してることが多い。NoticeではM&Aの結果、50%超の資本関係で結ばれる法人グループ、またはインバウンド企業の場合はAFSIの定義にあるインバウンド多国籍企業グループを「Testグループ」って定義している。で、買収側AFSグループがターゲットAFSグループを買収し両グループでTestグループを構成する場合、仮にターゲットAFSグループがM&A前にCAMT適用対象だったとしても、適用対象の汚名は返上されるとしている。って言うと親切な規則に聞こえるかもしれないけど、実はそんなことなくて、買収側AFSグループがCAMT適用法人に当たるかどうかを判断する際の過去3年のAFSIに、ターゲットAFSグループのAFSIが合算される。もともとターゲットAFSグループがCAMT適用対象だったとすると、それを合算する買収側AFSグループも適用対象になるリスクは高い。また、そんなターゲット法人を買収する側のグループも既にCAMT対象法人になってるケースも多いだろう。

次にM&Aの買収ターゲットが単体法人でターゲット側AFSグループではないケースで、買収後にターゲット法人が買収側AFSグループとTestグループを構成する場合、AFSグループ買収時と同様に、仮にターゲット法人がM&A前にCAMT適用対象だったとしても、適用対象の汚名は返上されるとしている。また仮にターゲット法人が旧ターゲットAFSグループに属してた場合、ターゲット単体のAFSIは旧AFSグループからターゲットに合理的な方法で切り出される部分のみで構成される。M&A後は旧グループと関係ない場合、切り出し自体は当然。Noticeの段階では合理的な手法で切り出しが認められるが、Noticeが正式に規則草案となる時点で特定の計算法が規定される可能性があるとのこと。そして想像に難くないけど、ターゲット法人に帰するAFSIとして切り出された数字は買収側AFSグループのAFSIと合算され、過去3年テストが適用される。

ここまでは直観的にそうだよね、って納得できるんだけど、この先は議論を醸すところ。すなわち、Noticeではターゲット法人のAFSIは買収側AFSグループのAFSIに過去訴求して合算するよう規定すると同時に、ターゲット法人が属していたターゲット法人AFSグループのAFSIから切り出されたターゲット法人のAFSIをマイナスしてはいけない、と規定している。すなわち、3年間にわたりターゲット法人のAFSIはターゲットAFSおよび買収側AFSの双方でダブルカウントされることになる。まあ、決め事だからいろんな決め方があるし、もともとターゲットAFSグループがCAMT適用対象になっている限り、ホテルカリフォルニア規定で、ターゲット法人の切り出しAFSIを抜きだして急に3年テストを満たさなくても関係ないんで、あんまり大きな問題じゃないかもね。ターゲット法人AFSグループが既に対象になってるんだったら、その後、テスト自体しても意味ないしね。

スピンとAFSI

で、米国でCorporate Transactionと言えばなんと言ってもスピンオフ。金利が上がってマーケット全体が不調な時にスピンオフが流行るのは、RMTとかMergerがセットになってるケースを除き、スピンオフには相手方がいないんで会社が一人で決めてExecutionリスクなく実行することができる、っていう安心感によるところが大きい。アクティビストによるスピンオフして各事業部の真の価値を「Unlock」するようにみたいなプレッシャーは常に強いしね。で、事業を切り出す作業自体の手間は大変なものがあるけど、いったん切り出したらMergerとちがって、会社法上は単純に現物配当決議をすればそれで終わり。株主承認も不要だし、テンダーオファーみたいに株主個々に決定権もない。株主から見るとスピンされる法人の株式をPassiveに受け取るだけの取引だ。ただし、スピン後にスピンされた法人の株式を所有し続けたいかどうか、等は株主側のチョイスだから、スピン後の市場株価は注目に値する。

一方、同じスピンでもSplit-Offと呼ばれるSeparation取引は若干異なり、全株主に均等にスピンされる法人の株式を分配する代わりに、各株主にスピンされる法人の株式を既存の株式と交換させるExchange Offerの形態を取る。Exchangeするかどうかは株主のチョイスなので通常のスピンと異なり取引時に株主に決定権があることになる。このことから、スピンされる法人の株式時価の決定、すなわち、既存の株式に対してどれだけのスピンされる法人の株式が交換されるのかという比率が最重要検討課題になる。そのため、大概のケースでSplit-Offは、最初にミニIPOでスピンされる法人の株式が上場されてマーケットメカニズムで時価を決める。非課税スピンとするため、IPOされる株式はスピンされる法人株式の20%以内に限定される。

適格スピンの話しはこの辺にしておいてCAMTだけど、スピンする側の分配法人AFSグループがCAMT適用対象となってる場合、スピンされる法人は一旦その汚名は返上される。ただし、その上でスピンされる法人AFSグループがCAMT対象になるかどうかを、スピンされる法人AFSグループに合理的に配賦される過去3年のAFSIを基に判断する。単体法人の買収と同様、スピンする側の分配法人AFSグループのスピン前のAFSIはスピンされる法人に配賦されるAFSIにかかわる減額はない、ということだそうだ。

そろそろREITとかクロスボーダーの話しに移りたくてうずうずしてきたけど、次回もう一回だけCAMTのAFSI絡みの話し、償却とか債務免除益とかに関して触れたい。その後直ぐにREITに行くから不動産ファンドとかにクロスボーダー投資している皆さんは楽しみにしててね。

Saturday, April 1, 2023

新春IRSガイダンス特集「M&AとCAMT適用対象法人」

前回のポスティングでようやくSafe Harborの話しが終ったんで、今回は惜しみなくZeppelinで攻めたい、じゃなくてNoticeに規定されているCAMT適用法人の判断とM&Aの関係に話しを進めたい。M&AっていうかCorporate Transactionって言った方が正確だけど、とりあえずM&Aって用語にCorporate Transactionを代表してもらう。

SVB銀行破綻

それにしてもCAMTの適用初年度だっていうのに米国経済はかなり不透明で間が悪い。メインストリームメディアは大多数が民主党だから、悪いニュースはバイデン政権擁護のためSugarcoatする傾向にあるけど、少なくともCorporate TransactionやIPOの激減ぶりは激しい。もともと2021年、まだ低金利だった時代、借りるだけ借りてお金を使いまくるのが賢い(イエレン長官)と言って不要にお金をバラまいて超インフレになり、インフレは一過性(イエレン長官)と言っておいて実はそうじゃなくて金利が急激に上がり、あちこちで大変なことに。

ついに数週間前には2008年以降最大のSilicon Valley Bank(SVB)銀行破綻が発生するに至ってしまった。SVB破綻はその電光石火のようなスピードが特徴。資産$200B以上の銀行がわずか2~3日で破綻してしまうとはね。Social Media時代の取付騒ぎは別レベルだ。急激に金利が上昇したのでSBVが所有していた長期債権は大きな含み損を抱えるようになったらしい。またSVBはVCやスタートアップのカスタマーが多く、市場環境の悪化に伴うダウンラウンドその他の問題でEquity資金調達できないスタートアップにVenture Debtと呼ばれる特殊なファイナンスも提供してたみたいだけど、2022年夏以降スタートアップは結構苦労してたからSVBのビジネス本業も前より厳しかったかもね。

で、このSVB、3月8日に$2.25Bの新規資金調達を発表すると同時に低金利時代に取得して含み損を抱えていた国債$20B以上を税効果後の損失を$1.8B出して売却。BSを強化するはずが、この動きにマーケットがビビッて翌日9日午前中には何と$42Bの預金引き出しが起こり取付騒ぎに。特にVCがビビり、投資先のスタートアップに即預金を引き揚げるように指示したという噂もある。取付前の預金残高は$75B程度だったって話しだから、いきなり半日で$42B引き揚げられたら銀行のビジネスモデル的にSVBでなくても耐え難いだろう。SBVはオンライン上の支払い停止の上支店閉鎖。10日にはFDIC(連邦預金保険公社)がReceiver(日本語だと管財人?)となる。FDICの預金保険は原則上限が$250K。大概のリテールカスタマーなら$250KでOKでも、SBVの主たるカスタマーはリテールではなくVCやスタートアップだったんで、90%超の預金が保険ではカバーしきれないって報道されてた。確かに会社の預金口座残高が$250Kじゃ逆に心配だよね。でも他にも口座があるでしょ?、って思うかもしれないけど、Venture Debtで資金調達してたポートフォリオのスタートアップは、借り入れの一環で「Exclusive Banking Relationship」みたいな条項にサインしている可能性大で、結果として預金がSVBに一極集中してしまってたケースも多いのかも。

ドタバタと僅か2日で破綻してしまう過程では、「来週、月曜日の給料どうやって払えばいいの~」とか預金者は大混乱。ランダムに弁護士事務所にコールが殺到したとのこと。この手のクライシスでファイナンスやファンド専門弁護士が24時間体制になるのは分かるけど、意外に労働法の弁護士も同じように24時間ディマンドだったらしい。預金おろしたり、口座振替たり、って普段できて当たり前のことができなくなると、日頃想定もしてない事態に追い込まれる。また予行練習しないといけないシナリオが増えたね。

で、翌11日にはFDICがSBV資産をオークション開始。12日にはNYCの不動産にフォーカスしていたSignature Bankにも取付騒ぎが飛び火して即FDIC傘下に。このまま放っておくとさらに他に波及して中堅銀行がドミノ式に破綻するリスクが高まったことから、FDICは米国金融危機に対応するための禁じ手(?)「Systemic Risk Exception (SRE)」を発動し、預金保険の上限にかかわらず「預金全額保証」を発表。「他銀行の預金も必要であれば同様に全額保証するから大丈夫」(イエレン長官)と火消しに躍起になった。今回は信じていいのかしら。健全と思われていた銀行が僅か2~3日であっという間に潰れるってSocial Mediaがなければ起こり得なかっただろう。

実は今回の銀行破綻にはひとつ「え~、うそでしょ~」みたいなオチがある。2008年の金融危機を受けて、二度と同じようなことにならないよう2010年に議会が金融機関に対する規制を大幅に強化した「Dodd-Frank」法っていう連邦法を可決している。アメリカで金融業界に少しでも接点のある人だったら、そのDoraconianな内容や、対応負荷の高さは身に染みてるだろうけど、ナンとその法案を提出し法律にも名前を冠してるBarney Frank(マサチューセッツ民主党議員)は、議員退任後2015年に今回破綻したSignature Bankの取締役に就任して報酬を受け取ってた。あれだけ銀行は厳しく規制して破綻しないように、って強硬な法案を提出した本人が経営する銀行が破綻とはね。政治家やDCの「エリート」って厳しい規制を通したり、クライシスを演出し、その救世主として登場してMonetizeするのが常套。Al Goreが気候変動リスクを煽りながら、裏でその手の投資の受け皿になるファンドを組成し大金持ちになったり。せっかく主義・主張はいいことでも、政治家と庶民感覚のOut-of-touchぶりは激しくなる一方で、一般市民としては「何だかな~」と思い続けざるを得ない。

で、そんな中CAMT。

適格非課税取引とAFSI

M&A等の取引が税務上、適格再編になる等の理由で譲渡益等が非課税となる特定非課税取引に関して、会計上、譲渡損益が認識されている場合、これらの譲渡損益は会計上もなかったものとしてAFSIの数字とする。ここで言う特定非課税取引とは、section 332, 337, 351, 354, 355, 357, 361, 368, 721, 731, 1032で規定される取引およびその組み合わせと規定されている。これらのSectionは適格清算、出資、スピンオフ、組織再編、負債承継、パートナーシップ出資・分配、株主発行で、Usual Suspectたちだからなんの驚きもない。

一つのプラン下で複数の取引ステップが存在する場合、ここでいう非課税取引に当たるかどうの判断は個々の取引各々を見て個別に判断すると規定されている。例えば一つの法人内に存在する一部の事業をスピンする場合、まず事業を子会社に移管し、その子会社株式を分配することになる。その場合の子会社への資産移管は分割型D型再編と整理され、その後の株式分配はスピンで株式分配する側では適格分配361、受け取る株主側ではスピンの355で非課税になる。ちなみに最初から子会社があって、スピンの第一ステップとして事業を子会社に出資する必要がない場合には当然、分割型D型再編というステップは存在せず、また株式を分配する側も361ではなく355で非課税になる。

最初のD型再編を伴うパターンでは現物出資というステップとその後の分配というステップは個々に非課税取引に当たるかどうかの判断をする。とは言え、税務上、各ステップが非課税になるかどうかの判断は、往々にして同じプラン下で実行される複数のステップを組み合わせて判断させられる。その場合は、個々の取引が非課税かどうかの判断目的で、プラン全体像を加味しなさい、って規定されてる。なんか凄い回りくどい感じがするけどね。まあ要は、税務上非課税になるかどうかは当たり前だけど税法で判断するんで、税務上Step Transaction原則等の適用がある場合には、それらを適用してちゃんと個々の取引が非課税になってないとダメということ。それはそうだよね。上の例で最初のステップが分割型D型再編に当たるかどうかはその後の分配が355適格スピンになるかどうか次第なんで、当然セットで考えないといけないけど、その結果D型再編になるんだったら、そのステップだけにフォーカスし直して非課税取引と取り扱うというようなことなんだろう。簡単に「取引が税務上非課税な場合…」っていう定義とあんまり変わらない気がするけどね。なぜ個々のステップ毎に判断って最初に宣言する必要があるんだろうか。

で、会計上譲渡損益が認識されているにもかかわらず、特定非課税取引ということで、AFSIの算定上、会計上の譲渡損益を消去する場合、資産を取得した側の会計上の簿価も非課税取引ということで譲渡側の会計簿価を引き継いでいるように調整しないといけない。会計上の簿価が実際の帳簿と異なるってことはその後の償却や譲渡時の数字も継続的に異なるってことだから、複数年にわたりAFSI目的で数字の調整が求められる。こんな調整今まで存在しないから新たなコンプライアンス負担。しかも長年にわたり影響がある場合、仮に取引が生じた年度にCAMT対象法人にならなくても、継続してAFSI3年平均を求めないといけないので、各社常に数字をトラッキングしておかないといけなくなる。簿価調整しないと譲渡益はAFSI上、繰り延べじゃなくて永久に非課税になってしまうので当然あるべき処理なんだけど余りの面倒さは否めない。

で、当然と言えば当然なんだけど、買収型の組織再編は売り手と買い手の双方の財務諸表およびAFSIに影響がある。例えば、米国連結納税グループが、別の連結納税グループに属する非関連のターゲット法人を買い手の株式を対価とする合併で買収したとする。税務上A型再編で非課税取引になる一方、GAAPでは売り手側のグループ財務諸表上、譲渡益が認識されるとする。売り手グループのAFSIは譲渡益を除外する一方、買い手グループのAFSIは、財務諸表上のターゲット法人資産の簿価が時価になってるんで、それを売り手側の簿価承継に戻さないといけない。

ということで今回はSocial Media時代の銀行取付騒ぎでチョッと長くなったんでここからは次回。前代未聞のスピード銀行破綻だったんで触れざるを得ませんでした。少なくともBlack Dogじゃなかったからね。